特許第5940516号(P5940516)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5940516建築構造物における振動を減衰させる接続部材
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940516
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】建築構造物における振動を減衰させる接続部材
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20160616BHJP
【FI】
   E04H9/02 301
【請求項の数】11
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-270388(P2013-270388)
(22)【出願日】2013年12月26日
(62)【分割の表示】特願2013-548710(P2013-548710)の分割
【原出願日】2012年1月11日
(65)【公開番号】特開2014-95287(P2014-95287A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2014年12月10日
(31)【優先権主張番号】61/432,631
(32)【優先日】2011年1月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508129300
【氏名又は名称】クリストポロス、コンスタンティン
【氏名又は名称原語表記】CHRISTOPOULOS,Constantin
(73)【特許権者】
【識別番号】508129322
【氏名又は名称】モンゴメリー、マイケル
【氏名又は名称原語表記】MONTGOMERY,Michael
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】クリストポロス、コンスタンティン
(72)【発明者】
【氏名】モンゴメリー、マイケル
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−033963(JP,A)
【文献】 特開2002−357009(JP,A)
【文献】 特開2000−110400(JP,A)
【文献】 特開2006−002505(JP,A)
【文献】 特開2003−239561(JP,A)
【文献】 特開2001−200654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面から鉛直に延在する複数の鉛直要素を含む建築構造物であって、前記鉛直要素のうちの少なくとも第1の鉛直要素が、前記鉛直要素のうちの第2の鉛直要素に接続部材によって接合され、
前記接続部材が、前記建築構造物に加えられる横方向の荷重のせいで前記第1の鉛直要素と前記第2の鉛直要素との間の相対移動の結果として生じる前記建築構造物の振動を減衰させる制振要素であって、前記相対移動のせいで変形を受ける制振要素を備え、
前記制振要素が、第1組および第2組のそれぞれ2枚以上の板であって、前記第1組のうちの板が前記第2組のうちの板と相互嵌合しており、地面に略平行な方向に互いから離間している、板と、前記組の板のうちの各板間に配設された制振材料とを備え、
前記制振材料が粘弾性材料を備え、前記制振要素は、前記組の板のうちの各板が前記制振材料の抵抗下で鉛直方向に変位することで前記制振要素がせん断変形を受けるときの振動を減衰させ
前記制振要素に取り付けられた静剛性増大構造部材をさらに備える、建築構造物。
【請求項2】
前記制振要素の第1および第2の端部の少なくとも一方にはそれぞれ第1および第2のヒューズ部材のうちの少なくとも一方が接合されており、前記ヒューズ部材は、前記制振要素が所定の限界荷重未満の荷重のせいで変形を受けるときには半剛体の挙動を取り、かつ、荷重が前記所定の限界荷重に達すると変形する材料から選択され、その結果、前記制振要素が前記所定の限界荷重を超える荷重のせいで変形するのを防止するようになっている、請求項1に記載の建築構造物。
【請求項3】
前記第1および第2のヒューズ部材を前記第1および第2の鉛直要素にそれぞれ剛接合する第1および第2の接合手段をさらに備える、請求項2に記載の建築構造物
【請求項4】
前記所定の限界荷重が、損傷事象がそれ以前に起こる限界荷重で選択され、損傷事象が、前記制振材料の裂損、前記組の板のうちの板からの制振材料の剥離、前記組の板のうちの板の不具合、前記組の板を接合する手段の不具合、溶接の不具合、前記接合手段の不具合、制振システムがそれに接合される鉛直要素の不具合、およびそれらの組み合わせを含む群から選択される、請求項3に記載の建築構造物。
【請求項5】
前記ヒューズ部材のうちの少なくとも一方または両方が梁部分を備える、請求項2に記載の建築構造物。
【請求項6】
前記ヒューズ部材のうちの少なくとも一方または両方が、梁部分と、前記梁部分に機能的に接合されたスチフナ部分とを備え、前記スチフナ部分が、前記横方向の荷重が前記所定の限界荷重に達するときに前記梁部分を安定させるように適合されている、請求項2に記載の建築構造物。
【請求項7】
前記第1および第2の接合手段のうちの少なくとも一方が、前記鉛直要素にアンカ留めされた板に接合されるように適合された端板を備える、請求項に記載の建築構造物。
【請求項8】
前記端板が、取外し可能かつ交換可能な留め具によって前記板に接合される、請求項7に記載の建築構造物。
【請求項9】
前記第1および第2の鉛直要素のそれぞれに取り付けられ前記接続部材から鉛直方向に離間したスラブ部材をさらに備える、請求項1に記載の建築構造物。
【請求項10】
前記静剛性増大構造部材は、前記制振要素の上面に取り付けられている、請求項2に記載の建築構造物。
【請求項11】
前記静剛性増大構造部材が鋼板から構成される、請求項10に記載の建築構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、その内容全体が両方とも参照により本明細書に援用される、2011年1月14日出願の米国仮出願第61/432,631号の優先権を主張するものである。
本発明は、概して、建築構造物の分野に関し、より詳細には、建築構造物で使用するための振動制振機構に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート耐震壁、鉄骨ブレース架構、鉄骨もしくは鉄筋コンクリートのラーメン架構、またはそれらの組み合わせなど、典型的な構造物構成要素を使用する現代の建築物は、固有の制振特性が低い。こうした固有の制振特性は、建築物の高さが高くなると共に低くなる。固有の制振が低いので、特に高層建築物は、動荷重によって生じる過剰な振動に影響を受けやすい傾向がある。過剰な加速度およびねじれ速度により入居者を不快にさせる恐れがあり、過剰な変位により非構造要素および構造要素に損傷を与える恐れがある。そのため、こうした過剰な振動を制御し動荷重に対する建築物全体の反応を低減させる制振源をさらに設けることが有利である。これらの動荷重は、風荷重による動荷重も地震荷重による動荷重も含むことができる。
【0003】
こうした構造物の変位、速度、および加速度を制御するための、現在利用可能なシステムには、補助的ダンパおよび振動吸収装置などのパッシブシステム、ならびにアクティブシステムがある。
【0004】
ヒステリシスダンパ、粘性ダンパ、および粘弾性ダンパなどの補助的パッシブダンパが、現在、典型的なブレース構成で使用され、軸方向の変形下で作動する。こうしたパッシブダンパは、典型的なブレース構成下でブレース要素が軸方向の大きな変形を受ける一部の構造上の構成に制振を付加するのには効果的であるが、事実上こうしたダンパを作動させるために、横方向の一次変形モードが、典型的なブレース要素の軸方向の変形を引き起こさない高層建築物に通常使用される構造システムなど、他の構造システムにはあまり効果的ではない。ダンパを作動させるのに十分な程度に変形を増大させるために、変位を増幅するトグルブレースまたはシザーブレースを使用する特別な構成が使用されている。
【0005】
同調質量ダンパ(TMD)および同調液体ダンパ(TLD)などの振動吸収装置もまた、風荷重の間にこうした構造物の撓み、速度、および加速度を低減させるために使用される。そうした振動吸収装置は、典型的には、効果を最大限に高めるために建築物の最上階に挿入された機械式振動システムから構成される。これは、設計および構築が高価であることに加えて、建築物内で最も価値のある不動産の一部を使用するという欠点を有する。これらはまた、単一の振動モードに同調させなければならないので、限られた振動数範囲内で作用する。
【0006】
アクティブシステムには、外部動力源、作動力、ならびに大規模なハードウェア制御システムおよびソフトウェア制御システムが必要である。その結果、アクティブシステムは、設計および実装が高価であり、制御システムの電源異常または停電の影響を受けやすい。
【0007】
上記で特定した現行のシステムに関する問題に対する解決策の一つが、2006年6月16日出願の国際出願PCT/CA2006/000985号明細書「Fork Configuration Dampers and Method of Using Same」で提案されている。その出願のシステムは、互いに対する相対移動を受ける構造物の2つの要素を相互接合する建築物の制振システムの構成を提示している。’985出願の制振システムは、横方向の荷重に抵抗するように設けられた概して鉛直に延在する第1の構造要素に固定された第1組の板と、横方向の荷重に抵抗するように設けられた概して鉛直に延在する第2の構造要素に固定された第2組の板を開示している。その鉛直に延在する構造要素は、例えば、壁、柱、架構、または建築物内の他の鉛直要素でよい。第1組および第2組の板はそれぞれ、略平行に離間した複数の板要素を備え、その板要素は、第1組の板の板要素が第2組の板の板要素と相互嵌合するように配置されている。第1組の板を第2組の板に接続するために制振材料が設けられている。このようにして、建築物に横方向の荷重が加えられることで、鉛直に延在する構造要素が互いに対する相対移動を受け、第1組および第2組の板は、鉛直にせん断運動して変位し、互いに対する板の変位に抵抗するエネルギー分散材料によって構造物の振動を減衰させるように作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2007/048217号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そのシステムは従来の制振システムに有意な改善をもたらすが、極度の風荷重および/または地震荷重の際に、制振システムに発生する変形によりそのシステムに過剰な荷重がかかることがあり、それにより、望ましくない不具合が生じ、後続の荷重サイクルに対してダンパが効果的でなくなる恐れがある。したがって、制振システムの予期した変形状態を超えるこうした極度の荷重条件の際には、より延性頑強な応答が有利になる。さらに、極度の事象の後は、制振システムの修理または交換が難しい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、地面から延在する複数の鉛直要素を含む建築構造物であって、それらの鉛直要素のうちの少なくとも第1の鉛直要素が、それらの鉛直要素のうちの第2の鉛直要素に接続部材によって接合され、その接続部材が、建築構造物に加えられる横方向の荷重のせいで第1の鉛直要素と第2の鉛直要素との間の相対移動の結果として生じる建築構造物の振動を減衰させる制振要素を含む、建築構造物が提供される。好ましくは、制振要素の第1組および第2組の板は、鉛直にせん断運動して変位し、互いに対する板の変位に抵抗するエネルギー分散材料によって構造物の振動を減衰させるように作用する。第1および第2のヒューズ部材のうちの少なくとも一方は、制振要素の第1および第2の端部のうちの少なくとも一方にそれぞれ接合される。ヒューズ部材の材料の選択、ならびに別のサイズ設定および寸法設定は、所定の限界荷重未満の荷重のせいで制振要素が変形を受けるときは、半剛体の挙動を取り、荷重が所定の限界荷重を超えるときは変形を受けて、制振要素が事前に定義したその変形限界を超えて変形することが防止されるようになっている。第1および第2のヒューズ部材をそれぞれ第1および第2の鉛直要素に剛接合する第1および第2の接合手段も提供する。これらの横方向の荷重により、制振システムにせん断荷重が生じる。したがって、ヒューズ部材は、制振要素の所定のせん断荷重に達するときにヒューズが作動するように設計されている。
【0011】
この実施形態の一態様によれば、制振要素は、第1組および第2組のそれぞれ2枚以上の板と、それらの組の板の各板間に配設された制振材料とを含み、ここで、第1組の板は、第2組の板と相互嵌合し、地面に略平行な方向に互いから離間している。
【0012】
この実施形態の別の態様によれば、制振材料は粘弾性材料を含み、その組の板の各板が制振材料の抵抗下で鉛直方向に変位することで制振要素がせん断変形を受けるときの振動を減衰させる。
【0013】
この実施形態の別の態様によれば、所定の限界荷重は、それよりも低いと損傷事象が起こる限界荷重選択される。その際、損傷事象は、制振材料の裂損、それらの組の板のうちの板からの制振材料の剥離、それらの組の板のうちの板の不具合、それらの組の板の接合手段の不具合、溶接の不具合、接合手段の不具合、およびそれらの組み合わせを含む群から選択される。他の不具合モードも企図され、それには、制振システムがそれに接合される要素または制振要素がそれに接合される鉛直構造要素の不具合が含まれる。
【0014】
この実施形態の別の態様によれば、ヒューズ部材のうちの少なくとも一方または両方は、梁部分を含む。
この実施形態の別の態様によれば、ヒューズ部材のうちの少なくとも一方または両方は、梁部分と、その梁部分に機能的に接合されたスチフナ部分とを含む。そのスチフナ部分は、荷重が所定の限界荷重を超えるときに梁部分を安定させるように適合されている。
【0015】
この実施形態の別の態様によれば、梁部分は細くなった梁部分を含む。
この実施形態の別の態様によれば、スチフナ部分は、梁部分の屈曲力に対して梁部分を安定させるように梁部分に接合され地面平行に配置された補強部材を含む。
【0016】
この実施形態の別の態様によれば、スチフナ部分は、梁部分のせん断力に対して梁部分を安定させるように梁部分に接合され鉛直要素平行に配置された少なくとも1つの補強部材を含む。
【0017】
この実施形態の別の態様によれば、第1および第2の接合手段のうちの少なくとも一方は、鉛直要素にアンカ留めされた板に接合されるように適合された端板を含む。
この実施形態の別の態様によれば、端板は、取り外し可能かつ交換可能な留め具によって板に接合される。
【0018】
この実施形態の別の態様によれば、第1および第2の鉛直要素のそれぞれに取り付けられ接続部材から鉛直方向に離間したスラブ部材が提供される。
この実施形態の別の態様によれば、制振要素の上面に取り付けられた1つまたは複数の静剛性増大構造部材が提供される。
【0019】
この実施形態の別の態様によれば、静剛性増大構造部材は鋼板を含む。
本発明の別の実施形態によれば、建築構造物に加えられる横方向の荷重によって生じる振動を減衰させる方法であって、建築構造物に加えられる横方向の荷重のせいで第1の鉛直要素と第2の鉛直要素との間の相対移動の結果として生じる建築構造物の振動を減衰させる制振要素を用意するステップであって、第2組の鋼板に対して変形を受ける第1組の鋼板によってエネルギー分散材料が変形することで制振が生じる、ステップと、制振要素の第1および第2の端部のうちの少なくとも一方にそれぞれ接合された少なくとも1つのヒューズ部材を用意するステップであって、そのヒューズ部材の材料の選択、ならびに別のサイズ設定および寸法設定が、制振要素が所定の限界荷重未満の荷重のせいで変形を受けるときは、半剛体の挙動を取り、荷重が前記所定の限界荷重を超えるときは変形を受けて、制振要素が事前に定義したその変形限界を超えて変形することが防止されるようになっている、用意するステップと、第1および第2のヒューズ部材を第1および第2の鉛直要素に剛接合するステップとを含む方法が提供される。これらの横方向の荷重により、制振システムにせん断荷重が生じる。したがって、ヒューズ部材の設計は、制振要素の所定のせん断荷重に達するときにヒューズが作動するようになっている。
【0020】
この実施形態の一態様によれば、制振要素は、地面に略平行な方向に互いから離間した1組の2枚以上の板と、その組の板のうちの各板間に配設された制振材料とを含む。
この実施形態の別の態様によれば、制振材料は粘弾性材料を含み、その組の板の各板が制振材料の抵抗下で鉛直方向に変位することで制振要素がせん断変形を受けるときの振動を減衰させる。
【0021】
この実施形態の別の態様によれば、ヒューズ部材の少なくとも一方または両方は、梁部分を含む。
この実施形態の別の態様によれば、ヒューズ部材の少なくとも一方または両方は、梁部分と、その梁部分に機能的に接合されたスチフナ部分とを含み、そのヒューズ部分は、所定の限界荷重に達するときに作動するように適合されており、梁部分は、制振要素が所定の限界荷重に達するときに変形を受けるように適合されている。
【0022】
この実施形態の別の態様によれば、梁部分は細くなった梁部分を含む。
この実施形態の別の態様によれば、スチフナ部分は、梁部分に接合され地面に平行に配置された補強部材を含む。
【0023】
この実施形態の別の態様によれば、スチフナ部分は、梁部分に接合され鉛直要素に平行に配置された少なくとも1つの補強部材を含む。
次に、添付の図を参照しながら一例としていくつかの実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】建築構造物で使用する従来技術の制振要素の斜視図である。
図2A】本発明の一実施形態による接続部材を示す正面図である。
図2B】本発明の一実施形態による接続部材を示す底面図である。
図2C図2Aおよび図2Bの接続要素の斜視図である。
図2D】任意選択の静剛性増大部材を含む、図2Aおよび図2Bの接続部材の正面図である。
図3A】本発明の別の実施形態による接続部材を示す正面図である。
図3B】本発明の別の実施形態による接続部材を示す底面図である。
図4A】本発明の別の実施形態による接続部材を示す正面図である。
図4B】本発明の別の実施形態による接続部材を示す底面図である。
図5A】本発明の別の実施形態による接続部材を示す正面図である。
図5B】本発明の別の実施形態による接続部材を示す底面図である。
図6】本発明の実施形態を適用できるアウトリガ建築物構成を示す。
図7】本発明の実施形態を適用できる建築構造物を示す。
図8図2Aの実施形態の動作の概略図、および関連のシステム応答グラフである。
図9図2から図7の様々な実施形態を建築構造物の鉛直面に交換可能に接合する手段の正面図である。
図10図2から図7の様々な実施形態を建築構造物の鉛直面に交換可能に接合する手段の正面図である。
図11図2から図7の様々な実施形態を建築構造物の鉛直面に接合する代替的な手段を示す。
図12図2から図7の様々な実施形態を建築構造物の鉛直面に接合する代替的な手段を示す。
図13図2から図7の様々な実施形態を建築構造物の鉛直面に接合する代替的な手段を示す。
図14図2から図7の様々な実施形態を建築構造物の鉛直面に接合する代替的な手段を示す。
図15図2から図7の様々な実施形態を建築構造物の鉛直面に接合する代替的な手段を示す。
図16図2から図7の様々な実施形態を建築構造物の鉛直面に接合する代替的な手段を示す。
図17】本発明の接続部材と併せて使用される通常のスラブの正面図である。
図18A】本発明の接続部材と併せたスラブおよび可撓性の膜の正面図である。
図18B】本発明の接続部材と併せたスラブおよび可撓性の膜の底面図である。
図19A】本発明の接続部材と併せた柱頭板スラブの正面図である。
図19B】本発明の接続部材と併せた柱頭板スラブの底面図である。
図20】好ましい実施形態の説明の後に記載する実施例による試験結果を示す。
図21】好ましい実施形態の説明の後に記載する実施例による試験結果を示す。
図22】好ましい実施形態の説明の後に記載する実施例による試験結果を示す。
図23】好ましい実施形態の説明の後に記載する実施例による試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
その内容が参照により本明細書に援用される、本出願人の先行の2006年6月16日出願の国際出願PCT/CA2006/000985号明細書「Fork Configuration Dampers and Method of Using Same」において、図1に示す制振要素を含む建築構造物で使用するための制振システムが開示されている。図示のように、制振要素10は、地面に略平行な方向に互いに離間した2枚以上の板20を2組14、16と、それらの組の板のうちの各板20の間に配設された制振材料30とを含む。実際には、その組の板は、互いに嵌合しており、建築構造物の鉛直要素50に剛接合された端部40を有する。鉛直要素50は、建築構造物に加えられる横方向の荷重に抵抗し、有意な荷重が加えられたときに互いに対して移動する。板20、およびそれらの間に配設された制振材料30は、鉛直要素50が互いに対して移動するときにせん断変形を受け、したがって、鋼板20が互いに移動するときに、制振材料のおかげで、建築構造物の制振が行われる。制振材料は、好ましくは粘弾性材料である。その出願に記載された改良形態は、好ましくは、前述のPCT国際特許出願に記載されたシステムに適用されているが、建築構造物で使用される他の制振システム、具体的には、横方向の荷重による振動が対象の建築構造物に加えられる高層建築構造物にも適用することができる。
【0026】
本発明の実施形態は、具体的には、建築構造物の振動を減衰させるように作用するシステムに対する改善形態に関し、具体的には、建築構造物に加えられ鉛直要素が抵抗する横方向の荷重によって生じる振動の制振を行うシステムに関する。さらに、本明細書で説明する実施形態は、具体的には、極度の荷重条件の場合のフェールセーフ機構を含む制振システムに適用可能である。そうした極度の荷重条件は、本明細書で以下に開示する要素がないと、例えば地震荷重の間に、制振システムに有意な損傷を与えることになる。本発明の様々な実施形態は、以下に詳細に説明するように、建築構造物の制振システムをより頑強に、より簡単に修理可能に、交換可能にすると共に、地震などの過酷な振動または壊滅的な荷重がかかる際に、損傷の発生に達しないように、したがって、永久的な損傷に達しないように制振要素を制限する解決策を提供する。本明細書で説明する本発明の他の様々な利益および利点も以下に概説し、それらは当業者には明らかになるであろう。具体的には、本発明は、制振要素に接合されたヒューズ部材を1つまたは複数提供する。以下により詳細に説明するように、ヒューズ部材の設計、サイズ設定、および別の寸法設定は、所定の限界荷重未満の横方向の荷重のせいで制振要素が変形を受けるときは、半剛体の挙動を取り、横方向の荷重が前記所定の限界荷重を超えるときは、ヒューズおよび制振要素によって担持される荷重を実質的に増大させずに変形を受けて、前記制振要素が事前に定義した変形限界を超えて変形するのを防止するようになっている。この説明では、横方向の荷重がこの文脈の所定の限界荷重を超えるときにヒューズが作動すると述べている。
【0027】
所定の限界荷重は、好ましくは、それよりも低いと損傷事象が起こる限界荷重が選択される。実際には、建築構造物に加えられる横方向の荷重は、鉛直要素によって抵抗される。こうした横方向の荷重により、鉛直要素間で接続部材として作用する制振システムに変形、特にせん断変形が生じる。制振システムの所与の荷重において、制振システムのせん断変形または他の変形により損傷事象が起こる。本願においては、損傷事象は、現場で修理できない永続的な、ほぼ永続的な、もしくは同様の損傷を制振要素に引き起こす事象か、または構造物の制振を行う際に制振システムを非効率にする事象として定義される。好ましくは、損傷事象は、制振材料の裂損、制振材料がそれに接合される板からの制振材料の剥離、制振要素の一部を形成する板の不具合、制振要素の要素を接合する手段の不具合、制振要素もしくは柱要素の溶接接合の不具合、接続部材の接合手段の不具合、またはそれらの組み合わせのうちの1つまたは複数である。他の損傷事象または不具合モードも企図され、それには、ダンパがそれに取り付けられた鉛直要素の不具合が含まれるがそれに限定されるものではない。したがって、ヒューズ部材は、本明細書で説明するように、所定の作動荷重に達した後で、ヒューズ部材および/または制振要素によって担持される荷重を実質的に増加させずに変形を受け、それにより、予期される損傷事象の全てから接続部材が保護される。
【0028】
本明細書で説明するヒューズ部材を実装するために、本出願人は、平行に接合された梁部材を1つまたは複数提供し、その梁部材は、協働して所定の限界荷重未満のレベルで負荷をかけられるときは半剛体の挙動を取る。任意選択で、梁部材はさらに、高い荷重条件の間に梁部材を安定させるスチフナを含む。このように本発明の動作原理を一般的な用語で説明してきたが、次に、本発明を実現する様々な特定の実施形態を説明する。
【0029】
次に図2A図2B、および図2Cを参照すると、地面(図示せず)から鉛直に延在する複数の鉛直要素のうちの2つである第1の鉛直要素205および第2の鉛直要素210の断面が示された本発明の一実施形態が示されている。本願においては、用語vertical(鉛直の)およびvertically(鉛直に)が建築構造物に対して通常の意味で用いられ、すなわち、地面に概してperpendicular(垂直)の方向であることが理解されよう。さらに、用語horizontally(水平に)が用いられるときは、これは地面に概して平行な方向を指す。接続部材215が第1の鉛直要素205を第2の鉛直要素210に接合する。接続部材215は、本明細書で開示するように、建築構造物で従来から使用されている剛体の接続部材を交換するかまたはその代わりに使用するように動作可能である。
【0030】
接続部材215は、好ましくは、制振要素225を含み、その制振要素225は、建築構造物に加えられる横方向の荷重による第1の鉛直要素205と第2の鉛直要素210との間の相対移動に起因する建築構造物の振動を減衰させる。本発明による制振要素225の例示的な実施形態を次に説明する。制振要素の特定の実装形態に関わらず、制振要素は、設計の制約および動作中に典型的に予期される荷重に従って決定される損傷事象限界を有する。その荷重により、鉛直要素205と210との間の相対移動のせいで制振要素が変形する。建築構造物に加えられる荷重が増大することで制振要素の荷重レベルが所定の限界に達すると、制振要素は、以下に説明するような本発明のヒューズ部材がないと、永久に変形するか、損傷するか、または使用に不適切な他の状態になる。それにより、後続の負荷サイクルにとって制振要素が効果的でなくなることになる。
【0031】
こうした問題に対処するために、本出願人はさらに、制振要素225の第1の端部240および第2の端部250にそれぞれ接合された第1のヒューズ部材220および第2のヒューズ部材230を提供する。ヒューズ部材220、230の材料の選択、ならびに別のサイズ設定、および別の寸法設定は、所定の限界荷重未満の荷重のせいで制振要素225が変形を受けるときは、半剛体の挙動を取り、荷重が所定の限界荷重に達したときは、ヒューズおよび制振要素225によって担持される荷重を実質的に増大させずに作動し、したがって、変形を受け、それにより、所定の限界荷重を超える荷重のせいで制振要素225が変形することが防止されるようになっている。上記で説明したように、所定の限界荷重は、損傷事象がそのときに起こる荷重であり、その荷重により、いくつもの要因に基づいて制振要素225の継続使用が不適切になる。
【0032】
第1のヒューズ部材220を第1の鉛直要素205に接合するために第1の接合部材260が設けられ、同様に、第2のヒューズ部材230を第2の鉛直要素210に接合するために第2の接合部材270が設けられる。接合部材260、270は、好ましくは、鉛直要素205、210との半剛体に接合して、接合部材260、270における曲げモーメントによって生じる、ヒューズが作動する前の可能な移動が完全に妨げられる。
【0033】
ヒューズ部材220、230は、好ましくは、梁部分280、および任意選択で、スチフナ部分290を含む。スチフナ部分290の設計、サイズ設定、および別の寸法設定は、梁部分280に機能的に接合され、鉛直要素に加えられる荷重が所定の荷重に達するときは梁部分280に安定させるような支持を行うようになっている。したがって、ヒューズ部材220、230が作動しているときは、スチフナ部分290は、ヒューズ部材220、230自体がさらに変形できるように作用する。これは、ヒューズおよび制振要素によって担持される荷重を実質的に増大させることなしに起こる。
【0034】
図示の実施形態では、スチフナ部分290は、梁部分280に接合された補強部材290とすることができ、加えられる横方向の荷重が所定の荷重に達しかつ/またはそれを超えるときは、スチフナ部分290が屈曲しながら梁部分280の座屈に対する安定性をもたらすように、地面に平行に配置することができる。明確にすると、明細書および特許請求の範囲全体を通して、加えられる荷重が所定の荷重に達することを述べており、その所定の荷重は、その値未満の荷重では制振要素またはそれに関連する接合部には、制振要素を使用するのに不適切にする損傷事象が生じない荷重である。企図される損傷のタイプを上記で論じたが、それに限定されるものではない。
【0035】
制振要素225は、好ましくは、水平方向に離間した少なくとも2枚の、より好ましくは、複数枚の板を有する、2組の板212、213を含む。その組の板212、213は、相互嵌合しており、その組の板の半分が重なっている重なり領域214を有する。その重なり領域214では、図示のように板の各側で各板に固定された、制振材料216、好ましくは、粘弾性材料が設けられている。重なり領域214の各側では、接合手段218が、その組の板を一緒に保持し、制振材料216を重なり領域214において圧縮状態に保持する。図示のように。接合手段218は好ましくはボルトである。
【0036】
図2Dに示すように、任意選択の静剛性増大部材232を、それらの組の板212、213の上面234に取り付けることができる。好ましい実施形態では、剛性増大部材232は、板、好ましくは、鋼板である。他の静剛性増大部材232も企図され、それには、説明したような所望の機能を実行できる山形断面、「u」字形断面、および他の部材が含まれるがそれに限定されるものではない。動作の際には、板部材232は、制振要素215の静剛性を増大させるように働く。好ましい実施形態では、板232はダンパの静剛性を付加して、横方向の動荷重も一緒になって加えられる建築物への風圧によって生じる横方向の静荷重下では、構造物は剛性が高まり変形をあまり受けない。
【0037】
本明細書で説明する構造形態の静剛性増大部材232を、接続部材の上部および/または底部に接合することができる。部材232の片側は、好ましくは、一方の接合要素に接合され、構造要素の他方の側は、他方の接合要素に接合される。明確にすると、部材232は、粘弾性材料に接着した板の組212、213には接合されていない。本発明の別の実施形態では、部材232は、鉛直要素または壁に少しの距離だけ上および下にそれぞれ直接埋め込むことができるが、ダンパ要素には接合されない。動作の際には、これにより、やはり静荷重下での接続効果が向上する。さらに、静剛性増大部材232の設置によって構造物全体の剛性が増大すると、やはり構造物の振動周期が全体として短縮され、これにより、構造物への風荷重の動的な影響が減少する。
【0038】
次に図8を参照すると、本発明による接続部材215の挙動が誇張して示されており、ここで、制振要素225は変位している。図示のように、制振要素225は、損傷事象限界に達しており、したがって、ヒューズが降伏している。次に、ヒューズ280および290は、制振要素225がこれ以上変形するのを防止するために変形を受ける。図示の誇張した図では、その組の板212のうちのいくつかの板が、制振材料の各側で鉛直方向に最大量変位している。
【0039】
次に、ヒューズ部材の他の様々な実装形態を説明する。図2に関して説明し図示してきた要素に直接対応する要素は、百の位にはそれぞれの図番号と同様に番号を付けたが、本発明の特定の態様、変形形態、または実施形態を説明する必要がある限りを除いてさらに詳細には説明しない。
【0040】
次に図3を参照すると、梁部分380およびスチフナ部分390から構成されたヒューズ部材320および330が示されている。この実施形態では、スチフナ部分390は、少なくとも1つの、好ましくは、複数の補強部材390であり、その補強部材390は、ヒューズのフランジの間でウェブに接合されており、加えられる横方向の荷重が所定の荷重を超えるときにスチフナ部分390がヒューズ要素の座屈に対する安定性をもたらすように、鉛直要素305、310に平行に配置されている。
【0041】
次に図4を参照すると、ヒューズ部材420および430が示されている。ヒューズ部材420および430は、ダンパ内の板の組から延在する板に接合手段490によってクランプ留めされた(または別法で取り付けられた)半剛体の板480から構成される。図示のように、接合手段490は、半剛体の板480に対して板が滑動するのを防止するボルトである。所定の摩擦力の限界に達すると、板は滑動し、半剛体の板は互いに対して移動する。したがって、この実施形態のヒューズは、ボルト接合部の滑動によって作動し、したがって、そのボルト接合部自体がこの実施形態のヒューズ機構を形成する。ボルトの水平移動または回転移動は、傾斜した接合部分による接合によって実現することができる。
【0042】
次に図5を参照すると、ヒューズ部材520および530が鉛直要素505、510内に埋め込まれたダクト590中を通り端板コネクタ560に取り付けられた軸方向力制限部材595から構成されている、本発明の別の実施形態が示されている。動作の際には、軸方向力制限部材595は、事前に定義した限界荷重に達するときにダンパに伝達される軸方向力をする。部材595が軸方向に降伏すると、制振システムに与えられる荷重を制限することが可能になる。
【0043】
上記で説明した様々なヒューズ部材を鉛直要素に接合する様々な手段が、本発明によって企図される。好都合なことに、一部の実施形態では、以下のそれぞれの説明で明らかになるように、接合手段は、好ましくは、事前に定義した力の限界に達することによって力制限部材が作動する、上昇した荷重の後に接続部材の部分的または全体的な取り外し、修理、および/または交換を可能にするために設けられる。
【0044】
交換可能な接続部材の一実施形態を図9に示す。接続部材915は、図2Aおよび図2Bの接続部材215に対応するように図示されているが、上記の様々な実施形態で説明した接続部材のいずれでもよい。この実施形態では、端板960は、ヒューズ部材920、930に設けられそれに取り付けられている。対応する板962が、鉛直要素905、910内に配置および貼付されている。板962は、例えばコンクリート製の鉛直要素に現場打ちすることができる。鋼製のスタッド964が、好ましくは、鉛直要素に現場打ちするように板962を維持する。ボルト966などの接続部材が、端板960を板962に剛接合する。動作の際には、接続部材915は、接続部材915の任意の部分に永続的な損傷を生じさせる上昇したまたは壊滅的な荷重の際に簡単に取り外し可能または交換可能である。
【0045】
図10を参照すると、交換可能な接続部材1015の別の実施形態が示されており、端板1060が、鉛直要素1005、1010の外面を通して張力を加えられたポストテンション部材1062を位置決めするための、端板1060を貫通する孔を備える。図11に、ネジ山付き鉄筋1162が鉛直要素に埋め込まれ端板コネクタ1165にねじ込まれた実施形態を示す。それらの端板コネクタ1165は端板1160に溶接されており、端板1160は接続部材1115に剛接合されている。
【0046】
図12に、重ね合わせのI形鋼1260が鉛直要素1205、1210に組み込まれた実施形態を示す。図13に、コンクリート製ブラケット部分1360が鉛直要素1305、1310と一体形成されて、例えばボルト1362で接続部材1315に直接接合された実施形態を示す。接続部材1315の細部は、図示を簡単にし、明確さを維持するためにこの図には示さない。図14の実施形態は、現場打ちの板1460を示し、その現場打ちの板1460は、鉄筋1462が取り付けられており、鉛直要素1405、1410の内壁1407を越えて延在する部分を有し、そのため、接続部材1415を現場打ちの板1460に溶接することができる。図15に、添接板1560を使用して接続部材1515を端板1562と接合する実施形態を示す。その端板1562は鉛直要素1505、1510に組み込まれるかまたは別法で取り付けられている。図16に、図15と同様であるが添接板を使用するのではなく、現場打ちの板1660が鉛直要素1605、1610に取り付けられ、現場打ちの板にボルト留めできる端板1662に取り付けられた実施形態を示す。
【0047】
本明細書で説明する接続部材の実装形態の細部の一つは、建築物の構造要素として一般的なコンクリート製スラブと相互作用する。コンクリート製スラブは、典型的には、床および天井を構築するために使用される。コンクリート製スラブは、当技術分野で一般的に知られており、したがって、本明細書ではより詳細には説明しない。しかし、本発明による接続部材の使用の文脈ではコンクリート製スラブの配置は慎重に考慮すべきである。図17に、当技術分野で知られている鉛直要素1705、1710に剛接合された通常のスラブ1720を示す。スラブ1720は、好ましくは、接続部材1715から鉛直方向に離間しており、そのため、接続部材1715が高い荷重条件を受けるときでもスラブ1720と接続部材1715とは干渉しない。図18Aおよび図18Bに、当技術分野で知られている通常のスラブ1820と共に可撓性の膜1802も採用した実施形態を示す。可撓性の膜1802により、ダンパの効率を向上させるためにスラブの剛性を低下させる。図19Aおよび図19Bに、図17の通常の現場打ちスラブではなく柱頭板スラブ1920を示す。柱頭板1920は、接続部材1915の検査のために取り外すことができる。
【0048】
上記で説明したように、本発明は、建築構造物の2つの鉛直要素を接合する接続部材に関するものであり、本出願人は、本明細書で説明する接続部材を、横方向の荷重による振動を減衰させる必要がある場合がある様々な実装形態で使用できるかまたは別法でそれに追加できることに注目している。その意味では、用語、vertical elements(鉛直要素)は、この説明全体を通して用いられるように、横方向の荷重が建築構造物に加えられるせいで支持を行う任意の構造要素を含むと広く解釈されるものである。本明細書で開示する鉛直要素から、様々なタイプの建築構造物が利益を得ることができる。例えば、図6を参照すると、アウトリガ式建築物構成が示されており、その構成では、建築物の中心の鉛直面610が、離間した外側の鉛直要素605を複数有し、したがって、接続部材615によって外側の鉛直要素605それぞれが建築物の中心の鉛直面610に隣接している。その建築構造物の様々な床620も示す。接続部材615が概略的にのみ示されており、図2から図5に関して説明したような接続部材のいずれかとすることもできることが明らかになるであろう。さらに、鉛直面605、610を接続する接合手段は、本明細書で説明する通りでよい。図7に、接続部材725を用いて建築構造物の2つの鉛直面705、710を接合する、本発明の概略的な実装形態を示す。
【0049】
本発明はまた、本発明の様々な実施形態のいずれか一つによる接続部材を提供し建築構造物の2つの鉛直要素を接続部材で剛接合することによって、本明細書でここまでに説明したような建築構造物の鉛直要素を接合する方法も提供する。
【0050】
本発明を様々な制振部材を用いて実装できるが、好ましい実施形態に関して説明した制振部材の組み合わせに関して驚くべき結果を見出しており、高いせん断力またはモーメントによる永続的な変形のリスクがより関係している。すなわち、図2A図2B、および図2Cの制振部材では、複数の板がそれらの間の制振材料と接合されており、過度のせん断もしくはモーメントまたはそれを超える他の力を受けるときに損傷事象が起こる。概して、損傷事象は、接続要素事態の不具合がそのときに壊滅的になる損傷事象も含むことになる。上記で述べたように、損傷事象は、制振要素を非効率にする永続的な、ほぼ永続的な、および同様の損傷を引き起こすことになる損傷事象である。こうした損傷事象には、制振要素の制振材料の裂損、制振材料がそれに接合される板からの制振材料の剥離、制振要素の一部を形成する板の不具合、制振要素の要素を接合する手段の不具合、制振要素もしくは柱要素の溶接接合の不具合、鉛直要素の不具合、および接続部材の接合手段の不具合、制振デバイスがそれに接合される鉛直要素の不具合、またはそれらの組み合わせのうちの1つまたは複数が含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0051】
当業者には理解されるように、ヒューズ要素は制振要素に加えられる力を制限するが、鋼のひずみ硬化のせいで、降伏する要素が最初に変形するので依然としてその力は少し増大する。これは非常に小さく、本発明の目的に関しては無視できると考えることができる。
【実施例】
【0052】
以下の実施例では、本明細書で説明する好ましい制振要素を組み込む接続部材を、以下に説明するように、本発明によるヒューズ部分がある場合とない場合とで試験する。さらなる詳細を以下に提示する。この実施例では、FCDすなわちフォーク型ダンパについて言及する。そのダンパは、好ましい実施形態で説明したタイプのダンパを指し、互いに相互嵌合している2組の複数の板と、相互嵌合している各組の板の間に配設された制振材料とを組み込んでいる。
【0053】
Montreal州のEcole Polytechniqueの研究室で2つのフォーク型ダンパ(FCD、Fork Configuration Damper)に試験を行った。試験する異なる2つの試験片があり、第1の試験片(FCD−A)は、85階の建築物に含まれるように設計されており、本発明によるヒューズ部分を含んでいなかった。第2の試験片(FCD−B)は、50階の建築物に含まれるように設計されており、図2A図2B、および図2Cに示すような本発明によるヒューズ部分を含んでいた。両方の建築物が、平行な2つのFCDが単一の鉄筋コンクリート接続梁の代わりに用いられるように設計された。
【0054】
この実施例の場合は、FCD−B用のダンパは、FCD−A用に設計されたダンパよりもずっと大きい変位を受ける能力を有する(高い延性を有する)ように設計されている。FCD−Bの試験片は、鋼製の端板よりも前に2つの屈曲力を制限するヒューズ部材(細くなった梁部分)を有する。細くなった梁部分は、それらが最も弱いリンクでありその内部に損傷が確実に集中するように戦略的にサイズ設定される。そのようにする際には、それらの細くなった梁部分により、コンクリート壁の不具合、溶接の不具合、または制振材料の裂損など、望ましくない不具合機構が確実に起こらない。
【0055】
ヒューズ部分は、低レベルの変位および風荷重の下では弾性があるままである(作動しない)ように設計される。一連の風試験をFCD−B試験片に行った。図20Aに、風試験下のFCDせん断力対せん断変位を示し、図20Bに、振動数f=0.1Hzの調和荷重下のFCDせん断力対せん断変位を示す。ヒューズ部分は、これらの荷重のいずれでも作動しない。
【0056】
ヒューズ部材がその場合に作動し始めるように設計された一連の大振幅の地震試験もFCD−B試験片に行った。図21Aに、ノースリッジ地震(1994年)を分析的に模擬して受けたFCDのせん断力対せん断変位を示し、図21Bに、制振部材のせん断力対せん断変位を示す。それらの図には、FCDのせん断力および制振部材の変形の制限を開始するヒューズ部材の作動開始を示す。
【0057】
一連の増大振幅調和試験を行った。ここでFCDの試験片「ヒューズ」は振動数f=0.2Hzで作動し、粘弾塑性のFCDの応答を示す。この「ヒューズ」の作動により、FCDのせん断力ならびにVE材料のせん断変形の両方が制限される。図22AにFCDのせん断力対せん断変位を示し、図22Bに制振材料のせん断力対せん断変位を示す。
【0058】
FCD−AおよびFCD−Bに関するせん断力対せん断変位の試験プロフィルをそれぞれ図23Aおよび図23Bに示す。これらの試験プロフィルは、行った試験の包絡線を示す。確認できるように、ダンパの応答がその場合に本質的に粘弾性である、異なる粘弾性の応答の包絡線がある。せん断力が鋼の降伏力(FCD−AではF=675kN、FCD−BではF=667kN)に達すると、ダンパの鋼の部分は、鋼に集中した損傷を発生し始める。鋼の降伏は、FCD−Aの場合は、端板への接合において溶接の先端で始まり、FCD−Bの場合は、「延性」のヒューズ機構を形成する屈曲状態のFCD−Bの細くなった梁部分である。鋼の細くなった梁部分のこうした塑性の挙動により、所望の延性の力を制限する機構が確実に生じる。ダンパの全変位の応答は、VE材料のせん断変位と、FCD−Bのヒューズの延性で屈曲する塑性変形およびFCD−Aの鋼の低い延性の不具合との組み合わせとして構成される。図で確認できるように、FCD−Bの延性の「ヒューズ」により、FCD−Aの場合の約44mmと比べてFCD−Bの場合の約120mmのせん断変形能力がずっと大きくなり、究極の力は、FCD−Bの場合のFu=1,331kNおよびFCD−Aの場合のFu=1,366kNとほぼ等価である。こうした究極の応答包絡線は、認識できるように原寸の試験結果から得られ、望ましくない不具合機構を確実に生じさせないことによって最大の力が制限される。
【0059】
請求項の範囲は、好ましい実施形態の説明または実施例に記載の好ましい実施形態によって限定されるべきではないが、説明全体と矛盾しない最も広い解釈を与えられるべきである。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図19A
図19B
図20
図21
図22
図23