【実施例】
【0039】
製造例1
(A)保護ペプチド樹脂の構築
ペプチド自動合成機(433A、アプライドバイオシステム(Applied Biosystems)社製)を用いて添付のソフトにしたがい、固相合成法により1個ずつアミノ酸をカルボキシル末端側から結合させBoc−Cys(Npys)−[Arg(Pbf)]
11−樹脂の合成を定法にて行なった。
【0040】
(B)脱保護と樹脂からの切り出し
精製後、脱保護を行い、樹脂から切り出し、Cys(Npys)−[Arg]
11−NH
2を得た。
【0041】
(C)ハイドロキノンへの付加
(B)で得られた、Cys(Npys)−[Arg]
11−NH
2(60mg)を純水(1.2ml)に溶解し、2−メルカプトハイドロキノン(3.6mg、0.8当量)をアルゴン気流中で室温にて攪拌しながら添加した。一昼夜反応後、反応溶液を直接分取精製に供した。
【0042】
得られた粗精製物をHPLC分取装置(LC−8A−1、島津製作所製、カラム:ODS30×250mm)を用いて0.1%トリフルオロ酢酸を含む水−アセトニトリルの系で分取精製し、目的のペプチド誘導体の分画を得、アセトニトリルを留去した後、凍結乾燥粉末とし、目的物であるハイドロキノンのペプチド誘導体(HQ−11Rと略称する)25mgを得た。
ハイドロキノンに配列番号1記載のアミノ酸配列を有するペプチドを結合させたもの(HQ−GLHFPHIYVRD)も同様に製造した。
【0043】
製造例2
構築したpet21a EGFP−11Rプラスミドを大腸菌BL21株に形質転換した、その後、単一のコロニーをピックアップし、100mLのLB−Amp培地にて37℃で一晩培養した。これを1LのLB−Amp培地に加えて、OD600が0.6になるまで37℃で培養した。その後、IPTGを終濃度0.1mMになるように加え、pET21a−EGFP−11Rについては25℃で一晩培養した。培養後、発現誘導した培養液を集菌した(8,000rpm、10分、4℃)。続いて、8M 尿素、20mM MEPES、100 mM NaClを含む溶菌バッファーを30mL加えて懸濁させた後、超音波菌体破砕を行った(クボタ、Isonater201M)。破砕後、溶液を12,000rpm、15分、4℃で遠心し、上清を回収した。回収した上清を溶菌バッファーで平衡化したリジンビーズ(インビトロジェン、ProBond Resin)と反応させた。その後、8M 尿素、20mM MEPES、100 mM NaCl、20mM イミダゾールを含む洗浄バッファーで3回洗浄した。洗浄後、8M 尿素、20mM MEPES、100 mM NaCl、200mM イミダゾールを含む溶出バッファーで溶出し、回収した。
【0044】
回収したタンパク質溶液中のイミダゾールを除去するために、Slide−A−Lyzer(登録商標)Dialysis Cassette(Extra Strength)(テルモ SCIENTIFIC)により透析を行った。透析用のバッファーとして、1000倍量のPBSを使用した。透析は6時間を2回行なった。最終的に、目的の濃度になるように限外濾過法にてタンパク濃縮を行った。
【0045】
実施例1:褐色モルモットを用いた美白効果の検討
実験には、褐色モルモット(Weiser-Maples、8週齢、雌、各群n=5)を使用した。褐色モルモットは、表皮基底層に色素細胞を有しており、ヒトの皮膚と似ている。紫外線照射により、ヒトと同様の皮膚反応を示し、メラニン色素の沈着を形成する。そのため、美白効果のアッセイに用いることができる。
【0046】
脱毛した褐色モルモットの背中をバリカン(ER509、松下電工)および除毛クリーム(epilat, Kracie)により脱毛した。脱毛した褐色モルモットの背中に、照射面積を一区画6cm
2で4区画設定し、紫外線UVB強度測定装置(VLX−3,W、アトー株式会社製)にてUV強度を測定しつつ、UV照射機(MODEL UVM−57、フナコシ)により、1日1回紫外線量0.015Jls/cm
2を5日間照射し、2日間休んでさらに5日間照射した。日焼けモデルを作製後、プロピレングリコールにて調整した500μMの1−ピレン酪酸50μLを塗布し、5分後、プロピレングリコールにて調整した500μMのHQ−11R、HQ、HQに配列番号1記載のアミノ酸配列を有するペプチドを結合させたもの(HQ−GLHFPHIYVRD)およびPBS(陰性対照)を1回につき50μLずつ塗布した。
【0047】
投与スケジュールは、5日間連続塗布(1日1回)−2日休薬−再度5日間塗布(1日1回)−2日休薬、とした。
【0048】
結果、外観にてHQ−11Rを用いた群の塗布部分のみが効果的な美白作用を示した(
図2)。
【0049】
さらに、美白効果を顕微鏡下で詳細に検討するために、ヘマトキシリン・エオジン染色とフォンタナ・マッソン染色後、光学顕微鏡(×40)にて観察し、組織障害およびリンパ球の浸潤、メラニン含有細胞について後述する手順で評価を行なった(
図2、
図3、
図4)。HQ−11R群の塗布部分の組織においては、他の群と同様、アレルギー反応やリンパ球浸潤などの細胞・組織障害性は認められず、4群間において有意な差は認められなかった(
図3)。フォンタナ・マッソン染色においてメラニン含有細胞数を確認したところ、明らかにHQ−11R群の塗布部で有意に陽性細胞、すなわちメラニン含有細胞4が減少していた(
図4)。
図4のメラニン含有細胞数を各群20視野にて観測し、スチューデントT検定にて、他の群と統計学的に評価したところ、HQ−11R群が有意差(p<0.01)をもって他群よりもメラニン含有細胞の減少を認めた(p<0.01、
図5)。
【0050】
(免疫染色)
新鮮凍結切片を、4%PFAにて10分間固定した。PBSにて3回洗浄した。ブロッキング緩衝液(PBSで調整した5% BSAおよび0.3%トリトン)にてブロッキングを行った。PBSにて1回洗浄した。濃度1ug/mlとなるようPBS中10%BSAにて調整した一次抗体を添加し、4℃、16時間静置した。PBSにて3回洗浄した。濃度1μg/mlとなるようにPBS中10%BSAにて調整した二次抗体を添加し、暗所、室温で2時間静置した。PBSにて3回洗浄した。ヘキストを添加し、暗所で1分間染色した。PBSにて3回洗浄し、共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。
【0051】
(フォンタナ・マッソン染色)
パラフィン切片を作製し、キシレンに5分間、100%エタノール、95%エタノール、90%エタノールおよび70%エタノールを順に各1分間滴下した。水洗し、10%フォンタナアンモニア銀染色液を滴下し、遮光して16時間静置した。水洗し、0.25%チオ硫酸ナトリウム水溶液を1分間滴下した。水洗し、ケルンエヒトロート液を5分間滴下した。水洗し、70%エタノール、90%エタノール、95%エタノールおよび100%エタノールを順に各1分間滴下した。キシレンを5分間滴下し、封入し観察した。
【0052】
(フォンタナ・マッソン染色によるメラニン陽性細胞数の計測)
フォンタナ・マッソン染色を行ったサンプルについて、各サンプルにつき顕微鏡にて基底層をランダムに10箇所撮影し、各箇所でのメラニン陽性細胞の個数を計測した。
【0053】
実施例2:メラニン含有量に対するHQ−11Rの阻害効果
【0054】
マウス悪性メラノーマ細胞B16細胞(Mouse B16 melanoma 4A5、ECACC)を用いて細胞内のメラニン量に対する効果を評価した。B16細胞は、マウスの皮膚に発生した悪性黒色腫瘍細胞であり、特異的なメラニン産生能を有している。そのため、メラニン合成に関わる機能調節やメラニン産生抑制物質検索のための研究材料として汎用されている。B16細胞は10%(v/v)ウシ胎児血清(ギブコ、カールスバッド、CA、米国)、100単位/mlペニシリン(ギブコ)、100μg/mlストレプトマイシン(ギブコ)、および0.2%L−グルタミン(ギブコ)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(ギブコ)を用いてプラスチックディッシュ(直径10cm、コーニング、グレンデール、AZ、米国)中で、37℃、5%CO
2下で培養した。6ウェルプレートにB16細胞を1ウェルあたり1×10
5個播種し、前述の培地を用いて37℃、5%CO
2下で培養後、最終濃度が50μMとなるように、PBSにて希釈した1−ピレン酪酸を添加し、37℃、5%CO
2下で2分間培養した。その後、PBSにて希釈したHQ、HQ−11R、HQに配列番号1記載のアミノ酸配列を有するペプチドを結合させたもの(HQ−GLHFPHIYVRD)を最終濃度が各10、20および30μMになるように添加し(対照群は、PBSのみ添加)、24時間培養した後、1N NaOHを0.5ml加えて80℃で1時間メラニン可溶化処理を行い、吸光光度計にて415nmの波長で測定した。
【0055】
結果を対照との比として
図6に示す。HQ単独およびHQ−11R投与された細胞ではメラニン量が顕著に減少していた。また、HQ−GLHFPHIYVRD投与群では、HQと同等の効果は得られず、20μMまでほとんどメラニン量に変化はみられなかった。さらに11Rのみ投与している群では、メラニンの減少は全く認められなかった。これにより、細胞レベルにおいては、HQ−11RはHQと同等またはそれ以上のメラニン減少効果が認められた。
【0056】
実施例3:アルギニン11残基が連続したアミノ酸配列にEGFP(高感度緑色蛍光タンパク質:enhanced green fluorescence protein)を付加した化合物(EGFP−11R)についての検討
【0057】
(A)細胞膜通過作用の評価
マウス悪性メラノーマ細胞B16細胞(Mouse B16 melanoma 4A5、ECACC)を用いて、細胞膜通過作用に対する評価を行なった。B16細胞は10%(v/v)ウシ胎児血清(ギブコ、カールスバッド、CA、米国)、100単位/mlペニシリン(ギブコ)、100μg/mlストレプトマイシン(ギブコ)、および0.2%L−グルタミン(ギブコ)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(ギブコ)を用いてプラスチックディッシュ(直径10cm、コーニング、グレンデール、AZ、米国)中で、37℃、5%CO
2下で培養した。コンフルエント状態にまで培養した細胞を回収し、10分の1量の細胞を3mlの新しい培地を含む35mmガラスボトムディッシュ(松浪硝子工業株式会社)に播き培養を続け、翌日のEGFP導入観察に用いた。
【0058】
B16細胞を培養したガラスボトムディッシュをPBSにて2回洗浄した。ついで、1−ピレン酪酸処理群にはPBSにて希釈した67mM 1−ピレン酪酸を最終濃度が50μMとなるように添加し、37℃、5%CO
2下で2分間培養した後、最終濃度5μMとなるように、PBSで希釈した製造例2で得られたEGFP−11Rを添加した。もう一群には、最終濃度5μMとなるように、PBSにて希釈したEGFP−11Rを添加した。どちらも37℃、5%CO
2下で2分間培養した後、PBSにて2回洗い、培養培地に置き換え、0.5、2、4、8時間ごとに共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。
【0059】
11個のアルギニンである11Rを融合したタンパク質EGFP−11R5は、細胞膜を通過して、細胞内に局在し、11Rを付加していないEGFPは、細胞内へと導入されなかった。また、67μMの1−ピレン酪酸で2分間処理を行い、EGFP−11Rを同量加えた群は、細胞内に導入され、より細胞内での緑色蛍光物質の拡散の増強が認められた(
図7)。
【0060】
(B)モルモット皮膚へのEGFP−11R導入
実験には褐色モルモット(Weiser-Maples、8週例、雌、n=5)を用いた。モルモットの背中をバリカン(ER509、松下電工)および除毛クリーム(epilat, Kracie)により脱毛した。プロピレングリコールに溶解した500μMの1−ピレン酪酸を50μLずつモルモット皮膚6cm
2あたり塗布した。5分後、同じ部位にプロピレングリコールに溶解したEGFP−11R(50μM)およびEGFP(80μM)を50μLずつ塗布した。塗布後0.5時間、2時間、4時間、8時間、24時間ごとにデルマパンチ(3mm、マルホ株式会社)を用いて皮膚サンプルを採取した。新鮮凍結切片(厚さ10μm)を作成後、ローダミン ファロイジン、DAPIにより染色を行った。そして、共焦点レーザー顕微鏡により観察した。EGFP6のみでは、皮膚への導入は見られなかった。EGFP−11Rのみの塗布群では、EGFP−11R5は皮膚組織へと導入されたが、皮膚の細胞内へは導入されずに皮膚構成細胞間隙に局在し組織全体(表皮・真皮・皮下組織)への拡散は認められなかった(
図8)。1−ピレン酪酸とEGFP−11Rとの組み合わせ群では皮膚塗布後0.5時間より、表皮・真皮・皮下組織全体へ拡散し、4〜8時間でピークに達し、24時間後でも皮膚内に残存していることを確認した(
図9および
図10)。
図10中、白く光って観察される部分がEGFP−11Rが存在する部分である。
【0061】
参考例1:細胞生存能の評価
96ウェルプレート(IWAKI、AGCテクノグラス株式会社)5枚にB16細胞を37℃、5%CO
2下で1ウェルあたり500個培養した。16時間後、PBSにて希釈したハイドロキノン(シグマ−アルドリッチ)およびHQ−11Rを500nM、5μM、50μMとなるように添加し、37℃、5%CO
2下で静置した。0、24、48、72時間ごとにプレートを室温に平衡化し、調整したCell Titer-Glo試薬(Cell Titer-Glo Luminescent Cell Viability Assay、プロメガ)を、各ウェルに培地と等量添加した。シェーカーで2分間攪拌し、室温で10分間静置している間に、各ウェルをホワイトプレート(マイクロプレート96−ウェル Pswhite、Porvair advanced materials)に移した。ルミノメーター(MicroLumat Plus LB 96V, Berthold technologies)にて発光シグナルを測定した。
従来のハイドロキノン投与群と比較し、毒性その他に関してはHQ−11R投与群との間に有意な差は無く、11Rを付加したことによる新たな有害事象は認めなかった。
【0062】
参考例2:MBTHによるチロシナーゼ活性の測定
96ウェルプレートにB16細胞を1ウェルあたり5000個播き、37℃、5%CO
2下で12時間培養した。培養液を捨て、PBSにて希釈した1%トリトン X−100、0.1% L−DOPA(3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン)および20.7mM MBTH(3−メチル−2−ベンゾ−チアゾリノンヒドラゾン塩酸塩一水和物、和光純薬工業株式会社)をそれぞれ1ウェルあたり50μL添加し、5.0μM、500nMまたは50nMのHQ−11Rを1ウェルあたり50μL添加した後、37℃で2時間培養した。マイクロプレートリーダー(MTP−300、コロナ電気株式会社)を用いてOD492nm吸光度を測定した(参考文献:Winder AJ., et al., Eur J Biochem. 1991 Jun 1; 198(2):317-326)。
結果を
図11に示す。HQ−11Rは濃度依存的にチロシナーゼ活性を阻害した。