(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記キレート剤が、アミノカルボン酸、ポリアミン、アミノアルコール、オキシム、およびポリエチレンイミンからなる化合物の群より選択される請求項1から2のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の組成物は、常圧蒸留物、軽油および残留物の水素化処理、ならびに真空軽油および残留物の水素化処理等の、石油から誘導された原料の触媒水素化処理を含む用途に特に有用である。本発明の触媒組成物の一実施形態は、単一工程の含浸を用いて、当該組成物に導入した成形支持体、キレート剤を含む金属導入支持体を生成する、水素化機能を提供する少なくとも1つの金属成分とキレート剤との溶液、および、乾燥し、さらに、極性添加剤を導入して、添加剤含浸組成物を生成する金属成分を含む。
【0010】
本発明の組成物は、優れた水素化脱硫および水素化脱窒素活性を有し、他の先行技術の水素化処理触媒組成物と比較する場合、十分な触媒安定性を示すことが分かった。本発明の組成物の触媒活性の認識された改善を生じるか、またはこれをもたらす、実際のメカニズムは、確実に知られていないが、極性添加剤とキレート剤の併用は、認められた触媒の利益を提供することが理論付けられる。
【0011】
キレート剤が組成物の金属成分と共に使用される場合、キレート剤は、支持体に含まれる金属と金属キレート錯体を形成し、この反応は、金属を除去するか、または、支持体材料表面に強力に結合するのを防ぐと考えられている。キレート剤によって処理された組成物が、極性添加剤でさらに充填される場合、金属キレート錯体は、支持体材料表面において分散すると考えられている。このキレート化処理と極性添加剤の併用は、触媒性能を促進すると考えられる。
【0012】
本発明の触媒組成物の製造に使用される支持体は、水素化処理触媒の金属水素化成分に対して、適切に支持体を提供することができ、本発明のキレート剤および極性添加剤をさらに充填することができる孔隙率を有する、任意の材料であってもよい。多孔性耐火性酸化物は、支持体材料として一般に使用される。可能性のある適切な多孔性耐火性酸化物の例としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、チタニア−アルミナ、ジルコニア−アルミナ、シリカ−チタニア、およびこれらのうちの2以上の組合せが挙げられる。本発明の組成物の支持体の製造に使用される、好ましい多孔性耐火性酸化物は、アルミナ、シリカ、およびシリカ−アルミナからなる群より選択される、多孔性耐火性酸化物である。これらのうち、最も好ましい多孔性耐火性酸化物は、アルミナである。
【0013】
多孔性耐火性酸化物は、一般に、約50オングストロームから約200オングストロームの範囲の平均細孔径を有し得る。標準水銀多孔度測定法により測定された、多孔性耐火性酸化物の全細孔容積は、約0.2cc/グラムから約2cc/グラムの範囲にある。B.E.T.法により測定された多孔性耐火性酸化物の表面積は、一般に、約100m
2/グラムを超え、典型的には、約100m
2/グラムから約400m
2/グラムの範囲にある。
【0014】
本発明の触媒組成物の成形支持体は、当業者に公知の任意の適切な方法によって、製造することができる。一般に、多孔性耐火性酸化物の出発原料は、粉末の形態であり、水と混合して、また、所望により、または必要な場合、ペプタイザーもしくは凝集剤、バインダーまたは他の化合物等の他の化学物質の補助により、凝集粒子または成形粒子を形成することができる、混合物またはペーストを形成する。当該混合物を押し出して、1/16インチ、1/8インチ、3/16インチ等の公称寸法を有する、円柱体、三葉状(trilobe)等の種々の成形体のうちの1以上の押出物を形成することが望ましい。前にリストした無機酸化化合物のうちの1以上を含む、凝集粒子または成形粒子を、その後、乾燥し、焼成して、本発明の触媒組成物の製造に使用される、最終成形支持体を得る。
【0015】
成形支持体粒子は、50℃から200℃、好ましくは75℃から175℃、より好ましくは90℃から150℃の範囲の乾燥温度を含み得る、標準乾燥条件下で、乾燥される。
【0016】
乾燥後、成形支持体粒子は、250℃から900℃、好ましくは300℃から800℃、最も好ましくは350℃から600℃の範囲の焼成温度を含み得る、標準焼成条件下で、焼成される。
【0017】
焼成された成形支持体は、本発明の金属成分、キレート剤、および極性添加剤の含浸を可能にする、表面積および細孔容積を有する必要がある。焼成された成形支持体は、50m
2/gから450m
2/g、好ましくは75m
2/gから400m
2/g、最も好ましくは100m
2/gから350m
2/gの範囲の表面積(N
2を使用するBET法、ASTM試験法D3037により決定)を有する。
【0018】
焼成された成形支持体の平均細孔径(オングストローム(Å))は、50から200、好ましくは70から150、最も好ましくは75から125の範囲にある。
【0019】
焼成された成形支持体の細孔容積は、0.55cc/gを超える必要があり、一般に、0.5cc/gから1.1cc/gの範囲にある。より一般には、細孔容積は、0.6cc/gから1.0cc/g、最も一般には0.7cc/gから0.9cc/gの範囲にある。焼成された成形粒子の全細孔容積の10パーセント(10%)未満は、350Åを超える細孔径を有する細孔に含まれ、好ましくは、焼成された成形粒子の全細孔容積の7.5%未満が、350Åを超える細孔径を有する細孔に含まれ、最も好ましくは、焼成された成形粒子の全細孔容積の5%未満が、350Åを超える細孔径を有する細孔に含まれる。
【0020】
焼成された成形粒子の細孔径分布および細孔容積に対する本明細書の参照は、水銀圧入ポロシメトリー、ASTM試験法D4284によって決定される、これらの特性についてである。焼成された成形粒子の細孔径分布の測定は、25℃で、474ダイン/cmの水銀表面張力を伴う140°の接触角を用いる、適切な測定器具による測定である。
【0021】
本発明の好ましい実施形態において、成形支持体は、好ましくは焼成され、少なくとも1つの金属塩を含む単一溶液を使用して、単一含浸工程において、少なくとも1つの金属成分およびキレート剤を含浸させる。ここで、金属塩溶液の金属化合物は、活性金属または活性金属の前駆体、およびキレート剤である。本発明の有益な特徴のうちの1つは、金属成分とキレート剤の単一含浸工程を、複数の工程を用いる代わりに用いて、成形支持体に、別々に金属成分およびキレート剤を導入することである。
【0022】
金属成分の金属元素は、IUPAC周期表の6族の元素(例えば、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、およびタングステン(W))、ならびに、IUPAC周期表の9および10族の元素(例えば、コバルト(Co)およびニッケル(Ni))から選択されるものである。また、リン(P)も、所望の金属成分であり得る。
【0023】
9族および10族金属において、金属塩類には、9族または10族の金属酢酸塩、ギ酸塩(format)、クエン酸塩、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、およびこれらのうちの2以上が含まれる。好ましい金属塩類は、例えば、ニッケルもしくはコバルトの硝酸塩、またはこれらの両方等の金属硝酸塩である。6族金属において、金属塩類には、6族金属酸化物または硫化物が含まれる。アンモニウムヘプタモリブダート、およびアンモニウムジモリブダート等の6族金属およびアンモニウムイオンを含む塩類が好ましい。
【0024】
含浸溶液中の金属化合物の濃度は、水溶液が含浸される支持体材料の細孔容積、および金属成分を担持した支持体材料に導入されるキレート剤および極性添加剤の量を考慮して、本発明の最終組成物において所望の金属含量を提供するように、選択される。一般に、含浸溶液中の金属化合物の濃度は、1リットル当たり0.01モルから100モルの範囲にある。
【0025】
含浸溶液中のキレート剤の量は、活性金属、即ち、上述する、成形支持体中に含まれる6族、9族および10族金属1モル当たり約0.005モルのキレート剤から約1モルのキレート剤の範囲のキレート剤の量を提供する量である。含浸溶液は、水素化金属1モル当たり0.01モルから0.5モルの範囲にあるキレート剤の量を有することが好ましい。最も好ましくは、含浸溶液中のキレート剤の量は、水素化金属当たり1モル0.05モルから0.1モルの添加キレート剤の範囲にある。
【0026】
金属成分とキレート剤とを含む含浸溶液には、キレート剤および金属化合物を適切に溶解する溶媒がさらに含まれ得る。可能性のある溶媒には、水とアルコール、例えばメタノールおよびエタノールが含まれ、水がキレート剤にとって好ましい溶媒である。
【0027】
任意の適切な手段または方法を用いて、このような手段または方法が、支持体材料の細孔内にキレート剤および金属成分の適切な導入または含浸を提供することを条件として、キレート剤と金属成分の単一溶液を成形支持体に含浸させるのに使用することができる。成形支持体に対して溶液を適用する適切な方法の例としては、浸漬または噴霧が挙げられる。
【0028】
成形支持体と、キレート剤および金属溶液とを接触させるのに好ましい方法は、当業者に公知の任意の適切な含浸法、例えば、成形支持体に添加される溶液の量または容積が、添加される溶液の全容量が、溶液を含浸させる成形支持体のおおよそ有効細孔容積までの範囲の量である、インシピエントウェットネス(incipient wetness)による含浸である。
【0029】
キレート剤と共に金属成分を導入した、成形支持体の金属含量は、本発明の最終極性添加剤含浸組成物が使用される用途に依存し得るが、一般に、水素化処理用途において、9族および10族の金属成分、即ち、コバルトまたはニッケル、好ましくはニッケルは、0.5重量%から20重量%、好ましくは1重量%から15重量%、最も好ましくは2重量%から12重量%の範囲の量で、支持体材料中に含まれ得る。
【0030】
6族の金属成分、即ち、モリブデンまたはタングステン、好ましくはモリブデンは、5重量%から50重量%、好ましくは8重量%から40重量%、最も好ましくは12重量%から30重量%の範囲の量で、成形支持体に導入することができる。
【0031】
金属成分の上で参照した重量パーセントは、金属成分の実際の形態、例えば、酸化物形態または硫化物形態にかかわらない要素である、乾燥成形支持体および金属成分の重量を基準にする。
【0032】
成形支持体に含浸溶液を導入するのに使用される実際の手段または方法にかかわらず、得られる金属導入支持体の細孔は、含浸溶液で充填され、この結果、液体または他の材料の付加的な容積を保持することができないか、または当該容積を充填することができない。このようにして、金属導入支持体を、揮発性物質内容物の少なくとも一部が、金属導入支持体から誘導されるが、支持体材料中に金属およびキレート剤を残す、乾燥工程に供する。
【0033】
金属導入支持体からの少なくとも一部の揮発性物質の除去によって、細孔容積が広がり、その後の製造工程で極性添加剤を充填することができる。このようにして、金属導入支持体は、焼成温度よりも低い乾燥温度を含む乾燥条件下で乾燥される。
【0034】
本発明の重要な特徴は、金属導入支持体の乾燥工程を、焼成温度を超えないように行う乾燥温度にある。従って、乾燥温度は、400℃を超えず、好ましくは、金属導入支持体が乾燥される乾燥温度は、300℃を超えず、最も好ましくは、乾燥温度は250℃を超えない。この乾燥工程は、一般に、前述の温度よりも低い温度で行われ、典型的には、乾燥温度は、60℃から150℃の範囲の温度であることが理解される。
【0035】
金属導入支持体の乾燥は、特定の範囲の揮発性物質含量を有する、得られた乾燥金属導入支持体を得るように、制御されることが好ましい。20重量%LOIを超えないように、乾燥金属導入支持体の揮発性物質含量を調節する必要がある。乾燥金属導入支持体のLOIは、1重量%から20重量%のLOIの範囲にあることが好ましく、最も好ましくは3重量%から15重量%のLOIの範囲にある。
【0036】
LOIまたは強熱減量は、482℃の温度で2時間の、大気に対する曝露後の材料の減量割合として定義される。LOIは、次式によって表すことができる:(曝露前の試料重量、曝露後よりも少ない試料重量)に100を掛け、(曝露前の試料重量)で割る。
【0037】
金属導入支持体の乾燥では、実施に際して、金属導入支持体からできる限り少量のキレート剤を除去することが望ましく、従って、金属導入支持体に導入されたキレート剤の全重量を基準にして、金属導入支持体に導入されたキレート剤の約50重量%を超える量が、得られる乾燥金属導入支持体に残存する。好ましくは、乾燥金属導入支持体に残存するキレート剤の量は、75重量%を超え、最も好ましくは、乾燥金属導入支持体に初めに添加されたキレート剤の90重量%を超える量が、極性添加剤がその後加えられる場合、乾燥金属導入支持体に残存する。従って、キレート化処理において乾燥金属導入支持体に初めに添加されたキレート剤の約50重量%未満が、乾燥工程時に、金属導入支持体から除去される。好ましくは、乾燥金属導入支持体に導入されるキレート剤の25重量%未満、最も好ましくは10重量%未満が、金属導入支持体から除去される。
【0038】
本発明の方法に使用するのに適切なキレート剤(chelating agent,chelant)には、上述するように、組成物の6族金属、9族金属および10族金属のうちのいずれかのような金属成分と錯体を形成することが可能な化合物が含まれる。既に明記したように、支持体材料の表面から金属を除去するために、キレート剤が、組成物の金属とキレート錯体を形成する特性を有することは、本発明の方法にとって特に重要である。キレート剤(chelant,chelating agent,chelator)という用語は、同じものを意味するものとして、本明細書中において使用され、中心金属イオンとのキレートまたはキレート錯体を形成するリガンドとして機能する化合物であると考えられる。
【0039】
本明細書に説明する本発明の方法により要求される金属キレート錯体を適切に形成する、任意のキレート剤化合物を、キレート化処理に使用することができる。これらのキレート剤化合物の中には、少なくとも1個の窒素原子を含むキレート剤が存在し、これは、乾燥金属導入支持体の金属と錯体を形成するための電子供与体原子として機能し得る。
【0040】
キレート剤を含む、可能性のある窒素原子の例としては、アミノカルボン酸、ポリアミン、アミノアルコール、オキシム、およびポリエチレンイミンとして分類することができる化合物が挙げられる。
【0041】
アミノカルボン酸の例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、およびニトリロ三酢酸(NTA)が挙げられる。
【0042】
ポリアミンの例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、およびトリアミノトリエチルアミンが挙げられる。
【0043】
アミノアルコールの例としては、トリエタノールアミン(TEA)、およびN−ヒドロキシエチルエチレンジアミンが挙げられる。
【0044】
本発明の方法において使用される好ましいキレート剤は、アミノカルボン酸であり、これは、次式によって表すことができる:
【0045】
【化1】
式中、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5は、それぞれ独立して、最大10個の炭素原子を有する、アルキル、アルケニル、およびアリルから選択され、カルボニル、カルボキシル、エステル、エーテル、アミノ、またはアミドから選択される1つ以上の基で置換されていてもよく、R6およびR7は、それぞれ独立して、最大10個の炭素原子を有する、アルキレン基から選択され、nは、0または1のいずれかであり、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5の1つ以上は、式:
【0046】
【化2】
を有する:
式中、R
8は、1個から4個の炭素原子を有するアルキレンであり、Xは、水素または他のカチオンである。
【0047】
好ましいキレート剤には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、およびジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)が含まれる。最も好ましいキレート剤は、DTPAである。
【0048】
金属導入支持体の乾燥によって得られた、乾燥金属導入支持体の細孔の有効細孔容積に、本発明の極性添加剤を充填してもよい。これは、乾燥金属導入支持体に、極性添加剤を導入し、極性添加剤を乾燥金属導入支持体に含浸させる、任意の適切な方法または手段により、添加剤含浸組成物を得ることによって、行われる。
【0049】
極性添加剤による乾燥金属導入支持体の含浸の好ましい方法は、毛管作用を利用して、乾燥キレート剤処理金属導入支持体の細孔に液体を吸引することにより、細孔容積を充填する、標準的な周知の細孔充填法であり得る。乾燥金属導入支持体の有効細孔容積の少なくとも75%を、極性添加剤で充填することが望ましく、乾燥金属導入支持体の有効細孔容積の少なくとも80%を、極性添加剤で充填することが好ましい。最も好ましくは、乾燥金属導入支持体の有効細孔容積の少なくとも90%を、極性添加剤で充填する。
【0050】
極性添加剤による金属錯体の分散に加えて、触媒反応(catalytic service)に置かれるか、または、触媒反応において組成物を使用するために、活性化され、先行技術のものよりも非常に活性のある触媒を得るのを支援する、特定の利点を提供する場合、添加剤含浸組成物中の極性添加剤の存在も考えられる。
【0051】
本発明の組成物の製造に使用することができる、極性添加剤は、本明細書に説明するように、および、2009年3月19日出願の同時係属中の米国特許出願第12/407,479号(米国特許出願公開第20100236988号明細書)(参照により本明細書中に組み込まれる。)に開示するように、利益を提供し、特有の分子極性または分子双極子モーメント、および、適用可能な場合、他の特性を有する任意の適切な分子である。分子極性は、分子を構成する原子の正電荷および負電荷の非均一分布の結果であると、当該技術分野において理解される。分子の双極子モーメントは、個々の結合双極子モーメントのベクトル和に近似し、これは計算値であり得る。
【0052】
分子の双極子モーメントの計算値を得る方法の1つには、一般に、勾配補正された密度汎関数理論を適用し、およびこれを用いることによって、分子の最低エネルギーのコンホメーションの総電子密度を計算することにより決定することを含む。総電子密度から、対応する静電ポテンシャルが導き出され、点電荷は、対応する核に適合される。公知の原子の位置および静電点電荷によって、分子双極子モーメントは、個々の原子モーメントの合計から計算することができる。
【0053】
用語が本願発明および特許請求の範囲に使用される場合、所定の分子の「双極子モーメント」は、許可を得て公に利用可能なMaterials Studio改訂4.3.1、著作権2008年、Accerlys Softwareという名称のコンピューター・ソフトウエア・プログラムを使用し、計算することによって決定されるものである。
【0054】
下記は、分子双極子モーメントを計算するためのマテリアルズ・スタジオ・コンピューター・ソフトウエア・プログラムの計算方法および適用の背後にある技術的原理のうちの一部を以下で簡単に考察する。
【0055】
マテリアルズ・スタジオ・ソフトウエアを使用する、分子の双極子モーメントの計算値の決定の第1段階は、マテリアルズ・スタジオのビジュアライザーモジュール内のスケッチツールを使用して、化合物の分子の表示を構築することを含む。このスケッチング方法は、化合物を構築するスケッチャーウィンドウに原子を加えること、および、これらの原子間の結合を終了して、化合物を構築する結合接続性の認識を実行することを含む。マテリアルズ・スタジオ・プログラム内のクリーンアイコンの使用は、構築された化合物を正確な配向へ自動的に配向する。錯化合物において、整合性の検索は、分子双極子を計算するのに用いる配向が、最低エネルギーコンホメーション、即ち、その自然状態であることを確認するために行う。
【0056】
量子力学コードDMol3(Delley,B.J.Chem.Phys.,92,508(1990))を利用して、密度汎関数理論を適用することによって、第一定理から分子双極子モーメントを計算する。密度汎関数理論は、HohenbergとKohn(Hohenberg,P.;Kohn,W.「Inhomogeneous electron gas」,Phys.Rev.B,136,864−871(1964);Levy,M.「Universal variational functionals of electron densities,first−order density matrices,and natural spin−orbitals and solution of the v−representability problem),Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,76,6062−6065(1979))によって定理から始まり、この文献は、基底状態特性がすべて、電荷密度ρの関数であることを述べている。具体的には、総エネルギーE
tを次に示すように記載することができる:
【0057】
【数1】
式中、T[ρ]は、密度ρの非相互作用粒子の系の動的エネルギーであり、U[ρ]は、クーロン相互作用による標準的静電エネルギーであり、E
xc[ρ]には、総エネルギーに対するすべての多体寄与、特に、交換エネルギーおよび相関エネルギーを含む。
【0058】
他の分子軌道法(Roothaan,C.C.J.「New developments in molecular orbital theory」,Rev.Mod.Phys.,23,69−89(1951);Slater,J.C.「Statistical exchange−correlation in the self−consistent field」,Adv.Quantum Chem.,6,1−92(1972);Dewar,M.J.S.J.Mol.Struct.,100,41(1983))のように、波動関数は、一粒子機能、即ち、次式に示す分子軌道の反対称の積(スレイターの行列式)であるとされる:
【0060】
また、分子軌道は、次式に示すように、正規直交である:
【0062】
すべての分子軌道における電荷密度の合計は、次式に示すように、簡単な和によって得られる:
【0063】
【数4】
式中、和は、すべての占有分子軌道φ
iを生ずる。また、この式から得られる密度は、電荷密度としても知られている。波動関数および電荷密度から、式1からのエネルギー成分は、次式のように記載することができる(原子単位で):
【0065】
式6において、Zαとは、N原子系の核αにおける電荷をいう。さらに、式6において、ρ(r
1)V
Nという用語は、電子−核誘引を表し、ρ(r
1)V
e(r
1)/2という用語は、電子間斥力を表し、また、V
NNという用語は核間斥力を表す。
【0067】
交換−相関エネルギーの式1におけるE
xc[ρ]という用語は、計算上扱いやすくするために、本方法において一部の近似値を必要とする。簡単で、驚くほど十分な近似値は、局所的な密度近似値であり、これは、均一の電子気体の公知の交換−相関エネルギーに基づく(Hedin,L.;Lundqvist,B.I.「Explicit local exchange correlation potentials」,J.Phys.C,4,2064−2083(1971);Ceperley,D.M.;Alder,B.J.「Ground state of the electron gas by a stochastic method」,Phys.Rev.Lett.,45,566−569(1980))。局所的な密度近似値は、原子の規模で、電荷密度が徐々に変化すると仮定する(即ち、分子の領域はそれぞれ、実際に均一の電子気体のように見える。)。全交換−相関エネルギーは、次式に示すように、均一の電子気体結果の統合によって得ることができる:
【0068】
【数7】
式中、E
xc[ρ]は、均一の電子気体における粒子当たりの交換−相関エネルギーであり、ρは粒子の数である。本発明において、勾配補正された交換−相関関数PW91を使用する(Perdew,J.P.;Wang,Y.Phys.Rev.B,45,13244(1992))。
【0069】
密度関数形式内の任意の分子系の総エネルギーを説明するために誘導したすべての成分によって、双極子モーメントは、DMol3出力ファイルの末端に示される、個々の電子および核双極子モーメントベクターの合計から計算することができる。
【0070】
極性添加剤に対する本明細書の参照は、前述のマテリアルズ・スタジオ・ソフトウエア、または、マテリアルズ・スタジオ・ソフトウエアと実質的に同じ分子の双極子モーメントの計算値を提供し、本発明の組成物に使用される炭化水素油の双極子モーメントを超える、他の公知の方法によって計算される、極性を有し、双極子モーメントを有する、分子を意味するものと理解される。
【0071】
極性添加剤の双極子モーメントは、少なくとも0.45であるか、または0.45を超える必要がある。しかしながら、極性添加剤が、少なくとも0.5であるか、または0.5を超える特有の双極子モーメントを有することが好ましく、極性添加剤の双極子モーメントが、少なくとも0.6であるか、または0.6を超えることがより好ましい。極性添加剤の双極子モーメントへの一般的な上限は、最大約5である。従って、極性添加剤の双極子モーメントは、例えば、0.45から5の範囲にあり得る。極性添加剤の双極子モーメントが、0.5から4.5の範囲にあることが好ましく、双極子モーメントが、0.6から4の範囲にあることがより好ましい。
【0072】
上に示唆するように、極性添加剤の極性が、本発明にとって重要であることが理論付けられる。これは、極性が、本発明の組成物の支持体材料の表面と、支持体材料の活性金属成分との相互作用に必要であるためである。本発明の組成物の活動段階の物理結合および化学結合が形成されるのは、これらの相互作用によってである。
【0073】
極性添加剤の特に望ましい属性は、ヘテロ化合物であることである。ヘテロ化合物は、本明細書において、炭素および水素に加えて、原子を含む分子であると考えられる。これらの付加的な原子には、例えば、窒素もしくは酸素、またはこれらの両方が含まれ得る。ヘテロ化合物のグループは、硫黄を含むヘテロ化合物を除外することが望ましく、すべての例において、極性添加剤には、パラフィン化合物およびオレフィン化合物、即ち、炭素原子および水素原子のみを含む化合物が含まれない。ヘテロ化合物のグループの定義から含硫化合物の排除を考慮すると、水素および硫黄によるこの処理の前に、油および添加剤含浸組成物が、含硫化合物の材料の存在を除外することがさらに望ましい。
【0074】
本発明の極性添加剤として使用するのに適切であり得る、具体的な極性化合物を、次の表1に示し、当該表には、これらの計算された双極子モーメントも含まれる。
【0076】
極性添加剤の好ましい特性は、沸点が50℃から275℃までの範囲にあることである。より好ましくは、極性添加剤の沸点は、60℃から250℃までの範囲にあり、最も好ましくは、80℃から225℃の範囲にある。
【0077】
本発明の極性添加剤として使用するのに最も望ましい化合物は、ジメチルホルムアミドを含む、アミド化合物の群より選択される。
【0078】
本発明の添加剤含浸組成物は、水素および硫黄化合物によって、エクスサイチュまたはインサイチュのいずれかで処理してもよく、実際、反応器への硫化されていない組成物の輸送および送達を可能にし、水素化処理工程、およびその後の硫化工程によって、インサイチュで活性化できることが、本発明の有益な特徴の1つである。添加剤含浸組成物の活性化において、まず、水素化処理を行い、次いで、硫黄化合物による処理を行うことができる。
【0079】
水素化処理には、250℃よりも高い温度範囲で、水素を含むガス雰囲気に添加剤含浸組成物を曝露することが含まれる。好ましくは、添加剤含浸組成物を、100℃から225℃の範囲の水素化処理温度で、水素ガスに曝露し、最も好ましくは、水素化処理温度は、125℃から200℃の範囲にある。
【0080】
水素化処理工程で一般に使用されるガス雰囲気の水素分圧は、1barから70bar、好ましくは1.5barから55bar、最も好ましく2barから35barの範囲にあり得る。添加剤含浸組成物は、0.1時間から100時間の範囲の水素化処理時間で、前述の温度および圧力条件で、ガス雰囲気と接触させ、水素化処理時間は、1時間から50時間が好ましく、2時間から30時間が最も好ましい。
【0081】
水素によって処理された後、添加剤含浸組成物の硫化は、当業者に公知の任意の従来法を用いて行うことができる。従って、水素化処理添加剤含浸組成物は、本発明の接触条件下で、硫化水素または硫化水素に分解可能な化合物であり得る、含硫化合物と接触させることができる。このような分解可能な化合物の例としては、メルカプタン、CS
2、チオフェン、硫化ジメチル(DMS)、およびジメチルジスルフィド(DMDS)が挙げられる。また、好ましくは、硫化は、適切な硫化処理条件下で、硫黄化合物の濃度を含む炭化水素原料と、水素化処理組成物とを接触させることによっても行われる。炭化水素原料の硫黄化合物は、有機硫黄化合物、特に、水素化脱硫法によって処理される石油蒸留物中に一般に含まれる化合物であり得る。
【0082】
適切な硫化処理条件は、水素化処理炭化水素油の活性金属成分と極性添加剤含浸組成物から硫化形態への変換を提供するものである。一般に、水素化処理炭化水素油および極性添加剤含浸組成物と、硫黄化合物との接触の際の硫化温度は、150℃から450℃の範囲にあり、好ましくは175℃から425℃、最も好ましくは200℃から400℃の範囲にある。
【0083】
本発明の触媒組成物を使用して水素化処理される炭化水素原料を使用し、水素化処理組成物を硫化する場合、硫化条件は、水素化処理が行われる処理条件と同じであり得る。水素化処理添加剤含浸組成物が一般に硫化される硫化圧は、1barから70barの範囲にあり、好ましくは1.5barから55bar、最も好ましくは2barから35barの範囲にあり得る。
【0084】
本発明の添加剤含浸組成物によって提供される利点の1つは、いわゆる遅延型原料導入手順(delayed feed introduction procedure)を用いて作動する、反応器システムで利用できることである。遅延型原料導入手順において、添加剤含浸組成物を収容する反応器容器が含まれる、反応器システムは、硫化剤の導入または処理のための加熱した炭化水素原料の調製において、最初に、加熱工程に供し、反応器および反応器容器に収容された添加剤含浸組成物の温度を上昇させる。この加熱工程には、前述の水素化処理条件で、反応器に水素含有ガスを導入することが含まれる。添加剤含浸組成物の水素化処理後、既に本明細書において説明したように、硫黄化合物によってその後処理される。
【0085】
水素化処理、その後の硫黄化合物による処理後、添加剤含浸組成物が、他の類似する非含浸組成物よりも、蒸留原料の高い触媒水素化処理活性を示すことが分かった。
【0086】
本発明の添加剤含浸組成物が、水素および硫黄による処理後に、炭化水素原料の水素化処理で使用するのに非常に有効な触媒であることが認識される。この触媒は、炭化水素原料の水素化脱硫または水素化脱窒素を含む適用に特に有用である。また、特に、蒸留原料(特に、ディーゼル)の水素化脱硫に使用して、15ppmw未満、好ましくは10ppmw未満、最も好ましくは8ppmw未満の硫黄濃度を有する、超低量の硫黄蒸留物を製造するのに優れた触媒であることが分かった。
【0087】
水素化処理の適用において、好ましくは、遅延型原料導入手順に用いるか、または水素および硫黄によって処理された、添加剤含浸組成物は、上に説明するように、一般に硫黄の濃度を有する炭化水素原料を伴う、適切な水素化脱硫条件下で接触させる。より一般的な、好ましい炭化水素原料は、大気圧で140℃から410℃の範囲の沸点を有する、石油中間留分である。これらの温度は、中間留分のおおよそ初期温度および沸点である。中間留分の目的内に含まれることを意図した、精製流れの例としては、灯油、ジェット燃料、軽ディーゼル油、暖房用石油、重ディーゼル油、ならびに分解油、例えばFCCサイクルオイル、コークス化軽油、および水素化分解油等の標準沸点範囲で沸騰する直留燃料等が挙げられる。本発明の蒸留水素化脱硫工程の好ましい原料は、約140℃から400℃のディーゼル沸点範囲の沸点である中間留分である。
【0088】
中間留分原料の硫黄濃度は、高濃度であり、例えば、硫黄元素の重量、および硫黄化合物の包括的な蒸留原料の全重量を基準にして、蒸留原料の約2重量%よりも高い範囲にあり得る。しかしながら、一般に、本発明の工程の蒸留原料は、0.01重量%(100ppmw)から1.8重量%(18,000)の範囲の硫黄濃度を有する。しかし、より一般に、硫黄濃度は、0.1重量%(1000ppmw)から1.6重量%(16,000ppmw)であり、最も一般に、0.18重量%(1800ppmw)から1.1重量%(11,000ppmw)の範囲にある。蒸留原料の硫黄含量への本明細書の参照が、蒸留原料または水素化脱硫蒸留物で通常みられる化合物、および、硫黄原子を含み、一般に、有機硫黄化合物を含む化合物に対するものであることが理解される。
【0089】
本発明の添加剤含浸組成物は、水素、および高い全圧と温度の存在を含み得る、適切な水素化脱硫条件下で、蒸留原料と、当該組成物またはこの誘導体との接触を提供する、任意の適切な反応器システムの一部として使用することができる。このような適切な反応システムには、固定触媒層システム、沸騰触媒層システム、スラリー触媒システム、および流体触媒層システムが含まれ得る。好ましい反応器システムには、反応器容器に蒸留原料を投入するための、供給ノズル等の反応器原料投入手段と、反応器流出物または処理された炭化水素生成物または反応器容器からの超低量の硫黄蒸留物を取り出すための、流出物排出ノズル等の反応器流出物排出手段とを備える、反応器容器内に収容された、本発明の触媒の固定層が含まれる。
【0090】
水素化脱硫工程は、一般に、689.5kPa(100psig)から13,789kPa(2000psig)の範囲、好ましくは1896kPa(275psig)から10,342kPa(1500psig)、より好ましくは2068.5kPa(300psig)から8619kPa(1250psig)の範囲の水素化脱硫反応圧で操作する。
【0091】
水素化脱硫反応温度は、一般に、200℃(392°F)から420℃(788°F)、好ましくは260℃(500°F)から400℃(752°F)、最も好ましくは320℃(608°F)から380℃(716°F)の範囲にある。本発明の添加剤含浸組成物の使用の予想されない特徴の1つが、ある他の代替触媒組成物よりも顕著に高い触媒活性であり、このため、一般に、所定量の原料の水素化処理に比較的低い必要処理温度を提供することが認識される。
【0092】
蒸留原料が本発明の工程の反応域に充填される流速は、一般に、0.01hr
−1から10hr
−1の範囲の液空間速度(LHSV)を提供するようなものである。本明細書に使用する「液空間速度」という用語は、蒸留原料を充填した反応域に含まれる触媒の容積で割った時間当たりの容積における、蒸留原料を本発明の工程の反応域に充填する速度の数的割合を意味する。好ましいLHSVは、0.05hr
−1から5hr
−1、より好ましくは0.1hr
−1から3hr
−1、最も好ましくは0.2hr
−1から2hr
−1の範囲にある。
【0093】
本発明の工程の反応域に、蒸留原料と共に、水素を充填することが好ましい。この例において、水素は、水素化処理ガスと称することもある。水素化処理ガスの速度は、反応域に充填した蒸留原料の量に対する水素の量であり、一般に、1781m
3/m
3(10,000SCF/bbl)を超える範囲にある。処理ガスの速度は、89m
3/m
3(500SCF/bbl)から1781m
3/m
3(10,000SCF/bbl)、より好ましくは178m
3/m
3(1,000SCF/bbl)から1602m
3/m
3(9,000SCF/bbl)、最も好ましくは356m
3/m
3(2,000SCF/bbl)から1425m
3/m
3(8,000SCF/bbl)の範囲にあることが好ましい。
【0094】
本発明の工程から生成した、脱硫蒸留物は、蒸留原料に対して低いか、または低減した硫黄濃度を有する。本発明の工程の特に有利な側面は、高度に脱硫されたディーゼル生成物または超低量の硫黄ディーゼル生成物を提供できることである。本明細書に既に示したように、低量の硫黄蒸留物は、50ppmw未満の硫黄濃度、または、本明細書に別記するように、これ以外に示した硫黄濃度(例えば、15ppmw未満、10ppmw未満、または8ppmw未満)のいずれかである、硫黄濃度を有し得る。