(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
真空断熱ガラス(VIG)窓は、第1ガラスペイン、第1ガラスペインから間隔を空けかつ第1ガラスペインに実質的に平行に配置された、第1距離離れて位置する第2ガラスペイン、第1ガラスペインの第1表面内で一体的に形成された複数のガラス突起スペーサ、および、ガラス突起スペーサと第1ガラス突起スペーサが形成されている第1表面との両方の上に形成された、第1光学コーティングを備え、第1ガラスペインおよび第2ガラスペインのうちの少なくとも一方が化学強化ガラス材料を含み、かつ前記の間隔が空けられた第1距離を維持するように、コーティングされた複数のガラス突起スペーサが第2ガラスペインに接触していることを特徴とする。2以上のガラスペインを、隣接するガラスペイン間に真空領域を有するVIG窓に組み込んでもよい。ガラス突起スペーサ、化学強化ガラスペイン、および低放射率(low−E)コーティングなどの光学コーティングを形成する態様を以下で説明する。
【0012】
本書で開示されるように、ガラス突起スペーサはガラスペイン「内で形成」される。「内で形成」されるとは、ガラス突起スペーサが、他の部分が実質的に平坦なガラスペイン表面から外側に凸状に突出するように、ガラスペインの本体部分から外側に成長し、かつガラスペインを構成しているガラス材料から形成されていることを意味する。ガラス突起スペーサは、光誘起吸収を用いてガラスペイン内で形成することができる。
【0013】
「光誘起吸収」という用語は、ガラスペインを局所的に放射に露出する(照射する)ことによるガラスペインの吸収スペクトルの局所的変化を意味するように広く理解されている。光誘起吸収は、限定するものではないが、紫外線波長、近紫外線波長、可視波長、近赤外波長、および/または赤外波長を含む、波長または波長範囲での、吸収の変化を含み得る。透明なガラスペインにおける光誘起吸収の例としては、例えば限定するものではないが、色中心の形成、一時的なガラス欠陥形成、および恒久的なガラス欠陥形成が挙げられる。
【0014】
本書において画成される窓は、紫外線波長、近紫外線波長、可視波長、近赤外波長、および/または赤外波長を有する電磁(EM)放射を含めた、EM放射に対して少なくとも部分的に透明な、2以上のガラスペインを備えた物品である。
【0015】
一体的に形成されたガラス突起スペーサを備えたVIG窓
図1は、2つのペインのVIG窓10の一実施形態例を示した前面図である。
図2は、
図1の例のVIG窓10を方向CS−CSから見た断面図である。デカルト座標が参照のために示されている。VIG窓10は、2つのガラスペイン20、すなわち互いに対向しかつ実質的に平行に配置された、前方ガラスペイン20Fおよび後方ガラスペイン20Bを含んでいる。前方ガラスペイン20Fは、第1ガラス材料から作製された本体部分23Fを有し、さらに外側表面22Fおよび内側表面24Fと外側エッジ28Fとを含んでいる。同様に、後方ガラスペイン20Bは第2ガラス材料から作製された本体部分23Bを有し、さらに外側表面22Bおよび内側表面24Bと外側エッジ28Bとを含んでいる。一実施形態例において、本体部分23Fおよび23Bを構成している第1ガラス材料および第2ガラス材料は同一のものである。さらなる実施形態例において、本体部分23Fおよび23Bを構成している第1ガラス材料および第2ガラス材料のいずれか一方または両方は、化学強化ガラスを含み得る。
【0016】
前方ガラスペイン20Fおよび後方ガラスペイン20Bは、その夫々の内側表面24Fおよび24Bから測定して、距離D
Gだけ分離している。外側エッジ28Fおよび28Bの夫々にエッジシール30が提供され、各外側エッジの少なくとも一部を包囲して気密シールを提供する。エッジシール30と前方および後方ガラスペインの内側表面24Fおよび24Bとで、密封された内部領域40を画成する。密封された内部領域40は、1気圧(約0.1MPa)未満の真空圧力を有するように少なくとも部分的に真空にすることが好ましく、これにより、望ましい断熱特性および防音特性を有するVIG窓10が提供される。
【0017】
VIG窓10は、後方ガラスペイン20Bの内側表面24B内で一体的に形成された、複数のガラス突起スペーサ50をさらに含んでいる。
図3は、一例のガラス突起スペーサ50の拡大図である。ガラス突起スペーサ50は、後方ガラスペイン20B内で一体的に形成されたものであり、分離部材または個別部材としてVIG窓10に追加されたものではないことに留意されたい。すなわちガラス突起50は、後方ガラスペイン20Bと同じ材料から形成され(すなわち同じ材料から成り)、実際には本体部分23Bの拡張部分である。ガラス突起50を形成する方法の例を以下で詳細に論じる。
【0018】
一実施形態例において、ガラス突起スペーサ50は規則的に互いに間隔を空けて配置される。ガラス突起スペーサ50は本体部分23B内で一体的に形成されるため、VIG窓10を通常の(すなわち、実質的法線入射の)視野角から見たときに実質的に目に見えない。そのため、ガラス突起50は
図1において破線で示されている。ガラス突起50は、
図3に示したように、「先端」すなわち「最上部部分」51を有している。以下で論じるが、最上部部分51は
図3に示したような丸みを帯びたものである必要はない。ガラス突起スペーサ50は前方ペインの内側表面24Fに接触して、前方ガラスペイン20Fおよび後方ガラスペイン20Bの間の分離距離D
Gを維持する働きをする。
【0019】
一実施形態例において、ガラスペイン20Fおよび20Bは、ソーダ石灰ガラスまたはアルカリアルミノケイ酸ガラスから形成され、さらなる実施形態例において、これらの各厚さT
Gは0.5mmから3mmの間(例えば、0.5、0.7、1、1.5、2、2.5、または3mm)である。一実施形態例において、ガラス突起スペーサ50の高さ(「突起高さ))Hは、50μmから200μmまでの範囲内であり、より好適には75μmから150μmまでの範囲内、さらに好適には100μmから120μmまでの範囲内である。一実施形態例において、ガラスペイン20Fおよび20Bは、実質的に同一の厚さT
Gを有している(
図6参照)。
【0020】
図4Aは、
図2に類似した断面図であり、前方ペイン20Fと後方ペイン20Bとの間に中間ガラスペイン20Mを挟んで含んでいる、3つのペインのVIG窓10の実施形態例を示している。中間ガラスペイン20Mは第3ガラス材料の本体部分23Mを有し、さらに前方側面22M、後方側面24M、およびエッジ28Mを含んでいる。第1組および第2組のガラス突起スペーサ50が、中間ペイン20Mの夫々前方側面22Mおよび後方側面24Mの両方内で形成されて、夫々、中間ガラスペイン20Mおよび前方ペイン20F間の距離D
GAと、中間ペインおよび後方ペイン20B間の距離D
GBとを維持する働きをする。
図4Aに示した実施形態例では、単一のエッジシール30が、エッジ28F、28M、および28Bを密封する働きをする。別の実施形態例では複数のエッジシール30が使用され、このとき1つのエッジシールがエッジ28Fおよび28Mの少なくとも夫々の一部を密封する働きをし、かつ他方のエッジシールがエッジ28Mおよび28Bの少なくとも夫々の一部を密封する働きをする(
図4B参照)。
【0021】
エッジシール30とガラスペイン表面24Fおよび22Mとで第1の密封された内部領域40Aを画成し、一方エッジシール30とガラスペイン表面24Mおよび24Bとで第2の密封された内部領域40Bを画成する。密封された内部領域40Aおよび40Bは、夫々が1気圧(約0.1MPa)未満の真空圧力を有するように真空にすることが好ましく、これにより、望ましい断熱特性および音響特性を備えた、特に
図1および
図2に示したような2ペインのVIG窓10の約2倍の絶縁性を備えた、3ペインのVIG窓10が提供される。
【0022】
図4Bは
図4Aに類似したものであり、3ペインのVIG窓10の代替の実施形態例を示しているが、ここでは第2組のガラス突起スペーサ50は、中間ガラスペイン20Mではなく後方ガラスペイン20Bの内側表面24B内で形成されている。
図4Bはさらに、上述したような複数のエッジシール30を使用した実施形態例を示している。
【0023】
図4Cは
図4Bに類似したものであり、3ペインのVIG窓10のさらに別の代替の実施形態例を示し、ここでは第1組のガラス突起スペーサ50は、中間ガラスペイン20Mではなく、前方ガラスペイン20Fの内側表面24F内で形成されている。すなわち、
図4Cに示した実施形態において、ガラス突起スペーサは内側および外側ペイン内で形成され、一方
図4Aに示した実施形態では、ガラス突起スペーサは中間ペイン内で形成されている。
【0024】
以下でさらに詳細に開示するが、低放射率コーティングなどの1以上の光学コーティングを、ガラス突起スペーサ上と、ガラス突起スペーサが形成されている表面上とに形成してもよい。明瞭にするために、
図1、2、および4で説明した図示の実施形態では、光学コーティングは省略した。
【0025】
一実施形態例において、中間ガラスペイン20Mはソーダ石灰ガラスまたはアルカリアルミノケイ酸ガラスから形成され、さらなる実施形態例において、この厚さT
Gは0.5mmから3mmの間である。種々の実施形態において、本体部分23F、23B、および23Mを構成している第1、第2、および第3のガラス材料は、単独で、あるいは任意の組合せで、化学強化ガラスを含んでもよい。一実施形態例において、前方、中間、および後方ガラスペインの本体部分23F、23M、および23Bは、同じガラス材料から作製される。
【0026】
ソーダ石灰ガラスは最も一般的な窓ガラスであるが、本書において開示されるVIG窓は、以下で詳細に説明する方法を用いて一体的なガラス突起スペーサ50を形成することができる任意の種類のガラスに適用することができる。例えば、本書において開示されるVIG窓は、低鉄(「超透明」)窓ガラスや、以下で紹介しかつ論じる他のガラスに適用される。
【0027】
ガラス突起スペーサの形成
窓用ペインに使用される
利用可能な透明ガラスは、約800μmから1600μmの間の近赤外(NIR)バンドまたは約340nmから約380nmの間の紫外(UV)バンドなどの、高出力レーザを
得られる波長をほとんど吸収しない傾向がある。例えば、アルカリ土類アルミノケイ酸塩ガラスおよびアルミノケイ酸ナトリウムガラス(ニューヨーク州コーニングのコーニング社(Corning Incorporated)から全て入手可能な、Eagle2000(登録商標)ガラス、EagleXG(商標)ガラス、1317ガラス、およびGorilla(商標)ガラスなどのガラス)は、典型的には
図5Aに示したような透過スペクトルを有し、またソーダ石灰ガラスは典型的には
図5Bに示したような透過スペクトルを有している。
図5Aおよび
図5Bから明らかであるように、アルカリ土類アルミノケイ酸塩ガラスおよびソーダ石灰ガラスの透過率は、波長355nmで約85%超(ガラス/空気界面での反射によるフレネル損失を含む)であり、このため数百ワットの出力が得られるレーザが使用されない限り、ガラスが小容積であっても、作業点(〜10
5ポアズ)近くの温度まで加熱することは困難である。
【0028】
意外なことに、アルカリ土類アルミノケイ酸塩ガラス(例えば、上記の「Eagle2000」ガラスおよび「EagleXG」ガラスなどのLCDガラス)、ソーダ石灰ガラス、およびアルミノケイ酸ナトリウムガラス(例えば、上記の1317ガラスおよびGorillaガラス)から形成されたものを含む、特定の透明なガラスペインでは、強力なUVレーザビームを透明なガラスペインに通して伝送することにより、レーザ波長での吸収を十分なレベルまで上昇させ得ること
が見出され
た。特に、高繰返し率、ナノ秒パルス幅のUVレーザが最も効果的であることが見出された。このようなパルスUVレーザビームにおよそ1〜2秒間露出することで、それ以外では比較的低吸収の透明ガラスに、光誘起吸収がもたらされることが見出された。この誘起されたガラス吸収はUV波長で著しく増加して、局所的にガラスペインを(同一のレーザまたは別々のレーザを使用して)その作業温度まで加熱することが可能になり、ガラス突起50の形成を可能にする。UV生成の吸収は、照射が終了すると、短時間(例えば、数秒)で弱まる。
【0029】
中赤外波長レーザなどの他の種類のレーザを、ほとんどの透明ガラス材料に対してUVレーザの代わりに使用することができる。一例の中赤外波長レーザは、約2.7μmの波長を有するレーザビームを生成する。説明のために、UVレーザを、本書において開示されるVIG窓を形成するために使用される装置と関連付けて、以下で説明および検討する。
【0030】
図6は、VIG窓10を形成するプロセスにおいてガラスペイン20内でガラス突起スペーサ50を形成するために使用される、一例のレーザベース装置(「装置」)100を示した概略図である。装置100は、光軸A1沿いに配置されたレーザ110を含んでいる。レーザ110は、出力Pのレーザビーム112を光軸に沿って放射する。一実施形態例において、レーザ110は紫外線(UV)領域の電磁スペクトルで動作する。
【0031】
さらに
図7を参照すると、特定の実施形態例において、レーザ110はレーザビーム112を構成する光パルス112Pを生成するパルスレーザであり、このときこの光パルスは、UV波長(例えば、約355nm)と、ナノ秒スケールの一時的なパルス幅τ
Pとを有している。一実施形態例において、光パルス112Pの一時的なパルス幅τ
Pは、20ns≦τ
P≦80nsの範囲内であり、かつ繰返し率Rは、50kHz≦R≦200kHzの範囲内である。さらにこの実施形態例において、レーザ110は20ワットのレーザ(すなわち、P=20W)である。一実施形態例において、レーザ110は第3高調波Nd系レーザを含む。
図7に示したように、光パルス112Pの間隔は時間量Δtであり、それにより繰返し率はR=1/Δtと画成される。
【0032】
装置100は、光軸A1に沿って配列されかつ焦点FPを含む焦点面P
Fを画成する、集光光学系120をさらに含む。一実施形態例において、集光光学系120は光軸A1に沿ってレーザ110から順に、デフォーカスレンズ124と第1集束レンズ130との組合せ(この組合せがビーム拡大器を形成する)、および第2集束レンズ132を含む。一実施形態例では、デフォーカスレンズ124の焦点距離f
D=−5cm、第1集束レンズ130の焦点距離f
C1=20cm、および第2集束レンズ132の焦点距離f
C2=3cm、さらに開口数NA
C2=0.3である。一実施形態例において、デフォーカスレンズ124と第1集束レンズ130および第2集束レンズ132は、溶融シリカから作製され、かつ反射防止(AR)コーティングを含んでいる。集光光学系120の代替の実施形態例は、レーザビーム112から集束レーザビーム112Fを生成するように構成された、ミラー、またはミラーとレンズ部材との組合せを含む。
【0033】
装置100は、レーザ110に電気的に接続されかつレーザの動作を制御するように適合された、レーザコントローラ、マイクロコントローラ、コンピュータ、マイクロコンピュータなどのコントローラ150をさらに含んでいる。一実施形態例では、シャッター160をレーザビーム112の経路内に提供しかつコントローラ150に電気的に接続させて、レーザ制御信号SLでレーザ110を「ON」および「OFF」するのではなく、シャッター制御信号SSを用いてレーザビームを選択的に遮断してレーザビームを「ON」および「OFF」するようにしてもよい。
【0034】
装置100の動作を開始する前に、前方表面22と後方表面24とを備えた本体部分23を有するガラスペイン20を装置に対して配置する。具体的には、ガラスペイン20を、ガラスペイン前方表面22およびガラスペイン後方表面24が光軸に実質的に垂直になるように、そしてガラスペイン後方表面24がレーザ110に向かう方向に(すなわち+Z方向に)距離D
Fだけ、焦点面P
Fから軸方向に若干ずれるように、光軸A1沿いに配置する。一実施形態例において、ガラスペイン20の厚さT
Gは0.5mm≦T
G≦6mmの範囲内である。さらに一実施形態例では、0.5mm≦D
F≦2mmである。この配列において、ガラス突起スペーサは、
図2の後方ガラスペイン20Bの表面24Bに相当する、ガラスペイン表面24内で形成される。
【0035】
レーザ110をその後、コントローラ150から制御信号SLを介して駆動し、レーザビーム112を生成する。シャッター160を使用する場合には、レーザ110を駆動した後にシャッターを駆動させて、シャッターがレーザビーム112を通過させるように、コントローラ150からシャッター制御信号SSを介してシャッターを「ON」の位置に置く。その後レーザビーム112は集光光学系120に受け入れられ、そこでデフォーカスレンズ124によってレーザビームが発散してデフォーカスレーザビーム112Dが形成される。デフォーカスレーザビーム112Dは次に、デフォーカスレーザビームから拡大コリメートレーザビーム112Cを形成するように配列された、第1集束レンズ130に受け入れられる。コリメートレーザビーム112Cはその後、集束レーザビーム112Fを形成する第2集束レンズ132に受け入れられる。集束レーザビーム112Fはガラスペイン20を通過して、光軸A1沿いの、上述したようにガラスペイン後方表面24から距離D
Fの位置にある、すなわち本体部分23外にある、焦点FPの位置に、焦点スポットSを形成する。ここで、集束レーザビーム112Fはガラスペインを通過するときに収束するため、ガラスペイン20が光学系120の焦点FPの位置に若干影響を与えることに留意されたい。しかしながら、ガラスペイン20の厚さT
Gは典型的には十分に薄いため、この焦点シフトの影響は無視できる。
【0036】
集束レーザビーム112Fの一部は、ガラスペイン内における上記光誘起吸収のため、ガラスペイン20を通過するときに吸収される。これは局所的にガラスペイン20を加熱する働きをする。光誘起吸収の量は比較的少なく、例えば約3%から約4%である。集束レーザビーム112Fがガラスペイン20内で局所的に吸収されると、急速な温度変化によって本体部分23内でガラスの膨張が誘発され、本体部分23内に限定的な膨張ゾーンが生成される。膨張ゾーンは、膨張ゾーンを包囲しているガラスの加熱されていない(そのため膨張していない)領域により制約されるため、膨張ゾーン内のガラスは上方に変形することによって内部応力を開放せざるを得ず、それによりガラス突起スペーサ50が形成される。
図6の差し込み図に示したように、ガラス突起スペーサ50のピーク51は、最もビーム強度が高い位置に対応する。一実施形態例において、ガラス突起スペーサ50は、ガラスの加熱領域を急速に冷却することによって固定される。この固定は、集束レーザビーム112Fへの露出(すなわち、集束レーザビーム112Fによる照射)を終了させることによって実現することができる。
【0037】
集束レーザビーム112Fがガウシアン分布などの円形対称の断面強度分布を有している場合、局所的加熱およびそれに伴うガラスの膨張はガラスペイン本体23内の円形領域上で生じ、得られるガラス突起スペーサ50は実質的に円形対称になる。
【0038】
このプロセスをガラスペイン内の異なる位置で繰り返して、複数のガラス突起スペーサ50(例えば、ガラス突起スペーサ50のアレイ)をガラスペイン20内に形成することができる。ガラス突起スペーサを形成した後、ガラスペインを随意的にさらに加工して、その後VIG窓10内に組み込んでもよい。一実施形態例において、装置100は、コントローラ150に電気的に接続されかつガラスペイン20を集束レーザビーム112Fに対し大きい矢印172で示したようにX、Y、およびZ方向に動かすように構成された、XYZ台170を含んでいる。これにより、コントローラ150からの台制御信号STを介して台170を選択的に並進させて、ガラスペイン20内の異なる位置を照射することにより、複数のガラス突起スペーサ50を形成することができる。
【0039】
一実施形態例において、ガラス突起スペーサ50は
図1に示したように規則的なアレイの状態で形成される。一実施形態例において、隣接するガラス突起スペーサ50間の間隔は、約2インチ(すなわち、約5cm)から6インチ(すなわち、約15cm)の間である。さらに一実施形態例では、ガラス突起スペーサの高さHがその組のガラス突起スペーサに亘り実質的に均一な選択された高さになるようにガラス突起スペーサを形成できるよう、ガラス突起スペーサの形成を、ガラス突起スペーサ50の成長を追跡するフィードバックデバイスまたはシステムを用いて制御する。
【0040】
一実施形態例において、ガラス突起スペーサの形成は、ガラスペイン20を通過する集束レーザビーム112Fの透過率Tを測定することによって追跡する。一実施形態例において、これは、光検出器180を軸A1沿いのガラスペイン20の出力側の位置に配置し、かつ光検出器をコントローラ150に電気的に接続させることによって達成される。集束レーザビーム112Fの透過率Tは、ガラス突起50が形成されると急速に低下する。従って、検出した集束レーザビーム112Fの透過光に応じて光検出器180が生成する、電気的な検出器信号SDの変化によって、この急速な透過率の降下を検出することができる。集束レーザビーム112Fでの照射(露出)を(例えば、上述したようなコントローラ150の制御信号SLまたはSSを使用した動作を介して)終了させると、局所的な加熱が停止されてガラス突起スペーサ50が固定される。一実施形態例では、測定された透過率Tを使用して、1回分の照射量を制御する。
【0041】
代替の実施形態例では、光検出器180をガラスペイン20の入力側に隣接させて配置し、照射プロセス中にガラスペイン本体23から蛍光を検出する。検出された蛍光の閾値変化をその後使用して、露出を終了させたり、あるいは1回分の照射量を調節したりしてもよい。
【0042】
別の実施形態例では、フィードバックサブシステムを使用して照射を制御することにより各ガラス突起スペーサの突起高さを制御してもよい。例えば、第1ガラスペインを通過する集束レーザビームの透過強度、各ガラス突起スペーサ夫々の温度、各ガラス突起スペーサ夫々から発せられる蛍光強度、および各ガラス突起スペーサ夫々の突起高さ、のうちの1以上を監視し、かつこの監視された変動値に関して既定値が測定されたときに照射を終了させることによって照射を制御するように、フィードバックサブシステムを実行してもよい。
【0043】
別の実施形態例において、ガラスペイン20内のガラス突起スペーサ50が形成される位置に集束レーザビーム112Fを選択的に導くことができるよう、集光光学系120は走査用に適合される。
【0044】
突起高さHは、レーザ出力P、繰返し率R、集束条件、およびガラスペイン20を構成しているガラス材料を含む、いくつかの因子に依存する。
図8は、集束レーザビーム112Fにおけるレーザ出力(W)、焦点面P
Fとガラスペイン後方表面24との間の距離D
F、およびソーダ石灰ガラスから作製された厚さT
G=3mmのガラスペインに対する突起高さHを描いた棒グラフである。
図8の棒グラフは、実験データに基づいたものであり、特定の種類のガラスペイン20に対して装置100を使用してガラス突起スペーサ50を形成するための動作パラメータの一例の範囲を提供する。使用された露出(照射)時間は、2から2.5秒の間の範囲であり、この変動は突起高さHに著しく影響を与えるものではないことが認められた。UVレーザの最適な繰返し率はR=150kHzであることが見出された。突起高さHは、D
Fが約0.6mmおよびレーザ出力Pが約9Wでの約75μmから、D
Fが約1.1mmおよびレーザ出力が約13Wでの約170μmに及ぶ。
【0045】
突起高さHが小さ過ぎると、内部領域40に適用することができる真空の量を減少させることになる可能性があり、隣接するガラスペイン20間の間隙が過度に小さく、絶縁特性の低下に繋がり得ることに留意されたい。内部領域の容積が小さくなると、同様に絶縁特性の低下に繋がる。さらに、突起高さHが小さいと、近接して配置されたガラス表面間の光の干渉によって「ニュートン環」が出現する可能性がある。これら2つの潜在的な問題をほとんどのVIG窓10に対して解決するには、突起高さH≧100μmであれば十分であると推定される。
【0046】
図9は、厚さT
G=3mmのソーダ石灰ガラスペイン内で形成されたガラス突起スペーサ50の3次元画像である。
図10は、
図9のガラス突起スペーサ50のライン走査である。このライン走査により、ガラス突起スペーサ50が実質的に半球状の形状を有し、突起高さHが約75μmであり、さらにベースの直径D
Bが約250μmであることが明らかになる。一実施の形態において、対向するガラスペインとの接点が小さくかつ湾曲しているガラス突起スペーサ50を提供することにより、光学コーティングの摩耗を最小限に抑えることができる。さらに、各ガラス突起スペーサと対向するガラスペインとの間の接触面積を最小にすることにより、ガラス突起スペーサを介した熱移動を最小にできると同時に機械的に強固なVIG窓を得ることができる。
【0047】
図11は、ガラス板の形の成長制限表面をガラスペイン表面24に隣接させて置き、その後ガラスペインを上記のように照射したことを除き、
図9に示したものに類似したガラス突起スペーサ50の3次元画像である。得られるガラス突起スペーサ50は特定の突起高さHまで成長し、その後この成長は隣接するガラス板によって制限された。その結果、ガラス突起スペーサ50は実質的に平坦な直径D
Tの最上部51を有するものとなった。このように、ガラス突起50の面積、高さ、および形状は制御可能であり、特に実質的に平坦な最上部51の直径D
T(すなわち、表面積)は制御可能である。一実施形態例において、実質的に平坦な最上部51は実質的に円形の形状を有しているため、その表面積SAはSA=π[D
T/2]
2の関係で近似される。n個のガラス突起スペーサ50の組での総接触面積SA
Tは、SA
T=πn[D
T/2]
2で近似される。
【0048】
ガラス突起スペーサ50のサイズ、形状、および高さは、より複雑な成長制限構造を使用することにより、あるいは集束レーザビーム112Fの断面形状を変化させることにより、より正確に制御することができる。突起高さHを制御する利点は、ガラスの不均一性やレーザが少々不安定であることによる突起高さのばらつきが、軽減されることである。実質的に平坦な最上部を有するガラス突起スペーサ50の別の利点は、先端部分51とガラス20Fとの間の接触点で機械的応力が低減(最小化を含む)されることである。
【0049】
VIG窓10の一実施形態例において、総接触面積SA
Tは、断熱を増加させ、かつ好適には断熱を最適化するように選択される。ベース直径D
Bが約300μmから約700μmの範囲内であるガラス突起スペーサ50に対し、実質的に平坦な最上部51の「最上部」直径はD
T≦100μmであることが好ましく、より好適にはD
T≦75μmであり、さらに好適にはD
T≦50μmであると推定される。
【0050】
突起の形成を生じさせるガラスの膨張は溶融ガラスの表面張力で制御されるため、装置100はガラス突起スペーサ50を、概して半球状の形状を有するようにすることができる。この効果は、円形対称の断面を有した集束レーザビーム112Fを用いることで十分に引き出すことができる。ガラス突起スペーサ50の丸みを帯びた外形は、ガラス突起スペーサと隣接するガラスペインとの間で提供される総接触面積SA
Tが最小になり、そのため2つのガラスペイン間での熱伝導が低減される点で有利である。総接触面積SA
Tが増加すると断熱が弱まることから、VIG窓10におけるこの熱伝達の機構を減少させる(さらに好適には最小にする)ことが重要である。一方、ガラス突起スペーサ50毎の接触面積SAが非常に小さいと、局所的な応力集中に繋がり得、隣接するガラスペイン20および/または光学コーティング210を潜在的に損傷する可能性がある。
【0051】
VIG窓10内のレーザ成長ガラス突起スペーサ50の可視性を、従来のVIG窓内で使用されている個別スペーサの可視性に対して評価するために、VIG窓の表面法線に対して様々な傾斜角度でいくつかの写真を撮影した。ガラス突起スペーサ50は、グレージング入射角から見ると目に見えたが、より通常の略入射視野角では実際には見えなくなった。VIG窓10の写真を、その後、個別のセラミックスペーサを有している市販の窓用ペインを実際に同一条件下で撮影した写真と比較した。個別のセラミックスペーサは、特に通常の略入射視野角で、より一層目に見えるものであった。
【0052】
図4Aに示したように、一実施形態例では、ガラス突起スペーサ50が中間ガラスペイン20Mの両側面22Mおよび24M内で形成されて、3ペインのVIG窓10が形成される。一実施形態例において、両面ガラス突起スペーサ50は、片面に突起を形成する場合と比べて、照射条件を変えることで形成される。例として1つの手法では、ガラス突起スペーサ50をガラスペイン20Mの一方の側面22M内で形成し、その後このガラスペインをひっくり返して他方の側面24M内でさらにガラス突起を形成する。この実施形態では、前に形成されたガラス突起スペーサを照射しないように、中間ガラスペイン20Mの夫々の面内で形成された2組のガラス突起スペーサ50を若干ずらす必要があるであろう。このずらす量は、例えば、典型的にはおよそ200μmから700μmであってすなわち典型的なVIG窓10のサイズに比べると極めて小さいベース直径D
Bの、約2倍以下である。
【0053】
VIG窓10に対し、一体的に形成されたガラス突起スペーサ50を使用すると、ガラスペインに個別の(すなわち、一体的ではない)スペーサを配置して固定したものよりも費用効率が高くなると予想される。これは概して、開示される手法によれば、個別のスペーサを正確な位置に設置しかつVIG窓を組み立てる間にこれらを所定の位置で保持するための、設備およびプロセスの必要性がなくなるためである。ガラス突起50の先端部分51と隣接するガラスペイン20との間の接触面積SAが、より小さくかつ制御可能であることから、熱伝導によるVIG窓10を通じての熱伝達は個別のスペーサを使用したものに比べて減少する(さらに、好適には最小になる)。個別のスペーサの取扱いおよび設置が極めて難題となり得る3ペインのVIG窓を製造する場合には、コスト優位がより一層明らかになる。
【0054】
VIG窓10の実施形態例では、様々な材料組成を有したガラスペイン20が採用される。例えば、1つのガラスペイン20(例えば、
図2の後方ガラスペイン20B)は第1ガラス種から形成され、かつ別のガラスペイン(例えば、前方ガラスペイン20F)は第2ガラス種から形成される。例えば、第1ガラス種はソーダ石灰窓ガラスであり、一方第2ガラス種はイオン交換されたアルミノケイ酸ナトリウムガラス(例えば、1317、2317など)であり、あるいはその逆である。さらに、化学強化された(例えば、イオン交換された)ガラスペインが使用される実施形態では、この化学強化されたペインは従来の(例えば、2〜4mmのソーダ石灰)ガラスペインよりも薄いもの(例えば、0.5〜2mm)でもよく、これにより同等またはより優れた機械的特性を維持しながら、VIG窓10の総厚および総重量を減少させることができる。
【0055】
アルミノケイ酸ナトリウムガラス1317(「1317ガラス」)において行われたガラス突起形成の実験によれば、厚さT
G=1.3mmのサンプル内で155μmの突起高さHが形成され、高い膨張性能が明らかになった。ここで、ソーダ石灰窓ガラスと1317ガラスの熱膨張係数(CTE)は類似しており、約9ppm/℃であることに留意されたい。
【0056】
鉄含有量が非常に低い(すなわち緑がかった色を有していない)「ウルトラホワイト」窓用ガラスペイン20において行われた実験では、突起高さHが約212μmのガラス突起スペーサ50が上記方法を用いて形成された。すなわち、一実施形態例において、鉄含有量が低いガラス内で形成されたガラス突起スペーサ50の突起高さHは、75μmから225μmの範囲内であり、より好適には100μmから225μmの範囲内、そしてさらに好適には150μmから225μmの範囲内である。
【0057】
VIG窓に使用されるガラスペインは、様々なガラスシート成形方法を用いて作製することができる。ガラスシート成形法方法の例としては、夫々ダウンドロー法の例であるフュージョンドロー法およびスロットドロー法や、フロート法が挙げられる。フュージョンドロー法は、溶融ガラス原材料を受け入れる溝を備えた延伸タンクを使用する。この溝は、溝の長さに沿って上部が開口した堰を溝の両側面に有している。溝が溶融材料で満たされると、溶融ガラスは堰から溢れ出る。重力により、溶融ガラスは延伸タンクの外側表面を流れ落ちる。これらの外側表面は、延伸タンク下方のエッジの位置で交わるように、下方の内側へと延在している。2つの流れているガラスの表面は、このエッジで交わって融合し、単一の流動シートを形成する。フュージョンドロー方法では、溝を超えて流れる2つのガラス膜が融合するため、得られるガラスシートのどちらの外側表面も装置のいかなる部分とも接触していないという利点がある。すなわち、フュージョンドローによるガラスシートの表面特性は、このような接触には影響されない。
【0058】
スロットドロー方法はフュージョンドロー方法とは異なる。スロットドロー方法では、溶融した原材料ガラスが延伸タンクに供給される。延伸タンクの底部には開口したスロットが設けられ、スロットはその全長に延在するノズルを備えている。溶融ガラスは、スロット/ノズルを通って流れ、連続したシートとして下方のアニール領域内へと延伸される。スロットドロー法では、融合した2つのシートではなく単一のシートのみがスロットを通って延伸されるため、フュージョンドロー法よりも薄いシートを提供することができる。
【0059】
ダウンドロー法で生み出される表面は、比較的汚れのないものとなる。ガラス表面の強度は、表面の傷の量やサイズで制御されるため、接触が最小限に抑えられた汚れのない表面の方が初期強度は強い。この高強度ガラスを次いで化学強化すると、ラッピングおよびポリッシングを施された表面よりも、得られる強度を高くすることができる。ダウンドローによるガラスは、厚さ約2mm未満まで延伸することができる。さらに、ダウンドローによるガラスは、費用のかかるグラインディングおよびポリッシングを行なわずに最終用途で使用し得る、極めて平坦で滑らかな表面を有している。
【0060】
フロートガラス方法では、典型的にはスズの溶融金属のベッド上に溶融ガラスを浮かべることによって、滑らかな表面と均一な厚さを特徴とし得るガラスのシートが作製される。一例のプロセスにおいて、溶融スズのベッドの表面上に供給された溶融ガラスが、浮遊するリボンを形成する。ガラスリボンがスズバスに沿って流れるとき、固体のガラスシートをスズからローラ上へと持ち上げることができるようになるまで温度を徐々に低下させる。ガラスシートは、一旦バスから離れるとさらに冷却され、内部応力を低減するようアニールされ得る。ガラスシートが成形されると、これを切断して所望の形状とし、VIG窓に組み込むための窓用ペインを形成することができる。
【0061】
ガラス窓は、実質的に平坦でもよいし、あるいは特定の用途のために成形してもよい。例えば、窓をフロントガラスまたはカバープレートとして使用するために、曲がったまたは成形された部品として形成することができる。成形されたVIG窓の構造は、単純なまたは複雑なものとし得る。特定の実施形態において、成形されたVIG窓は単純な曲率を有し得る。特定の実施形態において、成形されたVIG窓は、ガラスペインが2つの独立した方向に異なった曲率半径を有しているような、複雑な曲率を有したものでもよい。すなわち、このような成形されたまたは湾曲したガラスペインは、ガラスが所与の次元に平行な軸に沿って湾曲し、かつ同じ次元に垂直な軸に沿っても同様に湾曲している、「クロス曲率」を有するものとして特徴付けることができる。例えば、自動車のサンルーフは典型的には約0.5m×1.0mであり、その短軸に沿った曲率半径は2から2.5m、かつ主軸に沿った曲率半径は4から5mである。
【0062】
特定の実施形態により成形されたVIG窓は、曲げ係数によって画成することができる。ここで所与の部分に対する曲げ係数は、所与の軸に沿った曲率半径をその軸の長さで割ったものに等しい。すなわち、自動車のサンルーフの例において、0.5mおよび1.0mの各軸に沿って夫々2mおよび4mの曲率半径を有している場合、各軸に沿った曲げ係数は4である。成形されたガラス窓の曲げ係数は、2から8(例えば、2、3、4、5、6、7、または8)まで及び得る。
【0063】
ガラスペインを曲げるおよび/または成形するための方法としては、重力曲げ、プレス曲げ、およびこれらを混合した方法が挙げられる。
【0064】
薄く平坦なガラスシートを自動車のフロントガラスなどの湾曲した形状にする、従来の自重曲げの方法では、冷却されて事前に切断された単一または複数のガラスシートを、曲げ治具の、剛性で事前成形された金属製の周縁部支持表面上に置く。曲げの前に、ガラスは典型的には、少しの接触点のみで支持される。通常
、徐冷窯内の昇温に
晒すことによって
、ガラスが加熱されると、ガラスが軟化して重力によりガラスが垂下または下降し、周縁部支持表面に形が一致する。実質的に支持表面全体が、一般的にはその後ガラスの外面と接触することになる。
【0065】
関連技術はプレス曲げであり、この技術では平坦なガラスシートを、そのガラスの軟化点に実質的に対応する温度まで加熱する。その後、この加熱されたシートを、相補的な成形表面を有した雄型部材と雌型部材との間で所望の曲率にプレスすなわち成形する。
【0066】
組み立てられたVIG窓の厚さは、約2mmから4mmの範囲となり得、このとき個々のガラスペインの厚さは0.5から2mm(例えば、0.1、0.2、0.3、0.5、0.7、1、1.4、1.7、または2mm)となり得る。実施形態において、化学強化ガラスシートの厚さは、1.4mm未満または1.0mm未満となり得る。
【0067】
化学強化ガラスシート
上記のように、本書において開示される真空断熱ガラス窓は、1以上の化学強化ガラスシートを備えている。化学強化により、VIG窓に組み込まれる化学強化ペインの一方または両方の表面は圧縮されている。傷が伝播するには、そしてガラスに損傷が生成されるには、衝撃による引張応力が表面の圧縮応力を超えなければならない。実施形態では、化学強化ガラスシートの高い圧縮応力および深い層深さにより、化学強化されていないガラスの場合よりも薄いガラスの使用が可能になる。
【0068】
ガラスシートは、イオン交換プロセスにより化学強化することができる。このプロセスでは、典型的にはガラスシートを溶融塩浴内に既定時間の間浸漬させることにより、ガラスシートの表面位置あるいは表面付近のイオンが、塩浴からのより大きな金属イオンと交換される。溶融塩浴の温度は典型的には約400〜500℃であり、かつこの既定時間は約2から10時間に及び得る。より大きなイオンがガラス内に取り込まれると、表面付近の領域に圧縮応力が生成されることによってシートが強化される。この圧縮応力とバランスするよう、ガラスの中心領域内には対応する引張応力が誘起される。
【0069】
ガラスペインの形成に適したイオン交換可能なガラスの例は、アルカリアルミノケイ酸ガラスまたはアルカリアルミノホウケイ酸ガラスであるが、他のガラス組成も考えられる。本書において「イオン交換可能」とは、ガラスが、ガラスの表面にまたは表面付近に位置している陽イオンと、サイズがより大きいあるいはより小さい、同じ価数の陽イオンとを交換することができることを意味する。一例のガラス組成は、SiO
2、B
2O
3、およびNa
2Oを含み、このとき(SiO
2+B
2O
3)≧66モル%かつNa
2O≧9モル%である。一実施の形態において、ガラスシートは少なくとも6重量%の酸化アルミニウムを含んでいる。さらなる実施形態において、ガラスシートは、アルカリ土類酸化物の含有量が少なくとも5重量%となるように、1以上のアルカリ土類酸化物を含んでいる。適切なガラス組成は、いくつかの実施形態において、K
2O、MgO、およびCaOのうちの少なくとも1つをさらに含んでいる。特定の実施形態において、ガラスは、61〜75モル%のSiO
2、7〜15モル%のAl
2O
3、0〜12モル%のB
2O
3、9〜21モル%のNa
2O、0〜4モル%のK
2O、0〜7モル%のMgO、および0〜3モル%のCaOを含み得る。
【0070】
ガラスペインの形成に適したさらなるガラス組成の例は、60〜70モル%のSiO
2、6〜14モル%のAl
2O
3、0〜15モル%のB
2O
3、0〜15モル%のLi
2O、0〜20モル%のNa
2O、0〜10モル%のK
2O、0〜8モル%のMgO、0〜10モル%のCaO、0〜5モル%のZrO
2、0〜1モル%のSnO
2、0〜1モル%のCeO
2、50ppm未満のAs
2O
3、および50ppm未満のSb
2O
3を含み、このとき12モル%≦(Li
2O+Na
2O+K
2O)≦20モル%かつ0モル%≦(MgO+CaO)≦10モル%である。
【0071】
さらなるガラス組成の例は、63.5〜66.5モル%のSiO
2、8〜12モル%のAl
2O
3、0〜3モル%のB
2O
3、0〜5モル%のLi
2O、8〜18モル%のNa
2O、0〜5モル%のK
2O、1〜7モル%のMgO、0〜2.5モル%のCaO、0〜3モル%のZrO
2、0.05〜0.25モル%のSnO
2、0.05〜0.5モル%のCeO
2、50ppm未満のAs
2O
3、および50ppm未満のSb
2O
3を含み、このとき14モル%≦(Li
2O+Na
2O+K
2O)≦18モル%かつ2モル%≦(MgO+CaO)≦7モル%である。
【0072】
特定の実施形態において、アルカリアルミノケイ酸ガラスは、アルミナ、少なくとも1つのアルカリ金属、および、いくつかの実施形態では50モル%超のSiO
2、他の実施形態では少なくとも58モル%のSiO
2、さらに他の実施形態では少なくとも60モル%のSiO
2を含み、このとき比率{(Al
2O
3+B
2O
3)/Σ改質剤}>1である。この比率の表現において、成分はモル%で表され、かつ改質剤はアルカリ金属酸化物である。特定の実施形態において、このガラスは、58〜72モル%のSiO
2、9〜17モル%のAl
2O
3、2〜12モル%のB
2O
3、8〜16モル%のNa
2O、および0〜4モル%のK
2O、を含み、または本質的にこれらから成り、あるいはこれらから成り、このとき比率{(Al
2O
3+B
2O
3)/Σ改質剤}>1である。
【0073】
別の実施形態において、アルカリアルミノケイ酸ガラスは、61〜75モル%のSiO
2、7〜15モル%のAl
2O
3、0〜12モル%のB
2O
3、9〜21モル%のNa
2O、0〜4モル%のK
2O、0〜7モル%のMgO、および0〜3モル%のCaO、を含み、または本質的にこれらから成り、あるいはこれらから成る。
【0074】
さらに別の実施形態において、アルカリアルミノケイ酸ガラス基板は、60〜70モル%のSiO
2、6〜14モル%のAl
2O
3、0〜15モル%のB
2O
3、0〜15モル%のLi
2O、0〜20モル%のNa
2O、0〜10モル%のK
2O、0〜8モル%のMgO、0〜10モル%のCaO、0〜5モル%のZrO
2、0〜1モル%のSnO
2、0〜1モル%のCeO
2、50ppm未満のAs
2O
3、および50ppm未満のSb
2O
3、を含み、または本質的にこれらから成り、あるいはこれらから成り、このとき12モル%≦Li
2O+Na
2O+K
2O≦20モル%かつ0モル%≦MgO+CaO≦10モル%である。
【0075】
さらに別の実施形態において、アルカリアルミノケイ酸ガラスは、64〜68モル%のSiO
2、12〜16モル%のNa
2O、8〜12モル%のAl
2O
3、0〜3モル%のB
2O
3、2〜5モル%のK
2O、4〜6モル%のMgO、および0〜5モル%のCaO、を含み、または本質的にこれらから成り、あるいはこれらから成り、このとき、66モル%≦SiO
2+B
2O
3+CaO≦69モル%、Na
2O+K
2O+B
2O
3+MgO+CaO+SrO>10モル%、5モル%≦MgO+CaO+SrO≦8モル%、(Na
2O+B
2O
3)−Al
2O
3≦2モル%、2モル%≦Na
2O−Al
2O
3≦6モル%、さらに4モル%≦(Na
2O+K
2O)−Al
2O
3≦10モル%である。
【0076】
窓ガラスは、いくつかの実施形態において、Na
2SO
4、NaCl、NaF、NaBr、K
2SO
4、KCl、KF、KBr、およびSnO
2を含む群から選択された、0〜2モル%の少なくとも1つの清澄剤と、バッチ配合される。
【0077】
一実施形態例では、ガラス内のナトリウムイオンが、溶融浴からのカリウムイオンで置き換えられ得るが、ルビジウムまたはセシウムなどの原子半径がより大きい他のアルカリ金属イオンが、ガラス内のより小さいアルカリ金属イオンに取って代わってもよい。特定の実施形態によれば、ガラス内のより小さいアルカリ金属イオンを、Ag
+イオンで置き換えてもよい。同様に、例えば限定するものではないが、硫酸塩、ハロゲン化合物などの他のアルカリ金属塩を、イオン交換プロセスにおいて使用してもよい。
【0078】
より小さいイオンが、ガラスのネットワークが緩和し得る温度未満でより大きいイオンへと置き換わると、ある応力プロファイルをもたらすイオン分布がガラスの表面に亘って生み出される。入ってくるイオンの容積がより大きいため、ガラスの表面上に圧縮応力(CS;compressive stress)が生じ、かつガラスの中心に張力(中心張力、すなわちCT;central tension)が生じる。圧縮応力と中心張力には以下の関係がある。
【0079】
CS=CT{(t−2DOL)/DOL}
ここで、tはガラスシートの総厚であり、またDOLは層深さ(depth of layer)としても称される、交換の深さである。
【0080】
光学コーティング
1以上の光学コーティングをVIG窓に取り入れてもよい。実施形態において光学コーティングは、音響制御、UV透過制御、および/またはIR透過制御を含む、相補的機能または異なった機能を提供し得る、1以上の高分子層を含んでいる。
【0081】
低放射率コーティングは、典型的には、1層の赤外線反射膜と1以上の随意的な透明誘電膜層とを含んでいる。一般に銀、金、または銅などの導電性金属を含む赤外線反射膜により、コーティングされたペインを通る熱の透過は低減される。誘電膜を使用して、赤外線反射膜を反射するのを防止したり、また色や耐久性などのコーティングの他の性質および特性を制御したりすることができる。通常使用される誘電材料は、とりわけ、亜鉛、スズ、インジウム、ビスマス、およびチタンの酸化物を含む。
【0082】
低放射率コーティングの例としては、1または2層の銀層が、2層の透明誘電膜間に夫々挟まれたものが挙げられる。銀層の数を増加させると全体の赤外線反射が増加し得るが、銀層を追加すると、窓を通過する可視透過率をも低下させ得、および/またはコーティングの色または耐久性に悪影響を与え得る。
【0083】
光学コーティングは、物理蒸着または化学蒸着などの従来の膜形成プロセスを用いて、あるいはより面積の大きいガラスペインではラミネート加工を用いて、適用することができる。ラミネートプロセスの際、コーティング材料の薄膜を、コーティング材料を軟化させる効果のある温度まで典型的には加熱し、こうしてコーティング材料がガラスペインの表面の形に一致するのを促進する。コーティング材料内の移動可能な高分子鎖によってガラス表面との結合が発達し、これが付着を促進する。昇温が、ガラス−コーティング界面からの残留空気および/または水分の拡散をさらに加速させる。
【0084】
圧力が加えられると、コーティング材料の流れが促進され、かつ圧力が加えられなかった場合に水の蒸気圧と界面で捕捉された空気とが組み合わさることによって誘起され得る、気泡の形成が抑制される。気泡の形成を抑制するために、熱および圧力をオートクレーブ内で同時にアセンブリに加える。
【0085】
図12は、赤外線反射コーティング210を後方表面24上に形成して有している、一例のガラスペイン20を示した概略側面図である。このようなガラスペインは、透過する(すなわち、熱を生成する)放射の量を弱めることができるため、VIG窓において有用である。
【0086】
図13は、
図12の図に類似した拡大断面図であるが、
図12のIR反射ガラスペイン20において、上にガラス突起スペーサ50が形成されたものを示している。ガラス突起スペーサを形成する前に反射コーティング210が形成された場合、コーティング210の溶融点はガラスペイン20よりもかなり低いため、ガラス突起スペーサ50の近傍からコーティングが溶けてなくなり、ガラス突起スペーサ50は被覆されていない状態となる。コーティング210の任意の残部は、標準的なガラス洗浄技術を用いて後方表面24を洗浄することにより容易に除去される。
【0087】
一方、ガラス突起スペーサ50を形成した後に反射コーティング210を取り入れると、反射コーティング210は、ガラス突起スペーサ50を含めたペインの後方表面全体の上に、実質的に形が一致したコーティングを形成する。
図14は、後方表面24上と、後方表面内で形成されたガラス突起スペーサ50上とに形成された、反射コーティング210を含んでいる、IR反射ペイン20の断面図である。
【0088】
VIG窓の形成
本開示の一実施の形態は、VIG窓10のようなVIG窓の形成に関する。
図14と、
図1および
図2を再び参照すると、VIG窓10を形成する一例の方法は、第1ガラス材料を含んでいる第1(後方)ガラスペイン20Bにおいて、第1ガラス材料から成る複数のガラス突起スペーサ50を、第1本体部分23から形成するステップを含む。この方法は次いで、ガラス突起スペーサと、ガラス突起スペーサが形成されている表面との両方の上に光学コーティングを形成するステップと、第2ガラス材料から成る第2(前方)ガラスペイン20Fを、第1ガラスペインおよび第2ガラスペインが夫々の表面24Fおよび24B間で第1距離D
Gだけ離れるように、第1の複数のガラス突起スペーサ50に接触させるステップと、を含む。この方法は次に、第1エッジ28Fおよび第2エッジ28Bの少なくとも夫々の一部をエッジシール30で密封して、前方ガラスペイン20Fと後方ガラスペイン20Bとの間に内部領域40を画成するステップを含む。その後、内部領域40を少なくとも部分的に真空にして、その内部において1気圧(約0.1MPa)未満の真空圧力を形成する。実施形態において、ガラスペインの一方または両方は、化学強化ガラスを含んでもよい。特定の実施形態例では、第2ガラスペインが化学強化ガラスペインである。
【0089】
3ペインのVIG窓10を形成する方法は2ペインのVIG窓の形成に類似しており、ここで
図4A、
図4B、および
図4Cを参照して論じる。まず
図4Aを参照すると、一実施形態例において3ペインのVIG窓10の形成は、前方(第2)ガラスペイン20Fと後方(第3)ガラスペイン20Bとの間に存在する中間(「第1」)ガラスペイン20M内で、2組のガラス突起スペーサを形成するステップを含む。すなわち中間ガラスペイン20Mは、表面22Mおよび24Mに夫々第1および第2の複数(組)のガラス突起スペーサ50を有している。中間ガラスペイン20Mは、さらに外側エッジ28Mを有し、かつ第1ガラス材料から構成されている。
【0090】
この方法は、各光学コーティング210が、ガラス突起スペーサ50上と、そのガラス突起スペーサが形成されている各表面22Mおよび24M上との両方に形成されるように、中間ガラスペインの表面の一方または両方の上に光学コーティング210を形成するステップをさらに含む。その後、前方ガラスペイン20Fおよび後方ガラスペイン20B(夫々第2および第3ガラス材料から構成されている)を、前方ガラスペイン20F、中間ガラスペイン20M、および後方ガラスペイン20Bが表面24Fと22Mとの間で距離D
GAだけ離れ、かつ中間ガラスペイン20Mおよび後方ガラスペイン20Bが表面24Mと24Bとの間で距離D
GBだけ離れるように、第1および第2の複数のガラス突起スペーサ50に夫々接触させてもよい。
【0091】
この方法は次に、3つのガラスペインの、前方エッジ28F、中間エッジ28M、および後方エッジ28Bの少なくとも夫々の一部を、1以上のエッジシール30(
図4Aには1つのエッジシール30が示されている)で密封するステップを含む。これは、前方ガラスペイン20Fと中間ガラスペイン20Mとの間、および中間ガラスペイン20Mと後方ガラスペイン20Bとの間に夫々、第1内部領域40Aおよび第2内部領域40Bを画成する働きをする。その後、内部領域40Aおよび40Bを少なくとも部分的に真空にして、その内部において1気圧(約0.1MPa)未満の真空圧力を夫々形成する。実施形態において、ガラスペインの少なくとも1つは、化学強化ガラスペインである。特定の実施形態例では、第1および第3ガラスペインが化学強化ガラスペインである。形が一致している光学コーティングが中間ペイン上に形成されていることを示しているガラスペイン構造が、
図15に概略的に示されている。
【0092】
図4Bおよび
図4Cを参照して説明する代替の実施形態では、両方の組のガラス突起スペーサ50を中間ガラスペイン20M内で形成するのではなく、これらを
図4Bおよび
図16を参照して説明するように中間ペイン20Mの一方の表面22Mと後方ガラスペイン20Bの内側表面24Bとに、あるいは
図4Cおよび
図17を参照して説明するように前方ガラスペイン20Fの内側表面24Fと後方ガラスペイン20Bの内側表面24Bとに形成してもよい。光学コーティングとエッジシールは、上述と同様に形成することができる。例として、
図4Bに示したように、3ペインのVIG窓10を形成する方法は、1つのエッジシール30を使用してエッジ28Fおよび28Mの少なくとも夫々の一部を密封し、第1内部領域40Aに対して真空シールを形成し、かつ別のエッジシールを使用してエッジ28Mおよび20Bの少なくとも夫々の一部を密封し、第2内部領域40Bに対して真空シールを形成するステップを含んでもよい。
【0093】
前述のlow−EのVIG窓を使用すると、音響ノイズが弱まり、UV光および/またはIR光の透過が低減され、および/または、軽量で機械的に頑丈なパッケージにおいて窓の開口部の見た目の美しさが高まることを含めた、有益な効果を提供することができる。
【0094】
本書では、文脈が明らかに他に指示していなければ、単数形は複数の指示対象を含むものとする。すなわち、例えば「金属」に言及したときには、文脈が明らかに他に指示していなければ、2以上のこの「金属」を有する例を含む。
【0095】
本書では、範囲を、「約」ある特定の値から、および/または「約」別の特定の値までと表現することがある。範囲がこのように表現されるとき、いくつかの例が、そのある特定の値から、および/または他方の特定の値までを含む。同様に、値が先行詞「約」を用いて近似値で表されるとき、その特定の値は別の態様を形成することを理解されたい。各範囲の端点は、他方の端点との関連において重要であるし、また他方の端点と無関係に重要でもあることをさらに理解されたい。
【0096】
他に明確に述べられていなければ、本書に明記されるいずれの方法も、そのステップを特定の順序で実行する必要があると解釈されることを全く意図していない。したがって、方法の請求項においてこれらのステップが行われる順序が実際に述べられていない場合、あるいは請求項または説明の中でこれらのステップが特定の順序に限定されるべきであると具体的に述べられていない場合には、いかなる特定の順序をも推測させることは全く意図されていない。
【0097】
本書における記述は、特定のやり方で機能するように「構成」または「適合」されている本発明の構成要素に言及することも留意されたい。この点において、こういった構成要素は特定の性質を具現化するように、あるいは特定の様態で機能するように、「構成」または「適合」されたものであり、このときこの記述は、意図されている用途に関する記述ではなく構造の記述である。より具体的には、ある構成要素が「構成」または「適合」された様態に本書で言及したとき、この言及はその構成要素の実在する物理的条件を示したものであり、したがってその構成要素の構造的特性に関する明確な記述と受け取られるべきである。
【0098】
本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の種々の改変および変形が作製可能であることは当業者には明らかであろう。本発明の精神および本質を取り入れている開示された実施形態の、改変、組合せ、下位の組合せ、および変形が、当業者には思い付き得るため、本発明は添付の請求項およびその同等物の範囲内の全てのものを含むと解釈されるべきである。