(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板上に蛍光を電気信号に変換する光電変換素子を複数有し、かつ前記基板の最表層に前記複数の光電変換素子を覆うように成膜され、前記複数の光電変換素子によるパターン段差を平坦化させる保護膜が形成されたアレイ基板と、
前記保護膜上に設けられ入射する放射線を蛍光に変換するシンチレータ層と、
前記シンチレータ層からの蛍光を前記アレイ基板側へ反射させる反射層と、
を備える放射線検出器の製造方法において、
光散乱性粒子とバインダ樹脂を主成分とするペーストを前記シンチレータ層上に塗布後乾燥することで前記反射層を形成し、
前記シンチレータ層の成膜温度以下の軟化点を有し、表面が前記シンチレータ層の蒸着時に軟化状態になり、前記アレイ基板とシンチレータ層の密着力を向上させる熱可塑性樹脂で、前記アレイ基板上の少なくとも前記反射膜が形成される領域に、前記保護膜を形成することを特徴とする放射線検出器の製造方法。
蛍光を電気信号に変換する複数の光電変換素子を有するアレイ基板の最表層に、前記複数の光電変換素子を覆うように成膜され、前記複数の光電変換素子によるパターン段差を平坦化させる熱可塑性樹脂で形成された保護膜を設ける工程と、
前記保護膜上に、放射線を蛍光に変換するシンチレータ層を前記熱可塑性樹脂の軟化点よりも高い温度にし、前記保護膜表面が軟化した状態で真空蒸着法により形成し、前記アレイ基板とシンチレータ層の密着力を向上させる工程と、
前記シンチレータ層上に、塗膜により反射層を形成する工程と、
を具備することを特徴とする放射線検出器の製造方法。
前記シンチレータ層を真空蒸着法により形成する工程において、前記シンチレータ層形成時の基板温度を熱可塑性樹脂の軟化点よりも高い温度でかつ200℃以下にしたことを特徴とする請求項5又は6記載の放射線検出器の製造方法。
【背景技術】
【0002】
新世代のX線診断用検出器として、アクティブマトリクスを用いた平面形のX線検出器が開発されている。このX線検出器に照射されたX線を検出することにより、X線撮影像、あるいはリアルタイムのX線画像がデジタル信号として出力される。
【0003】
X線検出器は、一般に、蛍光を電気信号に変換する光電変換基板としてのアレイ基板、このアレイ基板の表面上に設けられ入射するX線を蛍光に変換するX線変換部であるシンチレータ層、このシンチレータ層上に必要に応じて設けられシンチレータ層からの蛍光をアレイ基板側へ反射させる反射層、シンチレータ層、及び反射層上に設けられ外気や湿度から保護する防湿構造を備えている。
【0004】
このX線検出器では、X線をシンチレータ層により可視光すなわち蛍光に変換させ、この蛍光をアモルファスシリコン(a−Si)フォトダイオード、あるいはCCD(Charge Coupled Device)などの光電変換素子で信号電荷に変換することで画像を取得している。
【0005】
シンチレータ層の材料としては、一般的にヨウ化セシウム(CsI):ナトリウム(Na)、ヨウ化セシウム(CsI):タリウム(Tl)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、あるいは酸硫化ガドリニウム(Gd
2O
2S)など、種々のものがあり、用途や必要な特性によって使い分けられる。
【0006】
シンチレータ層は、ダイシングなどにより溝を形成したり、柱状構造が形成されるように蒸着法で堆積したりすることで、解像度特性を向上させることができる。
【0007】
シンチレータ層の上部には、蛍光の利用効率を高めて感度特性を改善する目的で、必要に応じて、反射層が形成される。反射層は、シンチレータ層で発光した蛍光のうち光電変換素子側に対して反対側に向かう蛍光を反射層で反射させて、光電変換素子側に到達する蛍光を増大させるものである。
【0008】
反射層を形成する例としては、銀合金やアルミニウムなど蛍光反射率の高い金属層をシンチレータ層上に成膜する方法や、TiO
2などの光散乱性物質とバインダ樹脂とから成る光散乱反射性の反射層を塗布形成する方法などが知られている。また、シンチレータ層上に形成するのではなく、アルミなどの金属表面を持つ反射板をシンチレータ層に密着させて蛍光を反射させる方式も実用化されている。
【0009】
シンチレータ層や反射層(或いは反射板など)の上部には、外部雰囲気から保護して湿度などによる特性の劣化を抑える為の防湿構造が設けられる。特に、湿度に対して劣化の大きい材料であるCsI:Tl膜やCsI:Na膜をシンチレータ層とする場合には高い防湿性能が要求される。
【0010】
従来の防湿構造としては、AL箔などの防湿層を周辺部で基板と接着封止して防湿性能を保つ構造(例えば、特許文献1参照)、AL箔や薄板などの防湿層と基板とを周囲のリング状構造物を介して接着封止する構造(例えば、特許文献2参照)などがある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る放射線検出器の実施の形態について、
図1及び
図2を参照して説明する。
【0021】
図1は本実施の形態に係る放射線検出器の斜視図、
図2はその放射線検出器の断面図を示すものである。
【0022】
放射線検出器11は、放射線像であるX線像を検出する平面センサであり、例えば、一般医療用途などに用いられている。
【0023】
この放射線検出器11は、
図1及び
図2に示すように、蛍光を電気信号に変換する光電変換基板としてのアレイ基板12、このアレイ基板12の一主面である表面上に設けられ入射するX線を蛍光に変換するX線変換部であるシンチレータ層13、このシンチレータ層13上に設けられシンチレータ層13からの蛍光をアレイ基板12側へ反射させる反射層14、シンチレータ層13および反射層14上に設けられ外気や湿度から保護する防湿構造15を備え、保護膜26は、高沸点酸化物を生じない元素を主成分とし、シンチレータ層13の成膜温度以下の軟化点を有する熱可塑性樹脂で形成されている。
【0024】
以下、各構成要素毎に詳しく説明する。
【0025】
(アレイ基板12)
アレイ基板12は、シンチレータ層13によりX線から可視光に変換された蛍光を電気信号に変換するもので、ガラス基板16、このガラス基板16上に設けられ光センサとして機能する略矩形状の複数の光電変換部17、行方向に沿って配設された複数の制御ライン(又はゲートライン)18、列方向に沿って配設された複数のデータライン(又はシグナルライン)19、各制御ライン18が電気的に接続された図示しない制御回路と、各データライン19が電気的に接続された図示しない増幅/変換部を備えている。
【0026】
アレイ基板12には、それぞれ同構造を有する画素20がマトリクス状に形成されているとともに、各画素20内にそれぞれ光電変換素子としてのフォトダイオード21が配設されている。これらのフォトダイオード21はシンチレータ層13の下部に配設されている。
【0027】
各画素20は、更にフォトダイオード21に電気的に接続されたスイッチング素子としての薄膜トランジスタ(TFT)22、及びフォトダイオード21にて変換した信号電荷を蓄積する電荷蓄積部としての図示しない蓄積キャパシタを具備している。但し、蓄積キャパシタは、フォトダイオード21の容量が兼ねる場合もあり、必ずしも必要ではない。
【0028】
各薄膜トランジスタ22は、フォトダイオード21への蛍光の入射にて発生した電荷を蓄積および放出させるスイッチング機能を担う。薄膜トランジスタ22は、非晶質半導体としてのアモルファスシリコン(a−Si)、あるいは多結晶半導体であるポリシリコン(P−Si)などの半導体材料にて少なくとも一部が構成されている。
【0029】
また、薄膜トランジスタ22は、
図2に示すように、ゲート電極23、ソース電極24およびドレイン電極25のそれぞれを有している。このドレイン電極25は、光電変換素子(フォトダイオード)21および蓄積キャパシタに電気的に接続されている。
【0030】
蓄積キャパシタは、矩形平板状に形成され、各フォトダイオード21の下部に対向して設けられている。
【0031】
図1に示す制御ライン18は、各画素20間に行方向に沿って配設され、
図2に示すように、薄膜トランジスタ22のゲート電極23に電気的に接続されている。
【0032】
図1に示すデータライン(シグナルライン)19は、各画素20間に列方向に沿って配設され、
図2に示すように、薄膜トランジスタ22のソース電極24に電気的に接続されている。
【0033】
制御回路は、各薄膜トランジスタ22の動作状態、即ちオンおよびオフを制御するもので、ガラス基板16の表面における行方向に沿った側縁に実装されている。
【0034】
増幅/変換部は、例えば各データライン19に対応してそれぞれ配設された複数の電荷増幅器、これら電荷増幅器が電気的に接続された並列/直列変換器、この並列/直列変換器が電気的に接続されたアナログ−デジタル変換器を有している。
【0035】
アレイ基板12の最上部には、光電変換素子(フォトダイオード)21及び薄膜トランジスタ22などを保護するため、
図2に示すように、樹脂製の保護層26が形成される。
【0036】
(保護膜26)
保護膜26は、シンチレータ層13でX線から変換された可視光をフォトダイオード21に到達させる必要から透明膜である必要がある。また、制御ライン18、データライン19の各電極パッド部にTAB接続により配線を繋ぐためのコンタクトホール形成が必要で、フォトリソグラフィーによる加工性を有する膜が望ましい。
【0037】
保護膜26としては、シンチレータ層13の成膜温度以下の軟化点を有する熱可塑性樹脂であって、成分としてSiを含まないものを用いることが好ましい。即ち、成膜温度(基板温度)が200℃以下の場合は、軟化点が200℃未満のもの、特に180℃以下の非Si含有熱可塑性樹脂が好ましい。具体的には、アクリル系樹脂(変形温度約80〜100℃)、ポリスチレン(軟化点約90℃)、ポリ塩化ビニル(軟化点約65〜80℃)、ポリプロピレン(軟化点約140〜160℃)等を挙げることができる。特に、後述する実験例からも明らかなように、シンチレータ層13としてヨウ化セシウム(CsI):タリウム(Tl)、あるいはヨウ化ナトリウム(NaI):タリウム(Tl)などのハロゲン化合物を真空蒸着法で柱状(ピラー)構造に形成したものを用いる場合には、密着性の観点からアクリル系有機樹脂(HRC;商品名、JSR製)を用いることが好ましい。また、保護膜26の厚みは、1〜5μmの範囲が好ましい。1μm未満では下層のパターン段差が十分に平坦化せず、5μmを超えると保護膜26を通過して下層のフォトダイオード21に到達する光の量が低下してしまう。
【0038】
(シンチレータ層13)
シンチレータ層13は、入射するX線を可視光すなわち蛍光に変換するもので、例えば、ヨウ化セシウム(CsI):タリウム(Tl)、あるいはヨウ化ナトリウム(NaI):タリウム(Tl)などにより真空蒸着法で基板温度150〜200℃で蒸着して柱状(ピラー)構造に形成したもの、あるいは酸硫化ガドリニウム(Gd
2O
2S)蛍光体粒子をバインダ材と混合し、アレイ基板12上に塗布して焼成および硬化し、ダイサによりダイシングするなどで溝部を形成して四角状に形成したものなどを用いることができる。
【0039】
これら柱間には、大気、あるいは酸化防止用の窒素(N
2)などの不活性ガスを封入し、あるいは真空状態とすることも可能である。
【0040】
シンチレータ層13は、例えば以下に示す実験例のように、CsI:Tlの蒸着膜を用い、膜厚は約600μm、CsI:Tlの柱状構造結晶の柱(ピラー)の太さを最表面で8〜12μm程度とすることが好ましい。
【0041】
(反射層14)
シンチレータ層13上に形成される反射層14は、フォトダイオードと反対側に発せられた蛍光を反射して、フォトダイオードに到達する蛍光光量を増大させるものである。ただし、放射線検出器11に求められる解像度、輝度などの特性により、省略することも可能である。
【0042】
反射層14としては、銀合金やアルミニウムなどの蛍光反射率の高い金属をシンチレータ層13上に成膜したもの、アルミなどの金属表面を持つ反射板をシンチレータ層13に密着させたもの、TiO
2などの光散乱性物質とバインダ樹脂とから成る拡散反射性の反射層を塗布形成したものなどを用いることができる。
【0043】
シンチレータ層13としてCsI:Tlの蒸着膜を用いた場合は、CsI:Tl蒸着膜の表面被覆性、反射層材料の可視光吸収によるロス、反射層/CsI:Tl蒸着膜間の距離増大による反射光拡がりに起因する解像度低下などの観点から、光散乱性粒子とバインダを含有したペースト状の反射層材料が高輝度・高解像度を得るために適している。
【0044】
具体的には、例えば、フィラー:ルチル型TiO
2、バインダ材:ブチラール樹脂、溶媒:シクロヘキサノンとした白色ペースト材料を使用し、バインダ樹脂の一部は低応力化のために可塑剤に置き換えることが好ましい。また、白色ペースト材料は、反射率、耐クラック性などの観点から、フィラー粒径、バインダ比率が最適化され得る。
【0045】
白色ペースト材料をディスペンサーなどでシンチレータ層13上に塗布し、その後乾燥させて溶媒をとばすことで反射層14が形成される。
【0046】
反射層14を形成後に、シンチレータ層13の吸湿による特性劣化を防ぐために防湿構造15を形成する。防湿方式としては、ポリパラキシリレンの熱CVD膜でシンチレータと反射層の表面全体を覆う方法、ハット形状のアルミ箔を水蒸気バリア性の高い接着剤で接着封止する方法、無機膜(アルミ箔など)と有機膜の積層防湿シート、或いはガラス板など水蒸気バリア性の高い防湿層部材と、シンチレータ周辺部に配する枠状の防湿部材とを用いる方法など、種々の方法が可能である。
【0047】
(防湿構造15)
防湿構造15は、シンチレータ層13や反射層14を外部雰囲気から保護して、湿度などによる特性劣化を抑えるためのものであり、
図2に示す通り、鍔部33が形成された防湿層31及び接着層35を含んで形成されている。
【0048】
防湿層31は、例えば、厚み0.1mmtのAL合金箔(A1N30−O材)を、周辺部に5mm幅の鍔部33を持つ構造にプレス成型してハット状に形成される。
【0049】
次に、このハットの鍔部33にディスペンサーにより接着剤を塗布して接着層35を形成し、シンチレータ層13および反射層14の形成されたアレイ基板12と張り合わせる。
【0050】
なお、接着剤は、一般に市販されている加熱硬化型または紫外線硬化型のエポキシ系の接着材を用いることができる。
【0051】
また、防湿層の材質としては、ALやAL合金に限らず他の金属材料を用いても同様に形成できるが、AL又はAL合金箔材の場合には、金属材料としてはX線吸収係数が小さい為に、防湿層内でのX線吸収ロスを抑えることができる点でメリット大きく、ハット状に加工する場合にも加工性に優れている。
【0052】
また、ハットによる防湿構造15のアレイ基板12への接着を減圧雰囲気にて行うことで、飛行機輸送を想定した減圧下での機械的強度に優れた防湿構造を形成できる。
【0053】
防湿構造15を形成して、放射線検出器11のパネルが完成する。更に制御ライン、信号ラインの各電極パッド部にTAB接続により配線を繋いで、アンプ以降の回路に接続し、更に筐体構造に組み込んでX線検出器11が完成する。
【0054】
(アレイ基板12とシンチレータ層13の剥がれの態様)
アレイ基板12、シンチレータ層13(例えば、CsI:Tl蒸着膜)、反射層14(例えば、TiO
2ペースト)といった構成の放射線検出器11では、アレイ基板12とシンチレータ層13の密着力不足により、反射層14の乾燥時の収縮応力や信頼性試験負荷により、シンチレータ層13とアレイ基板12の最表層である保護膜26との界面で剥がれが生じることがある。
【0055】
図3を用いてアレイ基板12とシンチレータ層13の剥がれの態様について説明する。
【0056】
この図においては、アレイ基板12上に設けられている保護膜26をシリコーン系有機樹脂材料で形成し、蒸着前の表面処理として、紫外線/オゾン洗浄処理(以下、「UV/O
3処理」と記す)を3分間行った例を示す。
【0057】
図3に示すように、この放射線検出器11では、Aの個所でシンチレータ層13とアレイ基板12上の保護膜26との界面に沿って剥がれが生じている。また、Bの個所で反射層14の乾燥時に収縮応力による応力集中により、反射層14端面から剥がれが生じている。更に、アレイ基板12中央部のCの個所などで、反射層14のペーストのシンチレータ層13のピラー間への染み込みの影響で端部以外にも斑状にシンチレータ層13の浮きが発生する場合もある。
【0058】
このため、シンチレータ層13とアレイ基板12上の保護膜26との付着力を評価する必要があるが、シンチレータ層13としてCsI:Tl蒸着膜を用いた場合は膜自体が脆いため、テープテスト、引張試験、切削法による剥離強度・せん断強度測定、遠心法付着力測定などによる付着力の定量化が難しい。このため、下記のような定性的な方法で付着力測定を行った。
【0059】
実施例
[実験例1]
(シンチレータ層13の付着力評価試験)
シンチレータ層13の付着力を簡易的に評価するため、
図4に示すように、ガラス基板41に各種保護膜42を成膜し、この保護膜42上に膜厚約600μmのCsI:Tl蒸着膜43を基板温度150℃で真空蒸着した評価基板44を準備した。
【0060】
評価した保護膜42は、厚さ2〜3μmのアクリル系有機樹脂膜、厚さ2〜3μmのシリコーン系有機樹脂膜、厚さ30nmの無機膜SiNであり、表面洗浄としてUV/O
3処理をそれぞれ0分(処理なし)、3分、10分実施後に、CsI:Tl蒸着を行った。
【0061】
この評価基板44に反射層材料(フィラー:ルチル型TiO
2、バインダ材:ブチラール樹脂、溶媒:シクロヘキサノンとした白色ペースト材料)を定量滴下し、乾燥時の収縮応力により、CsI:Tl蒸着膜に剥がれがあるか否かを確認し、付着力の指標とした。
【0062】
反射膜の塗布量は、乾燥後の反射膜の重量が約30、60、90mgとなる3種類で行い、シンチレータ層の剥がれ有無を表面および裏面観察により判断した。
【0064】
表1の結果より、シリコーン系有機樹脂およびSiNでは、UV/O
3処理の有無に拘わらず、反射層の乾燥時の収縮応力により、シンチレータ層の剥がれや浮きが発生している。他方、アクリル系有機樹脂では、UV/O
3処理を施すことで、反射層乾燥時に収縮応力による膜剥がれの発生はなく、十分な付着力が確保されている。
【0065】
アクリル系有機樹脂材料で十分な付着力が得られる理由としては、
(1)アクリル系有機樹脂材料の樹脂軟化点(Tsoft)が100℃以下であり、蒸着時の基板温度(Tsub)である150℃よりも低いため、シンチレータ蒸着時の昇温状態で表面保護膜が軟化した状態で蒸着が進行することにより、アンカー効果が発現すること、
(2)UV/O
3処理により、表面の有機汚染物除去と表面改質の効果が生じること、が挙げられる。
【0066】
これに対して、シリコーン系有機樹脂は熱硬化性樹脂であり、蒸着時に膜が硬化していることと、UV/O
3処理での表面の有機汚染物除去はあるものの、長時間処理をすると有機樹脂の主成分であるSiが分解され、処理温度で揮発しないSiO
2を形成するため、樹脂表面にSiO
2残渣が残り、シンチレータとの密着を阻害するものと推定される。
【0067】
実験例1の結果においても、短時間処理では若干付着力が増加するものの、長時間処理をすると再び付着力が減少する傾向が見られた。このSiO
2残渣による密着阻害は、SiNなどの無機膜でも同様である。
【0068】
一方のアクリル系有機樹脂では、3分、10分のUV/O
3洗浄において不具合が見られないため、17分の長時間処理を行い、同様の付着力試験を試みたところ、シンチレータ層の剥がれは発生しなかった。アクリル系有機樹脂では、UV/O
3処理の処理時間が長い場合であっても、付着力を阻害するような樹脂表面の変質(表面荒れ、異相形成、粒状酸化物発生)が起きないことが確認された。
【0069】
[実験例2]
(表面処理を施したシリコーン系有機樹脂保護膜の付着力評価試験)
次に、保護膜としてシリコーン系有機樹脂を用いた場合において、剥がれが生じずに付着力を確保できる表面処理条件について検討した。
【0070】
行った表面処理としては、表面にSiO
2などの酸化物を形成しないことを前提とし、アルコール(アセトン、エタノール)洗浄、Heプラズマ処理、180℃-1h脱ガス処理、プライマー処理(シランカップリング剤:信越化学工業株式会社製KBM−1003,KBM−803)を実施した。
【0071】
その後、上記表面処理したシリコーン系有機樹脂上に基板温度150℃でCsI:Tl蒸着膜を真空蒸着し、反射層定量滴下による剥がれ有無を確認した。
【0073】
本試験の結果、剥がれの程度に若干の差は見られるが、表2の結果よりすべての試験で剥がれが発生した。
【0074】
Heプラズマ処理に関しては、処理時間、出力、Heガス圧などを調整することで付着力改善の傾向が見られたが、反射層乾燥時の収縮応力に耐えるレベルの付着力を得ることはできなかった。このため、シリコーン系有機樹脂材料では、CsI:Tl蒸着膜との付着力確保は難しい。
【0075】
以上のことより、シンチレータ層13としてCsI:Tlを用いた場合には、アレイ基板12との間に十分な付着力を確保するためには、以下の特性を持つ保護膜を選択することが必要である。
【0076】
(1)CsI:Tl膜蒸着温度以下の軟化点をもつ熱可塑性樹脂で、蒸着中に膜が軟化していること。即ち、樹脂軟化点(Tsoft)<蒸着時基板温度(Tsub)の関係を満たしていること。
【0077】
(2)UV/O
3処理による表面改質での付着力改善が見られ、同処理で高沸点酸化物を形成するSiなどの構成元素を含まない膜であること。
【0078】
(3)アレイ基板12の最表層の保護膜26として他に求められる特性として、透明性とフォトリソグラフ加工性に優れていること。
【0079】
(1)〜(3)の特性を全て満たす膜として、ポジ型の紫外線感光性透明レジストとして知られるアクリル系有機樹脂(HRC;商品名、JSR製)を挙げることができる。
【0080】
[実験例3]
(アクリル系有機樹脂保護膜を用いた放射線検出パネルの密着性評価試験)
上記の条件を満たす膜としてアクリル系有機樹脂(HRC;商品名、JSR製)を用い、アレイ基板12の最表層に保護層26として2μm成膜し、UV/O
3処理を5分実施した後、CsI:Tlを基板温度150℃で真空蒸着して600μmのシンチレータ層13を形成した。その後、TiO
2ペーストを塗布・乾燥し、約110μmの反射層14を形成した。その結果、反射層乾燥時の収縮応力によるシンチレータ層の剥がれは発生しなかった。
【0081】
更に、アレイ基板12に防湿構造15として、厚み0.1mmtのAL合金箔(A1N30−O材)を、周辺部に5mm幅の鍔部33を持つ構造にプレス成型してハット状に形成したALハットを用いた。
【0082】
そのALハットの表面にアルコール洗浄とUV/O
3洗浄を施した後、表面に接着剤を塗布し、アレイ基板12にもUV/O
3洗浄を施した後に貼り合せを行うことで、高い密着力を得ることができた。
【0083】
アレイ基板12にUV/O
3処理を施す際は、接着箇所である周辺部のみの処理をすればよく、有効エリアの膜がUV/O
3処理により変質する場合には、UVを通さない金属板などでカバーする必要がある。
【0084】
ただし、反射層14はUV/O
3によるダメージはないため、アレイ基板12全面をUV/O
3処理しても構わない。ALハットによる防湿層31/接着層35/アレイ基板12(保護膜26)の接着(
図2参照)においても、UV/O
3洗浄により表面清浄化と表面改質が可能で、高沸点酸化物の発生がないアクリル系有機樹脂を使用することで、接着強度の高い、高信頼性の防湿構造を提供することができた。
【0085】
防湿構造15まで形成した放射線検出器パネルの信頼性評価として、冷熱サイクル試験((−20℃/RT/50℃/RT)60サイクル)、高温高湿試験(60℃―90%RH×500h)を実施した。
【0086】
この結果、上記信頼性試験の負荷によるシンチレータ層13の剥がれの発生はなく、アレイ基板12とシンチレータ層13に十分な付着力がある事が確認された。また、高温高湿試験でのシンチレータ層13の吸湿による輝度・解像度の劣化も見られず、ALハットの密着も十分であることが確認できた。
【0087】
なお、上記の実験例ではシンチレータ層13としてCsI:Tlを用いたが、CsI:Naについても同様の蒸着条件で同様の効果が得られることが明らかである。