特許第5940561号(P5940561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5940561-圧電デバイス 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940561
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】圧電デバイス
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/493 20060101AFI20160616BHJP
   C04B 35/00 20060101ALI20160616BHJP
   H01L 41/43 20130101ALI20160616BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20160616BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   C04B35/49 S
   C04B35/00 J
   H01L41/43
   H01L41/187
   H01L41/09
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-550192(P2013-550192)
(86)(22)【出願日】2012年11月27日
(86)【国際出願番号】JP2012080545
(87)【国際公開番号】WO2013094368
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2014年4月16日
(31)【優先権主張番号】特願2011-278228(P2011-278228)
(32)【優先日】2011年12月20日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(72)【発明者】
【氏名】池見 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】土信田 豊
【審査官】 國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−238248(JP,A)
【文献】 特開2008−050206(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/128647(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/493
C04B 35/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電磁器層と、該圧電磁器層を挟持する導体層とを備える圧電デバイスであって、
前記圧電磁器層は、チタン酸ジルコン酸塩系ペロブスカイト組成物の焼結体中の空隙にAgが偏析していることを特徴とする
圧電デバイス。
【請求項2】
前記ペロブスカイト組成物の焼結体中の空隙に偏析している前記Agの粒子径について、d80%径が0.1〜3μmである
請求項1に記載の圧電デバイス。
【請求項3】
前記チタン酸ジルコン酸塩系ペロブスカイト組成物が下式(1)で表され、
g成分の含有量は、酸化物換算で、前記チタン酸ジルコン酸塩系ペロブスカイト組成物100質量部に対し0.05〜0.3質量部である
請求項1又は2に記載の圧電デバイス。
(Pb・Re){Zr・Ti・(Ni1/3Nb2/3・(Zn1/3Nb2/3}O ・・・(1)
式中、Reは、La及び/又はNdであり、a〜e、xは次の要件を満たす。
0.95≦a≦1.05
0≦x≦0.05
0.35≦b≦0.45
0.35≦c≦0.45
0<d≦0.10
0.07≦e≦0.20
b+c+d+e=1
【請求項4】
前記導体層が、Ag、Pd、Pt、Ni、Cuもしくはそれらの少なくとも一つを含む合金で形成されている
請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に高温環境下での使用に好適な音響素子、圧電アクチュエータ等の圧電デバイス及びそれに用いられる圧電磁器組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
音響素子、圧電アクチュエータ等の圧電デバイスの電気機械変換材料として、圧電磁器組成物が使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Pb1−(3/2)a{(Ni1/3Nb2/31−b(Zn1/3Nb2/3TiZr[ただし、MはLa及びNdからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、x+y+z=1,a=0.005〜0.03、b=0.5〜0.95、x=0.1〜0.4、y=0.3〜0.5、z=0.2〜0.5]で表されるペロブスカイト型固溶体に対し、MnOを0.3〜1.0重量%含有せしめてなる強誘電性セラミックスが開示されている。
【0004】
近年、圧電デバイスの性能の向上、低電圧駆動化などから、積層構造が進められている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の強誘電性セラミックスは、焼結温度が1130〜1300℃と高いので、焼結のための熱エネルギーが大量に必要であった。更には、強誘電性セラミックスと同時焼成する内部電極の材料として、PtやPd含有率の多いAg合金を使用しなければならず、圧電デバイスがコスト高になるという問題があった。
【0006】
そこで、圧電デバイスの低コスト化のために、低温焼成可能な圧電磁器組成物の開発がなされている。
【0007】
特許文献2には、Pb{Zr・Ti・(Ni1/3Nb2/3・(Zn1/3Nb2/3}O[ただし、b+c+d+e=1、1.000≦a≦1.020、0.26≦b≦0.31、0.34≦c≦0.40、0.10≦d≦0.35、0.07≦e≦0.14]で表わされるペロブスカイト組成物と、該ペロブスカイト組成物中に含まれるAgOとからなり、AgOが0.005〜0.03wt%の割合で含まれている圧電磁器組成物が開示されており、900℃程度で焼成が可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−215359号公報
【特許文献2】特許第4202657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2の圧電磁器組成物を用いた圧電デバイスは、抗電界が低く、高温下での使用には適用し難いものであった。また、誘電率εが高く、圧電デバイスの消費電力が増加する問題があった。
【0010】
よって、本発明の目的は、高温環境下での使用に好適な圧電デバイス及び圧電磁器組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の圧電デバイスは、ペロブスカイト組成物と、Ag成分とを含有する圧電磁器組成物を焼成して得られる圧電磁器層と、該圧電磁器層を挟持する導体層とを備える圧電デバイスであって、前記圧電磁器層は、前記ペロブスカイト組成物の焼結体中の空隙にAgが偏析していることを特徴とする。
【0012】
前記ペロブスカイト組成物は、チタン酸ジルコン酸塩系ペロブスカイト組成物及び/又はアルカリ含有ニオブ酸塩系ペロブスカイト組成物を含むものであることが好ましい。
【0013】
本発明の圧電デバイスは、前記ペロブスカイト組成物の焼結体中の空隙に偏析している前記Agの粒子径について、d80%径が0.1〜3μmであることが好ましい。
【0014】
本発明の圧電デバイスの前記圧電磁器組成物は、下式(1)で表わされるチタン酸ジルコン酸塩系ペロブスカイト組成物と、Ag成分とを含有し、前記Ag成分は、酸化物換算で、前記チタン酸ジルコン酸塩系ペロブスカイト組成物100質量部に対し0.05〜0.3質量部含有することが好ましい。
(Pb・Re){Zr・Ti・(Ni1/3Nb2/3・(Zn1/3Nb2/3}O ・・・(1)
式中、Reは、La及び/又はNdであり、a〜e、xは次の要件を満たす。
0.95≦a≦1.05
0≦x≦0.05
0.35≦b≦0.45
0.35≦c≦0.45
0<d≦0.10
0.07≦e≦0.20
b+c+d+e=1
【0015】
本発明の圧電デバイスの前記ペロブスカイト組成物は、下式(2)で表わされるアルカリ含有ニオブ酸塩系ペロブスカイト組成物であり、
前記圧電磁器層は、前記ペロブスカイト組成物の焼結体からなる結晶粒子の粒界ないしは粒界三重点に、SiおよびKを含有する結晶ないしは非結晶質が存在していることが好ましい。
(LiNa1−l−m(Nb1−oTa)O ・・・(2)
式中、l〜oは、次の要件を満たす。
0.04<l≦0.1
0≦m≦1
0.95≦n≦1.05
0≦o≦1
【0016】
本発明の圧電デバイスは、前記導体層が、Ag、Pd、Pt、Ni、Cuもしくはそれらの少なくとも一つを含む合金で形成されていることが好ましい。
【0017】
また、本発明の圧電磁器組成物は、下式(1)で表わされるチタン酸ジルコン酸塩系ペロブスカイト組成物と、Ag成分とを含有し、前記Ag成分は、酸化物換算で、前記チタン酸ジルコン酸塩系ペロブスカイト組成物100質量部に対し0.05〜0.3質量部含有することを特徴とする。
(Pb・Re){Zr・Ti・(Ni1/3Nb2/3・(Zn1/3Nb2/3}O ・・・(1)
式中、Reは、La及び/又はNdであり、a〜e、xは次の要件を満たす。
0.95≦a≦1.05
0≦x≦0.05
0.35≦b≦0.45
0.35≦c≦0.45
0<d≦0.10
0.07≦e≦0.20
b+c+d+e=1
【0018】
本発明の圧電磁器組成物は、前記Ag成分の最大粒子径が3μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の圧電デバイスによれば、圧電磁器組成物がペロブスカイト組成物とAg成分とを含有するので、圧電磁器組成物の焼成温度が低く、導体層として、Agや、Ag含有量の高いAg合金を使用することができる。そして、圧電磁器層が、ペロブスカイト組成物の焼結体中の空隙にAgが偏析していることにより、抗電界を高めることができ、高温環境下での使用に好適な圧電デバイスとすることができる。更には、導体層としてAgやAg合金を使用した場合であっても、圧電磁器層に導体層のAgが拡散して導体層が欠乏することを防止でき、特性の低下を抑制できる。
【0020】
また、ペロブスカイト組成物の焼結体中の空隙に偏析しているAgの粒子径のd80%径が0.1〜3μmであれば、圧電特性の良い圧電デバイスとすることができる。
【0021】
また、上式(1)で表わされるチタン酸ジルコン酸塩系ペロブスカイト組成物と、Ag成分とを含有し、Ag成分が、酸化物換算で、ペロブスカイト組成物100質量部に対し0.05〜0.3質量部含有する圧電磁器組成物は、キュリー温度Tcが高く、抗電界が高く、誘電率εが低い圧電磁器層を形成でき、更には、900℃以下での低温焼成が可能で、Agや、Ag含有量の低いAg合金を導体金属材料として用いることができる。このため、消費電力が低く、高温環境下での使用により好適な圧電デバイスを低コストで製造できる。
【0022】
また、上式(2)で表わされるアルカリ含有ニオブ酸塩系ペロブスカイト組成物の焼結体からなる結晶粒子の粒界ないしは粒界三重点に、SiおよびKを含有する結晶ないしは非結晶質が存在している圧電磁器層は、消費電力が低く、高温環境下での使用に好適な圧電デバイスとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の圧電デバイスにおける断面図の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の圧電デバイスは、図1に示すように、ペロブスカイト組成物の焼結体中の空隙にAgが偏析している圧電磁器層と、該圧電磁器層を挟持する導体層とを備える。
【0025】
ペロブスカイト組成物の焼結体中の空隙にAgを偏析させることで、焼結中に、Agが酸素の供給源となり、又、液相の生成温度を下げる効果がある。これにより、素体の酸素、Pbの欠陥を抑制し、材料の熱力学的な安定性が増し、それにより、抗電界を高める事ができ、高温環境下での使用に好適な圧電デバイスとすることができる。更には、導体層としてAgやAg合金を使用した場合であっても、ペロブスカイト組成物の焼結体中の空隙にAgを偏析させることにより、導体層のAgが圧電磁器層に拡散して導体層が欠乏することを防止でき、特性の低下を抑制できる。
【0026】
なお、ペロブスカイト組成物の焼結体中の空隙にAgが偏析しているかどうかは、TEM(透過型電子顕微鏡)、SEM(走査型電子顕微鏡)で観察でき、その寸法分布を計測することで定量化できる。また、偏析しているAgが、酸化物でなく、金属Agであるかどうかは、特性X線による組成分析により確認できる。
【0027】
本発明において、圧電磁器層は、ペロブスカイト組成物の焼結体中の空隙に偏析している前記Agの粒子径のd80%径は、0.1〜3μmが好ましい。偏析しているAgの粒子径が上記範囲であれば、圧電デバイスの圧電特性を良好にできる。d80%径が3μmを超えると、そこが起点となりブレイクダウン電圧が下がる傾向にあり、また、圧電磁器層の層間のAg粒子数が少なくなるので、耐圧寿命特性が低下する傾向にある。また、0.1μm未満であると、焼結体にAgが均一に拡散しているような状態となり、圧電特性等が劣化する傾向にある。
【0028】
なお、本発明において、偏析しているAgはTEM画像により観察した。そして、Agの粒子径は、TEM画像から無作為に選んだ200個のAg粒子の粒子径を画像の二値化及びAgと判定される部分の長さを測定して求め、それから体積径累積を求め、d80%径を求めること事による。
【0029】
圧電磁器層を形成するために用いる圧電磁器組成物は、ペロブスカイト組成物と、Ag成分とを含有するものを用いる。
【0030】
ペロブスカイト組成物は、チタン酸ジルコン酸塩系ペロブスカイト組成物及び/又はアルカリ含有ニオブ酸塩系ペロブスカイト組成物が好ましい。
【0031】
チタン酸ジルコン酸塩系ペロブスカイト組成物としては、下式(1)で表わされる組成からなるものが好ましく用いられる。
【0032】
(Pb・Re){Zr・Ti・(Ni1/3Nb2/3・(Zn1/3Nb2/3}O ・・・(1)
【0033】
式(1)において、Reは、La及び/又はNdである。
【0034】
式(1)において、aは、0.95≦a≦1.05であり、1.00≦a≦1.02が好ましい。a<0.95であると、優れた圧電特性は得られるものの、Agを添加しても低温焼結が不可能となり、a>1.05であると、Pb2次相が大量に析出して圧電特性が低下し、実用に耐えられなくなる状態となる。aを上記範囲にすることで、900℃の焼成で圧電特性の良い、セラミック粒子の粒径の小さな圧電磁器組成物が得られる。
【0035】
式(1)において、xは、0≦x≦0.05であり、0.003≦x≦0.007が好ましい。すなわち、式(1)のペロブスカイト組成物は、Pbの一部がLa及び/又はNdで置換されていてもよい。Pbの一部を、La及び/又はNdで置換することで、圧電定数を高められる。x>0.05であると、キュリー温度Tcが低くなる。xを上記範囲にすることで、キュリー温度Tcを300℃以上の高温に保ち、圧電定数を高めることができる。
【0036】
更には、1.00≦a+x≦1.02と調整することが好ましい。何故ならば、(1)式のペロブスカイトにおいて、ABO型ペロブスカイトのA/B比を1.00〜1.02に調整することでも、特性を保つことが可能となるからである。
【0037】
式(1)において、bは、0.35≦b≦0.45であり、0.38≦b≦0.42が
好ましい。b<0.35であると、キュリー温度Tcが低くなり、b>0.45であると、圧電定数が低くなる。bを上記範囲にすることで、キュリー温度Tcを300℃以上の高温に保ち、圧電定数を高めることができる。
【0038】
式(1)において、cは、0.35≦c≦0.45であり、0.38≦c≦0.42が好ましい。c<0.35であると、キュリー温度Tcが低くなり、c>0.45であると、圧電定数が低くなる。cを上記範囲にすることで、キュリー温度Tcを300℃以上の高温に保ち、圧電定数を高めることができる。
【0039】
式(1)において、dは、0<d≦0.10であり、0.3≦d≦0.7が好ましい。d=0であると、キュリー温度Tcは高いが圧電定数が低くなり、d>0.10であると、キュリー温度Tcが低くなる。dを上記範囲にすることで、Tcを300℃以上の高温に保ち維持し、圧電定数を高めることができる。
【0040】
式(1)において、eは、0.07≦e≦0.20であり、0.13≦e≦0.17が好ましい。e<0.07であると、素体の粒成長が著しく微細構造が保てず低温焼結が不可能となり、e>0.20であると、圧電定数が低くなる。eを上記範囲にすることで、低温焼結と圧電定数の維持が可能となる。
【0041】
式(1)において、b+c+d+e=1である。
【0042】
また、アルカリ含有ニオブ酸塩系ペロブスカイト組成物としては、下式(2)で表わされる組成からなるものが好ましく用いられる。式(2)で表わされるアルカリ含有ニオブ酸塩系ペロブスカイト組成物の焼結体からなる結晶粒子の粒界ないしは粒界三重点に、SiおよびKを含有する結晶ないしは非結晶質が存在する圧電磁器層を備える圧電デバイスは、消費電力が低く、高温環境下での使用に好適である。
【0043】
(LiNa1−l−m(Nb1−oTa)O ・・・(2)
【0044】
式(2)において、lは、0.04<l≦0.1が好ましい。l≦0.04もしくはl>0.1であると、室温での圧電定数が低くなる傾向にある。
【0045】
式(2)において、mは、0≦m≦1が好ましい。m>1であると、二次相ができて圧電定数が低下する傾向にある。
【0046】
式(2)において、nは、0.95≦n≦1.05が好ましい。n<0.95もしくはn>1.05であると、二次相ができて圧電定数が低下する傾向にある。
【0047】
式(2)において、oは、0≦o≦1が好ましい。o>1であると、二次相ができ圧電定数が低下する傾向にある。
【0048】
本発明では、圧電磁器組成物として、好ましくは、式(1)で表わされるチタン酸ジルコン酸塩系ペロブスカイト組成物と、Ag成分を酸化物換算でチタン酸ジルコン酸塩系ペロブスカイト組成物100質量部に対し0.05〜0.3質量部含有するものを用いる。この圧電磁器組成物は、900℃以下での低温焼成が可能であり、導体層材料としてAgやAg含有量の高いAg合金を用い、圧電磁器組成物と同時焼成して圧電デバイスを製造することができる。また、この圧電磁器組成物を焼成して得られる圧電磁器層は、キュリー温度Tcが300℃以上と高く、抗電界が、120℃においても0.8kV/mm以上と高く、誘電率εが1800〜2200と低いので、消費電力が低く、高温環境下での使用により好適な圧電デバイスとすることができる。なお、本発明において、キュリー温度
Tc、抗電界、誘電率εは、後述する実施例で記載した方法で測定した値である。
【0049】
圧電磁器組成物に含有させるAg成分としては、Agの酸化物(AgO)、炭酸塩(AgCO)等が挙げられる。
【0050】
Ag成分の最大粒子径は、3μm以下が好ましい。Ag成分の最大粒子径が3μm以下であれば、ペロブスカイト組成物の焼結体中の空隙にAgが偏析し易くなる。3μmを超えると、焼結体表面にAg成分が析出して、Ag成分による二次相が形成され、圧電デバイスの製品寿命特性が低下する恐れがある。Ag成分の最大粒子径を3μm以下に調整する方法は、特に限定は無く、例えば、粉末状態で篩分けする方法、スラリー状態でフィルターを通過させる方法等が挙げられる。
【0051】
なお、本発明では、Ag成分の粒子径は、TEMにより測定し、無作為に選んだ200個のうち最大なものを最大粒子径とした。
【0052】
Ag成分の含有量は、酸化物換算で、ペロブスカイト組成物100質量部に対し、0.05〜0.3質量部が好ましく、0.07〜0.15質量部がより好ましい。Ag成分の含有量が0.05質量部未満であると、低温で焼結し難く、900℃での嵩密度(焼結体真密度)が小さくなり、耐湿特性が劣化する傾向にあり、0.3質量部を超えると、焼結体表面にAg成分が析出して、Ag成分による二次相が形成され、圧電デバイスの製品寿命特性が低下する恐れがある。Ag成分の含有量が上記範囲内であれば、ペロブスカイト組成物の焼結体中の空隙にAgが偏析した圧電磁器層を容易に形成することができる。
【0053】
本発明において、上記圧電磁器組成物は、更に、Mn成分を含有させてもよい。Mn成分を含有させることで、得られる圧電磁器層がハード化し、Q値が上がり、圧電デバイスの消費電力をより低減できる。
【0054】
Mn成分の含有量は、ペロブスカイト組成物100質量部に対し、酸化物換算で0〜1質量%が好ましい。また、本発明において、上記圧電磁器組成物は、更にCo成分を含有させてもよい。Co成分を含有させることで、圧電特性、誘電特性を所望の特性に微調整することができる。Co成分の含有量は、ペロブスカイト組成物100質量部に対し、酸化物換算で0〜1質量%が好ましい。
【0055】
本発明において、ペロブスカイト組成物の焼結体における粒子径は、3μm以下が好ましい。そうする事で、耐圧寿命特性を向上させる事ができる。
【0056】
式(1)で表されるチタン酸ジルコン酸塩系ペロブスカイト組成物を含む圧電磁器組成物は、Pb、La、Zr、Ti、Ni、Nb、Znの酸化物、炭酸塩等を式(1)で表されるチタン酸ジルコン酸塩系ペロブスカイト組成物の化学量論比となるように混合し、水などの湿式下で混合した後乾燥し、大気雰囲気下にて、820〜850℃で2〜4時間焼成する。こうすることで、各金属成分が相互に固相反応し、上記式(1)で表されるチタン酸ジルコン酸塩系ペロブスカイト組成物が形成される。ペロブスカイト組成物を形成した後、湿式粉砕又は乾式粉砕し、Ag成分を添加し、好ましくはペロブスカイト組成物100質量部に対し0.05〜0.3質量部添加し、乾燥処理することで得られる。なお、Ag成分は、ペロブスカイト組成物を形成する際に、他の原料と共に添加してもよいが、ペロブスカイト組成物を形成した後に添加することが好ましい。ペロブスカイト組成物を形成した後にAg成分を添加することで、ペロブスカイト組成物の焼結体中の空隙にAgを偏析させ易くなる。
【0057】
また、式(2)で表されるアルカリ含有ニオブ酸塩系ペロブスカイト組成物を含む圧電磁器組成物は、Li、Na、K、Nb、Taの酸化物、炭酸塩等を式(2)で表されるアルカリ含有ニオブ酸塩系ペロブスカイト組成物の化学量論比となるように混合し、上記と同様にして、焼成することで、各金属成分が相互に固相反応して、上記式(2)で表され
るアルカリ含有ニオブ酸塩系ペロブスカイト組成物が形成される。そして、ペロブスカイト組成物を形成した後、湿式粉砕又は乾式粉砕し、Ag成分を添加し、好ましくはペロブスカイト組成物100質量部に対し0.05〜0.3質量部添加し、乾燥処理することで得られる。
【0058】
本発明の圧電デバイスにおいて、導体層を構成する材料としては、特に限定は無い。低抵抗材料が好ましく、Ag、Pd、Pt、Ni、Cuもしくはそれらの少なくとも一つを含む合金がより好ましい。前記合金としては、Ag−Pd合金、Ag−Pt合金が好ましい。
【0059】
本発明の圧電デバイスは、消費電力が低く、高温環境下での使用に好適であり、例えば、車載用スピーカーなどの音響素子、圧電アクチュエータ、超音波モーター等の用途において特に好ましく用いることができる。
【0060】
上記圧電デバイスは、例えば以下の方法によって製造することができる。
【0061】
ペロブスカイト組成物と、Ag成分とを含有する圧電磁器組成物に、結合剤、溶剤、可塑剤などを加えてスラリー状に調整し、ドクターブレード法等の方法で薄膜状に成形してグリーンシートを製造する。結合剤としては、ポリビニルブチラール樹脂、メタアクリル酸樹脂等が挙げられる。可塑剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等が挙げられる。溶剤としては、トルエン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0062】
次に、得られたグリーンシート上に、Ag、Ag−Pd合金、Ag−Pt合金等の導体金属を含む導体ペーストを、スクリーン印刷法等により印刷し、所定パターンの未焼成内部導体層を形成する。
【0063】
次に、未焼成内部導体層が形成された各グリーンシートを複数重ね合せ、圧着して未焼成積層体を製造する。
【0064】
次に、未焼成積層体を脱バインダー処理し、所定形状に切断して、未焼成内部導体層を未焼成積層体の端部に露出させる。そして、未焼成積層体の端面に、導体金属を含む導体ペーストをスクリーン印刷法等の方法により印刷して、未焼成外部電極層を形成する。
【0065】
次に、未焼成下地金属が形成された未焼成積層体を、酸素雰囲気中にて、850〜900℃で2〜3時間焼成する。こうすることで、圧電磁器層が導体層で挟持された上記本発明の圧電デバイスを製造することができる。
【実施例】
【0066】
原料粉末として、PbO、La、ZrO、TiO、NiO、ZnO、Nb、AgOを各々準備し、これらの原料粉末を篩分けし、最大粒子径を3μm以下に調整した。そして、篩分けしたペロブスカイト組成物の各原料粉末を、表1に示す割合で秤量し、ポットミル内にジルコニアビーズ、イオン交換水と共に入れ、15時間湿式混合し、得られた懸濁液をバットに移し、乾燥器内に入れ、150℃で乾燥させた。
【0067】
【表1】
【0068】
次に、この乾燥によって得られた混合物を、大気雰囲気下において電気炉を用いて850℃で2時間焼成した。混合物内の各金属酸化物はこの焼成によって相互に固相反応し、ペロブスカイト組成物が形成された。
次に、このペロブスカイト組成物と、表1に示す割合で秤量したAgOをポットミル内にジルコニアビーズ、イオン交換水と共に入れ、15時間湿式解砕し、得られた懸濁液をバットに移し、乾燥器内に入れ、150℃で乾燥させ、圧電磁器組成物を得た。
次に、各圧電磁器組成物にポリビニルブチラールを少量混合し、加圧プレス機を用い、圧力1.5MPaで圧縮成型し、直径8mm、厚さ0.5mmの円板形の試料を得た。
次に、この試料を電気炉内に入れ、大気雰囲気下において900℃〜1050℃で2時間焼成し、その後この試料を電気炉から取り出し、試料の両面にフリットレスAgペーストを印刷し、大気雰囲気下において700℃で焼き付け、これを外部電極とした。
この外部電極が取り付けられた円板形試料について、40℃〜400℃の間で誘電率εの温度依存性を測定し、キュリー温度Tcを求めた。また、TFアナライザーを用い、25℃、1Hz,3kV/mmの条件で各試料のヒステリシスを測定し、抗電界を算出した。次に、この外部電極付きの試料に、150℃の下で、1.5kV/mmの電圧を15分間印加し、試料を分極させた。次に、この分極させた試料の圧電定数Krを測定したところ、表1に示す通りであった。圧電定数Krの測定は、電子情報技術産業協会規格(JEITA EM−4501)にのっとり、インピーダンス測定を行い、算出した。結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
また、試料1A、1B、2の圧電磁器組成物を用い、ドクターブレード法によってグリーンシートを成型し、得られたグリーンシート上に、Agペーストを、スクリーン印刷法により印刷し、未焼成内部導体層を形成した。
次に、未焼成内部導体層が形成された各グリーンシートを11枚積層し、同じシートでペーストが印刷されていないシートを所定の厚みに積層したカバーシートを上下に挟み共に圧着して未焼成積層体を製造した。
次に、この未焼成積層体を電気炉内に入れ、大気雰囲気下において900℃℃で2時間焼成して積層体を製造した。得られた積層体について、TEM画像を撮影し、ペロブスカイト組成物の焼結体中の空隙にAgが偏析しているどうか確認した。また、EDS(エネルギー分散X線分光法)により、酸素の検出の有無を確認した。
【0071】
試料1の圧電デバイスは、ペロブスカイト組成物の焼結体中の空隙にAgが偏析していた。この偏析しているAgの粒子径のd80%径は2.1μmであった。また、偏析しているAgからは、EDSに酸素が検出されず、偏析しているAgは、酸化物でなく、金属Agであった。そして、この圧電デバイスは、表1に示されるように、キュリー温度Tcが高く、抗電界が高いものであり、105℃以上の高温でも駆動でき、高温での使用に適したものであった。また、誘電率εが低く、消費電力が小さいものであった。更には、圧電磁器組成物が900℃以下で焼成できた。
また、ReにNdを用いた試料1Bでも同様な結果が得られた。試料1A、1Bが本発
明の圧電磁器組成物にあたる。
【0072】
これに対し、試料2の圧電デバイスは、Agが圧電磁器層に対してほぼ均一に分散しており空隙からAgの偏析を確認できなかった。また、キュリー温度Tcが低く、抗電界が低いため、105℃以上の高温での使用には適し難いものであった。更にまた、誘電率εが高く、消費電力の大きい圧電デバイスであった。
【0073】
また、Ag成分を含まない圧電磁器組成物を使用した試料3の圧電デバイスは、1100℃以上の焼成温度が必要であり、AgやAg含有量の高いAg合金と同時焼成することができなかった。また、焼成温度を高くする必要があることから、焼成エネルギーが嵩み、製造コストが嵩むものであった。
【0074】
また、Ag成分を本発明で規定する好ましい範囲よりも多く含有させた圧電磁器組成物を用いた試料4は、Agが圧電磁器層の表面に析出してしまい、製品の寿命特性が低下し易かった。
【0075】
また、Pbについて、a>1.05とした試料5は,Pb二次相の析出により、特性を評価することができなかった。
【0076】
また、Pbについて、a<0.95とした試料6は,低温焼結できなかった。
【0077】
また、Reについて、x>0.05とした試料7は、Tcが下がり抗電界が低かった。
【0078】
また、Zrについて、b>0.45とした試料8は、圧電定数が低下した。
【0079】
また、Tiについて、c>0.45とした試料9は、圧電定数が低下した。
【0080】
また、(Ni1/3Nb2/3)について、d>0.10とした試料10は、Tcが下がり抗電界が低かった。
【0081】
また、(Ni1/3Nb2/3)について、d=0とした試料11は,圧電定数が低下した。
【0082】
また、(Zn1/3Nb2/3)について、e>0.20とした試料12は、圧電定数が低下した。
【0083】
また、(Zn1/3Nb2/3)について、e<0.07とした試料13は、圧電定数が低下した。
図1