特許第5940603号(P5940603)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5940603分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針およびこれを用いた近接場顕微鏡、近接場顕微鏡を用いた分光分析方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940603
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針およびこれを用いた近接場顕微鏡、近接場顕微鏡を用いた分光分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01Q 60/22 20100101AFI20160616BHJP
   G01Q 60/18 20100101ALI20160616BHJP
【FI】
   G01Q60/22 101
   G01Q60/18
【請求項の数】20
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-153198(P2014-153198)
(22)【出願日】2014年7月28日
(65)【公開番号】特開2015-28481(P2015-28481A)
(43)【公開日】2015年2月12日
【審査請求日】2014年7月28日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0089529
(32)【優先日】2013年7月29日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】508355493
【氏名又は名称】浦項工科大學校 産學協力團
【氏名又は名称原語表記】POSTECH ACADEMY−INDUSTRY FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125874
【弁理士】
【氏名又は名称】川端 純市
(72)【発明者】
【氏名】ハン・ヘウク
(72)【発明者】
【氏名】ト・ヨンウン
(72)【発明者】
【氏名】ムン・キウォン
【審査官】 野田 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−271297(JP,A)
【文献】 特開2001−004519(JP,A)
【文献】 米国特許第06525808(US,B1)
【文献】 特表2004−533604(JP,A)
【文献】 特開2012−052848(JP,A)
【文献】 特開2002−148172(JP,A)
【文献】 NABER A, MAAS H‐J, RAZAVI K, FISCHER U C,Dynamic force distance control suited to various probes for scanning near-field optical microscopy,REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS,1999年,VOLUME 70, NUMBER 10,第3955−3961頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速パルスレーザで生成されたテラヘルツパルスを受信して分光測定するためのチューニングフォーク基盤の近接場探針であって、
互いに間隔をおいて配列された第1電極および第2電極と;
前記第2電極の一側端に下方向に付着し、試験片に対して垂直方向に振動するワイヤ形状のナノ探針とを含む分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針において、
前記ナノ探針は、
光を集束させる手段を通して入射するテラヘルツパルスを受信するシャフトと;
前記受信したテラヘルツパルスを局所化して前記試験片と相互作用させ、この過程で前記試験片の局所的情報を取得したテラヘルツパルスを大気中に散乱させる終端部と;
前記シャフトと前記終端部とを連結するテーパード部とを含み、
前記ナノ探針の振動を安定化させるために、前記ナノ探針と長さおよび重量が同一のナイフエッジを、前記第1電極の一側端に備えたことを特徴とする分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針。
【請求項2】
前記ナノ探針の材質は、タングステンまたは伝導性の金属材質であることを特徴とする、請求項1に記載の分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針。
【請求項3】
前記ナイフエッジは、前記ナノ探針と材質が同一で長さが類似しており、終端部が刃形状からなることを特徴とする、請求項に記載の分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針。
【請求項4】
前記シャフトの直径は1μm以上であり、前記終端部の有効半径は10nm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針。
【請求項5】
前記ナノ探針の長さは3mm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針。
【請求項6】
前記ナノ探針の長さは、前記テラヘルツパルスがf1〜f2(f1<f2)の周波数帯域を有する広帯域パルス光源の場合、c/2f2(c:光の速度)以上であることを特徴とする、請求項1に記載の分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針。
【請求項7】
前記試験片との相互作用による前記テラヘルツパルスの過渡反応の持続時間をTとする時、前記ナノ探針の長さはcT/2(c:光の速度)以上であることを特徴とする、請求項1に記載の分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針。
【請求項8】
高速パルスレーザで生成されたレーザパルスをテラヘルツパルス発生装置に伝達するための複数のビームスプリッタ、鏡、レンズを含み、前記高速パルスレーザで生成されたレーザパルスの一部を電場検出器に伝達するための1つ以上のビームスプリッタおよび複数の鏡を含む光学系と;
位置および高さの制御が可能な試験片据置台と;
前記テラヘルツパルス発生装置で発生したテラヘルツパルスを試験片に伝達して集束するための複数の第1光学部品と;
互いに間隔をおいて配列された第1電極および第2電極と、前記第2電極の一側端に下方向に付着し、前記試験片に対して垂直方向に振動するワイヤ形状のナノ探針とを備えるが、前記ナノ探針は、前記第1光学部品を通して集束されたテラヘルツパルスを受信するシャフトと、前記集束されたテラヘルツパルスを前記試験片と相互作用させ、相互作用過程を経たテラヘルツパルスを大気中に散乱させる終端部と、前記シャフトと前記終端部とを連結するテーパード部とを含むチューニングフォーク基盤の近接場探針と;
前記近接場探針を振動させるために、前記近接場探針の第1電極および第2電極に連結された交流電圧発生装置と;
前記チューニングフォーク基盤の近接場探針で散乱された電場を測定する電場検出器と;
前記試験片据置台の高さを調節し、前記近接場探針の端部分と前記試験片との間の距離が一定に維持されるようにする制御装置と;
前記試験片上で直接反射したテラヘルツパルスと、近接場探針の端部分で散乱したパルスの一部を前記電場検出器の表面に集束させる複数の第2光学部品と;
前記電場検出器を通して検出された信号をナノ探針の振動周波数または前記ナノ探針の高調波で復調し、前記ナノ探針の振動によって変調された成分を抽出するロックインアンプと;
前記テラヘルツパルスの過渡反応を時間領域で測定するための機械的光遅延器と;
測定された過渡反応を周波数領域で分析し、前記試験片に対する特性スペクトルを測定するコントロールPCとを含み、
前記シャフトおよび前記テーパード部の長さを合わせた前記ナノ探針の長さが、光を集束させる手段を通して集束されたテラヘルツビームの焦点半径より長いことを特徴とする、分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針を用いた近接場顕微鏡。
【請求項9】
前記近接場探針は、25〜32KHzで駆動されることを特徴とする、請求項に記載の分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針を用いた近接場顕微鏡。
【請求項10】
前記ナノ探針の材質は、タングステンまたは伝導性の金属材質であることを特徴とする、請求項に記載の分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針を用いた近接場顕微鏡。
【請求項11】
前記ナノ探針の振動を安定化させるために、前記ナノ探針と長さおよび重量が同一のナイフエッジを、前記第1電極の一側端に備えたことを特徴とする、請求項に記載の分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針を用いた近接場顕微鏡。
【請求項12】
前記ナイフエッジは、前記ナノ探針と材質が同一で長さが類似しており、その終端部が刃形状からなることを特徴とする、請求項11に記載の分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針を用いた近接場顕微鏡。
【請求項13】
前記シャフトの直径は1μm以上であり、前記終端部の有効半径は10nm以上であることを特徴とする、請求項に記載の分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針を用いた近接場顕微鏡。
【請求項14】
前記ナノ探針の長さは3mm以上であることを特徴とする、請求項に記載の分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針を用いた近接場顕微鏡。
【請求項15】
前記ナノ探針の長さは、入射波がf1〜f2(f1<f2)のバンド幅を有する広帯域パルス光源の場合、c/2f1(c:光の速度)以上であることを特徴とする、請求項に記載の分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針を用いた近接場顕微鏡。
【請求項16】
前記ナノ探針の長さは、試験片との相互作用による散乱波の過渡反応の持続時間をTとする時、cT/2以上であることを特徴とする、請求項に記載の分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針を用いた近接場顕微鏡。
【請求項17】
前記テラヘルツパルス発生装置は、InAs、GaAsなどの半導体結晶または半導体結晶上に互いに向き合う金属電極を備える光伝導アンテナ(Photoconductive Antenna)または電気光学結晶(Electro−Optic Crystal)を含むことを特徴とする、請求項に記載の分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針を用いた近接場顕微鏡。
【請求項18】
前記電場検出器は、光伝導アンテナ(Photoconductive Antenna)または電気光学結晶(Electro−Optical Crystal)を含むことを特徴とする、請求項に記載の分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針を用いた近接場顕微鏡。
【請求項19】
前記テラヘルツパルス発生装置で生成されたテラヘルツ波の磁場の方向が探針と垂直であることを特徴とする、請求項に記載の分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針を用いた近接場顕微鏡。
【請求項20】
(a)複数のビームスプリッタ、機械的チョッパ、機械的光遅延器、鏡を用いて、高速パルスレーザで発生する超高速レーザパルスをテラヘルツパルス発生装置に伝達するステップと;
(b)テラヘルツパルス発生装置で発生するテラヘルツパルスをピエゾステージ上に付着した試験片に伝達して集束するステップと;
(c)互いに間隔をおいて配列された第1電極および第2電極のうちの前記第2電極の一側端に下方向に付着し、前記試験片に対して垂直方向に振動するワイヤ形状のナノ探針と、前記第1電極の一側端に付着し、前記ナノ探針の振動を安定化させるワイヤ形状のナイフエッジとを備えるチューニングフォーク基盤の近接場探針を、前記試験片の上部に設けて駆動させるステップと;
(d)前記試験片上で直接反射したテラヘルツパルス波と、前記近接場探針の端部分で散乱したパルス波の電場を電場検出器を通して測定するステップと;
(e)前記電場検出器を通して検出された信号を、ロックインアンプを通して前記ナノ探針の振動周波数または前記ナノ探針の高調波で復調し、前記ナノ探針での散乱波だけを抽出するステップと;
(f)前記ロックインアンプを通して検出された高調波成分を、機械的遅延線をスキャンしながら記録して時領域信号を取得した後、前記取得された時領域信号をフーリエ変換して周波数領域を分析するが、多重反射による二次および三次パルス波を除去した後、フーリエ変換して周波数領域で分析し、前記試験片に対する特性を測定するステップとを含むことを特徴とする、近接場顕微鏡を用いた分光分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメートル級の解像度を有する広帯域分光測定のための近接場探針に関するものであって、特に、探針部のアンテナ効果による多重反射が現れないようにし、ナノ探針の端部分以外の部位における背景散乱信号の発生量を低減可能にすることにより、分光測定を可能にするチューニングフォーク基盤の近接場探針およびこれを用いた近接場顕微鏡、近接場顕微鏡を用いた分光分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学顕微鏡は、生体やナノメートル単位の微細素子構造または表面の形状を観測するのに用いられる。このような光学顕微鏡は、光で物体を観測することから、回折限界による分解能の限界が存在する。一般的に、光学顕微鏡の分解能は、顕微鏡に使用される光の波長の1/2程度に制限される。
【0003】
近接場顕微鏡(NFM:Near−Field Microscopy)の登場によって、このような回折限界が克服され、波長より小さい解像度の光学的イメージを得ることが可能になった。近接場顕微鏡は、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)のような探針を用いた力顕微鏡(Force Microscopy)の技術と光学測定技術が結合された構造を有するもので、被検物質の表面から光の波長より短い距離内にある近接場を、探針の端部分を通して読み出す機器である。物質間の境界面に拘束される近接場は、自由空間を伝播する電場や磁場とは異なり、波長以下の大きさ分布で存在することが可能である。このような近接場は、自由空間に伝播されないため、外部から観察することが難しいが、ナノメートルの大きさの探針を通して拘束されている光を読み出すことが可能である。
【0004】
多くの形態の近接場顕微鏡が存在するが、原子間力顕微鏡(AFM)の探針を近接場探針として活用し、これによって近接場顕微鏡を実現することができる。AFMを通してナノメートル級の高い解像度を有する試験片の地形図(Topography)を得ることができ、光学的方法を結合することにより、物質の光学定数(誘電率、透磁率など)の分布をAFMの解像度と同程度の高い分解能で得ることができ、これによってその物質が何であるかも知ることができる。
【0005】
今のところ、最も高い分解能は、非絞り式近接場顕微鏡によって達成された。この技術は、AFMあるいは類似の力顕微鏡のナノ探針部に光を入射させ、探針部の端で発生する散乱波を遠距離で測定することによって実現される。どの波長の光を使用するかによって、どの波長での光学定数が測定されるかが決定される。広帯域可変波長光源を用いると、広い波長帯域での光学定数スペクトルを得ることができ、これによってナノメートル級の解像度を有する分光技術が実現される。
【0006】
一方、テラヘルツ周波数帯域は、0.1〜数十テラヘルツの振動数を有する電磁波で、光波と電磁波との間の帯域に位置し、現在、この周波数帯域について、光源および検出器、応用技術などの研究開発が盛んに行われている。
【0007】
前記テラヘルツ周波数帯域における分光技術として、パルス光源を用いたテラヘルツ時領域分光法(THz time−domain spectroscopy、THz−TDS)が広く使用される。パルス光源は、周波数帯域からみて、その位相が一致する広帯域光源と見なすことができる。テラヘルツ帯域の広帯域パルスが特定物質を通過すると、物質の分光学的特性がパルスに反映され、パルスの変形が生じる。その解釈により試験片に対する広帯域テラヘルツ分光測定が完成する。
【0008】
図1は、テラヘルツ時領域分光法が適用された従来のテラヘルツ時領域分光器のブロック図であって、同図に示すように、高速パルスレーザ10と、複数のビームスプリッタ11と、機械的チョッパ(Mechanical chopper)12と、機械的光遅延器(Mechanical delay line)13と、InAsウエハ14と、試験片(Sample)15と、テラヘルツ検出器(THz Detector)16と、ロックインアンプ(Lock−in Amplifier)17と、コントロールP18とを含む。
【0009】
図1を参照すれば、高速パルスレーザ10は、100fs以下の持続時間を有するテラヘルツパルスを発生させる。前記テラヘルツパルスは、複数のビームスプリッタ11、機械的チョッパ12、機械的光遅延器13を通して、InAsウエハ(THz emitter)14に入力される。これにより、前記InAsウエハ14において、0〜1psの持続時間と約0〜2.5THzのバンド幅を有するテラヘルツパルスが発生する。テラヘルツ波の発生のために、InAsウエハ14のほか、電気光学結晶(Electro−Optic Crystal)、光伝導アンテナ(Photo−conductive Antenna(PC−Antenna))などが使用できる。
【0010】
このように発生する前記テラヘルツパルスは、放物面鏡などを通して、ムービングステージ(Moving stage)上の試験片15に透過される。そして、前記試験片15を透過したテラヘルツパルスは、テラヘルツ検出器(Photo−Conductive Antenna)16の電極部に入力される。前記テラヘルツ検出器16は、前記経路を通して前記テラヘルツパルスが入力された瞬間に伝導性を呈するが、前記伝導性の持続時間は、前記テラヘルツパルスの持続時間に比べて非常に短い。
【0011】
前記テラヘルツ検出器16には、前記入力されるテラヘルツパルス(プローブパルス)による電場によって電流が流れ、この時の電流量は、前記電場の強さに比例する。テラヘルツ検出のために、光伝導アンテナ(Photo−Conductive Antenna)のほか、電気光学結晶(Electro−Optic Crystal)が使用できる。
【0012】
前記高速パルスレーザ10から出力されるテラヘルツパルスと、前記テラヘルツ検出器16に入力されるプローブパルスとの時間間隔を、前記機械的光遅延器13を通して調節可能なため、前記テラヘルツ検出器16は、時間領域における前記電場の強さを測定することができる。
【0013】
前記テラヘルツ検出器16で測定された電場の強さは、ロックインアンプ17を通してコントロールPC18に入力され、測定された時領域信号は、コントロールPC18によってフーリエ変換されて周波数領域で分析される。これにより、前記試験片15に対する広帯域試験片の特性を測定することができる。
【0014】
前記試験片15の付着したムービングステージを二次元的に動かすことにより、試験片15の光学イメージを得ることができる。この場合の解像度は、試験片15上に集束されたテラヘルツ波の焦点の大きさによって決定され、波長の1/2に制限される。
【0015】
このような解像度の限界を克服するための試みがあった。代表的に、前記図1のような広帯域パルス光源を用いたテラヘルツ時領域分光システムを非絞り式近接場顕微鏡システムと結合し、テラヘルツ帯域での近接場を測定可能なTHz s−SNOM(THz s−SNOM:THz scattering−type scanning near field optical microscope)の概念が提示され、研究されてきた。
【0016】
前記THz s−SNOMにおいて、ピエゾステージ(piezostage)上に試験片が付着し、前記試験片の上部にナノ探針(nanoprobe)が設けられ、前記試験片に対して垂直方向に振動する。ナノ探針は、商用AFMに広く使用されるカンチレバー型近接場探針が主に使用されてきた。
【0017】
図2は、カンチレバー型近接場探針を用いた従来技術を示すもので、同時に示すように、カンチレバー21の一側終端に前記カンチレバー21と垂直方向に探針22が結合された構造となっている。
【0018】
前記ピエゾステージをPID制御することにより、前記試験片と探針の端部分22−1との間の平均距離が一定に維持される。この状態で、前記試験片をスキャンすることにより、試験片の三次元的地形図を得ることができる。
【0019】
このために、テラヘルツ検出器は、前記試験片の表面で反射した波と、ナノ探針20の端部分22−1での散乱波および電磁波を同時に測定する。一般的に、ナノ探針20の端部分22−1での散乱波は、入射波に比べて極めて弱いため、測定された信号からナノ探針20の端部分22−1での散乱波を抽出するのに困難がある。前記散乱波測定のために、散乱波の非線形的特性を利用する。
【0020】
図3は、前記散乱波の非線形的特性を示すものである。図3のように、ナノ探針20の端部分22−1での散乱波は、探針の端部分22−1と試験片23との間の距離gが近くなるにつれ、非線形的に増加する特徴がある。これは、探針の端部分22−1と試験片23との間の近接場の相互作用による結果である。
【0021】
したがって、図4のように、探針の端部分22−1が試験片23に近い時と、探針の端部分22−1が試験片23から比較的に遠く離れている時、それぞれのテラヘルツ検出器で検出される波形の差を求めることにより、探針の端部分22−1での散乱波を検出することができる。前記散乱波は、探針の端部分22−1と試験片23との間の距離に極めて敏感な特性を示す。これに対し、反射波などの他の電磁波は、探針の端部分22−1と試験片23との間の距離に大きな影響を受けない。したがって、前記図4におけるような差を利用して、探針の端部分22−1からの散乱波成分を抽出することができる。実際には、振動するナノ探針によって変調された散乱波を、ロックインアンプを用いて復調することによって測定が行われる。
【0022】
図5は、従来技術にかかるTHz s−SNOMシステムで存在する多様な散乱源(scattering sources)を示すものである。探針の振動周波数をΩとすれば、探針によって変調された信号は、下記の数式1で表される。
【0023】
【数1】
【0024】
前記数式1および図5に示されるように、ロックインアンプを通して信号を復調しても、カンチレバー形態のナノ探針20のボディや基底部で散乱する散乱波Ebは、ナノ探針20の端部分22−1と共にオメガ(Ω)の角速度で変調されるため、ナノ探針の端部分からの散乱信号でないにもかかわらず、ロックインアンプを通した復調信号に反映される。これを背景散乱(background scattering)といい、このような背景散乱を除去するために、Ωでない、2Ωや3Ωの高調波で散乱信号を抽出してきた。
【0025】
広帯域パルス光源およびelectric field detectorで構成されたTHz s−SNOMシステムにおいて、テラヘルツ時領域の散乱波を測定する時、探針のボディ22部分がウェーブガイドとして作用する。これにより、入射波が探針のボディ22に沿って探針の基底部22−2に伝播する現象が現れる。
【0026】
そして、前記基底部に到達された波が再反射し、二次および三次の散乱信号が生成される。前記のように生成される散乱信号は、周波数領域の解釈を複雑にし、測定信号からフーリエ変換を通した分光分析を不可能にする要因となった。
【0027】
図6は、従来のカンチレバーナノ探針におけるウェーブガイド効果および探針の基底部における多重反射現象を示すものである。
【0028】
図8は、従来のカンチレバー形態のナノ探針における散乱波発生領域を示すものである。図8を参照すれば、テラヘルツ帯域のような長波長領域では、回折限界によって放物面鏡により試験片上のナノ探針に集束されたテラヘルツビームの焦点におけるビーム半径(beam radius)がカンチレバーナノ探針の構造より大きくなる。これによって背景散乱(background scattering)が不可避に発生し、被測定物体の光学的特性を測定するのに多くの困難がもたらされる。
【0029】
また、カンチレバー型ナノ探針のウェーブガイド(waveguide)効果および多重反射によって周期的に散乱信号が生成され、試験片の広帯域情報が周期的散乱信号と入り混じることにより、定量的な広帯域の分析に困難があった。図7Aを参照すれば、図6に示すようなナノ探針の基底部での多重反射によって、複数の多重パルスが時間領域で隣接して現れ、一次パルスの過渡反応と二次および三次パルスが入り混じることにより、一次パルスによる過渡反応を分離できなくなる現象が現れる。したがって、図7Bに示すように、周波数分析のためにフーリエ変換をしても、ナノ探針のアンテナ効果によって試験片の周波数特性を分析することが不可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】国際公開第2008/026523号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
本発明が解決しようとする第1の課題は、ナノ探針の端部分以外の部位で発生する背景散乱信号を低減可能にする構造を有するチューニングフォーク基盤の近接場探針を提供することである。
【0032】
本発明が解決しようとする第2の課題は、ナノ探針の構造によって発生する多重反射を遅延させ、散乱信号の時領域の過渡反応を測定することにより、分光測定を可能にするチューニングフォーク基盤の近接場探針を提供することである。
【0033】
本発明が解決しようとする第3の課題は、近接場探針の機械的振動を安定させ、精密な測定を可能にするチューニングフォーク基盤の近接場探針を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0034】
上記の技術的課題を達成するための、本発明の実施形態にかかる分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針は、互いに間隔をおいて配列された第1電極および第2電極と;前記第2電極の一側端に下方向に付着し、試験片に対して垂直方向に振動するワイヤ形状のナノ探針とを含む分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針において、前記ナノ探針は、光を集束させる手段を通して入射するテラヘルツパルスを受信するシャフトと;前記受信したテラヘルツパルスを局所化して前記試験片と相互作用させ、この過程で前記試験片の局所的情報を取得したテラヘルツパルスを大気中に散乱させる終端部と;前記シャフトと前記終端部とを連結するテーパード部とを含み、前記シャフトおよび前記テーパード部の長さを合わせた長さで定義される前記ナノ探針の長さが、前記光を集束させる手段を通して集束された前記テラヘルツパルスによるビームの焦点半径より長く形成される。
【0035】
上記の技術的課題を達成するための、本発明の他の実施形態にかかる分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針を用いた近接場顕微鏡は、高速パルスレーザで生成されたレーザパルスをテラヘルツパルス発生装置に伝達するための複数のビームスプリッタ、鏡、レンズを含み、前記高速パルスレーザで生成されたレーザパルスの一部を電場検出器に伝達するための1つ以上のビームスプリッタおよび複数の鏡を含む光学系と;位置および高さの制御が可能な試験片据置台と;前記テラヘルツパルス発生装置で発生したテラヘルツパルスを試験片に伝達して集束するための複数の第1光学部品と;互いに間隔をおいて配列された第1電極および第2電極と、前記第2電極の一側端に下方向に付着し、前記試験片に対して垂直方向に振動するワイヤ形状のナノ探針とを備えるが、前記ナノ探針は、前記第1光学部品を通して集束されたテラヘルツパルスを受信するシャフトと、前記集束されたテラヘルツパルスを前記試験片と相互作用させ、相互作用過程を経たテラヘルツパルスを大気中に散乱させる終端部と、前記シャフトと前記終端部とを連結するテーパード部とを含むチューニングフォーク基盤の近接場探針と;前記近接場探針を振動させるために、前記近接場探針の第1電極および第2電極に連結された交流電圧発生装置と;前記チューニングフォーク基盤の近接場探針を通して流れる交流電流を測定するための電場検出器と;前記試験片据置台の高さを調節し、前記近接場探針の端部分と前記試験片との間の距離が一定に維持されるようにする制御装置と;前記試験片上で直接反射したテラヘルツパルスと、近接場探針の端部分で散乱したパルスの一部を前記電場検出器の表面に集束させる複数の第2光学部品と;前記電場検出器を通して検出された信号をナノ探針の振動周波数または前記ナノ探針の高調波で復調し、前記ナノ探針の振動によって変調された成分を抽出するロックインアンプと;前記テラヘルツパルスの過渡反応を時間領域で測定するための機械的光遅延器と;測定された過渡反応を周波数領域で分析し、前記試験片に対する特性スペクトルを測定するコントロールPCとを含む。
【0036】
上記の技術的課題を達成するための、本発明のさらに他の実施形態にかかる近接場顕微鏡を用いた分光分析方法は、複数のビームスプリッタ、機械的チョッパ、機械的光遅延器、鏡を用いて、高速パルスレーザで発生する超高速レーザパルスをテラヘルツパルス発生装置に伝達するステップと;テラヘルツパルス発生装置で発生するテラヘルツパルスをピエゾステージ上に付着した試験片に伝達して集束するステップと;互いに間隔をおいて配列された第1電極および第2電極のうちの前記第2電極の一側端に下方向に付着し、前記試験片に対して垂直方向に振動するワイヤ形状のナノ探針と、前記第1電極の一側端に付着し、前記ナノ探針の振動を安定化させるワイヤ形状のナイフエッジとを備えるチューニングフォーク基盤の近接場探針を、前記試験片の上部に設けて駆動させるステップと;前記試験片上で直接反射したテラヘルツパルス波と、前記近接場探針の端部分で散乱したパルス波の電場を電場検出器を通して測定するステップと;前記電場検出器を通して検出された信号を、ロックインアンプを通して前記ナノ探針の振動周波数または前記ナノ探針の高調波で復調し、前記ナノ探針での散乱波だけを抽出するステップと;前記ロックインアンプを通して検出された高調波成分を、機械的遅延線をスキャンしながら記録して時領域信号を取得した後、前記取得された時領域信号をフーリエ変換して周波数領域を分析するが、多重反射による二次および三次パルス波を除去した後、フーリエ変換して周波数領域で分析し、前記試験片に対する特性を測定するステップとを含む。
【発明の効果】
【0037】
本発明の近接場顕微鏡において、ワイヤ形状の金属物質で製作され、試験片に対して垂直方向に振動するが、適切な長さを有するワイヤ形態のナノ探針を備えたチューニングフォークを備えることにより、散乱波の発生が最小化され、これにより、精密な散乱波スペクトルを得ることができる効果がある。
【0038】
また、ナノ探針の長さを十分に長く設計することにより、時領域において二次以上の多重反射信号を時領域で十分に遅延させ、二次および三次波を一次波の過渡反応と分離できるようにする効果がある。
【0039】
さらに、ナノ探針の長さが長くなるにつれて振動特性が不安定になる現象が存在する。ナノ探針が付着した電極の反対側に類似の質量を有するナイフエッジを付着させることにより、機械的振動を安定させる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】テラヘルツ時領域分光法が適用された従来の近接場顕微鏡のブロック図である。
図2】従来技術にかかるナノ探針の概略図である。
図3】散乱波の非線形的特性を示す説明図およびグラフである。
図4】散乱波抽出手法を示す説明図である。
図5】従来技術にかかるTHz s−SNOMシステムで存在する多様な散乱源を示す説明図である。
図6】従来のカンチレバーナノ探針におけるウェーブガイド効果によるファブリペロー干渉原理を示す説明図である。
図7A】多重反射によって生成される時領域の散乱信号の波形図である。
図7B】多重反射による周波数領域での多重峰の生成を示す波形図である。
図8】従来のカンチレバー形態のナノ探針における散乱波発生領域を示す説明図である。
図9】本発明にかかる近接場顕微鏡の解像度向上装置のブロック図である。
図10】チューニングフォーク基盤の近接場探針の平面図である。
図11図10の部分詳細図である。
図12】ナノ探針および探針の端部分における散乱波を示す説明図である。
図13】本発明により散乱波の発生が最小化される原理を示す説明図である。
図14A】ワイヤ形態のナノ探針において探針の長さの変化に応じて二次および三次波が時間的に遅延されることを示す実験結果である。
図14B】ワイヤ形態のナノ探針において探針の長さの変化に応じて二次および三次波が時間的に遅延されることを示す実験結果である。
図15】ワイヤ形態のナノ探針において二次および三次の散乱波が発生する原因を示す図である。
図16】チューニングフォーク基盤の近接場探針に印加される電圧および振幅の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、添付した図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
【0042】
図9は、本発明にかかる近接場顕微鏡の解像度向上装置のブロック図であって、同図に示すように、高速パルスレーザ90と、複数のビームスプリッタ91と、機械的光遅延器(Mechanical delay line)92と、InAsウエハ93と、ピエゾステージ94Aと、試験片(Sample)94Bと、チューニングフォーク(tuning fork)基盤の近接場探針(以下、「近接場探針」という)95と、電場検出器(electric field detector)96と、PLL(Phase Locked Loop)97と、ロックインアンプ(Lock−in Amplifier)98と、コントロールPC(Control Photoconductive)99とを含む。前記電場検出器96として、光伝導アンテナ(Photoconductive Antenna)または電気光学結晶(Electro−Optical Crystal)が使用できる。前記InAsウエハ93の代わりに、テラヘルツパルス発生源として、電気光学結晶(Electro−Optical Crystal)または光伝導アンテナなどが使用できる。ここで、前記複数のビームスプリッタ91、機械的チョッパ(図示せず)、機械的光遅延器92、およびInAsウエハは、テラヘルツパルスを発生させるための光学系の構成要素である。
【0043】
図9は、原子間力顕微鏡にテラヘルツ時領域分光法が適用された形態のテラヘルツ非絞り式近接場顕微鏡(AFMシステム+THz−TDSシステム)のブロック図である。すなわち、図9は、本発明にかかる分光測定のためのチューニングフォーク基盤の近接場探針を用いた近接場顕微鏡のブロック図である。ここで、前記近接場顕微鏡は、散乱波および反射波の間の相互干渉によるアーティファクトが現れないように長く設計されたナノ探針を備えたチューニングフォークを含む。
【0044】
図9を参照すれば、高速パルスレーザ90は、100fs以下の持続時間を有する可視光レーザパルスを発生させる。前記レーザパルスは、複数のビームスプリッタ91、機械的光遅延器92を通して、InAsウエハ(THz emitter)93に入力される。これにより、前記InAsウエハ93において、0〜1psの持続時間と約0〜2.5THzのバンド幅を有するテラヘルツパルスが発生する。
【0045】
このように発生する前記テラヘルツパルスは、放物面鏡などの第1光学部品を通して、ピエゾステージ94A上に付着した試験片94Bに伝達される。前記試験片94Bは、位置および高さの制御が可能な試験片据置台(図示せず)上に置かれる。前記試験片94Bの上部には、近接場探針95が位置する。前記近接場探針95の材質は石英(quartz)であり、端子(図示せず)を通して外部に連結されている。前記近接場探針95は、固有の周波数(例:25〜32KHz)で振動し、本発明によりタングステンワイヤで製作されたナノ探針を備える。前記近接場探針95のナノ探針は、AFMの探針として使用されると同時に、他方では、近接場顕微鏡のナノプローブ(nanoprobe)として使用される。このような近接場探針95は、電気的にキャパシタンス特性を有し、ナノ探針に微細な力が加えられると電気的特徴が変化する特性を有する。したがって、前記近接場探針95は、キャパシタンス特性に基づいて端部分にかかる力を検出する力センサとして活用される。
【0046】
図10は、前記近接場探針95の構造を示す平面図であり、図11は、図10の部分詳細図であって、同図に示すように、第1電極101の上部に第2電極102が一定間隔をおいて配列され、前記第2電極102の一側端に下方向にワイヤ(wire)からなる金属物質のナノ探針(Probe Tip)103が付着し、前記第1電極101の一側端にワイヤ(wire)からなるナイフエッジ(Knife Edge)104が付着する。
【0047】
前記ナノ探針103の下端は電気化学的エッチング法で鋭利に加工され、その有効曲率半径は数nmから数十umまで多様に製作できる。前記ナイフエッジ104の長さおよび重量は、前記ナノ探針103の長さおよび重量に類似するように製作され、端部分が刃形状に製作される。前記ナイフエッジ104は、前記ナノ探針103の対応面に位置し、前記ナノ探針103の振動を安定化させる役割を果たす。
【0048】
前記ナノ探針103は、シャフト(tip shaft)103Aと、テーパード部(tapered region)103Bと、終端部(tip end)103Cとからなる。前記シャフト103Aは、放物面鏡などを通して入射するテラヘルツパルスを受信する役割を果たす。前記テーパード部103Bは、前記シャフト103Aから印加されるテラヘルツパルスを受信する役割と、受信したテラヘルツパルスを前記終端部103Cに集束させる役割を果たす。前記テラヘルツパルスが前記終端部103Cに集束される程度は、前記終端部103Cの有効半径が小さいほど大きくなる。前記テラヘルツパルスが前記終端部103Cに集束される程度が大きいほど、高い解像度が可能になる。前記終端部103Cは、前記集束されたテラヘルツパルスによって前記試験片94Bと相互作用し、前記試験片94Bの情報を含むテラヘルツパルスを大気中に散乱させる役割を果たす。
【0049】
前記ナノ探針103の直径が特に限定されるものではないが、実験結果、シャフト103Aの直径は1μm以上、終端部103Cの有効半径は1nm以上の時、好ましい実験結果が出ることを確認した。前記ナノ探針103の材質も特に限定されるものではないが、タングステン、白金、金などの金属性物質や、半導体を含む誘電体および金属コーティングされた誘電体などの複合材質が、好ましい実験結果が出ることを確認した。このほか、炭素繊維および炭素ナノチューブなどの伝導性素材も使用できる。
【0050】
前記ナノ探針103の長さは、実験結果、ナノ探針に集束されたテラヘルツ波の焦点直径の1/2以上の時、好ましい実験結果が出ることを確認した。また、入射波がf1〜f2(f1<f2)のバンド幅を有する広帯域パルス光源の場合、前記ナノ探針103の長さは、c/2f1(c:光の波長)以上の時、好ましい実験結果が出ることを確認した。さらに、前記ナノ探針103の長さLは、時領域からファブリペロー(Fabry−Perot)現象を除去するために、散乱波の測定に要求されるタイムウィンドウ(time window)をTとする時、2L>cT以上となるようにする時、好ましい実験結果が出ることを確認した。また、前記ナノ探針103の長さは、入射波がf1〜f2(f1<f2)のバンド幅を有する広帯域パルス光源の場合、c/f1=L1に設定する時、好ましい実験結果が出ることを確認した。
【0051】
AC電圧源(図示せず)から供給される共振周波数(例:25〜32KHz)に相当する正弦波信号を前記第1電極101および第2電極102に印加すると、これによって前記第1電極101および第2電極102が振動する。しかし、前記説明のように、前記第1電極101の一側端にナイフエッジ104が付着し、第2電極102の一側端にナノ探針103が付着している。したがって、前記ナノ探針103とナイフエッジ104が前記試験片94Bに対して垂直方向に振動する。
【0052】
つまり、前記近接場探針95は、前記のように機械的に振動し、この時、前記ナノ探針103の終端部103Cと試験片94Bの表面との間に作用する力(atomic force)を測定する役割を果たす。すなわち、前記近接場探針95は、抵抗のように2つの端子を有する素子であって、この素子の電圧および電流の関係がナノ探針103と試験片94Bとの間の力によって変化するが、これに基づいて力を測定し距離を制御する。前記第1電極101および第2電極102の間に流れる電流の実効値が、前記ナノ探針103の終端部103Cと試験片94Bとの間に作用する力と関連があるため、制御装置(図示せず)で前記電流の実効値をモニタリングし、そのモニタリング結果に基づいて前記試験片94Bとナノ探針103との間の平均距離を一定に維持することができる。ここで、前記試験片94Bとナノ探針103との間の平均距離は、前記近接場探針95の特性を測定することによって求められ、ピエゾステージ94AをPID制御することにより、平均距離が一定に維持される。
【0053】
この状態で前記試験片94Bをスキャンすることにより、試験片94Bの三次元的地形図を得ることができる。これについて、以下に図12を参照してより詳細に説明する。
前記のように駆動中のナノ探針103に、前記のような経路を通してテラヘルツ波を集束させる。図12において、前記ナノ探針103の入射波はEexc、反射波はEr、ナノ探針103の端部分での散乱波はEscと表現された。前記散乱波Escの特性は、前記ナノ探針103の端部分の材質とナノ探針103の真下に位置した試験片94Bの局所的光学定数によって決定される。したがって、前記Escを正確に測定し、その測定結果に適切な理論的手法を適用すれば、ナノ探針103の真下に位置した試験片94Bの光学的特性を抽出することができる。前記局所化の程度は、ナノ探針103の端部分103Cの直径(大きさ)に比例する。したがって、端部分103Cの直径の小さいナノ探針103を用いると、その分解像度が向上する。例えば、端部分の直径103Cがナノメートルの大きさのナノ探針103を用いると、ナノメートル級の解像度を得ることができる。
【0054】
前記説明のように、前記ナノ探針103の基底部に付着した近接場探針95は、試験片94Bに対して垂直方向に固有振動数Ωで振動しているため、前記ナノ探針103の端部分103Cで散乱した散乱波は、下記の数式2のようにΩおよび高調波成分の和で表すことができる。
【0055】
【数2】
【0056】
したがって、電場検出器96およびロックインアンプ98を通して前記試験片94B上のオメガ(Ω)または高調波成分を抽出することにより、ナノ探針103の端部分103Cでの散乱波を測定する時、各位置における散乱波および反射波との干渉のない散乱波だけを測定することができる。
【0057】
しかし、前記説明のように、本発明にかかるナノ探針103は、一定の太さを有するワイヤ形態の金属物質で製作され、試験片94Bに対して長さ方向に振動する構造を有するようにした。また、前記ナノ探針103のシャフトの長さを、焦点におけるテラヘルツビームの半径より長く製作した。したがって、ナノ探針103の基底部分での散乱波の発生が最小化される。図13は、本発明にかかるナノ探針103を用いる場合、前記説明のように散乱波の発生が最小化される原理を図式化したものである。
【0058】
以下、図14Aおよび図14Bを参照して、本発明により散乱パルスの多重反射現象が遅延されることを説明する。ナノ探針103の端部分103Cに入射するパルス波によってシャフト部分に表面波(surface wave)が励起される。このように励起された表面波は、前記ナノ探針103の基底部に伝播して反射する(図15図14A図14B参照)。前記ナノ探針103の長さを「L」とする時、2L/c(c:光の速度)の時間後に、二次散乱パルスが生成される。このように生成される散乱パルスによって測定された時領域の散乱信号の分光分析に困難がある。しかし、前記説明のようにナノ探針103の長さが長いことから(例:4mm以上)、時領域において二次以上の多重反射信号の発生が時間的に遅延される。したがって、一次パルスによる散乱信号の過渡信号(transient signal)が終了した後に二次パルスを到達させることにより、2つの信号を時領域で分離することが可能になる。したがって、一番目のパルスによる時領域信号だけを分離してスペクトルを分析することができ、これによって精密な散乱波スペクトルを得ることができる。
【0059】
図14A図14Bは、本発明により、多重反射現象によって発生した時領域の散乱信号の二次および三次パルスが、ナノ探針103の長さが長くなるにつれて、時間上で遅延されて現れたことを確認した実験結果である。
【0060】
図15は、ワイヤ形態のナノ探針103で発生する多重反射の原因を示す図である。
【0061】
電場検出器96は、テラヘルツ(パルス)検出装置であって、前記試験片94B上のテラヘルツ波領域で電場(electric field)を直接測定し、それに応じた測定信号をロックインアンプ98に出力する。
【0062】
ロックインアンプ98は、前記電場検出器96から入力される電場測定信号に基づいてオメガ(Ω)またはその高調波成分を抽出する。
【0063】
コントロールPC99は、前記ロックインアンプ98を通して抽出された高調波成分を、機械的遅延線である機械的光遅延器92をスキャンしながら記録して時領域信号を取得し、このように取得された時領域信号をフーリエ変換して周波数領域で分析する。これにより、前記試験片94Bに対する広帯域試験片の特性を測定することができる。
【0064】
図16は、前記近接場探針95に印加される電圧および振幅の関係を示すグラフである。ここで、横軸は、前記近接場探針95に印加される電圧の大きさ(peak to peak)を意味し、縦軸は、振幅を意味する。理想的な正弦波を近接場探針95に印加しても、これによる機械的振動は完全な正弦波の形態になることができない。通常、前記近接場探針95に印加する正弦波周波数の2倍あるいは3倍に相当する機械的振動成分が同時に存在するが、図16のグラフ上において、基本波(Fundamental)と2次高調波(Second harmonics)は、前記近接場探針95の機械的振動のオメガ成分と2×オメガ成分を意味する。前記近接場探針95は、通常、100nm程度の振幅で駆動し、数nm〜数百nmの駆動が可能である。
【0065】
安定した正弦波形態の振動が測定原理上非常に重要である。このために、ワイヤ形状のナノ探針103を装着した電極102の反対側の電極101に、振動を安定させるためのワイヤ形態のナイフエッジ104を装着し、正弦波に近い機械的振動を可能にした。
以上、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明したが、本発明の権利範囲がこれに限定されるものではなく、以下の請求の範囲で定義する本発明の基本概念に基づいてより多様な実施形態で実現可能であり、このような実施形態も本発明の権利範囲に属する。
【符号の説明】
【0066】
90:高速パルスレーザ
91:ビームスプリッタ
92:機械的光遅延器
93:InAsウエハ
94A:ピエゾステージ
94B:試験片
95:近接場探針
96:電場検出器
97:PLL
98:ロックインアンプ
99:コントロールPC
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15
図16