(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第一の実施形態]
以下、本発明の第一の実施形態である送り調節機構を備えるミシンについて詳細に説明する。
図1〜
図9に示すように、ミシン10は、縫い針を上下動させる図示しない上下動機構と、その駆動源となるミシンモータ16(
図9参照)と、全回転釜31により縫い針に挿通された縫い糸に下糸を絡める釜機構30と、縫い針の上下動に合わせて針板11上の被縫製物たる布地を送る送り装置40と、送り装置40の上下送り軸43から釜機構30に回転駆動力を伝達する歯車機構60と、針板11上の布地を上方から押圧して保持する布押さえ19と、上記各構成を支持するミシンフレーム20とを備えている。
【0019】
[ミシンフレーム]
ミシンフレーム20は、ミシン10の全体において下部に位置するベッド部21と、ミシンベッド部21の長手方向の一端部において上方に立設された縦胴部22と、縦胴部22の上端部からベッド部21と同方向に延設された図示しないアーム部とを備えている。
なお、ベッド部21はミシン10を水平面上に設置した状態でその長手方向が水平となる。そして、以下の説明において、ベッド部21の長手方向をY軸方向とし、水平面に平行であると共にY軸方向に直交する方向をX軸方向とし、X軸及びY軸方向に直交する方向をZ軸方向とする。
【0020】
[針板及び布押さえ]
図3に示すように、針板11は、ベッド部21の上面であって縦胴部22とは逆側の端部に設けられている。かかる針板11には縫い針が挿通される針穴と後述する送り装置40の送り歯41が出没する貫通穴11aが形成されている。
布押さえ19は針板11の針穴及び貫通穴11aの真上となる位置に配置されており、当該布押さえ19を支持する布押さえ棒18を介して下方に押圧されている。
【0021】
[上下動機構及びミシンモータ]
図2に示すように、上下動機構は、アーム部の内側に配設され、ミシンモータ16に回転駆動されると共にY軸方向に沿って配設された上軸12と、縫い針を下端部で保持する針棒と、上軸12の回転駆動力を上下動の往復駆動力に変換して針棒に伝達する図示しないクランク機構とを備えている。そして、上軸12には、縦胴部22側の端部に、後述する送り装置40の上下送り軸43に回転駆動力を伝達するためのタイミングベルト13を掛け渡すプーリ14が固定装備されている。
ミシンモータ16は、上軸12にカップリングを介して回転駆動を行っているが、歯車等の伝達機構を介してトルク伝達を行っても良い。
【0022】
[釜機構]
図1〜
図3に示すように、釜機構30は、ベッド部21の内部に設けられており、前述した全回転釜31と、その一端部において全回転釜31を保持すると共にベッド部21内でY軸方向に沿った状態で回転可能に支持された釜軸32とを備えている。
釜軸32は、ベッド部21内においてY軸方向に沿って配置されている。また、釜軸32は、全回転釜31とは逆側の端部において歯車機構60から回転駆動力が入力されるようになっている。
全回転釜31は、縫い針から縫い糸を捕捉してループの形成を行う剣先を備えており、全回転釜31の回転による剣先の通過軌跡がちょうど縫い針の針落ち位置の脇を通るように、針板11の下側に配置されている。
【0023】
[歯車機構]
歯車機構60は、送り装置40の上下送り軸43に固定装備された主動歯車61と、釜機構30の釜軸32に固定装備された従動歯車62を備えている。
これら主動歯車61と従動歯車62とは互いに噛合すると共に主動歯車61の歯数が従動歯車62の二倍に設定されている。これにより、歯車機構60は、釜軸32を介して全回転釜31を上軸12及び上下送り軸43の二倍の回転速度でこれらの軸12,43の逆方向に回転させる。
【0024】
[送り装置]
図2及び
図3に示すように、送り装置40は、貫通穴11aから針板11上面に出没して布地を所定方向に送る送り歯41と、送り歯41を保持する送り台42と、送り台42を上下方向(Z軸方向)に沿って往復させるための回転駆動力が上軸12から伝達される上下送り軸43と、上下送り軸43の回転駆動力を偏心カム44により上下方向の往復駆動力に変換して送り台42に伝達するクランクロッド45と、送り台42を送り方向(X軸方向)に沿って往復させるための往復回動駆動力が上下送り軸43から伝達される水平送り軸46と、水平送り軸46の往復回動駆動力を送り方向の往復駆動力に変換して送り台42に伝達する水平送りアーム47と、上下送り軸43の回転駆動力を往復回動駆動力に変換して水平送り軸46に伝達する伝達機構48とを備え、これらにより所定の縫いピッチ単位で布地の間欠的な送り動作を行う。
【0025】
上下送り軸43は、ベッド部21内においてY軸方向に沿って配置され、回転可能に支持されている。かかる上下送り軸43の縦胴部22側の一端部には上軸12からタイミングベルト13を介して全回転の回転駆動力が伝達されるプーリ15が固定装備されている。かかるプーリ15は前述した上軸のプーリ14と歯数が同数であり、上下送り軸43には上軸12と同方向(
図2及び
図3における時計回転方向)で同速度の回転駆動力が伝達される。
【0026】
また、上下送り軸43の他端部は針板11の下方まで伸びており、当該他端部には偏心カム44が固定装備されている。そして、この偏心カム44を介してクランクロッド45の一端部が上下送り軸43に連結されている。かかるクランクロッド45は、その一端部が偏心カム44を回転可能に保持しており、他端部が送り台42の一端部に回動可能に連結されている。かかるクランクロッド45は、送り台42との連結端部が上下送り軸43との連結端のほぼ上方に位置しているため、上下送り軸43が全回転で駆動すると、偏心カム44によりその偏心量の二倍のストロークで上下方向に沿った往復移動の駆動力を送り台42の一端部に付与することになる。
【0027】
さらに、上下送り軸43の縦胴部22側の一端部近傍には、当該上下送り軸43の全回転を往復回動に変換して水平送り軸46に伝達する伝達機構48が設けられている。
図4は水平送り軸46に伝達する往復回動角度を調節するための送り量可変部52を示す斜視図である。
図1,2,4に基づいて伝達機構48について説明する。
【0028】
伝達機構48は、上下送り軸43に固定装備された偏心カム49と、偏心カム49を介して上下送り軸43に一端部が連結されたクランクロッド50と、水平送り軸46に固定装備されると共に当該水平送り軸46を中心として揺動を行う揺動アーム51と、クランクロッド50の他端部と揺動アーム51の揺動端部との間を連結すると共に水平送り軸46に伝達する往復回動角度の幅を調節することが可能な送り量可変部52とを備えている。
【0029】
クランクロッド50は、その一端部が偏心カム49を回転可能に保持しており、他端部が送り量可変部52に連結されている。かかるクランクロッド50は、その長手方向がおおむねX軸方向に沿うように配置されており、上下送り軸43が全回転で駆動すると、その他端部は偏心カム49によりその偏心量の二倍のストロークでその長手方向に沿って往復動作を行う。かかるクランクロッド50の往復動作が送り量可変部52及び揺動アーム51を介して水平送り軸46への往復回動駆動力として伝達される。
【0030】
送り量可変部52は、クランクロッド50の他端部と揺動アーム51とを連結する一対の第一のリンク体53と、クランクロッド50の他端部の往復運動方向をいずれかの方向に誘導する一対の第二のリンク体54と、第二のリンク体54による誘導方向を調節する送り調節体55と、当該調節のために送り調節体55を任意の方向に回動させる送り調節機構70(後述する)とを備えている。
【0031】
第一のリンク体53は、一端部がクランクロッド50の他端部に連結され、他端部が揺動アーム51の揺動端部に連結され、これら両端部はいずれもY軸回りに回動可能に連結されている。
第二のリンク体54は、一端部がクランクロッド50の他端部に連結され、他端部が送り調節体55の回動端部に連結され、これら両端部はいずれもY軸回りに回動可能に連結されている。
送り調節体55は、その基端部にY軸方向に沿った支軸56が固定装備されており、当該支軸56はミシンフレーム20内でY軸回りに回動可能に支持されている。
また、送り調節体55の回動端部は第二のリンク体54の他端部とY軸回りに回動可能に連結されている。
【0032】
送り量可変部52では、第一のリンク体53と第二のリンク体54のそれぞれの長手方向が一致する状態、つまり各リンク体53,54が丁度重なる状態となるように送り調節体55を回動させると、クランクロッド50の駆動力が揺動アーム51に伝わらない状態となる。このとき、水平送り軸46には往復回動動作が伝わらないので、縫いピッチが0となる。このように、各リンク体53,54が重なるように、送り調節体55が回動調節された位置を当該送り調節体55の中立角度とする。
【0033】
そして、この送り調節体55を中立角度から一方に回動させると、その回動角度量に応じて揺動アーム51側に往復の揺動動作が付与され、これにより正送り方向の縫いピッチを大きくすることができる。
また、この送り調節体55を中立角度から逆方向に回動させると、やはりその回動角度量に応じて揺動アーム51側に往復の揺動動作を付与することができるが、この場合には、位相が反転して伝達され、これにより逆送り方向の縫いピッチを大きくすることができる。
【0034】
水平送り軸46は、ベッド部21内においてY軸方向に沿って回転可能に支持されており、前述した釜軸32よりも布地の送り方向下流側(
図2及び
図3における左方)に配置されている。かかる水平送り軸46の縦胴部22側の一端部には前述した送り量可変部52を介して上下送り軸43から往復回動駆動力が付与され、他端部から水平送りアーム47を介して送り台42にX軸方向に沿った往復駆動力を伝達する。
【0035】
水平送りアーム47は、その基端部が水平送り軸46の針板11側の端部に固定連結され、その揺動端部はほぼ上方に向けられた状態で送り台42に連結されている。
送り台42は、針板下方に配設され、布送り方向(X軸方向)における一端部がクランクロッド45を介して上下送り軸43に連結され、他端部が水平送りアーム47を介して水平送り軸46に連結されている。また、送り台42の長手方向中間位置の上部には送り歯41が固定装備されている。
これにより、送り台42はその一端部から上下方向に往復駆動力が付与され、他端部からは同じ周期で送り方向の往復駆動力が付与される。そして、これらの往復駆動力を合成することでX−Z平面に沿って長円運動を行うこととなる。この送り台42に伴って送り歯41も長円運動を行い、当該長円運動軌跡の上部領域を通過する際に送り歯41の先端部が針板1の貫通穴11aから上方に突出し、布地を送ることを可能としている。
また、送り台42は、上下送り軸43側の端部がやや縦胴部22側に曲成(オフセット)された状態で取り付けられている。
【0036】
[送り調節機構]
図5は送り調節機構70の斜視図、
図6は後述する第一のカム部材78を
Y軸方向から見た動作説明図、
図7は後述する第二のカム部材79を
Y軸方向から見た動作説明図である。なお、これらの図では送り調節体55に連結された各リンク体やクランクロッドの図示は省略している。
送り調節機構70は、前述した送り調節体55を二つの目標回動角度に合わせることにより二つの異なる幅の設定縫いピッチを自在に切り替えることを可能とし、さらに、前述した二つの異なる幅の設定縫いピッチでの正送り方向と逆送り方向との切り替えも可能とする調節機構である。
【0037】
送り調節機構70は、送り調節体55に支軸56を介して固定装備された入力腕71と、ベッド部21内において
Y軸方向に沿った状態で回転可能に支持された調節軸72と、当該調節軸72に固定装備された第一と第二の送り調節腕73,74と、第一の送り調節腕73と入力腕71の回動端部を連結するリンク体75と、手動のダイヤル操作により縫いピッチの設定を行う第一と第二の操作手段としての第一と第二の調節ネジ部材76,77と、ベッド部21内で
Y軸回りに回動可能に支持された第一と第二のカム部材78,79と、第一と第二の調節ネジ部材76,77のそれぞれにより設定された縫いピッチを切り替えるピッチ切り替え用アクチュエータとしてのピッチ切り替えシリンダ80と、縫い方向の正逆を切り替える方向切り替え用アクチュエータとしての方向切り替えシリンダ81と、方向切り替えシリンダ81の出力を調節軸72に伝達するリンク体82〜84及び切り替え腕85とを備えている。
なお、上記調節軸72,第一と第二の調節腕73,74及び切り替え腕85は、相互に固定連結され、ベッド部21内において
Y軸回りに一体的に回動動作を行う回動体86として機能するものである。
【0038】
上記入力腕71は、
Y軸方向に沿った支軸56を中心とする半径方向に延出されている。一方、第一の送り調節腕73も
Y軸方向に沿った調節軸72を中心とする半径方向に延出されており、これら入力腕71と第一の送り調節腕73の回動端部同士がリンク体75により連結されることにより四節リンク機構を構成している。即ち、調節軸72側で回動を生じると、支軸56を介して送り調節体55を連動して回動させることが可能となっている。
なお、送り調節体55は引っ張りバネ58により常に
図6における支軸56を中心として反時計方向への回動動力が付与されている。
【0039】
第一及び第二の送り調節腕73,74は、いずれも、その側面部に
Y軸方向に沿って突出したボス状の当接部としての当接ピン731,741を備えている。かかる当接ピン731、741は、それぞれ後述する第一と第二のカム部材78,79のカム部781,791と当接して第一又は第二の送り調節腕73,74の調節軸72回りの回動角度を固定する構造となっている。
【0040】
第一及び第二の調節ネジ部材76,77は、手動により回転操作が行われるダイヤル部761,771と回転操作により進退移動を行う軸部762,772とからなり、ダイヤル部761,771はミシンフレーム20の外部側面上に設けられ、軸部762,772は、ミシンフレーム20にネジ構造により支持されている。
そして、これら第一及び第二の調節ネジ部材76,77は、それぞれのダイヤル部761,771を回転操作すると、軸部762,772が前後に移動し、その先端部が第一と第二のカム部材78,79を押圧して回動させることにより、異なる幅の縫いピッチを個別に設定入力する。
なお、これら第一及び第二の調節ネジ部材76,77から入力される縫いピッチの設定幅は、正送り方向と逆送り方向とについて共通の値となり、第一及び第二の調節ネジ部材76,77により設定された縫いピッチで正送りと逆送りとが行われるようになっている。
【0041】
そして、ミシンフレーム20の内部における軸部762,772の前方には、第一と第二のカム部材78,79がそれぞれ配設されている。
第一のカム部材78は、その下端部に
Y軸方向に沿った回動軸782を備え、軸部762との対向部位には当該軸部762が押圧接触する平坦な当接面783が形成されている。
さらに、第一のカム部材78は、
Y軸方向について第一の送り調節腕73に隣接して配置されており、カム部材78の上部に形成されたカム部781が第一の送り調節腕73の当接ピン731と係合している。
【0042】
このカム部781は、
図6に示すように、第一の送り調節腕73側に向かって開口した略V字状の切り欠きであり、V字の底部(最深部)に当接ピン731が当接している状態で送り調節体55が縫いピッチ0の中立角度となるように各部材が組み付けられている。即ち、カム部781におけるV字の底部は縫いピッチを0に設定する中立位置784となっている。
また、カム部781は、中立位置784を境に、互いに対向する傾斜部分が形成されており、その一方(
図6における上部分)は当接ピン731を当接させることで正送り方向の縫いピッチを調節可能とする正送り調節部785となっている。また、カム部781の他方の傾斜部分(
図6における下部分)は当接ピン731を当接させることで逆送り方向の縫いピッチを調節可能とする逆送り調節部786となっている。
なお、カム部781に対する当接ピン731の当接位置は、第一のカム部材78を回動軸782回りの回動角度により決定され、第一のカム部材78の回動角度は第一の調節ネジ部材76の回転操作により設定することができる。
【0043】
なお、前述したように送り調節体55は引っ張りバネ58によって
図6における支軸56を中心として反時計方向にトルクを受けており、これにより、第一の送り調節腕73も同じ方向へのトルクが伝達されている。従って、
図6(A)から
図6(B)のように第一のカム部材78を後退させると、当接ピン731は正送り調節部785に沿って移動することとなる。従って、逆送り方向に送り方向を切り替える場合には、方向切り替えシリンダ81により調節軸72を強制的に回動させて当接ピン731を逆送り調節部786に当接させる。これにより送り調節体55は中立角度を超えて逆送り側まで回動し、逆送り方向への縫製を行うことができる。
そして、このカム部781では、上述のように、調節軸72回りに当接ピン731を回動させることで、当該当接ピン31は、正送り調節部785の所定位置に当接した状態から逆送り調節部786の所定位置に当接した状態に切り替えられる。この場合の、正送り調節部785の所定位置に当接ピン31が当接した状態における正送り方向の縫いピッチと、逆送り調節部785の所定位置に当接ピン31が当接した状態における逆送り方向の縫いピッチとは、そのピッチ幅が等しくなるようにカム部781の形状が設計されている。
【0044】
第二のカム部材79は、長手方向が概ねZ軸方向に沿った状態で延在し、長手方向のほぼ中間位置に
Y軸方向に沿った回動軸792を備え、回動軸792より幾分上方であって軸部772との対向部位には当該軸部772が押圧接触する平坦な当接面793が形成されている。
さらに、第二のカム部材79は、
Y軸方向について第二の送り調節腕74に隣接して配置されており、その下部に形成されたカム部791が第二の送り調節腕74の当接ピン741と係合する。
【0045】
このカム部791は、
図7に示すように、第一のカム部材78のカム部781と同様に中立位置794と正送り調節部795と逆送り調節部796と構成されている。これらについては、第一のカム部材78のカム部781と同様の構造なので、その説明は省略する。
【0046】
さらに、この第二のカム部材79は、その上端部がリンク体801を介してピッチ切り替えシリンダ80のプランジャに連結されている。このピッチ切り替えシリンダ80は、通常は、
図7(A)に示すように、プランジャが後退した状態にあり、これによって第二のカム部材79の当接面793が第二の調節ネジ部材77の軸部772の先端部から離れた状態にあり、そのカム部791も第二の送り調節腕74の当接ピン741から離間した状態を維持されている。つまり、この状態では第二の調節ネジ部材77で設定された縫いピッチとはならず、第一の調節ネジ部材76で設定された縫いピッチが選択される。
そして、第二の調節ネジ部材77により設定した縫いピッチに切り替える場合に、
図7(B)に示すように、ピッチ切り替えシリンダ80のプランジャが前進し、回転軸792を中心に
図7における時計方向に第二のカム部材79が回動し、カム部791が当接ピン741に当接した状態に切り替えられ、第二のカム部材79の当接面793が第二の調節ネジ部材77の軸部772の先端部と当接した所で第二のカム部材79の回動が止まり、第二の調節ネジ部材77による設定縫いピッチに切り替えられるようになっている。
なお、この時に、第二の調節ネジ部材77による設定縫いピッチは第一の調節ネジ部材76による設定縫いピッチよりも小さい値とすることが必須であり、仮に、第二の調節ネジ部材77による設定縫いピッチの方を大きく設定すると、ピッチ切り替えシリンダ80により第二のカム部材79に切り替える動作を実行しても、そのカム部791が当接ピン741に届かず、第二の調節ネジ部材77による設定縫いピッチに切り替えることができない。つまり、上記第二の調節ネジ部材77は、小ピッチ設定用となっている。
【0047】
図8は方向切り替えシリンダ81の動作説明図である。
図5及び
図8に示すように、方向切り替えシリンダ81は、そのプランジャにリンク体82の一端部が連結され、当該リンク体82の他端部はベッド部21により回動可能に支持されたベルクランク部材83の一方の腕部に連結されている。さらに、ベルクランク部材83の他方の腕部はリンク体84の一端部に連結され、当該リンク体84の他端部は調節軸72の端部に固定装備された切り替え腕85の回動段部に連結されている。
そして、かかる構成により、方向切り替えシリンダ81のプランジャが後退動作を行うと、リンク部材82,84,ベルクランク部材83及び切り替え腕85を介して調節軸72は
図6〜8における時計方向に回動力が付与される。そして、これにより、各当接ピン731,741はそれぞれのカム部781,791における正送り調節部785,795から逆送り調節部786,796側に移動し、第一と第二の調節ネジ部材76,77のいずれの設定縫いピッチで縫製が行われる場合でも、正送りから逆送りに切替が行われる。
【0048】
また、上述したリンク体82には、その途中にマーキング821が付されている。これは後述するピッチ切り替え制御において、方向切り替えシリンダ81が縫い方向が切り替わらない程度の微少動作量での駆動を行う必要があることから、当該微少動作量の動作を検出するために付されている。
即ち、このリンク体82には、マーキング821を検出するための検出手段としての光学的な位置検出センサー87が併設されており、方向切り替えシリンダ81のプランジャが予め定めた微少動作量だけ後退移動すると、マーキング821が位置検出センサー87の検出範囲に入り、検出信号を出力する。そして、これにより、微少動作量の動作が検出されると、方向切り替えシリンダ81はそれ以上動作を生じないように停止させる制御が行われるようになっている。
【0049】
[ミシンの制御系]
上記ミシン10の制御系を
図9のブロック図に示す。この
図9に示すように、ミシン10は、各構成の動作制御を行う制御部90を備えている。そして、この制御部90には、ピッチ切り替えシリンダ80の動作を制御する電磁弁802と、方向切り替えシリンダ81の動作を制御する電磁弁811とがそれぞれの駆動回路803,812を介して接続され、前述した方向切り替えシリンダ81に併設された位置検出センサー87も接続されている。
また、制御部90には、第一の調節ネジ部材76の設定縫いピッチを第二の調節ネジ部材77の設定縫いピッチに切り替えるピッチ切替スイッチ95と縫い方向の正逆を切り替える方向切り替えスイッチ96とがインターフェイス97を介して接続されている。
また、この制御部90には、モータ駆動回路161を介してミシンモータ16及びその回転数を検出するエンコーダ17が接続されている。
制御部90は、CPU91、ROM92、RAM93、EEPROM94を備え、縫製時には、エンコーダ17の出力を監視しつつ、ミシンモータ16が目標速度を維持するよう制御する。
【0050】
[ピッチ切り替え制御]
制御部90が送り調節機構70について行うピッチ切り替え制御について
図10に示すタイミングチャートを参照しつつ説明に行う。
【0051】
まず、動作の前提として、
図6(B)に示すように、第一のカム部材78のカム部781に当接ピン731が当接した状態にあり、第一の調節ネジ部材76により設定された縫いピッチで縫製が行われている。また、この時、ピッチ切り替えシリンダ80はプランジャを後退させた状態にあり、
図7(A)に示すように、第二のカム部材79は、第二の調節ネジ部材77から離間した状態にある。さらに、方向切り替えシリンダ81は、
図8(A)に示すように、プランジャを前進させた状態にあり、現在選択されている第一のカム部材78のカム部781における正送り調節部785に当接ピン731が当接した状態にある。
【0052】
そして、ピッチ切り替えスイッチ95が押下されると(
図10(A)ON)、制御部90は、電磁弁811を制御して方向切り替えシリンダ81のプランジャを後退させる(
図10(B)ON)。また、同時に、電磁弁802を制御してピッチ切り替えシリンダ80のプランジャを前進させる(
図10(C)ON)。
この方向切り替えシリンダ81の動作により、調節軸72が
図7における時計方向に回動を生じ、当接ピン741がカム部791の正送り調節部795から離れる方向に移動する。そして、これと同時に、ピッチ切り替えシリンダ80が
図7(B)に示すように、第二のカム部材79の上端部を押圧し、カム部791が当接ピン741側に移動する。この時、当接ピン731が正送り調節部785から離れる方向に移動していること及び当接ピン741が正送り調節部795から離れる方向に移動していることにより、これら当接ピンとカム部相互間の摺動が回避又は低減される。従って、ピッチ切り替えシリンダ80は、小さな出力で円滑に切り替え動作を行うことができる。
【0053】
一方、方向切り替えシリンダ81のプランジャはある程度後退移動すると、マーキング821が位置検出センサー87より検出され(
図8(B)及び
図10(D)ON)、制御部90は、このセンサー検出と同時に方向切り替えシリンダ81の作動を停止し(
図10(B)OFF)、プランジャが前進状態に戻される。
これにより、当接ピン741がカム部791の逆送り調節部796に届く前に戻され、当接ピン741が正送り調節部795に当接し、第二の調節ネジ部材77により設定された縫いピッチに設定される。
【0054】
なお、ピッチ切り替えスイッチ95が再び押下されると(
図10(A)OFF)、ピッチ切り替えシリンダ80のプランジャが後退し(
図10(C)OFF)、第二のカム部材79のカム部791が当接ピン741から離れ、第一のカム部材78のカム部781が当接ピン731に再び当接する状態に戻り、第一の調節ネジ部材76により設定された縫いピッチに戻される。
【0055】
[第一の実施形態による効果]
ミシン10では、ピッチ切り替え制御において、第一の調節ネジ部材76の設定縫いピッチが選択された状態から第二の調節ネジ部材77の設定縫いピッチに切り替える際に、ピッチ切り替えシリンダ80と同時に方向切り替えシリンダ81を縫い方向が切り替わらない範囲で駆動させる。
これにより、各当接ピン731,741は、正送り調節部785,795から逆送り調節部786,796側に移動を生じ、その間に、ピッチ切り替え用シリンダ80が第二のカム部材79への切り替え動作を実行するので、当接ピン731と第一のカム部材85のカム部781との摺接及び当接ピン741と第二のカム部材79のカム部791との摺接が回避又は低減される。従って、摺動摩擦が低減し、ピッチ切り替え用シリンダ80の負荷が低減し、小さい出力の小型のシリンダを使用することが可能となる。
また、摺動摩擦の低減により切り替え動作をより迅速に行うことが可能となる。
さらに、摺動摩擦の低減により、部材の摩耗を低減し、耐久性及びメンテナンス性の向上を図ることが可能となる。
【0056】
また、上記ミシン10では、ピッチ切り替え制御における方向切り替えシリンダ81の作動は、当接ピン741がカム部791の逆送り調節部796に到達しない範囲で行うことが望ましく、この条件を満たすために、方向切り替えシリンダ81が一定の範囲まで動作したことを検出する位置検出センサー87を設け、当該位置検出センサー87の検出により方向切り替えシリンダ81を停止させる制御を行っている。
これにより、方向切り替えシリンダ81を適正な動作量で動作させることができ、当接ピン741がカム部791の逆送り調節部796に当接して摺動摩擦が生じるなどの事態を回避でき、より確実な動作を行うことで機構の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0057】
[その他]
なお、上記ミシン10では、ピッチ切り替え制御における方向切り替えシリンダ81の微少動作を実行するために、位置検出センサー87によって、実際の動作量が目標値に達すると、方向切り替えシリンダ81を停止させる制御を行っていたが、方向切り替えシリンダ81の停止条件は動作量に限らず、例えば、動作時間により設定しても良い。
例えば、方向切り替えシリンダ81により当接ピン741が正送り調節部795から逆送り調節部796に達するまでの動作所要時間が予め分かっている場合に、その動作所要時間よりも短い時間を方向切り替えシリンダ81の作動時間と定めて、当該作動時間を経過した時点で方向切り替えシリンダ81を停止させる制御を行っても良い。
例えば、上述の動作所要時間が10[ms]である場合に、制御部90のCPU91の内蔵クロックによって、方向切り替えシリンダ81の駆動開始から動作所要時間10[ms]より短い時間、例えば5[ms]を計時したら、方向切り替えシリンダ81の作動を停止させる制御を行う。
これにより、ピッチ切り替え制御において、方向切り替えシリンダ81を微少動作量で作動させることができ、位置検出センサー87を使用する場合と同様の効果を得ることが可能である。
【0058】
[第二の実施形態]
第二の実施形態として送り調節機構の他の例を説明する。
図11は他の例である送り調節機構70Aの斜視図、
図12は分解斜視図である。この図では送り調節体55の図示は省略し、その支軸56のみを図示している。なお、送り調節体55や送り装置40は第一の実施形態と同様の機構である。
前述した送り調節機構70では、送り調節腕73,74やカム部材78,79を二つ備えていたが、この送り調節機構70Aは送り調節腕及びカム部材を一つしか使用しない点が送り調節機構70と異なっている。
【0059】
送り調節機構70Aは、送り調節体55に支軸56を介して固定装備された入力腕71Aと、ベッド部21内において
Y軸方向に沿った状態で回転可能に支持された調節軸72Aと、当該調節軸72Aに固定装備された送り調節腕73A、送り調節腕73Aと入力腕71Aの回動端部を連結するリンク体75Aと、手動のダイヤル操作により縫いピッチの設定を行う第一と第二の操作手段としての第一と第二の調節ネジ部材76A,77Aと、ベッド部21内で
Y軸回りに回動可能に支持されたカム部材78Aと、第一と第二の調節ネジ部材76A,77Aのそれぞれにより設定された縫いピッチを切り替えるピッチ切り替え用アクチュエータとしてのピッチ切り替えシリンダ80Aと、縫い方向の正逆を切り替える方向切り替え用アクチュエータとしての図示しない方向切り替えシリンダと、方向切り替えシリンダの出力を調節軸72Aに伝達する切り替え腕85Aとを備えている。
なお、上記調節軸72A,送り調節腕73A及び切り替え腕85Aは、相互に固定連結され、ベッド部21内において
Y軸回りに一体的に回動動作を行う回動体86Aとして機能するものである。
【0060】
上記入力腕71Aは、
Y軸方向に沿った支軸56を中心とする半径方向に延出されている。そして、同様に
Y軸回りに回動可能な送り調節腕73Aとリンク体75Aによって連動可能となっている。
送り調節腕73は、その側面部に
Y軸方向に沿って突出したボス状の当接部としての当接ピン731Aを備えており、カム部材78Aのカム部781Aと当接して送り調節腕73Aの調節軸72A回りの回動角度を固定する構造となっている。
【0061】
第一及び第二の調節ネジ部材76A,77Aは、前述した調節ネジ部材76,77とほぼ同一の構造となっている。従って、そのダイヤル部761A,771Aの回転操作により進退移動を行う軸部762A,772Aを備えている。
そして、これら第一及び第二の調節ネジ部材76A,77Aの場合も、通常は、第一の調節ネジ部材76Aの設定縫いピッチで縫製が行われ、ピッチ切り替えシリンダ80Aの作動により、第二の調節ネジ部材77Aの設定縫いピッチに切り替えることが可能となっている。
また、正送りと逆送りの場合で同じ設定ピッチで縫製が行われる点や第二の調節ネジ部材77Aの設定縫いピッチを第一の調節ネジ部材76Aの設定縫いピッチよりも小さくする必要があることも各調節ネジ部材76,77と同じである。
但し、これらの第一及び第二の調節ネジ部材76A,77Aは、ミシンフレームの側面において、第一の調節ネジ部材76Aを上として上下に並んで配置される。
【0062】
そして、ミシンフレーム20の内部において上下に並んだ軸部762A,772Aの前方には、カム部材78Aが配設されている。
このカム部材78Aは、軸部762Aと772Aとがそれぞれ当接する第一と第二の当接面787A,788Aが上下に並んで設けられ、それらの間に
Y軸方向に沿った回動軸782Aを備えている。また、この回動軸782Aには、カム部材78Aの第一の当接面787Aを第一の調節ネジ部材76Aに向かって圧接する方向に押圧するねじりコイルバネ789Aが取り付けられている。
さらに、カム部材78Aは、
Y軸方向について送り調節腕73Aに隣接して配置されており、カム部材78Aの各当接面787A,788Aとは逆側の端部近傍に形成されたカム部781Aが送り調節腕73Aの当接ピン731Aと係合している。
【0063】
図13はカム部材78Aの側面図である。図示のように、カム部材78Aのカム部781Aは、板状をなすカム部材78Aに対して略三角形状に穿孔形成されている。このカム部781Aは、三角形の一辺に相当する部位が正送り調節部785A、正送り調節部785Aに対向し、隣接する一辺に相当する部位が逆送り調節部786A、これら調節部785Aと786Aとの間の頂点に相当する部位が中立位置784Aとなっている。
【0064】
この送り調節機構70Aは、前述したようにカム部材78Aと送り調節腕73Aをそれぞれ一部材で構成しつつ二つの調節ネジ部材76A,77Aによる設定縫いピッチの切替を実現することに特徴を有している。
その作動原理を説明する。まず、第一の調節ネジ部材76Aにより所望の縫いピッチに設定調節を行い、第二の調節ネジ部材77Aにより第一の調節ネジ部材76Aよりも小さい所望の縫いピッチに設定調節を行うと、カム部材78Aは、ねじりコイルバネ789Aによりその当接面787Aが第一の調節ネジ部材76Aに圧接し、当接面788Aとが第二の調節ネジ部材77Aとの間には隙間が形成される。
【0065】
図13の実線で示した当接ピン731Aは、その時の正送り調節部785Aに対する当接位置を示している。
ピッチ切り替えの際にはピッチ切り替えシリンダ80Aが作動してプランジャがカム部材78Aの後端部近傍の上面を下方に押圧する。これにより、カム部材78Aは回動軸782Aを中心に図示の反時計方向に回動し、当接面788Aが第二の調節ネジ部材77Aに圧接した状態に切り替えられる。そして、カム部材78Aが反時計方向に回動を行うと、当接ピン731Aが正送り調節部785Aを摺動しながら中立位置784A寄りに移動するため(二点鎖線の当接ピン731A)、当接ピン731Aと係合する送り調節腕73A(
図13では図示略)は
図13における時計方向に回動する。これにより、送り調節腕73Aと共に送り調節体55が回動して、第二の調節ネジ部材77Aの設定縫いピッチに切り替えられるようになっている。
【0066】
また、方向切り替えシリンダは、正送りから逆送りに切り替える際に、切り替え腕85Aを
図12における時計方向に回動を付与する。これにより、送り調節腕73Aが切り替え腕85Aと共に時計方向に回動し、当接ピン731Aを
図13における731Rの位置に移動させる。これにより、当接ピン731Aは逆送り調節部786Aに当接し、送り調節体55を設定縫いピッチで逆送りを行う状態に回動させることができる。
【0067】
かかる構成からなる送り調節機構70Aにおけるピッチ切り替え制御について説明する。この送り調節機構70Aの場合も、方向切り替えシリンダは前述した方向切り替えシリンダ81と同様にその進退動作部位にマーキングが付され、位置検出センサーによって正送りから逆送りに切り替えられない程度の微少動作の検出が行われる。
そして、ピッチ切り替えシリンダ80A及び方向切り替えシリンダに対して、前述したピッチ切り替えシリンダ80及び方向切り替えシリンダ81について
図10のタイミングチャートで示したものと同じ動作制御が行われる。
つまり、ピッチ切り替えの際には、ピッチ切り替えシリンダ80A及び方向切り替えシリンダが同時に作動を開始する。これにより、方向切り替えシリンダにより当接ピン731Aがカム部781Aの正送り調節部785Aから離間し、これと同時にピッチ切り替えシリンダ80Aによりカム部材78Aが回動を行うので、当接ピン731Aは正送り調節部785Aと摺動することなく第二の調節ネジ部材77Aにより設定位置に移動する。
また、方向切り替えシリンダは、位置検出センサーによって、微少動作が検出されるとプランジャが元の位置に戻されるので、当接ピン731Aは予定された位置に移動させることができる。
【0068】
つまり、この送り調節機構70Aについても、送り調節機構70の場合と同様に、ピッチ切り替えシリンダ80Aについて、小型化を図り、動作の迅速性の向上及び各部材の摺動摩耗の低減を図ることが可能である。
【0069】
[第三の実施形態]
第三の実施形態として、上下送り軸43の回転駆動力を往復回動駆動力に変換して水平送り軸46に伝達する伝達機構48の他の例を説明する。即ち、前述した送り調節機構70,70Aは、いずれも伝達機構48に限らず、以下に示す伝達機構48Bにも適用することが可能である。この伝達機構48Bの説明において、前述したミシン10と同一の構成については同符号を付して、重複する説明は省略するものとする。
【0070】
図14は他の伝達機構48Bの分解斜視図、
図15は動作説明図である。
伝達機構48Bは、上下送り軸43に固定装備された偏心カム49Bと、偏心カム49Bを介して上下送り軸43に一端部が連結されたクランクロッド50Bと、水平送り軸46に固定装備されると共に当該水平送り軸46を中心として揺動を行う揺動アーム51Bと、クランクロッド50Bの他端部と揺動アーム51Bの揺動端部との間を連結すると共に水平送り軸46に伝達する往復回動角度の幅を調節することが可能な送り量可変部52Bとを備えている。
【0071】
送り量可変部52Bは、長手方向の一端部が揺動アーム51Bの揺動端部と連結され、中間部がクランクロッド50Bの他端部と連結されたリンク体53Bと、当該リンク体53Bの長手方向の他端部に保持された一対の角コマ54Bと、角コマ54Bをガイドするガイド溝551Bを有する送り調節体55Bと、送り調節体55BをY軸回りに回動可能とする支軸56Bとを備えている。
【0072】
上記リンク体53Bは、その両端部及び中間部において、揺動アーム51B,角コマ54B及びクランクロッド50Bのそれぞれに対してY軸回りに回動可能に連結されている。
そして、リンク体53Bは、その中間部においてクランクロッド50Bの他端部が連結されているため、上下送り軸43が回転を行うと、上下方向成分を含む往復動作が付与される。そして、リンク体53Bの他端部は角コマ54Bが取り付けられ、当該角コマ54Bは、送り調節体55Bに形成されたガイド溝551Bによりその移動方向が規制される構造となっている。
この場合、例えば、
図15に示すように、ガイド溝551Bが上下方向に向けられていると、クランクロッド50Bからリンク体53Bに入力される往復動作も概ね上下方向となり、このリンク体53Bは揺動アーム51Bとの連結部を支点として往復回動動作を行う。このため、揺動アーム51Bの回動端部側はほぼ静止状態となり、水平送り軸46には回動動作が伝わらない。つまり、この向きが送り調節体55Bにおける中立角度となる。
そして、送り調節体55Bを中立角度からいずれかに回動させると、ガイド溝551Bが斜め方向に傾斜するため、リンク体53Bには左右方向(X軸方向)の往復動作成分が発生し、これが揺動アーム51Bの回動端部にも伝わるため、水平送り軸46にも回動動作が伝達される。そして、水平送り軸46に伝わる往復回動のストロークは、送り調節体55Bの中立角度からの角度変動量に応じて変動する。
また、送り調節体55Bを中立角度から時計方向と反時計方向のいずれの方向に回動させるかによって、水平送り軸46に伝わる往復動作の位相は反転する。従って、各方向への回動角度に応じて、正方向と逆方向の縫いピッチを任意に調節することが可能となっている。
【0073】
前述した送り調節機構70,70Aは、上記伝達機構48Bにおける支軸56Bに、入力腕71,71Aを装備することにより、伝達機構48と全く同様に機能させることが可能である。