特許第5940308号(P5940308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940308
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】モータコアの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20160616BHJP
【FI】
   H02K15/02 E
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-9130(P2012-9130)
(22)【出願日】2012年1月19日
(65)【公開番号】特開2013-150449(P2013-150449A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【弁理士】
【氏名又は名称】来田 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100163267
【弁理士】
【氏名又は名称】今中 崇之
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】中村 和泉
【審査官】 三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−217565(JP,A)
【文献】 特開2001−286946(JP,A)
【文献】 特開平10−075542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚が0.1〜0.5mmの薄板条材からプレスによって鉄心片を打抜き形成し、更にプレス加工端面のシェービング加工を行った後、該鉄心片を積層して積層鉄心とするモータコアの製造方法において、
前記シェービング加工は一回で行われ、前記シェービング加工時におけるダイとパンチのクリアランスを、前記薄板条材の板厚の1%以上5%未満とし、しかも前記シェービング加工を、前記プレス加工端面から該薄板条材の板厚の15〜45%の範囲で行い、更に、前記薄板条材には、鉄損(W/kg)50H/1.5Tが4.4より小さい中、高グレード材を用いることを特徴とするモータコアの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のモータコアの製造方法において、前記シェービング加工の速度は100〜1000回/分の間にあることを特徴とするモータコアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加工歪による鉄損が少なく、しかも鉄心片の製造工程も最小にして、積層鉄心の生産性も向上したモータコアの製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機を構成するモータコア(積層鉄心)は、順送り金型を用いて電磁鋼板からなる薄板条材を打抜き加工することにより製造する方法が多く用いられている。この場合、モータコアの打抜き加工部の断面近傍に打抜き加工に伴う加工歪が残留し、この加工歪によって、鉄損(励磁したコア中で消費されるエネルギー損失、ヒステリシス損と渦電流損の合計をいう)が上昇し、電動機のエネルギー効率が低下する。
【0003】
そこで、鉄損を低下する方法として、特許文献1のような焼鈍により組織を再結晶化して加工歪を除去する方法や、或いは、特許文献2、3のようなシェービングによって加工歪の残留した領域を除去する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平1−33535号公報
【特許文献2】特開2007−252092号公報
【特許文献3】特開2011−217565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、焼鈍工程に時間がかかり、設備にも費用がかかる問題がある。また、特許文献2の方法では、シェービングで加工歪を除去する際にシェービング取り代を大きくし過ぎて、鉄損を低下できない問題がある。
更に、特許文献3の方法では以下に示す問題がある。
1)一度に除去する加工歪の残留した領域が狭く、効果的に鉄損を低下するには二回以上に亘ってシェービングを行う必要があるため、工程数が増えることで生産性の悪化とコスト高を招くという問題がある。
【0006】
2)また、特許文献3ではシェービングパンチとシェービングダイのクリアランスが、板厚の0〜25%(好ましくは、0〜20%、5%)との記載はあるが、シェービングパンチとシェービングダイのクリアランスが0であると、パンチ及びダイの磨耗が早くなるため寿命が極めて短く生産性が悪いという問題がある。また、このクリアランスが5%を超えると、通常のプレス加工に近づき、結局は鉄心片に加工歪が残って鉄損が、加工歪がない鉄心片の場合より多くなるという問題がある。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、鉄損の原因である加工歪を、鉄損値が効果的に低下するように除去し、生産工程も増やさないで、低鉄損のモータコアを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るモータコアの製造方法は、板厚が0.1〜0.5mmの薄板条材からプレスによって鉄心片を打抜き形成し、更にプレス加工端面のシェービング加工を行った後、該鉄心片を積層して積層鉄心とするモータコアの製造方法において、
前記シェービング加工は一回で行われ、前記シェービング加工時におけるダイとパンチのクリアランスを、前記薄板条材の板厚の1%以上5%未満(より好ましくは1〜2%)とし、しかも前記シェービング加工を、前記プレス加工端面から該薄板条材の板厚の15〜45%の範囲で行い、更に、前記薄板条材には、例えば、周波数50Hz、最大磁束密度1.5Tの時の鉄損(W/kg)50H/1.5Tが4.4より小さい中、高グレード材を用いる。
【0009】
本発明に係るモータコアの製造方法において、前記シェービング加工の速度は100〜1000回/分の間にあるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
1回のシェービング加工によって、せん断加工により生じた加工歪が発生した部分を除去しているので、複数の工程を要することなく、加工歪が発生した部分を1回の打抜きで効果的に除去することが可能となる。これによって、全体として鉄損の少ない積層鉄心を形成できる。
【0011】
また、シェービング加工時におけるダイとパンチのクリアランスを、薄板条材の厚みの1%以上5%未満としているので、刃物(パンチ及びダイ)に無理に荷重を発生させることがない。しかも、より精度の高いシェービング加工となるので、シェービング加工時に加工歪の発生を抑制し、鉄損の少ない鉄心片の形成が可能となる。
【0012】
そして、シェービング加工は、プレス加工端面から薄板条材の板厚の15〜45%の範囲としているので、加工歪の発生した部分の除去が略完全となり、鉄心片の鉄損が減少する。
更に、1回の打抜きで発生するシェービングの打抜き滓が従来技術より厚くなるため、打抜き滓の処理が容易になる。
【0013】
なお、本発明に係るモータコアの製造方法において、シェービング加工の速度を100回/分以上とした場合には、パンチに一定以上のイナーシャを与えることができ、シェービング加工がよりスムーズに進む。また、シェービング加工の速度が1000回/分を超えると、金型装置に振動等が発生し、更に高速プレスとなるので、装置自体が極めて高価になる。
【0014】
更に、本発明に係るモータコアの製造方法、薄板条材を鉄損(W/kg)50H/1.5Tが4.4より小さい中、高グレード材と、外形成形時のプレス加工によってより加工歪が発生する、シェービング加工によってより効率的に鉄損を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)、(B)はそれぞれ鉄心片の切断端面の説明図である。
図2】本発明の一実施の形態に係るモータコアの製造方法を適用する鉄心片の斜視図である。
図3】本発明の一実施の形態に係るモータコアの製造方法を適用する装置の説明図である。
図4】シェービング取り代と鉄損との関係を示すグラフである。
図5】シェービング取り代と鉄損低下ポイントの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
続いて、添付した図面を参照しながら、本発明を具体化した実施の形態について説明する。
図2に本発明の一実施の形態に係るモータコアの製造方法を用いた鉄心片(固定子鉄心片)10を示すが、環状のヨーク片部11の内側に複数の磁極片部12を有する。なお、14はかしめ部を示す。
【0017】
この鉄心片10の製造にあっては、図3に示すような打ち抜き加工ライン16を用い、コイル状に巻いた厚みが0.1〜0.5mmの薄板条材17(電磁鋼板)を巻き出し装置19、矯正装置20、送り装置30を介して順送り金型31に順次送って、プレス32によって、所定の打ち抜き加工を行う。そして、最終工程(即ち、ダイス内に打ち抜いて積層する工程)の前に、磁極片部12の内側端部にシェービング加工を行っている。
【0018】
この様子を、図1(A)、(B)、図2を参照しながら詳細に説明すると、磁極片部12を形成する鉄心片10の端面は通常のクリアランス(例えば20〜30μm)を有するパンチ及びダイで磁極片部12の外形加工を行う。通常のクリアランスを有するダイ及びパンチでプレス加工を行うと、ダイによって支持された材料は、最初パンチによって押下げられ塑性変形し、その後切断されることになるので、切断面(即ち、プレス加工端面)22に近い領域には塑性変形部23が生じる。この塑性変形部23は、切断面22から薄板条材17の厚みの50〜80%の位置まで存在し、加工歪を有する。
【0019】
従って、図1(B)に示すように、この塑性変形部23をシェービング加工によって鉄心片10から除去することになる。シェービング加工に使用するパンチ25とダイ26のクリアランスcは薄板条材17の厚みの1%以上5%未満(好ましくは1〜2%)とする。これによって、塑性変形部23を除去し、より鉄損の少ない磁極片部12を形成できる。
【0020】
この場合、シェービング加工を行うのは、磁極片部12の内側端部のみでも十分な効果を発揮できるが、図2に示すように、磁極軸片部28の両側に形成されるスロット部分(隣り合う磁極片部12の隙間を含む)29にも適用することができ、これによって、全体としてより鉄損の少ない積層鉄心(モータコア)を形成できる。
【0021】
次に、図1(B)において、シェービング取り代aを変えた場合の鉄損(W/kg)60H/1.5Tの値を、高グレード材(鉄損(W/kg)50H/1.5Tの値が2.5以下)、中グレード材(鉄損(W/kg)50H/1.5Tの値が2.5より大きく4.4より小さい)、低グレード材(鉄損(W/kg)50H/1.5Tの値が4.4以上)に適用した場合について、図4に示す。
【0022】
また、シェービング取り代aと鉄損低下ポイントとの関係を、高グレード材、中グレード材、低グレード材について図5に示す。ここで、鉄損低下ポイントとは、シェービング前の打ち抜き加工直後の鉄損と、シェービング加工した後の鉄損とを比べた鉄損低下率を示す。
図4図5から、シェービング取り代は、板厚の15〜45%であり、この範囲未満でもこの範囲を超えても実質的に鉄損値は増えることになる。なお、シェービング取り代が小さくなると、塑性変形した領域が残り、端面形状が悪くなる場合が多いので、最適には板厚の25〜45%とするのがよい。
【0023】
前述のように、この実施の形態においては、シェービング加工に使用するパンチ25とダイ26のクリアランスcは薄板条材17の厚みの1%以上5%未満としている(更に好ましくは、1〜2%とする)。この理由は、クリアランスcが薄板条材17の厚みの1%未満とすると、刃物(パンチ及びダイ)の寿命が極端に短くなる。また、2%を超える、特に5%以上とすると、通常の打ち抜き加工に近づき、塑性変形領域が多く発生し、鉄損の減少に大きく寄与しないという問題がある。以上のことから、シェービング加工に使用するパンチ25とダイ26のクリアランスcは薄板条材17の厚みの1%以上5%未満とするのが、刃物の寿命も考慮すれば、最適であることが分かる。
【0024】
この実施の形態においては、プレス速度は、100回/分〜1000回/分で行うのが好ましい。プレス速度が100回/分より遅い場合は、プレスの仕事能力が低下して連続加工ができなくなる場合がある。プレス速度を高速にすると生産性は向上するが、金型装置の動作限界に近づく。
【0025】
また、本実施の形態において、鉄心片のシェービング加工は一枚の鉄心片を製造する過程で一回しか行われていない。これによって、余分な加工ステーションを省略できる。
本発明は前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での設計変更、数値変更は可能である。例えば、本実施の形態は固定子鉄心片に適用した例を示したが、回転子鉄心片であっても本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0026】
10:鉄心片、11:ヨーク片部、12:磁極片部、14:かしめ部、16:打ち抜き加工ライン、17:薄板条材、19:巻き出し装置、20:矯正装置、22:切断面、23:塑性変形部、25:パンチ、26:ダイ、28:磁極軸片部、29:スロット部分、30:送り装置、31:順送り金型、32:プレス
図1
図2
図3
図4
図5