(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940544
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】自動注射器
(51)【国際特許分類】
A61M 5/20 20060101AFI20160616BHJP
A61M 5/315 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
A61M5/20 500
A61M5/20 550
A61M5/315 550A
【請求項の数】15
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-532204(P2013-532204)
(86)(22)【出願日】2011年10月6日
(65)【公表番号】特表2013-539681(P2013-539681A)
(43)【公表日】2013年10月28日
(86)【国際出願番号】EP2011067493
(87)【国際公開番号】WO2012045831
(87)【国際公開日】20120412
【審査請求日】2014年9月19日
(31)【優先権主張番号】61/432,260
(32)【優先日】2011年1月13日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】10186995.6
(32)【優先日】2010年10月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】397056695
【氏名又は名称】サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・マーク・ケンプ
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・エクマン
【審査官】
金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−046204(JP,A)
【文献】
特表2007−514487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/20
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体薬剤(M)の用量を投与するための自動注射器(1)であって、
−管状シャシ(2)と、
−シャシ(2)に対して摺動可能に配置され、かつシャシ(2)内に部分的に配置された管状キャリア(7)を含むキャリア・サブアセンブリのキャリア(7)が、中空注射針(4)付きのシリンジ(3)、駆動ばね(8)、および駆動ばね(8)の荷重をシリンジ(3)のストッパ(6)に送るためのプランジャ(9)を含み、シリンジ(3)がキャリア(7)とのジョイント軸方向並進運動のためにロックされる、該キャリア・サブアセンブリと、
−自動注射器(1)の遠位端(D)にわたって配置され、自動注射器(1)の少なくともほとんど全長にわたって延びる、巻付けトリガ・スリーブ(12)と、
−キャリア(7)の周囲に配置された制御ばね(19)と、
−キャリア(7)とトリガ・スリーブ(12)の相対的軸位置に応じて、キャリア(7)を前進させて針を挿入するためにキャリア(7)、または針を後退させるためにシャシ(2)のいずれかに、制御ばね(19)の近位端をカップリングする第1の連動手段(20、22、23、24)と、
−針挿入中キャリア(7)が少なくともほとんど注射深度に達したとき、注射のため駆動ばね(8)を解放するように配置された第2の連動手段(11、13、15)と、
−トリガ・スリーブ(12)に対するジョイント軸方向並進運動のためにシャシ(2)をキャリア(7)にカップリングするように配置される第3の連動手段(16、17、18)が、シャシ(2)に対する近位方向(P)のトリガ・スリーブ(12)の並進運動時キャリア(7)からシャシ(2)をデカップルし、かくして制御ばね(19)を、針を挿入するために解放するように配置される、該第3の連動手段(16、17、18)と、
−制御ばね(19)の遠位端を針を、後退させるためにキャリア(7)、またはそれ以外ではトリガ・スリーブ(12)のいずれかにカップリングするように配置された第4の連動手段(21、25、26、28)と、
を含む、上記自動注射器(1)。
【請求項2】
第1の連動手段(20、22、23、24)が、制御ばね(19)の近位端の荷重を伝達するための近位カラー(20)を含み、近位カラー(20)が、初期状態でキャリア(7)上のねじ山(22)に係合するように構成され、近位カラー(20)が、近位カラー(20)の回転を防止し、近位カラーをキャリア(7)にカップリングさせるために、初期状態でトリガ・スリーブ(12)の第1の縦溝(24)に対してスプライン係合するように配置されたピン(23)を有し、第1の縦溝(24)が、自動注射器(1)が注射部位から取り外されたとき、制御ばね(19)の負荷の下でのシャシ(2)およびキャリア(7)の近位方向(P)への並進運動時ピン(23)を解放するように配置され、それによって制御ばね(19)の負荷の下でのキャリア(7)に対する近位カラー(20)の回転および並進運動し、およびその後の近位カラー(20)のシャシ(2)への当接を可能にすることを特徴とする、請求項1に記載の自動注射器(1)。
【請求項3】
第2の連動手段(11、13、15)が、プランジャ(9)の遠位に配置され駆動ばね(8)に対するスラスト面を示す2つの弾性アーム(11)を含み、第1のボス(13)が、トリガ・スリーブ(12)の遠位トリガ端面(14)から近位方向(P)に突出し、第1のボス(13)が2つの弾性アーム(11)の間に配置可能であり、かくしてこれらが互いの方に曲がるのを防止し、各突起(15)が、それぞれ弾性アーム(11)の一方を捕捉するためにキャリア(7)内に、プランジャ(9)の近位方向(P)への並進運動を防止するように配置され、ボス(13)が、弾性アーム(11)の間から取り外され、かくして弾性アームが、駆動ばね(8)の負荷の下で突起(15)との傾斜係合により内側に曲がり、キャリア(7)が、針挿入中少なくともほとんど注射深度に達したときにプランジャ(9)を解放するのを可能にするように配置されることを特徴とする、請求項1または2に記載の自動注射器(1)。
【請求項4】
第3の連動手段(16、17、18)が、キャリア(7)のそれぞれの開口(17)に係合可能なシャシ(2)上の少なくとも1つの弾性クリップ(16)を含み、少なくとも1つの第2のボス(18)が、弾性クリップ(16)が外側に曲がりシャシ(2)からキャリア(7)を係合解除するのを防止するために、弾性クリップ(16)を外側で支持するようにトリガ・スリーブ(12)内に配置され、第2のボス(18)が、シャシ(2)に対するトリガ・スリーブ(12)の近位方向(P)への並進運動で弾性クリップ(16)の後ろから取り外されるように配置され、それによって弾性クリップ(16)が、制御ばね(19)の負荷の下でキャリア(7)とのその傾斜係合により外側に曲がるのを可能にすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の自動注射器(1)。
【請求項5】
第4の連動手段(21、25、26、28)が、制御ばね(19)の遠位端の荷重を伝達するための遠位カラー(21)を含み、遠位カラー(21)およびトリガ・スリーブ(12)が、トリガ・スリーブ(12)に対する遠位カラー(21)の遠位方向(D)の並進運動を遠位カラー(21)の少なくとも1つのロック角度位置に制限し、トリガ・スリーブ(12)に対する遠位カラー(21)の遠位方向(D)の並進運動を遠位カラー(21)の少なくとも1つのロック解除角度位置で可能にするバヨネットフィッティングを有し、それぞれの角度位置が、遠位カラー(21)のキャリア(7)とのスプライン係合によって決定され、遠位カラー(21)が、自動注射器(1)が注射部位から取り外されたとき制御ばね(19)の負荷の下でのシャシ(2)およびキャリア(7)の近位方向(P)への並進運動時ロック解除角度位置に回転するように配置され、それによって、制御ばね(19)の負荷の下でのトリガスリーブ(12)に対する遠位方向(D)への遠位カラー(21)の並進運動、およびその後の後退のためキャリア(7)上の外側ショルダ(33)との遠位カラー(21)の当接を可能にすることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の自動注射器(1)。
【請求項6】
バヨネットフィッティングが、トリガ・スリーブ(12)の内面上の円周方向に配置された少なくとも1つの第3のボス(25)と、対応する個数の、遠位カラー(21)の外面上の円周方向に配置された第4のボス(26)とを含み、ロック角度位置では、第3のボス(25)と第4のボス(26)の対応する対が、互いに当接するように本質的に整合され、かくして遠位カラー(21)の遠位方向(D)への並進運動が防止し、ロック解除角度位置では、第3のボス(25)と第4のボス(26)の対応する対が、遠位カラー(21)の遠位方向(D)への並進運動を可能にするようにずれるようになることを特徴とする、請求項5に記載の自動注射器(1)。
【請求項7】
スプライン係合が、遠位カラー(21)の内面上のそれぞれの第2の縦溝(28)と係合するキャリア上に少なくとも1つの縦スプライン(27)を含み、スプライン(27)が、遠位カラー(21)をロック角度位置に維持するために実質的に平行であるが、遠位カラー(21)をロック解除角度位置まで回転させるために親ねじのねじ山(32)と共にその遠位端近くで終わることを特徴とする、請求項5または6に記載の自動注射器(1)。
【請求項8】
戻り止め機構が、針挿入をトリガするトリガ・スリーブ(12)に対するシャシ(2)の並進運動を阻むために設けられることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の自動注射器(1)。
【請求項9】
−管状シャシ(2)と、
−シャシ(2)に対して摺動可能に配置され、かつシャシ(2)内に部分的に配置された管状キャリア(7)を含むキャリア・サブアセンブリのキャリア(7)が、中空注射針(4)付きのシリンジ(3)、駆動ばね(8)、および駆動ばね(8)の荷重をシリンジ(3)のストッパ(6)に送るためのプランジャ(9)を含み、シリンジ(3)がキャリア(7)とのジョイント軸方向並進運動のためにロックされる、該キャリア・サブアセンブリと、
−自動注射器(1)の遠位端(D)にわたって配置され、自動注射器(1)の少なくともほとんど全長にわたって延びる、巻付けトリガ・スリーブ(12)と、
−キャリア(7)の周囲に配置された制御ばね(19)と、
−制御ばね(19)の近位端をキャリア(7)またはシャシ(2)のいずれかにカップリングするための第1の連動手段(20、22、23、24)と、
−駆動ばね(8)をロックするように配置された第2の連動手段(11、13、15)と、
−シャシ(2)をキャリア(7)にカップリングするように配置された第3の連動手段(16、17、18)と、
−制御ばね(19)の遠位端を、キャリア(7)またはトリガ・スリーブ(12)のいずれかにカップリングするように配置された第4の連動手段(21、25、26、28)と、
を含む、自動注射器(1)を操作する方法であって、
−第1の連動手段(20、23、24)によって制御ばね(19)の近位端をキャリア(7)にカップリングし、第2の連動手段(11、13、15)によって駆動ばね(8)の解放を防止し、第3の連動手段(16、17、18)によってキャリア(7)からシャシ(2)がデカップリングすることを防止し、初期状態で制御ばね(19)の遠位端をトリガ・スリーブ(12)にカップリングする工程と、
−自動注射器(1)の近位端(P)が注射部位に押し付けられているときに、トリガ・スリーブ(12)を制御ばね(19)の力に抗してシャシ(2)に対し近位方向(P)に並進移動させる工程と、
−トリガ・スリーブ(12)が少なくともほとんど完全に並進移動したとき第3の連動手段(16、17、18)を係合解除し、それによって制御ばね(19)を解放して、キャリア・サブアセンブリを、針挿入のために前進させる工程と、
−針挿入中針(4)が少なくともほとんど注射深度に達したときに第2の連動手段(11、13、15)によって駆動ばね(8)を解放し、それによって駆動ばね(8)が、薬剤(M)を少なくとも部分的に送達するためにプランジャ(9)およびストッパ(6)を前進させるのを可能にする工程と、
−注射部位からの自動注射器(1)の取り外しの時、制御ばね(19)の負荷の下でキャリア・サブアセンブリに対して遠位方向(D)にトリガ・スリーブ(12)を並進運動させる工程と、
−トリガ・スリーブ(12)が、キャリア(7)に対して規定位置に達したときに、キャリア(7)から制御ばね(19)の近位端をデカップルし、この近位端を第1の連動手段(20、23、24)によってシャシ(2)にカップリングし、トリガ・スリーブ(12)から制御ばね(19)の遠位端をデカップルし、この遠位端を第4の連動手段(21、25、26、28)によってキャリア(7)にカップリングする工程と、
−制御ばね(19)の負荷の下でキャリア・サブアセンブリをシャシ(2)の中に針安全位置に後退させる工程と、
を含む上記方法。
【請求項10】
第1の連動手段(20、22、23、24)が、制御ばね(19)の近位端の荷重を伝達するための近位カラー(20)を含み、近位カラー(20)が、初期状態でキャリア(7)上のねじ山(22)に係合され、近位カラー(20)上のピン(23)が、近位カラー(20)の回転を防止するため、および近位カラーをキャリア(7)にカップリングさせるために、初期状態でトリガ・スリーブ(12)の第1の縦溝(24)に対してスプライン係合され、注射部位からの自動注射器(1)の取り外し中、シャシ(2)およびキャリア(7)の近位方向(P)への並進運動の時ピン(23)が第1の縦溝(24)の近位端を越えて走行し、それによって制御ばね(19)が、近位カラー(20)がシャシ(2)に当接する位置に近位カラー(20)を回転させ、キャリア(7)に対して並進移動させることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第2の連動手段(11、13、15)が、プランジャ(9)の遠位に配置され、駆動ばね(8)に対するスラスト面を示す2つの弾性アーム(11)を含み、第1のボス(13)が、トリガ・スリーブ(12)の遠位トリガ端面(14)から近位方向(P)に突出し、第1のボス(13)が初期状態で2つの弾性アーム(11)の間に配置され、かくしてこれらが互いの方に曲がるのを防止し、各突起(15)が、それぞれ弾性アーム(11)の一方を捕捉するためにキャリア(7)内に、プランジャ(9)の近位方向(P)への並進運動を防止するように配置され、針挿入中キャリア(7)が少なくともほとんど注射深度に達したとき、ボス(13)が、弾性アーム(11)の間から取り外され、かくして弾性アーム(11)が、駆動ばね(8)の負荷の下で突起(15)との傾斜係合により内側に曲がり、プランジャ(9)を解放するのを可能にすることを特徴とする、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
第3の連動手段(16、17、18)が、初期状態でキャリア(7)のそれぞれの開口(17)に係合されたシャシ(2)上の少なくとも1つの弾性クリップ(16)を含み、初期状態で弾性クリップ(16)が外側に曲がりキャリア(7)をシャシ(2)から係合解除するのを防止するために、少なくとも1つの第2のボス(18)が、弾性クリップ(16)を外側で支持するようにトリガ・スリーブ(12)内に配置され、第2のボス(18)が、シャシ(2)に対するトリガ・スリーブ(12)の近位方向(P)への並進運動で弾性クリップ(16)の後ろから取り外され、弾性クリップ(16)がその後、制御ばね(19)の負荷の下でキャリア(7)とのその傾斜係合により外側に曲げられることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
第4の連動手段(21、25、26、28)が、制御ばね(19)の遠位端の荷重を伝達するための遠位カラー(21)を含み、遠位カラー(21)およびトリガ・スリーブ(12)が、トリガ・スリーブ(12)に対する遠位カラー(21)の遠位方向(D)の並進運動を遠位カラー(21)の少なくとも1つのロック角度位置に制限し、トリガ・スリーブ(12)に対する遠位カラー(21)の遠位方向(D)の並進移動を遠位カラー(21)の少なくとも1つのロック解除角度位置で可能にするバヨネットフィッティングを有し、それぞれの角度位置が、遠位カラー(21)のキャリア(7)とのスプライン係合によって決定され、遠位カラー(21)が初期状態でロック角度位置にあり、遠位カラー(21)が、自動注射器(1)が注射部位から取り外されたときシャシ(2)およびキャリア(7)の近位方向(P)への並進運動時、スプライン係合によってロック解除角度位置に回転し、遠位カラー(21)がその後、制御ばね(19)の負荷の下で後退のために次に遠位方向(D)に並進移動するキャリア(7)上の外側ショルダ(33)に当接する位置にトリガスリーブ(12)に対して遠位方向(D)に並進移動することを特徴とする、請求項9〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
バヨネットフィッティングが、トリガ・スリーブ(12)の内面上の円周方向に配置された少なくとも1つの第3のボス(25)と、対応する個数の、遠位カラー(21)の外面上の円周方向に配置された第4のボス(26)とを含み、初期状態でバヨネットフィッティングが、第3のボス(25)と第4のボス(26)の対応する対を互いに当接するように本質的に整合することによってロック角度位置に設定され、かくして遠位カラー(21)が遠位方向(D)への並進運動を防止し、自動注射器(1)が注射部位から取り外されたときシャシ(2)およびキャリア(7)の近位方向(P)への並進運動時、遠位カラー(21)がスプライン係合によってロック解除角度位置まで回転し、それによって第3のボス(25)と第4のボス(26)の対応する対が、遠位カラー(21)の遠位方向(D)への並進運動を可能にするようにずれることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
スプライン係合が、遠位カラー(21)の内面上のそれぞれの第2の縦溝(28)と係合するキャリア上に少なくとも1つの縦スプライン(27)を含み、第2の縦溝(28)が、遠位カラー(21)をロック角度位置に維持するために初期状態でスプライン(27)の本質的に平行な部分の上に案内され、自動注射器(1)が注射部位から取り外されたときシャシ(2)およびキャリア(7)の近位方向(P)への並進運動時、第2の縦溝(28)は、スプライン(27)に沿って移動し、遠位カラー(21)をロック解除角度位置に回転させるようにスプライン(27)の遠位端近くで親ねじのねじ山(32)に入ることを特徴とする、請求項13または14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに記載の、液体薬剤の用量を投与するための自動注射器、および自動注射器を動作させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
注入物を投与するのは、ユーザおよび医療専門家にとって精神的にも物理的にもいくつかの危険および難問を生じさせる方法である。
【0003】
注射装置(すなわち、薬剤容器から薬剤を送達することができる装置)は通常、手動装置および自動注射器の2つのカテゴリーに分けられる。
【0004】
手動装置では、ユーザは、流体を針の中に通すための機械的エネルギーを与えなければならない。これは通常、注射時にユーザが継続して押さなければならない何らかの形のボタン/プランジャによって行われる。ユーザには、この手法による非常に多くの不都合がある。ユーザがボタン/プランジャを押すことを止めた場合には、注入も止まる。このことは、装置が適正に使用されなかった場合(すなわち、プランジャがその末端位置まで完全に押されない場合)、ユーザが1回分に満たない分量しか送達できないことを意味する。特に患者が高齢である場合、または器用さの問題がある場合に、注入力がユーザにとって大きくなり過ぎることがある。
【0005】
ボタン/プランジャの延長部が長過ぎることがある。したがって、完全に伸張したボタンに届くことがユーザにとって不自由なことがある。注入力とボタン伸張が組み合わさることで手の震え/揺れが引き起こされ、ひいては挿入された針が動くにつれて不快感が増すことがある。
【0006】
自動注射器装置は、注射される治療の自己投与を患者にとってより楽なものにすることを目的とする。自己投与によって送達される現在の治療には、糖尿病(インスリンと、より新しいGLP−1クラス薬物の両方)、片頭痛、ホルモン治療、抗凝固剤の薬物などが含まれる。
【0007】
自動注射器は、標準的なシリンジからの非経口薬物送達に関係する作業に完全に、または部分的に取って代わる装置である。これらの作業には、保護用シリンジ・キャップの取り外し、患者の皮膚への針の挿入、薬剤の注射、針の除去、針の遮蔽、および装置の再使用防止が含まれ得る。この装置により、手動装置の不都合の多くが克服される。注入力/ボタン伸張、手振れ、および1回分に満たない送達の可能性が低減される。トリガは多数の手段(例えばトリガボタン、または針の注射深度に達する動き)によって行うことができる。一部の装置では、流体を送達するエネルギーはばねによって与えられる。
【0008】
特許文献1は、引張ばねが解放されたときに事前に測定された量の流体薬物を自動的に注射する自動注射装置を開示している。この引張ばねは、それが解放されたときにアンプルおよび注射針を格納位置から配置位置まで移動させる。その後アンプルの内容物は、ピストンをアンプルの内部で前方に押しやる引張ばねによって押し出される。流体薬物が注射された後、引張ばねに蓄積されたねじれが解放され、注射針はその元の格納位置まで自動的に後退される。
【0009】
高粘度の薬剤は、それを比較的細い注射針に通して押し出すのに大きい力を必要とする。この力を得るには強い駆動ばねが必要になる。このことにより、針が皮膚に挿入されたときにユーザが強い衝撃を感じることになり、また注射をトリガしたときにユーザが強い力を感じることになり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0095120A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、改善された自動注射器、および自動注射器を動作させる改善された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、請求項1に記載の自動注射器、および請求項9に記載の方法によって達成される。
【0013】
本明細書の文脈では、近位という語は注射時に患者へと向かう方向を表し、遠位という語は、その反対に患者から遠ざかる方向を表す。
【0014】
本発明の好ましい諸実施形態は、従属請求項に示される。
【0015】
本発明によれば、液体薬剤の用量を投与するための自動注射器は:
管状シャシと、
シャシに対して摺動可能に配置され、かつシャシ内に部分的に配置された管状キャリアを含むキャリア・サブアセンブリであって、キャリアが中空注射針付きのシリンジ、駆動ばね、および駆動ばねの荷重をシリンジのストッパに送るためのプランジャを含み、シリンジがキャリアとのジョイント軸方向並進運動のためにロックされる、該キャリア・サブアセンブリと、
自動注射器の遠位端にわたって配置され、自動注射器の少なくともほとんど全長にわたって延びる、巻付けトリガ・スリーブと、
キャリアの周囲に配置された制御ばねと、
キャリアとトリガ・スリーブの相対的軸位置に応じて、キャリアを前進させて針を挿入するためにキャリア、または針を後退させるためにシャシのいずれかに、制御ばねの近位端をカップリングする第1の連動手段と、
針挿入中キャリアが少なくともほとんど注射深度に達したとき、注射のため駆動ばねを解放するように配置された第2の連動手段と、
トリガ・スリーブに対するジョイント軸方向並進運動のためにシャシをキャリアにカップリングするように配置される第3の連動手段が、シャシに対する近位方向のトリガ・スリーブの並進運動時キャリアからシャシをデカップルし、かくして制御ばねを、針を挿入するために解放するように配置される、該第3の連動手段と、
制御ばねの遠位端を、針を後退させるためにキャリア、またはそれ以外ではトリガ・スリーブのいずれかにカップリングするように配置された第4の連動手段とを備える。
【0016】
組み込まれた駆動ばねを有するキャリア・サブアセンブリにより、自動注射器をトリガするとき、または針挿入時に、これらの動作が駆動ばねよりも著しく弱く指定できる制御ばねによって実現または阻まれるので、ユーザへのいかなる衝撃も伴わずに強い駆動ばねを使用することが可能になる。これにより、高粘度の薬剤を送達することができる。
【0017】
針が注射深度に達したときに駆動ばねを解放することにより、いわゆるウェット注射(すなわち針挿入も注射もストッパを押すことによって実現される従来技術の自動注射器の問題である針からの薬剤漏洩)が回避される。
【0018】
本発明による自動注射器は、ほとんどの従来の自動注射器と比較して部品点数が特に少なく、したがって製造コストが低減する。別個の制御ばねおよび流体注射用駆動ばねを用いる構成により、異なる粘度の液体に対しては駆動ばねを変更するだけで、また異なる容量に対してはプランジャの長さを変更するだけで、1つの設計を使用することができる。これは、主ばねが針の挿入および/または後退も作動させる従来技術の設計にまさる利点である。
【0019】
自動注射器が納品されたときの初期状態では、制御ばねの近位端が第1の連動手段によってキャリアに結合され、駆動ばねの解放が第2の連動手段によって防止され、キャリアからのシャシの分離が第3の連動手段によって防止され、かつ制御ばねの遠位端がトリガ・スリーブに結合されている。
【0020】
注射をトリガするには、自動注射器は、例えば患者の皮膚である注射部位に押し付けられなければならない。例えば患者または介護者であるユーザが、その手全体で巻付け形トリガ・スリーブを把持し、近位端から突出しているシャシを注射部位に押し当てる。したがって、自動注射器は、従来技術の自動注射器とは対照的にトリガするのに小さいボタンを単一の指で操作する必要がないので、特に器用さの問題がある人によく適している。単一の指ではなく手全体が用いられる。
【0021】
注射部位に押し当てられると、トリガ・スリーブは、制御ばねの力に抗してシャシに対し近位方向に並進運動する。トリガ・スリーブが少なくともほとんど完全に並進運動されると第3の連動手段が外れ、それによって制御ばねが解放されて、キャリア・サブアセンブリが、針を挿入するために前進する。
【0022】
キャリア・サブアセンブリと共に並進運動された針が少なくともほとんど注射深度に達すると、駆動ばねが第2の連動手段によって解放される。駆動ばねは、少なくとも部分的に薬剤を送達するようにプランジャおよびストッパを近位方向に前進させる。
【0023】
ストッパがシリンジの中で底に達した後に、または注射半ばに自動注射器が注射部位から取り外された場合に、トリガ・スリーブは、制御ばねの負荷の下でのキャリア・サアアセンブリに対し遠位方向に並進運動される。
【0024】
その動きの間にキャリアに対する規定位置にトリガ・スリーブが達すると、制御ばねの近位端はキャリアから分離され、第1の連動手段によってシャシに結合される。さらに、制御ばねの遠位端はトリガ・スリーブから分離され、第4の連動手段によってキャリアに結合される。
【0025】
次に制御ばねがシャシを近位方向に、キャリアを遠位方向に押すと、キャリア・サブアセンブリは、制御ばねによってシャシの中に針安全位置まで後退される。
【0026】
第1の連動手段は、制御ばねの近位端の荷重を伝達するための近位カラーを含み得る。近位カラーは、初期状態でキャリア上のねじ山に係合される。近位カラーは、近位カラーの回転を防止し、近位カラーをねじ山に対し押すことによってキャリアにカップリングするために、初期状態でトリガ・スリーブの第1の縦溝に対してスプライン係合するように配置されたピンを有する。注射部位からの自動注射器の取り外し時に、シャシおよびキャリアのトリガ・スリーブに対する近位方向の並進運動時ピンが第1の縦溝の近位端を越えて、例えば隙間の中に移動し、したがって解放され、そうして近位カラーは回転し、制御ばねの負荷の下でのキャリアに対し並進運動することができる。すなわち近位カラーはキャリアから分離される。制御ばねは、近位カラーを近位方向に、それがシャシに当接するまで並進運動させる。
【0027】
第2の連動手段は、プランジャ上の遠位に配置された2つの弾性アームを含み得る。弾性アームは、駆動ばねの近位端に対するスラスト面を示す。駆動ばねの遠位端は、例えばキャリア端面であるキャリアに抗して作用する。第1のボスが、トリガ・スリーブの遠位トリガ端面から近位方向にキャリアの中に突出する。第1のボスは、初期状態で2つの弾性アームの間に配置され、それによって弾性アームが互いの方に曲がるのを防止する。いくつかの突起が、それぞれ弾性アームの一方を捕捉するために初期状態でキャリア内に、プランジャの近位方向への並進運動を防止するように配置される。針挿入時にキャリアは、トリガ・スリーブに対して近位方向に並進運動される。したがってボスは、針挿入時にキャリアが少なくともほとんど注射深度に達したときに弾性アームの間から取り外され、それによって弾性アームは、駆動ばねの負荷の下で突起との傾斜係合により内側に曲がることができる。それゆえに、プランジャは解放されて、ストッパが前進し薬剤が送達される。
【0028】
本明細書の用語で傾斜係合とは、2つの構成要素の少なくとも一方が、脇へ曲がることが妨げられなければ、これらの構成要素が軸方向に互いに押されたときに脇へ曲げられるようにして他方の構成要素を係合するための傾斜を有する、2つの構成要素の間の係合である。
【0029】
第3の連動手段は、初期状態でシャシをキャリアに固定するためにキャリアのそれぞれの開口に係合されたシャシ上の、少なくとも1つの弾性クリップを含み得る。少なくとも1つの第2のボスが、初期状態で弾性クリップが外側に曲がりシャシからキャリアが係合解除するのを防止するために、弾性クリップを外側で支持するようにトリガ・スリーブ内に配置される。第2のボスは、自動注射器が注射部位に押し当てられたときに、シャシに対するトリガ・スリーブの近位方向への並進運動で弾性クリップの後ろから取り外される。弾性クリップはその後、制御ばねの負荷の下でキャリアとのその傾斜係合により外側に曲げられて、制御ばねが、針を挿入するために解放される。
【0030】
第4の連動手段は、制御ばねの遠位端の荷重を伝達するための遠位カラーを含み得る。遠位カラーとトリガ・スリーブはバヨネットフィッティング(bayonet fitting)によって結合されて、トリガ・スリーブに対する遠位カラーの遠位方向の並進運動が遠位カラーの少なくとも1つのロック角度位置に制限され得る。バヨネットフィッティングの少なくとも1つのロック解除角度位置で、遠位カラーはトリガ・スリーブに対して遠位方向に並進運動することができる。それぞれの角度位置は、遠位カラーのキャリアとのスプライン係合によって決定される。遠位カラーは、初期状態でロック角度位置にあり、スプライン係合によりそこにとどまる。注射部位からの自動注射器の取り外し時にシャシおよびキャリアの近位方向の並進運動により、遠位カラーは、スプライン係合によってロック解除角度位置まで回転され、それによってトリガ・スリーブから分離される。遠位カラーはその後、制御ばねの負荷の下でのトリガ・スリーブに対して遠位方向に、その後に後退のために遠位方向に並進運動されるキャリアの上の外側ショルダに当接する位置まで並進運動される。
【0031】
バヨネットフィッティングは、好ましくはトリガ・スリーブの内面に均一に間隔をおいて配置されたいくつかの第3のボスである、少なくとも1つの円周方向に配置された第3のボスと、対応する個数の、遠位カラーの外面に円周方向に配置された第4のボスとを含み得る。ロック角度位置では、第3のボスと第4のボスの対応する対が互いに当接するように本質的に整合され、それによって遠位カラーの遠位方向への並進運動が防止される。自動注射器の注射部位からの取り外し時にシャシおよびキャリアの近位方向への並進運動により、遠位カラーがスプライン係合によってロック解除角度位置まで回転され、それによって第3のボスと第4のボスの対応する対が、例えば第4のボスの間の間隙を通過する第3のボスによって、また逆も同様にして、遠位カラーの遠位方向の並進運動を可能にするようにずれる。
【0032】
スプライン係合は、遠位カラーの内面上のそれぞれの第2の縦溝と係合するキャリア上に少なくとも1つの縦スプラインを含み得る。スプラインは、遠位カラーをロック角度位置に維持するために実質的に平行であるが、遠位カラーをロック解除角度位置まで回転させるために親ねじのねじ山と共にその遠位端近くで終わる。第2の縦溝は、注射部位から自動注射器を取り外すまで遠位カラーをロック角度位置に維持するために、初期状態でスプラインの実質的に平行な部分の上に案内される。自動注射器が注射部位から取り外されたときのシャシおよびキャリアの近位方向の並進運動により、第2の縦溝がスプラインに沿って移動され、親ねじのねじ山に入って遠位カラーがロック解除角度位置まで回転する。
【0033】
2つの構成要素の間のスプラインまたはねじ山は、スプラインが第1の構成要素の上に、溝が他方の構成要素の上にあるようにも、逆になるようにも配置できることは言うまでもない。
【0034】
例えば自動注射器が使用後に激しく揺さぶられた場合に慣性力を受ける針の安全を確保するために、キャリアが針の安全位置に後退されているときにシャシとキャリアを一緒に固定するための留め金機能をシャシとキャリアの間に設けることができる。
【0035】
戻り止め機構が、針挿入をトリガするトリガ・スリーブに対するシャシの並進運動を阻むために設けられ、それによって二段階薬剤注入機構を形成することができる。
【0036】
自動注射器は好ましくは、皮下注射または筋肉内注射で使用することができ、特に鎮痛剤、抗凝血剤、インスリン、インスリン誘導体、ヘパリン、ラブノックス、ワクチン、成長ホルモン、ペプチドホルモン、タンパク質、抗体、および複合糖質のうちの1つを送達するのに使用することができる。
【0037】
本発明のさらなる適用可能範囲は、以下に示される詳細な説明から明らかになろう。しかし、詳細な説明および具体的な諸例は、本発明の好ましい諸実施形態を表示してはいるが、当業者には本発明の趣旨および範囲内の様々な変更および修正がこの詳細な説明から明らかになるので、単に例示的に示されていることを理解されたい。
【0038】
本発明は、以下に示される詳細な説明および添付の図面からより完全に理解されよう。図面は単に例証として示され、したがって本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1A】シリンジが作動前の初期状態にある自動注射器の図である。
【
図1B】シリンジが作動前の初期状態にある自動注射器の図である。
【
図2A】保護用針遮蔽物が取り除かれ、注射部位に押し当てられている自動注射器の図である。
【
図2B】保護用針遮蔽物が取り除かれ、注射部位に押し当てられている自動注射器の図である。
【
図3A】スリーブトリガボタンが完全に押し込まれている自動注射器の図である。
【
図3B】スリーブトリガボタンが完全に押し込まれている自動注射器の図である。
【
図4A】注射針が注射部位に挿入されている自動注射器の図である。
【
図4B】注射針が注射部位に挿入されている自動注射器の図である。
【
図5A】注射のために駆動ばねが解放されている自動注射器の図である。
【
図5B】注射のために駆動ばねが解放されている自動注射器の図である。
【
図6A】シリンジが空になっている自動注射器の図である。
【
図6B】シリンジが空になっている自動注射器の図である。
【
図7A】注射の終了後に注射部位から取り外された自動注射器の図である。
【
図7B】注射の終了後に注射部位から取り外された自動注射器の図である。
【
図8A】針の安全位置までシリンジおよび針が後退されている自動注射器の図である。
【
図8B】針の安全位置までシリンジおよび針が後退されている自動注射器の図である。
【
図9】制御ばね、近位カラーおよび遠位カラーが
図7のような状態にある自動注射器の詳細図である。
【
図10】制御ばね、近位カラーおよび遠位カラーが
図7のような状態にある自動注射器の別の詳細図である。
【0040】
すべての図で、対応する部分は同じ参照記号による印が付けられている。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、自動注射器1の2つの長手方向断面を異なる切断平面で示し、これら異なる切断平面は互いに約90°回転させてあり、自動注射器1は、注射を開始する前の初期状態にある。自動注射器1はシャシ2を備える。中空注射針4を有する、例えばHypakシリンジであるシリンジ3は、自動注射器1の近位部分に配置される。自動注射器1またはシリンジ3が組み立てられるときに、保護用針遮蔽物5が針4に取り付けられる。ストッパ6が、シリンジ3を末端で封止するために、かつ液体薬剤Mを中空針4に通して移動させるために配置される。シリンジ3は管状キャリア7の中に保持され、その中のその近位端のところで支持される。キャリア7は、摺動可能にシャシ2の中に配置される。
【0042】
圧縮ばねの形状の駆動ばね8が、キャリア7の遠位部分に配置される。プランジャ9は、駆動ばね8の力をストッパ6まで送る働きをする。
【0043】
駆動ばね8は、キャリア7の遠位キャリア端面10と、プランジャ9上の遠位に配置された2つの弾性アーム11のスラスト面との間に装着される。
【0044】
巻付けトリガ・スリーブ12が、自動注射器1の遠位端Dを覆って配置されて、自動注射器1のほとんど全長にわたって延びる。第1のボス13が、トリガ・スリーブ12の遠位トリガ端面14から近位方向Pに2つの弾性アーム11の間に突出し、それによってこれらが互いの方へ曲がることが防止される。外側では弾性アーム11は、キャリア7内のそれぞれの突起15の後ろで、プランジャ9の近位方向Pの並進運動を防止するように捕捉されている。突起15には、弾性アーム11が駆動ばね8の負荷の下での内側に曲がるように遠位に傾斜が付けられているが、初期状態では曲がることが第1のボス13によって防止されている。
【0045】
キャリア7は、自動注射器1の近位端Pの近くでシャシ2に、シャシ2上の2つの弾性クリップ16によって固定され、これらの弾性クリップはキャリア7のそれぞれの開口17に係合されている。初期状態では、弾性クリップ16は、弾性クリップ16が外側に曲がりキャリア7をシャシ2から外すことを防止するために、トリガ・スリーブ12内でそれぞれの第2のボス18によって外側で支持される。
【0046】
別の圧縮ばねの形をした制御ばね19がキャリア7の周囲に配置され、近位カラー20と遠位カラー21の間で作動する。近位カラー20は、キャリア7上のねじ山22の上に装着されるが(
図9参照)、トリガ・スリーブ12内の第1の縦溝24の中に伸びる近位カラー20の外面のピン23によって、トリガ・スリーブ12に対するスプラインもまた付けられる(
図10参照)。したがって、制御ばね19の近位端からの荷重は、初期状態ではキャリア7にまで結合される。遠位カラー21は、バヨネットフィッティングによってトリガ・スリーブ12に結合されるが、キャリア7に対するスプラインもまた付けられ、それによって差込みが外れることが防止される。この差込みは、トリガ・スリーブ12の内面に円周方向に配置されたいくつかの第3のボス25と、一致する個数の、遠位カラー21の外面に円周方向に配置された第4のボス26とを含む。初期状態では、第3のボス25と第4のボス26の対応する対は、互いに接するように実質的に整合され、それによって遠位カラー21が遠位方向Dに並進運動することが防止される(
図10参照)。このスプライン係合は、それぞれが遠位カラー21の内面上のそれぞれの第2の縦溝28と係合する、いくつかの縦スプライン27をキャリア7上に備え(
図9および
図10参照)、それによって遠位カラー21とキャリア7の相対的回転が制限され、したがって差込みが外れることが防止される。
【0047】
トリガ・スリーブ12は、キャリア7に対して近位方向Pに、制御ばね19の力に抗して移動できるようになっている。キャリア7が当初シャシ2に固定されているときに、トリガ・スリーブ12の近位方向Pの並進運動により制御ばね19が圧縮され、近位カラー20は初期状態の位置にとどまり、遠位カラー21はトリガ・スリーブと共に並進運動される。遠位方向Dにおいてシャシ2に対するトリガ・スリーブ12の伸張の程度は、トリガ・スリーブ12の面に接触するシャシ2のショルダで規定することができる(図示せず)。
【0048】
自動注射器1の動作の順序は以下の通りである:
【0049】
保護用針遮蔽物5が近位端Pから取り外される。ここで針4は露出しているが、偶発的に針が突き刺さる傷害からユーザを保護するために、なおシャシ2の内側の安全な距離の後ろにある。キャリア7は、シリンジ3のフィンガ・フランジ30を収容するための保持ポケット29を示す。トリガ・スリーブ12は、長手方向の並進運動を可能にしながらトリガ・スリーブ12とキャリア7の相対的回転を制限するようにして保持ポケット29を収容するための拡張部31を備える。こうして針4の回転が防止される。保護用針遮蔽物5の取り外し時にキャリア7に加わるいかなる軸方向荷重も、弾性クリップ16によってシャシ2に固定されたキャリア7により解消される。シャシ2は、近位方向Pにシャシ2がさらに並進運動することを防止するようにして、止め35のところでトリガ・スリーブ12に接する。保護用針遮蔽物5が取り外されるときにシャシ2に加わる軸方向荷重はこうして、ユーザが保持するトリガ・スリーブ12により解消される。保護用針遮蔽物5の取り外しを容易にすることが、初期状態で近位端Pに配置されるキャップによって可能であり、このキャップは保護用針遮蔽物5と係合している(キャップは図示されていない)。
【0050】
注射をトリガするために、ユーザ、すなわち患者または介護者は、例えば患者の皮膚である注射部位に自動注射器1の近位端Pを置き、トリガ・スリーブ12を注射部位に押し付ける(
図2参照)。シャシ2は、すべての内部部分と共に、トリガ・スリーブ12の中へと遠位方向Dに並進運動する。ユーザは、このシャシ2の並進運動を皮膚接触シュラウド(shroud)の引っ込みとして視覚化する。制御ばね19はこの動きに対抗するが、この動きが自然に感じられるのに十分なだけそのばね定数および事前に加えられる荷重が低くなるように指定されている。この並進運動は完全に可逆性である。すなわちユーザは、自動注射器を注射部位に置き、シャシ2(皮膚接触シュラウド)を押し込んでから、自動注射器1を注射部位から作動させずに取り除くことができ、それによってシャシ2およびトリガ・スリーブ12が、制御ばね19の負荷の下でのその最初の位置に戻ることができる。
【0051】
自動注射器1は、場合により二段階薬剤注入機構を有することができる。この場合、
図2の位置からのさらなる並進運動は、戻り止め機構(図示せず)によって阻止される。
【0052】
そうする用意ができている場合、ユーザは、トリガ・スリーブ12を保持しながら自動注射器の近位端Pを注射部位に引き続き押し付ける。シャシ2は、それに固定されたすべての内部部分と共に、トリガ・スリーブ12に対して遠位方向Dに、キャリア端面10が自動注射器1の遠位端Dにおいてトリガ端面14と接触するまで移動する(
図3参照)。
【0053】
この位置に達する直前に、キャリア7をシャシ2に固定している第2のボス18は、弾性クリップ16がそのキャリア7との傾斜係合により外側に曲がることが可能な位置まで移動しており、キャリア7には、近位カラー20を押す制御ばね19によって近位方向Pにバイアスがかけられている。シャシ2とキャリア7の間の固定がこうして解除される。次に、制御ばね19は、キャリア7をシリンジ3および針4に沿って近位方向Pに強制的に移動させ、それによって針4が注射部位に挿入される(
図4参照)。
【0054】
図5は、注射深度を規定する最大近位位置まで完全に前進させた、キャリア7、シリンジ3および針4を示す。この最大近位位置は、保持ポケット29がシャシ2と接触することによって制限される。この最大近位位置に達する直前に、キャリア7、シリンジ3、針4、駆動ばね8およびプランジャ9は、第1のボス13が弾性アーム11の間から取り外されてプランジャ9が解放されるまで、トリガ・スリーブ12に対して並進運動している。駆動ばね8は、突起15の上の弾性アーム11をこれらの傾斜係合により近位方向Pに押し、プランジャ9は、駆動ばね8の負荷の下での近位方向Pに並進運動を開始する。駆動ばね8は伸張し、プランジャ9はストッパ6に接触し、薬剤Mは針4を通して排出される。
【0055】
このストッパ6の動きは、ストッパ6がシリンジ3の中で底に達するまで続き、それによってシリンジ3は完全に空になる。これが達成されることを確実にするために、ユーザは、注射部位に圧力を短時間、例えば10秒間維持することが求められる(
図6参照)。
【0056】
ユーザが自動注射器1を注射部位から取り外すときに、シャシ2はすべての内部構成要素と共に、トリガ・スリーブ12に固定された遠位カラー21とキャリア7に固定された近位カラー20との間で作用する制御ばね19によって、トリガ・スリーブ12の外へ近位方向Pに伸張する。針4は、この動きの間に注射部位からまだ引き抜かれない。というのは、そうすると薬剤Mの送達中に自動注射器1が、注射部位に対するトリガ・スリーブ12の動きに影響されやすくなり、その結果、注射作業中に注射ユーザが意図せずに自動注射器1をわずかに動かした場合に、針を後退するのが早過ぎることになる可能性が生じるからである。この特徴の結果として、最初の針挿入深度はシャシ2が完全に引っ込むこと(皮膚連動)に依拠しない。すなわち、挿入深度はシャシ2に対して規定される。
【0057】
針4の後退がトリガされる時点は、部品公差を許容し、かつ後退が常に、シャシ2がトリガ・スリーブ12に対して動くのを停止する前に行われることを確実にするために、シャシ2が最初の位置まで完全に伸張する少し前である。しかし、シャシ2を、注射部位から取り外されたときにより近位の位置、またはより近位でない位置を有するように構成することが可能である。
【0058】
シャシ2がこの並進運動時の、行程の端に達する直前に、近位カラー20とトリガ・スリーブ12の間のスプライン機能が、第1の縦溝24を越えて移動する近位カラー20のピン23によって解放される。これにより、近位カラー20は、キャリア7に対してねじ山22上で回転することができる。近位カラー20は、それが回転するときにキャリア7に対して近位方向Pに並進運動し、次に、キャリア7から最終的に分離してシャシ2と接触する(
図7参照)。ここで、制御ばね19の近位端の荷重は、もはやキャリア7には加わらずにシャシ2に加わる。
図9および
図10は、この状況での制御ばね19、近位カラー20、および遠位カラー21を示す。いくつかの構成要素は、相互作用を理解できるようにするために透明部分として点線で描かれている。これらの構成要素は実際には透明でなくてもよいことが理解されなければならない。
【0059】
シャシ2がその最終の近位位置に向けて近位方向Pに移動を続けているときに、トリガ・スリーブ12に対して軸方向に固定された遠位カラー21は、キャリア7上のスプライン27に沿って移動する。ほとんどの部分で長手方向軸と平行であるスプライン27は、親ねじのねじ山32と共に終わる。これにより、遠位カラー21はキャリア7に対して回転することになる。遠位カラー21が回転するときに、トリガ・スリーブ12と結合している差込みが解除される。対応する対をなす第3のボス25と第4のボス26は、第3のボス25が第4のボス26の間の間隙を通過できるように、また逆も同様であるようにずれることになり、それによって遠位カラー21が遠位方向Dに並進運動することが可能になる。遠位カラー21は、キャリア7上の外側ショルダ33と接触し、それによって、制御ばね19の遠位端からの荷重がキャリア7の中に解消される。
【0060】
ここでキャリア7とシャシ2の間で作動して、制御ばね19は、作業時の注射部位から針を抜き取りながらキャリア7をシャシ2の内側に引き込み、それによって注射後の針の安全性が確保される。自動注射器1は、キャリア端面10がトリガ端面14に接するまでキャリア7を後退させるように構成することができる。キャリア7は、それが激しく揺さぶられた場合に慣性力を受けて動くことを防止するために、この点でクリップ(図示せず)によってシャシ2に固定することができる。
【0061】
ユーザが完全にシリンジを空にする前に注射部位から自動注射器1を取り外したとしても、説明したシャシ2の動きは依然として得られる。しかし、その場合にはシリンジ3は、注射部位から取り外した後に完全に空にされる。
【0062】
自動注射器1は、場合により二段階薬剤注入機構を有し得る。この場合、注射をトリガするために、ユーザ、すなわち患者または介護者は、例えば患者の皮膚である注射部位に自動注射器1の近位端Pを置き、トリガ・スリーブ12を注射部位に押し付ける。シャシ2は、すべての内部部分と共に、トリガ・スリーブ12の中へと遠位方向Dに、さらなる並進運動が戻り止め機構(図示せず)によって阻止されるまで並進運動する。ユーザは、このシャシ2の並進運動を皮膚接触シュラウドの引っ込みとして視覚化する。制御ばね19はこの動きに対抗するが、この動きが自然に感じられるのに十分なだけそのばね定数および事前に加えられる荷重が低くなるように指定されている。この並進運動は完全に可逆性である。すなわちユーザは、自動注射器を注射部位に置き、シャシ2(皮膚接触シュラウド)を移動止めの位置まで押し込んでから、自動注射器1を注射部位から作動させずに取り外すことができ、それによってシャシ2およびトリガ・スリーブ12が、制御ばね19の負荷の下でのその最初の位置に戻ることができる。移動止めを除いて、自動注射器1の動作は前に説明したものと同じである。
【0063】
観察ウィンドウ34が開口の形で、シリンジ内容物を調べるためにトリガ・スリーブ12、シャシ2およびキャリア7に配置される。
【符号の説明】
【0064】
1 自動注射器
2 シャシ
3 シリンジ
4 中空注射針
5 保護用針遮蔽物
6 ストッパ
7 キャリア
8 駆動ばね
9 プランジャ
10 キャリア端面
11 弾性アーム
12 トリガ・スリーブ
13 第1のボス
14 トリガ端面
15 突起
16 弾性クリップ
17 開口
18 第2のボス
19 制御ばね
20 近位カラー
21 遠位カラー
22 ねじ山
23 ピン
24 第1の縦溝
25 第3のボス
26 第4のボス
27 スプライン
28 第2の縦溝
29 保持ポケット
30 フィンガ・フランジ
31 拡張部
32 親ねじのねじ山
33 ショルダ
34 観察ウィンドウ
35 止め
D 遠位端、遠位方向
M 薬剤
P 近位端、近位方向