(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940411
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】編地の編成方法
(51)【国際特許分類】
D04B 1/00 20060101AFI20160616BHJP
D04B 1/24 20060101ALI20160616BHJP
D04B 1/18 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
D04B1/00 A
D04B1/24
D04B1/18
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-176538(P2012-176538)
(22)【出願日】2012年8月8日
(65)【公開番号】特開2014-34742(P2014-34742A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(72)【発明者】
【氏名】由井 学
(72)【発明者】
【氏名】仲 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅晶
【審査官】
長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/023690(WO,A1)
【文献】
特開平10−053940(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3142649(JP,U)
【文献】
特開2005−213706(JP,A)
【文献】
特開平07−316958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00−39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床を備え、目移しが可能な横編機を用いて、前記針床に設けられる複数の編針に第一編糸と第二編糸を給糸し、第一編糸に対して第二編糸が裏側に位置するようなリブ組織を備える編地の編成方法において、
少なくともリブ組織を構成するベース編目列を、第一編糸を用いて編成する行程(T1)と、
前記リブ組織における一方の針床に係止するベース編目列の編目に対し、第一編糸を用いて新たな編目を編成すると共に、対向する針床に増し目を形成する行程(T2)と、
前記増し目に対し、第二編糸を用いて新たな編目を編成する行程(T3)と、
前記新たな編目を前記リブ組織における一方の針床に係止するベース編目列の編目と重ねる行程(T4)と、
前記行程(T1)〜(T4)を繰り返す行程(T5)を含むことを特徴とするリブ組織を備える編地の編成方法。
【請求項2】
前記増し目は割増やし編成を行うことで形成されることを特徴とする請求項1に記載のリブ組織を備える編地の編成方法。
【請求項3】
前記第二編糸は弾性糸を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のリブ組織を備える編地の編成方法。
【請求項4】
前記工程(T3)と工程(T4)の間に、前記工程(T3)で形成した前記新たな編目に対して第二編糸を用いた割増やし編成による新たな編目を形成すると共に、対向する一方の針床に増し目を形成した後、該増し目を、工程(T2)で形成した前記リブ組織における他方の針床に係止するベース編目列の編目と重ねることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のリブ組織を備える編地の編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第一編糸と第二編糸が異なる編糸で、編成する編目が重なり、第一編糸の編目が表側と第二編糸の編目が裏側に配置される編地を編成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より第一編糸と第二編糸が異なる編糸で、これら2つの編糸を1つの編針で同時に編成する場合にはプレーティング編成を行う。プレーティング編成では、旧編目から新たな編目が引き出される側を表側、その逆側を裏側とし(以降の表側、裏側の表現も同意とする)、表側に第一編糸が、その裏側に第二編糸が重なるように配置されるため、第二編糸に弾性糸を用いて伸縮性を高める用途などに多用される。プレーティング編成では、1つの給糸口の先端で上下2箇所の位置から編針に給糸できるヤーンキャリア(特許文献1 参照)などのプレーティング専用キャリアを用いて編成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭53−131049公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記文献1などのプレーティング専用キャリアを用いることなく、第一編糸を表側に、第二編糸を裏側に配置して編目が重なるように編成できるリブ組織を備える編地の編成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、少なくとも前後一対の針床を備え、目移しが可能な横編機を用いて、前記針床に設けられる複数の編針に第一編糸と第二編糸を給糸し、第一編糸に対して第二編糸が裏側に位置するようなリブ組織を備える編地の編成方法において、少なくともリブ組織を構成するベース編目列を、第一編糸を用いて編成する行程(T1)と、前記リブ組織における一方の針床に係止するベース編目列の編目に対し、第一編糸を用いて新たな編目を編成すると共に、対向する針床に増し目を形成する行程(T2)と、前記増し目に対し、第二編糸を用いて新たな編目を編成する行程(T3)と、前記新たな編目を前記リブ組織における一方の針床に係止するベース編目列の編目と重ねる行程(T4)と、前記行程(T1)〜(T4)を繰り返す行程(T5)を含むことを特徴とする。
【0006】
本発明では、前記増し目は割増やし編成を行うことで形成されることを特徴とする。
【0007】
本発明では、前記第二編糸は弾性糸を用いることを特徴とする。
【0008】
前記
工程(T3)と
工程(T4)の間に、
前記工程(T3)で形成した前記新たな編目に対して第二編糸を用いた割増やし編成による
新たな編目を形成すると共に、対向する一方の針床に増し目
を形成した後、該増し目を、工程(T2)で形成した前記リブ組織における
他方の針床に係止するベース編目列の編目と重ねることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リブ組織となるベース編目列の表側に現れる第一編糸に対し、第二編糸が重ね目により裏側に配置される。専用のヤーンキャリアを使うことなく、異なる編糸が表側と裏側に配置されて編目が重なったように編成できる。
【0010】
本発明によれば、割増やし編成で増し目を形成することで、その増し目を異なる2目の編目を引き出す編目とすることが出来る。割増やし編成でこの増し目から引き出された新たな編目と、この増し目に対して別途新たに編成する編目は、両編目を重ねる際に同じコースで編成されたように配置することが出来る。前後針床に配置された編目を重ねると、増し目から異なる2目の編目が引き出されて編目が重なったようになり、プレーティング編地の第一編糸と第二編糸の関係により近い状態となる。
【0011】
本発明によれば、弾性糸の編成によりリブ組織では不十分な伸縮性を補うことが可能となる。
【0012】
また本発明によれば、リブ組織における一方と他方の針床のベース編目列のそれぞれの編目と前記増し目を重ねる。第二編糸による編目は、リブ組織のベース編目列に添い、且つ前後針床の両側の編目の裏側に編目が形成されるため、リブ組織を備える編地の前後のバランスがとれる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例としてのリブ組織を備える編地1を含むベスト100の概略図である。
【
図2】本発明の実施例として示すリブ組織を備える編地1の編成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例のリブ組織を備える編地1の説明を行う。編成に使用する横編機は、前後一対の針床を備えた2枚ベッド横編機である。図示はしていないが、横編機は、後針床が前針床に対してラッキングが可能で、針床の上方に複数の給糸口を有する。説明の便宜上、編成される編地は1x1リブとし、編成図では針数を実際の編成よりも少なくしている。勿論、編地は1x1リブ以外の2x1リブ組織やリブ組織を備えた天竺の編地で編成しても良い。なお、本実施例で示すリブ組織を備える編地1は、ベスト100の裾リブであり、第一給糸口7には第一編糸としてウール糸を、第二給糸口8には第二編糸として弾性糸を用いて編成する。
【0015】
図1は、裾リブとしてリブ組織を備える編地1を含むベスト100の概略図である。
図2は、実施例として示すベスト100の裾リブに適用するリブ組織を備える編地1の編成図である。図中の左欄の「S+数字」は工程番号を示す。また、図中の中欄のA〜Sは前針床(以下、FB)およびa〜sは後針床(以下、BB)の編針を、○は旧編目を、●は各工程で編成される新たな編目を、◎は重ね目を、黒点は編針を、そして矢印は目移しを示す。さらに、図中の右欄における左右方向の矢印は編成方向を、上下方向の矢印は目移しを行うことを示し、Kはニット編成を示している。L0.5はFBに対するBBのラッキング位置を示し、L0.5の位置では前後の編針が対向する位置となり、R0.5の位置ではBBが1針右にラッキングしていることを示している。
【0016】
リブ組織を備える編地1の編成工程を、
図2の編成図で説明する。S1では、第一給糸口7を紙面右方向に移動させ、FBの編針A,C,E,G,IとBBの編針b,d,f,h,jを交互に用いて、第一編糸としてのウール糸でベース編目列2を形成する。S2では、第一給糸口7を左方向に移動させ、S1と同様にBBとFBを交互の順に、FBの編針I,G,E,C,Aに係止するリブ組織におけるベース編目列2の編目に対して割増やし編成を、BBの編針j,h,f,d,bに係止する編目にはニット編成を行う。具体的には、割増やし編成では、FBの編針I,G,E,C,Aに係止する編目(旧編目)に新たな編目3を編成するとともに、編成前に係止していた旧編目をFBから対向するBBの編針i,g,e,c,aに目移しする。また、BBの編針j,h,f,d,bでのニット編成では、FBの編成に合わせることでウェール方向の編目数が同じになり、FBとBBの編目の大きさも均一で綺麗な編地となる。
【0017】
S3では、第二給糸口8を右方向に移動させ、第二編糸としての弾性糸を用いてS2の割増やし編成で形成した各増し目4に、BBで新たな編目5を編成する。このため、S2の割増やし編成時に形成したFBの新たな編目3とS3で編成した新たな編目5の2目が同じ編目(増し目4)から引き出されたようになる。後述する重ね目を形成する際には、この増し目4から異なる2目の編目が引き出されてそれらの編目同士が重なったようになり、プレーティング編地の第一編糸と第二編糸の関係に近い状態となる。
【0018】
S4では、第二給糸口8を左方向に移動させ、弾性糸を用いてBBの編針i,g,e,c,aに係止する編目に対して割増やし編成を行い、新たな編目6を編成する。この時、対向する位置にFBの空針が配置されるようにBBを右に1針分のラッキングを行っている。S5では、BBを左に1針分のラッキングを行い、FBの編針B,D,F,H,Jに係止するS4の割増やし編成で形成した増し目14の各編目を、対向するBBの編針b,d,f,h,jに係止する編目と重ねる。この重ね目の形成により、リブ組織におけるBBのベース編目列2の編目と弾性糸が重ねられる。
【0019】
S6では、リブ組織におけるFBの編針A,C,E,G,Iに係止するベース編目列2の編目と弾性糸で割増やし編成した各編目6が重ねられる。S1で形成した1x1リブ組織の第一編糸に添うように第二編糸となる弾性糸が裏側となる位置で重ね目となる。S5、S6で示す弾性糸による前後の重ね目は編地の外側からは目立ちにくく、弾性糸の伸縮方向もベース編目列2の編目と重なっている。そのため、ベース編目列2の編目のリブ組織の伸縮と同方向となり、編目間の渡り糸の余剰も発生しないので綺麗な編地となる。
【0020】
S7では、S1と同様に第一給糸口7を右方向に移動させ、FBの編針A,C,E,G,IとBBの編針b,d,f,h,jを交互に用いて、新たな編目を編成する。以降は、S2〜S6を適宜繰り返し、所望の裾リブを形成する。
【0021】
なお、実施例では、増し目4,14は割増やしで編成したが、旧編目に対して新たなタック編成でタック目を設けるとともに、対向する針床の空針に掛け目を形成することで行っても良い。また、割増やし編成とタック編成を組み合わせて増し目を編成しても良い。これらの場合、タック編成を行う編目に対向する針床は編針を0.5本分左右どちらかににずらし、タック編成と空針ニットを同時にできる様にしておく。タック編成で繋げる場合にも編目の重なりは表側と裏側の配置となるが、旧編目から編目が引き出されていない為、割増やし編成適用時の渡り糸の見え方とは異なり、新規なデザインとしても活用できる。
【0022】
また実施例では、新たな編目5の編成を1目としたが、更に同様の編成を加えて3目を編成しても良い。弾性糸を使用する場合、糸が細くて目立たない為、弾性力を高めたいときには有効となる。さらに第二編糸とした弾性糸に替えて、第一編糸と同様の素材の糸とすれば、適度に伸びを抑え、厚みのあるしっかりとしたリブ組織を備える編地1とすることが出来る。また色や素材を替えれば、2色のジャカード柄に見える編地とすることも出来る。
【0023】
更に、本発明の編成ではべら針や複合針での適用が可能であるが、2枚のブレードを有するスライダーと針本体からなる複合針(例えば、特許第2917146号公報参照)を使用することが好ましい。割増やしを行う際には、べら針のように編目が捻じられたり不斉一性などの問題も無く、編針の編幅中心で編目を形成できるため左右対称の綺麗な編目を形成することが出来るからである。
【符号の説明】
【0024】
1 編地
2 ベース編目列
4,14 増し目
3,5,6 編目
7,8 給糸口
100 ベスト