特許第5940461号(P5940461)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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▶ タタ、スティール、ネダーランド、テクノロジー、ベスローテン、フェンノートシャップの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940461
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】金属ストリップ材料の熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/56 20060101AFI20160616BHJP
   C21D 9/573 20060101ALI20160616BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20160616BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20160616BHJP
   C22C 38/38 20060101ALN20160616BHJP
【FI】
   C21D9/56 101B
   C21D9/573 101Z
   C21D9/46 V
   !C22C38/00 301S
   !C22C38/38
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-550364(P2012-550364)
(86)(22)【出願日】2011年1月25日
(65)【公表番号】特表2013-518185(P2013-518185A)
(43)【公表日】2013年5月20日
(86)【国際出願番号】EP2011000303
(87)【国際公開番号】WO2011091983
(87)【国際公開日】20110804
【審査請求日】2014年1月24日
(31)【優先権主張番号】10000913.3
(32)【優先日】2010年1月29日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505008419
【氏名又は名称】タタ、スティール、ネダーランド、テクノロジー、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL NEDERLAND TECHNOLOGY BV
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100176094
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 満
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン、セロット
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−011541(JP,A)
【文献】 特開平09−227955(JP,A)
【文献】 特開平09−125161(JP,A)
【文献】 特開2005−193287(JP,A)
【文献】 特開2004−211134(JP,A)
【文献】 特開昭62−161935(JP,A)
【文献】 米国特許第05238510(US,A)
【文献】 特開2004−314113(JP,A)
【文献】 特開昭61−284533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/52− 9/66
C21D 9/46− 9/48
B21D 22/00−26/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストリップの幅にわたって異なる機械的性質を与える金属ストリップ材料を熱処理する方法であって、前記ストリップが連続焼きなまし工程の間に加熱及び冷却され、前記工程のうちの以下のパラメータ:
− 加熱速度
− 最高温度
− 最高温度保持時間
− 最高温度後の冷却軌道
の少なくとも1つが、前記ストリップの幅にわたって異なるか、または、過時効が行われる場合、前記工程のうちの以下のパラメータ:
− 加熱速度
− 最高温度
− 最高温度保持時間
− 最高温度後の冷却軌道
− 過時効温度
− 過時効温度保持時間
− 過時効前の最低冷却温度
− 過時効温度への再加熱速度
の少なくとも1つが、前記ストリップの幅にわたって異なり、その際、最高温度後の冷却軌道の少なくとも1つが非線形温度−時間経路をたどり、
前記ストリップが鋼ストリップである
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記ストリップが、連続焼きなまし工程の間に過時効される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記最高温度が、前記ストリップの2つ以上の幅区域にわたって異なる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記最高温度が、前記ストリップの2つ以上の幅区域にわたって異なり、前記最高温度保持時間後の前記冷却軌道もまた前記ストリップの2つ以上の幅区域にわたって異なる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
なくとも1つの幅区域における前記最高温度が、Ac1温度とAc3温度との間であり、少なくとも1つの他の幅区域における前記最高温度がAc3温度を超える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
なくとも1つの幅区域における前記最高温度が、Ac1温度以下であり、少なくとも1つの他の幅区域における前記最高温度がAc1温度とAc3温度との間である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
なくとも1つの幅区域における前記最高温度がAc3温度を超え、少なくとも1つの他の幅区域における前記最高温度がAc1温度以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
なくとも2つの幅区域における前記最高温度がAc1温度とAc3温度との間であるが、これらの二つの最高温度の間に少なくとも20℃の温度差が存在する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記冷却軌道が前記ストリップの2つ以上の幅区域にわたって異なり、前記冷却軌道の少なくとも1つが非線形温度−時間経路をたどる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
過時効工程が行われ、前記過時効温度が前記ストリップの2つ以上の幅区域にわたって異なる、および/または前記過時効前の最低冷却温度が前記ストリップのこれらの2つ以上の幅にわたって異なる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記過時効温度保持時間が10〜1000秒である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記過時効温度保持時間が10〜1000秒であり、前記過時効温度保持時間が前記ストリップの2つ以上の幅区域にわたって異なる、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記加熱速度および/または前記過時効温度への再加熱速度が、前記ストリップの2つ以上の幅区域にわたって異なる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記工程における前記パラメータの少なくとも1つが、前記ストリップの幅の少なくとも一部にわたって次第に変化する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記ストリップがHSLA、DPまたはTRIP鋼の組成を有する鋼ストリップである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストリップの幅にわたって異なる機械的性質を与える金属ストリップ材料の熱処理方法に関するものである。本発明は、また、この方法によって製造されたストリップ材料に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、鋼ストリップ材料は圧延後に連続焼きなまし工程に付され、所望の機械的性質をストリップ材料に付与する。焼きなましの後、ストリップ材料が、例えば溶融亜鉛めっき、および/または圧延されて所望の表面特性をストリップ材料に供給するスキンパス、によって被覆されることができる。
【0003】
焼きなましは、一定の加熱速度でストリップを加熱し、一定の保持時間の間、一定の最高温度でストリップを保持し、そして一定の冷却速度でストリップを冷却することによって行われる。ある目的のために、ストリップの冷却中に一定の期間、一定した温度に保たれて、ストリップを過時効する。この従来の連続焼きなまし工程は、ストリップの長さおよび幅にわたって一定である機械的性質をストリップに与える。そのようなストリップは、例えば自動車産業用に、ブランクに切り分けられる。
【0004】
一定の目的のために、大部分は自動車産業において、異なる機械的性質を有する部分を有するブランクが必要とされている。そのようなブランクは、従来、異なる機械的性質を有する2つ以上のストリップを製造し、これらのストリップからブランク部品を切り出し、そして異なる機械的性質を有する2つ以上のブランク部品を互いに溶接して一つのブランクを形成することによって製造される。ストリップを互いに溶接し、その後結合したストリップからブランクを切り出すことも可能である。このように、ボディ・イン・ホワイトの部品は、例えば、一端ともう一端で異なる機械的性質を有するように成形可能である。
【0005】
しかし、これらのいわゆる目的に合わせて溶接したブランクは、溶接の間の加熱によって溶接が特別な区域を形成し、例えばブランクを形成する工程の間に、ブランクが劣化するという欠点を有する。
【0006】
日本国特許出願JP2001011541Aには、機械的性質がストリップの幅にわたって異なる、プレス成形用の目的に合わせた鋼ストリップの提供方法が提供されている。第一の選択肢によれば、鋼ストリップが連続焼きなまし炉を離れるときにストリップの幅にわたって冷却速度を変化させることで、機械的性質がストリップの幅にわたって変化する。その日本国特許出願では、第二の選択肢として、ストリップの幅にわたって窒化または炭化の量を調整することで、ストリップの幅にわたって機械的性質を変化させることについて言及されている。その日本国特許出願による第三の選択肢は、ストリップの幅にわたって2つ以上の板厚を有する鋼ストリップの使用である。
【0007】
日本国特許出願JP2001011541Aによる選択肢は、いくつかの欠点を有する。第三の選択肢は、ストリップの厚さがストリップの幅にわたって対称である場合にのみ可能である。窒化または炭化を使用する第二の選択肢は、今日鋼産業において求められる高速加工には適していない。第一の選択肢は、この文献中に与えられた例を考慮すると、機械的性質において限られた変動しか提供できない。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、経済的な速度で行うことができる、ストリップの幅にわたって機械的性質に変化を与える金属ストリップ材料の熱処理方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、機械的性質における幅広い変動を実現可能とする、ストリップの幅にわたって機械的性質に変動を与える金属ストリップ材料の熱処理方法を提供することにある。
【0010】
本発明のさらなる目的は、ストリップの幅にわたって機械的性質に変動を与える金属ストリップ材料の熱処理方法であって、他の処理方法が最先端において提供される方法より有用である方法を提供することにある。
【0011】
ストリップの幅にわたって異なる機械的性質を有する、ストリップ材料を提供することも本発明の目的である。
【0012】
本発明の1つ以上の目的は、ストリップの幅にわたって異なる機械的性質を与える金属ストリップ材料を熱処理する方法であって、前記ストリップが加熱及び冷却され、所望により、連続焼きなまし工程の間に過時効され、前記工程のうちの以下のパラメータ:
− 加熱速度
− 最高温度
− 最高温度保持時間
− 最高温度後の冷却軌道
の少なくとも1つが、前記ストリップの幅にわたって異なるか、または、過時効が行われる場合、前記工程のうちの以下のパラメータ:
− 加熱速度
− 最高温度
− 最高温度保持時間
− 最高温度後の冷却軌道
− 過時効温度
− 過時効温度保持時間
− 過時効前の最低冷却温度
− 過時効温度への再加熱速度
の少なくとも1つが、前記ストリップの幅にわたって異なり、その際、最高温度後の冷却軌道の少なくとも1つが非線形温度−時間経路をたどる
ことを特徴とする、方法で達成される。
【0013】
本発明者らは、ストリップの幅にわたって異なる値を与える場合、上記パラメータはそれぞれ単独または組合せでも、同様にストリップにわたって異なる機械的性質をもたらすことを知得した。したがって、本発明は、ストリップの幅にわたって異なる機械的性質を有するストリップ材料を得る種々の方法を提供し、かつ、本発明はストリップの幅にわたってストリップ材料の機械的性質を、目的に合わせたブランクを使用するストリップの最終消費者、例えばボディ・イン・ホワイト用の部品を形成するためにそのようなブランクを使用する自動車製造業者、の希望に正確に合わせることを可能とする。非線形温度−時間経路は、200℃より上で、冷却軌道が始まる直後に冷却速度が故意に変化されることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
好ましい態様によれば、前記最高温度が、前記ストリップの2つ以上の幅区域にわたって異なり、所望により、前記最高温度保持時間後の前記冷却軌道もまた前記ストリップの2つ以上の幅区域にわたって異なる。熱処理の最高温度は、ストリップの機械的性質に強い影響力を有しているため、ストリップの異なる幅区域において異なる機械的性質を提供するのに非常に適している。最高温度保持時間後の冷却軌道は、上述のように加えることができる。
【0015】
好ましくは、少なくとも1つの幅区域における前記最高温度が、Ac1温度とAc3温度との間であり、少なくとも1つの他の幅区域における前記最高温度がAc3温度を超える。これらの温度域の使用は、機械的性質に強力な変動を与える。
【0016】
あるいは、少なくとも1つの幅区域における前記最高温度が、Ac1温度以下であり、少なくとも1つの他の幅区域における前記最高温度がAc1温度とAc3温度との間である。この選択または上記の選択が使用されるかどうかは、金属の種類および使用される目的に当然依存する。
【0017】
代替手段によれば、少なくとも1つの幅区域における前記最高温度がAc3温度を超え、少なくとも1つの他の幅区域における前記最高温度がAc1温度以下である。この代替案に関して、上記が同様に適用される。
【0018】
他の代替手段によれば、少なくとも2つの幅区域における前記最高温度がAc1温度とAc3温度との間であり、これらの二つの幅区域における二つの最高温度の間に少なくとも20℃の温度差が存在する。この代替手段が使用されるか、上記の可能性の一つであるかどうかは、使用される鋼の種類およびストリップ材料が使用される目的に再び依存する。
【0019】
他の好ましい態様によれば、前記冷却軌道が前記ストリップの2つ以上の幅区域にわたって異なり、前記冷却軌道の少なくとも1つが非線形温度−時間経路をたどる。このことは、例えば、ある幅区域において第一の冷却期間の後、冷却速度が5〜40℃/sに変化する一方で、他の幅区域が最初から40℃/sで冷却されることを意味する。
【0020】
好ましい態様によれば、過時効工程が行われ、前記過時効温度が前記ストリップの2つ以上の幅区域にわたって異なる、および/または前記過時効前の最低冷却温度が前記ストリップのこれらの2つ以上の幅にわたって異なる。このように、過時効工程は、金属ストリップの幅区域にわたって機械的性質を変化させるのに使用される。しばしば、異なる過時効温度が異なる最高温度と組み合わせて用いられる。
【0021】
この態様によれば、好ましくは前記過時効温度保持時間が10〜1000秒であり、より好ましくは前記過時効温度保持時間が前記ストリップの2つ以上の幅区域にわたって異なる。この基準は、ストリップの幅区域にわたって機械的性質を変化させる正確な方法を提供する。
【0022】
更に他の好ましい態様によれば、前記加熱速度および/または前記過時効温度への再加熱速度が、前記ストリップの2つ以上の幅区域にわたって異なる。加熱速度は、しばしば他のパラメータと組み合わせて、機械的特性を変化させるのに良好な方法を提供する。
【0023】
特別な態様によれば、前記工程における前記パラメータの少なくとも1つが、前記ストリップの幅の少なくとも一部にわたって次第に変化する。このように、機械的特性はストリップの幅にわたって同様に次第に変化し、そのようなストリップから切り出されたブランクから製造される部品にとって非常に有利になり得る。そのような次第に変化する特性は、目的に合わせて溶接したブランクによっては提供され得ない。
【0024】
ほとんどの場合、前記ストリップが鋼ストリップであって、好ましくはHSLA、DPまたはTRIP鋼の組成を有する鋼ストリップである。しかし、本発明による方法は、アルミニウムのストリップにも用いられることができるであろう。
【0025】
更に好ましい態様によれば、前記ストリップの幅にわたって異なる少なくとも1つのパラメータが、前記ストリップの加工の間に少なくとも一瞬値が変わる。他の好ましい態様によれば、少なくとも1つの他のパラメータが、前記ストリップの加工の間に少なくとも一瞬前記ストリップの幅にわたって異なるように選ばれる。これらのように、ストリップの機械的性質は、ストリップの長さにわたっても変化するため、一つのストリップにおいて2つ以上の期間が作り出され、ストリップの長さにわたって異なる変化する特性を有する。このことは、数百メートルの長さのストリップが製造され、比較的小さな系の部品のみが製造されなければならない場合、有利であり得る。
【0026】
本発明は、上述の方法によって製造された、前記ストリップの幅にわたって異なる機械的性質を有するストリップ材料にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本発明を、4つの例を参照しつつ説明し、その中で目的に合わせて焼きなまししたストリップの、温度−時間サイクルおよび模式的な区域分布を添付図面に示す。
図1a】ストリップの異なる幅区域に対してAc1温度を超える異なる最高温度を用いる、鋼ストリップの目的に合わせた焼きなましの例である。
図1b】ストリップの異なる幅区域に対してAc1温度を超える異なる最高温度を用いる、鋼ストリップの目的に合わせた焼きなましの例である。
図2a】ストリップの異なる幅区域に対して、Ac1以下の温度とAc1を超える温度の異なる最高温度を用いる、鋼ストリップの目的に合わせた焼きなましの例である。
図2b】ストリップの異なる幅区域に対して、Ac1以下の温度とAc1を超える温度の異なる最高温度を用いる、鋼ストリップの目的に合わせた焼きなましの例である。
図3a】ストリップの幅区域の少なくとも1つに対して変化する冷却速度を用いる、鋼ストリップの目的に合わせた焼きなましの例である。
図3b】ストリップの幅区域の少なくとも1つに対して変化する冷却速度を用いる、鋼ストリップの目的に合わせた焼きなましの例である。
図4a】異なる中間保持または過時効温度用いる、鋼ストリップの目的に合わせた焼きなましの例である。
図4b】異なる中間保持または過時効温度用いる、鋼ストリップの目的に合わせた焼きなましの例である。
【実施例】
【0028】
第1の例として、目的に合わせて焼きなましされたストリップを製造し、その際、異なる幅区域をいずれもAc1温度を超える異なる最高温度に加熱する。
【0029】
自動車産業用のいくつかの部品は、総伸長の観点から適切に説明することができる種々の量の成形性を必要とする。種々の量の総伸長を達成する一つの方法は、フェライト母相中に種々の体積分率のマルテンサイトを有する変化する二相微細構造を作成することである。マルテンサイトの体積分率を増やすことで、強度が向上し、総伸長が低下する。
【0030】
フェライト−マルテンサイトの異なる体積分率は、図1aに示す異なる最高温度以下で加熱することによって作られる。図1bに示される例は、自動車ボディ・イン・ホワイトにおける屋根はり部品用の目的に合わせて焼きなましした鋼ストリップである。3つの区域(移行領域を含まない)があり、ここでは2つの外側区域が同じ温度−時間サイクルを有し、中間区域が異なる。Lはストリップの長さ方向を示す。外側区域(A1およびA2)は、高い延性を必要とするため、約780℃の最高温度へ30秒間加熱し、一方で、中央領域(B)はより高い温度である830℃へ30秒間加熱する。異なる最高温度は、温度−時間サイクルの終わりに異なる量のオーステナイトをもたらす。最高温度での加熱の後、ストリップ全体を30℃/sの速度で200℃未満に冷却し、その後、自然冷却する。図1bの点線の形状は、ストリップから切り出されるブランクの形状を示し、このブランクは部品を形成するのに用いられる。例示材料の化学的性質を表1に示し、上記処理後の特性を表2に示す。
【表1】
【表2】
【0031】
第2の例として、目的に合わせて焼きなまししたストリップを製造し、その際、異なる幅区域をAc1温度を超える温度およびAc1温度以下の温度の異なる最高温度に加熱する。
【0032】
鋼ストリップにおいて達成され得る強度−延性特性における2つの極値は、高い成形性を有する再結晶フェライト、および、高い強度と低い延性を有する完全なマルテンサイト状である。通常、マルテンサイトの延性はいかなる有意の成形性に関しても低すぎる。マルテンサイトの代わりに、遅い冷却速度で形成する完全なベイナイト微細構造が用いられ得、ベイナイト微細構造は低い強度を有するが、より延性がある。そのような極値は、高い成形性が求められる一方で他の領域は低い延性要求および最大強度が好ましい、部品の一定の領域における所与の材料に対して、最大の延性を活用するために有用であり得る。
【0033】
図2に示す例において、Ac3以下およびAc3を超える異なる最高温度の原理をもちいる目的に合わせた焼きなましを、バンパービーム部品用に最適化された鋼ストリップを製造するのに用いる。図2bに示す例において、ストリップを、2つの外側区域(A1およびA2)がAc3(720℃)以下の同じ温度を有し、中間区域(B)がより高い温度(860℃、この場合Ac3を超える。図2aの温度−時間図参照)である異なる幅区域で焼なましする。Lはストリップの長さ方向を示す。元の状態のストリップを冷間圧延し、焼きなましの間に、区域A1およびA2における材料が再結晶化して、粗炭化物を有する等軸フェライトおよびパーライトになる。この温度からの冷却速度は非常に重要というわけではないが、便宜上20℃/sである。区域Bを高温に加熱し、この場合Ac3を越え、完全にオーステナイトに変わる。この領域を80℃/sで冷却して全体的なベイナイト微細構造を形成する。図2bの点線の形状は、ストリップから切り出されるブランクの形状を示し、このブランクは部品を形成するのに用いられる。例示材料の化学的性質を表3に示し、上記処理後の特性を表4に示す。
【表3】
【表4】
【0034】
第3の例として、目的に合わせて焼きなまししたストリップを製造し、その際、異なる幅区域を異なる冷却軌道に沿って冷却する。
【0035】
一定した冷却速度を用いた場合に発生する、一定の相または微細構造の発達を促進するために複数経路の冷却軌道を用いることができる。高温での遅い冷却は、一定した速い速度で冷却するのと比較して、所与の期間でのフェライト形成量を増加する。以下の例ではこの現象を用いており、ストリップ内で3つの異なる区域を有する例である。目的に合わせて焼なまししたストリップの本例を、図3bに示したAピラー強化部品に対して最適化する。点線の形状は、ストリップから切り出されるブランクの形状を示し、このブランクは部品を形成するのに用いられる。Lはストリップの長さ方向を示す。
【0036】
A、BからCへの延性要求の増加に伴い、3つの幅区域が望まれる。最初に、鋼ストリップをオーステナイトに完全に変えるのに十分に長い時間の保持時間の間、ストリップ全体を同じ加熱速度でAc3温度を超えるまで加熱する。区域Aは、鋼を40℃/秒の速度で冷却する際に形成する完全なベイナイト微細構造で十分に満たされ得る最も低い延性要求を有するものであり、図3aにおいて200℃を超える温度で線形冷却軌道を示す。区域BおよびCはいずれも約5℃/sの比較的遅い速度で冷却するが、特定の温度に達するときの時間によって規定される異なる期間で冷却する。区域BおよびCについての非線形冷却軌道を示す、図3aの温度−時間図を参照のこと。
【0037】
区域Bが720℃に達したとき、冷却速度を40℃/sに高め、同様に区域Cについては600℃に達したときに冷却速度を40℃/sに高める。区域BおよびCにおいて5℃/sで冷却中に、オーステナイトがフェライトに変わる。冷却速度を高めた場合、フェライトへのさらなる変換が遅れ、一旦残りのオーステナイトが約350℃以下の温度まで冷却されると、マルテンサイトに変わる。区域Bと比較すると、遅い冷却速度での延長された期間のために、区域Cは長い時間、高温で保持される。このことは、区域Cにおいてより多くのフェライトが形成し、その結果区域Cがより高い成形性を有することを意味する。例示材料の化学的性質を表5に示し、上記処理後の特性を表6に示す。

【表5】
【表6】
【0038】
第4の例として、目的に合わせて焼きなまししたストリップを製造し、その際、異なる幅区域を異なる中間保持温度または過時効温度を用いて冷却する。
【0039】
いくつかの部品の成形性要求は、総伸張のみの観点からは最適に説明されないが、穴拡大のような他の基準と併せてより良好に説明される。二相微細構造は、良好な強度−延性を実現するが、フェライト−ベイナイト混合物はフェライト−マルテンサイトよりも良好な穴拡大を実現する。図4bに示す例は、自動車ボディ・イン・ホワイトにおける後部長手部品(rear longitudinal component)に対する解決策である。Lはストリップの長さ方向を示す。
【0040】
この例において、ストリップ全体を同じ加熱速度で加熱し、次いで全てオーステナイトに変換するまで、30秒の同じ保持時間の間840℃/sの同じ最高温度で保持する。図4a参照。その後、ストリップ全体を、約540℃に達するまで、30℃/sの同じ冷却速度で均一に冷却する。この最初の冷却段階の間に、フェライトが再成長して再度主要層となる。540℃に達した際に、区域Aの温度をこの温度で30秒間保持する一方で、区域Bは400℃に至るまで更に冷却し、この温度で約30秒間保持する。中間の焼なまし保持の後、2つの区域を少なくとも20℃/sの冷却速度で少なくとも200℃以下に冷却する。
【0041】
表7に示す化学的性質に関して、異なる比率のベイナイトが、区域AおよびBに対して用いた2つの異なる中間温度の間に形成するであろう。区域Aにおける高い中間保持温度に関して、オーステナイトからベイナイトへの変換速度は比較的遅く、そして最終的な分率はほとんどフェライトおよびマルテンサイトと比較的小分率のベイナイトからなる。低い中間保持温度を有する区域Bにおいて、オーステナイトからベイナイトへの変換速度は比較的速く、そして最終的な分率はほとんどフェライトおよびベイナイトと比較的小分率のマルテンサイトからなる。例示材料の化学的性質を表7に示し、上記処理後の特性を表8に示す。
【表7】
【表8】
【0042】
上記例の化学的性質において、主要な元素のみが示されていることは明確になるであろう。当然、不可避不純物は存在するが、他の元素も同様に存在し得るものであり、残部は鉄である。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b