(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
頻尿(ひんにょう)とは、様々な原因により1日の排尿回数が増えてしまう症状である。頻尿の原因としては、尿崩症、高血圧症、水分、カフェイン、アルコールの過剰摂取、加齢などの尿量の増加に因るものと、過活動膀胱、尿路感染、間質性膀胱炎など尿量の増加に因らないものに大別される。さらに、膀胱や前立腺など泌尿器系の臓器に病気が存在して起こる場合や、神経的な緊張も、頻尿の原因の1つと言われている。
一方、過活動膀胱(overactive bladder:OAB)は、尿意切迫感、切迫性尿失禁の排尿障害を呈する疾患である。過活動膀胱の症状は日常生活に支障をきたし生活の質を低下させること、特に高齢者に多く見られ40歳以上の罹患者は800万人を超えると推定されていることから、近年の高齢化社会に伴って注目が集まっている。健常人では膀胱内の蓄尿量と尿意は相関関係にあるが、過活動膀胱患者では尿の蓄積によらず膀胱の収縮が起こるため尿意切迫感を引き起こすと考えられている。しかしながら、その発症機構には未だ不明な点が多い。
【0003】
近年、過活動膀胱を引き起こす要因の1つとして、膀胱知覚神経系(膀胱求心性神経系)の興奮性の亢進が指摘されている。この知覚神経系の興奮は、蓄尿による膀胱の伸展刺激を受けて膀胱上皮細胞から放出される各種の伝達物質(アデノシン三リン酸(adenosine triphosphate:以下ATPとも略記する)、アセチルコリン(acetylcholine)等)によって引き起こされると考えられている。ヒトでは加齢により膀胱上皮から放出されるATP量が増加すること、及び過活動膀胱患者では膀胱伸展時のATP放出量が増大していることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。また、ラットの膀胱にATPを投与すると排尿筋の過活動が誘発されて排尿間隔が短縮するとの報告もある(例えば、非特許文献2参照)。なお、過活動膀胱は、精神的な緊張との関連性が現在のところ知られていない。
【0004】
現在のところ、薬物による過活動膀胱の治療には、膀胱収縮を促すアセチルコリンの作用を抑制する抗コリン薬が主に使われている。しかし、抗コリン薬は服用に伴う、口の渇き、便秘、排尿の困難性等の副作用を起こすことが知られている。このような実情から、より効果的な過活動膀胱の予防、治療剤が望まれている。
一方、シソの1種であるアオジソ(
Perilla frutescens var.
crispa f.
viridis.Makino)は、シソ(Lamiaceae)科の一年草であり、食用としても用いられ、その抽出物には、発汗、解熱、去痰(きょたん)、健胃、鎮痛などの薬理作用が知られている。また、アオジソとは別品種のアカジソ(
Perilla frutescens Britton var.
acuta Kudo)抽出物は、精神を安定させる効果があり、精神的な緊張感から来る頻尿を抑制することが知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、シソの抽出物が、過活動膀胱の予防や改善、過活動膀胱に基づく頻尿に有効であることは全く知られていない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の過活動膀胱の予防又は改善剤、及びATP放出抑制剤は、シソ抽出物を有効成分とする。
本発明で用いるシソ抽出物の原料に特に制限はないが、アオジソ(
Perilla frutescens var.
crispa f.
viridis.Makino)、アカジソ(
Perilla frutescens Britton var.
acuta Kudo)、カタメンジソ(
Perilla frutescens var.
crispa f.
discolor Makino)、チリメンジソ(学名:
Perilla frutescens var.
crispa f.
crispa Decne)、マダラジソ(
Perilla frutescens var.
crispa f.rosea Kudo)等のシソ(Lamiaceae)科シソ(
Perilla)属に属する一年草の植物が挙げられる。本発明において、シソ抽出物の原料は、アオジソ、アカジソ、カタメンジソ、チリメンジソ、及びマダラジソからなる群より選ばれる1種又は2種以上が好ましく、アオジソがより好ましい。
【0013】
本発明における前記植物は、その植物の全ての任意の部分が使用可能である。例えば、上記植物の全木、全草、根、根茎、幹、枝、茎、葉、樹皮、樹液、樹脂、花、果実、種子、果皮、莢、芽、花穂、心材等の任意の部分、及びそれらの組み合わせのいずれか1つ又は2つ以上を使用することができる。
本発明においてシソ抽出物を得るには、シソの全草、葉、根、果実を抽出することが好ましく、葉を抽出することがより好ましい。また、シソ抽出物として市販品を用いてもよい。
【0014】
本発明で用いる、シソ抽出物の製造方法については特に限定はなく、上記植物を通常の方法で抽出することにより抽出物を得ることができる。具体的には、前記植物を乾燥させた乾燥物又はその粉砕物、その粉砕物等を圧搾抽出することにより得られる搾汁、水蒸気蒸留物、各種抽出溶剤による粗抽出物、粗抽出物を分配又はカラムクロマトなどの各種クロマトグラフィーなどで精製して得られた抽出物画分などを本発明における抽出物として用いることができる。また、このようにして得られた抽出物画分は、必要により公知の方法により脱臭、脱色等の処理を施してから用いてもよい。
上記の植物はそのまま抽出に供することも可能であるが、より抽出効率を高めるために、乾燥、細断、粉砕等の工程を加えることも好ましい。また、本発明においては、前記抽出物、水蒸気蒸留物、圧搾物等のいずれかを単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、本発明の植物抽出物としては、上記植物を乾燥させた乾燥物又はその粉砕物から、抽出溶剤を用いて得られた抽出物を用いるのが好ましい。
【0015】
抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができ、これらを混合して用いることもできる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類等が挙げられる。あるいは、上記溶剤の2種以上を組み合わせた混合物を、抽出溶剤として用いることができる。このうち、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類等を用いるのが好ましく、特に水、エタノール混液を用いるのが好ましい。
【0016】
本発明で用いられる抽出物を得るための抽出条件については、使用する溶剤によって異なり特に制限はなく、通常の条件を適用できる。例えば、上記植物1質量部に対して1質量部以上10質量部以下の溶媒を用い、0℃以上(好ましくは10℃以上)70℃以下(好ましくは30℃以下)で数時間〜数週間、好ましくは12時間以上2日間以下、浸漬、煎出、浸出、還流抽出、超臨界抽出、超音波抽出及び/又はマイクロ波抽出を行えばよい。また、水蒸気蒸留によってもシソ抽出物を得ることが出来る。抽出効率を向上させるため、併せて攪拌を行ったり、溶媒中でホモジナイズ処理を行ってもよい。
【0017】
上記溶媒で抽出して得られた抽出物はそのまま使用してもよいが、さらに適当な分離手段、例えばゲル濾過、クロマトグラフィー、精密蒸留、活性炭処理等により活性の高い画分を分画して用いることもできる。本発明において、植物の抽出物とは、ソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて得られる各種溶剤抽出液、その希釈液、その濃縮液、その精製物又はそれらの乾燥末を包含するものである。
【0018】
前述のように、ATPは蓄尿による膀胱の伸展刺激を受けて膀胱上皮細胞から放出される。このATP放出には、膀胱上皮の伸展という機械的刺激を感知する受容体(メカノセンサー)が関与する。ヒトの膀胱上皮には、ENaC(Epithelial Na channel)ファミリーやTRP(transient receptor potential)ファミリーに属するメカノセンサーが存在することが知られている。過活動膀胱や尿路閉塞患者の膀胱上皮細胞では、これらのメカノセンサーが健常人に比べて高発現しているとの報告がある(Urologia Internationals,2006年,第76巻,p.289-295、Urology View,2007年,第5巻,p.31-36)。
後記実施例でも示すように、シソ抽出物は、ATP放出抑制効果を示す。したがって、ヒトを含む動物がシソ抽出物を摂取又は投与することで、過活動膀胱の予防又は改善が可能となる。
【0019】
本発明の過活動膀胱の予防又は改善剤及びATP放出抑制剤は、医薬品、医薬部外品、食品、飲料等の用途に適用することができる。さらに本発明の過活動膀胱の予防又は改善剤及びATP放出抑制剤は、液状、固形状、乳液状、ペースト状、ゲル状、パウダー状(粉末状)、顆粒状、ペレット状、スティック状等、ヒトや動物に適用されうる各種剤型をとることができる。
【0020】
本発明の過活動膀胱の予防又は改善剤及びATP放出抑制剤を医薬品、医薬部外品に適用する場合、必要により各種添加剤を配合し、前記有効成分を適量含有させて、各種剤形の医薬品又は医薬部外品として調製することができる。例えば、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、腸溶剤、トローチ剤、ドリンク剤等の経口医薬として、又は、注射剤、坐剤、経皮吸収剤、外用剤等といった非経口医薬として調製することができる。これらの形態のうち、好ましい形態は経口医薬である。このような種々の剤型の医薬製剤を調製するには、各種添加剤を用いて常法に従って製造すればよい。使用する添加剤には特に制限はなく、通常用いられているものを使用することができる。その例としては、薬学的に許容される賦形剤(ソルビトール、グルコース、乳糖、デキストリン、澱粉等の糖類、炭酸カルシウム等の無機物、結晶セルロース、蒸留水、ゴマ油、とうもろこし油、オリーブ油、菜種油等)、液体担体(蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、エタノール等のアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、油性担体(各種の動植物油、白色ワセリン、パラフィン、ロウ類等)、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、崩壊剤、滑沢剤、増量剤、界面活性剤、分散剤、懸濁剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、矯臭剤、細菌抑制剤等が挙げられる。
【0021】
本発明の過活動膀胱の予防又は改善剤及びATP放出抑制剤を飲食品、飼料・ペットフード等に適用する場合、食用又は飲料用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペーストなどに成形して提供することができる。さらに、前記飲食品は、一般飲食品の他、過活動膀胱の予防又は改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した美容食品、病者用食品、栄養機能食品又は特定保健用食品等の機能性飲食品の形態とすることができる。
【0022】
飲食品の形態としては特に制限はなく、例えば、パン、麺類等に代表される小麦粉加工食品、お粥、炊き込みご飯等の米加工食品、ビスケット、ケーキ、ゼリー、チョコレート、せんべい、アイスクリーム等の菓子類、豆腐、その加工食品等の大豆加工食品、清涼飲料、果汁飲料、乳飲料、炭酸飲料等の飲料類、ヨーグルト、チーズ、バター、牛乳等の乳製品、醤油、ソース、味噌、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、ハム、ベーコン、ソーセージ等の蓄肉、蓄肉加工食品、はんぺん、ちくわ、魚の缶詰等の水産加工食品、調理油ならびにフライ用油等が挙げられる。また、錠剤(タブレット)、カプセル等の錠剤食、濃厚流動食、自然流動食、半消化態栄養食、成分栄養食、ドリンク栄養食等の経口経腸栄養食品、機能性食品等の形態としてもよい。
飼料の形態としては特に制限はなく、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、犬、猫、小鳥、リス等に用いるペットフード等が挙げられる。
これらの飲食品は、例えば、甘味剤、着色剤、抗酸化剤、ビタミン類、香料、ミネラル等の添加剤、タンパク質、脂質、糖質、炭水化物、食物繊維等の食品原料を適宜組み合わせて用い、これと本発明の過活動膀胱の予防若しくは改善剤又はATP放出抑制剤とを含有させ、常法に従って各種飲食品の形態とすることにより調製することができる。
【0023】
本発明の過活動膀胱の予防又は改善剤及びATP放出抑制剤はそのままで医薬品、医薬部外品、食品、飲料等として用いてもよいし、医薬品、医薬部外品、食品、飲料等の添加剤又は配合剤として用いてもよい。
【0024】
本発明の過活動膀胱の予防又は改善剤及びATP放出抑制剤における前記有効成分の配合量は、その使用形態により異なるが、医薬品、例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤の場合は、固形分濃度として0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、90質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。あるいは、0.001〜90質量%が好ましく、0.01〜50質量%がより好ましい。飲食品やペットフード等に配合する場合は、固形分濃度として0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、50質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。あるいは、0.001〜50質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましい。
【0025】
本発明の過活動膀胱の予防又は改善剤及びATP放出抑制剤の投与又は摂取量は、個体の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得るが、成人(60kg)の1日の投与又は摂取量としては、前記有効成分の乾燥物換算として、0.001mg以上が好ましく、1mg以上がより好ましく、100mg以上がさらに好ましく、50000mg以下が好ましく、20000mg以下がより好ましく、15000mg以下がさらに好ましい。あるいは、0.001〜50000mgが好ましく、1〜20000mgがより好ましく、100〜15000mgがさらに好ましい。また、本発明の過活動膀胱の予防又は改善剤及びATP放出抑制剤は、1日1回〜数回に分け、又は任意の期間及び間隔で摂取・投与され得る。
【0026】
上記医薬品、医薬部外品又は食品の摂取又は投与対象として特に限定されないが、過活動膀胱又は尿意切迫感及び切迫性尿失禁等の排尿障害の予防又は改善又は治療を目的とするヒトやヒト以外の哺乳動物が好ましい。なお、摂取又は投与対象には、過活動膀胱の症状が認められるヒトやヒト以外の哺乳動物、及びそのおそれがあるヒトやヒト以外の哺乳動物、その疾患・症状の予防を期待するヒトやヒト以外の哺乳動物も含まれる。
【0027】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の過活動膀胱の予防又は改善剤、ATP放出抑制剤、製造方法、方法及び使用を開示する。
【0028】
<1>シソ抽出物を有効成分とする、過活動膀胱の予防又は改善剤。
【0029】
<2>過活動膀胱の予防又は改善がATP放出抑制によるものである、前記<1>項記載の過活動膀胱の予防又は改善剤。
<3>前記シソ抽出物がアオジソ抽出物である、前記<1>又は<2>項記載の過活動膀胱の予防又は改善剤。
<4>前記有効成分の含有量が固形分換算で0.001質量%以上50質量%以下である、前記<1>〜<3>項のいずれか記載の過活動膀胱の予防又は改善剤。
【0030】
<5>シソ抽出物を有効成分とする、ATP放出抑制剤。
【0031】
<6>前記シソ抽出物がアオジソ抽出物である、前記<5>項記載のATP放出抑制剤。
<7>前記有効成分の含有量が固形分換算で0.001質量%以上50質量%以下である、前記<5>又は<6>項記載のATP放出抑制剤。
【0032】
<8>過活動膀胱の予防又は改善剤としての、シソ抽出物の使用。
<9>過活動膀胱の予防又は改善剤の製造のための、シソ抽出物の使用。
<10>シソ抽出物を、過活動膀胱の予防又は改善剤として使用する方法。
<11>シソ抽出物を用いる、過活動膀胱の予防又は改善方法。
<12>ATPの放出を抑制することで過活動膀胱を予防又は改善する、前記<8>〜<11>項のいずれか記載の使用又は方法。
<13>前記シソ抽出物がアオジソ抽出物である、前記<8>〜<12>項のいずれか記載の使用又は方法。
<14>前記過活動膀胱の予防又は改善剤における、前記シソ抽出物の含有量が固形分換算で0.001質量%以上50質量%以下である、前記<8>〜<13>項のいずれか記載の使用又は方法。
【0033】
<15>ATP放出抑制剤としての、シソ抽出物の使用。
<16>ATP放出抑制剤の製造のための、シソ抽出物の使用。
<17>シソ抽出物を、ATP放出抑制剤として使用する方法。
<18>シソ抽出物を用いる、ATP放出の抑制方法。
<19>前記シソ抽出物がアオジソ抽出物である、前記<15>〜<18>項のいずれか記載の使用又は方法。
<20>前記ATP放出抑制剤における、前記シソ抽出物の含有量が固形分換算で0.001質量%以上50質量%以下である、前記<15>〜<19>項のいずれか記載の使用又は方法。
【0034】
<21>過活動膀胱の治療方法のために用いる、シソ抽出物。
<22>前記シソ抽出物がアオジソ抽出物である、前記<21>項記載のシソ抽出物。
<23>過活動膀胱の治療薬の製造のための、シソ抽出物の使用。
<24>前記シソ抽出物がアオジソ抽出物である、前記<23>項記載の使用。
【0035】
<25>過活動膀胱の非医薬的な処置方法のために用いる、シソ抽出物の使用。
<26>前記シソ抽出物を食品又は飲料の形態で適用する、前記<25>項記載の使用。
<27>前記シソ抽出物がアオジソ抽出物である、前記<25>又は<26>項記載の使用。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
製造例1 シソ抽出物1の調製
香辛料抽出物製剤シソSP-61509(商品名、シソ抽出物正味3%含有、三栄源エフエフアイ社より入手)を、シソ抽出物1として使用した。
【0038】
製造例2 シソ抽出物2の調製
香辛料抽出物製剤シソSP-61509(商品名、三栄源エフエフアイ社より入手)5Lに、ヘキサン5Lを加え、液々抽出を行った。水層はさらにヘキサン2Lでの抽出を2回繰り返した。得られたヘキサン抽出液(合計9L)を併せて、ロータリーエバポレーターで濃縮し、シソ抽出物2(シソ抽出物正味100%)を得た(収量:72.92g)。
【0039】
製造例3 シソ抽出物3の調製
青じそオイル(商品名、青紫蘇の葉の水蒸気蒸留品、シソ抽出物正味100%、日農化学社より入手)を、シソ抽出物3として使用した。
【0040】
試験例1 ATP放出抑制試験
特開2011−133440号公報に記載の方法を参考に、下記に示すようにATP放出抑制試験を行った。
膀胱上皮細胞株としてHT-1376(ATCC社より入手、下記表1に細胞情報を示す)を用い、下記に示す組成の培地を用いて37℃、5%CO
2条件下で培養した。
HT-1376用培地:MEM(Minimum Essential Medium)Earle's(Invitrogen社より入手)に10%FCS(ウシ胎仔血清)、ピルビン酸ナトリウム(0.055g/500mL)、L-グルタミン(0.146g/500mL)を添加したものを使用した。
【0041】
【表1】
【0042】
96wellプレートに、4.1×10
4 cells/wellになるようにHT-1376を播種し、上記培養条件にて24時間培養した。培地を吸引除去して等浸透圧液(組成を表2に示す)で2回洗浄し、製造例1、2及び3で製造したシソ抽出物1、2又は3を含有する等浸透圧液(シソ抽出物の終濃度:シソ抽出物1及び3については0.003%(w/v)、0.01%(w/v)又は0.03%(w/v)、シソ抽出物2については0.03%(w/v)のみ)をそれぞれ75μL/well加えて、37℃、5%CO
2環境下で60分インキュベートした。さらに、製造例1、2及び3で製造したシソ抽出物1、2又は3を含有する低浸透圧液(シソ抽出物の終濃度:シソ抽出物1及び3については0.003%(w/v)、0.01%(w/v)又は0.03%(w/v)、シソ抽出物2については0.03%(w/v)のみ、低浸透圧液の組成を表2に示す)を75μL/well添加し、37℃、5%CO
2環境下で60分インキュベートし、溶液を回収した。
【0043】
【表2】
【0044】
回収したサンプル溶液中のATP濃度を、ATP Bioluminescent Assay Kit(SIGMA社より入手)を用いてルシフェリン・ルシフェラーゼ法により測定した。すなわち、サンプルと、ATP Bioluminescent Assay Kit中のATP Assay Mix solutionとを等量で混合し、撹拌後にホタルルシフェラーゼ活性を1秒間測定してATP濃度を決定し、ATP放出率を測定した。結果を表3に示す。なお、溶媒対照の低浸透圧液を添加した際のATP放出率を100%としたときの相対値で表した。
【0045】
【表3】
【0046】
等浸透圧から低浸透圧へと浸透圧を変化させることで膀胱上皮細胞を伸展させると、ATPの放出が亢進する。しかし、表3の結果から明らかなように、浸透圧を変化させても、シソ抽出物を添加することによりATP放出が抑制された。これより、シソ抽出物はATP放出抑制作用を有することが示された。
【0047】
試験例2 ATP放出に対する、シソ抽出物のクエンチング効果の評価
試験例1において、ATP濃度はルシフェリン・ルシフェラーゼ法により測定しているが、サンプルにシソ抽出物が含まれている。そのため、シソ抽出物にクエンチング効果がある場合には、ATP濃度が低く計算されてしまい、ATP放出阻害活性が擬陽性となる。そこで、シソ抽出物のクエンチング効果を検証する目的で、シソ抽出物含有サンプルのATP添加回収率を評価した。
【0048】
空の96wellプレートに、シソ抽出物を含む等浸透圧液を75μL/well添加し、37℃、5%CO
2環境下で60分インキュベートした。さらに、ATP及びシソ抽出物を含む低浸透圧液(ATP終濃度:5×10
-8M)を75μL/well添加し、37℃、5%CO
2環境下で60分インキュベートし、溶液を回収した。
回収したサンプル溶液は、試験例1と同様に、ルシフェリン・ルシフェラーゼ法により回収したサンプル中のATP濃度を測定した。なお、シソ抽出物正味の終濃度は、0.03%(w/v)にて評価した。結果を表4に示す。結果は、シソ抽出物を含まない溶液のATP濃度に対する相対値(%)で表した。
【0049】
【表4】
【0050】
その結果、シソ抽出物に高いATP添加回収性が認められた。これより、シソ抽出物はATP濃度の測定に影響を及ぼさないことが示された。
【0051】
以上のように、シソ抽出物は、膀胱上皮細胞伸展時に亢進するATP放出を抑制する効果を有する。したがって、シソ抽出物は、過活動膀胱の予防又は改善効果を有する。
【0052】
試験例3 シソ抽出物の膀胱内投与による過活動膀胱モデルラットへの影響
試験には、過活動膀胱モデルラットとして汎用されている高血圧自然発症ラット(Spontaneously Hypertensive Rat:SHR、American Journal of Physiology,1998年,第275巻,p.R1279-1286、Neurourology and Urodynamics,2005年,第24巻,p.295-300参照)、及び対照として正常血圧ウィスター京都(Wistar Kyoto:WKY)ラット(35〜39週齢、雌、日本SLC社より入手)を使用した。ラットをペントバルビタール麻酔後、カテーテルの先端を膀胱に挿入し、他方の先端は皮下を通して頭頂部の体外に導き栓をした。その2日後に、ラットをボールマンケージに保定し、頭頂部のカテーテルに三方活栓を介してシリンジポンプを接続し、下記に示す膀胱内投与液を流速0.8mL/時間にて膀胱に持続注入した。1時間後に流速を5mL/時間に変更し、三方活栓を介して接続した圧トランスデューサーにより膀胱内圧を測定した。また、同時にボールマンケージの下に電子天秤を設置して排出される尿の重量を計測・記録することで排尿1回あたりの排尿量を測定した。
WKY群及びSHR(−)群の膀胱内投与液:0.9%塩化ナトリウム水溶液
SHR(シソ)群の膀胱内投与液:製造例2で製造したシソ抽出物2を、正味終濃度0.3%となるように0.9%塩化ナトリウム水溶液に添加した溶液
膀胱内投与液の持続注入(流速5mL/時間)開始から1200秒以上経過後1300秒のデータについて、排尿間隔、排尿1回あたりの排尿量、及び排尿時の膀胱の最大収縮圧を算出した。その結果をそれぞれ
図1、
図2、
図3に示した。群間の統計学的有意差については、SHR(−)群に対するt検定(両側検定)を行った。
【0053】
図1及び
図2の結果から、SHR(−)群は、WKY群と比較して1回あたりの排尿量が少なく、排尿間隔も短かった。これに対して、シソ抽出物を膀胱内投与したSHR(シソ)群は、SHR(−)群と比較して、1回あたりの排尿量が増加し、排尿間隔も長かった。一方、
図3の結果から明らかなように、排尿時の膀胱の最大収縮圧については、群間に差が見られなかった。
以上の結果は、シソ抽出物を投与することにより排尿時の膀胱の収縮圧に影響を与えることなく過活動膀胱モデルラットの頻尿を改善したことを示すもので、シソ抽出物が過活動膀胱の予防及び改善に有効であることが明らかとなった。さらに、膀胱に投与した際に改善効果が認められたことから、シソ抽出物の作用点が膀胱であることが分かる。
【0054】
試験例4 シソ抽出物の経口投与による過活動膀胱モデルラットへの影響
試験には、SHR及びWKY(38〜44週齢、雌、日本SLC社より入手)を使用した。SHR(−)群及びWKY群には、コントロール食(5%脂質、20%カゼイン、66.5%ポテトスターチ、4%セルロース、1%ビタミン(商品名:ビタミン混合AIN−76、オリエンタルバイオサービス社より入手))、3.5%ミネラル(商品名:ミネラル混合AIN−76、オリエンタルバイオサービス社より入手))を、SHR(シソ)群には、シソ抽出物を含むシソ食(5%脂質、20%カゼイン、66%ポテトスターチ、4%セルロース、1%ビタミン、3.5%ミネラル、0.5%シソ抽出物)をそれぞれ2週間与え、3週目に試験に供した。なお、シソ抽出物は製造例2で製造したシソ抽出物2を使用した。
【0055】
前記ラットをペントバルビタール麻酔後、カテーテルの先端を膀胱に挿入し、他方の先端は皮下を通して頭頂部の体外に導き栓をした。その2日後に、ラットをボールマンケージに保定し、頭頂部のカテーテルに三方活栓を介してシリンジポンプを接続し、0.9%塩化ナトリウム水溶液を流速5mL/時間にて膀胱に持続注入した。同時に三方活栓に接続した圧トランスデューサーにより膀胱内圧、ボールマンケージ下の電子天秤により尿を回収して1回あたりの排尿量を測定した。
試験溶液流速5mL/時間の持続注入開始から1800秒以上経過後1800秒のデータについて、排尿間隔、排尿1回あたりの排尿量、及び排尿時の膀胱の最大収縮圧を算出した。その結果をそれぞれ
図4、
図5、
図6に示した。群間の統計学的有意差については、SHR(−)群に対するt検定(両側検定)を行った。
【0056】
図4及び
図5の結果から、SHR(−)群は、WKY群と比較して1回あたりの排尿量が少なく、排尿間隔も短かった。これに対して、シソ抽出物を摂取したSHR(シソ)群は、コントロール食を摂取したSHR(−)群と比較して、1回あたりの排尿量が増加し、排尿間隔も長かった。一方、
図6の結果から明らかなように、排尿時の膀胱の最大収縮圧については、群間に差が見られなかった。
以上の結果は、膀胱内投与したときと同様、経口投与した場合においてもシソ抽出物が排尿時の膀胱の収縮圧に影響を与えることなく過活動膀胱モデルラットの頻尿を改善したことを示しており、シソ抽出物が過活動膀胱の予防及び改善に有効であることが明らかとなった。