【文献】
高齢社会住宅設計研究会 編,「高齢社会住宅設計モデル集 健康に・美しく・住み続ける」,日本,新日本法規出版株式会社,1998年 6月 1日,p130−p135、p116−p121
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、例えば要介護者が寝室からトイレに移動する際に、要介護者に対して進行方向の変更が強いられる。また、要介護者がトイレに行くのか、洗面脱衣室に行くのかによって進行方向が異なり、移動時における姿勢の変更等が強いられることが懸念される。特に要介護者が車椅子を利用する場合を想定すると、車椅子の進行方向を何度も変更する必要が生じ、車椅子移動に際して不都合の発生が懸念される。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、要介護者等のユーザがトイレや洗面室、浴室に移動する際の負担軽減を図ることができる住宅を提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するのに有効な手段等につき、必要に応じて作用、効果等を示しつつ説明する。なお以下においては、理解の容易のため、発明の実施の形態において対応する構成の符号を括弧書き等で適宜示すが、この括弧書き等で示した具体的構成に限定されるものではない。
【0007】
第1の発明は、
寝室(14)、トイレ(15)、洗面室(16)、及び浴室(17)を有する住宅(10)であって、
前記寝室と前記浴室との間に、前記トイレと前記洗面室とが、そのうち一方が前記寝室側、他方が前記浴室側になるようにして一列に配置され、
これら寝室、トイレ、洗面室及び浴室において隣り合う部屋同士の間には、ユーザの行き来を可能とする開口部(42,45,47)が設けられており、
前記各開口部に、それぞれ開閉体(43,46,48)が設けられていることを特徴とする。
【0008】
上記構成では、寝室に対してトイレ、洗面室及び浴室が一列になるように配置されており、これら各部屋は隣り合う部屋同士が開口部を介して連通されている。したがって、ユーザ(要介護者)が寝室からトイレ、洗面室、浴室のいずれかに移動しようとする場合には、いずれも同じ方向に向けて移動すればよく、移動に際して方向転換を極力少なくすることができる。これにより、トイレや洗面室、浴室を使用する場合のユーザ(要介護者又は介護者)の負担軽減を図ることができる。
【0009】
第2の発明は、前記寝室と前記浴室との間には、前記トイレが前記寝室側、前記洗面室が前記浴室側になるようにしてこれらトイレと洗面室とが設けられていることを特徴とする。
【0010】
上記構成では、寝室→トイレ→洗面室→浴室の順にこれら各部屋が一列に並んでいる。この場合、要介護者におけるトイレと洗面室との使用頻度を考えると、トイレの使用頻度の方が洗面室の使用頻度よりも高いと考えられる。さらに言えば、浴室の使用頻度は、トイレや洗面室の使用頻度よりも低いと考えられる。この点、上記の各部屋の並びは使用頻度に則した並びであると言え、ユーザの負担軽減を図る上で好適な構成を実現できる。
【0011】
第3の発明は、前記寝室、前記トイレ、及び前記洗面室において隣り合う部屋同士の間の前記各開口部に設けられた開閉体は引き戸であって、その引き戸の開放により、車椅子の通過が可能な幅を有する通路が形成されるようになっていることを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、要介護者が車椅子に乗って移動する場合に部屋同士の間の開口部を容易に通過でき、要介護者にとって好適な構成を実現できる。
【0013】
第4の発明は、前記寝室、前記トイレ、及び前記洗面室において隣り合う部屋同士の間の前記各開口部を繋ぐようにして、前記トイレ内及び前記洗面室内に、車椅子の移動が可能な直線状の第1移動経路(R1)が形成されており、その第1移動経路の延びる方向に直交する方向にずれ、かつ該第1移動経路における車椅子の移動に邪魔にならない位置に、前記トイレ内の便器(51)、及び前記洗面室内の洗面台(55)が設置されていることを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、要介護者用が車椅子に乗って移動する場合に、便器や洗面台が邪魔になることなく、これらの前を通過できる。したがって、各々が一列に並ぶトイレ、洗面室及び浴室への移動が容易となる。
【0015】
第5の発明は、前記寝室、前記トイレ、前記洗面室及び前記浴室がこの順に並べて配置されている構成において、前記トイレ内には、前記第1移動経路の途中からこの第1移動経路に対して斜めとなりかつ前記洗面室内の洗面台に向かう第2移動経路(R2)が形成され、前記寝室、前記洗面室、前記トイレ及び前記浴室がこの順に並べて配置されている構成において、前記洗面室内には、前記第1移動経路の途中からこの第1移動経路に対して斜めとなりかつ前記トイレ内の便器に向かう第2移動経路(R2)が形成されるようになっていることを特徴とする。
【0016】
上記構成によれば、第2移動経路が形成されていることで、トイレを通過して洗面室の洗面台に向かう場合にその洗面台に向けてスムーズな移動が可能となる。又は、洗面室を通過してトイレの便器に向かう場合にその便器に向けてスムーズな移動が可能となる。この場合、トイレ内又は洗面室内には、車椅子の方向調整を可能とするスペースが確保されているとよい。
【0017】
第6の発明は、前記トイレ及び前記洗面室は、その並び方向に延び互いに対向する一対の壁部の間に設けられており、その一対の壁部の一方の側に、前記寝室、前記トイレ及び前記洗面室において隣り合う部屋同士を連通する前記開口部がそれぞれ設けられ、他方の側に前記トイレ内の便器(51)、及び前記洗面室内の洗面台(55)がそれぞれ設置されていることを特徴とする。
【0018】
上記構成によれば、寝室、トイレ及び洗面室を通じて一直線の動線を設定できる。したがって、要介護者が車椅子に乗って移動する場合に、その移動が直線移動となり、一層好適な構成を実現できる。
【0019】
第7の発明は、前記トイレには、前記寝室、前記洗面室及び前記浴室以外の屋内空間に通じる出入口(22)が設けられ、その出入口に開閉体(25)が設けられるとともに、前記洗面室には、前記寝室、前記トイレ及び前記浴室以外の屋内空間に通じる出入口(23)が設けられ、その出入口に開閉体(26)が設けられていることを特徴とする。
【0020】
上記構成によれば、トイレや洗面室において寝室からのアクセスが容易な開口部以外に、別経路からのアクセスを可能とする出入口が設けられている。この場合、トイレや洗面室の使用に関して要介護者とそれ以外のユーザ(例えば同居家族)とで生活動線を区別することができ、双方のプライバシや快適性を確保できる。
【0021】
第8の発明は、前記寝室には、要介護者用のベッド(37)が設置されるとともに、そのベッドと、前記寝室に隣接する前記トイレ又は前記洗面室に通じる前記開口部との間に、車椅子の旋回が可能な旋回スペース(S1)が設けられていることを特徴とする。
【0022】
上記構成によれば、寝室内において車椅子の旋回が可能であり、要介護者が車椅子に乗った状態でトイレや洗面室等に移動しようとする場合に、その移動が容易となる構成を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、要介護者と、その要介護者の介護を行う介護者とが同居することを想定した住宅について具体化しており、その住宅の1フロアの間取りを
図1に示す。
【0025】
住宅10は、玄関11と、その玄関11に通じる玄関ホール12と、ダイニングキッチンが一体化された居室13(LDK)と、寝室14と、トイレ15と、洗面室16と、浴室17とを有している。玄関ホール12は、開口部21を介して居室13に通じているとともに、開口部22,23を介してトイレ15及び洗面室16にそれぞれ通じている。これら各開口部21〜23には、引き戸又は開き戸からなる開閉体24,25,26が設けられており、その開閉体24〜26を開放することで各部屋への出入りが可能となっている。本実施形態では、玄関ホール12と居室13との間の開閉体24を引き戸、玄関ホール12とトイレ15との間の開閉体25を開き戸、玄関ホール12と洗面室16との間の開閉体26を引き戸としている。
【0026】
また、寝室14には、介護者用の寝室スペース14aと要介護者用の寝室スペース14bとが設けられており、これら両スペース14a,14bは仕切部材28により2つの空間に仕切られている。仕切部材28は、両スペース14a,14bを仕切った状態にでき、かつ両スペース14a,14bにおけるユーザの行き来を可能とする構成であれば任意の構成が適用でき、例えばカーテンや可動間仕切(パーティション)、襖などを用いた構成が考えられる。
【0027】
介護者用の寝室スペース14aと要介護者用の寝室スペース14bとは、各々が居室13に隣接し、かつ要介護者用の寝室スペース14bが玄関側、介護者用の寝室スペース14aがその反対側になるように配置して設けられている。寝室14と居室13との間の間仕切壁31には、介護者用の寝室スペース14aと居室13とを連通する開口部32が設けられており、その開口部32には開き戸よりなる開閉体33が設けられている。また、要介護者用の寝室スペース14bと玄関ホール12との間は、引き戸からなる開閉体35により仕切られている。開閉体35をトイレ15側にスライドさせることで寝室スペース14bと玄関ホール12との間が開放され、それら両空間の行き来が可能となっている。開閉体35は、玄関ホール12の幅とほぼ同様の幅で設けられているが、この構成に代えて、寝室スペース14bと玄関ホール12との間に設けられる間仕切壁の一部に開口部が設けられ、その開口部に開閉体35が設けられる構成であってもよい。
【0028】
本実施形態では、要介護者が車椅子を利用して住宅10内を移動することを想定し、要介護者の移動が想定される移動経路上に存在する開口部については、その開口部に設けられる開閉体をいずれも引き戸としている。この場合、要介護者にとって車椅子に乗ったままでも開閉体の開閉が容易となっている。なお、引き戸の大きさは、その開放により車椅子が容易に移動できる大きさであればよく、例えば1枚の横幅が1000mm以上(〜1500mm程度)であるとよい。また、閉め切り時やスライド移動時に生じる音が小さい遮音性の高い引き戸が用いられるとよい。
【0029】
ちなみに、要介護者用の寝室スペース14bへの出入口として、寝室14と居室13との間の間仕切壁31(寝室スペース14b側の部分)に開口部を設け、その開口部に開閉体(引き戸)を設ける構成であってもよい。間仕切壁31に寝室スペース14bの出入口を設ける場合、玄関ホール12から要介護者用の寝室スペース14bへは直接移動することはできないが、寝室スペース14bの出入口の開閉体、居室13の出入口の開閉体をいずれも引き戸にすることで、玄関ホール12から寝室スペース14bへの移動が容易となっている。
【0030】
要介護者用の寝室スペース14bには、要介護者が利用するベッド37が設置され、そのベッドサイドには移動介助バー38が設けられている。移動介助バー38としては、例えば
図3に示すものが考えられる。つまり、移動介助バー38は、床上に設置されるベース板38aと、そのベース板38aの上面に立設される手摺部38bとを有して構成されている。この移動介助バー38は、ベッド37からの立ち上がりや、衣類(パジャマ、下着等)の着脱時における立位姿勢の保持に利用されるものである。ただし、移動介助バー38は、車椅子利用レベルより前の軽介助レベル又は自立歩行レベルの身体機能を有する、比較的軽度の要介護者に利用され、車椅子使用レベルの要介護者の場合には、寝室スペース14b内に設置されないか、又は車椅子の乗り降りに邪魔にならない場所に置かれているとよい。
【0031】
また、要介護者用の寝室スペース14b内には、車椅子の旋回が可能な旋回スペースS1が確保されている。つまり、寝室スペース14bは、ベッド37の設置スペース以外に、車椅子の旋回を行う旋回スペースS1を有する大きさとなっている。その他に、ベッドサイドには車椅子への移乗を行う移乗スペースが確保されていることが望ましい。旋回スペースS1について付言すると、同スペースS1は、ベッド37とトイレ15との間に設けられている。この旋回スペースS1においては、トイレ15の真横位置(便器の真横位置も含む)での車椅子の旋回が可能となっている。旋回スペースS1は、少なくとも1m四方程度の大きさであるとよい。
【0032】
こうして寝室スペース14bにおいて車椅子の旋回が行われる場合、床材(フローリング材)としては、車椅子のキャスタで傷が付きにくい床材が用いられることが望ましい。具体的には、床材の表面に硬質の被覆層(例えばEBコート:電子線照射樹脂塗装)を有する床材が用いられるとよい。
【0033】
なお、両スペース14a,14bは個別に仕切られることが必須ではなく、仕切部材28を常時開放させておくことにしたり、仕切部材28を設けない構成にしたりすることも可能である。
【0034】
トイレ15と、洗面室16と、浴室17とは、玄関11の側方において一列に並ぶようにして配置されており、要介護者用の寝室スペース14bに隣接してトイレ15が設けられ、トイレ15を挟んで寝室スペース14bの反対側に洗面室16と浴室17とが並べて設けられている。なお、洗面室16は、ユーザが浴室17で入浴する際に脱衣を行う脱衣室としての役割も有している。
【0035】
本実施形態では特に、寝室スペース14bとトイレ15とは開口部42により連通可能となっており、その開口部42には引き戸からなる開閉体43が設けられている。開閉体43を玄関ホール12側にスライドさせることで開口部42が開放され、寝室スペース14bとトイレ15との行き来が可能となっている。この開閉体43と、寝室スペース14bと玄関ホール12との間に設けられる開閉体35とは直線状に配置され、これら開閉体35,43により一対の引き戸が構成されている。本実施形態では、トイレ15及び洗面室16の並び方向に延び互いに対向する一対の壁部の間にトイレ15が設けられており、その一対の壁部の一方から他方までの間が開口部42となっている。そして、開閉体43の開放によりトイレ側面について全面開放が可能となっている(ただし、垂れ壁部分を有する場合はこれを除く)。なお、開閉体43を複数の引き違い戸(例えば3枚以上)により構成し、玄関ホール12とは反対側にもスライド可能になっていてもよい。
【0036】
また、トイレ15と洗面室16とは開口部45により連通可能となっており、その開口部45には引き戸からなる開閉体46が設けられている。この開閉体46は、複数の引き違い戸により構成されており、いずれかをスライドさせることで開口部45が開放され、トイレ15と洗面室16との行き来が可能となっている。開閉体46の引き違い戸は3枚以上であるとよい。例えば引き違い戸を3枚とした場合、洗面室16の側面の約2/3の開放が可能となっている。また、浴室17の出入口部に設けられた開口部47には折戸式の開閉体48が設けられている。
【0037】
要するに、上述したとおりトイレ15には玄関ホール側の出入口として開口部22(及び開閉体25)が設けられ、洗面室16には同じく玄関ホール側の出入口として開口部23(及び開閉体26)が設けられているが、これとは別に、トイレ15及び洗面室16には、要介護者用の寝室スペース14bに通じる出入口として開口部42,45(及び開閉体43,46)が設けられている。
【0038】
寝室14、トイレ15、洗面室16の床部については車椅子が容易に移動できるよう、床面に段差が設けられておらず、いわゆるバリアフリー化がなされている。これは居室13及び玄関ホール12についても同様である。
【0039】
トイレ15には便器51が設置されている。また、便器51の両サイドには、便器51の着座及び離座の際に用いられる手摺52が設けられている。手摺52については周知の構成が適用されればよいため詳細な説明は割愛するが、例えばL字状の棒状部材よりなる構成が用いられるとよい。
【0040】
また、洗面室16には、車椅子対応型の洗面台55が設置されている。この洗面台55としては、例えば
図4に示すものが考えられる。つまり、洗面台55は、その上部に設けられた洗面ボウル56と、左右両側に設けられた一対の幕板部57とを有しており、洗面ボウル56の下方であって左右の幕板部57の間は車椅子の進入が可能な空間部58となっている。洗面ボウル56の高さは、大人のユーザが立った状態で利用することを想定した通常高さよりも低く設定されている(例えば洗面ボウル56の手前高さが750mm)。また、幕板部57の手前側は、車椅子とのぶつかりを回避するべく、洗面ボウル56の手前部分よりも後方に後退した形状となっている。以上により、要介護者は車椅子に乗った状態のまま洗面台55の利用が可能となっている。なお、左右の幕板部57の間には棚板(図示略)が着脱可能に取り付けられるようになっているとよく、要介護者が自立歩行レベルである場合には、空間部58に棚板を取り付けることで収納棚としての利用が可能となっている。
【0041】
洗面室16において浴室17の入り口付近には、脱衣用の腰掛けベンチ61が取り付けられている。腰掛けベンチ61としては、例えば
図5に示すものが考えられる。つまり、腰掛けベンチ61は、洗面室16の壁部Wに取り付けられる可動式ベンチ(折り畳み式ベンチ)として構成されている。より具体的には、腰掛けベンチ61は、ヒンジ部62により回動可能に支持された板状の尻置き部63を有しており、ベンチ非使用時には尻置き部63が壁部Wに重なるようにして配置され、ベンチ使用時には尻置き部63が壁部Wから垂直に突き出るようにして配置される。なお、符号64は、ベンチ使用時に尻置き部63を引き倒すための取手である。
ちなみに、腰掛けベンチ61のスペースをより確保するため、開閉体26を引き戸に変更してもよい。その引き戸は玄関側へ開くように構成することが洗面室16内のスペース確保のためには望ましい。
【0042】
また、浴室17内には洗い場65と浴槽66とが設けられている。なお、浴室17内に脱衣所が設けられている構成であってもよい。
【0043】
トイレ15内及び洗面室16内には、各開口部42,45を繋ぐようにして、車椅子の移動が可能な移動経路R1(
図2参照)が形成されている。この場合、トイレ15内の便器51、及び洗面室16内の洗面台55は、移動経路R1の延びる方向に直交する方向にずれ、かつ該移動経路R1における車椅子の移動に邪魔にならない位置に設置されている。
【0044】
ここで、要介護者以外のユーザ(健康体ユーザ)は、トイレ15を利用する場合に、玄関ホール12から開口部22を介してトイレ15内に入ることになる。また、要介護者以外のユーザは、洗面室16を利用する場合に、玄関ホール12から開口部23を介して洗面室16内に入ることになる。
【0045】
これに対し、要介護者は、要介護者用の寝室スペース14bからトイレ15や洗面室16に移動することが多いと考えられ、寝室スペース14bに通じる開口部42,45を介してトイレ15内又は洗面室16内に入ることになる。この場合、要介護者が車椅子を利用することを想定すると、以下のとおりに動作が行われる。
図2には、住宅内における車椅子の移動経路R1〜R4を示している。
【0046】
まず、ベッド37上において車椅子Cをベッドサイドに引き寄せ、その車椅子Cに移乗する。次に、車椅子Cを旋回スペースS1に移動させ、寝室スペース14b側から開閉体43を開くとともに、必要に応じて車椅子を旋回させる(向きを変える)。この場合、開閉体43は引き戸であるため、車椅子に乗ったままでも開放作業が行いやすくなっている。また、トイレ側面について全面開放が可能であるため、便器51へのアプローチのパターンが広がり、いかなる身体機能のユーザも便器51への移乗が容易となっている。例えば移動経路R3として示す経路に沿って、移動経路R1に対して斜めに車椅子Cを移動させるとよい。そして、トイレ15にて用を足すのであれば、手摺52を使う等して車椅子Cから便器51に移動し、用便する。
【0047】
また、要介護者が洗面室16まで移動するのであれば、トイレ15側から開閉体46を開くとともに、移動経路R1又はR2に沿って車椅子Cを移動させる。この場合、車椅子Cはトイレ15を横切って移動することになる。換言すれば、トイレ15内がその先の場所(洗面室16)に行くためのアクセス通路として使われることになる。またこの場合、要介護者が洗面台55を利用するのであれば、トイレ15内を方向調整スペースとして利用しながら洗面台55に向けて斜めにアプローチするとよい(移動経路R2)。移動経路R2は、移動経路R1の途中からこの移動経路R1に対して斜めとなる円弧状の経路として形成されるようになっている。なお、最後は車椅子Cの前側が洗面台55の正面を向くとよい。そして、要介護者は、洗面室16において車椅子Cに乗ったまま洗面台55にて手や顔を洗ったりする。この場合、介護者が付き添っていたとしても、移動の際及び手洗い等の際の介助の負担が大いに軽減されたものとなっている。
【0048】
さらに、要介護者が浴室17にて入浴するのであれば、移動経路R1に沿って車椅子Cを移動させる。そして、洗面室16において腰掛けベンチ61を使って脱衣及びシャワーチェアへの移乗を行い、その後入浴する。
【0049】
要介護者が車椅子Cに乗って移動する場合だけでなく、介護者の介助によりトイレ15や洗面室16等に歩行移動する場合にも、要介護者及び介護者の負担が大いに軽減されるものとなっている。つまり、仮に洗面室16に移動するにしても、その移動の際に方向転換をしたり、行き先に応じて進路を変えたりすることが極力少なくなっており、要介護者にとっても介護者にとっても負担が軽減される。
【0050】
なお、要介護者が玄関ホール12と寝室14との間で移動する場合には、移動経路R4に示すように、開閉体35を開放させることで、玄関ホール12と寝室14との一方から他方に直接移動するとよい。
【0051】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0052】
寝室14と浴室17との間に、トイレ15が寝室14側、洗面室16が浴室17側になるようにしてトイレ15と洗面室16とを一列に配置するとともに、寝室14、トイレ15、洗面室16及び浴室17において隣り合う部屋同士の間に開口部42,45,47と開閉体43,46,48とを設ける構成とした。かかる構成によれば、ユーザ(要介護者)が寝室14からトイレ15、洗面室16、浴室17のいずれかに移動しようとする場合には、いずれも同じ方向に向けて移動すればよく、移動に際して方向転換や車椅子の切り返しを極力少なくすることができる。これにより、トイレ15や洗面室16、浴室17を使用する場合のユーザ(要介護者又は介護者)の負担軽減を図ることができる。
【0053】
また、トイレ15や洗面室16をその先の場所への通路、方向転換、または車椅子の切り返しのスペースとして利用できることから、住宅10における省スペース化を図ることができる。
【0054】
また、寝室14→トイレ15→洗面室16→浴室17の順に並ぶ各部屋の配置によれば、使用頻度、すなわちその場所への移動の頻度に応じた間取りを実現でき、要介護者や介護者にとっての使い勝手が向上する。つまり、要介護者におけるトイレ15、洗面室16及び浴室17の使用頻度を考えると、トイレ15→洗面室16→浴室17の順に使用頻度が低くなると考えられる。この点、上記のとおりの間取りにすることで、ユーザ(要介護者又は介護者)の負担軽減を図る上で好適な構成を実現できる。
【0055】
寝室14、トイレ15、及び洗面室16において隣り合う部屋同士の間の開口部42,45に設けられた開閉体43,46を引き戸とし、その開閉体43,46の開放により、車椅子の通過が可能な幅を有する通路が形成されるようにした。これにより、要介護者が車椅子に乗って移動する場合に部屋同士の間の開閉体43,46を容易に通過でき、ユーザにとって好適な構成を実現できる。
【0056】
トイレ15内及び洗面室16内に直線状の移動経路R1を設定し、その移動経路R1における車椅子の移動に邪魔にならない位置に、トイレ15内の便器51、及び洗面室16内の洗面台55を設置した。これにより、要介護者用が車椅子に乗って移動する場合に、その移動が容易となる。
【0057】
トイレ15内に、直線状の移動経路R1の途中からこの移動経路R1に対して斜めとなりかつ洗面室16内の洗面台55に向かう別の移動経路R2が形成されるようにした。これにより、トイレ15を通過して洗面台55に向かう場合にその洗面台55に向けてスムーズな移動が可能となる。この場合、トイレ15内が車椅子の方向調整スペースとして利用されることで、円弧状経路に沿った移動が可能となっている。
【0058】
トイレ15や洗面室16において、寝室14(要介護者用の寝室スペース14b)からのアクセスが容易な開口部42,45以外に、別経路からのアクセスを可能とする出入口、すなわち玄関ホール12に通じる開口部22,23を設ける構成とした(2方向の出入を可能とした)。これにより、トイレ15や洗面室16の使用に関して要介護者とそれ以外のユーザ(例えば同居家族)とで生活動線を区別することができ、双方のプライバシや快適性を確保できる。この場合、要介護者とそれ以外のユーザ(例えば同居家族)とで生活の時間帯が異なっていても、要介護者の安眠等を妨げずにトイレ15や洗面室16等の使用が可能となっている。
【0059】
寝室14において、要介護者用のベッド37とトイレ15に通じる開口部42との間に、車椅子の旋回が可能な旋回スペースS1を設けたため、要介護者が車椅子に乗った状態でトイレ15や洗面室16等に移動しようとする場合に、その移動が容易となる構成を実現できる。
【0060】
寝室14に、介護者用の寝室スペース14aと要介護者用の寝室スペース14bとを設け、その間を仕切部材28により出入り可能に仕切る構成とした。これにより、介護者と要介護者との相互のプライバシが尊重されつつも、要介護者の体調の異変等が生じた場合に介護者がそれに素早く気付くことができるようになっている。
【0061】
[他の実施形態]
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
【0062】
・上記実施形態では、寝室14と浴室17との間に、トイレ15が寝室14側、洗面室16が浴室17側になるようにしてトイレ15と洗面室16とを並べて設けたが、これを変更し、洗面室16が寝室14側、トイレ15が浴室17側になるようにしてトイレ15と洗面室16とを並べて設ける構成としてもよい(
図1においてトイレ15と洗面室16とを入れ替えた構成)。
【0063】
かかる構成において、洗面室16b内に、直線状の移動経路R1の途中からこの移動経路R1に対して斜めとなりかつトイレ15内の便器51に向かう別の移動経路R2が形成されるようになっているとよい。これにより、洗面室16を通過して便器51に向かう場合にその便器51に向けてスムーズな移動が可能となる。この場合、洗面室16内が車椅子の方向調整スペースとして利用されることで、円弧状経路に沿った移動が可能となっている。
【0064】
・上記実施形態では、トイレ15を玄関ホール12に隣接して設け、そのトイレ15に、寝室14及び洗面室16以外の屋内空間に通じる出入口として、すなわち要介護者以外のユーザ用の出入口として玄関ホール12に通じる開口部22を設けたが、これを変更してもよい。例えば、トイレ15を居室13や廊下(図示略)に隣接して設け、要介護者以外のユーザ用の出入口を、居室13や廊下に通じる開口部として設けてもよい。洗面室16についても同様である。
【0065】
・上記実施形態では、トイレ15及び洗面室16の並び方向に延び互いに対向する一対の壁部の一方から他方までの間を開口部42,45としたが、これを以下のように変更してもよい。すなわち、寝室スペース14bとトイレ15との間に間仕切壁を設け、その間仕切壁の一部に開口部42を設ける構成としてもよい。また、トイレ15と洗面室16との間に間仕切壁を設け、その間仕切壁の一部に開口部45を設ける構成としてもよい。かかる構成では、上記一対の壁部においてその一方の壁部の側に寄せて開口部42,45をそれぞれ設け、他方の壁部の側に寄せてトイレ15内の便器51、及び洗面室16内の洗面台55をそれぞれ設置するとよい。
【0066】
・トイレ15及び洗面室16に、トイレ15、洗面室16及び浴室17が一列に並ぶ方向に延びる手摺を設ける構成としてもよい。具体的には、
図6に示すように、トイレ15及び洗面室16の屋内側の面に手摺71a〜71dを設ける構成とする。この場合、トイレ15の壁面に手摺71aを、トイレ15の開閉体25に手摺71bを、洗面室16の開閉体26に手摺71cを、洗面室16の壁面に手摺71dをそれぞれ設け、これら各手摺71a〜71dの高さ位置を同一にして、一列に並べるようにして構成する。これにより、要介護者がトイレ15や洗面室16、浴室17に車椅子無しで移動しようとする場合に、手摺71a〜71dを伝っての移動を行うことができ、その移動の補助が可能となる。
【0067】
・本発明が適用される住宅は、タイプを問わず、戸建て住宅以外に多層階の集合住宅であってもよい。