(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来の発酵乳のpHは、乳タンパク質の等電点pH4.6よりも低いのが一般的である。すなわち、従来の発酵乳は、殺菌した乳原料に乳酸菌を接種し、pH4.6以下になるまで発酵した後に冷却することで製造され、最終製品のpHを3.8〜4.5の範囲に調整することが一般的である。
このような従来の発酵乳は強い酸味を有するため、いちごやブルーベリーといったフルーツと組合せた場合には、フルーツ素材の甘酸味を存分に生かすことができ、全体としての風味のバランスがとりやすい。また、このような発酵乳は、保存中にpHが0.3以上低下することが一般的であるが、酸味が増しても風味に大きな影響はない。そのため、フルーツ素材を利用した発酵乳として、様々な商品が開発され上市されている。
【0003】
他方、抹茶やチョコレートなどは、菓子の分野において最もポピュラーな食材の一つであり、様々な商品に利用されている。
このような抹茶やチョコレートなどの素材を含有する菓子のpHは中性付近であることが一般的であるが、これは、素材本来の風味を損なわずに美味しく喫食するためである。
【0004】
このような中性付近のpHでおいしく食することができる抹茶やチョコレートなどの素材は、もともと酸味を主とするものではないため、ここに酸味が加わると全体として味の調和が取れずおいしくなくなってしまう。そのため、これらの素材は、酸性食品である発酵乳に使用するのは困難であった。
【0005】
ところで、発酵乳の酸味を抑える技術としては、乳脂肪分に対する無脂乳固形分の割合を2〜6にし、酸度の進みにくいスターターを使用して液状発酵乳を製造する技術が知られている(特許文献1)。
また、発酵乳の保存中の酸度上昇を抑制する技術としては、特定の乳酸菌を用いる技術(特許文献2)や凝乳活性物質を添加し高いpHで発酵を終了させる技術(特許文献3)等が知られている。
【0006】
また、様々な成分を発酵乳に混合することにより、発酵乳の酸味をマスキングする技術も知られている(特許文献4〜7)。
また、あんに酸を添加しpHを下げ、発酵乳と混合する方法が知られている(特許文献8)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した通り、発酵乳の酸度上昇を緩やかにしたり、酸味を感じにくくしたりする技術は知られているが、中性付近のpHでおいしく食することができる抹茶やチョコレートなどの非酸性素材を発酵乳に組み合わせるための具体的な技術についてはこれまで検討されたことがなかった。
特許文献8に記載の方法により製造される製品は、酸味を強く感じさせるものであり、あんの素材の風味を生かすものとは言えなかった。
そこで、本発明は、中性付近のpHでおいしく食することができる非酸性素材を用い、これらの素材の風味を生かしながらも、全体として味の調和がとれた新しい嗜好性を有する発酵乳を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決する本発明は、発酵乳原料を乳酸菌スターターを用いて発酵させて、無脂乳固形分が9質量%以上であり、pHが4.8〜5.1である発酵乳ベースを調製する工程、及びpHが5.0以上である非酸性素材を前記発酵乳ベースに混合する工程、を含む、非酸性素材を含有する発酵乳の製造方法であって、
前記発酵乳ベースは、10℃で2週間保存した時のpH低下が0.3以内であることを特徴とする、非酸性素材を含有する発酵乳の製造方法。
無脂乳固形分が9質量%以上であり、pHが4.8〜5.1であり、かつ10℃で2週間保存した時のpH低下が0.3以内の発酵乳ベースを調製し、これにpHが5.0以上である非酸性素材を混合することにより、非酸性素材の風味を生かした嗜好性の高い発酵乳を製造することができる。また、このような方法を用いることにより、製造された発酵乳を例えば10℃で2週間程度保存した時にも、非酸性素材の良好な風味を維持することが可能となる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記乳酸菌スターターが、低酸性乳酸菌スターターであることを特徴とする。
低酸性乳酸菌スターターを使用することにより、発酵乳ベースのpHのコントロールが容易となる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記非酸性素材は、抹茶、チョコレート、ゴマ、ココア、キャラメル、きな粉、あん、栗、及び芋から選ばれる何れかを含有することを特徴とする。
上記非酸性素材は、中性付近のpHで素材本来の風味を生かすことができる素材である。言い換えれば、酸度が高い食品においては、素材本来の好ましい風味が損なわれやすい素材である。
本発明の製造方法は、このような非酸性素材を用いて発酵乳を製造するのに好適である。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記非酸性素材の含有量が発酵乳全量に対して5質量%以上30質量%未満となるように、前記非酸性素材を発酵乳ベースに混合することを特徴とする。
このような範囲で非酸性素材を混合することにより、製造される発酵乳のpHを適度に設定することが可能となり、また発酵乳を保存した時の風味の低下を抑制し、良好な風味を維持することが容易となる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記非酸性素材の糖度が50度以上70度未満であることを特徴とする。
非酸性素材の糖度をこのような範囲とすることにより、製造される発酵乳のpHを適度に設定しながら、甘味を良好な範囲に設定することが可能となり、また発酵乳を保存した時のpH低下を抑制することが容易となる。また、上記のようにpH低下が小さい状態での保存において、発酵乳の微生物汚染を有効に防ぐことができ、良好な風味の保持に有利である。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記非酸性素材の粘度は、1000mPa・s以上4000mPa・s未満であることを特徴とする。
前記非酸性素材の粘度の下限を上記とすることにより、非酸性素材を発酵乳ベースと混合した際に、適度な粘度を維持することができる。発酵乳の適度な粘度を維持することで、発酵乳の酸味を感じにくくし、非酸性素材に含まれる素材の風味が酸味によって低下することを防ぐことができる。また、食感、製造効率の面からも粘度の上限を4000mPa・s未満とすることが好ましい。
【0015】
本発明は、上述した発酵乳の製造方法により製造された、発酵乳を提供するものである。本発明の発酵乳は、中性付近のpHでおいしく食することができる素材の風味を生かしながらも、全体として味の調和がとれた新しい嗜好性を有するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、中性付近のpHでおいしく食することができる素材、例えば抹茶やチョコレートなどの風味を生かしながらも、全体として味の調和がとれた新しい嗜好性を有する発酵乳を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
本明細書において、乳、乳製品に関する分類は、特に断らない限り、『乳及び乳製品の成分規格等に関する省令』(以下、「乳等省令」という。)に基づくものである。
本明細書において、「%」パーセントについての表示は、特に断らない限り、質量による表示である。
本発明の発酵乳の製造方法は、発酵乳ベースに非酸性素材を混合し、容器に充填する、いわゆる前発酵タイプの発酵乳の製造方法である。本発明の製造方法の工程を
図1に示す。
【0019】
<1>発酵乳ベースの調製
本発明に用いられる発酵乳ベースは、発酵乳原料を、発酵させることにより得ることができる。
本発明において、「発酵乳原料」とは、発酵乳の製造に用いられる、乳、乳製品などの発酵乳原料を含む種々の原料を調製して得られる原料である。
本発明において、発酵乳原料は、従来発酵乳の製造において用いられるものを特に制限なく用いることができる。発酵乳原料に用いる乳製品としては、クリーム、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳等が挙げられる。
【0020】
また、発酵乳原料は、乳由来の乳糖以外の糖類を含むことが好ましい。発酵乳原料にこのような糖類を含有させておくことで、後に発酵乳ベースに混合する非酸性素材の混合量や糖濃度を適切な範囲にコントロールしやすくなり、発酵乳ベースと非酸性素材と混合した際に、好ましい糖度を有する発酵乳を得ることが容易となる。糖類としては、ショ糖、果糖等が好ましく挙げられる。
糖類の混合量は、発酵乳原料の糖度が、好ましくは8度以上25度未満、さらに好ましくは10度以上20度未満となるように、設定することができる。
【0021】
また、発酵乳原料の無脂乳固形分は、好ましくは9質量%以上、さらに好ましくは10〜15質量%である。発酵乳原料の無脂乳固形分を上記範囲としておくことにより、得られる発酵乳ベースの無脂乳固形分を9質量%以上とすることができる。
【0022】
また、発酵乳原料の乳脂肪分は、好ましくは2〜4質量%、さらに好ましくは2.5〜3.5質量%である。
【0023】
発酵乳原料の発酵は、通常の発酵乳の製造と同様、乳酸菌スターターを用いればよい。用いる乳酸菌は、特に制限されず、従来発酵乳の製造に用いられるものを用いることも可能である。
また、後述する発酵乳ベースのpH及び10℃で2週間保存した場合のpH低下を0.3以内とする観点から、低酸性乳酸菌スターターを用いることが好ましい。本発明において、低酸性乳酸菌スターターとは、無脂乳固形分10質量%の還元脱脂乳培地において40℃で発酵を行ったときに、培地のpHが5.0から4.6まで下がるのに要する時間が3時間以上である特徴を有する乳酸菌スターターをいう。
このような低酸性乳酸菌スターターとしては、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)等の菌種のものが市販されているので、これを用いることが可能である。例えば、クリスチャン・ハンセン社からF−DVS ST−20X、F−DVS ST−BODY−2、F−DVS ST−BODY−3等の商品名で市販されているものを使用することができる。
【0024】
本発明では、発酵は、pHが4.8〜5.1、好ましくは4.9〜5.0となった時点で終了させることが好ましい。発酵終了時のpHを上記の範囲とすることにより、後述する発酵乳において、非酸性素材に含まれる素材の風味と発酵乳特有のさわやかな風味との調和をとることが容易になる。
【0025】
乳酸菌の添加量は、通常の範囲で適宜調節することができる。例えば、発酵乳原料における菌濃度が、少なくとも1×10
5CFU/g程度、好ましくは少なくとも1×10
6CFU/g程度となるような量を添加することが好ましい。
【0026】
発酵温度及び時間としては、35〜43℃程度の温度で、5〜12時間程度、好ましくは5〜8時間程度が目安となる。
【0027】
上述の方法により得られた発酵物を、冷却、撹拌し、発酵乳ベースを製造することができる。
【0028】
このようにして得られた発酵乳ベースのpHは、4.8〜5.1、好ましくは4.9〜5.0である。また、得られた発酵乳ベースを10℃で2週間保存した時のpH低下は、0.3以内である。
このような性質をもった発酵乳ベースは、非酸性素材を混合した場合にも、非酸性素材の風味を損なうことがない。また、非酸性素材を含有する発酵乳を10℃で2週間程度保存した場合のpHの低下を抑制し、発酵乳の良好な風味を維持することが可能となる。
発酵乳ベースのpHは、発酵を終了させるタイミングを計ることで調整することが可能である。
また、10℃で2週間保存した時のpH低下を0.3以内とする方法としては、上述した低酸性乳酸菌スターターを用いる方法が挙げられる。
また、得られた発酵乳ベースに、糖アルコールや抗菌性物質等のpH低下を阻害する成分を添加する方法が挙げられる。
【0029】
また、発酵乳ベースの無脂乳固形分は、9質量%以上、好ましくは10〜15質量%、特に好ましくは11〜12質量%である。後述する実施例に示すように、発酵乳ベースの無脂乳固形分を上記の範囲とすることで、非酸性素材を含有する発酵乳を10℃で2週間保存した場合のpHの低下を抑制し、発酵乳の良好な風味を維持することが可能となる。
ここで、上記発酵後に得られた発酵物の無脂乳固形分が9質量%未満の場合には、カゼインなどの乳蛋白質を添加することにより、無脂乳固形分が9質量%以上の発酵乳ベースを調製することも可能であるが、舌触りの滑らかさの観点、製造工程の簡素化の観点から、発酵に用いる発酵乳原料の無脂乳固形分を調製することにより、発酵により得られる発酵物自体の無脂乳固形分を9質量%以上に調整することが好ましい。
【0030】
<2>非酸性素材の混合
本発明では、上記のように製造した発酵乳ベースに非酸性素材を混合する。
また、本発明においては、発酵終了後、カゼインタンパク質等の無脂乳固形分を添加することにより、無脂乳固形分を9質量%以上に調整することができる。
【0031】
非酸性素材を混合する際の発酵乳ベースの無脂乳固形分を上記範囲とすることで、保存時のpH低下を抑制することが可能となる。具体的には、10℃で2週間保存した時の発酵乳のpH低下を0.3以内に抑制することが可能となる。
【0032】
非酸性素材を混合する発酵乳ベースのpHは、好ましくは4.8〜5.1、さらに好ましくは4.9〜5.0である。
発酵乳ベースを上記範囲のpHとすることで、酸味を適切な範囲とすることができ、非酸性素材に含まれる素材の風味を存分に生かした発酵乳を製造することが可能となる。また、保存時におけるpH変化も0.3以内に抑えることが容易となる。
また、pHが大きすぎる場合には、ゲルの形成が弱く離水が多くなり、発酵乳全体の粘度が低下することにより、酸味を感じやすくなることがある。
【0033】
本発明において、発酵乳に混合する非酸性素材のpHは5.0以上、好ましくは5.0〜7.5である。また、非酸性素材に含有する素材としては、上記pHで素材本来のおいしさを発揮する素材、言い換えれば、酸度が高い食品においては、素材本来の風味が損なわれやすい素材が好ましい。例えば、抹茶、チョコレート、ゴマ、ココア、キャラメル、きな粉、あん、栗、及び芋があげられる。
【0034】
前記非酸性素材は、好ましくは糖を含むものである。糖の種類は特に制限されず、ショ糖、果糖、水飴等が好ましく挙げられる。非酸性素材の糖度は、好ましくは50度以上70度未満である。非酸性素材の糖度をこのような範囲とすることにより、工業的生産において、粘度調整などがしやすく、発酵乳ベースとの混合が容易になる。また、本発明のpH低下が抑制された状態での保存において、微生物汚染を有効に防ぐことができ、良好な風味の保持に有利である。
本発明において、糖度はBrix値を意味し、糖度計(Brix計)で測定することができる。
【0035】
非酸性素材としては、ソース状、ペースト状のものが好ましく用いられる。
前記非酸性素材の粘度は、好ましくは1000mPa・s以上4000mPa・s未満である。
粘度の下限値を上記のようにすることにより、前記非酸性素材を発酵乳ベースと混合した際に、発酵乳において適度な粘度が維持される。適度な粘度を維持することにより、非酸性素材に含まれる素材の風味が酸味によって低下することを防ぐことが可能となる。これは、粘度が低い食品では酸味を感じやすくなるためである。
また、粘度の上限値を上記のようにすることにより、混合効率が良くなるため、製造効率の点から有利である。
【0036】
前記非酸性素材の粘度は、増粘剤の添加により調整することができる。増粘剤としては、グアガム、キサンタンガム、ペクチン等を用いることができる。
【0037】
非酸性素材の組成として、例えば、以下の処方が好ましく挙げられる。
ショ糖、果糖、水飴から選ばれる糖類:30〜80質量%
水:0〜40質量%
風味づけに用いられる素材(ゴマ、チョコレート、抹茶):4〜40質量%
増粘剤:0〜0.5質量%
【0038】
前記非酸性素材の発酵乳ベースへの混合は、発酵乳全量に対して、好ましくは5質量%以上30質量%未満、さらに好ましくは10質量%以上25質量%未満の含有量で実施される。このような範囲で非酸性素材を混合することにより、製造される発酵乳のpHを適度に設定することが可能となる。
また、非酸性素材の発酵乳ベースへの混合は、発酵乳のpHが、4.7以上、好ましくはpH4.9〜5.0程度となるように行うことが好ましい。
このような範囲で非酸性素材の混合量を調整することにより、発酵乳ベースを10℃で2週間保存した時のpH低下を、0.3以内に抑えることが容易となる。
【0039】
また、前記非酸性素材の混合量は、発酵乳の糖度が15度以上30度未満となるような量を目安とすることもできる。このような範囲で非酸性素材を混合することにより、素材の風味を生かした嗜好性の高い発酵乳を製造できるだけでなく、本発明のpH低下が抑制された状態での保存において、微生物汚染を有効に防ぐことができ、良好な風味の保持に有利である。
【0040】
非酸性素材の発酵乳ベースへの混合は、通常、乳製品の製造に用いられる混合機を用いて行うことができる。
【0041】
<3>その他の工程
本発明においては、上記で説明した工程以外にも、発酵乳の製造で通常行われる原料の殺菌、冷却、任意成分の添加などの工程を、適宜行うことができる。
【0042】
上記のように製造された発酵乳は、80〜500ml容程度、好ましくは80〜250ml容程度の容器に充填し、密閉する。また、容器入りの製品は、通常10℃以下、好ましくは5℃以下で保存する。
容器は、紙製、ガラス製、プラスチック製(例えばポリプロピレン製、ポリエチレンテレフタレート(PET)製、ポリスチレン製、ポリエチレン製)が好ましい。
【0043】
本発明の発酵乳は、非酸性素材に含まれる素材の風味を生かした良好な嗜好性を有するものである。また、本発明の発酵乳は、保存した時のpH低下が抑制されており、保存下においても、良好な嗜好性を保持しているものである。特に、10℃で2週間保存した時のpH低下が、0.3以内である。
【実施例】
【0044】
<試験1>素材のおいしさとpHの関係
抹茶、チョコレート、黒ゴマを含有する非酸性素材を作製し、クエン酸にてpHを6.0〜4.0に調整した。
10名の専門パネルにより、おいしさの官能評価を以下の基準に従って実施した。評価のスコアの平均値を表1に示した。
【0045】
(基準)
1:酸味が非常に強く、素材本来の風味が全く感じられない、
2:酸味が強く、素材本来の風味がほとんど感じられない、
3:酸味が有り、素材本来の風味が弱く感じられる、
4:酸味がやや有り、素材本来の風味が感じられる、
5:酸味が無く、素材本来の風味が強く感じられる。
【0046】
【表1】
【0047】
評価の結果、pHが4.6以上であれば、風味が良好であることが分かった。すなわち、これらの素材を発酵乳に使用する場合、発酵乳のpHを4.6以上に保つことができれば、全体として素材の風味を生かした発酵乳となると考えられた。
【0048】
<実施例1>発酵乳の製造
(1)非酸性素材の製造
表2〜4に示す配合で各原料を混合し、非酸性素材を製造した。各非酸性素材の糖度及び粘度を併せて表中に示す。
糖度は、デジタル糖度計(株式会社アタゴ社製、PR-100)で測定した。また、粘度は、10℃においてB型粘度計のNo.4ローターを使用し、60回転/秒で10秒測定した。
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
(2)発酵乳ベースの製造
表5に記載の配合の発酵乳原料に乳酸菌スターターを接種し、43℃で発酵を行った。
脱脂濃縮乳は、生乳を遠心分離して脱脂乳を得た後、減圧濃縮したもの(脂肪分0.3%、無脂乳固形分34.6%)を用いた。クリームは、生乳を遠心分離して得られた生クリーム(脂肪分45.5%、無脂乳固形分4.5%)を用いた。
低酸性乳酸菌スターターとしては、クリスチャン・ハンセン社のST−20Xを用いた。この低酸性乳酸菌スターターは、無脂乳固形分10質量%の還元脱脂乳培地において40℃で発酵を行ったときに培地のpHが5.0から4.6まで下がるのに要する時間が4時間であった。
通常スターターとしては、クリスチャン・ハンセン社のYF−L904を用いた。この通常スターターは、無脂乳固形分10質量%の還元脱脂乳培地において40℃で発酵を行ったときに培地のpHが5.0から4.6まで下がるのに要する時間が2時間であった。
各サンプルに関し、pHが5.0となった時点で、発酵を終了させた後、撹拌、冷却することにより、発酵乳ベースを得た。
【0053】
【表5】
【0054】
発酵乳ベースの無脂乳固形分、糖度、pHを表6に示す。また、併せて、この発酵乳ベースを10℃で2週間保存した場合のpHについても同表に示す。
【0055】
【表6】
【0056】
(3)発酵乳の製造
上記で製造した非酸性素材と発酵乳ベースを質量比で1:3の割合で混合し、発酵乳を得た。
各発酵乳の糖度は15度以上30度未満であった。
【0057】
発酵乳を10℃で保存し、製造後1日目と14日目のpHを測定した。結果を表7に示す。
続いて、発酵乳の専門パネル10名による官能評価を実施した。酸味、おいしさについて、表8の基準に従い5段階で評価した。評価の平均値を表9、10に示す。
【0058】
【表7】
【0059】
【表8】
【0060】
【表9】
【0061】
【表10】
【0062】
評価の結果、本発明の製造方法で製造した製品(実施例)は、製造後1日目のみならず、製造後14日目においても酸味が弱く、風味良好であった。
また、発酵乳ベースのpHが4.8〜5.1の範囲にある場合でも、10℃で2週間保存した時の発酵乳ベースのpH低下が0.3を超えるものに対し、pH5以上の非酸性素材を添加した場合には、非酸性素材の風味が失われずにおいしさを維持できる効果は得られないことも分かった。
また、発酵乳ベースのpHが4.8〜5.1の範囲にあり、10℃で2週間保存した時の発酵乳ベースのpH低下が0.3以内である場合でも、無脂乳固形分が9質量%未満の発酵乳ベースを用いた場合には、製造後14日目には、酸味が強く風味が悪くなることが分かった。
このように、非酸性素材の風味を失わずにおいしさを維持するためには、発酵乳ベースのpH、pHの低下量、無脂乳固形分のすべてが重要であることが分かった。