(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940548
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】新規なスピロビフルオレン化合物
(51)【国際特許分類】
C07C 25/22 20060101AFI20160616BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
C07C25/22CSP
C09K11/06 690
【請求項の数】17
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-533115(P2013-533115)
(86)(22)【出願日】2011年10月7日
(65)【公表番号】特表2014-500239(P2014-500239A)
(43)【公表日】2014年1月9日
(86)【国際出願番号】EP2011005013
(87)【国際公開番号】WO2012048819
(87)【国際公開日】20120419
【審査請求日】2014年8月12日
(31)【優先権主張番号】11007866.4
(32)【優先日】2011年9月28日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】10187159.8
(32)【優先日】2010年10月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク・バスコー
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−ピエール・カティナ
【審査官】
伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−511696(JP,A)
【文献】
特開2006−069999(JP,A)
【文献】
特開2010−138088(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/092857(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0176915(US,A1)
【文献】
特開2009−203176(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0044642(US,A1)
【文献】
特開2013−010703(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/015306(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2001/0015614(US,A1)
【文献】
特開2006−089585(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/108579(WO,A1)
【文献】
Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry,2005年,43,pp.2316〜2324
【文献】
Tetrahedron,2006年,62,pp.8077〜8082
【文献】
Macromolecules,2008年,41(11),pp.3801〜3807
【文献】
J.Org.Chem.,2004年,69(6),pp.1762〜1775
【文献】
Adv.Mater.,2004年,16(18),pp.1624〜1629
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
C09K
CAPLUS/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(3)の化合物であって、
【化1】
式中、
M1〜M4は、同一であっても異なっていてもよく、ハロゲン、−CN、−SCN、−OCN、OR
1、SR
2、−B(OR
3)(OR
4)または−O−(SO
2)−R
5を表わし、M1〜M4のうち少なくとも1つがハロゲンであり、
m1、m2、m3およびm4は、同一であっても異なっていてもよく、個々に0または1であり、(m1+m2+m3+m4)の合計が1〜3の整数を表わし、
R
1は、C
1〜C
20アルキル、C
2〜C
20−アルケニル、C
2〜C
20アルキニル、アリールアルキル、アリールもしくはヘテロアリールを表わすか、あるいは、シクロアルキル環、アリール環およびヘテロアリール環から選択される他の環と一緒に縮合環系を形成してもよく、
R
2〜R
5は、同一であっても異なっていてもよく、水素、C
1〜C
20アルキル、C
2〜C
20−アルケニル、C
2〜C
20アルキニル、アリールアルキル、アリールもしくはヘテロアリールを表わすか、あるいは、シクロアルキル、アリールおよびヘテロアリール環から選択される他の環と一緒に縮合環系を形成してもよく、
P1〜P4は、同一であっても異なっていてもよく、水素、C
1〜C
20アルキル、C
2〜C
20−アルケニル、C
2〜C
20アルキニル、アリールアルキル、アリールもしくはヘテロアリールを表わすか、あるいは、シクロアルキル、アリールおよびヘテロアリール環から選択される他の環と一緒に縮合環系を形成してもよく、
X1〜X4は、同一であっても異なっていてもよく、C
1〜C
20アルキル、C
2〜C
20−アルケニル、C
2〜C
20アルキニル、アリールアルキル、アリールもしくはヘテロアリールを表わすか、あるいは、シクロアルキル、アリールおよびヘテロアリール環から選択される他の環と一緒に縮合環系を形成してもよく、
m、n、pおよびqは、同一であっても異なっていてもよく、0〜2の整数である、化合物。
【請求項2】
M1〜M4が水素、ハロゲン、−CN、−OR1、SR2、−B(OR3)(OR4)または−O−(SO2)−R5(式中、R1〜R5は、請求項1に定義した通りである)を表わす、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
M1〜M4の少なくとも1つが、ClもしくはBr、OR1、SR2または−B(OR3)(OR4)(式中、R1〜R4は、請求項1に定義した通りである)である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
式3−1〜3−5:
【化2】
(式中、M1〜M4、P1〜P4、X1〜X4、R
1〜R
5、ならびに、m、n、pおよびqは、請求項1に定義した通りの意味を有する)
を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
M1がハロゲンであり、M1およびM2が、同一であっても異なっていてもよく、それぞれハロゲンである、請求項4に記載の式3−1または3−2の化合物。
【請求項6】
M1〜M4が、同一であっても異なっていてもよく、ハロゲン、−CN、−SCN、−OCN、OR1、SR2、−B(OR3)(OR4)または−O−(SO2)−R5からなる群から選択される、請求項4に記載の式3−3〜3−5の化合物。
【請求項7】
M1またはM2のうちの1つが、−CN、−SCN、−OCN、OR1、SR2、−B(OR3)(OR4)または−O−(SO2)−R5からなる群から選択される、請求項4に記載の式3−2の化合物。
【請求項8】
P1〜P4が、水素、C1〜C20アルキル、C2〜C20−アルケニル、C2〜C20アルキニル、アリールアルキル、アリールまたはヘテロアリールである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
式3−7または3−8:
【化3】
(式中、P1〜P4、X1〜X4ならびにm、n、pおよびqは、請求項1に定義した通りである)
を有する、請求項
1に記載の化合物。
【請求項10】
3−ブロモ−9,9’−スピロビフルオレニルおよび3,6−ジブロモ−9,9’−スピロビフルオレニルからなる群から選択される化合物。
【請求項11】
3,3’−ジブロモ−SBF、3−クロロ−SBF、3,6−ジクロロ−SBF、3,3’−ジクロロ−SBF、3’,6−ジブロモ−SBF、3’,6’−ジブロモ−SBF、3’,6−ジクロロ−SBF、又は3’,6’−ジクロロ−SBF(これらはいずれも、請求項1に定義した置換基P1〜P4の1つ以上および/または置換基X1〜X4の1つ以上によって置換されていてよく、SBFは、9,9’−(9H)−スピロビフルオレニル基を意味する)からなる群から選択される、請求項1〜4および6〜9のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項12】
有機エレクトロニクス分野において使用するために適した材料の製造のための、請求項1〜11のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項13】
燐光エミッタ用または電子輸送材料用もしくは電子ブロッキング材料用の新規なホストの合成のため、または正孔輸送材料もしくは正孔ブロッキング材料の製造のための、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
配位子、およびこの配位子を含む、有機電子デバイスにおいて有用な遷移金属錯体を製造するための、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
M1〜M4の少なくとも1つがClまたはBrである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項16】
P1〜P4が、水素、C1〜C20アルキル、アリールアルキル、及びアリールからなる群から選択される、請求項1〜11及び15のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項17】
X1〜X4が、C1〜C20アルキル、アリールアルキル、及びアリールからなる群から選択される、請求項1〜11、15、及び16のいずれか一項に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロニクスの分野に適用するための材料の製造に適した新規なスピロビフルオレン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクスの分野に適用するための低分子量有機材料の開発において最適化しなければならない重要な特徴は、形態学的に安定な非晶質薄膜を形成する能力である。実際に、デバイスの動作中に受ける熱応力により、準安定な非晶質薄膜の、熱力学的に安定な多結晶状態への相転移がもたらされ得る。微結晶間の粒界が電荷のトラップとして作用するので、結晶化は有機エレクトロニクスデバイスの性能の急速な劣化を引き起こす。さらに、電極と有機薄膜との間の接触が減少する。
【0003】
低分子量材料の形態学的安定性の改善のための非常に有望な概念はスピロ概念である。この概念は、共通のsp3−混成化原子によって、同等のまたは異なった機能(発光、電荷輸送)を有する2つの分子のπ系をつなぐ発想に基いている。
【0004】
9,9’(9H)スピロビフルオレン(I):
【化1】
は、有機エレクトロニクスの分野に適用するために現在使用されている置換スピロビフルオレン化合物の群の出発原料である。
【0005】
2、2’、7または7’位の少なくとも1つにおいて、脱離基によって、すなわち、置換されて他の分子を合成し得る置換基によって置換されたスピロビフルオレンが先行技術において記載されている。
【化2】
【0006】
全てのパラ位において完全に対称的に置換されるこのタイプの化合物は通常、スピロビフルオレンそれ自体から得られる。2位および7位の置換基が同一であるが2’位および7’位の置換基と異なっている水平非対称スピロ化合物は、それらの合成のためにより複雑な戦略を必要とする。一方、2位および2’位の置換基が同一であるが7位および7’位の置換基と異なっている垂直非対称スピロビフルオレンは、2位および2’位に入る最初の2つの基が7位および7’位の置換を制御して全ての4位の置換が同時に生じるのを防ぐ場合、スピロビフルオレンの直接置換によって得られる。
【0007】
(非特許文献1)には、パラ置換基を有するスピロビフルオレン誘導体の製造のための多数の可能な合成経路が開示されているが、メタ位3、3’、6または6’に置換基を有するスピロビフルオレン誘導体に関しては全く言及がない。
【0008】
(特許文献1)には、3,6および3,6’ジヒドロキシ−スピロビフルオレンが開示されている。3,6二置換化合物は、出発原料としてのフルオレノンおよび3,3’.ジヒドロキシビフェニルから合成されており、非対称スピロビフルオレン誘導体の合成は開示されていない。多数のさらなる置換スピロビフルオレンがこの文献に開示されており、それらの全てが反応性基をパラ位の少なくとも2つに含有し、それを介して分子がポリマー鎖に反復単位として組み込まれている。
【0009】
(特許文献2)には、反応性置換基を環系のパラ位に持つ置換スピロビフルオレンが開示されている。
【0010】
(非特許文献2)によれば、パラ置換されたスピロビフルオレン誘導体の4つのフェニル単位のπ系の非局在化は弱い三重項準位(2,39eV)をもたらすが、メタ置換された誘導体においてこのような非局在化に達し得ないことにより、三重項準位が大きくなる(2,76eV)ことが期待されるはずであり、そのエネルギー準位は、好ましくは青色燐光エミッターに使用されるのに適すると思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006/089585号公報
【特許文献2】国際公開第02/77060号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Salbeckら著、Adv.Pol.Sci.(2006年),199:83〜142
【非特許文献2】Nijegorodovら著、Spectrochimica Acta Part A 56、783〜795(2000年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、有機エレクトロニクス分野において有用なメタ置換されたスピロビフルオレン材料の製造に適した前駆物質を提供することが本発明の目的である。
【0014】
この目的は、請求項1に記載の化合物によって達成された。好ましい実施形態を、従属クレームおよび以下の詳細な説明において説明する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明による化合物は、一般式(3)(式(3)の環系は以下にSBFと称される)または(4)(式(4)の環系は以下に開放SBFと称する)を特徴とする。
【化3】
式中、
M1〜M4が、同一であっても異なっていてもよく、ハロゲン、−CN、−SCN、−OCN、OR
1、SR
2、−B(OR
3)(OR
4)または−O−(SO
2)−R
5を表わし、m1、m2、m3およびm4が、同一であっても異なっていてもよく、個々に0または1であり、(m1+m2+m3+m4)の合計が1〜3の整数を表わし、
R
1がC
1〜C
20アルキル、C
2〜C
20−アルケニル、C
2〜C
20アルキニル、アリールアルキル、アリールもしくはヘテロアリールを表わすかまたはシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリール環から選択される他の環と一緒に
縮合環系を形成してもよく、
R
2〜R
5が、同一であっても異なっていてもよく、水素、C
1〜C
20アルキル、C
2〜C
20−アルケニル、C
2〜C
20アルキニル、アリールアルキル、アリールもしくはヘテロアリールを表わすかまたはシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリール環から選択される他の環と一緒に
縮合環系を形成してもよく、
P1〜P4が、同一であっても異なっていてもよく、水素、C
1〜C
20アルキル、C
2〜C
20−アルケニル、C
2〜C
20アルキニル、アリールアルキル、アリールもしくはヘテロアリールを表わすかまたはシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリール環から選択される他の環と一緒に
縮合環系を形成してもよく、
X1〜X4が、同一であっても異なっていてもよく、C
1〜C
20アルキル、C
2〜C
20−アルケニル、C
2〜C
20アルキニル、アリールアルキル、アリールもしくはヘテロアリールを表わすかまたはシクロアルキル、アリールおよびヘテロアリール環から選択される他の環と一緒に
縮合環系を形成してもよく、
m、n、pおよびqが、同一であっても異なっていてもよく、0〜2の整数である。
【0016】
式(3)または(4)の好ましい化合物は、M1〜M4がハロゲン、好ましくはF、Cl、BrもしくはI、−CN、−OR
1、SR
2、−B(OR
3)(OR
4)または−O−(SO
2)−R
5を表わす化合物である。
【0017】
特に好ましいのは、M1〜M4の少なくとも1つがClもしくはBr、OR
1、SR
2または−B(OR
3)(OR
4)である化合物である。本発明による好ましい化合物の別の群は、メタ位に、すなわち3,6、3’,6’、3,6’または3’,6位に少なくとも2つの置換基M1〜M4を含む。3’,6または3,6’位の置換が特に好ましい。
【0018】
本発明による好ましい化合物の別の群は、3つの置換基M1〜M4を含む。
【発明を実施するための形態】
【0019】
前述の好ましい化合物は、以下の式3−1〜3−5によって特徴付けることができ、それらの内、3−1および3−3〜3−5が特に好ましい。
【化4】
【0020】
本発明による化合物のさらなる特に好ましい群は式3−1または3−2の化合物であり、式中、それぞれ、M1、M1およびM2が、ハロゲン、好ましくは塩素または臭素である。
【0021】
化合物の別の特に好ましい群は、式3−1〜3−5によって表わされ、式中、M1〜M4が、同一であっても異なっていてもよく、−CN、−SCN、−OCN、OR
1、SR
2、−B(OR
3)(OR
4)または−O−(SO
2)−R
5である。
【0022】
本発明による化合物のさらに別の好ましい群は式3−3〜3−5を特徴とし、式中、M1〜M4が、同一であっても異なっていてもよく、ハロゲン、−CN、−SCN、−OCN、OR
1、SR
2、−B(OR
3R
4)または−O−(SO
2)−R
5である。
【0023】
本発明による好ましい化合物の別の群は式3−2によって表わされ、式中、M1またはM2の少なくとも1つが、−CN、−SCN、−OCN、OR
1、SR
2、−B(OR
3)(OR
4)または−O−(SO
2)−R
5からなる群から選択される。
【0024】
式3−7または3−8の化合物(式中、P1〜P4、X1〜X4ならびにm、n、pおよびqは請求項1に定義される通りである)、
【化5】
特に、3−ブロモ−SBFおよび3,6−ジブロモ−SBFを、本発明による化合物のさらなる好ましい群として挙げることができる。
【0025】
SBFの代わりに開放SBFを有する各化合物は、好ましい化合物の別の群を表わし、これらを以下に4−1〜4−5と称する。
【0026】
P1〜P4は上述の群のいずれかから広範囲に選択することができ、それらは、有機エレクトロニクス分野において使用するために適した材料の製造において使用される反応条件下で置換基が実質的に不活性である(すなわち、それらはこれらの反応において変化しないままである)という一般的な特徴を共有する。好ましい置換基P1〜P4は、水素、C
1〜C
20アルキル、C
2〜C
20−アルケニル、C
2〜C
20アルキニル、アリールアルキル、アリールまたはヘテロアリールである。特に好ましくは、P1〜P4は、水素、C
1〜C
8アルキル、C
2〜C
8−アルケニル、C
2〜C
8アルキニルまたはアリールを表わす。
【0027】
置換基X1〜X4はいかなる制限も受けず、したがって、上に定義される群から広範囲に選択されてもよい。
【0028】
3,3’−ジブロモ−SBF、3−クロロ−SBF、3,6−ジクロロ−SBF、3,3’−ジクロロ−SBF、3’,6−ジブロモ−SBF、3’,6’−ジブロモ−SBF、3’,6−ジクロロ−SBF、3’,6’−ジクロロ−SBF、3−アルコキシ−SBF、3,3’−ジアルコキシ−SBF、3,6’−ジアルコキシ−SBF、3’,6’−ジアルコキシ−SBF、好ましくはそれぞれのジメトキシ、ジエトキシまたはジプロピルオキシ化合物、3−シアノ−SBF、3,3’−ジシアノ−SBF、3,6’−ジシアノ−SBF、3’,6’−ジシアノ−SBF、3−ボロン酸エステル−SBFまたは3,6−ジ−ボロン酸エステル−SBF(それらの全てが上に定義される1つ以上の置換基P1〜P4および/または置換基X1〜X4の1つ以上によって置換されていもよい)が、本発明による化合物の特定に好ましいさらなる群として挙げられてもよい。
【0029】
2つまたは3つの同一の置換基M1〜M4を有する代わりに、本発明による好ましい化合物の別の群は、好ましくは上に定義される群から選択される、特に好ましくはF、Cl、BrもしくはI、−CN、−OR
1、SR
2または−B(OR
3)(OR
4)から選択される少なくとも2つの異なった置換基M1〜M4を有し、それら化合物の全てが上に定義される1つ以上の置換基P1〜P4および/または置換基X1〜X4の1つ以上によって置換されていてもよい。3−ブロモ−3’−クロロ−SBF誘導体を本発明による化合物のこのさらなる好ましい群の例として挙げることができる。
【0030】
前述の好ましい全ての化合物群において、SBFを開放SBFと置き換えてそれぞれの開放SBF化合物としてもよい。
【0031】
本発明による化合物は、様々なプロセス経路によって合成することができ、当業者は具体的な必要に応じてそれらを選択する。一般に、本発明による化合物は、置換基をSBFまたは開放SBFの核に直接に導入することによって容易に得ることができない。これは、これらの経路は一般に、それらの比較的高い反応性のためにパラ置換された生成物を生じるためである。したがって、置換基Mは、適した前駆物質、例えば3つだけ例を挙げるとフルオレン誘導体、ベンゾフェノン誘導体またはビフェニル誘導体を介して導入しなければならず、それらをその後反応させてSBFまたは開放SBF構造を得る。
【0032】
したがって、式3−1の化合物を、例えば、式:
【化6】
のフルオレノン誘導体と、適切なビフェニル化合物とから得ることができる。
【0033】
式3−2〜3−5の化合物に至る別の方法は、式3−4の化合物を調合するための以下の反応スキームに基本的に示されるように、置換されたベンゼン化合物と適切なボロン酸誘導体とを反応させて、所望の化合物を得る方法である。
【化7】
【0034】
この方法により、式3−4の化合物だけでなく、式3−3および3−5および4−2〜4−5の化合物が導かれる。
【0035】
当業者は、このような反応の一般的な知識に基いて、具体的な合成のために適した反応条件および反応体を選択する。
【0036】
別の可能な合成経路を、一般的に以下のように説明することができる。
【化8】
【0037】
再び、当業者は、所期の個々の合成に基いて、適切な反応体および反応条件を選択する。2つ以上の置換基Mを有するそれぞれの化合物が、反応体の適切な変更によって得られることは明らかである。
【0038】
本発明の化合物の合成のさらに別の可能性は、(非置換SBF系および式3−2について示した)一般反応スキーム:
【化9】
による、フルオレノンと適切なビフェニル化合物との反応である。これはM1=M2=OHについて特開2006/089585号公報により詳細に説明されており、本発明による他の置換基M1〜M4に適用し得る。
【0039】
本発明による化合物の製造のために適した方法に関する更なる詳細を、以下の実施例に示す。
【0040】
本発明による化合物は、OLEDまたはOFET等の有機電子装置の新規な材料のための中間体として有用である。それらは、燐光エミッタ用または電子輸送もしくは電子ブロッキング材料用の新規なホストの合成ならびに正孔輸送もしくは正孔ブロッキング材料の製造のために使用され得る。
【0041】
推論として、本発明の化合物を使用して合成され得る例示的な化合物は例えば、2つだけ例を挙げると、
【化10】
である。
【0042】
出発原料として本発明による適切な化合物を選択することによって、類似の化合物を合成できることは当業者に明らかである。
【0043】
配位子、およびこのような配位子を含む、有機電子デバイスにおいて有用である遷移金属錯体の製造において、さらなる使用が考えられる。
【0044】
SBFまたは開放SBF単位内のフェニル環に連結する結合に対してメタ位にあるその脱離基に起因して、本発明による化合物は、好ましくは青色または近青色領域にある興味深い発光スペクトルを有する配位子および錯体を可能にするが、それはパラ置換された配位子および遷移金属錯体を含む化合物からは同程度に容易には得られない。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
[3−ブロモ−SBFの合成]
[ステップ1:3−ブロモフルオレノンの合成]
【化11】
三方フラスコ内で60mlの水を8.9mlの塩酸(HCl、37%w/w、2.1モル当量)に添加し、媒体を0℃に冷却した。50mlの水に溶解させたNaNO
2(1.5モル当量)を0℃において滴下により添加した。添加の終了時に、アセトン/水(400/230ml)の混合液に可溶化させた4−アミノ−2−ブロモベンゾフェノン(1当量、15.0g、51.6ミリモル)を注意深く添加した。室温において30分後に、混合物を昇温して3時間の間60℃に保持した。
【0046】
塩化メチレンによる抽出および有機相の蒸発後に、褐色固体(17.4g)を回収し、フラッシュクロマトグラフィーを行った。ヘキサンによる結晶化後に高純度化合物が得られた(4.2g、32%の収量)。
【0047】
[ステップ2:3−ブロモ−SBF]
【化12】
この化合物をステップ1で得られた3−ブロモフルオレノンから2ステップで製造した。最初に、2−ブロモビフェニル(1.05当量、4.0g、16.5ミリモル)を102mlの無水ジエチルエーテルに溶解(可溶化)させる。この溶液を−60℃に冷却し、n−BuLi(1.16当量)を滴下により添加する。この温度において10分後、白色沈殿物が生じ、それは媒体が室温に昇温される間、再び溶解された。次に3−ブロモフルオレノンを添加し、反応混合物を一晩45℃に保持した。
【0048】
NH
4Cl(5%水溶液、260ml)の添加およびジエチルエーテルによる抽出後、7.0gのアルコールが得られた。この固体を141mlの酢酸に可溶化し、78mlのHCl/ジオキサン(10%モル、20当量)の添加によって加水分解させた。溶剤の蒸発後に、固体が順相フラッシュクロマトグラフィーに供され、5.86gの目標化合物をもたらした(94%の収量)。
【0049】
[実施例2:3−クロロ−SBF]
[ステップ1:1−ブロモ−7−クロロ−ビフェニル]
【化13】
窒素雰囲気下の50mlの丸底フラスコに、順次に、Pd(OAc)
2(1.07g、0.0047モル)、PPh
3(5,0g、0.0032モル)およびジオキサン(35ml)を入れた。ジオキサン(150ml)中の1−クロロ−3−ヨードベンゼン(13.6g、0.056モル)、2Nの炭酸ナトリウム水溶液(180ml)および2−ブロモフェニルボロン酸(12.3g、0.059モル)で既に満たされた500mlの丸底フラスコに、この混合物を添加した。この混合物をN
2下で還流させながら1.5時間の間加熱し、室温に冷却した。反応媒体を、水と酢酸エチルとの間で分配させた。合わせた有機層を塩水で洗浄し、MgS0
4で乾燥させ、濃縮した。残留物をカラムクロマトグラフィー(CH
2Cl
2/ヘキサン)によって精製して、76.6%の収量で所望の生成物を得た。
【0050】
[ステップ2:3−クロロ−SBF]
【化14】
−78℃に冷却された無水THF(100ml)中の1−ブロモ−7−クロロ−ビフェニル(10g、0.037モル)の溶液に、ヘキサン(0.037モル、23.2ml)中の1.6Mのn−BuLiの溶液を滴下により添加した。反応混合物を−78℃において1時間の間撹拌し、無水THF(25ml)中のフルオレノン(0.031モル、5.58g)の溶液を滴下により添加した。添加後に、混合物を室温に昇温させ、2時間の間撹拌した。混合物を、飽和NH
4Cl(200ml)でクエンチし、酢酸エチル(3×125ml)で抽出した。合わせた有機層を塩水で洗浄し、Na
2SO4(またはMgSO
4)で乾燥させ、真空中で濃縮した。残留物をフラッシュクロマトグラフィーによって精製して、約20%の収量で目標化合物を得た。
【0051】
1−ブロモ−7−クロロ−ビフェニルを使用して類似した方法で3,3’−ジクロロ−SBFおよび3−ブロモ−3’−クロロ−SBFを調製することができた。
【0052】
また、実施例2において説明した実験条件を、他のSBF−誘導体の合成のために使用することもできた。
【0053】
すなわち、以下の反応スキームによって1−ブロモ−7−クロロ−ビフェニルを3’−ブロモ−フルオレノンと反応させることによって、3−ブロモ−3’−クロロ−SBFを得ることができた。
【化15】
【0054】
[実施例3:3,6−ジブロモ−SBF]
以下の反応スキームにより、Yong Caoら著、Adv.Mater.2008,20,2359〜2364の方法に従って、3,6−ジブロモ−フルオレノンを合成した。
【化16】
【0055】
実施例1のステップ2に示した条件下で、3,6−ジブロモ−フルオレノンを2−ブロモビフェニルと反応させて、48%の収率で目標化合物3.6−ジブロモ−SBFを得た。
【0056】
実施例4:3,6−ジブロモ−3’−クロロ−SBF
実施例2に従う条件下でフルオレノンの代わりに3,6−ジブロモ−フルオレノンを使用することによって、3,6−ジブロモ−3’−クロロ−SBFを得ることができる。
【0057】
前述の実施例は、本発明による化合物の例示的な合成方法を提供する。説明した手順または反応体を変更することによって本発明による他の化合物を得ることができることは当業者には明らかである。