特許第5940542号(P5940542)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5940542細胞導入ペプチドと皮膚導入促進剤とを組み合わせた皮膚導入システムおよび美白剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940542
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】細胞導入ペプチドと皮膚導入促進剤とを組み合わせた皮膚導入システムおよび美白剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/48 20060101AFI20160616BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20160616BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20160616BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20160616BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20160616BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20160616BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20160616BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20160616BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20160616BHJP
   C07K 14/61 20060101ALN20160616BHJP
【FI】
   A61K47/48
   A61K47/12
   A61K8/64
   A61K8/34
   A61K31/05
   A61K37/02
   A61K8/36
   A61Q19/02
   A61P17/00
   !C07K14/61ZNA
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-531360(P2013-531360)
(86)(22)【出願日】2012年8月29日
(86)【国際出願番号】JP2012071845
(87)【国際公開番号】WO2013031833
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2015年6月15日
(31)【優先権主張番号】特願2011-189687(P2011-189687)
(32)【優先日】2011年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100098464
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 洌
(74)【代理人】
【識別番号】100149630
【弁理士】
【氏名又は名称】藤森 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100111279
【弁理士】
【氏名又は名称】三嶋 眞弘
(72)【発明者】
【氏名】松井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】道上 宏之
(72)【発明者】
【氏名】石川 早苗
【審査官】 山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−507438(JP,A)
【文献】 松下正之,CloseUp実験法 137 タンパク質セラピー法,実験医学,2004年,Vol.22, No.18,p.2655-2658
【文献】 Biomaterials,2012年,Vol.33,p.6468-6475
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
A61K 9/00
A61K 8/34
A61K 8/36
A61K 8/64
A61K 31/05
A61K 38/00
A61K 47/12
A61K 47/48
A61P 17/00
A61Q 19/02
C07K 14/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギニン3〜13残基が連続したアミノ酸配列からなるペプチドを薬物に付加したペプチド誘導体に、1−ピレン酪酸を組み合わせることを特徴とする皮膚導入システム。
【請求項3】
アルギニンの残基数が9〜13である請求項1記載の皮膚導入システム。
【請求項4】
前記薬物が、タンパク質、ペプチド、低分子化合物から選択される請求項1または3記載の皮膚導入システム。
【請求項5】
前記タンパク質がEGFPである請求項4記載の皮膚導入システム。
【請求項6】
前記低分子化合物がハイドロキノンである請求項4記載の皮膚導入システム。
【請求項7】
ハイドロキノンにアルギニン3〜13残基が連続したアミノ酸配列からなるペプチドを付加したハイドロキノンのペプチド誘導体を含む美白剤であって、1−ピレン酪酸との組み合わせを特徴とする美白剤。
【請求項9】
医薬品、医薬部外品または化粧料に添加して用いられる請求項7記載の美白剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、医薬部外品または化粧料等に応用可能な皮膚導入システムに関する。本発明はまた、該システムを利用した美白剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に薬物を経皮的に吸収させる方法としては、標的薬剤に脂溶性官能基を付加し、エステルまたは界面活性剤、酵素などの試薬を同時に使用する化学的吸収促進法(特許文献1)や、非イオン系界面活性剤、グリセリン単中鎖脂肪族エステル、アミド化合物などの吸収促進剤と超音波を併用する方法(特許文献2)およびマイクロニードルによる小孔形成により角質層へ吸収させる方法といった物理的吸収促進法(特許文献3)などが挙げられる。
【0003】
しかしながら、化学的吸収促進法では、現在のところ充分な効果は得られておらず、また、物理的吸収促進法では、導入に関して装置を必要とし、さらに表皮を傷つける可能性が指摘されている。
【0004】
一方、アルギニンが複数個連続したアミノ酸配列を有するペプチドが生体膜通過シグナル配列として機能し、細胞膜透過性を有することが報告されている(特許文献4)。しかしながら、皮膚に対して適用した場合、どの程度皮膚組織の各細胞内に導入されるかなどについては、これまで全く報告されていない。
【0005】
特に、分子量500Da以上の化合物や非脂溶性薬物などの皮膚導入については、これまでに有効な導入システムは報告されていない。
【0006】
また、メラニン産生およびメラニン輸送のメカニズムは、その基礎研究・応用研究に従事する者のみならず、広く一般の人々の間においても絶えず関心の尽きない話題である。過度の日焼けなどの紫外線の強い刺激によりチロシナーゼが異常に活性化し、メラニン合成機能が非常に高くなり、代謝しきれない量のメラニンが皮膚基底層から表皮にいたるまで残存する。これを長年繰り返すことにより、現れてくるのがシミである。
【0007】
ハイドロキノン(以下、HQとも略称する)は美白成分としてアメリカ食品医薬品局(FDA)が認めている唯一の成分であるが、肌への刺激性が非常に強いため4%を超えるものに関しては医師の処方が必要とされる。したがって、一般に市販されている化粧品などでは配合されているハイドロキノン濃度は有効濃度よりかなり低く、その効果が期待できるものではない。
【0008】
また、美白効果のある濃度でハイドロキノンを使用した場合、「白抜き」と呼ばれる一部分が非常に白く色素が脱色されまだらになるような副作用を呈することも報告されている。これは、特に肌に敏感な女性への使用を考慮した場合、致命的な問題点となる。
【0009】
したがって、非脂溶性低分子化合物や、タンパク質などの高分子化合物など様々な有効成分をより効果的に皮膚に導入できる新たなシステムが切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2007/119467号
【特許文献2】特開平11−335271号公報
【特許文献3】特開2004−501725号公報
【特許文献4】特開2003−252898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、広範な薬物を効率的に皮膚の各組織の個々の細胞内へ導入することを可能とする皮膚導入システムを提供することである。また、このシステムを利用した、高い美白効果を奏する美白剤を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者が検討したところ、これまで知られているポリアルギニンやTATのタンパク質導入ドメインなどの細胞透過性シグナル配列を使用するだけでは、薬物を皮膚の各層のバリアを通過させて皮膚内へと導入することは可能でも、薬物が細胞と細胞の間の細胞間隙に存在してしまい皮膚の個々の細胞内への導入は困難であった。それにもかかわらず、驚くべきことに、アルギニン3〜13残基が連続したアミノ酸配列からなるペプチドを薬物に付加し、1−ピレン酪酸などの皮膚導入促進剤を併用した場合には、該薬物の優れた、皮膚組織、とりわけ表皮および真皮から皮下組織、筋層までのそれぞれの細胞への導入・拡散が可能となることを見出し、本発明が完成された。
【0013】
すなわち、本発明は、アルギニン3〜13残基が連続したアミノ酸配列からなるペプチドを薬物に付加したペプチド誘導体を、皮膚導入促進剤と組み合わせることを特徴とする皮膚導入システムに関する。本発明において、アルギニンは9〜13残基がより好ましく、11残基が最も好ましい。
【0014】
また、本発明に使用する皮膚導入促進剤としては、1−ピレン酪酸が好ましい。
【0015】
さらに、本発明の皮膚導入システムは、医薬品、医薬部外品または化粧料などの有効成分のように経皮吸収が望まれる広範な薬物に応用することができる。
【0016】
また、本発明は、ハイドロキノンにアルギニン3〜13残基が連続したアミノ酸配列からなるペプチドを付加したペプチド誘導体を皮膚導入促進剤との組み合わせることを特徴とする新規美白剤に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、皮膚組織、とりわけ表皮および真皮から皮下組織までの細胞に広範な薬物を導入・拡散することが可能となる。また、本発明の皮膚導入システムは、経皮的な直接作用により効果的に薬物を導入できるため、薬剤を塗布したところにだけ局所的に強力な薬物作用を誘導することができる。
【0018】
本発明の美白剤は、ハイドロキノンの濃度を低く、たとえばハイドロキノン単独での有効濃度の約100分の1程度に抑えることができ、それによりハイドロキノンの副作用である皮膚刺激や白抜きなどを抑えることができる。本発明の美白剤は、経皮的な直接作用が可能であるため、薬剤を塗布したところだけ局所的に強力な美白効果を誘導することができる。
【0019】
さらには、本発明の美白効果は、陰性対照であるコントロールおよび陽性対照であるハイドロキノンのみならず、ランダムなペプチドを使用した群とも比較検討して裏付けられたものであり、従来の他剤にはない、根拠に基づいた医療(EBM)に即した美白剤として用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の美白剤の合成スキーム例である。
図2】モルモットの皮膚に対する美白効果を評価する写真データである。(a)が治療前、(b)が治療後の写真である。
図3】ヘマトキシリン・エオジン染色を施した組織の顕微鏡像である。
図4】フォンタナ・マッソン染色を施した組織の光学顕微鏡像である。
図5図4の組織におけるメラニン陽性細胞数を示すグラフである。
図6】HQおよびHQ−11R投与による、B16マウス悪性黒色腫瘍細胞におけるメラニン量の測定結果を示すグラフである。
図7】B16マウス悪性黒色腫瘍細胞におけるEGFP導入を評価する蛍光顕微鏡像である。
図8】モルモットの皮膚におけるEGFP導入を評価する蛍光顕微鏡像である。
図9A】免疫組織染色による1−ピレン酪酸併用群および1−ピレン酪酸非併用群のEGFP−11Rの組織内分布を示す蛍光顕微鏡像である。
図9B図8Aの蛍光顕微鏡像の青色に染色された核染色部分のスケッチである。
図9C図8Aの蛍光顕微鏡像の緑色に蛍光を発しているEGFP部分のスケッチである。
図10】1−ピレン酪酸併用EGFP−11R群の経皮導入効果を示す皮膚組織の蛍光顕微鏡像である。
図11】MBTH法によるチロシナーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の皮膚導入システムは、アルギニン3〜13残基が連続したアミノ酸配列からなるペプチドを薬物に付加したペプチド誘導体に皮膚導入促進剤を組み合わせることを特徴とする。
【0022】
連続するアルギニンの残基数としては9〜13が好ましく、11が最も好ましい。アルギニン残基が2以下または14以上であると、薬物の皮膚からの導入効率が悪くなる傾向がある。アルギニン3〜13残基が連続したアミノ酸配列からなるペプチドは、細胞増殖に影響を及ぼすことなく、また細胞障害性も示さないため、安全な薬剤である。
【0023】
本明細書において、「付加した」との記載は、薬物がペプチドやタンパク質である場合には、アミノ酸同士のアミド結合を一般的には意味するが、そのアミド結合に限定されるものではない。そして薬物がペプチドやタンパク質である場合、このペプチド誘導体は、通常の人工合成法のみならず、遺伝子工学的手法を用いて製造することもできる。たとえば、数個のアルギニンが連続する配列および薬物のアミノ酸配列をコードするDNAを挿入した組換えベクターを作製し、適当な宿主細胞に組換えベクターを導入後、その宿主細胞を培養する。ついで、培養物を回収することにより、ペプチド誘導体を得ることができる。製造後、得られたペプチド誘導体は公知の方法で精製することもできる。これらのペプチド誘導体の製造法および精製法は、本分野において一般的な手法であり、当業者により容易に実施されるものである。また、薬物がアミノ酸、ペプチドおよびタンパク質以外の有機化合物である場合、薬物とアルギニン3〜13残基が連続したアミノ酸配列からなるペプチドとの結合は、同等の活性を有する限り、たとえばシステインなどの他のアミノ酸や他の化学結合を介して行なうことができ、アルギニン3〜13残基が連続したアミノ酸配列からなるペプチドと薬物との間には、たとえば1〜20個、または1〜10個、または1〜3個のアミノ酸残基が挿入されていてもよい。システインを利用する場合には、たとえば反応性のニトロピリジンスルフェニル(NPYS)基などを用いて様々な薬物と容易にS−S結合により連結することができる。
【0024】
本発明の皮膚導入システムは、低分子化合物、ペプチド、タンパク質など広範な薬物に適用でき、特に限定されるものではない。たとえば表皮、真皮、皮下組織から筋層にかけて導入されることが望まれるようなタンパク質や生理活性ペプチド、低分子化合物などが挙げられる。最も好ましい薬物としては、ハイドロキノンやその類似化合物、EGFPなどの分子量30kDa程度の非常に大きなタンパク質などが挙げられる。美白剤に使用する場合など、HQ以外のチロシナーゼ抑制効果を有する低分子製剤にも適用することができる。
【0025】
また、本発明の薬物のペプチド誘導体には、有効成分である薬物以外に、皮膚研究のモデルに使用する場合など、細胞内に導入されたことを確認するためのマーカーを含有しても良い。マーカーは、特に限定されるものではなく、たとえば、フルオレセインイソチオシアネート(以下、FITCと略称する)、ローダミンなどの蛍光色素、およびGFPなどの蛍光タンパク質を使用することができる。
【0026】
もちろん現在使用されている、経皮用薬物にアルギニン3〜13残基が連続したアミノ酸配列からなるペプチドを付加し、皮膚導入促進剤と組み合わせることにより、飛躍的にその導入効果を増大することができる。
【0027】
本発明において使用される「皮膚導入促進剤」としては、高い疎水性を有する負に帯電したカウンターアニオンを使用することができ、具体的には1−ピレン酪酸が挙げられるが、これに限定されるものではない。皮膚導入促進剤を、薬物のペプチド誘導体と組み合わせる方法としては、特に限定されるものではないが、薬物のペプチド誘導体の塗布前、好ましくは直前〜60分前、より好ましくは1〜30分前、最も好ましくは2〜10分前に皮膚導入促進剤により前処理することができる。
【0028】
本発明の用途は、医薬品類はもとより、医薬部外品類、化粧品類等、経皮吸収を目的とするものであれば、どのような薬物にも適用可能である。
【0029】
また、本発明の美白剤は、ハイドロキノンにアルギニン3〜13残基が連続したアミノ酸配列からなるペプチドを付加したペプチド誘導体を皮膚導入促進剤と組み合わせることを特徴とするものである。臨床の現場では、4〜10%程度のハイドロキノン濃度が、美白効果を得るために必要であると報告されているため、今回使用した0.2%ハイドロキノン量のHQ−11Rは、ハイドロキノン単体と比較した場合、約20〜100倍程度の強いチロシナーゼ抑制効果を示し、日焼け後の美白および日焼けの予防のいずれの用途にも使用することができる。つまり、ハイドロキノンの実質的な使用量を約20分の1〜約100分の1程度に抑えることができる。
【0030】
さらに、本発明の美白剤において、有効成分であるハイドロキノンのペプチド誘導体は、メラニン沈着抑制研究のモデルに使用する場合など、細胞内に導入されたことを確認するためのマーカーを含有しても良い。マーカーは、特に限定されるものではなく、たとえば、フルオレセインイソチオシアネート(以下、FITCと略称する)、ローダミンなどの蛍光色素、およびGFPなどの蛍光タンパク質を使用することができる。
【0031】
本発明において、有効成分である薬物のペプチド誘導体は、通常の人工合成法によって、または一般に市販されている人工合成機によってペプチド部分を製造し、通常の人工合成法などの一般的な方法により薬物を付加することにより製造することができる。製造後、得られたペプチド誘導体は、公知の方法で精製することもできる。これらのペプチド誘導体の製造法および精製法は、本分野において一般的な手法であり、当業者により容易に実施されるものである。
【0032】
たとえば、薬物がハイドロキノンの場合、ペプチドの固相合成によりアルギニンを1残基ずつカルボキシル末端側から結合させ、所望の残基数結合した後、ニトロピリジンスルフェニル(NPYS)基などの反応性の側鎖を有するシステイン残基を1つ導入する。その後定法にて脱保護および精製したのち、メルカプトハイドロキノンと反応させ、システイン残基にハイドロキノンを結合させ、精製して本発明のハイドロキノンのペプチド誘導体を得ることができる(図1)。
【0033】
本発明の皮膚導入システムの有効成分である薬物のペプチド誘導体や皮膚導入促進剤の剤形は、投与方法によって適宜設定することができる。具体的には、水溶液や乳液などの液剤、および軟膏などを例示することができる。
【0034】
本発明の皮膚導入システムは、有効成分である薬物のペプチド誘導体と皮膚導入促進剤とを組み合わせた皮膚導入製剤として用いることができる。また、本発明の皮膚導入システムは、その投与方法に合わせて、有効成分である薬物のペプチド誘導体と皮膚導入促進剤とを含有するキットの態様にすることもできる。
【0035】
本発明の皮膚導入システムの有効成分である薬物のペプチド誘導体の濃度は、使用する薬物、剤形、使用する基材などにあわせて適宜設定することができる。たとえば、薬物としてハイドロキノンを用い、親水性軟膏とする場合、薬物のペプチド誘導体の濃度は0.2〜20mg/gであることが好ましい。
【0036】
本発明の皮膚導入システムは、有効成分である薬物のペプチド誘導体の他に、適当な薬学的に許容され得る賦形剤、担体、溶媒、ゲル形成剤、酸化防止剤、希釈剤、等張化剤、pH安定化剤など、本技術分野において通常用いられている成分を添加してもよい。これらの添加剤は、通常当業者により適宜選択される。
【0037】
本発明の薬物のペプチド誘導体を添加する医薬品、医薬部外品または化粧料としては、どのようなものでも使用することができ、特に限定されるものではないが、皮膚導入促進剤と組み合わせることによりその効果を発揮することができる。
【0038】
以下、実施例によって、本発明の皮膚導入システムをさらに詳細に説明するが、本発明はその趣旨と適用範囲から逸脱しない限りこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
製造例1
(A)保護ペプチド樹脂の構築
ペプチド自動合成機(433A、アプライドバイオシステム(Applied Biosystems)社製)を用いて添付のソフトにしたがい、固相合成法により1個ずつアミノ酸をカルボキシル末端側から結合させBoc−Cys(Npys)−[Arg(Pbf)]11−樹脂の合成を定法にて行なった。
【0040】
(B)脱保護と樹脂からの切り出し
精製後、脱保護を行い、樹脂から切り出し、Cys(Npys)−[Arg]11−NH2を得た。
【0041】
(C)ハイドロキノンへの付加
(B)で得られた、Cys(Npys)−[Arg]11−NH2(60mg)を純水(1.2ml)に溶解し、2−メルカプトハイドロキノン(3.6mg、0.8当量)をアルゴン気流中で室温にて攪拌しながら添加した。一昼夜反応後、反応溶液を直接分取精製に供した。
【0042】
得られた粗精製物をHPLC分取装置(LC−8A−1、島津製作所製、カラム:ODS30×250mm)を用いて0.1%トリフルオロ酢酸を含む水−アセトニトリルの系で分取精製し、目的のペプチド誘導体の分画を得、アセトニトリルを留去した後、凍結乾燥粉末とし、目的物であるハイドロキノンのペプチド誘導体(HQ−11Rと略称する)25mgを得た。
ハイドロキノンに配列番号1記載のアミノ酸配列を有するペプチドを結合させたもの(HQ−GLHFPHIYVRD)も同様に製造した。
【0043】
製造例2
構築したpet21a EGFP−11Rプラスミドを大腸菌BL21株に形質転換した、その後、単一のコロニーをピックアップし、100mLのLB−Amp培地にて37℃で一晩培養した。これを1LのLB−Amp培地に加えて、OD600が0.6になるまで37℃で培養した。その後、IPTGを終濃度0.1mMになるように加え、pET21a−EGFP−11Rについては25℃で一晩培養した。培養後、発現誘導した培養液を集菌した(8,000rpm、10分、4℃)。続いて、8M 尿素、20mM MEPES、100 mM NaClを含む溶菌バッファーを30mL加えて懸濁させた後、超音波菌体破砕を行った(クボタ、Isonater201M)。破砕後、溶液を12,000rpm、15分、4℃で遠心し、上清を回収した。回収した上清を溶菌バッファーで平衡化したリジンビーズ(インビトロジェン、ProBond Resin)と反応させた。その後、8M 尿素、20mM MEPES、100 mM NaCl、20mM イミダゾールを含む洗浄バッファーで3回洗浄した。洗浄後、8M 尿素、20mM MEPES、100 mM NaCl、200mM イミダゾールを含む溶出バッファーで溶出し、回収した。
【0044】
回収したタンパク質溶液中のイミダゾールを除去するために、Slide−A−Lyzer(登録商標)Dialysis Cassette(Extra Strength)(テルモ SCIENTIFIC)により透析を行った。透析用のバッファーとして、1000倍量のPBSを使用した。透析は6時間を2回行なった。最終的に、目的の濃度になるように限外濾過法にてタンパク濃縮を行った。
【0045】
実施例1:褐色モルモットを用いた美白効果の検討
実験には、褐色モルモット(Weiser-Maples、8週齢、雌、各群n=5)を使用した。褐色モルモットは、表皮基底層に色素細胞を有しており、ヒトの皮膚と似ている。紫外線照射により、ヒトと同様の皮膚反応を示し、メラニン色素の沈着を形成する。そのため、美白効果のアッセイに用いることができる。
【0046】
脱毛した褐色モルモットの背中をバリカン(ER509、松下電工)および除毛クリーム(epilat, Kracie)により脱毛した。脱毛した褐色モルモットの背中に、照射面積を一区画6cm2で4区画設定し、紫外線UVB強度測定装置(VLX−3,W、アトー株式会社製)にてUV強度を測定しつつ、UV照射機(MODEL UVM−57、フナコシ)により、1日1回紫外線量0.015Jls/cm2を5日間照射し、2日間休んでさらに5日間照射した。日焼けモデルを作製後、プロピレングリコールにて調整した500μMの1−ピレン酪酸50μLを塗布し、5分後、プロピレングリコールにて調整した500μMのHQ−11R、HQ、HQに配列番号1記載のアミノ酸配列を有するペプチドを結合させたもの(HQ−GLHFPHIYVRD)およびPBS(陰性対照)を1回につき50μLずつ塗布した。
【0047】
投与スケジュールは、5日間連続塗布(1日1回)−2日休薬−再度5日間塗布(1日1回)−2日休薬、とした。
【0048】
結果、外観にてHQ−11Rを用いた群の塗布部分のみが効果的な美白作用を示した(図2)。
【0049】
さらに、美白効果を顕微鏡下で詳細に検討するために、ヘマトキシリン・エオジン染色とフォンタナ・マッソン染色後、光学顕微鏡(×40)にて観察し、組織障害およびリンパ球の浸潤、メラニン含有細胞について後述する手順で評価を行なった(図2図3図4)。HQ−11R群の塗布部分の組織においては、他の群と同様、アレルギー反応やリンパ球浸潤などの細胞・組織障害性は認められず、4群間において有意な差は認められなかった(図3)。フォンタナ・マッソン染色においてメラニン含有細胞数を確認したところ、明らかにHQ−11R群の塗布部で有意に陽性細胞、すなわちメラニン含有細胞4が減少していた(図4)。図4のメラニン含有細胞数を各群20視野にて観測し、スチューデントT検定にて、他の群と統計学的に評価したところ、HQ−11R群が有意差(p<0.01)をもって他群よりもメラニン含有細胞の減少を認めた(p<0.01、図5)。
【0050】
(免疫染色)
新鮮凍結切片を、4%PFAにて10分間固定した。PBSにて3回洗浄した。ブロッキング緩衝液(PBSで調整した5% BSAおよび0.3%トリトン)にてブロッキングを行った。PBSにて1回洗浄した。濃度1ug/mlとなるようPBS中10%BSAにて調整した一次抗体を添加し、4℃、16時間静置した。PBSにて3回洗浄した。濃度1μg/mlとなるようにPBS中10%BSAにて調整した二次抗体を添加し、暗所、室温で2時間静置した。PBSにて3回洗浄した。ヘキストを添加し、暗所で1分間染色した。PBSにて3回洗浄し、共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。
【0051】
(フォンタナ・マッソン染色)
パラフィン切片を作製し、キシレンに5分間、100%エタノール、95%エタノール、90%エタノールおよび70%エタノールを順に各1分間滴下した。水洗し、10%フォンタナアンモニア銀染色液を滴下し、遮光して16時間静置した。水洗し、0.25%チオ硫酸ナトリウム水溶液を1分間滴下した。水洗し、ケルンエヒトロート液を5分間滴下した。水洗し、70%エタノール、90%エタノール、95%エタノールおよび100%エタノールを順に各1分間滴下した。キシレンを5分間滴下し、封入し観察した。
【0052】
(フォンタナ・マッソン染色によるメラニン陽性細胞数の計測)
フォンタナ・マッソン染色を行ったサンプルについて、各サンプルにつき顕微鏡にて基底層をランダムに10箇所撮影し、各箇所でのメラニン陽性細胞の個数を計測した。
【0053】
実施例2:メラニン含有量に対するHQ−11Rの阻害効果
【0054】
マウス悪性メラノーマ細胞B16細胞(Mouse B16 melanoma 4A5、ECACC)を用いて細胞内のメラニン量に対する効果を評価した。B16細胞は、マウスの皮膚に発生した悪性黒色腫瘍細胞であり、特異的なメラニン産生能を有している。そのため、メラニン合成に関わる機能調節やメラニン産生抑制物質検索のための研究材料として汎用されている。B16細胞は10%(v/v)ウシ胎児血清(ギブコ、カールスバッド、CA、米国)、100単位/mlペニシリン(ギブコ)、100μg/mlストレプトマイシン(ギブコ)、および0.2%L−グルタミン(ギブコ)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(ギブコ)を用いてプラスチックディッシュ(直径10cm、コーニング、グレンデール、AZ、米国)中で、37℃、5%CO2下で培養した。6ウェルプレートにB16細胞を1ウェルあたり1×105個播種し、前述の培地を用いて37℃、5%CO2下で培養後、最終濃度が50μMとなるように、PBSにて希釈した1−ピレン酪酸を添加し、37℃、5%CO2下で2分間培養した。その後、PBSにて希釈したHQ、HQ−11R、HQに配列番号1記載のアミノ酸配列を有するペプチドを結合させたもの(HQ−GLHFPHIYVRD)を最終濃度が各10、20および30μMになるように添加し(対照群は、PBSのみ添加)、24時間培養した後、1N NaOHを0.5ml加えて80℃で1時間メラニン可溶化処理を行い、吸光光度計にて415nmの波長で測定した。
【0055】
結果を対照との比として図6に示す。HQ単独およびHQ−11R投与された細胞ではメラニン量が顕著に減少していた。また、HQ−GLHFPHIYVRD投与群では、HQと同等の効果は得られず、20μMまでほとんどメラニン量に変化はみられなかった。さらに11Rのみ投与している群では、メラニンの減少は全く認められなかった。これにより、細胞レベルにおいては、HQ−11RはHQと同等またはそれ以上のメラニン減少効果が認められた。
【0056】
実施例3:アルギニン11残基が連続したアミノ酸配列にEGFP(高感度緑色蛍光タンパク質:enhanced green fluorescence protein)を付加した化合物(EGFP−11R)についての検討
【0057】
(A)細胞膜通過作用の評価
マウス悪性メラノーマ細胞B16細胞(Mouse B16 melanoma 4A5、ECACC)を用いて、細胞膜通過作用に対する評価を行なった。B16細胞は10%(v/v)ウシ胎児血清(ギブコ、カールスバッド、CA、米国)、100単位/mlペニシリン(ギブコ)、100μg/mlストレプトマイシン(ギブコ)、および0.2%L−グルタミン(ギブコ)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(ギブコ)を用いてプラスチックディッシュ(直径10cm、コーニング、グレンデール、AZ、米国)中で、37℃、5%CO2下で培養した。コンフルエント状態にまで培養した細胞を回収し、10分の1量の細胞を3mlの新しい培地を含む35mmガラスボトムディッシュ(松浪硝子工業株式会社)に播き培養を続け、翌日のEGFP導入観察に用いた。
【0058】
B16細胞を培養したガラスボトムディッシュをPBSにて2回洗浄した。ついで、1−ピレン酪酸処理群にはPBSにて希釈した67mM 1−ピレン酪酸を最終濃度が50μMとなるように添加し、37℃、5%CO2下で2分間培養した後、最終濃度5μMとなるように、PBSで希釈した製造例2で得られたEGFP−11Rを添加した。もう一群には、最終濃度5μMとなるように、PBSにて希釈したEGFP−11Rを添加した。どちらも37℃、5%CO2下で2分間培養した後、PBSにて2回洗い、培養培地に置き換え、0.5、2、4、8時間ごとに共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。
【0059】
11個のアルギニンである11Rを融合したタンパク質EGFP−11R5は、細胞膜を通過して、細胞内に局在し、11Rを付加していないEGFPは、細胞内へと導入されなかった。また、67μMの1−ピレン酪酸で2分間処理を行い、EGFP−11Rを同量加えた群は、細胞内に導入され、より細胞内での緑色蛍光物質の拡散の増強が認められた(図7)。
【0060】
(B)モルモット皮膚へのEGFP−11R導入
実験には褐色モルモット(Weiser-Maples、8週例、雌、n=5)を用いた。モルモットの背中をバリカン(ER509、松下電工)および除毛クリーム(epilat, Kracie)により脱毛した。プロピレングリコールに溶解した500μMの1−ピレン酪酸を50μLずつモルモット皮膚6cm2あたり塗布した。5分後、同じ部位にプロピレングリコールに溶解したEGFP−11R(50μM)およびEGFP(80μM)を50μLずつ塗布した。塗布後0.5時間、2時間、4時間、8時間、24時間ごとにデルマパンチ(3mm、マルホ株式会社)を用いて皮膚サンプルを採取した。新鮮凍結切片(厚さ10μm)を作成後、ローダミン ファロイジン、DAPIにより染色を行った。そして、共焦点レーザー顕微鏡により観察した。EGFP6のみでは、皮膚への導入は見られなかった。EGFP−11Rのみの塗布群では、EGFP−11R5は皮膚組織へと導入されたが、皮膚の細胞内へは導入されずに皮膚構成細胞間隙に局在し組織全体(表皮・真皮・皮下組織)への拡散は認められなかった(図8)。1−ピレン酪酸とEGFP−11Rとの組み合わせ群では皮膚塗布後0.5時間より、表皮・真皮・皮下組織全体へ拡散し、4〜8時間でピークに達し、24時間後でも皮膚内に残存していることを確認した(図9および図10)。図10中、白く光って観察される部分がEGFP−11Rが存在する部分である。
【0061】
参考例1:細胞生存能の評価
96ウェルプレート(IWAKI、AGCテクノグラス株式会社)5枚にB16細胞を37℃、5%CO2下で1ウェルあたり500個培養した。16時間後、PBSにて希釈したハイドロキノン(シグマ−アルドリッチ)およびHQ−11Rを500nM、5μM、50μMとなるように添加し、37℃、5%CO2下で静置した。0、24、48、72時間ごとにプレートを室温に平衡化し、調整したCell Titer-Glo試薬(Cell Titer-Glo Luminescent Cell Viability Assay、プロメガ)を、各ウェルに培地と等量添加した。シェーカーで2分間攪拌し、室温で10分間静置している間に、各ウェルをホワイトプレート(マイクロプレート96−ウェル Pswhite、Porvair advanced materials)に移した。ルミノメーター(MicroLumat Plus LB 96V, Berthold technologies)にて発光シグナルを測定した。
従来のハイドロキノン投与群と比較し、毒性その他に関してはHQ−11R投与群との間に有意な差は無く、11Rを付加したことによる新たな有害事象は認めなかった。
【0062】
参考例2:MBTHによるチロシナーゼ活性の測定
96ウェルプレートにB16細胞を1ウェルあたり5000個播き、37℃、5%CO2下で12時間培養した。培養液を捨て、PBSにて希釈した1%トリトン X−100、0.1% L−DOPA(3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン)および20.7mM MBTH(3−メチル−2−ベンゾ−チアゾリノンヒドラゾン塩酸塩一水和物、和光純薬工業株式会社)をそれぞれ1ウェルあたり50μL添加し、5.0μM、500nMまたは50nMのHQ−11Rを1ウェルあたり50μL添加した後、37℃で2時間培養した。マイクロプレートリーダー(MTP−300、コロナ電気株式会社)を用いてOD492nm吸光度を測定した(参考文献:Winder AJ., et al., Eur J Biochem. 1991 Jun 1; 198(2):317-326)。
結果を図11に示す。HQ−11Rは濃度依存的にチロシナーゼ活性を阻害した。
【符号の説明】
【0063】
1 角質層
2 表皮
3 真皮
4 メラニン含有細胞
5 EGFP−11R
6 EGFP
【配列表フリーテキスト】
【0064】
配列番号1:人工的なランダムなアミノ酸配列を有するペプチド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]