特許第5940387号(P5940387)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5940387電気式脱イオン水製造装置および脱イオン水製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940387
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】電気式脱イオン水製造装置および脱イオン水製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/469 20060101AFI20160616BHJP
   B01D 61/46 20060101ALI20160616BHJP
   B01D 61/48 20060101ALI20160616BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20160616BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   C02F1/46 103
   B01D61/46 500
   B01D61/48
   B01D61/02
   B01D61/58
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-137684(P2012-137684)
(22)【出願日】2012年6月19日
(65)【公開番号】特開2014-524(P2014-524A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 慶介
(72)【発明者】
【氏名】池田 菜穂
(72)【発明者】
【氏名】浅川 友二
【審査官】 片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−251266(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/152227(WO,A1)
【文献】 特許第3385553(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44、46
B01D 61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱塩室と、該脱塩室の両隣に設けられた一対の濃縮室と、該一対の濃縮室の一方に対して前記脱塩室の側とは反対側に設けられた陽極と、該一対の濃縮室の他方に対して前記脱塩室の側とは反対側に設けられた陰極とを備え、前記脱塩室が、イオン交換膜によって、前記陽極と前記陰極の間の通電方向に並ぶ第1および第2の小脱塩室の2室に区画され、前記第1および第2の小脱塩室は、被処理水が前記第1の小脱塩室を通過してから前記第2の小脱塩室を通過るように連通され、前記イオン交換膜が、前記脱塩室を前記陰極側の前記第1の小脱塩室と前記陽極側の前記第2の小脱塩室とに区画するアニオン交換膜であるか、または、前記脱塩室を前記陽極側の前記第1の小脱塩室と前記陰極側の前記第2の小脱塩室とに区画するカチオン交換膜である、電気式脱イオン水製造装置において、
アニオン交換膜とカチオン交換膜を貼り合せてなるバイポーラ膜をさらに備え、
該バイポーラ膜が前記イオン交換膜に重ねて設置され、該バイポーラ膜の、前記脱塩室の最下流の出口付近を除いた領域に複数の孔が設けられていることを特徴とする電気式脱イオン水製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気式脱イオン水製造装置であって
記イオン交換膜が前記アニオン交換膜であり、
該アニオン交換膜の前記陰極側の面に前記バイポーラ膜のアニオン交換膜が接するように前記バイポーラ膜が重ねて設置されており、
前記第2の小脱塩室に少なくともアニオン交換体が充填され、前記第1の小脱塩室に少なくともカチオン交換体が充填されていることを特徴とする電気式脱イオン水製造装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電気式脱イオン水製造装置であって
記イオン交換膜が前記カチオン交換膜であり、
該カチオン交換膜の前記陽極側の面に前記バイポーラ膜のカチオン交換膜が接するように前記バイポーラ膜が重ねて設置されており、
前記第1の小脱塩室に少なくともアニオン交換体が充填され、前記第2の小脱塩室に少なくともカチオン交換体が充填されていることを特徴とする電気式脱イオン水製造装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置であって、
前記バイポーラ膜において前記複数の孔が設けられていない領域は、前記第2の小脱塩室の出口側にある前記バイポーラ膜の一端部から、該一端部とは反対の側へ所定の範囲に亘って設けられていることを特徴とする電気式脱イオン水製造装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置であって、
前記第1の小脱塩室と前記第2の小脱塩室とで前記被処理水の流れる方向が同じにされていることを特徴とする電気式脱イオン水製造装置。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置であって、
前記第1の小脱塩室と前記第2の小脱塩室とで前記被処理水の流れる方向が互いに逆向きにされていることを特徴とする電気式脱イオン水製造装置。
【請求項7】
前記脱塩室に流入させる被処理水にはシリカが含まれていることを特徴とする請求項2に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項8】
前記脱塩室に流入させる被処理水は1段RO膜透過水であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項9】
脱塩室と、該脱塩室の両隣に設けられた一対の濃縮室と、該一対の濃縮室の一方に対して前記脱塩室の側とは反対側に設けられた陽極と、該一対の濃縮室の他方に対して前記脱塩室の側とは反対側に設けられた陰極とを備え、前記脱塩室が、イオン交換膜によって、前記陽極と前記陰極の間の通電方向に並ぶ第1および第2の小脱塩室の2室に区画され、前記イオン交換膜が、前記脱塩室を前記陰極側の前記第1の小脱塩室と前記陽極側の前記第2の小脱塩室とに区画するアニオン交換膜であるか、または、前記脱塩室を前記陽極側の前記第1の小脱塩室と前記陰極側の前記第2の小脱塩室とに区画するカチオン交換膜である、電気式脱イオン水製造装置を用意し、被処理水を前記第1の小脱塩室に通過させてから前記第2の小脱塩室に通過させて脱イオン水を製造する脱イオン水製造方法において、
アニオン交換膜とカチオン交換膜を貼り合せてなるバイポーラ膜を前記イオン交換膜に重ねて設置し、該バイポーラ膜の、前記脱塩室の最下流の出口付近を除いた領域に複数の孔を設けておくことを特徴とする脱イオン水製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の脱イオン水製造方法であって、
前記バイポーラ膜において前記複数の孔が設けられていない領域を、前記第2の小脱塩室の出口側にある前記バイポーラ膜の一端部から、該一端部とは反対の側へ所定の範囲に亘って設けておくことを特徴とする脱イオン水製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造分野、医薬品製造分野、原子力や火力等の発電分野、食品工業などの各種の産業、または研究施設で使用される、電気式脱イオン水製造装置および脱イオン水製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脱イオン水を製造する装置として、電気式脱イオン水製造装置(以下、EDIと略称する。)が知られている。一般的なEDIの構成は、脱塩室と、該脱塩室の両側に配置された一対の濃縮室と、一方の濃縮室の外側に配置された陽極室と、他方の濃縮室の外側に配置された陰極室とを有する。脱塩室は、対向配置されたアニオン交換膜およびカチオン交換膜と、それら交換膜の間に充填されたイオン交換体(アニオン交換体及び/又はカチオン交換体)とを有する。
【0003】
上記のように構成されるEDIによって脱イオン水(処理水)を製造するには、陽極室および陰極室にそれぞれ設けられている電極間に直流電圧を印加した状態で脱塩室に被処理水を通水する。被処理水中のイオン成分は脱塩室内のイオン交換体で吸着され、脱イオン化(脱塩)処理が行われる。具体的には、脱塩室ではアニオン交換体によりアニオン成分(Cl-、CO32-、HCO3-、SiO2等)が吸着され、あるいは、カチオン交換体によりカチオン成分(Na+、Ca2+、Mg2+等)が吸着される。脱塩室ではまた、印加電圧によって水の解離反応が起こり、水素イオンと水酸化物イオンが発生する(H2O→H++OH-)。アニオン交換体に吸着されたアニオン成分はその水酸化物イオンと交換されてアニオン交換体から遊離し、カチオン交換体に吸着されたカチオン成分はその水素イオンと交換されてカチオン交換体から遊離する。遊離したアニオン成分(またはカチオン成分)はアニオン交換体(またはカチオン交換体)を伝ってアニオン交換膜(またはカチオン交換膜)まで電気泳動し、その膜で電気透析されて、濃縮室を流れる濃縮水に排出される。
【0004】
以上のように、電気式脱イオン水製造装置では、水素イオンおよび水酸化物イオンが、イオン交換体を再生する再生剤(酸やアルカリ)として連続的に作用する。このため、薬剤による再生は基本的に不要であり、薬剤によるイオン交換体の再生を行わずに連続運転ができるという利点がある。
【0005】
さらに、EDIにおいて、上記した脱塩室をイオン交換膜によって、陽極側の小脱塩室と陰極側の小脱塩室に2分割した構成(以下、脱塩室2室型のEDIと略称する。)が本出願人により提案されている(特許文献1参照)。この構成では、被処理水を一方の小脱塩室に流入させ、該小脱塩室の流出水を他方の小脱塩室に流入させると共に、各濃縮室に濃縮水を流して被処理水の不純物イオンを除去することにより、脱イオン水を得ることが可能になっている。脱塩室2室型のEDIの構成にすると、イオン交換体が充填された脱塩室1つ当たりの濃縮室の数を、上記したEDIの場合の約半分にすることができるため、電極間の電気抵抗を著しく低減できる利点がある。
【0006】
なお、上記した2つの小脱塩室の間を仕切るイオン交換膜は、その他のイオン交換膜と区別するために中間膜と呼ばれている。中間膜には、被処理水の水質や、脱イオン水に求める水質に応じて、アニオン交換膜又はカチオン交換膜の単一膜、あるいは、アニオン交換膜とカチオン交換膜を重ねて貼り合せたバイポーラ膜(以下、BP膜と略称する。)を使用することができる(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3385553号公報(JP)
【特許文献2】特開2009−208946号公報(JP)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した従来の脱塩室2室型のEDIでは、二つの小脱塩室のうち最初に被処理水を通水する第1の小脱塩室(D1)の下流側部から、次に被処理水を通水する第2の小脱塩室(D2)へ中間膜を透過して移動してきた成分が、濃縮室に隣接するイオン交換膜に達する前に、該第2の小脱塩室(D2)の脱イオン水の出口から排出されてしまうことがあった。
【0009】
たとえば図5は、2つの小脱塩室D1,D2に区画する中間膜1としてアニオン交換膜1を用い、第1の小脱塩室D1内にアニオン交換体とカチオン交換体の混床形態(混合イオン交換体2)を充填し、第2の小脱塩室D2内にアニオン交換体3を充填し、小脱塩室D1及びD2における被処理水の流れCを同じ方向(図面の上から下)にした例を示している。CEMはカチオン交換膜、AEMはアニオン交換膜の略である。図5では第2の小脱塩室D2の脱イオン水の出口4から、中間膜1(アニオン交換膜)を透過してきたアニオン成分(Cl-、CO32-、HCO3-、SiO2-等)がリークする様子が矢印Pで示されている。特に、シリカは脱塩室を通過する過程でイオン化されることが多いため、第2の小脱塩室D2の脱イオン水の出口4から漏れ出しやすい。
【0010】
さらに図6は、その中間膜1としてカチオン交換膜を用い、第1の小脱塩室D1内にアニオン交換体とカチオン交換体の混床形態(混合イオン交換体2)を充填し、第2の小脱塩室D2内に前記カチオン交換体8を充填し、小脱塩室D1及びD2における被処理水の流れCを同じ方向(図面の上から下)にした例を示している。図6では第2の小脱塩室D2の脱イオン水の出口4から、中間膜(カチオン交換膜)を透過してきたカチオン成分(Na+、Ca2+、Mg2+等)がリークする様子が矢印Pで示されている。
【0011】
このように、電極側へ電気泳動中のイオンが被処理水の流れに逆らえずに脱塩室の最下流の脱イオン水出口から出てしまうことがあった。このため陽極と陰極の間の印加電流を上げてイオンのリークに対処することが検討されたが、印加電圧を上げて電極間を流れる電流を増やすと中間膜やイオン交換体が劣化するため、増やせる電流値には上限があり、十分にイオンのリークを抑制できない場合があった。
【0012】
他方、BP膜はカチオン交換膜とアニオン交換膜を重ねて接合した膜であるため、カチオン成分もアニオン成分も透過させない。このため中間膜にBP膜を使用することにより、上記したイオンリークの問題を解消することは出来る。たとえば、図5の例に対しては、図7に示すように、中間膜1(アニオン交換膜)の小脱塩室D1側にそのアニオン交換膜が接するようにBP膜5を設置する方法により、小脱塩室D2の脱イオン水出口4からSiO2-等のアニオン成分をリークさせないようにすることが出来る。またBP膜5はカチオン交換膜とアニオン交換膜の接合面において水の解離反応が非常に促進されるので、電極間の印加電圧を低く抑えることも出来る。
【0013】
しかし、この図7から分かるように、BP膜5はイオンを透過させないために小脱塩室D1,D2それぞれで一方向へのイオン除去しか行われない。このため、中間膜にBP膜を用いた脱塩室2室型のEDIは、アニオン交換膜やカチオン交換膜などの単一膜を脱塩室2室型のEDIの中間膜に使用する場合よりも、得られる水質が劣ってしまうという別の課題が生じる。
【0014】
そこで、本発明は上述した課題に鑑み、従来の脱塩室2室型のEDIに対し、電極間の印加電圧を低く抑えながらも高い脱イオン性能を発揮して処理水質を改善できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、脱塩室と、該脱塩室の両隣に設けられた一対の濃縮室と、該一対の濃縮室の一方に対して該脱塩室の側とは反対側に設けられた陽極と、該一対の濃縮室の他方に対して該脱塩室の側とは反対側に設けられた陰極とを備えた電気式脱イオン水製造装置において、該脱塩室が、イオン交換膜によって、該陽極と該陰極での通電方向に並ぶ第1および第2の小脱塩室の2室に区画され、第1および第2の小脱塩室は、被処理水が第1の小脱塩室を通過してから第2の小脱塩室を通過るように連通され、イオン交換膜が、脱塩室を陰極側の第1の小脱塩室と陽極側の第2の小脱塩室とを区画するアニオン交換膜であるか、または、脱塩室を陽極側の第1の小脱塩室と陰極側の第2の小脱塩室とに区画するカチオン交換膜である、装置に係る。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の一態様として、アニオン交換膜とカチオン交換膜を貼り合せてなるバイポーラ膜をさらに備え、該第1および第2の小脱塩室を区画している該イオン交換膜に該バイポーラ膜が重ねて設置されている。そして、該バイポーラ膜の、該脱塩室の最下流の出口付近を除いた領域に複数の孔が設けられている。また本発明の他の態様は、上記した一の態様による構成をとることにより処理水質を改善する方法である。
【0017】
このような形態をとると、第1の小脱塩室に被処理水が通過する過程において、被処理水中のイオン成分は、該第1の小脱塩室の通水方向上流側ではBP膜の複数の孔、及び中間膜を通過して該第2の小脱塩室に浸入するが、該第1の小脱塩室の通水方向下流側ではBP膜の複数の孔が無い領域によって、該第2の小脱塩室へのイオン浸入が阻止される。この結果、脱塩室の最下流の出口であるところの該第2の小脱塩室の脱イオン水出口からは、中間膜を透過してきたイオン成分が漏れ難くなり、脱塩室通過後の脱イオン水の水質を従来技術より向上させることが出来る。また同時に、中間膜に隣接するBP膜において水の解離反応が非常に促進されるため、運転電圧も低く抑えることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来の脱塩室2室型のEDIに対し、電極間の印加電圧を低く抑えながらも高い脱イオン性能を発揮して処理水質を改善することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第一実施形態による脱塩室2室型のEDIの脱塩室の構成を示す断面図。
図2】第一実施形態に使用されたBP膜の平面図。
図3】本発明の第二実施形態による脱塩室2室型のEDIの脱塩室の構成を示す断面図。
図4】本発明を適用する脱塩室2室型のEDIの構成例を示す断面図。
図5】従来技術に関する脱塩室2室型のEDIの脱塩室の構成を示す断面図。
図6】従来技術に関する脱塩室2室型のEDIの脱塩室の構成を示す断面図。
図7】従来技術に関する脱塩室2室型のEDIの脱塩室の構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。ここでは、図5図7を用いて説明した従来構造と同じ構成要素には同じ符号を用いて説明を割愛し、従来構造と異なる要素について主に述べることとする。
【0021】
[第一実施形態]
図1は本発明の第一実施形態による脱塩室2室型のEDIの脱塩室の構成を示す断面図である。脱塩室2室型のEDIでは脱塩室が印加電流方向に並ぶ2室(第1の小脱塩室D1と第2の小脱塩室D2)に区画されており、本実施形態は2室を仕切る中間膜1(イオン交換膜)にアニオン交換膜が設けられている例である。図中にはアニオン交換膜をAEM、カチオン交換膜をCEMと略記している。中間膜1(AEM)の陰極側の面にはBP膜5のアニオン交換膜面が接するようにBP膜が重ねて設置されている。他方、BP膜5のカチオン交換膜面は、第1の小脱塩室D1に充填されている混合イオン交換体(アニオン交換体とカチオン交換体の混床形態)2に接している。第1の小脱塩室D1にはカチオン交換樹脂の単体が充填されていてもよい。第2の小脱塩室D2にはアニオン交換体3が充填されていてもよい。
【0022】
さらに、BP膜5の所定の領域には複数の孔6が設けられている。それらの孔6は中間膜1であるアニオン交換膜には形成されていない。図2には本実施形態のBP膜5の平面図を示した。BP膜5において複数の孔6が設けられていない領域7は脱塩室の最下流の出口4付近に位置する。すなわち、BP膜5において複数の孔6が無い領域7は、第2の小脱塩室D2の出口4側にあるBP膜5の一端部から、該一端部とは反対の側へ所定の範囲に亘って設けられている。
【0023】
このような形態をとると、第1の小脱塩室D1の入口より流入した被処理水が混合イオン交換体2を通る過程において、被処理水中のカチオン成分は負極側に電気泳動してカチオン交換膜を通過し、不図示の濃縮室に排出される。他方、第1の小脱塩室D1の被処理水中のアニオン成分は陽極側に電気泳動する。このとき、当該アニオン成分は、第1の小脱塩室D1の通水方向上流側ではBP膜5の複数の孔6、さらにはアニオン交換膜の中間膜1を通過して第2の小脱塩室D2に浸入するが、第1の小脱塩室D1の通水方向下流側ではBP膜6の複数の孔6が無い領域7によって、第2の小脱塩室D2へのイオン浸入が阻止される。この結果、第2の小脱塩室D2の出口4からは、アニオン交換膜の中間膜1を通過してきたアニオン成分(Cl-、CO32-、HCO3-、SiO2-等)が漏れ出さず、被処理水の水質を従来技術より向上させることが出来る。
【0024】
特に、被処理水に含まれるシリカは通常状態ではイオンになっておらず第1の小脱塩室D1を通過する過程でイオン化されるため、第1の小脱塩室D1の通水方向下流側で多く存在してしまうが、本実施形態によれば、第1の小脱塩室D1の出口付近のシリカイオンはBP膜5の存在により第2の小脱塩室D2へ浸入できないため、第2の小脱塩室D2の出口4からのシリカのリークを防ぐことが出来る。
【0025】
[第二実施形態]
図3は本発明の第二実施形態によるD2EDIの脱塩室の構成を示す断面図である。この形態は、電圧印加方向に並ぶ2室(第1小脱塩室D1と第2小脱塩室D2)を仕切る中間膜1(イオン交換膜)にカチオン交換膜が設けられている例である。図中にはアニオン交換膜をAEM、カチオン交換膜をCEMと略記している。中間膜1(CEM)の陽極側の面にはBP膜5のカチオン交換膜面が接するようにBP膜5が重ねて設置されている。他方、BP膜5のアニオン交換膜面は、第1の小脱塩室D1に充填されている混合イオン交換体2に接している。本実施形態の第2の小脱塩室D1にはカチオン交換体8が充填されている。なお、第1の小脱塩室D1にはアニオン交換体3が充填されていてもよい。
【0026】
さらに、BP膜5の所定の領域には複数の孔6が設けられている。それらの孔6は中間膜1であるカチオン交換膜には形成されていない。BP膜5において複数の孔6が設けられていない領域7は脱塩室の最下流の出口4付近に位置する。すなわち、BP膜5において複数の孔6が無い領域は、第2の小脱塩室D2の出口4側にあるBP膜5の一端部から、該一端部とは反対の側へ所定の範囲に亘って設けられている。複数の孔6の配置は図2と同様である。
【0027】
このような形態をとると、第1の小脱塩室D1の入口より流入した被処理水が混合イオン交換体2を通る過程において、被処理水中のアニオン成分は陽極側に電気泳動してアニオン交換膜を通過し、不図示の濃縮室に排出される。他方、第1の小脱塩室D1の被処理水中のカチオン成分は負極側に電気泳動する。このとき、当該カチオン成分は、第1の小脱塩室D1の通水方向上流側ではBP膜5の複数の孔6、さらにはカチオン交換膜の中間膜1を通過して第2の小脱塩室D2に浸入するが、第1の小脱塩室D1の通水方向下流側ではBP膜5の複数の孔6が無い領域7によって、第2の小脱塩室D2へのイオン浸入が阻止される。この結果、第2の小脱塩室D2の出口4からは、カチオン交換膜の中間膜1を通過してきたカチオン成分(Na+、Ca2+、Mg2+等)が漏れ出さず、被処理水の水質を従来技術より向上させることが出来る。
【0028】
[その他の実施形態]
上記では、脱塩室2室型のEDIの中間膜1にアニオン交換膜を使用する第一の実施形態と、その中間膜1にカチオン交換膜を使用する第二の実施形態を説明した。これらの実施形態の中間膜1には一部に複数の孔6を有するBP膜5が重ねて配置されているが、そのBP膜5における孔6の無い領域は、第2の小脱塩室D2の出口4側にあるBP膜5の一端部から、該一端部とは反対の側へ所定の範囲に亘って設けられている。
【0029】
その孔6の無い領域の範囲が大きくなるほど、第2の小脱塩室D2の出口4からのイオンリークを防ぐことが出来るが、その反面、第1の小脱塩室D1から第2の小脱塩室D2へ透過させることが可能な領域が減って、被処理水に対する脱イオン処理の能率が低下する。このため、BP膜5における孔6の無い領域7の範囲は、被処理水に要求される水質に応じて決定する必要があり、第2の小脱塩室D2の出口4側にあるBP膜5の端部から最大でBP膜5の半分までであることが望ましい。
【0030】
また、上記した各実施形態では、小脱塩室D1,D2それぞれの被処理水の流れCを同じ方向(図面の上から下)にした例を示したが、本発明の技術思想はこのような被処理水の流し方でなくても適用できる。たとえば、第1の小脱塩室D1と第2の小脱塩室D2とで被処理水の通水方向が互いに逆向きであってもよい。この場合、第2の小脱塩室D2の被処理水入口と脱イオン水出口が、上記した各実施形態とは逆の位置になる。この事に伴い、BP膜5における孔6の有る領域と無い領域も反対にする必要がある。例えば図1の形態で言うと、第2の小脱塩室D2の被処理水入口は図面下側に位置し、第2の小脱塩室D2の脱イオン水出口は図面上側に位置し、この事に伴い、BP膜5における孔6の有る領域は図面下側に、その孔6の無い領域は図面上側になる。
【0031】
結局、小脱塩室D1,D2への被処理水の流し方を同じ向きから互いに逆向きに変更した場合においても、BP膜5に設ける複数の孔6を、第2の小脱塩室D2の出口4側にあるBP膜5の端部から所定の範囲には設けないようにすれば、本願の課題であるイオンリークを解消することが出来る。
【0032】
また各実施形態では、中間膜1に隣接配置したBP膜5の一部に開けた複数の孔6は、その一部(領域)に均等に配置されている。仮にBP膜5の一部に一つの大きな孔を開ける構成であると、電流は電気抵抗の相対的に小さい箇所に流れるので、陽極と陰極間の電流密度がバイポーラ膜が設置されている部分に偏り、不均一になりやすい。この電流密度の不均一は脱塩室での被処理水中のイオンに対する電気泳動や電気透析の効率を低下させる。これに比べて、BP膜5の一部に複数の孔6を均等に配置する本願の構成では、陽極と陰極間の印加電流が脱塩室に対しておおむね均等に流れるので、EDIの陽極と陰極間での電気泳動と電気透析を安定して行うことが出来る。
【0033】
また、上記した各実施形態では、中間膜1で2室に区画された脱塩室と該脱塩室の両隣に配置された一対の濃縮室とから構成される脱塩処理部を陰極と陽極の間に1つだけ備えた構成を示したが、この脱塩処理部が2つ以上用意されたEDIについても本願発明に含まれる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の効果について、実施例1といくつかの比較例とで比較して説明する。
【0035】
本実施例に係る脱塩室2室型のEDIは、図4に示すように、脱塩室Dと、該脱塩室Dの両隣に配置された一対の濃縮室C1,C2と、一方の濃縮室C1の外側に配置された陽極室E1と、他方の濃縮室C2の外側に配置された陰極室E2とを有し、該脱塩室Dが、中間膜(イオン交換膜)1によって、陽極と陰極の間の通電方向に並ぶ2つの小脱塩室D1,D2に区画されたものである。なお、図4中にはアニオン交換膜をAEM、カチオン交換膜をCEMと略記している。
【0036】
ここで、図1に示した構造の脱塩室を備えた脱塩室2室型のEDIを実施例1として用意した。
【0037】
実施例1は、脱塩室の中間膜がアニオン交換膜であって、一部に多数の孔を有するBP膜を該中間膜に重ねて配置した例である。
【0038】
さらに、実施例1と比較する比較例1、比較例2、および比較例3を用意した。
【0039】
比較例1は、実施例1に対して、BP膜の全面に亘って多数の孔を設けた例(不図示)である。
【0040】
比較例2は、図5に示した構造の脱塩室を備えた脱塩室2室型のEDI、すなわち、実施例1に対してBP膜を備えていない例である。
【0041】
比較例3は、図7に示した構造の脱塩室を備えた脱塩室2室型のEDI、すなわち、実施例1に対してBP膜に孔を全く設けていない例である。
【0042】
なお、これらの脱塩室に対する被処理水の流し方は同一であり、図1図5図7等に矢印で示すとおり、第1の小脱塩室D1と第2の小脱塩室D2とで被処理水の流れる方向が同じになるようにした。
【0043】
このような実施例1、比較例1、比較例2、比較例3を用いて、本発明の効果を確認した。
【0044】
実施例1および比較例1〜3における脱塩室2室型のEDIの仕様、通水流量、供給水の仕様等は以下の通りである。なお、CERはカチオン交換体(カチオン交換樹脂)、AERはアニオン交換体(アニオン交換樹脂)、MBは混合イオン交換体(カチオン交換体とアニオン交換体の混床形態)の略である。
・陽極室:寸法200×250×5mm CER充填
・陰極室:寸法200×250×5mm AER充填
・第1の小脱塩室D1:寸法200×250×10mm MB充填(混合比率1:1)
・第2の小脱塩室D2:寸法200×250×10mm AER充填
・各濃縮室:200×250×5mm AER充填
・小脱塩室D1,D2における被処理水の流量:50L/h
・濃縮室における濃縮水の流量:20L/h
・陽極室及び陰極室における電極水の流量:10L/h
・小脱塩室への供給水(被処理水):一段RO透過水9〜10μS/cm
・濃縮室への供給水(濃縮水):一段RO透過水9〜10μS/cm
・電極室への供給水(電極水):脱塩室処理水
・小脱塩室への供給水(被処理水)中のシリカ濃度:1mg/L
・印加電流値:2.0A
以上の条件の下で実施例1および比較例1〜3の脱塩室2室型のEDIのそれぞれについて、200時間の連続運転を行い、その後の運転電圧、処理水質(脱塩室通過後の被処理水の比抵抗)、脱塩室通過後の被処理水中のシリカ濃度、を比較した。その結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すとおり、2室に区画する脱塩室の中間膜にBP膜を貼り合せた実施例1、比較例1、および比較例3は、該BP膜を持たない比較例2と比べて、運転電圧を低く抑えられた。また、実施例1と比較例1と比較例2では、脱塩室通過後の被処理水の比抵抗値が18MΩ・cm程度と高く、比較例3と比べて極めて高い水質が得られた。また、脱塩室通過後の被処理水中のシリカ濃度は比較例3では10μg/L未満と非常に低い値を示したのに対し、比較例1と比較例2では30μg/L以上と高い値を示した。
【0047】
これらのことから、実施例1のように脱塩室の中間膜にBP膜を貼り合せ、該BP膜の、第2の小脱塩室D2の出口側の端部から所定の範囲を除いた部分に複数の孔を開けることで、運転電圧を抑えながら、処理水質が向上し、イオンのリーク(本例ではシリカイオンのリーク)も減らせることが確認された。
【0048】
なお、上記した本発明の効果の確認においては、脱塩室2室型のEDIの脱塩室の中間膜にアニオン交換膜を用いたものを例にとったが、該中間膜にカチオン交換膜を使用するもの(図3の構造)でも上記した効果と同じであると考えられる。
【符号の説明】
【0049】
1:中間膜 2:混合イオン交換体 3:アニオン交換体
4:脱塩室の最下流の出口(第2の小脱塩室D2の脱イオン水出口)
5:BP膜 6:孔 7:BP膜における複数の孔が無い領域
8:カチオン交換体
D:脱塩室 D1:第1の小脱塩室 D2:第2の小脱塩室
C1,C2:濃縮室 E1:陽極室 E2:陰極室
AEM:アニオン交換膜 CEM:カチオン交換膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7