(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940585
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】薬剤送出ワイヤ内の穴を充填するシステムおよびワイヤ内に形成された穴に作用物質が充填された前記ワイヤを製造する方法
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20160616BHJP
【FI】
A61M37/00 550
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-95920(P2014-95920)
(22)【出願日】2014年5月7日
(62)【分割の表示】特願2010-266716(P2010-266716)の分割
【原出願日】2005年2月11日
(65)【公開番号】特開2014-208083(P2014-208083A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2014年6月6日
(31)【優先権主張番号】60/544,663
(32)【優先日】2004年2月13日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】308021741
【氏名又は名称】イノヴェイショナル・ホールディングズ・エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】INNOVATIONAL HOLDINGS, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147500
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 雅啓
(72)【発明者】
【氏名】シャンリー、ジョン・エフ
【審査官】
藤田 和英
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭59−001774(JP,A)
【文献】
特開2001−190688(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/004602(WO,A1)
【文献】
特開平11−121133(JP,A)
【文献】
特開昭63−252613(JP,A)
【文献】
特表昭61−502379(JP,A)
【文献】
特開2001−079079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
A61M 25/00 − 25/18
A61M 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤送出ワイヤ内の穴を作用物質で充填するシステムであって、
前記システム(90)はモールド(92)を特徴とし、
前記モールド(92)は内部モールド空洞(94)を有し、
液化された作用物質が、作用物質入口(96)を通って内部モールド空洞(94)に送出されることができ、
前記モールドは、前記ワイヤ(70)が前記モールドの内部を通過することができるように構成され、
前記モールド内の圧力が逃げるように、前記モールドは、前記薬剤送出ワイヤ内に画定され複数の方向に向けられた穴が、前記作用物質で充填可能となるように構成される、システム。
【請求項2】
冷却コイルを有する冷却ゾーン(98)をさらに備え、
前記ワイヤ(70)はそこを通過して、前記ワイヤ(70)がモールド(92)を出る前に、前記内部モールド空洞内の前記ワイヤの前記穴に充填された前記作用物質を少なくとも部分的に凝固させる、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記液化された作用物質は、ポリマー、溶剤成分及びホットメルト作用物質のうちの1つである、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記モールド(92)は、前記穴の底部面を閉塞させる閉じた底部を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記モールド(92)はシール要素を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記システムは、前記ワイヤが前記システムを通過する時に連続して動作する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
ワイヤ内に形成された穴に作用物質が充填された前記ワイヤを製造する方法であって、
前記ワイヤ(70)が保持されている間に、前記作用物質入口(96)に作用物質の小滴又はフィラメントを個々に送出することと、
十分に凝固するまで、穴の中に分注された作用物質を保持する間に、前記穴の中で前記作用物質を凝固させることと、
を含む、方法において、
請求項1〜6のいずれか一項に記載のシステムを用い、前記ワイヤ(70)が前記システムを通過する時に前記システムが連続して動作することを特徴とする、方法。
【請求項8】
シール要素によってシールされた前記モールド(92)を維持することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ワイヤが前記システムを通過する時に、前記穴を連続的に充填することをさらに含む、請求項7または8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、その全体の内容が参照により本明細書に援用される2004年2月13日に出願された米国仮特許出願第60/544,663号に対して優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
[背景]
体の局所的な領域の多くの疾患は、治療薬の全身的な送出によって処置される。残念ながら、治療薬の全身的な送出は、効果的でなく、非効率的で、且つ/又は、望ましくない副作用をもたらすことが多い。たとえば、ガンの処置は、化学療法薬の全身的な投与を必要とすることが多く、該全身的な投与によって、患者に対する重篤な副作用がもたらされる。
【0003】
処置される特定の組織又は器官に対する薬剤の標的局所送出(targeted local delivery)は、局所薬剤送出デバイスが、長い期間にわたって十分な量の薬剤の送出に利用可能である場合、全身の毒性がより低い状態でよりよい効力を提供するであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既知の埋め込み可能局所薬剤送出システムは、埋め込み可能浸透性(osmotic)ポンプ、薬剤を含む注入可能生分解性ポリマー、プラスチック薬剤ペレット、及び微粒子を含む薬剤を含む。これらのデバイスの多くはサイズが比較的大きいので、その使用が少数の用途に制限される。生分解性ポリマー及び微粒子を含む比較的小さなシステムは、体内で移動する傾向があり、また、薬剤とこれらのシステムで使用される特定のポリマーとの非適合性のために、多くのタイプの薬剤を送出することができない場合がある。
【0005】
コーティング式薬剤送出デバイスが提案されているが、薬剤のコーティングは、デバイスの送出中に、こすり落とされるか、又は、剥離する可能性がある。さらに、コーティングによって送出できる薬剤量は、デバイスの表面積によって制限される。
【0006】
そのため、既知のシステムの欠点をなくして、長い投与期間にわたって薬剤の制御された送出を行う新しい埋め込み可能薬剤送出デバイスを提供することが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[発明の概要]
本発明は、サイズの小さい薬剤送出デバイスに関するものであり、該薬剤送出デバイスは、体内の特定の標的組織器官に適合するように形作ることができる1つ又は複数のフィラメント又はワイヤから、長い期間にわたって制御された方法で治療薬を送出できる。
【0008】
本発明の一態様によれば、埋め込み可能薬剤送出デバイスは、体内で特定の標的組織に適合するように形作られた少なくとも1本のワイヤと、該少なくとも1本のワイヤ内の複数のスルーホールと、ワイヤから標的組織へ送出するために、スルーホール内に設けられた固形治療薬とを備える。
【0009】
本発明の別の態様によれば、腫瘍を処置する方法は、埋め込み可能デバイスを腫瘍内に埋め込むステップであって、デバイスは、固形治療薬が中に設けられた穴を有する少なくとも1本のワイヤから形成される、デバイスを埋め込むステップと、治療薬を、穴から腫瘍に送出するステップとを含む。
【0010】
本発明のさらに別の態様によれば、組織を再生する方法は、埋め込み可能薬剤送出デバイスを組織内に埋め込むステップであって、デバイスは、固形組織再生薬が中に設けられた穴を有する少なくとも1本のワイヤから形成される、デバイスを埋め込むステップと、組織再生薬を、穴から組織に送出するステップとを含む。
【0011】
本発明のさらなる態様によれば、側副動脈を拡張する方法は、埋め込み可能薬剤送出デバイスを側副動脈内に埋め込むステップであって、デバイスは、固形作用物質が中に設けられた穴を有する少なくとも1本のワイヤから形成される、埋め込むステップと、作用物質を穴から側副動脈に送出するとともに、側副動脈を拡張させるステップとを含む。
【0012】
本発明のさらなる態様によれば、血管形成を促進させる方法は、埋め込み可能薬剤送出デバイスを組織内に埋め込むステップであって、デバイスは、固形血管形成薬が中に設けられた穴を有する少なくとも1本のワイヤから形成される、デバイスを埋め込むステップと、血管形成薬を穴から組織に送出するステップであって、それによって、血管形成を促進する、送出するステップとを含む。
【0013】
本発明のさらに別の態様によれば、薬剤を標的組織又は標的器官に送出する方法は、少なくとも1本のワイヤ、該少なくとも1本のワイヤ内の複数の穴、及びワイヤから標的組織に送出するために、穴に設けられた固形治療薬を備える埋め込み可能薬剤送出デバイスを準備するステップと、ワイヤを標的組織又は器官内に挿入するステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ワイヤから形成された薬剤送出デバイスの斜視図である。
【
図3】ワイヤメッシュの形態の薬剤送出デバイスの斜視図である。
【
図4】複数方向の穴を有するワイヤから形成された薬剤送出デバイスの斜視図である。
【
図5】穴と延性蝶番を有するワイヤから形成された薬剤送出デバイスの斜視図である。
【
図6】リボン形状ワイヤから形成された薬剤送出デバイスの斜視図である。
【
図7】付加的な薬剤を送出するために内部が中空になっている、ワイヤの形態の薬剤送出デバイスの斜視図である。
【
図8】
図1の薬剤送出デバイス内の穴を充填するシステムの概略斜視図である。
【
図9】中空薬剤送出デバイス内の穴を充填する別のシステムの概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ここで、添付図面に示す好ましい実施の形態を参照してより詳細に述べられることになる。図面において、同様の要素は同様の参照符号を有する。
【0016】
[詳細な説明]
用語「薬剤」及び「治療薬」は、生物の体内管路に送出されて、所望の、通例は治療上の効果をもたらす任意の治療活性物質(therapeutically active substance)を指すように交換可能に用いられる。
【0017】
用語「マトリクス」及び「生体適合性マトリクス」は、被検者に埋め込まれることによって、マトリクスの拒絶を引き起こすのに十分な有害反応を誘導しない媒体又は材料を指すために交換可能に用いられる。マトリクスは、治療薬を含有するか又は取り囲み、及び/又は、治療薬の体内への放出を調整する。マトリクスは、単に支持、構造的完全性、又は構造的バリアを与えることができる媒体でもある。マトリクスは、ポリマー性、非ポリマー性、疎水性、親水性、親油性、両親媒性等であってもよい。マトリクスは、生体再吸収性があっても(bioresorbable)よく、生体再吸収性がなくてもよい。
【0018】
治療薬を参照する時の用語「固形の」は、マトリクス内に組み込むことができるか、又は、体温において実質的に流動不可能であり、作用物質が穴の中に保持されることを可能にするような任意の他の形態で組み込むことができる、固形形態か、ゲル形態のいずれかの治療薬を指すのに使用される。
【0019】
用語「生体再吸収性」は、本明細書で定義する場合、生理学的環境と相互作用すると化学的プロセス又は物理的プロセスによって分解され得るマトリクスを指す。マトリクスは侵食されるか、又は、溶解することができる。生体再吸収性マトリクスは、薬剤送出等の体内における一時的な機能を果たし、その後、数分から数年、好ましくは1年より短い期間にわたって代謝可能又は排出可能な構成要素に分解されるか又は分割されるが、その期間中にいかなる必要な構造的完全性も維持する。
【0020】
用語「穴」は、スルーホール及び任意の形状の凹部の両方を含む。
【0021】
用語「薬剤として許容される」は、宿主又は患者にとって非毒性であり、治療薬の安定性を維持するのに適し、標的細胞又は標的組織への治療薬の送出を可能にする特性を指す。
【0022】
用語「ポリマー」は、モノマーと呼ばれる反復単位の2つ以上の化学結合から形成される分子を指す。したがって、用語「ポリマー」には、たとえば、ダイマー、トリマー、オリゴマーが含まれ得る。ポリマーは、合成、天然、又は半合成であり得る。好ましい形態では、用語「ポリマー」は通常、約3,000よりも大きく、好ましくは約10,000よりも大きく、かつ、約10,000,000よりも小さい、好ましくは約1,000,000よりも小さい、より好ましくは約200,000よりも小さいMwを有する分子を指す。ポリマーの例は、ポリ乳酸(PLLA又はDLPLA)、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸コポリマー(PLGA)、乳酸−カプロラクタンコポリマー等のポリ−α−ヒドロキシ酸エステル;(ブロック−酸化エチレン−ブロック−ラクチド−グリコリド)コポリマー(PEO−ブロック−PLGA及びPEO−ブロック−PLGA−ブロック−PEO);ポリエチレングリコール及び酸化ポリエチレン、ポリ(ブロック−酸化エチレン−ブロック−酸化プロピレン−ブロック−酸化エチレン);ポリビニルピロリドン;ポリオルトエステル;ポリヒアルロン酸、ポリ(グルコース)、ポリアルギン酸、キチン、キトサン、キトサン誘導体、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、シクロデキストリン、及びβ−シクロデキストリンスルフォブチルエーテル等の置換シクロデキストリン等の多糖類並びに多糖類誘導体;ポリペプチド、及びポリリシン、ポリグルタミン酸、アルブミン等の蛋白質;ポリ無水物;ポリヒドロキシ吉草酸、ポリヒドロキシ酪酸等のポリヒドロキシアルコノエート(alkonoate)等を含むが、それらに限定されない。
【0023】
図1は、標的器官又は標的組織に送出される治療薬を含む穴を有するワイヤ又はフィラメント形状デバイスの形態の埋め込み可能薬剤送出デバイスを示す。
図1の薬剤送出デバイス10は、ワイヤの厚さを貫通して延びるようにレーザカッティングされるか、又は、その他の方法で形成された複数の穴12を含む。そのため、穴12のそれぞれは、薬剤送出用の2つの開いた端部及び1つ又は複数の治療薬を収容するための内部槽を有する。
【0024】
図1の薬剤送出デバイス10は、波形状で示されるが、多くの他の形状も有益であり、以下でさらに述べられるであろう。波形状デバイス10は、体腔(body lumens)、組織、器官、又は体腔(body cavities)に埋め込まれて、数時間から数ヶ月にもなる可能性がある選択された期間にわたって、所望の送出部位に局所的に治療薬を送出することができる。いろいろな薬剤の長く続く放出は、ほとんどの場合、生体再吸収性であっても非生体再吸収性であっても良い生体適合性ポリマーマトリクスで薬剤を提供することによって達成される。放出プロファイルは、ポリマーマトリクス及び穴の中の薬剤の配置を選択することによって、特定の薬剤及び用途に合わせることができる。選択された放出プロファイルは、線形、パルス状、一次(first order)、或いはレートが増加又は減少するものであってもよい。
【0025】
一例では、
図1の薬剤送出デバイス10は、側副動脈等の体腔を拡張させるのに使用される治療薬の送出に使用されてもよい。薬剤送出デバイス10は、形状記憶物質ワイヤ、又は、ばね金属物質ワイヤで形成することができ、記憶形状又は設定形状は、大きな波、らせん、コイルz形状、又は他の形状の形態である。このデバイス10は、真っ直ぐにして、管内に挿入することができるか、又は、その他の方法で側副動脈に送出するために拘束することができる。送出されると、管又は他の拘束デバイスは取り除かれ、デバイスは、波又はらせん形状が動脈壁を押す状態で、動脈内に設置される。形状記憶物質、又は、ばね金属物質によって、デバイス10は、動脈が治療薬によって拡張する時に、動脈の拡張形状に従う傾向があり、作用物質を動脈に送出し続けることになる。側副動脈の拡張に特に役立つ場合がある治療薬は、血管拡張薬、NOドナー、又は、内皮細胞も薬剤から離れさせるように働く他の薬剤を含む。
【0026】
図2は、有益な作用物質を含むための複数の穴22を有するコイル20の形状のワイヤ薬剤送出デバイスを示す。コイル20は、組織に貫入するための尖った先端24を含んでもよい。コイル20は、先端24で組織に貫入し、コイルを組織内に挿入するようにコイルを回転させることによって、挿入されてもよい。コイル20は、コーティング式薬剤送出デバイス、注入可能ポリマー、ペレット、微粒子、又は浸透性デバイスがその時使用されるエリアの組織又は器官に対して局所的に薬剤を送出するのに使用されてもよい。たとえば、コイル20は、腫瘍に対する化学療法薬、組織再生薬、ベータブロッカー、血管拡張薬、利尿剤(diaretics)、抗生物質等を送出するのに使用することができる。
【0027】
図3は、ワイヤが、ワイヤメッシュ30に形成されたワイヤ薬剤送出デバイスを示す。ワイヤメッシュ30は、穴32が、レーザ等によって切り開けられたワイヤから形成される。薬剤は、ワイヤをメッシュ30に形成する前か、後に、穴に装填されてもよい。ワイヤメッシュ30は、特定の器官又は組織に巻き付けて標的組織に局所的に薬剤を送出するのに使用することができる。
【0028】
図1〜3の実施形態は、穴12、22、32が単一方向にワイヤを貫通して延びた状態で示された。或いは、本明細書で説明される実施形態の任意の実施形態の穴は、2つ以上の方向に切り開かれてもよい。ワイヤはまた、穴が3つ以上の方向にある状態で形成されてもよい。
【0029】
図4は、或る方向の第1の穴42及び概ね垂直な方向の第2の穴44を有するワイヤ20を示す。ワイヤはまた、穴が3つ以上の方向にある状態で形成されてもよい。本明細書で示す穴は、ワイヤの軸に概ね垂直に示されたが、穴は、ワイヤ軸に対して傾斜してもよい。
【0030】
穴は、丸い(round)時、一般に、ワイヤの径の約10%〜約80%、好ましくは、約25%〜約60%である径を有するように選択される。これは、ワイヤが、構造的な完全性を維持し、ねじれ(kinking)を減らすことを可能にすることになる。穴は、約0.1ナノリットル〜約50ナノリットルの範囲の容積を有することができる。ワイヤの断面寸法は、一般に、最も広いところで約0.006mm〜0.04mmである。
【0031】
図5は、複数の穴52及び複数の延性蝶番54を有するワイヤ薬剤送出デバイス50の代替の実施形態を示す。複数の延性蝶番54は、穴52と同じレーザカッティング操作で形成され、ワイヤが優先して湾曲する(for preferential bending)位置を提供する。蝶番54によって、ワイヤが、特定の組織又は器官に適合するための形状に容易に湾曲されることが可能になる。たとえば、ワイヤ50がメッシュに形成される時、メッシュは、器官の周りに容易に形成され、延性蝶番54によってその形状を保持するであろう。延性蝶番のいくつかの例についてのさらなる説明は、参照によりその全体が本明細書に援用される米国特許第6532065号明細書に見出すことができる。延性蝶番54は、
図5に示すように、一方向で全て形成することもでき、2つ以上の方向で湾曲を可能にするように形成することもできる。ワイヤ50が、延性蝶番54の位置で湾曲する時、穴52は、非変形であり、変形する場合に、割れるか、はみ出す(extrude)か、又は、送出プロファイルを変えることになる物質を充填することができる。
【0032】
図6は、実質的に正方形(square)の複数の穴62を有する矩形又はリボン形状のワイヤ60の代替の実施形態を示す。矩形形状ワイヤ60は、用途に応じて、コイル、フィラメント、メッシュ、又は他の形状の薬剤送出デバイスとして使用することができる。
【0033】
図7は、複数の穴72を有する中空ワイヤの形態の薬剤送出デバイス70を示す。図示する例では、中空ワイヤ70は、第1の作用物質を含む中心内腔74を有し、一方、穴72は第2の作用物質を含む。この構成は、2つの作用物質の順次送出を可能にする。或いは、1つ又は複数の同じ作用物質が、穴72と内腔64に含まれ、大量の作用物質の送出を可能にしてもよい。第1の作用物質は、ポリマーフィラメント等のフィラメントとして、液体として、又は、流動可能物質として、内腔74に送出されてもよい。第1の作用物質及び第2の作用物質の例は、異なる時刻に送出されて血管形成のプロセスの異なる段階を促進するようにプログラムされる第1の血管形成薬及び第2の血管形成薬を含む。血管形成薬は、VEG−A、VEG−145、VEGF、FGF、HGF、Ang1、Ang2、インシュリンのような成長因子等を含む。
【0034】
図1〜7に述べる構造は、1つ又は複数の作用物質を送出するのに使用することができる。たとえば、第1の作用物質は、第2の作用物質と同じ穴の中で、異なる層として設けられてもよく、異なる濃度勾配、異なる領域、又は、混合した構成で設けられてもよい。或いは、第1の作用物質及び第2の作用物質は、同じワイヤ上の散在した(interspersed)穴の中に設けることができる。ワイヤメッシュ等の複数のワイヤを使用する実施形態の場合、異なるワイヤには異なる作用物質が設けられてもよい。さらに、同じワイヤの異なるエリア(すなわち、異なる端部)に異なる作用物質が設置されてもよい。
【0035】
治療薬を含む生体適合性マトリクスが、本発明のワイヤ構造内の穴に配設されて複数の薬剤送出槽を形成する時、穴は、部分的に、又は、完全に、治療薬を含むマトリクスで充填されてもよい。穴はまた、治療薬の放出の方向及び/又はタイミングを制御するように働く、マトリクスの1つ又は複数の保護層若しくは分離層又は保護エリア若しくは分離エリアとともに充填されてもよい。たとえば、
図3のメッシュの実施形態では、穴の一方の側にバリア層を設けてメッシュの一方の側への薬剤の指向性送出を行ってもよい。
【0036】
個々の化学的成分及び薬物動態特性(pharmacokinetic properties)を、マトリクスの異なるエリアに与えることができる。マトリクスのエリアのそれぞれは、同じ割合か、又は、エリアごとに異なる割合で1つ又は複数の作用物質を含んでもよい。独立した濃度勾配を有する2つ以上の作用物質のさらなる組み合わせは、マトリクスからの作用物質の或る範囲の制御された放出動態(kinetic)プロファイルを提供することができる。
【0037】
マトリクスは、固形であるか、多孔性であるか、又は、他の薬剤又は賦形剤を充填されてもよい。作用物質は、固溶体形態及び固形エマルジョン(solid emulsion)形態の一方又は両方であってもよい。作用物質は、均質に配設されるか、又は、マトリクスの異なるエリアに不均質に配設されてもよい。
【0038】
治療薬
本発明と共に使用するための治療薬の一部は、
免疫抑制薬、抗生物質、抗脂質薬、抗炎症薬、化学療法薬、抗悪性腫瘍薬、抗血小板薬、血管形成薬、抗血管形成薬、ビタミン、抗有糸分裂薬、メタロプロテイナーゼ阻害剤、NOドナー、エストラジオール、硬化防止薬、及び血管作用薬、内皮成長因子、エストロゲン、ベータブロッカー、AZブロッカー、ホルモン、スタチン、インシュリン成長因子、抗酸化薬、膜安定化薬、カルシウム拮抗薬、レチノイド、抗悪性腫瘍薬、抗血管形成薬、抗再狭窄薬、ヘパリン等の抗血栓薬、パクリタキセル及びラパマイシン等の抗増殖薬、組織再生薬、血管拡張薬、及び利尿剤を、単独で、又は、本明細書で述べる任意の治療薬との組合せで含むが、それらに限定されない。治療薬はまた、例を少数だけ挙げると、ペプチド、リポ蛋白、ポリペプチド、ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチド、脂質、蛋白質薬剤、蛋白質共役薬剤、酵素、オリゴヌクレオチドとその誘導体、リボザイム、他の遺伝物質、細胞、アンチセンス、オリゴヌクレオチド、モノクローナル抗体、血小板、プリオン、ウィルス、細菌、及び内皮細胞等の真核細胞、幹細胞、ACE阻害剤、単核細胞/大食細胞、又は血管平滑筋細胞を含む。治療薬はまた、宿主に投与されると、代謝して所望の薬剤になるプロドラッグであってもよい。さらに、治療薬は、ワイヤの穴に送出される前に、マイクロカプセル、微粒子、マイクロバブル、リポソーム、ニオソーム、エマルジョン、分散等として前もって処方されてもよい。治療薬はまた、放射性同位元素であってもよく、光又は超音波エネルギー等の他の或る形態のエネルギーによって、又は全身に投与することができる他の循環分子によって活性化される作用物質であってもよい。治療薬は、血管形成、再狭窄、細胞増殖、血栓、血小板凝集、凝固、及び血管拡張を調整することを含む複数の機能を実施してもよい。抗炎症薬は、アリル酢酸誘導体、たとえば、ジクロフェナック(Diclofenac);アリールプロピオン酸誘導体、たとえば、ナプロクサン、及びサリチル酸誘導体、たとえば、アスピリン、ジフルーニサル(Diflunisal)等の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を含む。抗炎症薬はまた、デキサメタゾン、プレドニゾロン、及びトリアムシノロン等のグルココリチコイド(glucocoriticoids)(ステロイド)を含む。抗炎症薬は、薬剤及びインプラントに対する組織の反応を緩和するために他の薬剤と共に使用される。
【0039】
本明細書に述べる作用物質の一部は、その活動を維持する添加物と組み合わされてもよい。たとえば、インシュリン等の蛋白質薬剤の変性及び凝集を最小にするために、界面活性剤、制酸薬、抗酸化薬、及び洗浄剤を含む添加物が使用されてもよい。陰イオン性洗浄剤、陽イオン性洗浄剤、又は非イオン性洗浄剤が使用されてもよい。非イオン添加物の例は、ソルビトール、ショ糖、トレハロースを含む糖;デキストラン、カルボキシメチル(CM)デキストラン、ジエチルアミノエチル(DEAE)デキストランを含むデキストラン;D−グルコサミン酸及びD−グルコースジエチルメルカプタールを含む糖の誘導体;ポリエチレングリコール(PEO)及びポリビニルピロリドン(PVP)を含む合成ポリエーテル;D−乳酸、グリコール酸、及びプロピオン酸を含むカルボン酸;n−ドデシル−β−D−マルトシド(maltoside)、n−オクチル−β−D−グルコシド、PEO脂肪酸エステル(たとえば、ステアリン酸塩(myrj59)又はオレイン酸塩)、PEO−ソルビタン−脂肪酸エステル(たとえば、Tween80、PEO−20ソルビタンモノオレイン酸塩)、ソルビタン−脂肪酸エステル(たとえば、SPAN60、ソルビタンモノステアリン酸塩)、PEO−グリセリル−脂肪酸エステルを含む、疎水性界面に対する親和性を有する洗浄剤;グリセリル脂肪酸エステル(たとえば、グリセリルモノステアリン酸塩)、PEO−炭化水素−エーテル(たとえば、PEO−10オレイルエーテル);トリトンX−100;及びルブロール(Lubrol)を含むが、それに限定されない。イオン性洗浄剤の例は、カルシウムステアリン酸塩、マグネシウムステアリン酸塩、及び亜鉛ステアリン酸塩を含む脂肪酸塩;レシチン及びホスファチジルコリンを含むリン脂質;CM−PEG;コール酸;硫酸ドデシルナトリウム(SDS);ドキュセート(docusate)(AOT);及びタウモコール酸(taumocholic acid)を含むが、それに限定されない。
【0040】
充填システム
図8は、薬剤送出デバイスの穴を充填するシステム80の一例を示す。システム80は連続して動作し、ワイヤが、スプールから充填システムを通って、巻き取りスプール上か、或いは、別の仕上げシステム又は形成システムに進む時に、ワイヤの長さに沿って複数の穴を充填することができる。
【0041】
図8では、図示する薬剤送出デバイスは、穴が一方向に形成されている
図1のワイヤデバイス10であるが、他のデバイスもまた、こうした方法で充填することができる。システム80は、小滴を送出するディスペンサ82及び穴12の充填中にワイヤ10を保持するブッシング84を含む。ディスペンサは、ナノリットルより小さい小滴又はフィラメントを送出することが可能な、圧電ディスペンサ等の任意のディスペンサであってもよい。
図8では、ワイヤ10がブッシングを通過する時、穴の中で凝固する作用物質で、穴が個々に充填される。ブッシング84は、作用物質がそこを通して穴の中に分注される開いた窓86を含む。窓86はまた、1つ又は複数のカメラを含む可視化システムによって穴の可視化を可能にすることができる。ブッシング84はまた、穴の底部面を閉塞させ、分注された作用物質が十分に凝固するまで、穴の中に分注された作用物質を保持する閉じた底部88を含む。ブッシングは、必要な場合には、ゴムコーティング、弾性配管等を含むシール要素を含む。
【0042】
図4の実施形態に示す場合等、充填される穴が、ワイヤ内で複数の方向に設けられる場合、
図8のシステム80は、一方向の穴を充填するのに使用され、それに続いて、他の方向の穴で充填するさらなるシステムが使用されてもよい。或いは、ワイヤは、複数の方向の穴を充填するために、ブッシング内で平行移動し、かつ回転してもよい。
【0043】
ディスペンサ82によって穴に送出される作用物質は、薬剤、ポリマー、及び溶剤の組み合わせとして分注されてもよい。送出ステップを繰り返し、穴の中に異なる作用物質の組み合わせ領域を設けて、作用物質の制御された放出を可能にすることができる。溶剤を加熱によって蒸発させ、作用物質の固形充填物(inlay)を達成することができる。或いは、作用物質は、溶剤が無い状態か、又は、最小限の溶剤が有る状態で、ホットメルトとして送出されてもよい。ホットメルトの例では、ブッシング84を冷却して穴の表面において冷却底部を設けることができ、冷却底部は、ホットメルトを急速に凝固させる。
【0044】
一実施形態では、
図8の複数のシステムは、その間に任意選択の熱伝達ステージをもって直列に配置される。こうして、作用物質が中間の熱伝達ステージによって凝固しながら、作用物質の複数の層が穴の中に堆積する。別の代替の実施形態では、固定装置内に保持されたワイヤのセグメントを充填するために、不連続な充填システムが使用されてもよい。
【0045】
本発明において有益な一部のディスペンサ、可視化システム、及び制御システムの例は、参照によりその全体が本明細書に援用される2003年9月22日に出願された米国特許出願公開第2004/127976号明細書に記載される。
【0046】
図9は、連続成形プロセスによって穴を充填する代替のシステム90を示す。充填システム90は、液化された作用物質が、作用物質入口96を通ってそこに送出される内部モールド空洞94を有するモールド92を含む。
図7のワイヤ等のワイヤ70は、モールド空洞94を通過し、ワイヤ内の任意の開口は、液体作用物質で充填される。液化された作用物質は、作用物質、ポリマー、溶剤成分又はホットメルト作用物質、及びポリマー成分であってもよい。ホットメルト作用物質が使用される時、モールド92は、冷却コイルを有する冷却ゾーン98を含んでもよく、充填されたワイヤ70は、冷却ゾーン98を通過して、ワイヤがモールドを出る前に、作用物質を少なくとも部分的に凝固させる。
図9のシステムは、
図7に示す中空ワイヤ70を充填するのに特に有利である。その理由は、ワイヤ内の中空内腔が、圧逃げ部(pressure release)として役立ち、モールド内における圧逃げ部の必要性をなくすからである。
図9のシステムはまた、他の形状及び構成のワイヤを充填するのに使用されてもよい。
【0047】
本発明は、本発明の好ましい実施形態を参照して詳細に述べられたが、本発明から逸脱することなく、種々の変更及び修正を行うことができ、均等物を採用することができることが、当業者に明らかになるであろう。