(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、及び位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。即ち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、及び位置関係のみに限定されるものではない。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るパワーモジュールの構造を示す断面図である。
図1に示すパワーモジュール1は、基板10と、該基板10と緩衝層11を介して配設された冷却器(放熱器)12とを備える。このようなパワーモジュール1においては、半導体チップ16から発生した熱を、金属層17及び緩衝層11を介して冷却器12に移動させることにより、外部に放熱する。
【0022】
基板10は、平板状をなす絶縁基材13の一方の面に形成された回路層14と、該回路層14に半田15を介して配設された半導体チップ16と、絶縁基材13の他方の面に形成された金属層17とを有する。
【0023】
絶縁基材13は、例えば、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物系セラミックスや、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、ステアタイト、フォルステライト、ムライト、チタニア、シリカ、サイアロン等の酸化物系セラミックスといった絶縁性材料からなる略板状の部材である。
【0024】
回路層14は、例えば銅等の良好な電気伝導度を有する金属又は合金からなる金属層である。この回路層14には、半導体チップ16等に対して電気信号を伝達するための回路パターンが形成されている。
【0025】
半導体チップ16は、ダイオード、トランジスタ、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等の半導体素子によって実現される。なお、半導体チップ16は、使用の目的に合わせて回路層14上に複数個設けられても良い。
【0026】
金属層17は、例えば銅等の良好な電気伝導度を有する金属又は合金からなり、半導体チップ16及び回路層14において発生した熱を緩衝層11及び冷却器12に伝熱するために設けられている。
【0027】
緩衝層11は、銅に対し、クロムと、チタンと、タングステンカーバイドとのいずれかを添加した複合材からなり、基板10の金属層17側に、所謂コールドスプレー法により直接形成されている。
【0028】
緩衝層11には、基板10において発生した熱を効率良く冷却器12に伝導させるための高熱伝導率、及び、絶縁基材13との熱膨張率の差に起因する熱応力の発生を抑制するための低熱膨張率といった特性が要求される。具体的には、純銅に対する熱伝導率比が50%〜100%程度であることが好ましい。また、熱膨張率としては、半導体チップ16が実装される基板10の熱膨張率(例えば、4.0〜7.5×10
-6/K)と冷却器12の熱膨張率(アルミニウムの場合、23.6×10
-6/K)との中間的な値であることが好ましく、具体的には、7.5×10
-6/K以上16.6×10
-6/K未満である。このような特性を実現するため、実施の形態1においては、緩衝層11における母材(銅)に対し、クロム、チタン、又はタングステンカーバイドを添加した複合材を用いている。各添加材を用いた複合材の特性については後述する。
【0029】
このような緩衝層11は、基板10と反対側の面(
図1においては下面)において、伝熱シート18を介して冷却器12と接着されている。冷却器12は、アルミニウムやアルミニウム合金等の良好な熱伝導性を有する金属又は合金からなり、平板状をなす基部12aと、該基部12aの裏面(
図1においては下面)に設けられた板状をなす複数の冷却部(冷却フィン)12bとを有する。このような冷却器12を介して、半導体チップ16から発生した熱が絶縁基材13を介して外部に放出される。
【0030】
伝熱シート18は、良好な熱伝導性及び電気絶縁性を有するシート状部材の両面に粘着材を配置した材料である。なお、伝熱シート18の代わりに、ゲル状のシート部材やグリスを用いて緩衝層11と冷却器12とを接着しても良い。
【0031】
次に、パワーモジュール1の製造方法について説明する。
図2は、パワーモジュール1の製造方法を示すフローチャートである。
まず、工程S1において、基板10を作製する。即ち、絶縁基材13の一方の面に回路層14を、他方の面に金属層17をろう付法により形成し、エッチング法により回路パターンを形成する。なお、ろう付法の代わりに、後述するコールドスプレー法を用いて回路層14や金属層17を形成しても良い。半導体チップ16は半田等を用いて回路層14上に実装される。
【0032】
続く工程S2において、緩衝層11の材料となる混合粉末を調製する。即ち、所定の中心粒径をそれぞれ有する銅の粉末及び添加材の粉末を用意し、予め設定された混合比率となるように両者を秤量して混合する。粉末の混合方法は特に限定されず、本実施の形態1においては、乾式混合法(ドライブレンド法)によって混合する。
【0033】
銅の粉末及び添加材の粉末の粒径については、コールドスプレー法に適用可能な粒径(例えば5〜100μm程度)であれば特に限定されない。粉末の調製方法については、後で詳しく説明する。
【0034】
続く工程S3において、コールドスプレー法により、工程S1において作製した基板10の金属層17側に緩衝層11を形成する。
図3は、コールドスプレー装置の構成例を示す模式図である。
図3に示すコールドスプレー装置100は、圧縮ガスを加熱するガス加熱器101と、皮膜の材料の粉末を収容してスプレーガン103に供給する粉末供給装置102と、スプレーガン103に供給された材料の粉末を、加熱された圧縮ガスと共に基材110に向けて噴射するガスノズル104と、ガス加熱器101及び粉末供給装置102に対する圧縮ガスの供給量をそれぞれ調節するバルブ105及び106とを備える。
【0035】
圧縮ガスとしては、ヘリウム、窒素、空気などが使用される。ガス加熱器101に供給された圧縮ガスは、材料の粉末の融点よりも低い範囲の温度に加熱された後、スプレーガン103に供給される。圧縮ガスの加熱温度は、好ましくは300〜1000℃である。
【0036】
一方、粉末供給装置102に供給された圧縮ガスは、粉末供給装置102内の材料粉末をスプレーガン103に所定の吐出量となるように供給する。
【0037】
加熱された圧縮ガスは、末広形状をなすガスノズル104を通過することにより超音速流(約340m/s以上)となって噴射される。この際の圧縮ガスのガス圧力は、1〜5MPa程度とすることが好ましい。圧縮ガスの圧力をこの程度に調整することにより、基材110に対する皮膜111の密着強度の向上を図ることができるからである。より好ましくは、2〜5MPa程度の圧力で処理すると良い。
【0038】
このようなコールドスプレー装置100において、基材110として、基板10の金属層17側をスプレーガン103に向けて配置すると共に、工程S2において調製した混合粉末を粉末供給装置102に投入し、ガス加熱器101及び粉末供給装置102への圧縮ガスの供給を開始する。それにより、スプレーガン103に供給された混合粉末が、この圧縮ガスの超音速流の中に投入されて加速され、スプレーガン103から噴射される。この混合粉末が、固相状態のまま基材110(金属層17)に高速で衝突して堆積することにより、皮膜111が形成される。そして、この皮膜111を所望の厚さとなるまで堆積させることで、緩衝層11が形成される。
【0039】
なお、コールドスプレー法による成膜装置としては、材料の粉末を基材110に向けて固相状態で衝突させて皮膜を形成できる装置であれば、
図3に示すコールドスプレー装置100の構成に限定されるものではない。
【0040】
続く工程S4において、伝熱シート18を介して、工程S3において形成した緩衝層11に冷却器12を貼り付ける。それにより、
図1に示すパワーモジュール1が完成する。
【0041】
次に、工程S2における混合粉末の調製方法を詳しく説明する。
本願発明者は、緩衝層11として好適な高熱伝導率及び低熱膨張率を有し、且つ、容易に作製することができる複合材を探索するため、銅に対して種々の材料を添加した混合粉末を用いてコールドスプレー法により皮膜を形成する実験を実施した。
図4は、母材である銅及び添加材として用いた材料の特性を示す表である。併せて、
図4の右端に、基材(
図1に示す絶縁基材13)として用いる窒化ケイ素の特性を示す。
【0042】
具体的には、以下の実験(1)〜(3)を行った。
実験(1):銅の粉末と添加材の粉末との混合比率を種々の比率で混合し、コールドスプレー法により、50mm角×3mm厚のアルミニウム基材(A1050)上に10mmの皮膜を形成した。銅の粉末としては、水アトマイズ法で作製した中心粒径25μmの粉末を用い、乾式混合法により添加材の粉末と混合した。銅の粉末と添加材の粉末との混合比率は、銅:添加材=20:80、50:50、及び80:20の3種類とした。また、コールドスプレー条件としては、圧縮ガスの温度を800℃とし、ガス圧力を3MPaとした。
【0043】
そして、形成した皮膜における銅の体積含有率を測定し、混合粉末における銅の体積含有率と、皮膜における銅の体積含有率との相関を求めた。皮膜における銅の体積含有率は、皮膜表面のSEM画像に対して画像解析を行い、銅の領域の面積と添加材の領域の面積とを比較することにより算出した。
【0044】
実験(2):実験(1)と同様にして厚さ10mmの皮膜を形成し、この皮膜から2mm角×40mm厚の試験片を放電ワイヤー法により切り出し、四端子法により導電率を測定した。該測定結果より、皮膜における銅の体積含有率と導電率との相関を求めた。
【0045】
実験(3):実験(1)と同様にして厚さ10mmの皮膜を形成し、この皮膜から2mm角×15mm厚の試験片を放電ワイヤー法により切り出し、皮膜の堆積方向と直交する方向における熱膨張率を測定した。該測定結果より、皮膜における銅の体積含有率と熱膨張率との相関を求めた。
【0046】
図5A〜
図5Cは、中心粒径が約25μmのクロム(Cr)の粉末を添加材として用いた場合の実験(1)〜(3)の結果をそれぞれ示すグラフである。このうち、
図5Aの横軸は、成膜前の混合粉末における銅の体積含有率[vol%]を示し、縦軸は、成膜後の皮膜における銅の体積含有率[vol%]を示す。
【0047】
また、
図5Bの横軸は、皮膜における銅の体積含有率[vol%]を示し、縦軸は、純銅に対する導電率比[%]を示す。ここで、純銅に対する導電率比は、純銅に対する熱伝導率比に対応するため、以下においては、導電率比により熱伝導率比を評価する。
図5Bには併せて、銅の体積含有率に対する熱伝導率比の理論値も表示している。この理論値は、次式(1)により算出されたものである。
【数1】
【0048】
式(1)における各符号は、以下の値を示す。
1−Φ:複合材における添加材の体積含有率
λ
c:複合材における熱伝導率
λ
m:母材(銅)の熱伝導率(銅の場合、λ
m=397W/m・K)
λ
a:添加材の熱伝導率
クロムの場合、添加材の熱伝導率λ
aは93.9W/m・Kである。
【0049】
また、
図5Cの横軸は、皮膜における銅の体積含有率[vol%]を示し、縦軸は、熱膨張率(CTE)[×10
-6/K]を示す。
図5Cには併せて、銅の体積含有率に対する熱膨張率の理論値も表示している。この理論値は、次式(2)によって与えられるターナー(Turner)則に従って算出されたものである。
α
c=(v
mE
mα
m+v
aE
aα
a)/(v
mE
m+v
aE
a) …(2)
【0050】
式(2)における各符号は、以下の値を示す。
α
c:複合材における熱膨張率
v
m:母材(銅)の体積含有率
E
m:母材のヤング率(銅の場合、E
m=120GPa)
α
m:母材の熱膨張率(銅の場合、α
m=16.6×10
-6/K)
v
a:添加材の体積含有率
E
a:添加材のヤング率
α
a:添加材の熱膨張率
クロムの場合、添加材のヤング率E
aは279GPaであり、添加材の熱膨張率α
aは4.9×10
-6/Kである。
【0051】
図5Aに示すように、混合粉末における銅の体積含有率に対し、皮膜においては銅の体積含有率が若干多くなっていた。これは、コールドスプレー法で皮膜を形成した場合、クロムの粉末が皮膜に若干入り込み難いためと考えられる。しかしながら、混合粉末における銅の体積含有率と皮膜における銅の体積含有率との間には概ねリニアな関係が見られるので、粉末の状態における銅とクロムとの混合比率を調節することにより、皮膜における銅とクロムとの比率を制御することは可能である。
【0052】
図5Bに示すように、銅の体積含有率に対する導電率比の実測値は、熱伝導率比の理論値に概ね沿った傾向を示していた。従って、皮膜における銅とクロムとの比率を調節することにより、導電率比(即ち、熱伝導率)を制御できるといえる。例えば、銅の体積含有率を約45%以上(クロムの比率を55%未満)とすることで、導電率比を緩衝層11に好適な50%以上とすることができる。
【0053】
図5Cに示すように、銅の体積含有率に対する熱膨張率(CTE)の実測値は、理論値に対して乖離してしまった。しかしながら、実測値においても、皮膜における銅の体積含有率に対する熱膨張率に一定の関係が見られることから、銅の体積含有率を調節することにより熱膨張率を制御することは可能であるといえる。また、緩衝層11に好適な7.5×10
-6/K以上16.6×10
-6/K未満という熱膨張率は、銅とクロムの比率によらず実現することができる。
【0054】
従って、上記緩衝層11として好ましい特性(熱伝導率及び熱膨張率)を両立させるためには、皮膜における銅の体積含有率を約45%以上100%未満(クロムを0%より多く55%未満)とすれば良い。さらに、
図5Aに示す実験結果を考慮すると、上記好ましい特性を有する皮膜をコールドスプレー法により形成するためには、混合粉末における銅の体積含有率を約15%以上100%未満(クロムを0%より多く85%未満)にすれば良い。
【0055】
図6A〜
図6Cは、中心粒径が約25μmのチタン(Ti)の粉末を添加材として用いた場合の実験(1)〜(3)の結果をそれぞれ示すグラフである。このうち、
図6Bに示す理論値は、式(1)において、添加材の熱伝導率λ
aを21.9W/m・Kとして算出したものである。また、
図6Cに示す理論値は、式(2)において、添加材のヤング率E
aを106GPaとし、添加材の熱膨張率α
aを8.6×10
-6/Kとして算出したものである。
【0056】
図6Aに示すように、混合粉末における銅の体積含有率に対し、皮膜においては銅の体積含有率が若干少なくなっていた。これは、コールドスプレー法で皮膜を形成した場合、チタンの粉末が皮膜に入り込み易いことを示している。また、混合粉末における銅の体積含有率と皮膜における銅の体積含有率との間には概ねリニアな関係が見られるので、粉末の状態における銅とチタンとの混合比率を調節することにより、皮膜における銅とチタンとの比率を制御できることがわかる。
【0057】
図6Bに示すように、銅の体積含有率に対する導電率比の実測値は、熱伝導率の理論値に概ね沿った傾向を示していた。従って、皮膜における銅とチタンとの体積含有率を調節することにより、導電率比を制御できるといえる。例えば、銅の体積含有率を約65%以上(チタンを35%未満)とすることで、導電率比を緩衝層11に好適な50%以上とすることができる。
【0058】
図6Cに示すように、銅の体積含有率に対する熱膨張率の実測値は、理論値に概ね沿った傾向を示していた。従って、皮膜における銅とチタンとの比率を調節することにより、熱膨張率を制御できるといえる。例えば、銅の体積含有率を100%未満(チタンを約0%より多く)とすることで、熱膨張率を緩衝層11に好適な7.5×10
-6/K以上16.6×10
-6/K未満とすることができる。
【0059】
従って、上記緩衝層11として好ましい特性を両立させるためには、皮膜における銅の体積含有率を約65%以上100%未満(チタンを約0%より多く35%未満)とすれば良い。さらに、
図6Aに示す実験結果を考慮すると、上記好ましい特性を有する皮膜をコールドスプレー法により形成するためには、混合粉末における銅の体積含有率を約75%以上100%未満(チタンを0%より多く25%未満)にすれば良い。
【0060】
図7A〜
図7Cは、中心粒径が約4.3μmのタングステンカーバイド(WC)の粉末を添加材として用いた場合の実験(1)〜(3)の結果をそれぞれ示すグラフである。このうち、
図7Cに示す理論値は、式(2)において、添加材のヤング率E
aを780GPaとし、添加材の熱膨張率α
aを5.2×10
-6/Kとして算出したものである。なお、添加材が金属又は合金でない場合、皮膜の純銅に対する導電率比と純銅に対する熱伝導率比とが対応しないため、
図7Bには、熱伝導率比の理論値を記載していない。
【0061】
図7Aに示すように、混合粉末における銅の体積含有率に対し、皮膜においては銅の体積含有率が若干多くなっていた。これは、コールドスプレー法で皮膜を形成した場合、タングステンカーバイドの粉末が皮膜に若干入り込み難いためと考えられる。しかしながら、混合粉末における銅の体積含有率と皮膜における銅の体積含有率との間には概ねリニアな関係が見られるので、粉末の状態における銅とタングステンカーバイドとの混合比率を調節することにより、皮膜における銅とタングステンカーバイドとの比率を制御することは可能である。
【0062】
図7Bに示すように、銅の体積含有率に対する導電率比の実測値は、熱伝導率比の理論値から乖離してしまった。しかしながら、実測値においても、銅の体積含有率に対する導電率比に一定の関係が見られることから、銅とタングステンカーバイドとの比率を調節することにより、皮膜の導電率比を制御することは可能である。例えば、銅の体積含有率を約80%以上100%未満(タングステンカーバイドを0%より多く約20%未満)とすることで、導電率比を緩衝層11に好適な50%以上とすることができる。
【0063】
図7Cに示すように、銅の体積含有率に対する熱膨張率の実測値は、理論値から乖離してしまった。しかしながら、実測値においても、銅の体積含有率に対する熱膨張率に一定の関係が見られることから、銅とタングステンカーバイドとの比率を調節することにより、皮膜の熱膨張率を制御できるといえる。また、銅の体積含有率が70%以上100%未満である場合(タングステンカーバイドが0%より多く30%未満の場合)、緩衝層11に好適な7.5×10
-6/K以上16.6×10
-6/K未満が満たされている。
【0064】
従って、上記緩衝層として好ましい特性を両立させるためには、皮膜における銅の体積含有率を約80%以上100%未満(タングステンカーバイドを約0%より多く20%未満)とすれば良い。さらに、
図7Aに示す実験結果を考慮すると、上記好ましい特性を有する皮膜をコールドスプレー法により形成するためには、混合粉末における銅の体積含有率を約60%以上(タングステンカーバイドを約40%未満)にすれば良い。
【0065】
図8A及び
図8Bは、中心粒径が約30μmのアルミナ(Al
2O
3)の粉末を添加材として用いた場合の実験(1)及び(3)の結果をそれぞれ示すグラフである。このうち、
図8Bに示す理論値は、式(2)において、添加材のヤング率E
aを380GPaとし、添加材の熱膨張率α
aを7.2×10
-6/Kとして算出したものである。なお、添加材が金属又は合金でない場合、皮膜の純銅に対する導電率比と純銅に対する熱伝導率比とが対応しないため、導電率比(熱伝導率比)の評価は行っていない。
【0066】
図8Aに示すように、混合粉末における銅の体積含有率に対し、皮膜における銅の体積含有率が多くなっていた。これは、コールドスプレー法で皮膜を形成する場合、アルミナの粉末が皮膜に入り込み難いことを示している。従って、皮膜においてアルミナの体積含有率を多く(例えば30%以上に)する、或いは、混合粉末における銅とアルミナとの混合比率によって皮膜における両者の比率を制御することは困難といえる。
【0067】
図8Bに示すように、実験データの範囲では、緩衝層11に好適な熱膨張率(7.5×10
-6/K以上16.6×10
-6/K未満)を得ることはできなかった。また、銅の体積含有率に対する熱膨張率の実測値は、理論値から乖離していたため、銅とアルミナとの比率を調節することにより、皮膜の熱膨張率を制御することも困難といえる。
【0068】
図9A及び
図9Bは、中心粒径が約30μmの炭化ケイ素(SiC)の粉末を添加材として用いた場合の実験(1)及び(3)の結果をそれぞれ示すグラフである。このうち、
図9Bに示す理論値は、式(2)において、添加材のヤング率E
aを450GPaとし、添加材の熱膨張率α
aを4.4×10
-6/Kとして算出したものである。
【0069】
図9Aに示すように、混合粉末における銅の体積含有率に対し、皮膜においては銅の体積含有率が多くなっていた。これは、コールドスプレー法で皮膜を形成する場合、炭化ケイ素の粉末が皮膜に入り込み難いことを示している。従って、皮膜において炭化ケイ素の体積含有率を多く(例えば20%以上に)する、或いは、混合粉末における銅と炭化ケイ素との混合比率によって皮膜における両者の比率を制御することは困難である。
【0070】
図9Bに示すように、実験データの範囲では、緩衝層11に好適な熱膨張率(7.5×10
-6/K以上16.6×10
-6/K未満)を得ることはできなかった。また、銅の体積含有率に対する熱膨張率の実測値は、理論値から乖離していたため、銅の炭化ケイ素との比率を調節することにより、皮膜の熱膨張率を制御することも困難といえる。
【0071】
図10A及び
図10Bは、中心粒径が約25μmの炭素(C)の粉末を添加材として用いた場合の実験(1)及び(3)の結果をそれぞれ示すグラフである。このうち、
図10Bに示す理論値は、式(2)において、添加材のヤング率E
aを15GPaとし、添加材の熱膨張率α
aを4.4×10
-6/Kとして算出したものである。
【0072】
図10Aに示すように、混合粉末における銅の体積含有率に対し、皮膜における銅の体積含有率が多くなっていた。これは、コールドスプレー法で皮膜を形成する場合、炭素の粉末が皮膜に入り込み難いことを示している。従って、皮膜において炭素の体積含有率を多く(例えば10%以上に)する、或いは、混合粉末における銅と炭素との混合比率によって皮膜における両者の比率を制御することは困難である。
【0073】
図10Bに示すように、実験データの範囲では、緩衝層11に好適な熱膨張率(7.5×10
-6/K以上16.6×10
-6/K未満)を得ることはできなかった。また、
図10Aに示す実験結果を考慮すると、そもそも、皮膜における銅と炭素との比率を制御することが困難であるので、皮膜の熱膨張率を制御することも困難といえる。
【0074】
これらの実験結果から、緩衝層11に好適な熱伝導率及び熱膨張率を有する皮膜を形成するためには、添加材としてクロム、チタン、又はタングステンカーバイドを用いることが好ましいことがわかる。より詳細には、添加材としてクロムを用いる場合には、皮膜における添加材の体積含有率を0%より多く55%未満にすると良い。また、添加材としてチタンを用いる場合には、皮膜における添加材の体積含有率を0%より多く35%未満にすると良い。さらに、添加材としてタングステンカーバイドを用いる場合には、皮膜における添加材の体積含有率を0%より多く20%未満にすると良い。また、これらの添加材の比率は、混合粉末における銅と添加材との混合比率を調節することにより、制御することができる。
【0075】
以上説明したように、本実施の形態1によれば、コールドスプレー法を用いることにより、緩衝層11を基板10(金属層17)上に直接形成することができる。そのため、絶縁基材13と冷却器12との間における熱応力を緩和することができる。また、従来のパワーモジュールの構成に対し、伝熱シートやグリス等の熱抵抗層を1層省くことができる。従って、基板10において発生した熱を効率良く放出することができ、且つ耐久性に優れたパワーモジュールを実現することが可能となる。
【0076】
また、本実施の形態1によれば、銅と、クロム、チタン、又はタングステンカーバイドからなる添加材との混合粉末をコールドスプレー法の材料粉末に適用するので、粉末の混合比率を調節することで、所望の組成比を有する皮膜、言い換えると、所望の熱膨張率や熱伝導率を有する皮膜を容易に形成することができる。また、銅と添加材との粉末の混合比率を調節することにより、皮膜の熱膨張率や熱伝導率を容易に制御することができる。従って、パワーモジュール1における緩衝層11のように、低熱膨張且つ高熱伝導といった要求される特性等に応じた皮膜を容易に実現することができる。さらに、このような皮膜の組成や特性の制御を、焼結体の場合よりも容易且つ安価に行うことができる。
【0077】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。
図11は、本実施の形態2に係るパワーモジュールの構造を示す断面図である。
図11に示すパワーモジュール2は、
図1に示すパワーモジュール1に対し、緩衝層11が冷却器12の表面(
図1においては上面)に直接形成されていると共に、伝熱シート18を介して緩衝層11が基板10の金属層17側に接着されている点が異なる。各部の材料や構成については、実施の形態1と同様である。
【0078】
図12は、パワーモジュール2の製造方法を示すフローチャートである。このうち、工程S1及びS2については、実施の形態1と同様である。
工程S2に続く工程S5において、コールドスプレー法により、冷却器12に緩衝層11を形成する。即ち、
図3に例示するコールドスプレー装置100において、基材110として冷却器12の基部12aの表面(
図11においては上面)をスプレーガン103に向けて配置すると共に、工程S2において調製した混合粉末を粉末供給装置102に投入して、皮膜形成を行う。
【0079】
続く工程S6において、伝熱シート18を介して、工程S5において形成した緩衝層11に、工程S1において作製した基板10を貼り付ける。それにより、
図11に示すパワーモジュール2が完成する。
【0080】
このように、本実施の形態2によれば、冷却器12側に直接緩衝層11を形成する場合においても、従来のパワーモジュールの構成に対し、伝熱シートやグリス等の熱抵抗層を1層省くことができるので、基板10において発生した熱を効率良く放出することができ、且つ耐久性に優れたパワーモジュールを実現することが可能となる。