特許第5940355号(P5940355)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940355
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】p型窒化物半導体層の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20160616BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   H01L21/205
   C23C16/34
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-96090(P2012-96090)
(22)【出願日】2012年4月19日
(65)【公開番号】特開2013-225543(P2013-225543A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2014年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】507194969
【氏名又は名称】ソウル セミコンダクター カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】川西 英雄
【審査官】 小川 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−228489(JP,A)
【文献】 特開2003−069156(JP,A)
【文献】 特開2002−075879(JP,A)
【文献】 特開2011−023541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族原料を所定時間T1の間供給し、
前記III族原料の供給開始後、所定時間t1経過後に、炭素源物質及びマグネシウム源物質を含有するV族原料を所定時間T2(但し、t1+T2>T1)の間供給し、
前記V族原料の供給開始後、所定時間t2(但し、t1+T2−t2>T1)経過後に、前記のIII族原料ガスを供給する工程及び前記V族原料を供給する工程を繰り返し、
化学気相成長法又は真空蒸着法を用いて、1190℃〜1370℃の成長温度及び前記基板温度が1070℃〜1250℃となる成長温度において、AlxGa1-xN半導体層(0<x≦1)を形成することを含み、
前記半導体層中の窒素のサイトに炭素をドーピングすることを特徴とする、
p型窒化物半導体層の製造方法。
【請求項2】
前記単結晶基板は、主面が(0001)C面に対して±0.1%の範囲のオフセット角を有しているサファイヤ基板であることを特徴とする請求項1に記載のp型窒化物半導体層の製造方法。
【請求項3】
前記炭素源物質は四臭化炭素であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のp型窒化物半導体層の製造方法。
【請求項4】
アルミニウムの含有量は5モル%〜100モル%であることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載のp型窒化物半導体層の製造方法。
【請求項5】
前記III族原料の供給時間T1と前記V族原料ガスの供給時間T2との間にオーバーラップを設定せず、前記III族原料の供給時間T1と前記V族原料の供給時間T2との間のインターバルを0秒以上2秒以下に設定することを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載のp型窒化物半導体層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素をドープしたp型の窒化物半導体層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
p型AlGaNにおける電気伝導性の制御は、科学技術的な観点から極めて困難な問題である。マグネシウム(Mg)は、GaN及びAlGaN用の唯一のp型不純物(p−type dopant)である。しかし、Mgのアクセプタとしてのエネルギー準位は、GaNにおいて約230mV(実験値)であり、AlGaNにおけるエネルギー準位よりも深い。従って、MgがドープされたAlGaN(Mg−ドープのAlGaN)の電気伝導度は極めて低いため、発光ダイオード(LED)やレーザダイオード等の光学素子に適用することができない。
【0003】
例えば、アルミニウムの組成の増加とともに、マグネシウム(Mg)のエネルギー準位が深くなり、そのために、Mgの活性化率が1%以下となり、AlGaNのホール濃度が極端に小さくなり、この層の電気抵抗が高くなる。そのために、Mgを多く添加するが、2×1020cm−3以上の添加量になると、Mgが偏折を発生させ、結晶品質が極端に低下するので、Mgをこれ以上は添加できない。このため、MgがドープされたAlGaNを用いたLEDや電力制御用電子デバイスや半導体レーザの実現が困難であった。
【0004】
また、Mgは熱拡散が激しく、Mgを添加したp型層の上にn型層を作製するもMgが欠陥に沿って熱拡散しn型層が実現できないのでnpn或いはpnpバイポーラ型トランジスターは実現不可能である。そのため、電気自動車・ハイブリッド車の制御用パワーデバイス実現の大きなネックとなっていた。
【0005】
特許文献1には、c軸方向に延びる基準軸に直交する基準平面に対して有限の角度をなす主面を有するIII族窒化物半導体から成る支持体を用いて、前記支持体の前記主面上に、2×1016cm−3以上の炭素濃度を有するp型窒化ガリウム系半導体層を形成することによって、窒化ガリウム系半導体において炭素をp型ドーパントとして安定に利用する技術が開示されている、
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−23541
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記特許文献1に開示された炭素の利用方法では、窒化ガリウム系半導体層のp型化を十分に安定的に行うことができなかった。
【0008】
また、p型の伝導性(p−type conductivity)は、C−ドープされた六方晶系(hexagonal)のGaN(1−101)面及びGaNの他の最表面において実験によって示されている。
【0009】
しかし、GaNにおける炭素のアクセプタに関する実験及び理論的な議論は、C−ドープのGaNにおけるp型の伝導性の達成に至らなかった。
【0010】
本発明の目的は、このような事情を鑑みて為されたものであって、再現性が高く且つ生産性を向上した炭素ドープのp型窒化ガリウム系半導体層等のp型窒化物半導体層の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するため、以下の構成を要旨とする。
すなわち、本発明のp型窒化物半導体層の製造方法は、III族原料を所定時間Tの間供給し、前記III族原料の供給開始後、所定時間t経過後に、炭素源物質を含有するV族原料を所定時間T(但し、t+T>T)の間供給し、前記V族原料の供給開始後、所定時間t(但し、t+T−t>T)経過後に、前記のIII族原料を供給する工程及び前記V族原料を供給する工程を繰り返し、化学気相成長法又は真空蒸着法を用いて、1190℃〜1370℃の成長温度又は前記基板温度が1070℃〜1250℃となる成長温度において、AlGa1−xN半導体層(0<x<1)を形成することを含み、前記半導体層中の窒素のサイトに炭素をドーピングすることを特徴としている。
【0012】
また、本発明のp型窒化物半導体層の製造方法は、前記構成において、前記半導体層が形成される単結晶基板が、主面が(0001)C面に対して±0.1%の範囲のオフセット角を有しているサファイヤ基板であることを特徴としている。
【0013】
また、本発明のp型窒化物半導体層の製造方法は、前記構成において、前記炭素源物質が四臭化炭素であることを特徴としている。
【0014】
また、本発明のp型窒化物半導体層の製造方法は、前記構成において、前記V族原料が、マグネシウム源物質を含有していることを特徴としている。
【0015】
また、本発明のp型窒化物半導体層の製造方法は、前記構成において、アルミニウムの含有量は5モル%〜100モル%であることを特徴としている。
【0016】
また、本発明のp型窒化物半導体層の製造方法は、前記構成において、前記III族原料の供給時間Tと前記V族原料の供給時間Tとの間にオーバーラップ時間を設定せず、前記III族原料の供給時間Tと前記V族原料の供給時間Tとの間のインターバルを0秒以上2秒以下に設定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
このようにして、本発明に係るp型窒化物半導体層の製造方法によって製造されたp型窒化物半導体層は、炭素が安定的にドーピングされているので、本発明は、生産性を向上させた炭素ドープのp型AlGaN等のp型窒化ガリウム系半導体層の製造方法を提供することができる。
【0018】
本発明によれば、大電流を流すパワーデバイスでも抵抗の低いp型層が実現可能であるので、より高性能な窒化物系電力制御用デバイスを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態による単結晶基板上へのp型AlGaN半導体層の結晶成長ステップを模式的に示す工程図である。
図2】本発明の実施の形態による単結晶基板上へのp型AlGaN半導体層の結晶成長において、p型AlGaN半導体層の成長前後における成長元素の供給タイミングに関するシーケンス図である。
図3】(a)は、Al固相比8%のアンドープのAlGaNから得られた低温発光(PL)スペクトルであって、(b)は、Al固相比9%のC−ドープのAlGaNから得られた低温発光(PL)スペクトルである。
図4】(a)及び(b)は、炭素ドープされたAl0.1Ga0.9Nについて、CBrの流量への自由電子密度の依存性を示すグラフである。
図5】(a)及び(b)は、Al固相比55%のC−ドープのAlGaNのNIADの深さプロファイルを示すグラフであって、(a)はC及びMgが同時にドーピングされたAlGaN半導体層に関し、(b)はCのみがドーピングされたAlGaN半導体層に関する。
図6】(a)は、Al固相比10%のAlGaNの炭素ドーピングの特性であって、(b)は、Al固相比55%のAlGaNの炭素ドーピングの特性である。
図7】(a)及び(b)は、Mg−ドープのGaN(層厚0.08μm)/C−ドープのAlGaN(層厚0.1μm)/アンドープのGaN(層厚10nm)/Si−ドープのAlGaN(3〜4μmの層厚)からなるダブルヘテロ構造のLEDサンプルのSIMS解析である。
図8】炭素アクセプタの電気活性化率のAl固相比への依存性を示すグラフである。
図9】室温における炭素及びマグネシウムアクセプタの実験的な電気活性化率を用いて、Al0.27Ga0.73Nにおける炭素アクセプタ及びGaNにおけるMgアクセプタの活性化エネルギーを評価したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の製造方法において、p型AlGaN半導体層等のp型窒化物半導体層は、有機金属気相成長法(MOCVD)、プラズマ化学気相成長法(PECVD)、低圧化学気相成長法(LPCVD)等の化学気相成長法(CVD)、或いは分子線エピタキシー法(MBE)等の真空蒸着法等の堆積技法を使用して形成することができる。
【0021】
本発明のp型窒化物半導体層の製造方法の一実施形態として、MOCVDを用いる場合について図面を参照して説明する。
まず、洗浄した単結晶基板1を準備した後に、MOVPE装置内にセットする(図1(a))。尚、使用するMOVPE装置は、公知のものを使用することができる。前記の基板1として、主面が(0001)C面に対して±0.1%の範囲のオフセット角を有している単結晶基板が用いられる。また、単結晶基板として、サファイヤ基板を用いることが最も好ましい。
【0022】
次に、前記MOVPE装置内に、III族原料ガスを所定時間Tの間供給し(図1(b))、前記III族原料ガスの供給開始後、所定時間t経過後に、炭素源物質を含有するV族原料ガスを所定時間T(但し、t+T>T)の間供給する(図1(c))。更に、前記V族原料ガスの供給開始後、所定時間t(但し、t+T−t>T)経過後に、前記のIII族原料ガスを供給する工程及び前記V族原料ガスを再び供給する。尚、前記のIII族原料ガス及びV族原料ガスのキャリアガスは、水素ガス等の公知のガスを使用することができる。
【0023】
前記III族原料ガスの供給工程と、前記V族原料ガスの供給工程は、AlGa1−xN半導体層(0<x≦1)におけるアルミニウムの含有量が5モル%〜100モル%となり、且つ、正味の最大のイオン化されたアクセプタ密度(NIAD=(N−N))が、静電容量電圧測定(capacitance−voltage measurement)によって、3〜7×1018cm−3の範囲になるまで行うことが好ましい。
【0024】
前記V族原料ガスに混合される炭素源物質として、四臭化炭素(CBr)を用いることが好ましい。一方、アセチレンは反応性が高く、危険であるので、炭素源物質としての使用は好ましくない。また、四塩化炭素はエッチング作用があるため、その流量を多くすると、結晶成長速度が極端に低下して、半導体層が形成されなくなるため、炭素源物質としての使用は好ましくない。尚、四臭化炭素もエッチング作用があるが、塩素に比べ臭素は原子番号が大きいことにより、同じハロゲン化物であるが化学反応力が若干緩やかであるので、炭素源物質としての使用が好ましい。
【0025】
前記V族原料ガスの成分として、アンモニアガスを用いる場合、アンモニア気体分子からの窒素原子の解離率は、p型AlGaN半導体層の成長温度に密接に関係しており、1190℃〜1370℃の成長温度又は基板温度が1070℃〜1250℃となる成長温度において、前記のIII族原料ガス及びV族原料ガスを供給することが好ましい。また、成膜されるp型AlGaN半導体層の最適の成長温度は、前記p型AlGaN半導体層に含有されるアルミニウムのモル%に依存して変化する。例えば、アルミニウムの含有量が数%〜25モル%のAlGaNの場合、1190℃〜1230℃が最適な成長温度である。しかし、成膜されるAlGaNに含有されるアルミニウムのモル%を引き上げる場合、結晶品質とドーピング特性の観点から高温で成長する必要があるので、その最適な成膜温度は1190℃〜1370℃に設定することが好ましい。
【0026】
また、前記V族原料ガスの成分には、マグネシウム源物質を混合することが好ましく、その量は、炭素源物質からなるガスの分圧の1/100倍〜100倍程度であり、炭素及びマグネシウムを含むNIADが、前記の静電容量電圧測定によって、3〜7×1018cm−3の範囲になるまで行うことが最も好ましい。前記V族原料ガスに含有された炭素及びマグネシウム原子が、p型AlGaN半導体層の成長時にAlGaN結晶中の窒素原子のサイトにドーピングされることによって、炭素のドーピングを安定的に行うことができるからである。
【0027】
前記III族原料ガスを所定時間供給する工程と、前記V族原料ガスを所定時間供給する工程とを、所定のオーバーラップ時間若しくはインターバル時間(I、I)を設けて繰り返し行うことによって、炭素がドーピングされたp型AlGaN半導体層が形成される。ここで、図2に示すように、前記III族原料ガスの供給時間Tと前記V族原料ガスの供給時間Tとの間にオーバーラップを設定せず、前記III族原料ガスの供給時間Tと前記V族原料ガスの供給時間Tとの間のインターバルを0秒以上2秒以下に設定することが好ましい。前記インターバル期間を前記III族原料ガスの供給時間Tと前記V族原料ガスの供給時間Tとの間に設定することによって、AlGaN結晶中の窒素原子のサイトへの炭素原子のドーピングを安定的に行うことができるからである。但し、インターバル期間が2秒を超えるように設定されると、作製されたp型AlGaN結晶層のヘテロ構造の界面が荒れるので、好ましくない。
【実施例】
【0028】
(本発明の方法によるp型AlGaN半導体層の成長)
GaN及びAlGaN層は、従来の減圧有機金属気相エピタキシー(LP−MOVPE)法により、サファイヤ基板の(0001)面上に成長させた。成長圧力及び成長温度は、それぞれ40hPa及び1180℃であった。Ga、Al、C及びNの原料として、それぞれ、TMGa、TMAl、CBr及びNHを用いた。尚、エピタキシャル成長条件は、次の通りである。
成長時設定温度 1190℃〜1370℃
基板表面温度 1070℃〜1250℃
成長時の原料ガス圧 40〜200hPa
V/III比(モル比/分圧の比) 約200〜600
四塩化炭素の供給量 7×10−8mol/min〜1.7×10−5mol/min
シクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)の供給量 1.3×10−7mol/min〜1.6×10−7mol/min
III族原料ガス(トリメルチルガリウム(TMG)及びトリメチルアルミニウム(TMAl))の供給量 5×10−5mol/min
【0029】
尚、III族原料ガス及びV族原料ガスのそれぞれの供給回数及びIII族原料ガスの供給時間T及びV族原料ガスの供給時間Tは、前記T及びT間のインターバルが0〜1秒になる条件下で、p型AlGaN半導体層の所望の膜厚が得られるように適宜調整した。
【0030】
サンプルの構造は、次の通りである。単一のC−ドープAlGaN(層厚1μm)は、ファン デル ポウ法ホール効果測定のために、アンドープのAlGaN(層厚2〜4μm)のテンプレート(template)上に成長された。一方、厚い層厚のn型GaN又はAlGaN(層厚2〜4μm)のテンプレートは、高温のアンドープAIN層(層厚数nm)上に成長された。次いで、静電容量−電圧(C−V)測定、SIMS分析及びI−V特性測定のために、アンドープのGaN活性層(層厚10〜15nm)及びC−ドープのAlGaN(層厚0.1〜1.5μm)が、前記n型GaN又はAlGaNのテンプレート上に連続的に成長された。オーミック接触層として、薄いMg−ドープのGaNキャップ層(10nmの層厚)が、C−V測定及びLEDの作製のために、前記のC−ドープのAlGaN層上に成長された。
【0031】
(本発明の方法によるp型AlGaN半導体層の結晶の品質)
前記の作製されたC−ドープAlGaNサンプルの結晶品質は、(0002)面及び(10−12)面の反射を用いた、X線ロッキングカーブの分析によって評価された。次いで、X線ロッキングカーブの分析の結果は、[1−100]方向に沿った入射電子ビームを用いた(000)及び(0002)の回折スポット及び(1020)面について、透過型電子顕微鏡分析データによって測定された。X線ロッキングカーブの分析によると、(0002)面のωスキャン及び(10−12)面のφスキャンに関する半値全幅(FWHM)は、それぞれ、120〜150及び300〜350arcsec付近であった。このことは、前記C−ドープp型AlGaN層において、らせん状転移(screw−type dislocation)及び混合転移(mixed−type dislocation)からなる転移の密度と、混合転移及び刃状転移(edge−type dislocation)の密度は、それぞれ2〜5×10cm−3及び7×108cm−3〜2×109cm−3になると評価された。X線ロッキングカーブの分析によって、C−ドープのAlGaNの結晶品質は、同じ成長条件及び同じ層構造によってc面サファイヤ基板上に成長されたアンドープのAlGaNに極めて類似していることが示された。
【0032】
(C−ドープのAlGaNの光学特性)
発光特性における炭素の効果を明確にするともに、C−ドープのAlGaNの(0001)面における炭素アクセプタに関係するエネルギー準位を見出す目的で、C−ドープのAlGaN及びアンドープのAlGaNを、光学特性に関して比較した。
【0033】
図3(a)は、アルミニウムの固相比(以下、「Al固相比」ともいう。)が8%のアンドープのAlGaNから得られた低温発光(PL)スペクトルであって、1つの主な(最大の)放射及び3つの弱い放射がそれぞれE=3.685eV、E=3.650、E=3.598eV及びE=3.498eVにあることが測定された。(b)は、9%のAl固相比を有するC−ドープのAlGaNであって、1つの主な(最大の)放射、1つの2番目に大きい放射(「サブピークの放射」ともいう。)及び弱い放射がそれぞれE=3.739eV、E=3.710及びE=3.570eVにあることが測定された。
【0034】
図3(a)及び(b)は、METROLUX社製 ML−2100−S型の光学減衰器で193nmにおけるパルス化されたエキシマレーザの励起を用いて、弱くパルス化された励起において、19K(ケルビン)における略8〜9%のAl固相比を有するアンドープのAlGaN層及びC−ドープのAlGaN層から得られたフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを示す。
【0035】
主な発光、すなわち、最大のピークは、E=3.685eVに現れており、図3(a)に示されるように、アンドープのAlGaNからのバンド端発光(band edge−emission)に関係する。これと比較して、1つの主な放射及び3つの弱い放射がそれぞれE=3.685eV、E=3.650、E=3.598eV及びE=3.498eVにあることが測定された。1つの主な放射及び3つの弱い放射との間の計算されたフォトンエネルギの差は、それぞれ(E−E)=35meV、(E−E)=87meV、(E−E)=187meVである。
【0036】
本発明者は、図3(b)に示されるC−ドープのAlGaNからPL発光におけるスペクトルの拡がりを観測した。各発光のフォトンエネルギは注意深く測定され、最大のピークの放射は、E=3.739eVであって、C−ドープのAlGaNからのバンド端放射に関係するが、Al組成が異なる図3(a)のサンプルとはほとんど関係しない。前記最大のピークの近傍において観測された2番目に大きい放射、すなわち、サブピークの放射は、E=3.710である。そして、弱い放射は、E=3.570eVにあることが測定された。
【0037】
におけるサブピーク及びEにおける弱い放射の放射強度は、CBrの流量に強く依存する。 それ故、本発明者は、これらの2つの放射がC−ドープのAlGaNにおける炭素アクセプタに関係すると結論付けた。
【0038】
最大ピークの放射及びサブピーク又は弱い放射とのフォトンエネルギの差は、それぞれ(E−E)=29meV、(E−E)=169meVである。
【0039】
本発明者は、自由励起子(free exciton)及び束縛励起子(bounded exciton)を考慮することによって、フォトンエネルギの差について更に深く分析するとともに議論する必要がある。しかし、アンドープのAlGaNからのE及びEとC−ドープのAlGaNからのE及びEは、アンドープ及びC−ドープのAlGaNにおける炭素アクセプタから生じている。本発明者は、浅いアクセプタレベル及び深いアクセプタレベルについて、それぞれ、29−35meV及び169−187meVの炭素アクセプタの2つのエネルギー準位であると推定した。前記の浅いアクセプタエネルギー準位(E−E)=29meVは、高いホール密度を有するC−ドープのAlGaNのp型の伝導性に関して重要な役割を果たすと考えられる。
【0040】
(ホール効果測定)
10%のAl固相比を有するAlGaNのホール効果の測定は、次の簡単な構造を用いて行われた。
【0041】
単一のC−ドープAlGaN層(層厚1μm)は、マグネシウムがドープされた(Mg−ドープの)GaNキャップ層を有さないアンドープのAlGaN(層厚2〜4μm)のテンプレート上に成長された。そのため、ファン デル ポウ幾何ホール効果測定のために、Al固相比が10%まで、GaN及びAlGaNの場合において、Mg−ドープのp型のGaNキャップ層が形成されていない。
【0042】
本発明者は、第1に、GaN(0001)面への炭素ドーピングを試みたが、p型の伝導性は実現されなかった。本発明者による実験結果は、少量のアルミニウムがAlGaNのp型の伝導性に重要な役割を果たし、アルミニウムはAlGaNの(0001)面のp型の伝導性に必要であることを強力に示唆している。一方、本発明者は、実験的に、C−ドープのAlGaNにおいてp型伝導性を実現した。アンドープのAlGaN層の(0001)面は全てn型であって、バックグランドの自由電子密度(background free electron dendity)は3〜9×1015cm−3であった。一般的に、これらのサンプルのホール移動度は、室温において20〜80cm/V・sの範囲内であった。
【0043】
図4(a)及び(b)は、炭素ドープされたAl0.1Ga0.9Nについて、CBrの流量への自由電子密度の依存性を示すグラフであって、ファン デル ポウ幾何ホール効果測定によって得られたものである。白丸及び黒丸のデータは、それぞれ、Al0.1Ga0.9Nのn型(自由電子密度)及びp型(自由ホール密度)の伝導性を示す。
【0044】
本発明者は、CBrの流量が0.06〜0.3μmol/minにおいて、n≒3×1014cm−3から9×1015cm−3の範囲において自由電子密度を有するC−ドープのAlGaNのn型の電気伝導性を観測した。
【0045】
CBrの流量が0.7μmol/minにおいて、自由電子密度は、n≒5×1014cm−3に減少した。そして、CBrの流量が約3μmol/min以上になると、電気伝導性は、n型からp型に変化して、CBrの流量の増加に伴って、自由ホール密度は、p≒4×1013cm−3から3×1018cm−3に急激に増加した。自由ホール密度の最大値は、CBrの流量が5μmol/minの時に得られたp≒3.2×1018cm−3であって、シートキャリア密度が7.5×1014cm−2に相当する。
【0046】
尚、この場合における2.3μmの層厚のC−ドープのAlGaN単一層の電気伝導度、シート抵抗及び電子移動度は、室温下において、20ohm・cm、8.6×10ohm/cm、0.4cm/V・sであった。p型領域におけるC−ドープのAlGaNのホール移動度は、室温において0.4〜20cm/V・sに変化した。
【0047】
(C−V測定)
NIAD=(N−N)(N及びNは、それぞれイオン化されたアクセプタ及びドナー密度)で定義される前記NIADを測定するため、ECV−Pro型のナノメータC−Vシステムを用いて、C−ドープのAlGaNについて、室温下にてC−V測定を行った。尚、使用された電解質のKOH濃度は0.001〜0.005mol%であり、遠紫外線は185〜2000nmの波長光源を有する水銀−キセノンランプから得た。一方、アクセプタN及びドナーNの原子密度は、SIMS解析によって独立して測定された。C−V測定は、C−ドープのAlGaNのp型伝導性の特性を明らかにすることができる。
【0048】
図5(a)は、Mg−ドープのGaN(層厚0.08μm)/C−ドープのAlGaN(アルミニウムのモル濃度55%、層厚1.0μm)/SiドープのAlGaN(x=0.55(アルミニウムのモル濃度55%)、層厚2〜4μm)からなるサンプルの構造をC−V測定することによって得られたNIADの深さプロファイルを示す。図5(a)のAlGaN半導体層は、炭素(C)及びマグネシウム(Mg)を同時にドーピングすることによって作製されたものである。一方、図5(b)の測定対象のAlGaN半導体層はCのみがドープされたものである。すなわち、図5(b)は、GaN(層厚0.08μm)/C−ドープのAlGaN(アルミニウムのモル濃度55%、層厚1.0μm)/SiドープのAlGaN(x=0.55(アルミニウムのモル濃度55%)、層厚2〜4μm)からなるサンプルの構造をC−V測定することによって得られたNIADの深さプロファイルを示す。図5(a)及び図5(b)を比較すると分かるように、Mg−ドープのp型GaNは、炭素の高い含有量及び低い含有量を有するC−V測定サンプルにおける「表面状態」の効果を減少することによって、信頼でき且つ安定したC−V測定を得るために重要である。
【0049】
Al=0.55のC−ドープのAlGaN半導体層に関する電気伝導性は、p型であって、そのNIDAは、図5(a)に示されるように0.18μmから1.2μmの深さに関して6〜7×1018cm−3の状態のままであった。一方、Mg−ドープされたGaNのNIDAは、わずかに低く、5×1018cm−3であった。これに対して、炭素のみがドーピングされたAlGaN半導体層は、図5(b)に示されるように、約0.09μmから約0.54μの深さにおいてNIDA値が約1×1017cm−3〜約2×1018cm−3の間でばらついているだけで無く、p型及びn型が混在している不安定な状態である。
【0050】
図6(a)及び(b)は、Al固相比がそれぞれ10%及び55%のAlGaNのC−ドープ特性を要約したグラフである。図6(a)及び(b)に示されるように、CBrの流量を変えることによって、NIADは、3×1016cm−3から3×1018cm−3の間で容易に制御することができる。
【0051】
最大のNIADは(6〜7)×1018cm−3であって、図5(a)に示されるように、Al固相比が55%のAlGaNについて得られた。しかしながら、同じNIAD(例えば、1×1018cm−3)を得ることができるCBrの流量は、10%のアルミニウムを有するAlGaNと55%のアルミニウムを有するAlGaNでは、異なる。
すなわち、本発明者の実験は、Al固相比が小さいAlGaNは、同じNIADを得るために、CBrの大きい流量を要求する。
【0052】
この結果は、p型の伝導性がC−ドープのGaNにおいて実現されないが、C−ドープのAlGaNにおいて実現されるという事実を反映していると推測される。実際に、AlGaNにおけるC−ドープの実験結果によると、20%近傍のアルミニウムを有するAlGaNの場合において、CBrの最も小さい流量において、例えば、同じNIADの値1×1018cm−3が得られている。この結果も、AlGaNにおける炭素及びアルミニウム原子の間の関係を反映している。
【0053】
SIMS解析によって、炭素ドーピングに関する更なる重要な情報が得られた。図7(a)及び(b)は、は、Mg−ドープのGaN(層厚0.08μm)/C−ドープのAlGaN(アルミニウムのモル濃度=27%;層厚0.11μm)/アンドープのGaN(層厚15nm)/Si−ドープのAlGaN(アルミニウムのモル濃度=10%;層厚3μm)からなるダブルヘテロ構造のSIMS解析の結果を示す。キャップGaN層のMg濃度は、他のSIMS解析から5×1019cm−3になることが測定された。アルミニウム及びガリウムの2次的なイオン強度は、参考のために示されている。
【0054】
C−ドープのAlGaN層における炭素濃度をSIMS解析することによって、炭素ドーピングに関する重要な情報が得られた。図7(a)及び(b)は、炭素の供給材料源であるCBrの流量を変化させることによって、AlGaN層への炭素のドーピング量を変えて作製した試料のSIMS解析結果を示す。図7(a)及び(b)に見られるように、CBrの流量を変えることによって、炭素濃度はそれぞれ(4〜5)×1018cm−3及び(0.9〜1)×1018cm−3と変化しており、炭素のドーピング量を制御できることが分かる。尚、本発明者の実験では、ドーピングされた炭素濃度は、最大で7.3×1018cm−3にすることも可能である。SIMS解析の開始前に、そのシステムは、炭素イオンが注入されたAlGaNサンプルを用いて標準的な手法によって炭素の分析が行えるように注意深く調整された。尚、前記のAlGaNサンプルは、前記SIMS解析において用いられたものと同じAl固相比を有するものであって、イオン注入用のAlGaNサンプルは、同じ成長条件下で成長させた。
【0055】
(AlGaNにおける炭素アクセプタの電気的な活性)
図7(a)及び(b)は、を得るために使用されたサンプルに関して、p型AlGaN(Al=27%)における炭素アクセプタのNIDAは、5×1018cm−3であった。そのため、AlGaNにおける炭素アクセプタの電気活性化率は、前述したように、SIMS解析から測定された炭素濃度及びNIDAを使用して、このサンプルについては約68%であると評価された。
【0056】
本発明者は、他の幾つかのサンプルを使用して、炭素アクセプタの電気活性化率も評価した。図8は、炭素アクセプタの電気活性化率のアルミニウムの固相比への依存性を示すグラフであって、電気活性化率は、炭素原子密度(SIMS解析によって測定)及びNIAD(C−V測定によって測定)を用いて55−71%近傍であると評価される。
【0057】
AlGaN(Al=27%)における炭素アクセプタの電気活性化率に関する3つの実験的な結果は、エラーバーとして示されている。本発明者の実験結果によれば、AlGaN(Al=27%)における炭素アクセプタの電気活性化率は、55〜71%の範囲内にあることが見出された。20%のAl固相比における炭素アクセプタの電気活性化率は、図8に示されるように、27%のAl固相比におけるAlGaNに関する電気活性化率に僅かに大きいか或いは略等しいと思われる、これは、AlGaN層において、浅い炭素アクセプタ準位が存在していることを示している。
【0058】
一方、マグネシウムドープされた(Mgドープの)p型GaN層におけるNIADは、図7(a)及び(b)は、を得るために使用されたサンプルについて測定された。Mgアクセプタに関するNIADは、4〜5×1018cm−3であり、Mgドープのp型GaNにおけるMg濃度は、SIMS解析によって5×1019cm−3であることが測定された。従って、GaNにおけるMgアクセプタの電気活性化率は、約8〜10%であると評価された。Mgアクセプタの電気活性化率は、3つのサンプルから求められ、図8に示された0%のAl固相比におけるにおけるエラーバーとしても示される。本発明者の実験結果によれば、Al組成比が20〜27%のAlGaN中の炭素アクセプタの電気活性化率は、GaN中のMgアクセプタの電気活性化率よりも大きい。
【0059】
p型伝導性の由来について更に深い検討を行うためにアクセプタ(N/N)の電気活性化率は、異なる活性化エネルギーEに関する絶対温度の関数として計算されている。
(N/N)=exp{−E/2kT}
但し、k及びTは、それぞれ、ボルツマン定数及び絶対温度である。
【0060】
図9は、室温における炭素及びマグネシウムアクセプタの実験的な電気活性化率を用いて、Al0.27Ga0.73Nにおける炭素アクセプタ及びGaNにおけるMgアクセプタの活性化エネルギーを評価したグラフである。尚、図9において、E=20meVから240meVまでの活性化エネルギーについて、計算された電気活性化率が実線にて示されている。
【0061】
このように、本発明者は、27%のAl組成比を有するAlGaNにおける炭素アクセプタに関する活性化エネルギーは、22〜30meVの範囲内であり、GaNにおけるMgアクセプタに関する活性化エネルギーは、110〜130meVの範囲内であると評価することができる。炭素アクセプタの活性化エネルギーの評価値は、前記のPL発光スペクトルから測定された27%のAl組成比を有するAlGaNにおける炭素アクセプタ準位に近い値である。
【0062】
表1、表2は、前述したエピタキシャル成長条件と同一に基づいて前述のLP−MOVPE法により、サファイヤ基板の(0001)面上に成長させることによって作製されたp型AlGaN半導体層の電気的な特性をまとめた表である。この表から分かるように、アルミニウムの含有量を増加させた場合であっても、本発明によって開示された所定の条件下でAlGaN半導体層に炭素をドーピングすることによって、前記AlGaNの電気伝導性は維持されることが分かる。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
このように、本発明によれば、炭素が安定的にドーピングされているので、本発明は、生産性を向上させた炭素ドープのp型窒化ガリウム系半導体層の製造方法を提供することができる。更に、本発明の製造方法によれば、アルミニウムの含有率を高めたp型窒化物半導体層を製造することができるので、本発明の製造方法によって製造されたp型窒化物半導体層は、高い耐圧特性及び優れた電気特性を有し、深紫外領域まで透明な光学特性と高い電気伝導特性を有する。
【0066】
従って、本発明によれば、大電流を流すパワーデバイスでも抵抗の低いp型層が実現可能であるので、より高性能な窒化物系電力制御用デバイスを実現することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 単結晶基板
2 p型のAlGaN半導体層
図1
図2
図7
図3
図4
図5
図6
図8
図9