(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  前記新たな梁部材および前記作業用ステージに用いられた梁部材の前記構造体への取付時には、いずれか2つの梁部材の間で、クレーンの搬入のための空間が設けられるようにしておき、
  前記クレーンを前記空間から搬入して前記クレーンガーター上に配置する工程をさらに有することを特徴とする請求項2に記載の梁部材の架設方法。
  前記クレーンガーターの前記作業用ステージに接する面、および、前記作業用ステージの前記クレーンガーターに接する面のそれぞれに、摺動材が設けられることを特徴とする請求項2または請求項3のいずれかに記載の梁部材の架設方法。
  前記作業用ステージに用いられた梁部材を前記構造体に取り付ける際は、当該梁部材の端部に滑動部を設けるとともに、前記構造体の外周部の上部に設けた揚重部により前記滑動部と前記構造体とが接した状態で引き上げていくことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の梁部材の架設方法。
【背景技術】
【0002】
  構造体を構築する際、屋根部において梁を架設することがある。しかし、大規模な梁になると、梁の架設時において様々な制約があり、梁の架設が難しいことがある。
【0003】
  例えば、現場においては、周囲に作業スペースがなく梁の組立てを行うスペースがなかったり、また組み立てた梁を持ち上げるための大型クレーンの設置場所が限定され、その揚重能力、可動範囲が限定的なものとなる場合がある。また、大きく重い梁の場合では、設置可能な重機で揚重できる大きさに分割し、仮支持しながら架設しなければならない。さらに、構造体内部で躯体構築が行われている場合では、梁を架設するため構造体内部にベントを設置することも難しい。
【0004】
  一方で、屋根の架構方法としては、作業用ステージの上など適当な箇所で屋根架構を組み立て、これを下部構造体の上で横引き移動させた後、下部構造体上の所定位置に固定するものがある。これにより、屋根架構時の作業性を向上させることができる。
【0005】
  例えば、特許文献1の方法では、予め多数の柱とクレーンガ−ターからなる下部構造フレームを建設しておき、クレーンガーター上に車輪と高さ調整機構を有する箱状フレーム走行体を載置する。そして、この走行体上に鉄骨屋根部材を載置した後ジャッキアップして所定位置まで移動し、その後走行体をジャッキダウンさせて鉄骨屋根部材を下部構造フレームに固定する。
【0006】
  また、特許文献2には、下部構造体の上部桁梁の上に予め走行用プレートを敷き、滑り板を取付けた屋根トラスを走行用プレートと滑り板により滑らせて横引き移動した後、屋根トラスをジャッキアップさせて走行用プレートおよび滑り板を取り除き、屋根トラスのベースプレートを下部構造体の桁梁に固定する方法が記載されている。
【0007】
  さらに、特許文献3には、屋根架構を複数のブロックに分割し、作業ステージで組み立てた屋根架構ブロックを下部構造体の上部に設置した走行レールに沿って順次移動させながら組み立ててゆくスライディング工法において、仮設に使用するステージ上で、鉄骨工事を終了した先行ブロックの内外装の仕上げ工事と、後行ブロックの鉄骨工事を同時進行で行う方法が示されている。
【0008】
  また、特許文献4には、揚重機構によりリフティングを完了した大梁の下面にスライディング部材を取り付け、建物の対向する壁部上に固定されたスライディング軌道上を水平方向にスライディングさせることにより、所望の位置に大梁を正確にセットする方法が記載されている。
【0009】
  加えて、特許文献5には、組み立てられた屋根架構を下部構造体の上を横移動させて所定位置に設置する建方工法を行うに際し、屋根架構のスパン方向両側部における下部に屋根架構移動方向に延在する移動用ビームを設け、下部構造体の上に屋根架構移動方向に所定間隔をおいて設置した転がり支持装置などにより移動用ビームを支持して移動させることが記載されている。
 
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
  このような従来の方法では、屋根架構時の設置と屋根架構後の撤去を要する仮設材を用いている。しかしながら、この仮設材が大規模となったり、部材数が多くなったり、設置と撤去に手間がかかったりする場合があり、これにより工期が長くなる等の問題があった。
【0012】
  本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、屋根架構時の作業性を高め、かつ仮設材を少なくし、撤去等も容易として工期を短縮できる梁部材の架設方法を提供することを目的とする。
 
【課題を解決するための手段】
【0013】
  前述した目的を達成するための
本発明は、構造体の屋根部を構成する梁部材の架設方法であって、梁部材を梁架設位置よりも下方において
作業用ステージの一部として構築する工程と、前記梁部材
を一部として含む作業用ステージ上で、新たな梁部材を構築する工程と、前記新たな梁部材を前記構造体に取り付ける工程と、前記作業用ステージに用いられた梁部材を前記構造体に取り付ける工程と、を有することを特徴とする梁部材の架設方法である。
【0014】
  本発明では、本設の梁部材を用いた作業用ステージを利用して、そこで新たに本設の梁部材の構築を行う。そして、この梁部材を構造体に取り付けるとともに、その後作業用ステージとして利用した梁部材を構造体に取り付けて屋根部を構築する。通常、作業用ステージは仮設のものであり最後に撤去するが、本発明においては、上記のように作業用ステージの一部として本設の梁部材を用いているので、仮設材の量を減らすことができ撤去も容易になり、仮設材の設置、撤去に係る工程が短縮される。
  また、作業用ステージ上で梁部材を構築し、これを取り付けるので、下からのベントを最小限として梁部材の構築および取付ができ、屋根架構と低層階での躯体構築の並行作業が可能となる。さらに、作業用ステージを活用して堅牢な足場上で作業ができるので、墜落防止に役立つとともに飛来物落下による災害も軽減できる。
【0015】
  また、前記構造体は、クレーンガーターを有し、前記作業用ステージが、前記クレーンガーター上を移動可能であることが望ましい。
【0016】
  このように本設のクレーンガーターを利用して作業用ステージを移動させることで、仮設のレール等を別に設けずとも、作業用ステージを移動させることができる。
  作業用ステージを移動可能とすると、例えば梁部材等の構築のため作業クレーンを別に設置する場合に、該作業クレーンの届く範囲で構築した梁部材を該範囲の外に移動させて別の位置に取り付けたり、作業用ステージを作業クレーンの届く範囲まで移動させその上で梁部材の構築と取付を行うことができる。従って、構造体の周囲にスペースがない場合に作業クレーンの数を減らしたり、作業クレーンの揚重能力、可動範囲が限定的なものであっても容易に施工ができ、前記のような作業用ステージの構成と相まって、作業性をさらに高めることができる。
【0017】
  前記新たな梁部材および前記作業用ステージに用いられた梁部材の前記構造体への取付時には、いずれか2つの梁部材の間で、クレーンの搬入のための空間が設けられるようにしておき、前記クレーンを前記空間から搬入して前記クレーンガーター上に配置する工程をさらに有することが望ましい。
  このように、梁部材の間に空間を設けておき、クレーンの搬入に用いることで、クレーンガーター上への本設のクレーンの配置が容易になる。
【0018】
  前記クレーンガーターの前記作業用ステージに接する面、および、前記作業用ステージの前記クレーンガーターに接する面のそれぞれに、摺動材が設けられることが望ましい。
  これにより、作業用ステージをクレーンガーターの上で滑らせて移動させることができる。従って、作業用ステージの移動をジャッキ等を用いて容易に行うことができる。
【0019】
  前記構造体の外周部には、梁部材の端部を取り付けるための、内側方向に突出するブラケットが、前記作業用ステージの移動方向に沿って複数設けられており、前記作業用ステージの移動方向に沿った一方の端部にあるブラケットの突出する長さが、それ以外のブラケットより長いことが望ましい。
  梁部材の取付のため構造体にブラケットを設ける場合には、上記の構成とすることで、端部のブラケットに取り付ける梁部材を作業用ステージで移動させる際、この梁部材が他のブラケットに干渉することがなくなる。
【0020】
  前記作業用ステージに用いられた梁部材を前記構造体に取り付ける際は、当該梁部材の端部に滑動部を設けるとともに、前記構造体の外周部の上部に設けた揚重部により前記滑動部と前記構造体とが接した状態で引き上げていくことが望ましい。
  作業用ステージに用いた梁部材を取り付けるためには、これを引き上げる必要があるが、この際、構造体の上部に揚重部を取り付けてこれを用いると容易に作業ができる。ただし、揚重に伴う反力により構造体が内に回転しこれが梁部材の引き上げを妨げる恐れがあるので、上記のように梁部材の端部に滑動部を設け、これにより構造体を押し広げつつ構造体上を滑らせることで、梁部材の引き上げを容易に行うことができる。
 
【発明の効果】
【0021】
  本発明により、屋根架構時の作業性を高め、かつ仮設材を少なくし撤去等も容易として工期を短縮できる梁部材の架設方法を提供することができる。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0023】
  以下、図面を参照しながら本発明の梁部材の架設方法の実施形態について説明する。
 
【0024】
(梁部材の架設を行う構造体1)
  
図1は、本実施形態において、屋根部を構成する梁部材の架設を行う構造体1を示す図である。
図1(a)、(b)は構造体1の側面を
図1(c)の矢印A、Bの方向からそれぞれ見た図である。
図1(c)は構造体1を上から見た図である。また、
図2(a)〜(d)は、
図1(c)の線A1−A1’、A2−A2’、B1−B1’、B2−B2’に沿って下部構造11等の位置を示した図である。
 
【0025】
  本実施形態において、構造体1は火力発電所のタービン棟であり、クレーンガーター13、柱15、梁17、および下部構造11が先行して構築されている。
 
【0026】
  柱15は構造体1の外周部に沿って設けられ、梁17はこれらの柱15に沿って水平方向に架け渡される。
 
【0027】
  下部構造11は、構造体1の低層階で先行して構築される構造躯体であり、火力発電所で用いる様々な設備が配置される。なお、図に示す低層階のうち、下部構造11が構築されていない部分12は、タービンを配置するためのタービン架台が後に構築される。
 
【0028】
  クレーンガーター13は、タービン等のメンテナンスに用いるためのクレーンを架け渡して移動可能に支持するための梁であり、ランウェイガーターとも呼ばれる。クレーンガーター13には、クレーンを移動させるための本設のレール(後述するレール13b)が後に設置される。クレーンガーター13は、構造体1の最上層において、構造体1の対向する両側面に沿って平行に設けられる。
 
【0029】
  本実施形態では、この構造体1への屋根架構時、屋根部を構成する梁部材を以下に示すように架設する。この架設方法を
図3〜
図14を参照しながら説明する。
 
【0030】
(梁部材の架設方法)
(1.スライドステージ2の構築と梁部材31aの構築)
  
図3に示すように、本実施形態では、まず構造体1の梁架設位置(構造体1の上端)の下方で、両側のクレーンガーター13に架け渡すようにスライドステージ2を構築する。なお、
図3において、(a)は構造体1を上から見た図であり、(b)は(a)の線C−C’に沿って梁部材等の位置を示した図である。以下、
図5、8〜11、13、14において同様である。
 
【0031】
  スライドステージ2は、構造体1の平面において、クレーンガーター13の長手方向の一方の端部側で構築される。スライドステージ2を構築する際には、構造体1内でベント4を組み立て、これを利用する。スライドステージ2を構築した後ベント4は撤去する。また、前記一方の端部の近辺で作業クレーン(不図示)を地面に設置し、この作業クレーンを用いてスライドステージ2の構築に必要な部材を吊り込む。以下、クレーンガーター13の長手方向について、前記一方の端部側(
図3(a)で下側)を手前といい、他方の端部側(
図3(a)で上側)を奥というものとする。
 
【0032】
  図4(a)を参照して、スライドステージ2について説明する。スライドステージ2は、梁部材の組立作業等を行うための作業用ステージであり、図に示すように、スライド台21、梁部材31e、作業台24等からなる。
 
【0033】
  スライド台21は、スライドステージ2の下部に設けられる。スライド台21は、基台211と基部213からなる。
 
【0034】
  基台211は、梁スパン方向(
図3(a)の左右方向で示す)に沿って、両側のクレーンガーター13に架け渡すように設けられる板材である。基台211の梁スパン方向の両側端部には、基部213が設けられる。
 
【0035】
  基部213は、クレーンガーター13上をスライドする部分である。
図4(b)は基部213を
図4(a)の矢印Dに示す方向から見た図である。
 
【0036】
  図に示すように、基部213のクレーンガーター13に接する面、および、クレーンガーター13の基部213に接する面には、それぞれ、摺動材213b、13aが設けられる。例えば、摺動材213bとしてテフロン(登録商標)板を用い、摺動材13aとしてステンレス板を用いることができる。ただし、摺動材213b、13aはこれらに限らず、摩擦抵抗が小さく互いに摺動可能なものであればよい。
 
【0037】
  スライドステージ2は、前方でクレーンガーター13に取り付けたジャッキ215(
図4(a)参照)を用いて引くか、あるいは後方でクレーンガーター13に取り付けたジャッキを用いて押すことにより移動する。この際、摺動材213b、13aによりスライドステージ2がクレーンガーター13上を摺動する。
 
【0038】
  基部213の外側には張出部213aが設けられる。張出部213aは、下方に向かってかぎ状に折り曲げられた折曲部213cを有する。梁スパン方向の両側の基部213のいずれかにおいて、この折曲部213cがクレーンガーター13の側面に当接することにより、スライドステージ2の梁スパン方向の移動は拘束され、基部213がクレーンガーター13から外れるのを防ぐことができる。
 
【0039】
  スライド台21の上には梁部材31eが設けられる。梁部材31eは、前記のスライド台21を構築した後、基台211の上で組み立てて構築される。この梁部材31eは後述する工程において構造体1に取り付けられるものであるが、本実施形態では、スライドステージ2の一部として予めスライド台21上に構築しておく。
 
【0040】
  梁部材31eの上には作業台24が設けられる。作業台24は、梁部材31eを構築した後、その上に構築される。作業台24は、スライドステージ2の上方で新たな梁部材を組み立てて構築するため設けるもので、複数の受板241を重ねて構成される。これにより梁部材を組み立てる高さが梁部材の取付高さに近づくように調整される。また、上部の受板241の下には、ジャッキ243が設けられる。
 
【0041】
  なお、スライドステージ2には、上記の他、図示しない手すりや防護ネットを設け、作業者の安全性を確保し、工具の落下等を防ぐようにしておく。
 
【0042】
  このようにしてスライド台21、梁部材31e、作業台24を順に構築してスライドステージ2を形成した後、
図3(b)に示すように、スライドステージ2の上で、新たな梁部材31aを組み立てて構築する。
 
【0043】
(2.スライドステージ2の移動と梁部材31aの取付)
  次に、
図5に示すように、スライドステージ2をクレーンガーター13に沿って奥にスライドさせ、その端部にある架設位置まで梁部材31aを移動させる。なお、この位置は、前記した作業クレーンの可動範囲外にある。
 
【0044】
  ここで、
図6に示すように、構造体1の対向する両側面において、クレーンガーター13の長手方向に沿った複数の柱15には、梁部材を取り付けるためのブラケット15aがそれぞれ設けられている。
 
【0045】
  これらのブラケット15aは構造体1の平面の内側に突出するが、その突出長さは、クレーンガーター13に沿って奥の端部にあるものが、他のブラケット15aよりも長くなっている。前記の梁部材31aは、この突出長さの長いブラケット15a間の距離Lに合わせた長さで構築される。
 
【0046】
  一方、他のブラケット15aの突出長さは短いので、スライドステージ2に載せた梁部材31aが矢印Fで示すように奥へ移動する際、点線Eに示すように、梁部材31aの端部が他のブラケット15aと干渉することがない。
 
【0047】
  このようにしてスライドステージ2を梁部材31aの架設位置まで移動させた後、梁部材31aを柱15に取り付ける。
図7を参照して、梁部材31aの取り付けについて説明する。
 
【0048】
  図7(a)に示すように、本実施形態において、柱15は、ブラケット15aを設けた上部柱151が、下部柱153の上端に建方治具(不図示)を用いて取り付けられた構造となっている。
 
【0049】
  図7(b)に示すように、梁部材31aの取付時には、建方治具を一部緩めて上部柱151を若干外側に傾斜した状態としている。この状態で前記したスライドステージ2の移動を行い、梁部材31aが、その端部とブラケット15aとの間に隙間51を確保した状態で配置される。その後、スライドステージ2のジャッキ243(
図4(a)参照)により、取付位置に合わせて梁部材31aを若干持ち上げる。
 
【0050】
  その後、
図7(c)に示すように、上部柱151の傾斜を元に戻し、上部柱151と下部柱153を溶接等して接合するとともに、ブラケット15aと梁部材31aの端部を接合する。このようにして、梁部材31aの両端部を両側のブラケット15aにそれぞれ取り付ける。その後、梁部材31aの上部にデッキプレート(不図示)を敷設するなど、必要な作業を行う。
 
【0051】
  なお、梁部材31aは上記のようにブラケット15aに取り付けず、構造体1の両側の梁17に取り付ける場合もある。この場合では、例えば、延長材を用いて梁部材31aの梁スパン方向の部材長さを延長して両側の梁17間の距離に合わせ、両端部を両側の梁17にそれぞれ取り付ければよい。
 
【0052】
  このように、梁部材の架設位置が前記の作業クレーンの可動範囲外にある場合では、該作業クレーンの可動範囲内においてスライドステージ2上で梁部材を構築し、その後スライドステージ2を架設位置まで移動させ、梁部材の取り付けを行うことができる。
 
【0053】
(3.梁部材31b〜31dの構築と取付)
  上記のように梁部材31aを架設した後、
図8に示すように手前側にスライドステージ2を移動させ、そのスライドステージ2上で、前記の作業クレーン等を用いて梁部材31bを構築し、該梁部材31bを構造体1に取り付ける。
 
【0054】
  続いて、
図9に示すように、梁部材31bの隣にある次の梁部材の架設位置にスライドステージ2を移動させ、上記と同様の手順で梁部材31cをスライドステージ2の上で構築し、構造体1に取り付ける。
 
【0055】
  その後、
図10に示すように、手前側の端部にある次の梁部材の架設位置にスライドステージ2を移動させ、同じく同様の手順で梁部材31dを構築して構造体1に取り付ける。
 
【0056】
  なお、各梁部材31b〜31dの取付後には、前記と同様に上部にデッキプレートを敷設するなどの必要な作業を行う。また、梁部材31bと梁部材31dの間には、後述するクレーン19の搬入に使用する空間を設けておく。
 
【0057】
  本実施形態において、梁部材31b〜31dの架設位置は、前記の作業クレーンの可動範囲内にある。この場合では、上記のようにスライドステージ2を架設位置まで移動させた後、該作業クレーンを用いて必要な部材を吊り込んでこれを組み立て梁部材を構築し、これを構造体1に取り付けることができる。
 
【0058】
(4.梁部材31eの取付等)
  上記のようにして梁部材31a〜31dを架設した後、
図11に示すように、梁部材31aと梁部材31cの間にある次の梁部材の架設位置までスライドステージ2を移動させる。その後、スライドステージ2として用いた前記の梁部材31eを構造体1に取り付ける作業に移る。
 
【0059】
  梁部材31eの取付時には、まずスライドステージ2の作業台24(
図4(a)参照)を解体して撤去するとともに、
図12(a)に示すように、柱15の上端に揚重部61を取り付ける。
 
【0060】
  この揚重部61では、例えばセンターホールジャッキにより梁部材31eを揚重する。センターホールジャッキは、ジャッキ本体の中心部に通したPC鋼棒をジャッキ本体により引き上げるもので、該PC鋼棒の一端を梁部材31eに取り付けてこれを揚重することができる。しかし、これに限らず、梁部材31eを揚重できるものであれば種々の機構を利用可能である。
 
【0061】
  次に、
図12(b)に示すように、梁部材31eの端部に滑動部63とジャッキ64を取り付け、梁部材31eを引き上げる。滑動部63には、例えばローラーの回転により対象物上を滑動するチルタンク(登録商標)を用いることができるが、これに限ることはない。
 
【0062】
  梁部材31eを引き上げる際、柱15には梁部材31eの引き上げに伴う反力が揚重部61から加わる。これにより、図に示すように柱15が若干内側に回転してブラケット15aが内側に移動する。従って、これが梁部材31eの引き上げと干渉する恐れがある。
 
【0063】
  しかし、本実施形態では、梁部材31eの端部に滑動部63を取り付けているので、
図12(c)に示すように、この滑動部63がブラケット15aと接した状態で梁部材31eを引き上げることができる。この際、滑動部63と梁部材31eとの間に配置されたジャッキ64を用い、滑動部63が矢印Gに示すように柱15を外側に押し広げつつブラケット15a上を滑動しながら上方に移動するようにする。従って、梁部材31eの引き上げが妨げられることがない。
 
【0064】
  こうして梁部材31eを引き上げて、梁部材31eをブラケット15aに取り付ける。その後、前記と同様にデッキプレートを敷設するなど必要な作業を行う。
 
【0065】
  梁部材31eの架設後は、スライドステージ2の残ったスライド台21(
図4(a)参照)を解体し撤去するともにクレーンガーター13上の摺動材13a(
図4(b)参照)を取り外し、
図13に示すように、クレーンガーター13上にレール13bを設置する。そして、吊上装置19aおよび吊上装置19aを屋根架構方向(
図13(a)の左右方向)に移動させるための桁材19bからなる、タービン棟で用いる本設のクレーン19を梁部材31b、31dの間から吊り込んで搬入し、桁材19bの両端部をクレーンガーター13上のレール13bに設置する。これにより、クレーン19がクレーンガーター13のレール13bに沿って移動可能になる。
 
【0066】
  最後に、
図14に示すように、梁部材31d、31bの間、梁部材31c、31eの間、および梁部材31e、31aの間に、それぞれ、小梁部材33a、33b、33cを架け渡す。これらの小梁部材33a〜33c上で前記と同様デッキプレートを敷設する等の必要な作業を行った後、梁部材31a〜31e、小梁部材33a〜33c上にコンクリートを打設する等して、構造体1の屋根部が構築される。
 
【0067】
  以上の屋根架構作業は、ベントの構築等を最小限にして行うので、構造体1の低層階における躯体構築作業と並行して行うことができる。例えば前記の下部構造11が構築されていない部分12(
図1参照)ではタービンを配置するためのタービン架台を構築するが、これと上記の屋根架構作業は並行して行うことができる。この部分12の上方を板材などで覆っておけば、屋根架構作業等で工具等が落下しても被害を与えることがない。
 
【0068】
  以上説明したように、本実施形態によれば、本設の梁部材31eを用いたスライドステージ2を利用して、そこで新たに別の梁部材31a〜31dの構築を行う。そして、この梁部材31a〜31dを構造体1に取り付けるとともに、その後スライドステージ2に利用した梁部材31eを構造体1に取り付けて屋根部を構築する。通常、スライドステージ2は仮設のものであり最後に撤去するが、本発明においては、上記のようにスライドステージ2の一部として本設の梁部材31eを用いているので、仮設材の量を減らすことができ撤去も容易になり、仮設材の設置、撤去に係る工程が短縮される。
  また、スライドステージ2上で梁部材31a〜31dを構築し、これを架設するので、下からのベントを最小限として梁部材31a〜31dの構築および架設ができ、屋根架構と低層階での躯体構築の並行作業が可能となる。さらに、スライドステージ2を活用して堅牢な足場上で作業ができるので、墜落防止に役立つとともに飛来物落下による災害が軽減できる。
 
【0069】
  また、本実施形態では、本設のクレーンガーター13を利用してスライドステージ2を移動させることで、仮設のレール等を別に設けずとも、スライドステージ2を移動させることができる。
  このようにスライドステージ2を移動可能とすると、例えば作業クレーンの届く範囲で構築した梁部材31aを該範囲の外に移動させて別の位置に取り付けたり、スライドステージ2を作業クレーンの届く範囲まで移動させその上で梁部材31b〜31dの構築と取付を行うことができる。従って、構造体1の周囲に作業スペースがない場合に作業クレーンの数を減らしたり、作業クレーンの揚重能力、可動範囲が限定的なものであっても容易に施工ができ、スライドステージ2に本設の梁部材31eを用いる構成と相まって、作業性をさらに高めることができる。ただし、これに限ることはなく、クレーンガーター13以外の手段で移動させることなども可能である。
 
【0070】
  また、本実施形態では、梁部材31b、31dの間に空間を設けておき、これをクレーン19の搬入に用いるので、クレーンガーター13上へのクレーン19の配置が容易になる。
 
【0071】
  また、スライドステージ2とクレーンガーター13には、摺動材213b、13aをそれぞれ設けているので、スライドステージ2をクレーンガーター13の上で滑らせて移動させることができる。従って、スライドステージ2の移動をジャッキ215等を用いて容易に行える。
 
【0072】
  さらに、本実施形態では、梁部材取付のため柱15にブラケット15aを設けているが、クレーンガーター13に沿って奥の端部にあるブラケット15aの突出長さを、それ以外のブラケット15aより長くしている。従って、該端部のブラケット15aに取り付ける梁部材31aをスライドステージ2で移動させる際、この梁部材31aが他のブラケット15aに干渉することがなくなる。
 
【0073】
  また、本実施形態では、スライドステージ2に用いた梁部材31eを取り付けるため、柱15の上部に揚重部61を取り付けて梁部材31eを引き上げる。これにより容易に作業ができるが、この際、揚重に伴う反力により柱15が内に回転しブラケット15aが梁部材31eの引き上げを妨げる恐れがある。しかし、本実施形態では梁部材31eの端部に滑動部63を設け、これにより柱15を押し広げつつブラケット15a上を滑らせることで、梁部材31eの引き上げを容易に行うことができる。
 
【0074】
  以上、添付図を参照しながら、本発明の実施形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
  例えば、本発明の梁部材の架設方法が適用される構造体は実施形態で説明したようなタービン棟に限ることはない。本発明はその他様々な構造体に適用することができ、大規模な梁を架設する必要がある場合には特に有効である。