特許第5940529号(P5940529)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5940529チタン酸リチウム凝集体及びこれを用いたリチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940529
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】チタン酸リチウム凝集体及びこれを用いたリチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20160616BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20160616BHJP
【FI】
   C01G23/00 B
   H01M4/485
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-519428(P2013-519428)
(86)(22)【出願日】2012年5月11日
(86)【国際出願番号】JP2012062724
(87)【国際公開番号】WO2012169331
(87)【国際公開日】20121213
【審査請求日】2015年3月9日
(31)【優先権主張番号】特願2011-130392(P2011-130392)
(32)【優先日】2011年6月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】新井 良幸
(72)【発明者】
【氏名】堺 英樹
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/146904(WO,A1)
【文献】 特開平09−309727(JP,A)
【文献】 特開平10−310428(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/140501(WO,A1)
【文献】 特開2005−353652(JP,A)
【文献】 特開2006−040738(JP,A)
【文献】 特開2010−228980(JP,A)
【文献】 特表2005−519831(JP,A)
【文献】 特開2000−302547(JP,A)
【文献】 特開2005−324973(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0135311(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G1/00−23/08
H01M4/00−4/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑な多角形の平面が積層された階段状の構造を有するチタン酸リチウム一次粒子および他の任意の形状を有するチタン酸リチウム一次粒子が集合して形成されLiTi12の組成を有するチタン酸リチウム凝集体であって、全一次粒子数に対して、前記階段状の構造を有するチタン酸リチウム一次粒子数が10%以上であることを特徴とするチタン酸リチウム凝集体
【請求項2】
前記階段状の構造は、多角形の平滑な平面が3段以上積層された構造であることを特徴とする請求項1に記載のチタン酸リチウム凝集体
【請求項3】
前記階段状の構造は、段差(平面の厚さ)が5〜100nm、階段状部分の長さ(段の奥行き)が5〜500nm、階段状部分の幅が100〜1000nmであることを特徴とする請求項1または2に記載のチタン酸リチウム凝集体。
【請求項4】
リチウムを吸蔵・放出可能な正極活物質を有する正極と、請求項1〜3のいずれかに記載のチタン酸リチウム凝集体を負極活物質として用いたリチウムイオン二次電池用負極と、前記正極と前記リチウムイオン二次電池用負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
負極集電体に、請求項1〜3のいずれかに記載のチタン酸リチウム凝集体を含む負極活物質層を設けた負極電極体、正極集電体に正極活物質層を設けた正極電極体、及び前記正極と前記負極との間に介在するリチウムイオンを含有した電解質を含む非水系電解液とを備えたリチウムイオンキャパシタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池およびキャパシタの電極用として好適なチタン酸リチウム一次粒子、およびチタン酸リチウム凝集体に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、サイクル特性に優れていることから、近年急速に普及している。リチウム二次電池の電極活物質、特に負極活物質には、放電電位が高く、安全性に優れたチタン酸アルカリ金属化合物、例えば、スピネル型構造を有するリチウムチタン化合物や、ラムスデライト型構造を有するチタン化合物等が注目されている。スピネル型チタン酸リチウムは、理論容量が175mAh/gであり、また、充放電時の体積変化が小さいため、サイクル特性に優れる。
【0003】
スピネル型チタン酸リチウムの製造方法として、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウムおよび酸化リチウムのうち1種または2種以上のリチウム化合物と酸化チタンとの混合物を670℃以上かつ800℃未満で仮焼して、TiOとLiTiOで構成される組成物またはTiO、LiTiOおよびLiTi12で構成される組成物を調製し、その後、本焼成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
チタン酸リチウムを用いたリチウム二次電池特性の放電特性、サイクル特性を改善する方法として、一次粒子が集合した二次粒子の形状が球形であり、比表面積が0.5〜10m/g、吸油量が30g/100g以上、60g/100g以下であり、主成分がLi4/3Ti5/3からなるチタン酸リチウムを負極活物質として用いる方法(例えば、特許文献2参照)、LiTi12を主成分とし、TiO、LiTiO等の不純物の比率が少なく、結晶子径が700Å〜800Åのチタン酸リチウムを負極活物質とする方法(例えば、特許文献3参照)等が知られている。
【0005】
また、チタン酸リチウムを用いるリチウム二次電池特性のレート特性を改善する方法として、LiTi12を主成分とし、平均粒径が0.5〜1.5μm、最大粒径が25μm以下であり、SD=(d84%−d16%)/2(d84%:粒径の累積カーブが84%となる点の粒径、d16%:粒径の累積カーブが16%となる点の粒径)で示されるSD値が0.5μm以下であるチタン酸リチウムを負極活物質として用いる方法(例えば、特許文献4参照)、チタン酸リチウムの集合した二次粒子の表面にマイクロポアを有するチタン酸リチウムを負極活物質として用いる方法(例えば、特許文献5参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−302547号公報
【特許文献2】特開2001−192208号公報
【特許文献3】特開2001−240498号公報
【特許文献4】特開2003−137547号公報
【特許文献5】WO2010/137582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のある製造方法では、特定条件での焼成を組み合わせた工程を採用することにより、リチウム化合物の損失が極めて少なく、Li/Ti比の制御が容易であり、原料酸化チタンの残存もなく、スピネル型チタン酸リチウムを効率的に製造できる。しかし、ながら、得られたスピネル型チタン酸リチウムでは、リチウム二次電池負極に用いた場合、その急速充放電時の電気容量およびサイクル特性は十分ではなく、より高めることが望まれていた。
【0008】
また、特許文献2〜5に見られる改善手法は、いずれも本質的な改良には至っておらず、リチウム二次電池特性の放電特性、サイクル特性等の特性の向上は不十分なものであった。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、急速充放電時の電気容量およびサイクル特性をより高めることができるチタン酸リチウム粒子活物質を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、本発明者らは、特定の形状を有するチタン酸リチウム一次粒子を負極活物質として用いると、リチウムイオン二次電池における急速充放電時の電気容量およびサイクル特性、リチウムイオンキャパシタにおける急速充放電特性をより高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係るチタン酸リチウム凝集体は、平滑な多角形の平面が積層された階段状の構造を有するチタン酸リチウム一次粒子および他の任意の形状を有するチタン酸リチウム一次粒子が集合して形成され、かつLiTi12の組成を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るチタン酸リチウム凝集体は、前記階段状構造を有するチタン酸リチウム一次粒子および他の任意の形状を有するチタン酸リチウム一次粒子が集合して形成されたチタン酸リチウム凝集体であって、全一次粒子数に対して、前記階段状構造を有するチタン酸リチウム一次粒子数が10%以上であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池は、リチウムを吸蔵・放出可能な正極活物質を有する正極と、上述のチタン酸リチウム一次粒子またはチタン酸リチウム凝集体を負極活物質として用いたリチウムイオン二次電池用負極と、前記正極と前記リチウムイオン二次電池用負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体とを備えることを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明に係るリチウムイオンキャパシタは、負極集電体に上述のチタン酸リチウム一次粒子またはチタン酸リチウム凝集体を含む負極活物質層を設けた負極電極体、正極集電体に正極活物質層を設けた正極電極体、及び前記正極と前記負極との間に介在するリチウムイオンを含有した電解質を含む非水系電解液とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のチタン酸リチウム一次粒子またはチタン酸リチウム凝集体を用いることにより、リチウムイオン二次電池では、急速充放電時の電気容量およびサイクル特性をより高めることができる。また、本発明のチタン酸リチウム一次粒子またはチタン酸リチウム凝集体を用いたリチウムイオンキャパシタでは、急速充放電特性(5C以上:1時間で電池の容量をすべて放電させる電流値が「1C」である。5C以上の充放電とは、この電流値の5倍の電流で充放電を行うことを表す)を改善することができる。
【0016】
このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。例えば、本発明のチタン酸リチウム一次粒子は、階段状の結晶面から構成されるため、Liイオンを吸蔵、放出する際に特異的に低い抵抗を示すと考えられる。また、本発明のチタン酸リチウム一次粒子またはチタン酸リチウム凝集体と、負極を構成する導電助剤(カーボン系材料)との親和性が高いため、接触抵抗を低減する可能性が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1で得られたチタン酸リチウム凝集体のSEM写真(5万倍)である。
図2】実施例1で得られたチタン酸リチウム凝集体のSEM写真(5000倍)である。
図3】実施例2で得られたチタン酸リチウム凝集体のSEM写真(5万倍)である。
図4】実施例3で得られたチタン酸リチウム凝集体のSEM写真(5万倍)である。
図5】比較例1で得られたチタン酸リチウム凝集体のSEM写真(5万倍)である。
図6】比較例1で得られたチタン酸リチウム凝集体のSEM写真(5000倍)である。
図7】比較例2で得られたチタン酸リチウム凝集体のSEM写真(5万倍)である。
図8】実施例のリチウム二次電池特性評価方法の評価に使用したコインセルの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るチタン酸リチウム一次粒子は、多角形の平滑な平面が階段状に積層された構造を有することを特徴とするチタン酸リチウム一次粒子である。本発明に係るチタン酸リチウム一次粒子を構成する多角形の平滑な平面の形状は主に四角形であり、階段状の構造は、段差(平面の厚さ)が5〜100nm、階段状部分の長さ(段の奥行き)が5〜500nm、階段状部分の幅が100〜1000nmである。
【0019】
また、階段状の構造は、多角形の平滑な平面が3段以上積層された構造であることが好ましい。また、本発明に係るチタン酸リチウム一次粒子は、前記階段状の構造が、該チタン酸リチウム一次粒子の最上面の、一辺が100〜1000nmの多角形(例えば三角形、四角形(正方形、長方形等)、五角形および六角形)の平滑な平面の結晶面(以下、A面と略す)に隣接して形成される。
【0020】
また、本発明に係るチタン酸リチウム一次粒子のチタン酸リチウムとしては、一般式LiTi12で表わされ、例えばスピネル構造を有するLi4+XTi12(0≦x≦3)や、ラムステライド構造を有するLi2+yTi(0≦y≦3)が挙げられる。また、前記A面は、{111}面の結晶面であることが好ましい。
【0021】
このような構造を有するチタン酸リチウム凝集体をリチウムイオン二次電池用負極の活物質として用いることで、大電流(0.875A/g(負極活物質重量(g)に対する電流値)以上)の急速充放電(5C以上)時の電気容量及びサイクル特性をより高めることができる。また、リチウムイオンキャパシタの負極の活物質として用いた場合では、急速充放電特性を改善することができる。
【0022】
また、本発明では、前記本発明のチタン酸リチウム一次粒子、または、前記本発明のチタン酸リチウム一次粒子および他の任意の公知の形状を有するチタン酸リチウム一次粒子が集合して形成されたチタン酸リチウム凝集体であって、全一次粒子数に対して、前記本発明のチタン酸リチウム一次粒子数が10%以上であることを特徴とする凝集体でも良い。凝集体とは、凝集体を形成する一次粒子が、粉砕処理や、溶媒(水、不活性有機溶媒など)との混合処理により、形成する一次粒子が単分散できるような凝集体から、加熱処理、焼結等により、一次粒子同士が結合し形成した凝集体までをいう。本発明のチタン酸リチウム凝集体は、全ての一次粒子が本発明に係る形状の粒子であれば好ましいが、少なくとも10%以上含まれていれば、本発明の効果を損なうことなく、異なる形状の粒子を混在させることができる。
【0023】
本発明に係るチタン酸リチウム凝集体を形成する、複数の多角形の平滑な平面から階段状に構成された本発明に係るチタン酸リチウム一次粒子の割合は、より好ましくは、全一次粒子数に対して30%以上であるチタン酸リチウム粒子凝集体が好ましく、さらに好ましくは80%以上である。
【0024】
本発明に係る形状のチタン酸リチウム凝集体をリチウムイオン二次電池用負極の活物質として用いることで、大電流(0.875A/g(負極活物質重量(g)に対する電流値)以上)の急速充放電(5C以上)時の電気容量及びサイクル特性をより高めることができる。また、リチウムイオンキャパシタの負極の活物質として用いた場合では、急速充放電特性を改善することができる。
【0025】
なお、前記粒子数の割合は、以下の方法により決定する。電子顕微鏡を用いて、チタン酸リチウム凝集体の一次粒子の結晶表面が充分に観察できる倍率(1万〜10万倍)でランダムに100視野を観察する。視野内で観察できる一次粒子の数及び、一次粒子の中で、本発明の構造を有する一次粒子数を測定する。この測定を100視野について行い、全一次粒子数(M)と、本発明に係る、複数の多角形の平滑な平面から階段状に構成され、一部の連接する複数の前記平面が規則的に繰り返される階段状の構造を有する一次粒子数(N)の比N/Mを求めて決定する。
【0026】
また、本発明に係るチタン酸リチウム粒子凝集体は、特に限定されるものではないが、粒径は、レーザー回折法による測定において、20μm以下、好ましくは1μm〜5μm、比表面積は4.6m/g以上、タップ密度は0.6〜1.5g/cmの範囲である。また、形状は球状、多面体状、不定形等特に制限は無いが、電池特性上できるだけ異方性の小さい形状が有利であり、球状がより好ましい。
【0027】
本発明に係るチタン酸リチウム凝集体としては、スピネル構造を有するLi4+XTi12(0≦x≦3)、特にLiTi12が挙げられる。単一相であることがより好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で酸化チタン、LiTiO相等の異相が混在していてもよく、単相化率90%以上のもの(部分的にLiTiOやTiOが混在していても良い)であっても良い。
【0028】
このような構造を有するチタン酸リチウム凝集体をリチウムイオン二次電池用負極の活物質として用いることで、大電流(0.875A/g(負極活物質重量(g)に対する電流値)以上)の急速充放電(5C以上)時の電気容量及びサイクル特性をより高めることができる。また、リチウムイオンキャパシタの負極の活物質として用いた場合では、急速充放電特性を改善することができる。
【0029】
なお、単相化率とは、本発明に係るチタン酸リチウム凝集体のX線回折装置を用いて測定した回折結果を、解析ソフト「X’Part−HighScore Plus Ver.2」の準定量ソフト(パナリティカル社製)を用い、LiTi12、TiO(ルチル相)、LiTiOの3つの成分について解析した準定量値(LiTi12の準定量値:I、TiO(ルチル相) の準定量値:I、LiTiOの準定量値:I)をもとに、以下の式より求めた値である。準定量とは、ICDDカードに記載のある準定量値(RIR=Reference Intensity Ratio:Al(コランダム)の最強線に対するカードの回折線の最強線の強度比)により定量を行う方法である。
単相化率=I/(I+I+I
【0030】
本発明のチタン酸リチウム一次粒子及びチタン酸リチウム凝集体は、例えば、リチウム原料として、水酸化リチウム及び炭酸リチウム、チタン原料として酸化チタン、メタチタン酸、オルトチタン酸、あるいはこれらの混合物を用い、これらの混合粉を、特定の焼成条件で焼成することにより得ることができる。
【0031】
原料として用いるこれらの水酸化リチウム及び炭酸リチウムは高純度のものが好ましく、通常純度99.0重量%以上が良い。また、水酸化リチウム及び炭酸リチウムに含まれる水分については十分除去したものが望ましく、その含有量は0.1重量%以下にすることが望ましい。さらに平均粒径(レーザー回折法による測定)は0.01〜100μmが望ましく、特に、炭酸リチウムの場合は50μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは0.01μm以上が良い。
【0032】
水酸化リチウムと炭酸リチウムの混合比は、通常、必要とするLi量を100とした場合、Liモル比で水酸化リチウム:炭酸リチウム=10:90〜95:5、好ましくは50:50〜95:5、より好ましくは70:30〜95:5の範囲となるように調整する。
【0033】
チタン原料として用いる酸化チタン、メタチタン酸、オルトチタン酸、あるいはこれらの混合物も高純度であることが望ましく、具体的には純度99.0重量%以上、好ましくは99.5重量%以上が良く、不純物として含まれるFe、Al、SiおよびNaが各々20ppm未満であり、かつ、Clが500ppm未満であることが望ましい。望ましくは、Fe、Al、SiおよびNaが各々10ppm未満であり、Clが100ppm未満、さらに望ましくは50ppm未満であるのが良い。
【0034】
チタン原料として酸化チタンを用いる場合、その比表面積は10m/g以上、好ましくは20m/g〜250m/g、より好ましくは30m/g〜250m/gが好ましい。得られるチタン酸リチウムの単相化率、ひいては電池特性、キャパシタ特性面から好ましい。なお、酸化チタンの比表面積は後述する焼成温度と関係する。
【0035】
チタン酸リチウム一次粒子及びチタン酸リチウム凝集体の合成に当たっては、上記リチウム化合物とチタン原料とを、チタン酸リチウムのLi/Ti比(原子比)の目標値、例えば0.68〜0.82の範囲から選択される値に合わせて、両原料を計量後、水あるいは水系媒体10〜50重量%のスラリーにして十分混合した後、加熱あるいは噴霧乾燥によって乾燥させる。両原料の混合には、振動ミル、ボールミル等が適宜使用される。乾燥後の混合物は、バルク状のまま、あるいは0.5t/cm程度の圧力で圧縮して成形体として焼成に供される。
【0036】
焼成は、700〜950℃、好ましくは720〜950℃に保持して焼成する。また、第1段階では温度600〜700℃とやや低い温度で30分〜5時間程度仮焼し、次いで第2段階として温度を高め700〜950℃、好ましくは720〜950℃にて焼成する方法を採用しても良い。チタン原料として酸化チタンを用いる場合、酸化チタンの比表面積が20〜250m/gの場合は、焼成温度は700〜850℃、比表面積が10〜20m/gの酸化チタンの場合は、焼成温度は800〜950℃が、目的物であるチタン酸リチウムの一次粒子径、純度(単相化度と言う)、ひいては電池特性、キャパシタ特性面から好ましい。
【0037】
特に、焼成時の昇温速度は1℃/min以下が好ましく、好ましくは0.5℃/min以下である。なお、昇温速度は、焼成時間へ影響を及ぼすため、生産効率と特性のバランスを考慮して設定する必要がある。加熱焼成後、必要に応じてハンマミル、ピンミルなどを用いて粉砕してもよい。
【0038】
本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムを吸蔵・放出可能な正極活物質を有する正極と、上述のチタン酸リチウム一次粒子またはチタン酸リチウム凝集体を負極活物質として用いたリチウムイオン二次電池用負極と、前記正極と前記リチウムイオン二次電池用負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものである。
【0039】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極は、例えば正極活物質、導電材、バインダー、溶剤を混合し、ペースト状としたものを、正極集電体の表面に塗布乾燥し(必要に応じて電極密度を高めるために圧縮し)形成することができる。
【0040】
正極活物質としては、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物、又はポリアニオン系化合物を用いることができる。具体的には、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Li(1−n)CoOなど(0<n<1、以下同じ))、リチウムニッケル複合酸化物(Li(1−n)NiOなど)、リチウムマンガン複合酸化物(Li(1−n)MnO、Li(1−n)Mnなど)、リチウム鉄複合リン酸化物(LiFePOなど)、リチウムバナジウム複合酸化物(LiVなど)などが挙げられる。
【0041】
正極集電体は、導電性材料で形成されたものであれば特に限定されないが、例えば、アルミニウムや銅、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼などの金属で形成されている箔やメッシュを用いることができる。
【0042】
バインダーは、活物質粒子及び導電材粒子をつなぎ止める役割を果たすものである。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴムなどの含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂などを用いることができる。
【0043】
導電材は、正極の電気伝導性を確保するためのものであり、例えばカーボンブラック、アセチレンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類などの炭素物質粉末状体の1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。
【0044】
正極活物質、導電材、バインダーを分散させる溶剤としては、例えばN−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0045】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、本発明のチタン酸リチウム一次粒子またはチタン酸リチウム凝集体を含む負極活物質を備えている。本発明のリチウムイオン二次電池の負極は、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成することができる。
【0046】
また、本発明のリチウムイオン二次電池用負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。
【0047】
負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0048】
本発明のリチウムイオン二次電池において、イオン伝導媒体は、支持塩を有機溶媒に溶かした非水電解液やイオン性液体、ゲル電解質、固体電解質などを用いることができる。このうち、非水電解液であることが好ましい。支持塩としては、例えば、LiPF,LiClO,LiAsF,LiBF,Li(CFSON,Li(CFSO),LiN(CSOなどの公知の支持塩を用いることができる。支持塩の濃度としては、0.1〜2.0Mであることが好ましく、0.8〜1.2Mであることがより好ましい。
【0049】
有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)など従来の二次電池やキャパシタに使われる有機溶媒が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、イオン性液体としては、特に限定されるものではないが、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム・ビス(トリフルオロスルホニル)イミドや1−エチル−3−ブチルイミダゾリウム・テトラフルオロボレート、N−メチル−N−プロピルピロリディニウム・ビス(フルオロスルフォニル)イミドなどを用いることができる。
【0050】
ゲル電解質としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデンやポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリルなどの高分子類またはアミノ酸誘導体やソルビトール誘導体などの糖類に、支持塩を含む電解液を含ませてなるゲル電解質が挙げられる。
【0051】
固体電解質としては、無機固体電解質や有機固体電解質などが挙げられる。無機固体電解質としては、例えば、Liの窒化物、ハロゲン化物、酸素酸塩などがよく知られている。なかでも、LiSiO、LiSiO−LiI−LiOH、xLiPO−(1−x)LiSiO、LiSiS、LiPO−LiS−SiS、硫化リン化合物などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0052】
有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリホスファゼン、ポリエチレンスルフィド、ポリヘキサフルオロプロピレンなどやこれらの誘導体が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0053】
本発明のリチウムイオン二次電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウムイオン二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0054】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
【0055】
本発明のリチウムイオンキャパシタは、負極集電体に負極活物質として本発明のチタン酸リチウム一次粒子またはチタン酸リチウム凝集体による層を含む負極電極体、正極集電体に正極活物質層を設けた正極電極体、及び前記正極と前記負極との間に介在するリチウムイオンを含有した電解質を含む非水系電解液とを備えたリチウムイオンキャパシタである。
【0056】
リチウムイオンキャパシタは、リチウムイオンを含有した電解質を含む非水系電解液を使用する蓄電素子であって、正極においては電気二重層キャパシタと同様の陰イオンの吸着・脱着による非ファラデー反応、負極においてはリチウムイオン電池と同様のリチウムイオンの吸蔵・放出によるファラデー反応によって充放電を行う蓄電素子である。リチウムイオンキャパシタは、正極では非ファラデー反応、負極ではファラデー反応による充放電を行うことによって、優れた出力特性と高いエネルギー密度を両立することができる。
【0057】
本発明のリチウムイオンキャパシタの正極は、例えば正極活物質、必要に応じて導電材及びバインダーを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状としたものを、正極集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて圧縮して形成することができる。
【0058】
正極活物質は、多孔質炭素材料が好ましく、具体的には活性炭が好ましい。正極活物質層における結着剤としては、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、などを使用することができる。
【0059】
導電剤には、導電性炭素材料からなる導電性フィラーを混合することができる。このような導電性フィラーとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維、黒鉛、これらの混合物などが好ましい。
【0060】
上記正極集電体上には、正極活物質層を塗布する前に予め、導電性フィラーと結着剤を含有する導電層を設け、正極電極体自身の抵抗を減少させることができる。該導電性フィラーとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維、及びこれらの混合物などが好ましい。塗布方法を例示すれば、バーコート法、転写ロール法、Tダイ法、スクリーン印刷法などを挙げることができ、ペーストの物性と塗布厚に応じた塗布方法を適宜選択できる。
【0061】
本発明のリチウムイオンキャパシタの負極は、例えば負極活物質として本発明のチタン酸リチウム、必要に応じて導電材及びバインダーを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状としたものを、負極集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて圧縮して形成することができる。
【0062】
バインダーは、正極と同様に、PVdF、PTFE、フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体などを使用することができる。必要に応じて負極活物質より導電性の高い炭素質材料からなる導電性材を混合することができる。該導電性材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維、及びこれらの混合物を挙げることができる。負極活物質層を塗布する前に予め、負極集電体上に、導電性フィラーと結着剤を含有する導電層を設けることもできる。該導電性フィラーとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維、及びこれらの混合物などが好ましい。
【0063】
成型された正極電極体及び負極電極体は、必要に応じてセパレータを介して積層又は捲回積層され、金属缶又はラミネートフィルムから形成された外装体内に挿入される。セパレータとしては、リチウムイオン二次電池に用いられるポリエチレン製の微多孔膜若しくはポリプロピレン製の微多孔膜又は電気二重層コンデンサで用いられるセルロース製の不織紙などを用いることができる。
【0064】
外装体には、金属缶やラミネートフィルムが使用することができる。金属缶としては、アルミニウム製のもの、また、外装体に使用されるラミネートフィルムとしては、金属箔と樹脂フィルムを積層したフィルム(例えば外層樹脂フィルム/金属箔/内装樹脂フィルムからなる3層構成のもの)が例示される。外層樹脂フィルムは接触等により金属箔が損傷を受けることを防止するためのものであり、ナイロンやポリエステル等の樹脂が好適に使用できる。金属箔は水分やガスの透過を防ぐためのものであり、銅、アルミニウム、ステンレス等の箔が好適に使用できる。また、内装樹脂フィルムは、内部に収納する電解液から金属箔を保護するとともに、ヒートシール時に溶融封口させるためのものであり、ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィンが好適に使用できる。
【0065】
本発明のリチウムイオンキャパシタにおいて、電解質は、例えば、LiN(SO、LiBF 、LiPFを挙げることができる。これらの電解室を溶解する非水系電解液の溶媒としては、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)に代表される環状炭酸エステル、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(MEC)に代表される鎖状炭酸エステル、γ−ブチロラクトン(γBL)などのラクトン類、及びこれらの混合溶媒を用いることができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
1.チタン酸リチウム粒子の評価方法
(粒子形状観察)
粒子形状は、日立ハイテクノロジー社製電子顕微鏡S−4700を用いて、無蒸着サンプルを加速電圧:5kV、ワーキングディスタンス:7.5mmの条件で観察した。観察倍率は、サンプルの凝集体の大きさ、形状が観察できる5000倍及び、サンプルの一次粒子表面が明確に観察できる倍率、1万倍〜10万倍の範囲で観察を行った。
【0067】
(単相化率)
以下の条件にて、本発明に係るチタン酸リチウム粒子のパナリティカル社製X線回折装置(品番:X’Part−ProMPD)を用いて測定した。
測定条件
X線管球:Cu
加速電圧:45kV、電流値:40mA
スキャンスピード:0.104°/秒
光学系(入射側)
フィルター :Ni
マスク :15mm
発散スリット :0.5°
散乱防止スリット:1°
減衰板 :なし
光学系(受光側)
フィルター :Ni
ソーラースリット:0.04rad
散乱防止スリット:5.5mm
減衰板 :なし
受光スリット :なし
ディテクター :X’Celerator
【0068】
その回折結果を解析ソフト「X’Part−HighScore Plus Ver.2」の準定量ソフト(パナリティカル社製)を用い、LiTi12、TiO(ルチル相)、LiTiOの3つの成分について解析した準定量値をもとに、以下の式より求めた値である。準定量とは、ICDDカードに記載のある準定量値(RIR=Reference Intensity Ratio:Al(コランダム)の最強線に対するカードの回折線の最強線の強度比)により定量を行う方法である。
単相化率=I/(I+I+I
LiTi12の準定量値:IA’TiO(ルチル相) の準定量値:IB’
LiTiOの準定量値:I
【0069】
({111}面である結晶面が階段状に形成された構造を有する一次粒子数の割合)
チタン酸リチウムの一次結晶表面が充分に観察できる1万倍〜10万倍でランダムに100視野を観察する。視野内で観察できる一次粒子の数(M)及び、一次粒子の中で、複数の多角形の平滑な平面から構成され、一部の連接する平面が規則的に繰り返される階段状の構造を有する一次粒子数(N)を測定する。この測定を100視野について行い、一次粒子数(M)と、平滑な平面を有し、かつその側面の少なくとも一部が階段状の構造を有する一次粒子数(N)の比N/Mを求めて決定した。
【0070】
(比表面積の測定方法)
BET法により測定した。前処理の脱気条件は110℃、30分とした。
【0071】
(粒径測定)
チタン酸リチウム一次粒子の粒度分布は、前記SEM観察像(倍率:1万倍〜10万倍)より測定した。チタン酸リチウム凝集体の粒度分布(平均粒径D50(体積積算粒度分布における積算粒度で50%の粒径)は、粒度分布測定装置 LA-920(株式会社堀場製作所製)を用い、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.2%水溶液に測定試料を投入し、LA-920内蔵の超音波分散装置(出力30W-レンジ5)にて、3分間分散処理した上で測定した。
【0072】
2.リチウム二次電池特性の評価方法
(コインセル作製)
チタン酸リチウム凝集体95重量部とケッチェンブラック5重量部およびポリフッ化ビニリデン5重量部を混合後、N−メチル−2−ピロリドンを固形分濃度45%となるように添加し、ハンディーミキサーにより10分間混練してペーストを作製する。次に、得られたペーストをアルミ箔表面にドクターブレード法により塗布する。この塗膜を80℃で一晩真空乾燥した後、1.5cmの円形に打ち抜く。打ち抜いた塗膜は、64MPaの圧力でプレスした。
【0073】
図8に示すコインセル10を作製する。電極1には、上記のチタン酸リチウム粒子のプレス品、対極2には金属Li板、電解液3には、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの1:1(体積比)混合液にLiPFを1mol/Lの割合で溶かしたもの、セパレータ4にはセルガード社製セルガード#2400を使用した。電極1、対極2、電解液3、セパレータ4をコイン缶5に設置後、ガスケット6をコイン缶外周部に取り付け、缶蓋部7を載せて外周部をカシメ、密封してコインセル10とした。コインセル10のすべての組み立て作業は、露点を−80℃以下に管理したアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0074】
(充放電特性の評価方法)
充放電特性の評価は、30℃の恒温槽内に設置したホルダーにコインセル10をセットし、北斗電工社製充放電装置HJ1001SDを用いて測定した。初めに、チタン酸リチウム凝集体1g当たり17.5mAの電流(0.1C)を流して、電圧1.0Vとなるまで放電させて、さらに1.0Vで6時間保持して充分に放電させる(初期放電)。
【0075】
次に、0.1Cの電流で2.0Vまで充電した後、再び0.1Cで1.0Vまで放電させる。このとき、放電時に流れた電流量を積算し、チタン酸リチウム1g当たりの電気量に換算した値を0.1C時の電気容量とする。0.1Cの電流値による電気容量測定を3回繰り返した後に、チタン酸リチウム凝集体1g当たり175mA(1C)、350mA(2C)、875mA(5C)、1.75A(10C)の電流値で充放電をそれぞれ5回ずつ繰り返してそのときの電気容量を測定する。10Cの電気容量の5つの測定値を平均して代表値とし、また、10Cの電気容量測定時の1回目と測定値と5回目の測定値の比を容量維持率(%)(5回目と測定値/1回目の測定値)として評価した。
【0076】
[実施例1]
純度99.9%の酸化チタン粉末(東邦チタニウム(株)製,比表面積30m/g)565.4gと、純度99.5%の炭酸リチウム粉末(関東化学(株)製)20.9g、純度99.0%の水酸化リチウム・一水和物(関東化学(株)製)215.9gを秤量し、ナイロン製10Lボールミル中に投入した。ジルコニア製ボール10kgと純水2.5kg、分散剤(花王(株)製、ポアズ532A)40gを添加した後、ボールミルにより8時間混合、粉砕をおこなった。
【0077】
得られたスラリーを、スプレードライヤー(ヤマト科学(株)製、GB210−B)を用いて220℃の熱風により噴霧造粒し、球状の造粒混合粉を得た。次にこの混合粉をアルミナ製のサヤに入れ、昇温速度0.5℃/分で800℃まで昇温した後に800℃で6時間焼成し、降温速度1℃/分で室温まで冷却し、チタン酸リチウム凝集体を得た。
【0078】
得られたチタン酸リチウム凝集体は、X線回折測定の結果、LiTi12が主成分であった。得られたチタン酸リチウム凝集体の電子顕微鏡写真を図1図2に示す。得られたチタン酸リチウム凝集体は、一次粒子の殆どが、複数の多角形の平滑な平面から構成され、前記複数の平面の一部の連接する平面が規則的に繰り返される階段状の構造(各段の形状は長方形であり、階段状の段差は5〜100nm、階段状の長さ(奥行き)は5〜500nm、階段状の幅は100〜1000nmである)を有する一次粒子より構成される凝集体である。
【0079】
得られたチタン酸リチウム凝集体の、複数の多角形の平滑な平面から構成され、前記複数の平面の一部の連接する平面が規則的に繰り返される階段状の構造を有する一次粒子の割合、単相化率、電流値0.1C及び10Cの電気容量、容量維持率の結果を表1に示す。なお、窒素吸着を用いたBET法による比表面積は6.0m/gであった。また、チタン酸リチウム一次粒子の粒径は0.1〜0.5μm、チタン酸リチウム凝集体の平均粒径は4.2μmであった。
【0080】
また、収束イオンビーム加工観察装置を用い、チタン酸リチウム凝集体より観察用薄片試料を作製し、チタン酸リチウム一次粒子の平坦面を、透過型電子顕微鏡によって制限視野回折を行った。その結果、平坦面は、LiTi12の{111}面 (面間隔:4.835Å)であった。他の10箇所のチタン酸リチウム一次粒子についても同様に測定した結果すべてが{111}面であった。よって、チタン酸リチウム一次粒子の平坦面は{111}面が選択的に形成されている。
【0081】
[実施例2]
実施例1の酸化チタン粉末565.4gと、炭酸リチウム粉末20.9g、水酸化リチウム・一水和物215.9gを、酸化チタン粉末573.5g、炭酸リチウム粉末106.1g、水酸化リチウム・一水和物121.6gとしたこと以外は、実施例1と同じ方法によってチタン酸リチウム凝集体を作製した。
【0082】
得られたチタン酸リチウム凝集体は、X線回折測定の結果、LiTi12が主成分であった。得られたチタン酸リチウム凝集体の電子顕微鏡写真を図3に示す。得られたチタン酸リチウム凝集体は、一次粒子の多くが、複数の多角形の平滑な平面から構成され、前記複数の平面の一部の連接する平面が規則的に繰り返される階段状の構造を有する一次粒子である凝集体であるが、前記形状の一次粒子数は、実施例1と比較すると少なかった。
【0083】
得られたチタン酸リチウム凝集体の、複数の多角形の平滑な平面から構成され、前記複数の平面の一部の連接する平面が規則的に繰り返される階段状の構造を有する一次粒子の割合、単相化率、電流値0.1C及び10Cの電気容量、容量維持率の結果を表1に示す。なお、窒素吸着を用いたBET法による比表面積は5.2m/gであった。また、チタン酸リチウム一次粒子の粒径は、0.1〜0.5μm、チタン酸リチウム凝集体の平均粒径は4.0μmであった。
【0084】
実施例1と同様に、チタン酸リチウム一次粒子の平坦面を、透過型電子顕微鏡によって制限視野回折を行った。その結果、平坦面は、LiTi12の{111}面 (面間隔:4.835Å)であった。
【0085】
[実施例3]
実施例1の酸化チタン粉末565.4gと、炭酸リチウム粉末20.9g、水酸化リチウム・一水和物215.9gを、酸化チタン粉末581.8g、炭酸リチウム粉末193.8g、水酸化リチウム・一水和物24.6gとしたこと、ボールミル混合後の得られたスラリーをスプレードライヤーにて乾燥造粒することを、110℃にて乾燥機内でバット乾燥した後、乳鉢により解砕を行い均一な混合粉を得たとしたこと以外は、実施例1と同じ方法によってチタン酸リチウム凝集体を作製した。
【0086】
得られたチタン酸リチウム凝集体は、X線回折測定の結果、LiTi12が主成分であった。得られたチタン酸リチウム凝集体の電子顕微鏡写真を図4に示す。得られたチタン酸リチウム凝集体は、一次粒子の一部が、複数の多角形の平滑な平面から構成され、前記複数の平面の一部の連接する平面が規則的に繰り返される階段状の構造を有する一次粒子である凝集体であった。
【0087】
得られたチタン酸リチウム凝集体の、複数の多角形の平滑な平面から構成され、前記複数の平面の一部の連接する平面が規則的に繰り返される階段状の構造を有する一次粒子の割合、単相化率、電流値0.1C及び10Cの電気容量、容量維持率の結果を表1に示す。なお、窒素吸着を用いたBET法による比表面積は5.5m/gであった。また、チタン酸リチウム一次粒子の粒径は、0.2〜0.5μm、チタン酸リチウム凝集体の平均粒径は3.7μmであった。
【0088】
実施例1と同様に、チタン酸リチウム一次粒子の平坦面を、透過型電子顕微鏡によって制限視野回折を行った。その結果、平坦面は、LiTi12の{111}面 (面間隔:4.835Å)であった。
【0089】
[比較例1]
実施例1の酸化チタン粉末565.4gとし、炭酸リチウム粉末20.9g、水酸化リチウム・一水和物215.9gを、酸化チタン粉末583.6g(東邦チタニウム(株)製,比表面積8m/g)、炭酸リチウム粉末216.4gとしたこと、焼成時の昇温速度4℃/分、降温速度4℃/分へ変更した以外は、実施例1と同じ方法によってチタン酸リチウム凝集体を作製した。
【0090】
得られたチタン酸リチウム凝集体は、X線回折測定の結果、LiTi12が主成分であった。得られたチタン酸リチウム粒子の電子顕微鏡写真を図5図6に示す。得られたチタン酸リチウム粒子は、一次粒子の凝集体であるが、一次粒子には、複数の多角形の平滑な平面を有し、また規則的に繰り返される階段状の構造を有する一次粒子は観察されなかった。
【0091】
得られたチタン酸リチウム凝集体の、複数の多角形の平滑な平面から構成され、前記複数の平面の一部の連接する平面が規則的に繰り返される階段状の構造を有する一次粒子の割合、単相化率、電流値0.1C及び10Cの電気容量、容量維持率の結果を表1に示す。なお、窒素吸着を用いたBET法による比表面積は4.5m/gであった。また、チタン酸リチウム一次粒子の粒径は、0.2〜0.7μm、チタン酸リチウム凝集体の平均粒径は4.1μmであった。
【0092】
[比較例2]
実施例1の純度99.9%の酸化チタン粉末(東邦チタニウム(株)製,比表面積30m/g)565.4gと、純度99.5%の炭酸リチウム粉末(関東化学(株)製)20.9g、純度99.0%の水酸化リチウム・一水和物(関東化学(株)製)215.9gを、純度98.7%の酸化チタン粉末(堺化学工業(株)製,比表面積10m/g)565.4gと純度99.0%の水酸化リチウム・一水和物(関東化学(株)製)227.3gとした以外は、実施例1と同様にチタン酸リチウム凝集体を得た。
【0093】
得られたチタン酸リチウム凝集体は、X線回折測定の結果、LiTi12が主成分であった。得られたチタン酸リチウム凝集体の電子顕微鏡写真を図7に示す。得られたチタン酸リチウム凝集体は、一次粒子の一部が、複数の多角形の平滑な平面から構成され、前記複数の平面の一部の連接する平面が規則的に繰り返される階段状の構造を有する一次粒子である凝集体がほとんど観察されなかった。
【0094】
また、得られたチタン酸リチウム凝集体の、複数の多角形の平滑な平面から構成され、前記複数の平面の一部の連接する平面が規則的に繰り返される階段状の構造を有する一次粒子の割合、単相化率、電流値0.1C及び10Cの電気容量、容量維持率の結果を表1に示す。なお、窒素吸着を用いたBET法による比表面積は3.8m/gであった。また、チタン酸リチウム一次粒子の粒径は0.4〜1.0μm、チタン酸リチウム凝集体の平均粒径は4.5μmであった。
【0095】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0096】
急速充放電時の電気容量およびサイクル特性を従来より向上させたリチウムイオン二次電池およびリチウムイオンキャパシタを提供することができ、有望である。
【符号の説明】
【0097】
1…電極
2…対極
3…電解液
4…セパレータ
5…コイン缶
6…ガスケット
7…缶蓋部
10…コインセル

図8
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7