特許第5940645号(P5940645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5940645軽量強化型低放射率真空断熱ガラス(VIG)窓
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940645
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】軽量強化型低放射率真空断熱ガラス(VIG)窓
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/06 20060101AFI20160616BHJP
   C03C 17/36 20060101ALI20160616BHJP
   C03C 23/00 20060101ALI20160616BHJP
   E06B 3/663 20060101ALI20160616BHJP
   E06B 5/00 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   C03C27/06 101H
   C03C17/36
   C03C23/00 D
   E06B3/663 G
   E06B5/00 B
【請求項の数】5
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-502618(P2014-502618)
(86)(22)【出願日】2012年3月14日
(65)【公表番号】特表2014-514233(P2014-514233A)
(43)【公表日】2014年6月19日
(86)【国際出願番号】US2012029033
(87)【国際公開番号】WO2012134818
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2013年12月25日
(31)【優先権主張番号】13/074,599
(32)【優先日】2011年3月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】グルジボウスキー,リチャード アール
(72)【発明者】
【氏名】パンビアンキ,マイケル エス
(72)【発明者】
【氏名】ストレリツォフ,アレキサンダー ミカイロヴィッチ
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/053943(WO,A1)
【文献】 国際公開第99/045225(WO,A1)
【文献】 特表2010−513197(JP,A)
【文献】 特開2009−242219(JP,A)
【文献】 特開2001−206740(JP,A)
【文献】 米国特許第1770200(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/06
C03C 17/34 − 17/42
C03C 21/00
C03C 23/00
E06B 3/66 − 3/677
E06B 5/00
B32B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空断熱ガラス(VIG)窓であって、
第1ガラス材料から形成された第1本体部分を有し、かつ第1の対向している表面と第1外側エッジとを有している、第1ガラスペイン、
前記第1ガラスペインから間隔を空けかつ前記第1ガラスペインに実質的に平行に配置された、第1距離離れて位置する第2ガラスペインであって、第2ガラス材料から形成された第2本体部分を有し、かつ第2の対向している表面と第2外側エッジとを有している、第2ガラスペイン、
前記第1ガラスペインと前記第2ガラスペインとの間に1気圧(約0.1MPa)未満の真空圧力を有する第1の密封された内部領域を画成するように、前記第1外側エッジおよび前記第2外側エッジの少なくとも夫々の一部の周りに形成された、第1エッジシール、
前記第1ガラスペインの前記第1の表面の一方一体的に形成され、かつ前記第1本体部分からの前記第1ガラス材料から成る、第1の複数のガラス突起スペーサ、および、
前記第1の複数のガラス突起スペーサと、該第1の複数のガラス突起スペーサが形成されている前記第1の表面との両方の上に形成された、第1光学コーティング、
を備えてなり
前記第1ガラスペインが化学強化ガラス材料を含み、かつ、
コーティングされた前記第1の複数のガラス突起スペーサが、前記間隔が空けられた第1距離を維持するように、前記第2ガラスペインに接触していることを特徴とするVIG窓。
【請求項2】
前記第2ガラスペインが化学強化ガラス材料を含んでいることを特徴とする請求項1記載のVIG窓。
【請求項3】
前記第1のガラス突起スペーサの突起高さHが、75μm≦H≦225μmで規定されることを特徴とする請求項1または2記載のVIG窓。
【請求項4】
前記第1ガラスペインおよび前記第2ガラスペインの夫々の厚さが、1mm未満であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のVIG窓。
【請求項5】
真空断熱ガラス(VIG)窓を形成する方法であって、
第1表面と第1エッジとを備えた第1本体部分を有しかつ第1ガラス材料を含んでいる第1ガラスペインにおいて、前記第1本体部分からの前記第1ガラス材料から成る第1の複数のガラス突起スペーサを、前記第1表面一体的に形成するステップ、
前記第1ガラスペインを化学強化するステップ、
前記第1表面と前記第1の複数のガラス突起スペーサとの両方の上に、第1光学コーティングを形成するステップ、
第2表面と第2エッジとを有しかつ第2ガラス材料を含んでいる第2ガラスペインを、前記第1ガラスペインおよび前記第2ガラスペインが前記第1表面と前記第2表面との間で第1距離だけ間隔が空くように、コーティングされた前記第1の複数のガラス突起スペーサに接触させるステップ、
前記第1エッジおよび第2エッジを密封して、前記第1ガラスペインと前記第2ガラスペインとの間に内部領域を画成するステップ、および
前記内部領域内に、1気圧(約0.1MPa)未満の真空圧力を形成するステップ、
を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、その内容が引用されその全体が参照することにより本書に組み込まれる、2011年3月29日に出願された米国特許出願第13/074,599号の優先権の利益を米国特許法第120条の下で主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示は、一般に低放射率(low−E)真空断熱ガラス(vacuum-insulated glass;VIG)窓に関し、より具体的には、少なくとも1つの化学強化されたガラスのペインを含み、かつガラス突起スペーサを1以上のガラスペイン内で形成して備えている、真空断熱ガラス窓に関する。
【背景技術】
【0003】
真空断熱ガラス(VIG)窓は典型的には2以上のガラスペインを含み、これらのペイン間の位置に気体を抜いた空間(すなわち、真空空間)を有している。この全体構造により、通常のガラス窓と比較して断熱特性および防音特性が向上する。垂下して隣接するガラスペイン間で接触することを防ぐため、隣接するガラスペイン間に個別のスペーサが設けられることがある。スペーサは、アルミニウム、プラスチック、セラミック、またはガラスから作製され得る。スペーサは従来、ガラスペインとは別個のものであり、すなわちガラスペイン間に配置されかつ固定された、分離した個別の部材である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のスペーサはペインの分離に効果的であるが、窓を通して見たときにスペーサが目に見えやすいため、窓が見苦しくなってしまう。さらに、低放射率コーティングを有した真空断熱ガラス窓では、特に室内のペインと屋外のペインとの間の熱膨張の差によってガラスペインおよびスペーサに相対運動を生じさせ得る熱勾配に曝されたときに、従来のスペーサではlow−Eコーティングを摩耗させることがある。摩耗した、あるいは摩耗していなくても損傷を受けたlow−Eコーティングは、入射光を不均一に反射し、これが窓ガラスにおいて望ましくない光学効果である、いわゆる「スターライト放射(starlight emission)」として現れる。さらに、ペイン間に個別のスペーサを配置し、次いでスペーサをペインに固定する必要があるため、コストが高くなりかつVIG窓の製造プロセスがより複雑になる。
【0005】
上記に鑑みて、経済的なlow−E真空断熱ガラス窓と、これに伴うこの窓を作製するための方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、低放射率VIG窓と、このような窓を形成する方法に関する。一実施の形態によれば、真空断熱ガラス窓は、第1ガラス材料から形成された第1本体部分を有し、かつ第1の対向している表面と、第1外側エッジとを有している、第1ガラスペイン、第1ガラスペインから間隔を空けかつ第1ガラスペインに実質的に平行に配置された、第1距離離れて位置する第2ガラスペインであって、第2ガラス材料から形成された第2本体部分を有し、かつ第2の対向している表面と、第2外側エッジとを有している、第2ガラスペイン、および、第1ガラスペインと第2ガラスペインとの間に1気圧(約0.1MPa)未満の真空圧力を有する第1の密封された内部領域を画成するように、第1外側エッジおよび第2外側エッジの少なくとも夫々の一部の周りに形成された、第1エッジシール、を備えている。第1の複数のガラス突起スペーサが、第1ガラスペインの第1の表面の一方内で一体的に形成され、かつこれら第1の複数のガラス突起スペーサは、第1本体部分からの第1ガラス材料から成る。第1光学コーティングが、第1のガラス突起スペーサと、第1のガラス突起スペーサが形成されている第1の表面との両方の上に形成されている。組み立てられた窓において、コーティングされた複数のガラス突起スペーサは、前記の間隔が空けられた第1距離を維持するように、第2ガラスペインに接触している。第1ガラスペインおよび第2ガラスペインのうちの少なくとも一方が、化学強化ガラス材料を含む。さらなる実施形態において、VIG窓は第3ペインを含む。
【0007】
VIG窓を形成する一例の方法は、第1表面と第1エッジとを備えた第1本体部分を有しかつ第1ガラス材料を含んでいる、第1ガラスペインを、提供するステップ、および、第1本体部分からの第1ガラス材料から成る第1の複数のガラス突起スペーサを、第1表面内で一体的に形成するステップ、を含む。第1光学コーティングが、第1表面と第1の複数のガラス突起スペーサとの両方の上に形成される。第1ガラスペインのコーティングされた複数のガラス突起スペーサを、第2表面と第2エッジとを有している化学強化された第2ガラスペインに接触させて、第1ガラスペインおよび第2ガラスペインが第1表面と第2表面との間で第1距離だけ間隔が空くようにする。第1エッジおよび第2エッジを密封して、第1ガラスペインと第2ガラスペインとの間に内部領域を画成し、かつ1気圧(約0.1MPa)未満の真空圧力をこの内部領域内に形成する。実施形態において、ガラス突起スペーサを、化学強化された第1ガラスペイン内で形成してもよい。化学強化は典型的には、ガラス突起スペーサを形成する前に行われる。
【0008】
さらなる態様、特徴、および利点は、以下の詳細な説明の中に明記され、ある程度はその説明から当業者には容易に明らかになるであろうし、あるいは、以下の詳細な説明、請求項、さらに添付の図面を含め、本書において説明されるように本発明を実施することにより認識されるであろう。
【0009】
前述の一般的な説明および以下の詳細な説明は、請求される本発明の本質および特徴を理解するための概要または構成を提供するよう意図されていることを理解されたい。添付の図面は、さらなる理解を提供するために含まれているものであり、本明細書に組み込まれかつその一部を構成する。図面は種々の実施形態を示し、そしてその説明とともに、本発明の原理および動作の説明に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態による一例の2ペインVIG窓の前面図
図2図1のVIG窓を方向CS−CSから見た断面図
図3】一例のガラス突起スペーサの拡大断面図
図4A図2に類似した断面図であって、ガラス突起スペーサがその両表面内で形成された中間ガラスペインを含む、3ペインVIG窓の一実施形態例を示している図
図4B】第2組のガラス突起スペーサが、中間ガラスペインではなく後方ガラスペイン内で形成されていることを除き、図4Aに類似した図
図4C】第1組および第2組のガラス突起スペーサが、中間ガラスペインではなく前方ガラスペインおよび後方ガラスペイン内で形成されていることを除き、図4Aに類似した図
図5A】透明なアルカリ土類アルミノケイ酸塩ガラスに対するUVおよび可視波長スペクトルでの典型的な透過曲線(透過率(%)対波長(nm))を示したグラフ
図5B】透明なソーダ石灰ガラスに対するUVおよび可視波長スペクトルでの典型的な透過曲線(透過率(%)対波長(nm))を示したグラフ
図6】VIG窓を形成するプロセスにおいてガラスペイン内でガラス突起スペーサを形成するために使用される、一例のレーザベースのガラス突起形成装置を示した概略図
図7】パルスレーザからの光パルスから形成されるレーザ光ビームの一実施形態例を示した概略図
図8】レーザ出力P(W)、距離DF、およびソーダ石灰ガラスペインに対するガラス突起スペーサの高さHを表した棒グラフ
図9】3mmのソーダ石灰ガラスペインサンプル内で形成されたガラス突起スペーサの3次元画像
図10図9のガラス突起スペーサのライン走査であって、実質的に半球状の突起の外形を示した図
図11】ガラス突起スペーサが実質的に平坦な最上部を有していることを除き、図9に示したものに類似したガラス突起スペーサの3次元画像
図12】赤外線反射コーティング有している一例のガラスペインを示した概略側面図
図13図12のガラスペイン内で形成された、コーティングされていないガラス突起スペーサの拡大断面図
図14図12のガラスペイン内で形成された、コーティングされたガラス突起スペーサの拡大断面図
図15】一実施の形態によるVIG窓内のガラスペインアセンブリの断面図
図16】さらなる実施形態によるVIG窓内のガラスペインアセンブリの断面図
図17】さらに別の実施形態によるVIG窓内のガラスペインアセンブリの断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
真空断熱ガラス(VIG)窓は、第1ガラスペイン、第1ガラスペインから間隔を空けかつ第1ガラスペインに実質的に平行に配置された、第1距離離れて位置する第2ガラスペイン、第1ガラスペインの第1表面内で一体的に形成された複数のガラス突起スペーサ、および、ガラス突起スペーサと第1ガラス突起スペーサが形成されている第1表面との両方の上に形成された、第1光学コーティングを備え、第1ガラスペインおよび第2ガラスペインのうちの少なくとも一方が化学強化ガラス材料を含み、かつ前記の間隔が空けられた第1距離を維持するように、コーティングされた複数のガラス突起スペーサが第2ガラスペインに接触していることを特徴とする。2以上のガラスペインを、隣接するガラスペイン間に真空領域を有するVIG窓に組み込んでもよい。ガラス突起スペーサ、化学強化ガラスペイン、および低放射率(low−E)コーティングなどの光学コーティングを形成する態様を以下で説明する。
【0012】
本書で開示されるように、ガラス突起スペーサはガラスペイン「内で形成」される。「内で形成」されるとは、ガラス突起スペーサが、他の部分が実質的に平坦なガラスペイン表面から外側に凸状に突出するように、ガラスペインの本体部分から外側に成長し、かつガラスペインを構成しているガラス材料から形成されていることを意味する。ガラス突起スペーサは、光誘起吸収を用いてガラスペイン内で形成することができる。
【0013】
「光誘起吸収」という用語は、ガラスペインを局所的に放射に露出する(照射する)ことによるガラスペインの吸収スペクトルの局所的変化を意味するように広く理解されている。光誘起吸収は、限定するものではないが、紫外線波長、近紫外線波長、可視波長、近赤外波長、および/または赤外波長を含む、波長または波長範囲での、吸収の変化を含み得る。透明なガラスペインにおける光誘起吸収の例としては、例えば限定するものではないが、色中心の形成、一時的なガラス欠陥形成、および恒久的なガラス欠陥形成が挙げられる。
【0014】
本書において画成される窓は、紫外線波長、近紫外線波長、可視波長、近赤外波長、および/または赤外波長を有する電磁(EM)放射を含めた、EM放射に対して少なくとも部分的に透明な、2以上のガラスペインを備えた物品である。
【0015】
一体的に形成されたガラス突起スペーサを備えたVIG窓
図1は、2つのペインのVIG窓10の一実施形態例を示した前面図である。図2は、図1の例のVIG窓10を方向CS−CSから見た断面図である。デカルト座標が参照のために示されている。VIG窓10は、2つのガラスペイン20、すなわち互いに対向しかつ実質的に平行に配置された、前方ガラスペイン20Fおよび後方ガラスペイン20Bを含んでいる。前方ガラスペイン20Fは、第1ガラス材料から作製された本体部分23Fを有し、さらに外側表面22Fおよび内側表面24Fと外側エッジ28Fとを含んでいる。同様に、後方ガラスペイン20Bは第2ガラス材料から作製された本体部分23Bを有し、さらに外側表面22Bおよび内側表面24Bと外側エッジ28Bとを含んでいる。一実施形態例において、本体部分23Fおよび23Bを構成している第1ガラス材料および第2ガラス材料は同一のものである。さらなる実施形態例において、本体部分23Fおよび23Bを構成している第1ガラス材料および第2ガラス材料のいずれか一方または両方は、化学強化ガラスを含み得る。
【0016】
前方ガラスペイン20Fおよび後方ガラスペイン20Bは、その夫々の内側表面24Fおよび24Bから測定して、距離DGだけ分離している。外側エッジ28Fおよび28Bの夫々にエッジシール30が提供され、各外側エッジの少なくとも一部を包囲して気密シールを提供する。エッジシール30と前方および後方ガラスペインの内側表面24Fおよび24Bとで、密封された内部領域40を画成する。密封された内部領域40は、1気圧(約0.1MPa)未満の真空圧力を有するように少なくとも部分的に真空にすることが好ましく、これにより、望ましい断熱特性および防音特性を有するVIG窓10が提供される。
【0017】
VIG窓10は、後方ガラスペイン20Bの内側表面24B内で一体的に形成された、複数のガラス突起スペーサ50をさらに含んでいる。図3は、一例のガラス突起スペーサ50の拡大図である。ガラス突起スペーサ50は、後方ガラスペイン20B内で一体的に形成されたものであり、分離部材または個別部材としてVIG窓10に追加されたものではないことに留意されたい。すなわちガラス突起50は、後方ガラスペイン20Bと同じ材料から形成され(すなわち同じ材料から成り)、実際には本体部分23Bの拡張部分である。ガラス突起50を形成する方法の例を以下で詳細に論じる。
【0018】
一実施形態例において、ガラス突起スペーサ50は規則的に互いに間隔を空けて配置される。ガラス突起スペーサ50は本体部分23B内で一体的に形成されるため、VIG窓10を通常の(すなわち、実質的法線入射の)視野角から見たときに実質的に目に見えない。そのため、ガラス突起50は図1において破線で示されている。ガラス突起50は、図3に示したように、「先端」すなわち「最上部部分」51を有している。以下で論じるが、最上部部分51は図3に示したような丸みを帯びたものである必要はない。ガラス突起スペーサ50は前方ペインの内側表面24Fに接触して、前方ガラスペイン20Fおよび後方ガラスペイン20Bの間の分離距離DGを維持する働きをする。
【0019】
一実施形態例において、ガラスペイン20Fおよび20Bは、ソーダ石灰ガラスまたはアルカリアルミノケイ酸ガラスから形成され、さらなる実施形態例において、これらの各厚さTGは0.5mmから3mmの間(例えば、0.5、0.7、1、1.5、2、2.5、または3mm)である。一実施形態例において、ガラス突起スペーサ50の高さ(「突起高さ))Hは、50μmから200μmまでの範囲内であり、より好適には75μmから150μmまでの範囲内、さらに好適には100μmから120μmまでの範囲内である。一実施形態例において、ガラスペイン20Fおよび20Bは、実質的に同一の厚さTGを有している(図6参照)。
【0020】
図4Aは、図2に類似した断面図であり、前方ペイン20Fと後方ペイン20Bとの間に中間ガラスペイン20Mを挟んで含んでいる、3つのペインのVIG窓10の実施形態例を示している。中間ガラスペイン20Mは第3ガラス材料の本体部分23Mを有し、さらに前方側面22M、後方側面24M、およびエッジ28Mを含んでいる。第1組および第2組のガラス突起スペーサ50が、中間ペイン20Mの夫々前方側面22Mおよび後方側面24Mの両方内で形成されて、夫々、中間ガラスペイン20Mおよび前方ペイン20F間の距離DGAと、中間ペインおよび後方ペイン20B間の距離DGBとを維持する働きをする。図4Aに示した実施形態例では、単一のエッジシール30が、エッジ28F、28M、および28Bを密封する働きをする。別の実施形態例では複数のエッジシール30が使用され、このとき1つのエッジシールがエッジ28Fおよび28Mの少なくとも夫々の一部を密封する働きをし、かつ他方のエッジシールがエッジ28Mおよび28Bの少なくとも夫々の一部を密封する働きをする(図4B参照)。
【0021】
エッジシール30とガラスペイン表面24Fおよび22Mとで第1の密封された内部領域40Aを画成し、一方エッジシール30とガラスペイン表面24Mおよび24Bとで第2の密封された内部領域40Bを画成する。密封された内部領域40Aおよび40Bは、夫々が1気圧(約0.1MPa)未満の真空圧力を有するように真空にすることが好ましく、これにより、望ましい断熱特性および音響特性を備えた、特に図1および図2に示したような2ペインのVIG窓10の約2倍の絶縁性を備えた、3ペインのVIG窓10が提供される。
【0022】
図4B図4Aに類似したものであり、3ペインのVIG窓10の代替の実施形態例を示しているが、ここでは第2組のガラス突起スペーサ50は、中間ガラスペイン20Mではなく後方ガラスペイン20Bの内側表面24B内で形成されている。図4Bはさらに、上述したような複数のエッジシール30を使用した実施形態例を示している。
【0023】
図4C図4Bに類似したものであり、3ペインのVIG窓10のさらに別の代替の実施形態例を示し、ここでは第1組のガラス突起スペーサ50は、中間ガラスペイン20Mではなく、前方ガラスペイン20Fの内側表面24F内で形成されている。すなわち、図4Cに示した実施形態において、ガラス突起スペーサは内側および外側ペイン内で形成され、一方図4Aに示した実施形態では、ガラス突起スペーサは中間ペイン内で形成されている。
【0024】
以下でさらに詳細に開示するが、低放射率コーティングなどの1以上の光学コーティングを、ガラス突起スペーサ上と、ガラス突起スペーサが形成されている表面上とに形成してもよい。明瞭にするために、図1、2、および4で説明した図示の実施形態では、光学コーティングは省略した。
【0025】
一実施形態例において、中間ガラスペイン20Mはソーダ石灰ガラスまたはアルカリアルミノケイ酸ガラスから形成され、さらなる実施形態例において、この厚さTGは0.5mmから3mmの間である。種々の実施形態において、本体部分23F、23B、および23Mを構成している第1、第2、および第3のガラス材料は、単独で、あるいは任意の組合せで、化学強化ガラスを含んでもよい。一実施形態例において、前方、中間、および後方ガラスペインの本体部分23F、23M、および23Bは、同じガラス材料から作製される。
【0026】
ソーダ石灰ガラスは最も一般的な窓ガラスであるが、本書において開示されるVIG窓は、以下で詳細に説明する方法を用いて一体的なガラス突起スペーサ50を形成することができる任意の種類のガラスに適用することができる。例えば、本書において開示されるVIG窓は、低鉄(「超透明」)窓ガラスや、以下で紹介しかつ論じる他のガラスに適用される。
【0027】
ガラス突起スペーサの形成
窓用ペインに使用される利用可能な透明ガラスは、約800μmから1600μmの間の近赤外(NIR)バンドまたは約340nmから約380nmの間の紫外(UV)バンドなどの、高出力レーザを得られる波長をほとんど吸収しない傾向がある。例えば、アルカリ土類アルミノケイ酸塩ガラスおよびアルミノケイ酸ナトリウムガラス(ニューヨーク州コーニングのコーニング社(Corning Incorporated)から全て入手可能な、Eagle2000(登録商標)ガラス、EagleXG(商標)ガラス、1317ガラス、およびGorilla(商標)ガラスなどのガラス)は、典型的には図5Aに示したような透過スペクトルを有し、またソーダ石灰ガラスは典型的には図5Bに示したような透過スペクトルを有している。図5Aおよび図5Bから明らかであるように、アルカリ土類アルミノケイ酸塩ガラスおよびソーダ石灰ガラスの透過率は、波長355nmで約85%超(ガラス/空気界面での反射によるフレネル損失を含む)であり、このため数百ワットの出力が得られるレーザが使用されない限り、ガラスが小容積であっても、作業点(〜105ポアズ)近くの温度まで加熱することは困難である。
【0028】
意外なことに、アルカリ土類アルミノケイ酸塩ガラス(例えば、上記の「Eagle2000」ガラスおよび「EagleXG」ガラスなどのLCDガラス)、ソーダ石灰ガラス、およびアルミノケイ酸ナトリウムガラス(例えば、上記の1317ガラスおよびGorillaガラス)から形成されたものを含む、特定の透明なガラスペインでは、強力なUVレーザビームを透明なガラスペインに通して伝送することにより、レーザ波長での吸収を十分なレベルまで上昇させ得ることが見出され。特に、高繰返し率、ナノ秒パルス幅のUVレーザが最も効果的であることが見出された。このようなパルスUVレーザビームにおよそ1〜2秒間露出することで、それ以外では比較的低吸収の透明ガラスに、光誘起吸収がもたらされることが見出された。この誘起されたガラス吸収はUV波長で著しく増加して、局所的にガラスペインを(同一のレーザまたは別々のレーザを使用して)その作業温度まで加熱することが可能になり、ガラス突起50の形成を可能にする。UV生成の吸収は、照射が終了すると、短時間(例えば、数秒)で弱まる。
【0029】
中赤外波長レーザなどの他の種類のレーザを、ほとんどの透明ガラス材料に対してUVレーザの代わりに使用することができる。一例の中赤外波長レーザは、約2.7μmの波長を有するレーザビームを生成する。説明のために、UVレーザを、本書において開示されるVIG窓を形成するために使用される装置と関連付けて、以下で説明および検討する。
【0030】
図6は、VIG窓10を形成するプロセスにおいてガラスペイン20内でガラス突起スペーサ50を形成するために使用される、一例のレーザベース装置(「装置」)100を示した概略図である。装置100は、光軸A1沿いに配置されたレーザ110を含んでいる。レーザ110は、出力Pのレーザビーム112を光軸に沿って放射する。一実施形態例において、レーザ110は紫外線(UV)領域の電磁スペクトルで動作する。
【0031】
さらに図7を参照すると、特定の実施形態例において、レーザ110はレーザビーム112を構成する光パルス112Pを生成するパルスレーザであり、このときこの光パルスは、UV波長(例えば、約355nm)と、ナノ秒スケールの一時的なパルス幅τPとを有している。一実施形態例において、光パルス112Pの一時的なパルス幅τPは、20ns≦τP≦80nsの範囲内であり、かつ繰返し率Rは、50kHz≦R≦200kHzの範囲内である。さらにこの実施形態例において、レーザ110は20ワットのレーザ(すなわち、P=20W)である。一実施形態例において、レーザ110は第3高調波Nd系レーザを含む。図7に示したように、光パルス112Pの間隔は時間量Δtであり、それにより繰返し率はR=1/Δtと画成される。
【0032】
装置100は、光軸A1に沿って配列されかつ焦点FPを含む焦点面PFを画成する、集光光学系120をさらに含む。一実施形態例において、集光光学系120は光軸A1に沿ってレーザ110から順に、デフォーカスレンズ124と第1集束レンズ130との組合せ(この組合せがビーム拡大器を形成する)、および第2集束レンズ132を含む。一実施形態例では、デフォーカスレンズ124の焦点距離fD=−5cm、第1集束レンズ130の焦点距離fC1=20cm、および第2集束レンズ132の焦点距離fC2=3cm、さらに開口数NAC2=0.3である。一実施形態例において、デフォーカスレンズ124と第1集束レンズ130および第2集束レンズ132は、溶融シリカから作製され、かつ反射防止(AR)コーティングを含んでいる。集光光学系120の代替の実施形態例は、レーザビーム112から集束レーザビーム112Fを生成するように構成された、ミラー、またはミラーとレンズ部材との組合せを含む。
【0033】
装置100は、レーザ110に電気的に接続されかつレーザの動作を制御するように適合された、レーザコントローラ、マイクロコントローラ、コンピュータ、マイクロコンピュータなどのコントローラ150をさらに含んでいる。一実施形態例では、シャッター160をレーザビーム112の経路内に提供しかつコントローラ150に電気的に接続させて、レーザ制御信号SLでレーザ110を「ON」および「OFF」するのではなく、シャッター制御信号SSを用いてレーザビームを選択的に遮断してレーザビームを「ON」および「OFF」するようにしてもよい。
【0034】
装置100の動作を開始する前に、前方表面22と後方表面24とを備えた本体部分23を有するガラスペイン20を装置に対して配置する。具体的には、ガラスペイン20を、ガラスペイン前方表面22およびガラスペイン後方表面24が光軸に実質的に垂直になるように、そしてガラスペイン後方表面24がレーザ110に向かう方向に(すなわち+Z方向に)距離DFだけ、焦点面PFから軸方向に若干ずれるように、光軸A1沿いに配置する。一実施形態例において、ガラスペイン20の厚さTGは0.5mm≦TG≦6mmの範囲内である。さらに一実施形態例では、0.5mm≦DF≦2mmである。この配列において、ガラス突起スペーサは、図2の後方ガラスペイン20Bの表面24Bに相当する、ガラスペイン表面24内で形成される。
【0035】
レーザ110をその後、コントローラ150から制御信号SLを介して駆動し、レーザビーム112を生成する。シャッター160を使用する場合には、レーザ110を駆動した後にシャッターを駆動させて、シャッターがレーザビーム112を通過させるように、コントローラ150からシャッター制御信号SSを介してシャッターを「ON」の位置に置く。その後レーザビーム112は集光光学系120に受け入れられ、そこでデフォーカスレンズ124によってレーザビームが発散してデフォーカスレーザビーム112Dが形成される。デフォーカスレーザビーム112Dは次に、デフォーカスレーザビームから拡大コリメートレーザビーム112Cを形成するように配列された、第1集束レンズ130に受け入れられる。コリメートレーザビーム112Cはその後、集束レーザビーム112Fを形成する第2集束レンズ132に受け入れられる。集束レーザビーム112Fはガラスペイン20を通過して、光軸A1沿いの、上述したようにガラスペイン後方表面24から距離DFの位置にある、すなわち本体部分23外にある、焦点FPの位置に、焦点スポットSを形成する。ここで、集束レーザビーム112Fはガラスペインを通過するときに収束するため、ガラスペイン20が光学系120の焦点FPの位置に若干影響を与えることに留意されたい。しかしながら、ガラスペイン20の厚さTGは典型的には十分に薄いため、この焦点シフトの影響は無視できる。
【0036】
集束レーザビーム112Fの一部は、ガラスペイン内における上記光誘起吸収のため、ガラスペイン20を通過するときに吸収される。これは局所的にガラスペイン20を加熱する働きをする。光誘起吸収の量は比較的少なく、例えば約3%から約4%である。集束レーザビーム112Fがガラスペイン20内で局所的に吸収されると、急速な温度変化によって本体部分23内でガラスの膨張が誘発され、本体部分23内に限定的な膨張ゾーンが生成される。膨張ゾーンは、膨張ゾーンを包囲しているガラスの加熱されていない(そのため膨張していない)領域により制約されるため、膨張ゾーン内のガラスは上方に変形することによって内部応力を開放せざるを得ず、それによりガラス突起スペーサ50が形成される。図6の差し込み図に示したように、ガラス突起スペーサ50のピーク51は、最もビーム強度が高い位置に対応する。一実施形態例において、ガラス突起スペーサ50は、ガラスの加熱領域を急速に冷却することによって固定される。この固定は、集束レーザビーム112Fへの露出(すなわち、集束レーザビーム112Fによる照射)を終了させることによって実現することができる。
【0037】
集束レーザビーム112Fがガウシアン分布などの円形対称の断面強度分布を有している場合、局所的加熱およびそれに伴うガラスの膨張はガラスペイン本体23内の円形領域上で生じ、得られるガラス突起スペーサ50は実質的に円形対称になる。
【0038】
このプロセスをガラスペイン内の異なる位置で繰り返して、複数のガラス突起スペーサ50(例えば、ガラス突起スペーサ50のアレイ)をガラスペイン20内に形成することができる。ガラス突起スペーサを形成した後、ガラスペインを随意的にさらに加工して、その後VIG窓10内に組み込んでもよい。一実施形態例において、装置100は、コントローラ150に電気的に接続されかつガラスペイン20を集束レーザビーム112Fに対し大きい矢印172で示したようにX、Y、およびZ方向に動かすように構成された、XYZ台170を含んでいる。これにより、コントローラ150からの台制御信号STを介して台170を選択的に並進させて、ガラスペイン20内の異なる位置を照射することにより、複数のガラス突起スペーサ50を形成することができる。
【0039】
一実施形態例において、ガラス突起スペーサ50は図1に示したように規則的なアレイの状態で形成される。一実施形態例において、隣接するガラス突起スペーサ50間の間隔は、約2インチ(すなわち、約5cm)から6インチ(すなわち、約15cm)の間である。さらに一実施形態例では、ガラス突起スペーサの高さHがその組のガラス突起スペーサに亘り実質的に均一な選択された高さになるようにガラス突起スペーサを形成できるよう、ガラス突起スペーサの形成を、ガラス突起スペーサ50の成長を追跡するフィードバックデバイスまたはシステムを用いて制御する。
【0040】
一実施形態例において、ガラス突起スペーサの形成は、ガラスペイン20を通過する集束レーザビーム112Fの透過率Tを測定することによって追跡する。一実施形態例において、これは、光検出器180を軸A1沿いのガラスペイン20の出力側の位置に配置し、かつ光検出器をコントローラ150に電気的に接続させることによって達成される。集束レーザビーム112Fの透過率Tは、ガラス突起50が形成されると急速に低下する。従って、検出した集束レーザビーム112Fの透過光に応じて光検出器180が生成する、電気的な検出器信号SDの変化によって、この急速な透過率の降下を検出することができる。集束レーザビーム112Fでの照射(露出)を(例えば、上述したようなコントローラ150の制御信号SLまたはSSを使用した動作を介して)終了させると、局所的な加熱が停止されてガラス突起スペーサ50が固定される。一実施形態例では、測定された透過率Tを使用して、1回分の照射量を制御する。
【0041】
代替の実施形態例では、光検出器180をガラスペイン20の入力側に隣接させて配置し、照射プロセス中にガラスペイン本体23から蛍光を検出する。検出された蛍光の閾値変化をその後使用して、露出を終了させたり、あるいは1回分の照射量を調節したりしてもよい。
【0042】
別の実施形態例では、フィードバックサブシステムを使用して照射を制御することにより各ガラス突起スペーサの突起高さを制御してもよい。例えば、第1ガラスペインを通過する集束レーザビームの透過強度、各ガラス突起スペーサ夫々の温度、各ガラス突起スペーサ夫々から発せられる蛍光強度、および各ガラス突起スペーサ夫々の突起高さ、のうちの1以上を監視し、かつこの監視された変動値に関して既定値が測定されたときに照射を終了させることによって照射を制御するように、フィードバックサブシステムを実行してもよい。
【0043】
別の実施形態例において、ガラスペイン20内のガラス突起スペーサ50が形成される位置に集束レーザビーム112Fを選択的に導くことができるよう、集光光学系120は走査用に適合される。
【0044】
突起高さHは、レーザ出力P、繰返し率R、集束条件、およびガラスペイン20を構成しているガラス材料を含む、いくつかの因子に依存する。図8は、集束レーザビーム112Fにおけるレーザ出力(W)、焦点面PFとガラスペイン後方表面24との間の距離DF、およびソーダ石灰ガラスから作製された厚さTG=3mmのガラスペインに対する突起高さHを描いた棒グラフである。図8の棒グラフは、実験データに基づいたものであり、特定の種類のガラスペイン20に対して装置100を使用してガラス突起スペーサ50を形成するための動作パラメータの一例の範囲を提供する。使用された露出(照射)時間は、2から2.5秒の間の範囲であり、この変動は突起高さHに著しく影響を与えるものではないことが認められた。UVレーザの最適な繰返し率はR=150kHzであることが見出された。突起高さHは、DFが約0.6mmおよびレーザ出力Pが約9Wでの約75μmから、DFが約1.1mmおよびレーザ出力が約13Wでの約170μmに及ぶ。
【0045】
突起高さHが小さ過ぎると、内部領域40に適用することができる真空の量を減少させることになる可能性があり、隣接するガラスペイン20間の間隙が過度に小さく、絶縁特性の低下に繋がり得ることに留意されたい。内部領域の容積が小さくなると、同様に絶縁特性の低下に繋がる。さらに、突起高さHが小さいと、近接して配置されたガラス表面間の光の干渉によって「ニュートン環」が出現する可能性がある。これら2つの潜在的な問題をほとんどのVIG窓10に対して解決するには、突起高さH≧100μmであれば十分であると推定される。
【0046】
図9は、厚さTG=3mmのソーダ石灰ガラスペイン内で形成されたガラス突起スペーサ50の3次元画像である。図10は、図9のガラス突起スペーサ50のライン走査である。このライン走査により、ガラス突起スペーサ50が実質的に半球状の形状を有し、突起高さHが約75μmであり、さらにベースの直径DBが約250μmであることが明らかになる。一実施の形態において、対向するガラスペインとの接点が小さくかつ湾曲しているガラス突起スペーサ50を提供することにより、光学コーティングの摩耗を最小限に抑えることができる。さらに、各ガラス突起スペーサと対向するガラスペインとの間の接触面積を最小にすることにより、ガラス突起スペーサを介した熱移動を最小にできると同時に機械的に強固なVIG窓を得ることができる。
【0047】
図11は、ガラス板の形の成長制限表面をガラスペイン表面24に隣接させて置き、その後ガラスペインを上記のように照射したことを除き、図9に示したものに類似したガラス突起スペーサ50の3次元画像である。得られるガラス突起スペーサ50は特定の突起高さHまで成長し、その後この成長は隣接するガラス板によって制限された。その結果、ガラス突起スペーサ50は実質的に平坦な直径DTの最上部51を有するものとなった。このように、ガラス突起50の面積、高さ、および形状は制御可能であり、特に実質的に平坦な最上部51の直径DT(すなわち、表面積)は制御可能である。一実施形態例において、実質的に平坦な最上部51は実質的に円形の形状を有しているため、その表面積SAはSA=π[DT/2]2の関係で近似される。n個のガラス突起スペーサ50の組での総接触面積SATは、SAT=πn[DT/2]2で近似される。
【0048】
ガラス突起スペーサ50のサイズ、形状、および高さは、より複雑な成長制限構造を使用することにより、あるいは集束レーザビーム112Fの断面形状を変化させることにより、より正確に制御することができる。突起高さHを制御する利点は、ガラスの不均一性やレーザが少々不安定であることによる突起高さのばらつきが、軽減されることである。実質的に平坦な最上部を有するガラス突起スペーサ50の別の利点は、先端部分51とガラス20Fとの間の接触点で機械的応力が低減(最小化を含む)されることである。
【0049】
VIG窓10の一実施形態例において、総接触面積SATは、断熱を増加させ、かつ好適には断熱を最適化するように選択される。ベース直径DBが約300μmから約700μmの範囲内であるガラス突起スペーサ50に対し、実質的に平坦な最上部51の「最上部」直径はDT≦100μmであることが好ましく、より好適にはDT≦75μmであり、さらに好適にはDT≦50μmであると推定される。
【0050】
突起の形成を生じさせるガラスの膨張は溶融ガラスの表面張力で制御されるため、装置100はガラス突起スペーサ50を、概して半球状の形状を有するようにすることができる。この効果は、円形対称の断面を有した集束レーザビーム112Fを用いることで十分に引き出すことができる。ガラス突起スペーサ50の丸みを帯びた外形は、ガラス突起スペーサと隣接するガラスペインとの間で提供される総接触面積SATが最小になり、そのため2つのガラスペイン間での熱伝導が低減される点で有利である。総接触面積SATが増加すると断熱が弱まることから、VIG窓10におけるこの熱伝達の機構を減少させる(さらに好適には最小にする)ことが重要である。一方、ガラス突起スペーサ50毎の接触面積SAが非常に小さいと、局所的な応力集中に繋がり得、隣接するガラスペイン20および/または光学コーティング210を潜在的に損傷する可能性がある。
【0051】
VIG窓10内のレーザ成長ガラス突起スペーサ50の可視性を、従来のVIG窓内で使用されている個別スペーサの可視性に対して評価するために、VIG窓の表面法線に対して様々な傾斜角度でいくつかの写真を撮影した。ガラス突起スペーサ50は、グレージング入射角から見ると目に見えたが、より通常の略入射視野角では実際には見えなくなった。VIG窓10の写真を、その後、個別のセラミックスペーサを有している市販の窓用ペインを実際に同一条件下で撮影した写真と比較した。個別のセラミックスペーサは、特に通常の略入射視野角で、より一層目に見えるものであった。
【0052】
図4Aに示したように、一実施形態例では、ガラス突起スペーサ50が中間ガラスペイン20Mの両側面22Mおよび24M内で形成されて、3ペインのVIG窓10が形成される。一実施形態例において、両面ガラス突起スペーサ50は、片面に突起を形成する場合と比べて、照射条件を変えることで形成される。例として1つの手法では、ガラス突起スペーサ50をガラスペイン20Mの一方の側面22M内で形成し、その後このガラスペインをひっくり返して他方の側面24M内でさらにガラス突起を形成する。この実施形態では、前に形成されたガラス突起スペーサを照射しないように、中間ガラスペイン20Mの夫々の面内で形成された2組のガラス突起スペーサ50を若干ずらす必要があるであろう。このずらす量は、例えば、典型的にはおよそ200μmから700μmであってすなわち典型的なVIG窓10のサイズに比べると極めて小さいベース直径DBの、約2倍以下である。
【0053】
VIG窓10に対し、一体的に形成されたガラス突起スペーサ50を使用すると、ガラスペインに個別の(すなわち、一体的ではない)スペーサを配置して固定したものよりも費用効率が高くなると予想される。これは概して、開示される手法によれば、個別のスペーサを正確な位置に設置しかつVIG窓を組み立てる間にこれらを所定の位置で保持するための、設備およびプロセスの必要性がなくなるためである。ガラス突起50の先端部分51と隣接するガラスペイン20との間の接触面積SAが、より小さくかつ制御可能であることから、熱伝導によるVIG窓10を通じての熱伝達は個別のスペーサを使用したものに比べて減少する(さらに、好適には最小になる)。個別のスペーサの取扱いおよび設置が極めて難題となり得る3ペインのVIG窓を製造する場合には、コスト優位がより一層明らかになる。
【0054】
VIG窓10の実施形態例では、様々な材料組成を有したガラスペイン20が採用される。例えば、1つのガラスペイン20(例えば、図2の後方ガラスペイン20B)は第1ガラス種から形成され、かつ別のガラスペイン(例えば、前方ガラスペイン20F)は第2ガラス種から形成される。例えば、第1ガラス種はソーダ石灰窓ガラスであり、一方第2ガラス種はイオン交換されたアルミノケイ酸ナトリウムガラス(例えば、1317、2317など)であり、あるいはその逆である。さらに、化学強化された(例えば、イオン交換された)ガラスペインが使用される実施形態では、この化学強化されたペインは従来の(例えば、2〜4mmのソーダ石灰)ガラスペインよりも薄いもの(例えば、0.5〜2mm)でもよく、これにより同等またはより優れた機械的特性を維持しながら、VIG窓10の総厚および総重量を減少させることができる。
【0055】
アルミノケイ酸ナトリウムガラス1317(「1317ガラス」)において行われたガラス突起形成の実験によれば、厚さTG=1.3mmのサンプル内で155μmの突起高さHが形成され、高い膨張性能が明らかになった。ここで、ソーダ石灰窓ガラスと1317ガラスの熱膨張係数(CTE)は類似しており、約9ppm/℃であることに留意されたい。
【0056】
鉄含有量が非常に低い(すなわち緑がかった色を有していない)「ウルトラホワイト」窓用ガラスペイン20において行われた実験では、突起高さHが約212μmのガラス突起スペーサ50が上記方法を用いて形成された。すなわち、一実施形態例において、鉄含有量が低いガラス内で形成されたガラス突起スペーサ50の突起高さHは、75μmから225μmの範囲内であり、より好適には100μmから225μmの範囲内、そしてさらに好適には150μmから225μmの範囲内である。
【0057】
VIG窓に使用されるガラスペインは、様々なガラスシート成形方法を用いて作製することができる。ガラスシート成形法方法の例としては、夫々ダウンドロー法の例であるフュージョンドロー法およびスロットドロー法や、フロート法が挙げられる。フュージョンドロー法は、溶融ガラス原材料を受け入れる溝を備えた延伸タンクを使用する。この溝は、溝の長さに沿って上部が開口した堰を溝の両側面に有している。溝が溶融材料で満たされると、溶融ガラスは堰から溢れ出る。重力により、溶融ガラスは延伸タンクの外側表面を流れ落ちる。これらの外側表面は、延伸タンク下方のエッジの位置で交わるように、下方の内側へと延在している。2つの流れているガラスの表面は、このエッジで交わって融合し、単一の流動シートを形成する。フュージョンドロー方法では、溝を超えて流れる2つのガラス膜が融合するため、得られるガラスシートのどちらの外側表面も装置のいかなる部分とも接触していないという利点がある。すなわち、フュージョンドローによるガラスシートの表面特性は、このような接触には影響されない。
【0058】
スロットドロー方法はフュージョンドロー方法とは異なる。スロットドロー方法では、溶融した原材料ガラスが延伸タンクに供給される。延伸タンクの底部には開口したスロットが設けられ、スロットはその全長に延在するノズルを備えている。溶融ガラスは、スロット/ノズルを通って流れ、連続したシートとして下方のアニール領域内へと延伸される。スロットドロー法では、融合した2つのシートではなく単一のシートのみがスロットを通って延伸されるため、フュージョンドロー法よりも薄いシートを提供することができる。
【0059】
ダウンドロー法で生み出される表面は、比較的汚れのないものとなる。ガラス表面の強度は、表面の傷の量やサイズで制御されるため、接触が最小限に抑えられた汚れのない表面の方が初期強度は強い。この高強度ガラスを次いで化学強化すると、ラッピングおよびポリッシングを施された表面よりも、得られる強度を高くすることができる。ダウンドローによるガラスは、厚さ約2mm未満まで延伸することができる。さらに、ダウンドローによるガラスは、費用のかかるグラインディングおよびポリッシングを行なわずに最終用途で使用し得る、極めて平坦で滑らかな表面を有している。
【0060】
フロートガラス方法では、典型的にはスズの溶融金属のベッド上に溶融ガラスを浮かべることによって、滑らかな表面と均一な厚さを特徴とし得るガラスのシートが作製される。一例のプロセスにおいて、溶融スズのベッドの表面上に供給された溶融ガラスが、浮遊するリボンを形成する。ガラスリボンがスズバスに沿って流れるとき、固体のガラスシートをスズからローラ上へと持ち上げることができるようになるまで温度を徐々に低下させる。ガラスシートは、一旦バスから離れるとさらに冷却され、内部応力を低減するようアニールされ得る。ガラスシートが成形されると、これを切断して所望の形状とし、VIG窓に組み込むための窓用ペインを形成することができる。
【0061】
ガラス窓は、実質的に平坦でもよいし、あるいは特定の用途のために成形してもよい。例えば、窓をフロントガラスまたはカバープレートとして使用するために、曲がったまたは成形された部品として形成することができる。成形されたVIG窓の構造は、単純なまたは複雑なものとし得る。特定の実施形態において、成形されたVIG窓は単純な曲率を有し得る。特定の実施形態において、成形されたVIG窓は、ガラスペインが2つの独立した方向に異なった曲率半径を有しているような、複雑な曲率を有したものでもよい。すなわち、このような成形されたまたは湾曲したガラスペインは、ガラスが所与の次元に平行な軸に沿って湾曲し、かつ同じ次元に垂直な軸に沿っても同様に湾曲している、「クロス曲率」を有するものとして特徴付けることができる。例えば、自動車のサンルーフは典型的には約0.5m×1.0mであり、その短軸に沿った曲率半径は2から2.5m、かつ主軸に沿った曲率半径は4から5mである。
【0062】
特定の実施形態により成形されたVIG窓は、曲げ係数によって画成することができる。ここで所与の部分に対する曲げ係数は、所与の軸に沿った曲率半径をその軸の長さで割ったものに等しい。すなわち、自動車のサンルーフの例において、0.5mおよび1.0mの各軸に沿って夫々2mおよび4mの曲率半径を有している場合、各軸に沿った曲げ係数は4である。成形されたガラス窓の曲げ係数は、2から8(例えば、2、3、4、5、6、7、または8)まで及び得る。
【0063】
ガラスペインを曲げるおよび/または成形するための方法としては、重力曲げ、プレス曲げ、およびこれらを混合した方法が挙げられる。
【0064】
薄く平坦なガラスシートを自動車のフロントガラスなどの湾曲した形状にする、従来の自重曲げの方法では、冷却されて事前に切断された単一または複数のガラスシートを、曲げ治具の、剛性で事前成形された金属製の周縁部支持表面上に置く。曲げの前に、ガラスは典型的には、少しの接触点のみで支持される。通常徐冷窯内の昇温に晒すことによってガラスが加熱されると、ガラスが軟化して重力によりガラスが垂下または下降し、周縁部支持表面に形が一致する。実質的に支持表面全体が、一般的にはその後ガラスの外面と接触することになる。
【0065】
関連技術はプレス曲げであり、この技術では平坦なガラスシートを、そのガラスの軟化点に実質的に対応する温度まで加熱する。その後、この加熱されたシートを、相補的な成形表面を有した雄型部材と雌型部材との間で所望の曲率にプレスすなわち成形する。
【0066】
組み立てられたVIG窓の厚さは、約2mmから4mmの範囲となり得、このとき個々のガラスペインの厚さは0.5から2mm(例えば、0.1、0.2、0.3、0.5、0.7、1、1.4、1.7、または2mm)となり得る。実施形態において、化学強化ガラスシートの厚さは、1.4mm未満または1.0mm未満となり得る。
【0067】
化学強化ガラスシート
上記のように、本書において開示される真空断熱ガラス窓は、1以上の化学強化ガラスシートを備えている。化学強化により、VIG窓に組み込まれる化学強化ペインの一方または両方の表面は圧縮されている。傷が伝播するには、そしてガラスに損傷が生成されるには、衝撃による引張応力が表面の圧縮応力を超えなければならない。実施形態では、化学強化ガラスシートの高い圧縮応力および深い層深さにより、化学強化されていないガラスの場合よりも薄いガラスの使用が可能になる。
【0068】
ガラスシートは、イオン交換プロセスにより化学強化することができる。このプロセスでは、典型的にはガラスシートを溶融塩浴内に既定時間の間浸漬させることにより、ガラスシートの表面位置あるいは表面付近のイオンが、塩浴からのより大きな金属イオンと交換される。溶融塩浴の温度は典型的には約400〜500℃であり、かつこの既定時間は約2から10時間に及び得る。より大きなイオンがガラス内に取り込まれると、表面付近の領域に圧縮応力が生成されることによってシートが強化される。この圧縮応力とバランスするよう、ガラスの中心領域内には対応する引張応力が誘起される。
【0069】
ガラスペインの形成に適したイオン交換可能なガラスの例は、アルカリアルミノケイ酸ガラスまたはアルカリアルミノホウケイ酸ガラスであるが、他のガラス組成も考えられる。本書において「イオン交換可能」とは、ガラスが、ガラスの表面にまたは表面付近に位置している陽イオンと、サイズがより大きいあるいはより小さい、同じ価数の陽イオンとを交換することができることを意味する。一例のガラス組成は、SiO2、B23、およびNa2Oを含み、このとき(SiO2+B23)≧66モル%かつNa2O≧9モル%である。一実施の形態において、ガラスシートは少なくとも6重量%の酸化アルミニウムを含んでいる。さらなる実施形態において、ガラスシートは、アルカリ土類酸化物の含有量が少なくとも5重量%となるように、1以上のアルカリ土類酸化物を含んでいる。適切なガラス組成は、いくつかの実施形態において、K2O、MgO、およびCaOのうちの少なくとも1つをさらに含んでいる。特定の実施形態において、ガラスは、61〜75モル%のSiO2、7〜15モル%のAl23、0〜12モル%のB23、9〜21モル%のNa2O、0〜4モル%のK2O、0〜7モル%のMgO、および0〜3モル%のCaOを含み得る。
【0070】
ガラスペインの形成に適したさらなるガラス組成の例は、60〜70モル%のSiO2、6〜14モル%のAl23、0〜15モル%のB23、0〜15モル%のLi2O、0〜20モル%のNa2O、0〜10モル%のK2O、0〜8モル%のMgO、0〜10モル%のCaO、0〜5モル%のZrO2、0〜1モル%のSnO2、0〜1モル%のCeO2、50ppm未満のAs23、および50ppm未満のSb23を含み、このとき12モル%≦(Li2O+Na2O+K2O)≦20モル%かつ0モル%≦(MgO+CaO)≦10モル%である。
【0071】
さらなるガラス組成の例は、63.5〜66.5モル%のSiO2、8〜12モル%のAl23、0〜3モル%のB23、0〜5モル%のLi2O、8〜18モル%のNa2O、0〜5モル%のK2O、1〜7モル%のMgO、0〜2.5モル%のCaO、0〜3モル%のZrO2、0.05〜0.25モル%のSnO2、0.05〜0.5モル%のCeO2、50ppm未満のAs23、および50ppm未満のSb23を含み、このとき14モル%≦(Li2O+Na2O+K2O)≦18モル%かつ2モル%≦(MgO+CaO)≦7モル%である。
【0072】
特定の実施形態において、アルカリアルミノケイ酸ガラスは、アルミナ、少なくとも1つのアルカリ金属、および、いくつかの実施形態では50モル%超のSiO2、他の実施形態では少なくとも58モル%のSiO2、さらに他の実施形態では少なくとも60モル%のSiO2を含み、このとき比率{(Al23+B23)/Σ改質剤}>1である。この比率の表現において、成分はモル%で表され、かつ改質剤はアルカリ金属酸化物である。特定の実施形態において、このガラスは、58〜72モル%のSiO2、9〜17モル%のAl23、2〜12モル%のB23、8〜16モル%のNa2O、および0〜4モル%のK2O、を含み、または本質的にこれらから成り、あるいはこれらから成り、このとき比率{(Al23+B23)/Σ改質剤}>1である。
【0073】
別の実施形態において、アルカリアルミノケイ酸ガラスは、61〜75モル%のSiO2、7〜15モル%のAl23、0〜12モル%のB23、9〜21モル%のNa2O、0〜4モル%のK2O、0〜7モル%のMgO、および0〜3モル%のCaO、を含み、または本質的にこれらから成り、あるいはこれらから成る。
【0074】
さらに別の実施形態において、アルカリアルミノケイ酸ガラス基板は、60〜70モル%のSiO2、6〜14モル%のAl23、0〜15モル%のB23、0〜15モル%のLi2O、0〜20モル%のNa2O、0〜10モル%のK2O、0〜8モル%のMgO、0〜10モル%のCaO、0〜5モル%のZrO2、0〜1モル%のSnO2、0〜1モル%のCeO2、50ppm未満のAs23、および50ppm未満のSb23、を含み、または本質的にこれらから成り、あるいはこれらから成り、このとき12モル%≦Li2O+Na2O+K2O≦20モル%かつ0モル%≦MgO+CaO≦10モル%である。
【0075】
さらに別の実施形態において、アルカリアルミノケイ酸ガラスは、64〜68モル%のSiO2、12〜16モル%のNa2O、8〜12モル%のAl23、0〜3モル%のB23、2〜5モル%のK2O、4〜6モル%のMgO、および0〜5モル%のCaO、を含み、または本質的にこれらから成り、あるいはこれらから成り、このとき、66モル%≦SiO2+B23+CaO≦69モル%、Na2O+K2O+B23+MgO+CaO+SrO>10モル%、5モル%≦MgO+CaO+SrO≦8モル%、(Na2O+B23)−Al23≦2モル%、2モル%≦Na2O−Al23≦6モル%、さらに4モル%≦(Na2O+K2O)−Al23≦10モル%である。
【0076】
窓ガラスは、いくつかの実施形態において、Na2SO4、NaCl、NaF、NaBr、K2SO4、KCl、KF、KBr、およびSnO2を含む群から選択された、0〜2モル%の少なくとも1つの清澄剤と、バッチ配合される。
【0077】
一実施形態例では、ガラス内のナトリウムイオンが、溶融浴からのカリウムイオンで置き換えられ得るが、ルビジウムまたはセシウムなどの原子半径がより大きい他のアルカリ金属イオンが、ガラス内のより小さいアルカリ金属イオンに取って代わってもよい。特定の実施形態によれば、ガラス内のより小さいアルカリ金属イオンを、Ag+イオンで置き換えてもよい。同様に、例えば限定するものではないが、硫酸塩、ハロゲン化合物などの他のアルカリ金属塩を、イオン交換プロセスにおいて使用してもよい。
【0078】
より小さいイオンが、ガラスのネットワークが緩和し得る温度未満でより大きいイオンへと置き換わると、ある応力プロファイルをもたらすイオン分布がガラスの表面に亘って生み出される。入ってくるイオンの容積がより大きいため、ガラスの表面上に圧縮応力(CS;compressive stress)が生じ、かつガラスの中心に張力(中心張力、すなわちCT;central tension)が生じる。圧縮応力と中心張力には以下の関係がある。
【0079】
CS=CT{(t−2DOL)/DOL}
ここで、tはガラスシートの総厚であり、またDOLは層深さ(depth of layer)としても称される、交換の深さである。
【0080】
光学コーティング
1以上の光学コーティングをVIG窓に取り入れてもよい。実施形態において光学コーティングは、音響制御、UV透過制御、および/またはIR透過制御を含む、相補的機能または異なった機能を提供し得る、1以上の高分子層を含んでいる。
【0081】
低放射率コーティングは、典型的には、1層の赤外線反射膜と1以上の随意的な透明誘電膜層とを含んでいる。一般に銀、金、または銅などの導電性金属を含む赤外線反射膜により、コーティングされたペインを通る熱の透過は低減される。誘電膜を使用して、赤外線反射膜を反射するのを防止したり、また色や耐久性などのコーティングの他の性質および特性を制御したりすることができる。通常使用される誘電材料は、とりわけ、亜鉛、スズ、インジウム、ビスマス、およびチタンの酸化物を含む。
【0082】
低放射率コーティングの例としては、1または2層の銀層が、2層の透明誘電膜間に夫々挟まれたものが挙げられる。銀層の数を増加させると全体の赤外線反射が増加し得るが、銀層を追加すると、窓を通過する可視透過率をも低下させ得、および/またはコーティングの色または耐久性に悪影響を与え得る。
【0083】
光学コーティングは、物理蒸着または化学蒸着などの従来の膜形成プロセスを用いて、あるいはより面積の大きいガラスペインではラミネート加工を用いて、適用することができる。ラミネートプロセスの際、コーティング材料の薄膜を、コーティング材料を軟化させる効果のある温度まで典型的には加熱し、こうしてコーティング材料がガラスペインの表面の形に一致するのを促進する。コーティング材料内の移動可能な高分子鎖によってガラス表面との結合が発達し、これが付着を促進する。昇温が、ガラス−コーティング界面からの残留空気および/または水分の拡散をさらに加速させる。
【0084】
圧力が加えられると、コーティング材料の流れが促進され、かつ圧力が加えられなかった場合に水の蒸気圧と界面で捕捉された空気とが組み合わさることによって誘起され得る、気泡の形成が抑制される。気泡の形成を抑制するために、熱および圧力をオートクレーブ内で同時にアセンブリに加える。
【0085】
図12は、赤外線反射コーティング210を後方表面24上に形成して有している、一例のガラスペイン20を示した概略側面図である。このようなガラスペインは、透過する(すなわち、熱を生成する)放射の量を弱めることができるため、VIG窓において有用である。
【0086】
図13は、図12の図に類似した拡大断面図であるが、図12のIR反射ガラスペイン20において、上にガラス突起スペーサ50が形成されたものを示している。ガラス突起スペーサを形成する前に反射コーティング210が形成された場合、コーティング210の溶融点はガラスペイン20よりもかなり低いため、ガラス突起スペーサ50の近傍からコーティングが溶けてなくなり、ガラス突起スペーサ50は被覆されていない状態となる。コーティング210の任意の残部は、標準的なガラス洗浄技術を用いて後方表面24を洗浄することにより容易に除去される。
【0087】
一方、ガラス突起スペーサ50を形成した後に反射コーティング210を取り入れると、反射コーティング210は、ガラス突起スペーサ50を含めたペインの後方表面全体の上に、実質的に形が一致したコーティングを形成する。図14は、後方表面24上と、後方表面内で形成されたガラス突起スペーサ50上とに形成された、反射コーティング210を含んでいる、IR反射ペイン20の断面図である。
【0088】
VIG窓の形成
本開示の一実施の形態は、VIG窓10のようなVIG窓の形成に関する。図14と、図1および図2を再び参照すると、VIG窓10を形成する一例の方法は、第1ガラス材料を含んでいる第1(後方)ガラスペイン20Bにおいて、第1ガラス材料から成る複数のガラス突起スペーサ50を、第1本体部分23から形成するステップを含む。この方法は次いで、ガラス突起スペーサと、ガラス突起スペーサが形成されている表面との両方の上に光学コーティングを形成するステップと、第2ガラス材料から成る第2(前方)ガラスペイン20Fを、第1ガラスペインおよび第2ガラスペインが夫々の表面24Fおよび24B間で第1距離DGだけ離れるように、第1の複数のガラス突起スペーサ50に接触させるステップと、を含む。この方法は次に、第1エッジ28Fおよび第2エッジ28Bの少なくとも夫々の一部をエッジシール30で密封して、前方ガラスペイン20Fと後方ガラスペイン20Bとの間に内部領域40を画成するステップを含む。その後、内部領域40を少なくとも部分的に真空にして、その内部において1気圧(約0.1MPa)未満の真空圧力を形成する。実施形態において、ガラスペインの一方または両方は、化学強化ガラスを含んでもよい。特定の実施形態例では、第2ガラスペインが化学強化ガラスペインである。
【0089】
3ペインのVIG窓10を形成する方法は2ペインのVIG窓の形成に類似しており、ここで図4A図4B、および図4Cを参照して論じる。まず図4Aを参照すると、一実施形態例において3ペインのVIG窓10の形成は、前方(第2)ガラスペイン20Fと後方(第3)ガラスペイン20Bとの間に存在する中間(「第1」)ガラスペイン20M内で、2組のガラス突起スペーサを形成するステップを含む。すなわち中間ガラスペイン20Mは、表面22Mおよび24Mに夫々第1および第2の複数(組)のガラス突起スペーサ50を有している。中間ガラスペイン20Mは、さらに外側エッジ28Mを有し、かつ第1ガラス材料から構成されている。
【0090】
この方法は、各光学コーティング210が、ガラス突起スペーサ50上と、そのガラス突起スペーサが形成されている各表面22Mおよび24M上との両方に形成されるように、中間ガラスペインの表面の一方または両方の上に光学コーティング210を形成するステップをさらに含む。その後、前方ガラスペイン20Fおよび後方ガラスペイン20B(夫々第2および第3ガラス材料から構成されている)を、前方ガラスペイン20F、中間ガラスペイン20M、および後方ガラスペイン20Bが表面24Fと22Mとの間で距離DGAだけ離れ、かつ中間ガラスペイン20Mおよび後方ガラスペイン20Bが表面24Mと24Bとの間で距離DGBだけ離れるように、第1および第2の複数のガラス突起スペーサ50に夫々接触させてもよい。
【0091】
この方法は次に、3つのガラスペインの、前方エッジ28F、中間エッジ28M、および後方エッジ28Bの少なくとも夫々の一部を、1以上のエッジシール30(図4Aには1つのエッジシール30が示されている)で密封するステップを含む。これは、前方ガラスペイン20Fと中間ガラスペイン20Mとの間、および中間ガラスペイン20Mと後方ガラスペイン20Bとの間に夫々、第1内部領域40Aおよび第2内部領域40Bを画成する働きをする。その後、内部領域40Aおよび40Bを少なくとも部分的に真空にして、その内部において1気圧(約0.1MPa)未満の真空圧力を夫々形成する。実施形態において、ガラスペインの少なくとも1つは、化学強化ガラスペインである。特定の実施形態例では、第1および第3ガラスペインが化学強化ガラスペインである。形が一致している光学コーティングが中間ペイン上に形成されていることを示しているガラスペイン構造が、図15に概略的に示されている。
【0092】
図4Bおよび図4Cを参照して説明する代替の実施形態では、両方の組のガラス突起スペーサ50を中間ガラスペイン20M内で形成するのではなく、これらを図4Bおよび図16を参照して説明するように中間ペイン20Mの一方の表面22Mと後方ガラスペイン20Bの内側表面24Bとに、あるいは図4Cおよび図17を参照して説明するように前方ガラスペイン20Fの内側表面24Fと後方ガラスペイン20Bの内側表面24Bとに形成してもよい。光学コーティングとエッジシールは、上述と同様に形成することができる。例として、図4Bに示したように、3ペインのVIG窓10を形成する方法は、1つのエッジシール30を使用してエッジ28Fおよび28Mの少なくとも夫々の一部を密封し、第1内部領域40Aに対して真空シールを形成し、かつ別のエッジシールを使用してエッジ28Mおよび20Bの少なくとも夫々の一部を密封し、第2内部領域40Bに対して真空シールを形成するステップを含んでもよい。
【0093】
前述のlow−EのVIG窓を使用すると、音響ノイズが弱まり、UV光および/またはIR光の透過が低減され、および/または、軽量で機械的に頑丈なパッケージにおいて窓の開口部の見た目の美しさが高まることを含めた、有益な効果を提供することができる。
【0094】
本書では、文脈が明らかに他に指示していなければ、単数形は複数の指示対象を含むものとする。すなわち、例えば「金属」に言及したときには、文脈が明らかに他に指示していなければ、2以上のこの「金属」を有する例を含む。
【0095】
本書では、範囲を、「約」ある特定の値から、および/または「約」別の特定の値までと表現することがある。範囲がこのように表現されるとき、いくつかの例が、そのある特定の値から、および/または他方の特定の値までを含む。同様に、値が先行詞「約」を用いて近似値で表されるとき、その特定の値は別の態様を形成することを理解されたい。各範囲の端点は、他方の端点との関連において重要であるし、また他方の端点と無関係に重要でもあることをさらに理解されたい。
【0096】
他に明確に述べられていなければ、本書に明記されるいずれの方法も、そのステップを特定の順序で実行する必要があると解釈されることを全く意図していない。したがって、方法の請求項においてこれらのステップが行われる順序が実際に述べられていない場合、あるいは請求項または説明の中でこれらのステップが特定の順序に限定されるべきであると具体的に述べられていない場合には、いかなる特定の順序をも推測させることは全く意図されていない。
【0097】
本書における記述は、特定のやり方で機能するように「構成」または「適合」されている本発明の構成要素に言及することも留意されたい。この点において、こういった構成要素は特定の性質を具現化するように、あるいは特定の様態で機能するように、「構成」または「適合」されたものであり、このときこの記述は、意図されている用途に関する記述ではなく構造の記述である。より具体的には、ある構成要素が「構成」または「適合」された様態に本書で言及したとき、この言及はその構成要素の実在する物理的条件を示したものであり、したがってその構成要素の構造的特性に関する明確な記述と受け取られるべきである。
【0098】
本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の種々の改変および変形が作製可能であることは当業者には明らかであろう。本発明の精神および本質を取り入れている開示された実施形態の、改変、組合せ、下位の組合せ、および変形が、当業者には思い付き得るため、本発明は添付の請求項およびその同等物の範囲内の全てのものを含むと解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0099】
10 VIG窓
20F 前方ガラスペイン
20B 後方ガラスペイン
20M 中間ガラスペイン
22F、22B 外側表面
22M 前方側面
23F、23B、23M 本体部分
24F、24B 内側表面
24M 後方側面
28F、28B、28M エッジ
30 エッジシール
40、40A、40B 内部領域
50 ガラス突起スペーサ
210 光学コーティング
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17