(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
オートマチックトランスミッションの業界では、軽量化し、トランスミッションのトルク能を高めるという要求によって迅速な設計変更が行われ、クラッチの保持能と起動能を高めるために高い静止摩擦係数を示すオートマチックトランスミッション流体が要求されている。連続的なスリッピングトルクコンバータークラッチおよびローンチクラッチは、例えば、オートマチックトランスミッション流体(ATF)に対する厳格な摩擦の要求が課される。この流体は、摩擦と滑り速度との良好な関係を有していなければならず、そうでなければ、シャダーと呼ばれる好ましくない現象が車両に起こる。トランスミッションのシャダーは、一般的にスリッピングトルクコンバータークラッチで起こる「スティックスリップ」または「運動摩擦による振動」と一般的に呼ばれる自己励起される振動状態である。この流体および材料系の摩擦の特徴と、機械の設計およびトランスミッションの制御を合わせ、トランスミッションのシャダーの起こりやすさが決まる。測定された摩擦係数(μ)を滑り速度(V)に対してプロットすると(一般的にμ−V曲線と呼ばれる)は、トランスミッションのシャダーと相関関係があることが示されている。理論および実験の両方が、このμ−V曲線のわずかに負の勾配に対する正の領域が、トランスミッション流体の良好なシャダー防止性能と相関関係にあることを裏付けている。振動またはシャダーを起こさずに車両を操作することができる流体は、良好な「シャダー防止」性能を有すると言われる。この流体は、運転寿命全体にわたってこの特徴を維持しなければならない。車両でのシャダー防止性能の寿命は、一般的に、「シャダー防止の耐久性」と呼ばれる。可変速度摩擦試験機(VSFT)は、トランスミッションクラッチでみられる速度、負荷および摩擦物質をシミュレートする滑り速度に関する摩擦係数を測定し、実際の用途でみられる性能と相関関係がある。この手順は、文献に十分に記載されており、例えば、非特許文献1を参照のこと。
【0003】
高い静止摩擦係数および耐久性のある正の勾配をあわせもつという要求は、特許文献で非常によく記載されている従来のATF摩擦調整剤技術と適合しないことが多い。一般的に使用されている摩擦調整剤の多くは、低い静止摩擦係数を生じ、十分な用途での正の勾配に十分なほど耐久性がない。
【0004】
マニュアルトランスミッションの場合、シンクロナイザは、マニュアルギアボックスの中で、より重要な構成要素の1つである。性能を上げること、シフト力を小さくすること(シフト品質を上げること)、およびギア間のエネルギー損失を最小点にすることが、新世代シンクロナイザシステムの主な目的である。真鍮製システムの能力の向上および焼結させて形成した円錐部の導入によって、既存のシンクロナイザの設計をより効果的な設計に経済的に再設計することができる(非特許文献2を参照)。シンクロナイザの材料は、さらに多様になってきており、炭素などの材料を含むようになってきている。シンクロナイザの材料は、グラファイトまたは焼結したグラファイト、織られた炭素繊維のような材料、または紙系材料に由来するさまざまな基材を含んでいてもよい。これらのシステムの摩擦性の需要は、さまざまであり得るため、摩擦調整剤の選択は重要な場合がある。マニュアルトランスミッション潤滑油の化学は、シンクロナイザシステム内で十分な摩擦を維持し、これらの部品を摩耗しないように防ぐことができるような設計のために再配合される必要がある。
【0005】
一般的に用いられる摩擦調整剤の多くは、低い静止摩擦係数を生じ、実際の用途で十分な耐久性がない。昔から、清浄剤(有機酸の過塩基性金属塩、例えば、スルホネート、フェネートまたはサリチレートなど)は、ATF配合物およびMTF配合物に使用されてきた。さらに、従来のギア油またはマニュアルトランスミッション油は、典型的には、活性硫黄および表面活性のあるアミン有機ホスフェートのような化学成分を含む。極圧潤滑性を与える添加剤として優れているが、通常の量では、これらの添加剤は、摩擦表面が摩耗または腐食摩耗しないように不十分ながら保護しつつ、単独では大きすぎて摩擦を下げることができない。このような添加剤は、全体的な配合物に利益を与えるが、添加剤は、費用を追加することに加え、潤滑配合物に複雑さを加える。添加剤パッケージの場合、多くの摩擦調整剤は、溶解性が制限されることがあるため、摩擦を調整し、耐摩耗性という利益を維持するか、または改良しつつ、非常に可溶性の摩擦調整剤に有益である。
【0006】
例えば、特許文献1、Nibertら、1998年5月12日といった特許が存在し、ある種の摩擦調整技術を用い、この性能を高めることが記載されている。
【0007】
正のμ/vまたはシャダー防止の特徴を保持する技術を記載するさらなる特許文献には、特許文献2、Sumiejskiら、1999年1月12日が挙げられる。これらは、金属清浄剤や、摩擦調整剤の組み合わせを使用してもよい。
【0008】
Teqjuiらは、特許文献3において、マニュアルトランスミッションギアボックスの高いシンクロメッシュ耐久性能およびギア保護を開示する。過塩基性サリチレートとして必要な成分として金属清浄剤が提示されており、スルホン酸カルシウムが比較例として示される。
【0009】
特許文献4、Schlichtら、1985年4月23日は、モノヒドロキシ置換またはポリヒドロキシ置換された脂肪族モノカルボン酸および一級アミンまたは二級アミンから調製される、摩擦低減剤として有用なアミドを開示する。
【0010】
特許文献5、Adamsら、2004年1月22日は、(a)カルボン酸とアミノアルコールの反応から誘導され、少なくとも2個のヒドロカルビル基を含む摩擦調整剤と、(b)オートマチックトランスミッションに良好な摩擦特性を与える分散剤との流体組成物を開示する。
【0011】
特許文献6、Higakiら、1989年12月12日は、以下の構造
【化1】
〔式中、R
2およびR
3は、それぞれ、カルボン酸(またはその反応等価体)とアミノアルコールの縮合、例えば、2モルのイソステアリン酸と1モルのトリス−ヒドロキシメチルアミノメタン(THAM)の縮合によって調製される、CH
2OCOR
1、CH
2OHまたはHをあらわす〕
の種々のイミダゾリンまたはオキサゾリンであってもよい種々の生成物のうちの少なくとも1つを含む潤滑油を開示する。
【0012】
それに加え、環境に優しく、共添加剤の影響を軽減し得る摩擦調整化合物を生成することが望ましい。多くの潤滑性流体(例えば、エンジン油およびギア油)は、種々の用途で使用される添加剤の複雑な混合物を含む。例えば、ほとんどの配合物は、配合物をきれいに保つための清浄剤、構成要素が摩耗しないように保護するための耐摩耗添加剤、可溶性を上げるための分散剤などが必要である。これらの添加剤の中には、エンジンの構成要素を損傷させ得、および/または処理後のデバイスを疲弊させ得る物質へと分解するものもある。それに加え、清浄剤に関し、特に、現行の摩擦調整剤の性能は、清浄剤の有機部分の構造に大きく依存する傾向がある。同様に、共添加剤のいくつか(例えば、清浄剤)は、機械の構成要素を長期間にわたって摩耗することがある。
【0013】
したがって、摩擦調整化合物の性能を高めるだけではなく、環境に優しく、潤滑配合物における共添加剤の影響を軽減し得る摩擦調整剤に対する関心が存在する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
非限定的な説明によって、種々の好ましい特徴および実施形態を以下に記載する。
【0022】
一実施形態では、本発明は、ヒドロカルビル(hydrcarbyl)置換アミンとイタコネートとの反応生成物の過塩基性金属塩を提供する。
【0023】
本明細書で使用する場合、「ヒドロカルビル基」または「ヒドロカルビル置換基」という用語は、当業者がよく知っている通常の意味で用いられる。具体的には、分子の残りの部分に直接結合する炭素原子を有し、主に炭化水素の特徴を有する基を指す。ヒドロカルビル基の例としては、以下のものが挙げられる:
(i)炭化水素置換基、すなわち、脂肪族(例えば、アルキルまたはアルケニル)、脂環式(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、ならびに芳香族で、脂肪族で、および脂環式で置換された芳香族置換基、ならびに環が分子の別の部分によって完成する環状置換基(例えば、2個の置換基が一緒になって環を形成する)、
(ii)置換された炭化水素置換基、すなわち、非炭化水素基(本発明の内容では、置換基の主な炭化水素性を変えない基)を含む置換基(例えば、ハロ(特に、クロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、およびスルホキシ)、
(iii)ヘテロ置換基、すなわち、主な炭化水素の特徴を有しつつも、本発明の内容では、炭素原子で構成される環または鎖に炭素以外を含む置換基であり、ピリジル、フリル、チエニルおよびイミダゾリルのような置換基を包含する、そして、
(iv)硫黄、酸素および窒素を含むヘテロ原子。一般的に、2個以下、好ましくは1個以下の非炭化水素置換基が、ヒドロカルビル基の10個の炭素原子ごとに存在し、典型的には、ヒドロカルビル基には、非炭化水素置換基が存在しないだろう。
【0024】
特定の実施形態では、ヒドロカルビル置換アミンは、一般的に、8〜22個、または12〜22個、または8〜20個、または12〜20個の炭素原子の範囲に入る種々の炭素数を有する同じ分子上または異なる分子上にある個々の基の混合物を含んでいてもよいが、例えば、8〜24個、8〜32個、または8〜60個の炭素原子のようなこの範囲からはずれたヒドロカルビル基を含む分子が存在してもよい。ヒドロカルビル基の混合物が存在する場合、ヒドロカルビル基は、多くの天然に存在する物質から誘導される基に特徴的であるように、主に偶数の炭素数を有していてもよく(例えば、12個、14個、16個、18個、20個または22個)、または、偶数と奇数の炭素数の混合物であってもよく、または、奇数の炭素数、または奇数の炭素数の混合物であってもよい。ヒドロカルビル基は、分枝鎖、直鎖または環状であってもよく、飽和または不飽和、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0025】
適切なヒドロカルビル置換アミンとしては、例えば、以下のような一般的な構造を有する、Akzoから入手可能なDuomeen
TM、Triameen
TM、Tetrameen
TMシリーズのヒドロカルビル置換アミンが挙げられる。
【化2】
【0026】
このようなポリアミンは、例えば、アクリロニトリルにモノアミンR
1R
2NHを付加してアルキルニトリルアミン(シアノアルキルアミン)を調製し、
【化3】
その後、例えば、Pd/C触媒上のH
2を用いてニトリル基を触媒的に還元し、ジアミンを得ることによって調製されてもよい。ここで、R
1およびR
2のうち、少なくとも1つは、水素または上に定義するようなヒドロカルビル基であってもよい。
【0027】
特定の実施形態では、R
1およびR
2のヒドロカルビル基は、16〜18個の炭素原子を含んでいてもよく、時には、主に16個または主に18個の炭素原子を含んでいてもよいが、8〜24個まで、8〜32個まで、または8〜60個までの炭素原子を含んでいてもよい。特定の実施形態では、ヒドロカルビル置換アミンは、塩の形態であってもよい。R
1およびR
2の具体例としては、ココアミン(主にC
12アミンおよびC
14アミン)からの混合「ココ」基およびタローアミン(主にC
16基およびC
18基)からの混合「タロー」基、イソステアリル基、および2−エチルヘキシル基が挙げられる。
【0028】
イタコネートは、以下の式を有していてもよく、
【化4】
式中、R
10は、上に定義したようなヒドロカルビル基、または水素であってもよい。典型的には、R
10イタコネートは、水素またはメチルであり、イタコネートは、2−メチレンコハク酸またはイタコン酸ジメチルである。
【0029】
一実施形態では、ヒドロカルビル置換されたアミンとイタコネートとの反応生成物は、N置換4−カルボキシピロリジン−2−オンを与える。
【0030】
一例となる実施形態では、N置換4−カルボキシピロリジン−2−オンは、オレイルアミンとイタコン酸ジメチルとの反応によって生成することができる。
【0031】
さらなる実施形態では、N置換4−カルボキシピロリジン−2−オンは、イタコン酸ジメチルとDuomeen 2HT
TMとの反応生成物(R
1およびR
2が両方とも水素化タローである);イタコン酸ジメチルとDuomeen 2C
TMとの反応生成物(R
1およびR
2が両方ともココである);およびイタコン酸ジメチルとDuomeen
TMとの反応生成物(R
1およびR
2が異なり、例えば、R
1がタローであり、R
2が2−エチルヘキシルである)によって生成することができる。
【0032】
別の例となる実施形態では、N置換4−カルボキシピロリジン−2−オンは、イタコン酸ジメチルとTetrameen
TMとの反応生成物(R
1がタローであり、R
2が水素である)であってもよい。さらなる実施形態では、イタコネート/Tetrameen
TM反応生成物は、トリアゾールまたはその誘導体(例えば、ジメルカプトチアジアゾール)を用いて塩形成されてもよい。同様に、任意の他の反応生成物から塩形成してもよい。
【0033】
N置換4−カルボキシピロリジン−2−オンは、一実施形態では、適切な溶媒(例えば、メタノール)中、アミンヒドロカルビル基とイタコネートとの反応によってN置換4−カルボキシピロリジン−2−オンを生成し、その後、場合により塩形成、および/またはイタコネートR
10−を例えば、鹸化したエステルとして除去し、次いで、過塩基性にすることによって生成することができる。
【0034】
過塩基性組成物は、酸性有機化合物(例えば、ヒドロカルビル置換アミンとイタコネートとの反応生成物の酸性有機化合物)、有機アニオン性化合物のための少なくとも1つの不活性有機溶媒を含む反応媒体、塩基性金属化合物(典型的には、金属水酸化物または酸化物)、および促進剤を含む混合物を反応させることによって調製することができる。一般的に、塩基性金属化合物は、酸化物、水酸化物、塩化物、カーボネート、およびリンの酸(phosphorus acid)(ホスホン酸またはリン酸)塩または部分エステル、硫黄の酸(sulfur acid)(硫酸またはスルホン酸)塩または部分エステル(スルホン酸のもの(sulfonic)を除く)である。金属は、一般的に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および遷移金属である。塩基性金属化合物の金属の例としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、チタン、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛が挙げられ、好ましくは、ナトリウム、カリウム、カルシウム、およびマグネシウムが挙げられる。一実施形態では、金属塩は、水と、有機アニオン性化合物、反応媒体および促進剤を含む混合物とを反応させることによって調製される。これらの金属塩、およびこれを作製する方法は、米国特許第4,627,928号に記載されている。ヒドロカルビル置換アミン/イタコネート反応生成物を過塩基性にするプロセス中に塩基性金属化合物を加えて、活性分(すなわち、油を含まないもの)を基準として、総塩基価(TBN)が50〜1000、または100〜800、または150〜600、または250〜500の生成物を得てもよい。TBNは、サンプル1グラムあたりのKOHのミリグラム数としてあらわされる、材料の塩基性のすべてまたは一部を中和するのに必要な酸(過塩素酸または塩酸)の量を指し、ASTM D2896にしたがって測定することができる。場合により、酸性材料(例えば、二酸化炭素、アセテートまたはホウ酸)、しかし典型的には二酸化炭素を反応混合物に加えてもよい。
【0035】
過塩基性組成物または塩は、化学量論量の金属および金属と反応する特定の酸性有機化合物にしたがって存在するだろう量よりも過剰な金属含有量を特徴とする単一相の均質なニュートン系である。過剰な金属の量は、一般的に、金属比の観点であらわされる。「金属比」という用語は、酸性有機化合物の当量に対する金属の合計当量の比率であり、すなわち、([過塩基性部分の金属カチオン部分のモル当量と金属のモル当量]を、酸性有機部分のモル当量で割り算したもの)である。通常の塩に存在するよりも4.5倍多い金属を含む塩は、3.5当量金属過剰であり、すなわち、比は4.5である。これらの塩は、典型的には、金属比が、0より大きく、一般的に、約40まで、またはそれより大きい。「金属比」という用語は、表題が「Chemistry and Technology of Lubricants」、Third Edition、Edited by R.M.Mortier and S.T.Orszulik、Copyright 2010の標準的な教科書にも説明されている。一実施形態では、金属比は、1より大きく、約40まで、好ましくは、約1.5から約35まで、または約2から約30まで、さらに好ましくは、約3〜約26である。一実施形態では、金属比は、約1.5〜約40、さらに好ましくは、約6〜約35、さらに好ましくは、約10〜約30、さらに好ましくは、約15〜約30である。一実施形態では、金属比は、約12〜25、または約20〜約30である。
【0036】
本願発明者らは、ヒドロカルビル置換アミン/イタコネート反応生成物を過塩基性にすると、化合物の摩擦調整性能、および非極性媒体(例えば、潤滑流体配合物)中の可溶性を高めるだけではなく、化合物に複数の機能を付与することを発見した。すなわち、ヒドロカルビル置換アミンとイタコネートとの過塩基性反応生成物は、摩擦調整剤として機能するだけではなく、例えば、清浄剤、耐摩耗剤または極圧剤、酸化防止剤、および分散剤として機能してもよい。したがって、機能性流体配合物中で、摩擦調整剤、清浄剤、耐摩耗剤または極圧剤、酸化防止剤および分散剤の1つ以上またはこれらの混合物と置き換えるのに、過塩基性化合物を使用することができる。耐摩耗剤として、過塩基性化合物のTBNは、耐摩耗性能を高めることについて、ある役割を果たすことができる。TBNが大きくなるにつれて、表面と相互作用するのに利用可能な遊離金属が多くなり、摩耗を防ぐ。本発明の化合物は、摩擦の調整に加え、洗浄性を改良するための清浄剤態様の作用も付与し、堆積物を減らし、酸制御性も付与することができる。作用の複数の態様が1つの化合物に組み込まれるため、化合物は、従来の摩擦調整剤と清浄剤との間で起こることが知られている摩擦材料の表面での競争をなくすことができる。それに加え、本明細書に記載する過塩基性反応生成物が、温度、圧力および摩擦材料に無関係に改良された性能を与えることができることが観察された。
【0037】
本発明の過塩基性反応生成物は、複数の機能を示すだけではなく、化合物を非過塩基性前駆体化合物の溶解度より多い処理速度で、潤滑粘度の油に組み込むことができる。例えば、従来の非過塩基性摩擦調整剤は、一般的に、活性分(すなわち、油を含まないもの)を基準として、潤滑剤配合物中に、約10wt%までの処理速度で含むことができ、この時点で、この化合物は、配合物から分離し始める。多くは、非過塩基性摩擦調整剤の処理速度は、これより小さい。対照的に、ヒドロカルビル置換アミン/イタコネート反応生成物は、典型的には、活性分基準で少なくとも約40wt%まで、ある場合には、50wt%まで、潤滑剤配合物に可溶性である。エンジン油の機能性流体に関し、本明細書に記載する反応生成物は、活性分基準で0.1wt%〜50wt%、または0.05wt%〜40wt%、または0.1〜30wt%、または1〜20wt%存在していてもよい。駆動系の機能性流体(例えば、トランスミッション流体)に関し、本明細書に記載する反応生成物は、活性分基準で、流体組成物の0.01wt%〜15wt%、または0.01wt%〜約10wt%、または0.05wt%〜6wt%、または0.1wt%〜4wt%、または0.25wt%〜2.5wt%、または0.5wt%〜1.0wt%存在していてもよい。
【0038】
別の実施形態では、本発明は、主要な量の潤滑粘度の油と、N置換4−カルボキシピロリジン−2−オンの過塩基性塩とを含む潤滑組成物を提供する。適切な油としては、天然および合成の潤滑油、ならびにこれらの混合物が挙げられる。完全に配合された潤滑剤では、潤滑粘度の油は、一般的に、主要な量(すなわち、50重量%を超える量)で存在する。典型的には、潤滑粘度の油は、組成物の75〜95重量%、および多くは組成物の80重量%を超える量で存在する。濃縮物の場合、潤滑粘度の油は、低濃度または少量で、例えば、10〜50重量%、一実施形態では10〜30重量%の量で存在してもよい。
【0039】
本発明の潤滑剤および機能性流体を作製するのに有用な天然油としては、動物油および植物油ならびに鉱物潤滑油、例えば、水素処理プロセスまたは水素化分解プロセスによってさらに精製されてもよい液体石油、およびパラフィン系、ナフテン系またはパラフィン系とナフテン系の混合型の溶媒処理されたまたは酸処理された鉱物潤滑油が挙げられる。
【0040】
合成潤滑油としては、炭化水素油およびハロ置換された炭化水素油、例えば、重合したオレフィンおよびインターポリマー化したオレフィン(ポリアルファオレフィンとしても知られる);ポリフェニル;アルキル化ジフェニルエーテル;アルキルベンゼンまたはジアルキルベンゼン;およびアルキル化ジフェニルスルフィド;ならびにそれらの誘導体、その類似体およびホモログが挙げられる。アルキレンオキシドポリマーおよびそのインターポリマー、ならびに末端ヒドロキシル基が、例えば、エステル化またはエーテル化によって修飾されたそれらの誘導体も含まれる。ジカルボン酸と種々のアルコールのエステル、またはC
5〜C
12モノカルボン酸とポリオールまたはポリオールエーテルから作られるエステルも含まれる。他の合成油としては、ケイ素系油、リンを含有する酸の液体エステル、およびポリマーテトラヒドロフランが挙げられる。合成油は、Fischer−Tropsch反応によって作られてもよく、典型的には、水素異性化されたFischer−Tropsch炭化水素および/もしくはワックス、または水素異性化されたスラックワックスを含んでいてもよい。
【0041】
天然または合成の未精製油、精製油および再精製油を本発明の潤滑剤で使用することができる。未精製油は、天然または合成の供給源からさらに精製処理することなく直接的に得られる油である。精製油は、1つ以上の特性を向上させるための1つ以上の精製工程でさらに処理されている。これらは、例えば、水素化されていてもよく、その結果、酸化に対する安定性が改良された油が得られてもよい。
【0042】
一実施形態では、潤滑粘度の油は、APIのグループII、グループIII、グループIV、またはグループVの油であり、合成油またはこれらの混合物を含む。API Base Oil Interchangeability Guidelinesによって確立された分類が存在する。グループIIとグループIIIの油は、両方とも、≦0.03%の硫黄分と≧90%の飽和分を含む。グループIIの油は、粘度指数が80〜120であり、グループIIIの油は、粘度指数が≧120である。ポリアルファオレフィンはグループIVに分類される。グループVは、「その他すべて」を包含する(グループI(>0.03%のSおよび/または<90%の飽和物を含み、粘度指数が80〜120である)を除く)。
【0043】
一実施形態では、潤滑粘度の油の少なくとも50重量%は、ポリアルファオレフィン(PAO)である。典型的には、ポリアルファオレフィンは、4〜30個、または4〜20個、または6〜16個の炭素原子を有するモノマーから誘導される。有用なPAOの例としては、1−デセンから誘導されるものが挙げられる。これらのPAOは、100℃での粘度が1.5〜150mm
2/s(cSt)であってもよい。PAOは、典型的には、水素化された物質である。
【0044】
本発明の油は、1種類の粘度範囲の油、または高粘度範囲の油と低粘度範囲の油の混合物を包含してもよい。一実施形態では、油は、100℃での動的粘度が1または2〜8または10mm
2/sec(cSt)を示す。全体的な潤滑組成物は、100℃での粘度が1または1.5〜10または15または20mm
2/secであり、−40℃でのBrookfield粘度(ASTM−D−2983)が、20または15Pa−s(20,000cPまたは15,000cP)未満、例えば、10Pa−s未満、さらに5以下であるように、油および他の成分を用いて配合されてもよい。
【0045】
(他の性能添加剤)
潤滑組成物は、本明細書に記載する生成物に、場合により他の性能添加剤(本明細書で以下に記載するような)を付加することによって調製されてもよい。他の性能添加剤としては、金属不活性化剤、粘度調整剤、清浄剤、耐摩耗剤、腐食阻害剤、分散剤、分散粘度調整剤、極圧剤、酸化防止剤、泡阻害剤(foam inhibitor)、抗乳化剤、流動点降下剤、シール膨潤剤およびこれらの混合物のうち、少なくとも1つが挙げられる。典型的には、完全に配合された潤滑油は、これらの性能添加剤の1つ以上を含むだろう。
【0046】
駆動系デバイスに関し、酸化防止剤(すなわち、酸化阻害剤)としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、二級芳香族アミン酸化防止剤、例えば、ジノニルジフェニルアミン、ならびにモノオクチルまたはジオクチルのような他のアルキル置換基を含むモノノニルジフェニルアミンおよびジフェニルアミンのようなよく知られた改変体、硫化フェノール系酸化防止剤、油溶性銅化合物、リン含有酸化防止剤、ならびに有機スルフィド、ジスルフィド、およびポリスルフィド、例えば、2−ヒドロキシアルキル、アルキルチオエーテルまたは1−t−ドデシルチオ−2−プロパノール、または硫化4−カルボブトキシシクロヘキセンまたは他の硫化オレフィン、またはこれらの混合物を挙げることができる。一実施形態では、駆動系デバイスのための潤滑組成物は、酸化防止剤またはこれらの混合物を含む。酸化防止剤は、潤滑組成物の0wt%〜15wt%、または0.1wt%〜10wt%、または0.5wt%〜5wt%、または0.5wt%〜3wt%、または0.3wt%〜1.5wt%で存在してもよい。
【0047】
ヒンダードフェノール酸化防止剤は、多くは、立体的に嵩高い基として二級ブチル基および/または三級ブチル基を含む。フェノール基は、ヒドロカルビル基(典型的には、直鎖アルキルまたは分枝鎖アルキル)および/または二級芳香族基に連結する架橋基でさらに置換されていてもよい。適切なヒンダードフェノール酸化防止剤の例としては、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−エチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4−プロピル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノールまたは4−ブチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、または4−ドデシル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノールが挙げられる。一実施形態では、ヒンダードフェノール酸化防止剤は、エステルであってもよく、例えば、Ciba製のIrganox
TML−135が挙げられ得る。適切なエステルを含有するヒンダードフェノール酸化防止剤の化学に関するさらに詳細な記載は、米国特許第6,559,105号に見いだされる。
【0048】
エンジン油の潤滑組成物に関し、酸化防止剤は、上述のものを含んでいてもよく、例えば、さらなるジアリールアミン、アルキル化ジアリールアミン、モリブデン化合物(例えば、モリブデンジチオカルバメート)、ヒドロキシルチオエーテル、およびこれらの混合物を挙げることができる。ジアリールアミンまたはアルキル化ジアリールアミンは、フェニル−α−ナフチルアミン(PANA)、アルキル化ジフェニルアミン、もしくはアルキル化フェニルナフチルアミン、またはこれらの混合物であってもよい。アルキル化ジフェニルアミンは、ジ−ノニル化ジフェニルアミン、ノニルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジ−オクチル化ジフェニルアミン、ジ−デシル化ジフェニルアミン、デシルジフェニルアミンおよびこれらの混合物を含んでいてもよい。一実施形態では、ジフェニルアミンは、ノニルジフェニルアミン、ジノニルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジオクチルジフェニルアミン、またはこれらの混合物を含んでいてもよい。一実施形態では、ジフェニルアミンは、ノニルジフェニルアミンまたはジノニルジフェニルアミンを含んでいてもよい。アルキル化ジアリールアミンは、オクチルフェニルナフチルアミン、ジ−オクチルフェニルナフチルアミン、ノニルフェニルナフチルアミン、ジ−ノニルフェニルナフチルアミン、デシルフェニルナフチルアミンまたはジ−デシルフェニルナフチルアミンを含んでいてもよい。
【0049】
酸化防止剤として使用してもよいモリブデンジチオカルバメートの例としては、R.T.Vanderbilt Co.,Ltd.製のVanlube 822
TMおよびMolyvan
TMA、ならびにAdeka Sakura−Lube
TMS−100、S−165、S−600および525、またはこれらの混合物のような商品名で販売される市販の物質を挙げることができる。
【0050】
一実施形態では、駆動系の用途で、潤滑組成物は、さらに、粘度調整剤(VM)または分散粘度調整剤(DVM)を含む。VMは、当該技術分野で既知であり、エチレン−プロピレンコポリマー、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリオレフィン、無水マレイン酸−オレフィンコポリマーのエステル(例えば、国際公開第2010/014655号に記載されるもの)、無水マレイン酸−スチレンコポリマーのエステル、またはこれらの混合物を挙げることができる。
【0051】
DVMは、官能基化されたポリオレフィン、例えば、無水マレイン酸およびアミンのようなアシル化剤で官能基化されたエチレン−プロピレンコポリマー;アミンで官能基化されたポリメタクリレート、またはアミンと反応したスチレン−無水マレイン酸コポリマーを含んでいてもよい。分散粘度調整剤のさらに詳細な記載は、国際公開第2006/015130号または米国特許第4,863,623号;第6,107,257号;第6,107,258号;および第6,117,825号に開示される。一実施形態では、分散粘度調整剤は、米国特許第4,863,623号(第2欄第15行〜第3欄第52行)または国際公開第2006/015130号(2ページ、段落[0008]を参照。調製例は、段落[0065]〜[0073]に記載される)に記載されるものを含んでいてもよい。
【0052】
エンジン油潤滑組成物に関し、VMまたはDVMは、上述のものを含んでいてもよく、さらに、水素化スチレン−イソプレンポリマー、水素化ジエンポリマー、水素化スチレン−ブタジエンゴムを含んでいてもよい。
【0053】
市販のVM、DVMおよびこれらの化学種の例としては、以下のものを挙げることができる。ポリイソブチレン(例えば、BP Amoco製のIndopol
TMまたはExxonMobil製のParapol
TM);オレフィンコポリマー(例えば、Lubrizol製のLubrizol
TM7060、7065および7067、ならびにMitsui製のLucant
TMHC−2000LおよびHC−600);水素化スチレン−ジエンコポリマー(例えば、Shell製のShellvis
TM40および50、ならびにLubrizol製のLZ(登録商標)7308および7318);分散剤コポリマーであるスチレン/マレエートコポリマー(例えば、Lubrizol製のLZ(登録商標)3702および3715);その一部が分散特性を有するポリメタクリレート(例えば、RohMax製のViscoplex
TMシリーズ、Afton製のHitec
TMシリーズ、ならびにLubrizol製のLZ 7702
TM、LZ 7727
TM、LZ 7725
TMおよびLZ 7720C
TM);オレフィン−グラフト−ポリメタクリレートポリマー(例えば、RohMax製のViscoplex
TM2−500および2−600);ならびに水素化ポリイソプレンスターポリマー(例えば、Shell製のShellvis
TM200および260)。さらに、Lubrizol製のAsteric
TMポリマー(放射状または星型の構造を有するメタクリレートポリマー)も含まれる。使用可能な粘度調整剤は、米国特許第5,157,088号、第5,256,752号および第5,395,539号に記載される。
【0054】
一実施形態では、本発明の潤滑組成物は、VMをさらに含む。別の実施形態では、潤滑組成物は、DVMをさらに含む。VMまたはDVMは、潤滑組成物の0wt%〜15wt%、または0wt%〜10wt%、または0.05wt%〜5wt%、または0.2wt%〜2wt%で存在していてもよい。
【0055】
別の実施形態では、潤滑組成物は、0〜40wt%の1種類以上のDVMを含んでいてもよい。
【0056】
潤滑組成物は、分散剤またはこれらの混合物をさらに含んでいてもよい。さらなる分散剤は、上述のアミン化合物の一部が、ある程度の分散特徴を示してもよい事象で、「上述のアミン化合物以外」と記載されてもよい。「カルボン酸分散剤(carboxylic dispersant)」の例は、以下を含む多くの米国特許に記載されている:米国特許第3,219,666号、第3,316,177号、第3,340,281号、第3,351,552号、第3,381,022号、第3,433,744号、第3,444,170号、第3,467,668号、第3,501,405号、第3,542,680号、第3,576,743号、第3,632,511号、第4,234,435号、米国再発行特許第26,433号、および米国特許第6,165,235号。
【0057】
分散剤は、スクシンイミド分散剤、マンニッヒ分散剤、スクシンアミド分散剤、ポリオレフィンコハク酸エステル、アミド、もしくはエステル−アミド、またはこれらの混合物であってもよい。一実施形態では、分散剤は、1種類の分散剤として存在していてもよい。一実施形態では、分散剤は、2種類または3種類の異なる分散剤の混合物として存在していてもよく、少なくとも1つは、スクシンイミド分散剤であってもよい。
【0058】
スクシンイミド分散剤は、脂肪族ポリアミンまたはこれらの混合物から誘導されてもよい。脂肪族ポリアミンは、脂肪族ポリアミン、例えば、エチレンポリアミン、プロピレンポリアミン、ブチレンポリアミン、またはこれらの混合物であってもよい。一実施形態では、脂肪族ポリアミンは、エチレンポリアミンであってもよい。一実施形態では、脂肪族ポリアミンは、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ポリアミンスチルボトム(polyamine still bottom)、およびこれらの混合物からなる群から選択されてもよい。
【0059】
スクシンイミド分散剤は、芳香族アミン、芳香族ポリアミンまたはこれらの混合物から誘導されてもよい。芳香族アミンは、ヒドロカルビレン基および/またはヘテロ原子によって連結した1つ以上の芳香族部分を有していてもよい。特定の実施形態では、芳香族アミンは、ニトロ置換された芳香族アミンであってもよい。ニトロ置換された芳香族アミンの例としては、2−ニトロアニリン、3−ニトロアニリン、および4−ニトロアニリン(典型的には3−ニトロアニリン)が挙げられる。他の芳香族アミンは、本明細書に記載するニトロアニリンとともに存在していてもよい。ニトロアニリンと、場合により、さらにDisperse Orange 3(すなわち、4−(4−ニトロフェニルアゾ)アニリン)との縮合生成物は、米国特許出願公開第2006/0025316号から知られている。
【0060】
スクシンイミド分散剤は、4−アミノジフェニルアミン(ADPA)、メチレンが結合したADPA、またはこれらの混合物から誘導されてもよい。4−アミノジフェニルアミンから誘導されるスクシンイミド分散剤としては、国際公開第2010/062842号または国際公開第2010/099136号に開示されるものが挙げられる。
【0061】
一実施形態では、分散剤は、ポリオレフィンコハク酸エステル、アミド、またはエステル−アミドであってもよい。例えば、ポリオレフィンコハク酸エステルは、ペンタエリスリトールのポリイソブチレンコハク酸エステル、またはこれらの混合物であってもよい。ポリオレフィンコハク酸エステル−アミドは、アルコール(例えば、ペンタエリスリトール)およびアミンと反応したポリイソブチレンコハク酸であってもよい。
【0062】
分散剤は、N置換長鎖アルケニルスクシンイミドであってもよい。N置換長鎖アルケニルスクシンイミドの例は、ポリイソブチレンスクシンイミドである。典型的には、ポリイソブチレンコハク酸無水物を誘導するポリイソブチレンは、数平均分子量が350〜5000、または550〜3000、または750〜2500である。スクシンイミド分散剤およびその調製は、例えば、米国特許第3,172,892号、第3,219,666号、第3,316,177号、第3,340,281号、第3,351,552号、第3,381,022号、第3,433,744号、第3,444,170号、第3,467,668号、第3,501,405号、第3,542,680号、第3,576,743号、第3,632,511号、第4,234,435号、米国再発行特許第26,433号、米国特許第6,165,235号および第7,238,650号ならびに欧州特許出願公開第0 355 895 A号に開示される。
【0063】
「アミン分散剤」は、比較的高分子量の脂肪族または脂環式ハロゲン化物とアミン、例えば、ポリアルキレンポリアミンとの反応生成物である。その例は、以下の米国特許に記載される:米国特許第3,275,554号、第3,438,757号、第3,454,555号および第3,565,804号。
【0064】
「マンニッヒ分散剤」は、アルキル基が少なくとも30個の炭素原子を含むアルキルフェノールとアルデヒド(特に、ホルムアルデヒド)およびアミン(特に、ポリアルキレンポリアミン)との反応生成物である。以下の米国特許に記載される物質は具体例である:米国特許第3,036,003号、第3,236,770号、第3,414,347号、第3,448,047号、第3,461,172号、第3,539,633号、第3,586,629号、第3,591,598号、第3,634,515号、第3,725,480号、第3,726,882号および第3,980,569号。
【0065】
分散剤は、さらに、任意の種々の剤との反応によって、従来の方法によって後処理されてもよい。特に、ホウ素化合物(例えば、ホウ酸)、尿素、チオ尿素、ジメルカプトチアジアゾール、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、例えば、テレフタル酸、炭化水素置換された無水コハク酸、無水マレイン酸、ニトリル、エポキシド、およびリン化合物、例えば、リンの酸または無水物(phosphorus acids or anhydrides)である。一実施形態では、後処理された分散剤は、ホウ素化されている(borated)。一実施形態では、後処理された分散剤は、ジメルカプトチアジアゾールと反応した分散剤であってもよい。一実施形態では、後処理された分散剤は、リン酸または亜リン酸と反応した分散剤であってもよい。この種の例示的な物質は、以下の米国特許に記載されている:米国特許第3,200,107号、第3,282,955号、第3,367,943号、第3,513,093号、第3,639,242号、第3,649,659号、第3,442,808号、第3,455,832号、第3,579,450号、第3,600,372号、第3,702,757号および第3,708,422号。
【0066】
分散剤は、潤滑組成物の0.01wt%〜20wt%、または0.1wt%〜15wt%、または0.1wt%〜10wt%、または1wt%〜6wt%、または1〜4wt%で存在していてもよい。
【0067】
分散剤の混合物を使用することもできる。1種類の分散剤または複数の分散剤の量は、本発明の技術の配合物中に存在する場合、一般的に、0.3〜10重量%である。他の実施形態では、分散剤の量は、最終的なブレンドした流体配合物の0.5〜7%、または1〜5%である。濃縮物では、この量は、比例してもっと多い。
【0068】
一実施形態では、本発明は、上述の過塩基性摩擦調整剤に加えて過塩基性金属を含有する清浄剤をさらに含む潤滑組成物を提供し、ある実施形態では、清浄剤であるとも考えられる。金属を含有する清浄剤の金属は、亜鉛、ナトリウム、カルシウム、バリウムまたはマグネシウムであってもよい。典型的には、金属を含有する清浄剤の金属は、ナトリウム、カルシウムまたはマグネシウムであってもよい。
【0069】
過塩基性金属を含有する清浄剤は、硫黄を含まないフェネート、硫黄を含有するフェネート、スルホネート、カルボキシレート、サリキサレート、サリチレート、およびこれらの混合物、またはこれらのホウ素化等価物からなる群から選択されてもよい。清浄剤の金属部分は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である。適切な金属としては、ナトリウム、カルシウム、カリウムおよびマグネシウムが挙げられる。典型的には、清浄剤は、過塩基性であり、過塩基性とは、中性金属塩を形成するのに必要な量よりも化学量論的に過剰量の金属塩基が存在することを意味する。過塩基性清浄剤は、ホウ酸のようなホウ素化剤を用いてホウ素化されていてもよい。
【0070】
過塩基性金属を含有する清浄剤は、例えば、米国特許第6,429,178号、第6,429,179号、第6,153,565号および第6,281,179号に記載されるように、フェネートおよび/またはスルホネート構成要素、例えば、フェネート/サリチレート、スルホネート/フェネート、スルホネート/サリチレート、スルホネート/フェネート/サリチレートを含む混合界面活性剤系を用いて形成される「ハイブリッド」清浄剤をさらに含んでいてもよい。ここで、例えば、ハイブリッドスルホネート/フェネート清浄剤を使用してもよく、ハイブリッド清浄剤は、それぞれフェネート石鹸およびスルホネート石鹸と同様の量を入れた別個のフェネート清浄剤およびスルホネート清浄剤の量と等価であると考えられる。
【0071】
典型的には、過塩基性金属を含有する清浄剤は、フェネート、硫黄を含有するフェネート、スルホネート、サリキサレートまたはサリチレートの亜鉛、ナトリウム、カルシウム、カリウムまたはマグネシウムの塩であってもよい。過塩基性サリキサレート、フェネートおよびサリチレートは、典型的には、総塩基価が180〜450TBNである。過塩基性スルホネートは、典型的には、総塩基価が250〜600、または300〜500である。過塩基性清浄剤は、当該技術分野で知られている。一実施形態では、スルホネート清浄剤は、主に、米国特許出願公開第2005065045号(米国特許第7,407,919号として特許付与)の段落[0026]〜[0037]に記載されるように、金属比が少なくとも8である直鎖アルキルベンゼンスルホネート清浄剤であってもよい。直鎖アルキルベンゼンスルホネート清浄剤は、燃料経済を向上させるのを助けるために特に有用である。直鎖アルキルベンゼンスルホネートは、多くは、ベンゼンまたはトルエンのアルキル化によって直鎖アルファ−オレフィンから誘導され、直鎖アルキルベンゼンを得て、その後に、スルホン酸化される。芳香族環は、鎖上のどこかに結合してもよく、典型的には、2位、3位または4位に結合していてもよい。直鎖アルキルベンゼンの異性体は、アルキル化反応中に位置異性化によって、またはアルキル化の前にオレフィンの二重結合の位置異性化によって起こる。多くは、直鎖アルキルベンゼンは、良好な可溶性を有し、向上した燃料経済を付与する能力を有するスルホネート清浄剤を生じる混合物である。
【0072】
典型的には、過塩基性金属を含有する清浄剤は、カルシウム過塩基性清浄剤またはマグネシウム過塩基性清浄剤であってもよい。
【0073】
本発明の組成物は、少なくとも1種類のリンの酸(phosphorus acid)、リンの酸塩(phosphorus acid salt)、リンの酸エステル(phosphorus acid ester)またはこれらの誘導体(硫黄を含有する類似体を含む)を0.002〜1.0重量%の量でさらに含んでいてもよい。リンの酸、その塩、エステルまたは誘導体としては、リン酸、亜リン酸、リンの酸エステルまたはこれらの塩、ホスファイト、リンを含有するアミド、リンを含有するカルボン酸またはエステル、リンを含有するエーテル、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0074】
一実施形態では、リンの酸、エステルまたは誘導体は、有機または無機のリンの酸、リンの酸エステル、リンの酸塩、またはこれらの誘導体であってもよい。リンの酸としては、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸およびチオリン酸(ジチオリン酸およびモノチオリン酸、チオホスフィン酸およびチオホスホン酸が挙げられる。リン化合物の1つの群は、以下の式によってあらわされるようなアルキルリン酸モノアルキル一級アミン塩であり、
【化5】
式中、R
1、R
2、R
3は、アルキル基またはヒドロカルビル基であるか、またはR
1とR
2のうち、1つはHであってもよい。この物質は、ジアルキルリン酸エステルとモノアルキルリン酸エステルの1:1混合物であってもよい。この種の化合物は、米国特許第5,354,484号に記載される。
【0075】
85%リン酸は、完全に配合された組成物に加えるのに適切な材料であり、組成物の重量を基準として、0.01〜0.3重量%のレベルで、例えば、0.03〜0.2または〜0.1%のレベルで含まれていてもよい。
【0076】
存在していてもよい他のリンを含有する材料としては、ジアルキルホスファイト(時にジアルキルハイドロジェンホスホネートと呼ばれる)、例えば、ジブチルホスファイトが挙げられる。さらに他のリン材料としては、ホスホロチオ酸のリン酸化ヒドロキシ置換されたトリエステルおよびそのアミン塩、ならびに硫黄を含まないヒドロキシで置換されたリン酸ジ−エステル、硫黄を含まないリン酸化ヒドロキシ置換されたリン酸のジエステルまたはトリエステル、およびこれらのアミン塩が挙げられる。これらの材料は、米国特許出願公開第2008−0182770号にさらに記載される。
【0077】
油に可溶性である極圧(EP)剤としては、硫黄を含有するEP剤およびクロロ硫黄を含有するEP剤、ジメルカプトチアジアゾールまたは分散剤のCS
2誘導体(典型的にはスクシンイミド分散剤)、塩素化炭化水素EP剤およびリンEP剤の誘導体が挙げられる。このようなEP剤の例としては、塩素化ワックス;硫化オレフィン(例えば、硫化イソブチレン)、ヒドロカルビル置換された2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、またはこれらのオリゴマー、有機スルフィドおよびポリスルフィド、例えば、ジベンジルジスルフィド、ビス−(クロロベンジル)ジスルフィド、ジブチルテトラスルフィド、オレイン酸の硫化メチルエステル、硫化アルキルフェノール、硫化ジペンテン、硫化テルペン、および硫化Diels−Alder付加物;ホスホ硫化炭化水素、例えば、リンスルフィドとテルペンチンまたはオレイン酸メチルとの反応生成物;リンエステル、例えば、ジ炭化水素ホスファイトおよびトリ炭化水素ホスファイト、例えば、ジブチルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジシクロヘキシルホスファイト、ペンチルフェニルホスファイト;ジペンチルフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、ジステアリルホスファイトおよびポリプロピレン置換されたフェノールホスファイト;金属チオカルバメート、例えば、亜鉛ジオクチルジチオカルバメートおよびバリウムヘプチルフェノール二酸;アルキルおよびジアルキルリン酸のアミン塩、または誘導体(例えば、ジアルキルジチオリン酸とプロピレンオキシドとの反応生成物、次いで、さらにP
2O
5と反応させたアミン塩;ならびにこれらの混合物(米国特許第3,197,405号に記載されるような)が挙げられる。
【0078】
本発明の組成物で有用であり得る泡阻害剤としては、ポリシロキサン、アクリル酸エチルとアクリル酸2−エチルヘキシルと、場合により、酢酸ビニルとのコポリマーが挙げられ、抗乳化剤としては、フッ素化ポリシロキサン、トリアルキルホスフェート、ならびにエチレングリコールの種々のポリマーおよびコポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、エチレンオキシドのポリマーおよびコポリマー、例えば、ポリエチレンオキシド、およびプロピレンオキシドのポリマーおよびコポリマー、例えば、ポリプロピレンオキシドおよび(エチレンオキシド−プロピレンオキシド)ポリマー、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0079】
本発明の組成物で有用であり得る流動点降下剤としては、アルキルナフタレン、酢酸ビニル/フマレートもしくは/マレエートコポリマー、スチレン/マレエートコポリマー、ポリアルファオレフィン、無水マレイン酸−スチレンコポリマーのエステル(esters of maleic anhydride−styrene copolymers)、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアクリレートまたはポリアクリルアミドが挙げられる。
【0080】
金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール誘導体(典型的にはトリルトリアゾール)、1,2,4−トリアゾール、ベンゾイミダゾール、2−アルキルジチオベンゾイミダゾールまたは2−アルキルジチオベンゾチアゾール、およびジメルカプトチアジアゾールが挙げられる。金属不活性剤は、腐食阻害剤として記載されてもよい。
【0081】
他の任意要素の成分としては、シール膨潤組成物、例えば、シールを柔軟な状態に保つように設計されたイソデシルスルホランまたはフタル酸エステルが挙げられる。シール膨潤剤としては、Lubrizol製のスルホレン誘導体Exxon Necton−37
TM(FN 1380)およびExxon Mineral Seal Oil
TM(FN 3200)、およびPowerZol
TMが挙げられる。
【0082】
潤滑組成物は、場合により、少なくとも1種類の耐摩耗剤をさらに含んでいてもよい。適切な耐摩耗剤の例としては、チタン化合物、タートレート、酒石酸イミド、リン化合物の油溶性アミン塩、硫化オレフィン、金属ジヒドロカルビルジチオホスフェート(例えば、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート)、ホスファイト(例えば、ジブチルホスファイト)、ホスホネート、チオカルバメートを含有する化合物、例えば、チオカルバメートエステル、チオカルバメートアミド、チオカルバミン酸エーテル、アルキレンが連結したチオカルバメート、およびビス(S−アルキルジチオカルバミル)ジスルフィドが挙げられる。耐摩耗剤としては、一実施形態では、国際公開第2006/044411号またはカナダ国特許第1 183 125号に開示されるようなタートレートまたは酒石酸イミドを挙げることができる。タートレートまたは酒石酸イミドは、アルキル−エステル基を含んでいてもよく、アルキル基上の炭素原子の合計は、少なくとも8であってもよい。耐摩耗剤は、一実施形態では、米国特許出願公開第20050198894号に開示されるようなシトレートを含んでいてもよい。
【0083】
別の種類の添加剤としては、米国特許第7,727,943号および米国特許出願公開第2006/0014651号に開示されるような油溶性チタン化合物を含む。油溶性チタン化合物は、耐摩耗剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、堆積制御添加剤としての機能、またはこれらの1種類より多い機能を有していてもよい。一実施形態では、油溶性チタン化合物は、チタン(IV)アルコキシドである。チタンアルコキシドは、一価アルコール、ポリオールまたはこれらの混合物から形成される。一価アルコキシドは、2〜16個、または3〜10個の炭素原子を含んでいてもよい。一実施形態では、チタンアルコキシドは、チタン(IV)イソプロポキシドである。一実施形態では、チタンアルコキシドは、チタン(IV)2−エチルヘキソキシドである。一実施形態では、チタン化合物は、ビシナル1,2−ジオールまたはポリオールのアルコキシドを含む。一実施形態では、1,2−ビシナルジオールは、グリセロールの脂肪酸モノエステルを含み、多くは、脂肪酸はオレイン酸である。
【0084】
一実施形態では、油溶性チタン化合物は、チタンカルボキシレートである。一実施形態では、チタン(IV)カルボキシレートは、チタンネオデカノエートである。
【0085】
一実施形態では、油溶性チタン化合物は、潤滑組成物中に、重量基準で10ppm〜1500ppmのチタン、または25ppm〜150ppmのチタンを与えるのに必要な量で存在していてもよい。
【0086】
潤滑組成物が、グリース組成物の一部である場合、この組成物は、さらに増粘剤を含む。増粘剤としては、単純な金属石鹸増粘剤、石鹸複合物、非石鹸増粘剤、このような酸で官能基化された油の金属塩、ポリ尿素およびジ尿素の増粘剤、スルホン酸カルシウム増粘剤またはこれらの混合物が挙げられる。グリースのための増粘剤は、当該技術分野で周知である。
【0087】
駆動系デバイス潤滑組成物は、異なる実施形態では、以下の表に開示されるような組成を有していてもよく、ここで、Aは、オートギア油であってもよく、Bは、オートマチックトランスミッション流体であってもよく、Cは、オフハイウェイ車両油であってもよい。
【化6】
【0088】
エンジン潤滑組成物は、異なる実施形態では、以下の表に開示されるような組成を有していてもよい。
【化7】
【0089】
上の構成要素は、完全に配合された潤滑剤の形態、または少量の潤滑油の中の濃縮物の形態であってもよい。これらが濃縮物中に存在する場合、これらの濃度は、最終的なブレンドにおいて、一般的に、もっと希釈した形態でのこれらの濃度に正比例するだろう。
【0090】
(産業上の用途)
本発明の潤滑組成物は、駆動系デバイス、内燃機関、油圧システム、グリース、タービン、または冷却剤または任意の他の機能性流体で有用な添加剤であってもよい。
【0091】
本明細書に開示される化合物は、湿式クラッチの摩擦調整性能、耐摩耗性能、清浄性能、酸化防止性能、分散性能のうち、少なくとも1つを駆動系デバイスに与えることができることがわかっている。例えば、一実施形態では、本明細書に開示される化合物は、摩擦を調整するためにATF潤滑組成物中で使用することができる。別の例となる実施形態では、本明細書に開示する化合物をMTF配合物に使用して、滑らかなギア変更のための正しい摩擦を維持しつつ、耐摩耗機能を与えることができる。
【0092】
オートマチックトランスミッションとしては、連続可変トランスミッション(CVT)、無段変速トランスミッション(IVT)、トロイダルトランスミッション、連続的なスリッピングトルクコンバータークラッチ(CSTCC)、有段式オートマチックトランスミッションまたはデュアルクラッチトランスミッション(DCT)が挙げられる。オートマチックトランスミッションは、連続的なスリッピングトルクコンバータークラッチ(CSTCC)、湿式開始およびシフト走法のクラッチ、およびある場合には、金属またはコンポジットシンクロナイザをさらに含んでいてもよい。デュアルクラッチトランスミッションまたはオートマチックトランスミッションは、ハイブリッド駆動を提供するために電気モーターユニットをさらに組み込んでもよい。
【0093】
上述の過塩基性化合物を含むMTF潤滑剤組成物を、シンクロナイザ機構を備えていなくてもよく、またはシンクロナイザ機構を備えていてもよいマニュアルギアボックスに使用してもよい。ギアボックスは、トランスファーギアボックス、遊星ギアシステム、ディファレンシャルデバイス、リミテッドスリップディファレンシャルデバイスまたはトルクベクタリングデバイスを自身に備えていてもよく、またはさらに備えていてもよく、マニュアルトランスミッション流体によって潤滑されてもよい。
【0094】
MTF潤滑組成物の場合、過塩基性化合物は、滑らかなギア変更のための正しい摩擦を維持しつつ(すなわち、安定な動的摩擦と合わせて低い静的摩擦)、シンクロナイザ表面に金属を送達するのに役立ち、それによって、シンクロナイザの摩耗を最低限にするのに役立たせることができる。さらに、過塩基性化合物は、清浄剤として機能することができるため、この化合物は、清浄剤が存在しない状態で、シンクロナイザの摩耗を防ぐことができる。すなわち、過塩基性化合物を使用すると、保護を与えるトライボ膜を形成することができる。シンクロナイザの摩擦性の需要は、シンクロナイザの組成に依存して異なるだろう。例えば、ある材料は、高いTBNで良好に操作されてもよく、または、ある材料は、その下にある直鎖または分枝鎖の非過塩基性化合物とともに良好に操作されてもよく、上述の過塩基性化合物を、特定の目的に合うように調整することができる。
【0095】
オートマチックトランスミッション流体は、摩擦と滑り速度との良好な関係を有していなければならず、または、シャダーと呼ばれる好ましくない現象が車両に起こる。トランスミッションのシャダーは、一般的にスリッピングトルクコンバータークラッチで起こる「スティックスリップ」または「運動摩擦による振動」とも呼ばれる自己励起される振動状態である。この流体および材料系の摩擦の特徴と、機械の設計およびトランスミッションの制御を合わせ、トランスミッションのシャダーの起こりやすさが決まる。本明細書に記載する過塩基性塩化合物は、優れたシャダー防止耐久性を与えることができる。
【0096】
測定された摩擦係数(μ)の滑り速度(V)に対するプロット(一般的にμ−V曲線と呼ばれる)は、トランスミッションのシャダーと相関関係があることが示されている。理論および実験の両方が、このμ−V曲線のわずかに負の勾配に対する正の領域が、トランスミッション流体の良好なシャダー防止性能と相関関係にあることを裏付けている。振動またはシャダーを起こさずに車両を操作することができる流体は、良好なシャダー防止性能を有すると言われる。この流体は、運転寿命全体にわたってこの特徴を維持しなければならない。車両でのシャダー防止性能の寿命は、一般的に、「シャダー防止の耐久性」と呼ばれる。
【0097】
可変速度摩擦試験機(VSFT)は、トランスミッションクラッチでみられる速度、負荷および摩擦物質をシミュレートする滑り速度に関する摩擦係数を測定し、実際の用途でみられる性能と相関関係がある。この手順は、文献に十分に記載されており、例えば、Society of Automotive Engineers publication #941883を参照のこと。
【0098】
シャダー防止耐久性のためのスクリーニング試験は、VSFT−JASOシャダー防止試験であってもよい。VSFT装置は、金属表面に対して回転する金属または別の摩擦物質であってもよい円板からなる。表に示されるように、特定の試験で使用する摩擦物質は、オートマチックトランスミッションクラッチで一般的に用いられる種々の市販摩擦物質である。この試験は、3種類の温度および2種類の負荷レベルで行われる。VSFTによって測定される摩擦係数を、一定の圧力で多くの速度でのスイープ全体にわたって、滑り速度に対してプロットする(50および200r.p.m.)。結果は、ある場合には、時間の関数としてμ−V曲線の勾配としてあらわされ、40、80、120℃、24kgおよび40kg(235Nおよび392N)の力で報告され、0〜52時間を4時間間隔で決定される。典型的には、最初は、傾斜は、特定の量の変動を伴って正であり、徐々に小さくなり、特定の時間後には、場合により負になることがある。正の勾配の持続期間が長いことが望ましい。
【0099】
最初は、データを、それぞれの操作について、時間の関数として勾配の表として集める。それぞれの分析および比較のために、それぞれの温度でのそれぞれの配合物を「勾配スコア」に割り当てる。それぞれの温度で、24kgでの最初の7つの時間点での測定(0〜24時間)、40kgでの最初の7つの時間点での測定(したがって、合計で14測定値)の中の勾配値の分率が割合として正であり、これを「A」と示す。第2の24時間(28〜52時間)の中の2種類の圧力での勾配値の分率(合計で14測定値)は正であり、「B」と示される。勾配スコアは、A+2Bと定義される。この試験の後者の部分に与えられる多めの重み付けは、この試験の後者の段階で正の勾配を維持する耐久性流体を調製することの重要性(および困難性)が大きいことを反映するためである。最大スコアである300は、試験全体にわたって一貫して正の勾配を示す流体を示す。勾配スコアを報告するまとめに関するさらに詳細な記載および勾配スコアの具体的な計算は、米国特許出願公開第2010−0210490号(Vickermanら、2010年8月19日に公開)中に見出され、段落0093〜0096を参照のこと。
【化8】
【0100】
本明細書に開示する化合物は、ATF潤滑組成物において、40℃で50〜300、80℃で100〜300、120℃で200〜300の勾配スコアが示される。
【0101】
開示している化合物を、同様にマニュアルトランスミッション流体におけるシンクロナイザの摩擦および摩耗について試験することができる。一般的に、この試験は、この組成物を、多くのサイクルの(典型的には100サイクルの)トランスミッションに使う初期の慣らし運転段階を含む。次いで、性能段階を完了させ、このときに、所定の速度で多くの摩擦測定を行う。その後に、耐久性段階が続き、これによって、0〜10,000の所定のサイクルで多くの動的摩擦を測定する。耐久性性能段階の後、所定の速度で多くの摩擦測定を行い、最終的な静的摩擦測定を行う。
【0102】
良好な結果は、いくつかの異なる変数を包含する。動的摩擦は、試験全体で安定でなければならず、また、静的摩擦と比較したとき、適切な高い値を示す。静的摩擦も、試験全体で安定でなければならず、また、動的摩擦と比較したとき、適切に低い値を示す。静的摩擦が低いことが有利である。静的摩擦/動的摩擦の比は、値1に近くなければならない。摩耗という観点で、試験材料の重量損失は、可能な限り低くなければならない。本発明の化合物は、シンクロナイザ試験を行ったとき、良好な結果を示した。
【0103】
一実施形態では、本発明の方法および潤滑組成物は、他の駆動系デバイスに適していてもよい。他の駆動系デバイス潤滑剤としては、例えば、ギア油、車軸油、駆動シャフト油、トラクション油、またはオフハイウェイ油(例えば、農用トラクター油)が挙げられる。
【0104】
一実施形態では、本発明は、内燃機関を潤滑する方法を提供する。エンジンの構成要素は、鋼鉄またはアルミニウムの表面を有していてもよい。
【0105】
一実施形態では、内燃機関は、ディーゼル燃料型エンジン(典型的にはヘビーデューティディーゼルエンジン)、ガソリン燃料型エンジン、天然ガス燃料型エンジン、混合ガソリン/アルコール燃料型エンジン、または水素燃料型内燃機関であってもよい。一実施形態では、内燃機関は、ディーゼル燃料型エンジンであってもよく、別の実施形態では、ガソリン燃料型エンジンであってもよい。一実施形態では、内燃機関は、ヘビーデューティディーゼルエンジンであってもよい。
【0106】
内燃機関は、2ストロークエンジンまたは4ストロークエンジンであってもよい。適切な内燃機関としては、海洋ディーゼルエンジン、航空用ピストンエンジン、低負荷ディーゼルエンジン、ならびに自動車およびトラックのエンジンが挙げられる。海洋ディーゼルエンジンは、海洋ディーゼルシリンダー潤滑剤(典型的には、2ストロークエンジンにおける)、システム油(典型的には、2ストロークエンジンにおける)、またはクランク室の潤滑剤(典型的には、4ストロークエンジンにおける)で潤滑されてもよい。
【0107】
内燃機関のための潤滑組成物は、硫黄、リンまたは硫酸灰分(ASTM D−874)の含有量に関係ない任意のエンジン潤滑油に適していてもよい。エンジン油の潤滑剤の硫黄含有量は、1wt%以下、または0.8wt%以下、または0.5wt%以下、または0.3wt%以下であってもよい。一実施形態では、硫黄含有量は、0.001wt%〜0.5wt%、または0.01wt%〜0.3wt%の範囲であってもよい。リン含有量は、0.2wt%以下、または0.12wt%以下、または0.1wt%以下、または0.085wt%以下、または0.08wt%以下、または0.06wt%以下、0.055wt%以下、または0.05wt%以下であってもよい。一実施形態では、リン含有量は、0.04wt%〜0.12wt%であってもよい。一実施形態では、リン含有量は、100ppm〜1000ppm、または200ppm〜600ppmであってもよい。一実施形態では、亜鉛含有量は、0.2wt%以下、または0.13wt%以下、または0.1wt%以下、または0.05%以下であってもよい。一実施形態では、亜鉛含有量は、0.01wt%〜0.2wt%であってもよい。一実施形態では、組成物は、亜鉛を含まなくてもよい。硫酸灰分の合計含有量は、潤滑組成物の0.3wt%〜1.2wt%、または0.5wt%〜1.1wt%であってもよい。一実施形態では、硫酸灰分の含有量は、潤滑組成物の0.5wt%〜1.1wt%であってもよい。
【0108】
一実施形態では、潤滑組成物は、エンジン油であってもよく、潤滑組成物は、(i)硫黄含有量が潤滑組成物の0.5wt%以下、(ii)リン含有量が潤滑組成物の0.12wt%以下、(iii)硫酸灰分の含有量が潤滑組成物の0.5wt%〜1.1wt%であることのうち少なくとも1つによって特徴づけられてもよい。
【0109】
上に参照したそれぞれの書類は、本明細書に参考として組み込まれる。実施例を除き、または、その他の明示されている場合を除き、物質、反応条件、分子量、炭素原子の数などの量を特定する本記載のあらゆる数量は、「約」という用語で修飾されていると理解すべきである。他の意味であると示されていない限り、本明細書で言及するそれぞれの化学物質または組成物は、異性体、副生成物、誘導体、および商業グレードには通常存在すると理解されているその他のこのような物質を含んでいてもよい商業グレードの物質であると解釈すべきである。しかし、それぞれの化学成分の量は、他の意味であると示されていない限り、慣習的に市販の物質中に存在してもよい任意の溶媒または希釈油を除いてあらわされる。本明細書に記載する量、範囲、および比率の上限および下限を独立して組み合わせてもよいことが理解されるべきである。同様に、本発明のそれぞれの要素についての範囲および量を、任意の他の要素についての範囲または量と一緒に使用してもよい。上述の式において同じ記号によってあらわされる複数の基は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0110】
上に記載する物質のいくつかが最終的な配合物中で相互作用し、その結果、最終配合物の構成要素が、最初に加えたものと異なっていてもよいことが知られている。これによって形成された生成物は、本発明の潤滑組成物をその意図した用途で使用したときに形成される生成物を含め、簡単に記載できるものではない場合がある。それにもかかわらず、このようなあらゆる改変および反応生成物は、本発明の範囲内に含まれ、本発明は、上述の構成要素を混合することによって調製される組成物を包含する。
【0111】
以下の実施例は、本発明の説明を与える。これらの実施例は、非排他的であり、本発明の範囲を限定することを意図していない。
【実施例】
【0112】
(実施例1)
サンプル1の調製;N,N−ジアルキルジアミンとイタコン酸ジメチルとの反応生成物の過塩基性塩
第1部
Duomeen(登録商標)2HT(AkzoNobel)とイタコン酸ジメチルを溶媒中で混合し、加熱して、環化した生成物を形成する。得られた反応物から溶媒を除去する。
【0113】
第2部
第1部の環化した反応生成物を溶媒に加え、加熱する。石灰(Ca(OH)
2)を加え、その後、二酸化炭素を吹き込む。合計で3回の石灰の添加、3回の二酸化炭素の吹き込みを終了する。次いで、反応物を150℃まで加熱することによってすべての溶媒を除去し、次いで、生成物の混合物を濾過助剤によって濾過する。粘性である場合、濾過を補助するために溶媒を加え、その後に蒸留によって溶媒を除去する。
【0114】
第2部の反応生成物の溶解度を、サンプル1の非過塩基性前駆体の溶解度に対して試験する。非過塩基性サンプルは、油から分離し始めるまでに、活性分基準で2〜15wt%しか処理することができないことがわかっている。対照的に、サンプル1の過塩基性配合物は、油から分離することなく、40wt%まで溶解させることができる。
【0115】
(実施例2)
サンプル2の調製;アルキルテトラアミンとイタコン酸ジメチルとの反応生成物の過塩基性塩
Tetrameen(登録商標)T(AkzoNobel)とイタコン酸ジメチルを、実施例1で使用したのと同じ手順にしたがって反応させ、サンプル2の過塩基性生成物を生成する。
【0116】
(実施例3)
オートマチックトランスミッションにおけるシャダー防止の耐久性のためのスクリーニング試験
実施例1〜3の過塩基性化合物を、以下に示す標準的なオートマチックトランスミッション流体(ATF)ブレンドにおける摩擦調整性能について試験する。配合物は、他の清浄剤または摩擦調整剤といった構成要素を含まない。このことは、本発明の過塩基性化合物の性能試験に対し、標準的なATFよりももっと激しい流体をあらわす。スクリーニングは、Raybestos 4211摩擦物質およびBW6100摩擦物質で、VSFT−JASOを用いて行われる。VSFT−JASOは、シャダー防止の耐久性を予測する。以下の配合物中の成分は、活性分基準(すなわち、希釈油を含まない)で存在する。配合物を100%になるように加えない場合、他の典型的なATF成分、例えば、染料、香料、消泡剤などと組み合わせる希釈油が差を補うことが推測され得る。
【化9】
【表1】
【表2】
【0117】
(実施例4)
マニュアルトランスミッションの耐摩耗耐久性のためのスクリーニング試験
以下の表3に示す添加剤を含むベースラインマニュアルトランスミッション配合物を使用し、本発明の有効性を評価した。ベースライン配合物は、清浄剤または摩擦調整剤を含んでいない。
【化10】
【0118】
Automax(登録商標)によって製造されたシンクロナイザ試験装置を用い、配合物を評価した。この試験は、マニュアルトランスミッションで使用するシンクロナイザの摩擦特徴および潤滑特徴を評価する。
【0119】
Automax(登録商標)シンクロナイザ試験手順は、初期の慣らし運転段階(100サイクル)の後、初期の性能段階を含み、これによって所定の速度で多くの摩擦測定を行う。その後に、耐久性段階が続き、これによって、0〜10,000の所定のサイクルで動的摩擦を測定する。耐久性性能段階の後、所定の速度で多くの摩擦測定を行い、最終的な静的摩擦測定を行う。
【0120】
この試験の耐久性部分の場合、10,000(10k)サイクルすべてにわたって安定な摩擦が必要であり、サイクル1から10000まで摩擦が変化しないことが理想である。μ
S/μ
dは、シフト品質を記述しようとしたものであり、1000rpm(動的摩擦)および低速(静的摩擦)での摩擦差を調べる。理想的には、1に近い値が必要であり、この値は、高速および低速で同様の摩擦特性を示す。
【0121】
表3からわかり得るが、過塩基性摩擦調整剤を添加すると、いくつかのレベルの性能を与える。サンプル1およびサンプル2に過塩基性摩擦調整剤を含むことは、低い静的摩擦を示し、1に近いμ
S/μ
D値を示すことによって、参照用サンプルよりも利点を示す。同様に、サンプル1およびサンプル2は、参照用サンプルと比較して、低速で向上した摩擦制御性を示し、全体的に改良されたμ−v曲線を有する。
【表3】
【0122】
本発明の過塩基性化合物は、摩擦調整剤として作用する強力かつ耐久性のある誘導体を提供する。
【0123】
本発明を好ましい実施形態に関連して説明してきたが、本発明の種々の改変が、本明細書を読んだときに当業者には明らかになると理解すべきである。したがって、本明細書に開示する本発明は、このような改変が、添付の特許請求の範囲内に入るものとして包含されることを意図していると理解すべきである。