(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940665
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】脂肪族アシルアミドカルボン酸をべースとする界面活性剤の調製方法
(51)【国際特許分類】
C07C 231/02 20060101AFI20160616BHJP
C07C 233/47 20060101ALI20160616BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20160616BHJP
【FI】
C07C231/02
C07C233/47
!C07B61/00 300
【請求項の数】20
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-522109(P2014-522109)
(86)(22)【出願日】2012年7月27日
(65)【公表番号】特表2014-527519(P2014-527519A)
(43)【公表日】2014年10月16日
(86)【国際出願番号】EP2012064772
(87)【国際公開番号】WO2013014268
(87)【国際公開日】20130131
【審査請求日】2015年5月27日
(31)【優先権主張番号】13/192,489
(32)【優先日】2011年7月28日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/343,726
(32)【優先日】2012年1月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590003065
【氏名又は名称】ユニリーバー・ナームローゼ・ベンノートシヤープ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ビジャン・ハリチアン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン・オー
(72)【発明者】
【氏名】バドレディン・アーチ−アリ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ロバート・ウィンターズ
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・アンソニー・ディヴォン
【審査官】
安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】
特表平09−502720(JP,A)
【文献】
特開2006−052233(JP,A)
【文献】
特表2011−503218(JP,A)
【文献】
特表平11−508873(JP,A)
【文献】
特表平11−509526(JP,A)
【文献】
特表平06−501266(JP,A)
【文献】
特表平06−501265(JP,A)
【文献】
特表平09−509416(JP,A)
【文献】
特開昭63−096161(JP,A)
【文献】
特公昭46−006614(JP,B1)
【文献】
特表平11−508598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/CASREACT/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)グリセロール媒体中のグリシンまたはその塩と脂肪酸エステルとの混合物を反応させる工程であって、前記混合物のpKaが9.5〜13の範囲である、工程と、
(ii)前記混合物を加熱して、C8〜C22アシルグリシン酸またはその塩を形成させる工程と、
(iii)反応から得られる塊から前記C8〜C22アシルグリシン酸またはその塩を取り出す(recover)工程と
を含む、C8〜C22アシルグリシン酸またはその塩を調製する方法。
【請求項2】
脂肪酸エステルが、C8〜C22脂肪酸のC1〜C3アルキルエステル、またはモノ-、ジ-もしくはトリグリセリドから選択されるグリセリドエステルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脂肪酸エステルが、ラウリン酸メチル、オレイン酸メチル、リノール酸メチル、ミリスチン酸メチル、ステアリン酸メチル、パルミチン酸メチル、ラウリン酸エチル、オレイン酸エチル、リノール酸エチル、ミリスチン酸エチル、ステアリン酸エチル、パルミチン酸エチル、ラウリン酸n-プロピル、オレイン酸n-プロピル、リノール酸n-プロピル、ラウリン酸イソプロピル、オレイン酸イソプロピル、リノール酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、ステアリン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、およびこれらの混合物からなる群から選択されるC8〜C22脂肪酸のC1〜C3アルキルエステルである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
脂肪酸エステルが、ヤシ油、コーン油、パーム核油、パーム油、大豆油、綿実油、ナタネ油、カノーラ油、ヒマワリ種子油、ゴマ油、コメ油、オリーブ油、タロウ、ヒマシ油およびこれらの混合物からなる群から選択されるトリグリセリドである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
塩基性金属塩含有触媒をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
塩基性金属塩含有触媒が、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含有する水酸化物、リン酸塩、硫酸塩および酸化物からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
塩基性金属塩含有触媒が、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
塩基性金属塩含有触媒が酸化カルシウムである、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
媒体とグリシン出発物質またはその塩とが、約8:1から約1:1の範囲の相対モル比で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
媒体とグリシン出発物質またはその塩とが、約6:1から約1:1の範囲の相対モル比で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
グリシン出発物質またはその塩の、脂肪酸エステルに対するモル比が、約3:1から約1:3の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
グリシン出発物質またはその塩の、脂肪酸エステルに対するモル比が、1.3:1から1.05: 1の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記混合物の温度が、約50℃から約150℃の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記混合物の温度が、約80℃から約140℃の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
緩衝剤の存在をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
緩衝剤が、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウムおよびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
塩基性金属塩含有触媒が、グリシンまたはその塩の約1から約20重量%の範囲の量で存在する、請求項5に記載の方法。
【請求項18】
反応から得られる塊が、70から100のハンターラボカラースケールのL値を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
0〜10%の水をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
0〜1%の水をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪アシルアミドカルボン酸をベースとする界面活性剤を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪アシルアミドカルボン酸の塩類は、望ましい界面活性剤である。これらは、優れた水溶性、優れた洗浄力および起泡性を有する。とりわけ、これらは皮膚に低刺激性である。残念ながら、これらは製造するのに高価であるために、その使用量および程度は限定されている。
【0003】
脂肪アシルアミドカルボン酸塩への、大部分の従来および現在の商業的経路は、米国特許第6,703,517号(Hattoriら)に見出される。合成は、アミノ酸を活性化脂肪酸誘導体、特に脂肪アシルクロリドと反応させることによって達成される。この方法には、反応の塩化水素副生成物を除去するためにモル当量のpKaが必要である。副生成物に伴う明らかな廃棄物処理の問題が存在し、塩化物の付加コストを完全に回収することができない。
【0004】
米国特許第7,439,388 B2号(Harichianら)には、第一級アミドアルコールを対応するアミドカルボン酸に高収率で酸化する方法が記載されている。実例は、ココモノエタノールアミドのN-ココイルグリシンへの変換であり、立体障害ニトロキシド(hindered nitroxide)触媒の使用により媒介される。
【0005】
国際公開第2008/019807 A1号(Clariant International Ltd.)には、遷移族金属触媒、特に二酸化チタンに担持された金のナノサイズ触媒を用いて、脂肪酸モノエタノールアミドを酸化することによる、アシルグリシネートの調製方法が記載されている。
【0006】
直接エステル化およびエステル交換も、これまでに調査されている経路である。米国特許出願公開第2006/0239952 A1号(Hattori)には、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム等のアルカリ性物質によって触媒された、中性アミノ酸と長鎖脂肪酸との間の反応が記載されている。例えば、グリシンとラウリン酸との間の反応により、アシル化生成物であるラウロイルグリシンおよびラウロイルグリシルグリシンが生成する。特筆すべき副生成物には、グリシルグリシンおよびグリシルジケトピペラジンなどの非アシル化形態が、未反応グリシンと共に含まれる。この反応は、(アシル化形態の収率において)極めて効率的であると記載されているが、この結果は、ラウリン酸出発材料のグリシンに対する比が極めて高いことによってもたらされている。
【0007】
英国特許第1337782号(Rohm Gmbh)には、N-アシルアミノカルボン酸の塩を調製するためのエステル交換法が記載されている。カルボン酸またはそのアミドが、少なくとも3個の炭素原子を含むアミノカルボン酸と反応され、反応は、(アミノカルボン酸に対して)少なくとも化学量論量の塩形成性カチオンの存在下で実施される。アミノカルボン酸の中でも、グリシンだけは使用不能であると記載されている。なぜなら、この工程によってかなりの樹脂化が引き起こされるからである。しかし、グリシンのより高い同族体ほど、良好に反応すると記載されている。このより高い同族体には、アラニン、β-アラニン、サルコシン、バリン、ロイシン、フェニルグリシン、およびフェニルアラニンが含まれる。溶媒、例えば水またはジメチルホルムアミド等の有機溶媒が必要であると記載されている。
【0008】
独国特許第4408957 A1号(BASF AG)には、アミノカルボン酸の固体の無水アルカリ金属塩の懸濁液と適切なカルボン酸またはエステルとの反応による、N-アシルアミノカルボン酸の調製が報告されている。反応を促進するために、この懸濁液には触媒量の強塩基が添加される。実例となるものは、モル当量の水酸化ナトリウムの存在下において、等モル量のラウリン酸および無水ナトリウムサルコシンを一緒に200℃で溶融加熱する反応である。その収率は高いが、得られる生成物は強く着色されている。
【0009】
特開昭57-058653(Ota)には、対応するアミノ酸をエステルと反応させることによって、N-アシルアミノ酸を製造する方法が報告されている。例示的なエステルには、ラウリン酸メチル、ステアリン酸メチル、ならびに、トリアセチン、トリラウリン、およびトリステアリン等の脂肪酸グリセリドエステルが含まれる。溶媒は必ずしも必要はないと記載されているが、すべての実施例は、アセトニトリル、ジメチルスルホキシドまたはN,N-ジメチルホルムアミド等の極性溶媒を使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,703,517号(Hattoriら)
【特許文献2】米国特許第7,439,388 B2号(Harichianら)
【特許文献3】国際公開第2008/019807 A1号(Clariant International Ltd.)
【特許文献4】米国特許出願公開第2006/0239952 A1号(Hattori)
【特許文献5】英国特許第1337782号(Rohm Gmbh)
【特許文献6】独国特許第4408957 A1号(BASF AG)
【特許文献7】特開昭57-058653(Ota)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】http://www.colorpro.com/info/tools/convert.htm
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
既知のエステル化またはエステル交換方法の中で、欠点のないものはない。多くのものは、反応を進行させるために比較的高温および/または強アルカリが必要である。これらの条件は、脂肪アシル化試薬との反応よりも、アミノ酸のそれ自体との副反応を進める。こうした競合反応は、高価なアミノ酸出発材料を浪費し、取り除く処理工程を必要とする。収率も悪影響を受ける。さらに、既知の技術における反応のために必要な条件は、もっとも単純なアミノ酸であるグリシンに対して過酷すぎる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(i)グリセロール、プロピレングリコール、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される媒体中のグリシンまたはその塩と脂肪酸エステルとの混合物を反応させる工程であって、前記混合物のpKaが9.5〜13の範囲である工程と、
(ii)前記混合物を加熱して、C
8〜C
22アシルグリシン酸またはその塩を形成させる工程と、
(iii)反応から得られる塊から前記C
8〜C
22アシルグリシン酸またはその塩を取り出す(recover)工程と
を含む、C
8〜C
22アシルグリシン酸またはその塩を調製する方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
今回、比較的緩やかなエステル交換反応により、C
8〜C
22の遊離のアシルグリシン酸またはその塩の良好な収率が達成された。生成物に到達させる重要な要素は、反応媒体としてグリセロール(グリセリン)、プロピレングリコール、およびこれらの組み合わせを使用することである。
【0015】
有利には、反応媒体は実質的に無水であってよい。実質的に無水であるとは、0から10重量%、好ましくは0から5重量%、より好ましくは0から3重量%、さらに好ましくは0から1重量%、および特に0.05から1重量%の量の水を意味する。水和の水(グリシン一水和物に伴うものなど)は、反応媒体中に存在する水の一部としては考慮しないものとする。
【0016】
反応混合物は、望ましくは9.5から13、好ましくは10.5から11.5の範囲の25℃におけるpKaを有するべきである。
【0017】
第1の試剤は、グリシン酸またはその塩である。適した塩には、グリシン酸のナトリウムおよびカリウム塩が含まれる。この試剤は、無水物の形態であっても水和物の形態であってもよい。
【0018】
第2の試剤は、脂肪酸エステルである。「脂肪酸」という用語は、本明細書では、飽和、不飽和、分枝、非分枝またはその組合せであってもよい、8から22個の炭素のカルボキシ基含有物質として定義される。
【0019】
様々な脂肪酸エステルが、共反応物として適し得る。最も好ましいものは、C
8〜C
22脂肪酸のC
1〜C
3アルキルエステルである。例示的なものは、ラウリン酸メチル、オレイン酸メチル、リノール酸メチル、ミリスチン酸メチル、ステアリン酸メチル、パルミチン酸メチル、ラウリン酸エチル、オレイン酸エチル、リノール酸エチル、ミリスチン酸エチル、ステアリン酸エチル、パルミチン酸エチル、ラウリン酸n-プロピル、オレイン酸n-プロピル、リノール酸n-プロピル、ラウリン酸イソプロピル、オレイン酸イソプロピル、リノール酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、ステアリン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピルおよびこれらの混合物である。特に適したものは、メチルココエートである。
【0020】
C
8〜C
22脂肪酸のC
1〜C
3アルキルエステルは、それぞれのC
1〜C
3アルカノールを用いる加水分解によって、トリグリセリドから生成させることができる。アルカノールとして最も適したものはメタノールである。有用であるが非限定的なトリグリセリドとして、ヤシ油、コーン油、パーム核油、パーム油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、ナタネ油、カノーラ油、ヒマシ油およびこれらの混合物が挙げられる。最も好ましいものはヤシ油である。
【0021】
本発明の方法における共反応物として適している代替的な脂肪酸エステルは、グリセリドエステル類である。これらのグリセリド類は、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドおよびこれらの混合物から選択されてよい。例示的なモノグリセリドは、モノグリセリルラウラート、モノグリセリルオレアート、モノグリセリルリノレアート、モノグリセリルミリスタート、モノグリセリルステアラート、モノグリセリルパルミタート、モノグリセリルココアートおよびこれらの混合物である。例示的なジグリセリドには、グリセリルジラウラート、グリセリルジオレアート、グリセリルジリノレアート、グリセリルジミリスタート、グリセリルジステアラート、グリセリルジイソステアラート、グリセリルジパルミタート、グリセリルジココアート、グリセリルモノラウラートモノミリスタート、グリセリルモノラウラートモノパルミタート、およびこれらの混合物が含まれる。例示的であるが非限定的なトリグリセリドには、ヤシ油、コーン油、パーム核油、パーム油、大豆油、綿実油、ナタネ油、カノーラ油、ヒマワリ種子油、ゴマ油、コメ油、オリーブ油、タロウ、ヒマシ油およびこれらの混合物等の油および脂肪が含まれる。最も好ましいものはヤシ油である。共反応物としてのモノ-、ジ-およびトリグリセリドの使用は、C
8〜C
22脂肪酸のC
1〜C
3アルキルエステルと比較して利点を有する。後者は通常、トリグリセリドの分解から製造される。トリグリセリドからの変換は、プロセスに余分な工程を追加する。出発共反応物としてモノ-、ジ-およびトリグリセリドを使用することの欠点は、得られるアシルグリシナート生成物の良好であるがわずかにより低い収率である。
【0022】
概略的には、C
8〜C
22脂肪酸のC
1〜C
3アルキルエステルを用いる、C
8〜C
22アシルグリシン酸またはその塩の調製方法(以下、「モノエステル経路」という)は、以下の反応スキームに対応する(このスキームは、例示的目的でトリグリセリド前駆体を任意選択で含んでいる)。
【0024】
式中、Rは、飽和および不飽和のアルキル基ならびにその混合から選択されるC
7〜C
21の基であり;R’はC
1〜C
3アルキルであり; Xは、カチオン対イオン、好ましくはナトリウムまたはカリウムカチオンである。最も好ましくは、R’はメチル基である。
【0025】
概略的には、共反応物としてのトリグリセリドを直接用いる、C
8〜C
22アシルグリシン酸またはその塩の調製方法は、以下の反応スキームに対応する。
【0027】
式中、Rは、飽和および不飽和のアルキル基ならびにその混合から選択されるC
7〜C
21の基であり;R’はC
1〜C
3アルキルであり;R''およびR'''は、同一であるまたは異なってもよいC
7〜C
21基、水素およびこれらの混合から独立に選択され;Xは、カチオン対イオン、好ましくはナトリウムまたはカリウムカチオンである。最も好ましくは、RはC
11基である。
【0028】
従来のショッテン-バウマンアシルハライド経路に対する本発明の方法の利点は、オレイルおよびリノレイルエステル等の不飽和脂肪エステルが許容されることである。これらの不飽和酸は、既知の技術のこうした反応で起こるような分解を受けず、あるいは着色体を発生しない。本方法では最小限の副生成物しか生成されない。本発明者らは、グリシルグリシンまたはグリシルジケトピペラジンの痕跡を全く検出していない。何らの廃棄物ストリームも存在しない。トリグリセリドから遊離されたグリセロールは、反応媒体として利用することができる。モノエステル経路の主要な反応から留去されるアルコール(例えばメタノール)は、新たなメチル脂肪酸エステルを形成させるために、トリグリセリド加水分解反応中に戻すことができる。
【0029】
グリシン酸またはその塩の、脂肪酸エステルに対する相対モル量は、約3:1から約1:3、好ましくは約以2:1から約1:1、より好ましくは2:1から1:1、より好ましくは1.3:1から1.05:1の範囲であってよい。
【0030】
グリセロール、プロピレングリコール、またはこれらの組み合わせが、反応媒体となる。グリセロールまたはプロピレングリコール媒体の、グリシン酸またはその塩に対する相対モル比は、約8:1から約1:1、好ましくは約6:1から約1:1、およびより好ましくは約2:1から1:1の範囲であってよい。通常、グリセロール、プロピレングリコール、およびこれらの組み合わせの総量は、媒体の50から100重量%、好ましくは80から100重量%、および最適には98から100重量%の範囲である。
【0031】
反応のための温度条件は、約50℃から約150℃、好ましくは約80℃から約140℃、および最適には約110℃から約130℃の範囲であってよい。
【0032】
塩基性金属塩含有触媒は、有用には、反応速度および変換率を改良するために存在する。特に有用なものは、アルカリ金属およびアルカリ土類金属を含有する水酸化物、リン酸塩、硫酸塩、酸化物であり、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムおよびこれらの混合物が含まれる。最も適したものは、酸化カルシウムおよび酸化マグネシウムであり、前者が好ましい。塩基性金属塩触媒の量は、反応中に存在するグリシン出発物質の約1から約20重量%、好ましくは約1から約10重量%、より好ましくは約1.5から5重量%の範囲であってよい。
【0033】
緩衝化合物も、いくつかの実施形態において、本発明の変換率および反応時間を改良させる有用性を有する。適した緩衝剤には、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、クエン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウムおよびこれらの混合物が含まれる。特に有用なものはリン酸三ナトリウムである。緩衝剤の量は、反応中に存在するアミノ化合物またはその塩の約1から約30%重量の範囲であってよい。好ましくは、その量は、反応中に存在するグリシン出発物質の約5%から約15重量%である。
【0034】
有利には、モノエステル経路におけるアルカノール(例えばメタノール)の蒸留は、大気圧下でも、減圧条件下でも実施することができる。
【0035】
反応生成物は、多くの目的において単離する必要はない。例えば、アシルグリシン酸塩が、ボディウォシュ、トイレットバー、シャンプーまたはさらにローション等のパーソナルケア製品向けの場合、ポリオールは分離する必要がないことがある。グリセロールは、これらの製品中で保湿剤として有用である。グリセロール、未反応の出発材料または微量の副生成物が望ましくない状況では、得られる反応混合物をさらに処理することができる。例えば、塊を、アシルグリシン酸塩を沈殿させるエタノールで処理することができ、または遊離酸形態を沈殿させるがエタノール内に可溶化されたポリオールおよび未反応出発材料をそのまま保持する酸性化剤で処理することができる。アシルグリシン酸塩生成物を分離した後、未反応出発材料およびグリセロールをさらなる反応のために、エタノールの蒸発(例えば蒸留)によって再利用することができる。
【0036】
アシルグリシン酸塩への既知の経路で通常発生する着色副生成物は、本方法により回避される。着色種、例えば、グリシルグリシンおよびグリシルジケトピペラジンなどが存在しないことが、クロマトグラフィーおよび/または質量分光法の分析手法によって立証された。さらに、本方法で形成される生成物のきれいな性質のおそらく最も良い指標は、暗色の視覚的欠如(例えば、他のグリシナートを形成する経路から従来認められる黄褐色、茶色、またはさらには緑色/青色がないこと)である。加熱工程(ii)の後、アシルグリシン酸塩生成物およびグリセロールを有する反応生成物の熱液体塊は、反応器から取り出され、半固体を形成する。この塊の色をハンターラボカラースケールによって評価する。反応から得られた塊は、色が白色からわずかにオフホワイトに変化し得る。ハンタースケールに関して、重要なパラメータは、輝度の反射率測度であるL値である。Lは、70から100、好ましくは75から100、最適には90から100の間の範囲であるべきである。望ましくは、b値も考慮することができる。「b」は、0から20、好ましくは0から15および最適には0から3の範囲であり得る。「a」値は影響がより少なく、これは、-2から8、好ましくは-1から5、最適には0から4の範囲であり得る。本発明に対する値は、http://www.colorpro.com/info/tools/convert.htmにおいてオンラインで入手可能なColor Metric Converterで、反応で得られた塊の色(プロセスの終点で冷却した色)を比較することによって立証した。
【0037】
すべての特許、特許出願および刊行物を含めて、本明細書に引用したすべての文献は、その全体を参照により本開示に援用する。
【0038】
「含む(comprising)」という用語は、続いて述べられる任意の要素に限定されるものではなく、主要なまたは副次的な機能上の重要性の明示されていない要素も包含することを意味する。換言すると、列挙された工程、要素または選択肢は、網羅的である必要はない。「含む(including)」または「有する(having)」という用語が使用されるときはいつでも、これらの用語は、上に定義された「含む(comprising)」と等価であることを意味する。
【0039】
実施例および比較例、または別の方法で明記した例を除いて、物質の量を示す本発明の説明におけるすべての数値は、「約」という用語で修飾されているものと理解するべきである。
【0040】
濃度または量の任意の範囲を特定する際、任意の個々の上限の濃度または量は、任意の個々の下限の濃度または量を伴うことができることに留意するべきである。
【0041】
以下の実施例は、本発明の実施態様をより十分に例示する。本明細書および付属する特許請求の範囲に引用したすべての部、百分率および比率は、別に明示されていなければ重量による。
【実施例1】
【0042】
(モノエステル経路を介したココイルグリシナート)
一連の比較実験を実施するために、250ml三口ガラス反応容器を使用した。中央の首に、一端にTeflon(登録商標)ブレード、および他端に棒を回転させるためのモーターを備えた撹拌棒を取り付けた。反応器の第2の首に、エステル交換反応中で生成したメタノールを回収するためのディーン‐スタークトラップにつながる水冷凝縮器を取り付けた。第3の首に、温度制御デバイスに接続された温度計を取り付けた。反応器をglas-col加熱マントル中で外部加熱した。実験1において、反応器に25gグリセロール、0.41g酸化カルシウム、17.5gグリシンナトリウム、および39gココイルメチルエステルを充填した。初期には、反応器中に2相が存在した。次いで、これらの反応物を、定常撹拌および乾燥窒素下、120℃で2時間加熱した。次いで反応器の内容物をちょうど凝固点の上まで冷却し、反応器から取り出した。得られた塊は、白色のペーストであった。液体クロマトグラフィーによる分析により、(出発グリシンに対して)収率約87%のココイルグリシンナトリウムであることが判明した。
【0043】
得られた塊は、50.3%ココイルグリシンナトリウム、7.2%C
8〜C
18脂肪酸、34.1%グリセロール、1.6%グリシン、1.0%未満のメチルココアート、ならびに残りの酸化カルシウムおよび他の少量の物質を含んでいた。
【0044】
液体クロマトグラフィー/質量分光分析によって、ココイルグリシンナトリウムは、得られた全塊中の%量に基づいて、以下の脂肪酸鎖長分布を含むことが示された:5.0%C
8、3.8%C
10、27.4%C
12、9.7%C
14、4.5%C
16および6.9%C
18。C
18グリシネートは、ステアリン酸、オレイン酸およびリノール酸異性体の混合物である。不飽和C
18化合物は、代替的なアシルクロリド経路の条件下ではこれらが存在しないのと対照的に反応条件で残存していた。
【0045】
触媒、緩衝剤、反応時間および温度の重要性を評価するために、一連のさらなる実験を実施した。これらの実験をTable I(表1)に記録する。反応物および条件は、Table I(表1)の脚注で別に指示した場合を除いて、実験1と同じである。
【0046】
【表1】
【0047】
Table I(表1)中の実験5〜7は、グリセロールが存在しない場合、ココイルグリシンナトリウムがほとんど形成されないことを実証する。これらの実験から、媒体は、良好な変換の推進における決定的な側面であることは明らかである。グリセロールが最良であり、プロピレングリコールは2番目に良く有用である。
【0048】
実験13〜15は、実質的に9.5未満のpKaで操作される反応は、少しもグリシナート生成物を生じないことを実証する。7.6、7.7および8.9のpKaにおいて収率0が示された。
【実施例2】
【0049】
一連の様々な反応媒体を評価した。Table II(表2)の脚注として別に指示した場合を除いて、実験1と同じ反応物および条件で実験を実施した。
【0050】
【表2】
【0051】
Table II(表2)に報告した結果に基づいて、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、トルエンおよびイソアミルアルコール、および水は、反応物のココイルグリシンナトリウムへの妥当な変換をもたらす効果がないことが認められる。グリセロールおよびプロピレングリコール(わずかに劣る程度で)のみが、反応を高変換率で推進するのに有効であった。
【実施例3】
【0052】
(トリグリセリドを経由するココイルグリシナート)
一連の比較実験を実施するために、250ml三口ガラス反応容器を使用した。中央の首に、一端にTeflon(登録商標)ブレード、および他端に棒を回転させるためのモーターを備えた撹拌棒を取り付けた。反応器の第2の首に、エステル交換反応中で生成した留出物を回収するためのディーン-スタークトラップに接続された水冷凝縮器を取り付けた。第3の首に、温度制御デバイスに接続されている温度計を取り付けた。反応器をglas-col加熱マントル中で外部加熱した。実験1において、反応器に25gグリセロール、17.5gNaグリシン、0.41g酸化カルシウム、3gリン酸ナトリウム(緩衝剤)、および41.2gヤシ油を充填した。初期には、反応器中に2相が存在した。次いで反応物を定常撹拌下、130℃で2時間加熱した。次いで反応器の内容物をちょうど凝固点の上まで冷却し、反応器から取り出した。得られた塊は、白色のペーストであった。液体クロマトグラフィーによる分析により、(出発グリシンに対して)収率約92.7%のココイルグリシンナトリウムであることが判明した。この実験は、Table III(表3)の番号22として特定される。実験23〜25は、表中で別に記述した場合を除いて、実験22と同じ反応物および条件下で実施した。
【0053】
【表3】
【0054】
実験23は、収率が反応時間および温度によって変動し得ることを示している。実験24に示されるように、緩衝剤の非存在は、生成物の収率に悪影響を与えなかった。コーン油は、ヤシ油より収率が低いものの、有効であることが確認されたトリグリセリドである。実験25を参照されたい。
【0055】
本発明を、その特定の実施態様を参照して詳細に説明してきたが、当業者であれば、その精神および範囲から逸脱することなく本発明に様々な変更および修正を加えることができることは明らかである。