(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940702
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】りゅうずを介して計時器のメインばねを巻く装置
(51)【国際特許分類】
G04B 3/12 20060101AFI20160616BHJP
【FI】
G04B3/12
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-57251(P2015-57251)
(22)【出願日】2015年3月20日
(65)【公開番号】特開2015-187609(P2015-187609A)
(43)【公開日】2015年10月29日
【審査請求日】2015年3月20日
(31)【優先権主張番号】14161670.6
(32)【優先日】2014年3月26日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507276380
【氏名又は名称】オメガ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】リュック−アラン・グランジャン
(72)【発明者】
【氏名】アントワーヌ・イルシ
(72)【発明者】
【氏名】バスチアン・パラット
(72)【発明者】
【氏名】マクサンス・ペレ−ジャンティ
【審査官】
深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2002/0136095(US,A1)
【文献】
独国実用新案第202013005715(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
りゅうずを介して計時器のメインばねを巻くための装置(1)であって、
− モーター(11)、このモーターを制御する電子回路(16)、及び前記電子回路(16)及び前記モーター(11)にパワー供給するデバイス(12)が内部に配置されたハウジング(110、112)を有する本体(10)と、
− 当該装置(1)の前記本体(10)の一方の端において配置され、前記モーター(11)の出力軸に固定され、前記計時器用りゅうずを回転駆動するりゅうず駆動手段(19)とを有し、
当該装置は、前記電池(12)と前記モーター(11)の間に配置され、かつ、前記モーター(11)が当該装置(1)の本体(10)の内部の前記りゅうず駆動手段とともにスライドすることを可能にさせるばね(15)を有し、
前記モーター(11)は、静止位置と動作位置を含む少なくとも2つの位置にスライドするように前記本体内にて配置されており、
前記静止位置においては、前記モーター(11)にパワーが供給されておらず、前記動作位置においては、前記駆動手段(19)が計時器用りゅうずに押されて係合している時に前記駆動手段(19)の回転を開始させる前記モーター(11)にパワーが供給される
ことを特徴とする装置(1)。
【請求項2】
前記モーター(11)は、前記駆動手段(19)に与えられる圧力が所定のしきい値よりも大きい場合には、前記モーター(11)にパワーが供給されないような第3の位置を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の装置(1)。
【請求項3】
当該装置は、電子回路と連係するスイッチ(18)を有し、
前記電子回路(17)は、前記スイッチ(18)を開き又は閉じ、これによって、前記モーター(11)へのパワーを供給し又は切断する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の装置(1)。
【請求項4】
前記電子制御回路(16)は、トルク制限手段及び/又は回転カウンター手段を有する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置(1)。
【請求項5】
前記トルク制限手段及び/又は前記回転カウンター手段は、前記トルク及び/又は回転数を表示する手段につながれている
ことを特徴とする請求項4に記載の装置(1)。
【請求項6】
前記駆動手段(19)は、前記りゅうずを受けるように意図された中空端部部品(14)を有する
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置(1)。
【請求項7】
前記中空端部部品(14)は、エラストマー材料で作られている
ことを特徴とする請求項6に記載の装置(1)。
【請求項8】
前記中空端部部品(14)は、取り除くことが可能なように前記駆動手段(19)に接続されている
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の装置(1)。
【請求項9】
前記パワー供給デバイス(12)は、充電式電池を有し、
当該装置は、前記電池をチャージする手段(13)を有する
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の装置(1)。
【請求項10】
前記パワー供給デバイス(12)、前記モーター(11)、前記ばね(15)、前記駆動手段(19)及び前記中空端部部品(14)は、当該装置(1)の前記本体(10)を長さ方向に延在する同じ軸線に沿って位置合わせされている
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測時の分野に関し、より詳細には、りゅうずを介して計時器のメインばねを巻く装置に関し、特に、手動で巻かれる腕時計用のものに関する。
【背景技術】
【0002】
概して、このような装置は、ユーザーとりゅうずとの間で直接接触することなく巻きりゅうずを回転駆動することを可能にする。これによって、腕時計に収容された計時器用ムーブメントのメインばねを巻くことができる。
【0003】
ドイツ特許DE2020130057155は、りゅうずを介してメインばねを巻き又は締める装置を開示しており、これは、円筒状の本体を有し、この内部には、位置合わせされた手法で、電気モーター、及び電子制御回路、さらに、これらにパワー供給する電池が配置されている。外側に開いた空洞を有するゴム製端部部品が、本体の一方の端に配置されており、いかなる種類のりゅうずをも受けることができ、この端部部品は、電気モーターの出力軸と一体化されている。モーターは、本体に設けられた従来のスイッチ又は押しボタンタイプのスイッチによってオンとオフに切り換えられる。
【0004】
また、ドイツ特許DE202010004668は、円筒状の本体を有するメインばねを巻く装置を開示しており、この本体の内部には、電気モーター、減速ギア及びモーターにパワー供給する電池が配置されている。この装置は、さらに、可撓性中空端部部品を有し、これは、電気モーターの出力軸に固定されており、腕時計用りゅうずを受けるように構成している。この装置は、さらに、モーターをスイッチイングするスイッチを有する。
【0005】
また、米国特許US2005/0000323は、この種の巻き装置を開示しており、その中空端部部品は、様々なりゅうずの形状を嵌めることができるように交換可能になっており、この装置は、さらに、トルクリミッターを有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの装置の課題の1つは、それらすべてにおいて、腕時計用りゅうずを端部部品の空洞に入れた後にスイッチの手動的な作動が必要になるということである。
【0007】
これらの装置の更なる別の課題は、装置を扱うユーザーにとって操作が容易ではないということである。
【0008】
本発明は、汎用的で、容易に使用することができ、製造が経済的である計時器用メインばねを巻く装置を提案することによって、これらの複数の課題を克服することを目的とする。
【0009】
より詳細には、本発明は、ユーザーによるスイッチの手動的な作動を必要としない巻き装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの目的は、下記によってより明確になる他の目的とともに、以下の装置に支援されて達成される。すなわち、
りゅうずを介して計時器用メインばねを巻くための装置であって、
− モーター、このモーターを制御する電子回路、及び前記電子回路及び前記モーターにパワー供給するデバイスが内部に配置された本体と、
− 当該装置の前記本体の一方の端において配置され、前記モーターの出力軸に固定され、前記計時器用りゅうずを回転駆動するりゅうず駆動手段とを有し、当該巻き装置は、前記電池と前記モーターの間に配置され、かつ、前記モーターが当該装置の本体の内部の前記りゅうず駆動手段とともにスライドすることを可能にさせるばねを有し、前記モーターは、静止位置と動作位置を含む少なくとも2つの位置にスライドするように前記本体内にて配置されており、
前記静止位置においては、前記モーターにパワーが供給されておらず、前記動作位置においては、前記駆動手段が腕時計用りゅうずに押されて係合している時に前記駆動手段の回転を開始させるように前記モーターにパワーが供給されている。
【0011】
単独又は組み合わせて有することができる本発明の随意的な特徴によると、
− モーターは、駆動手段に与えられる圧力が所定のしきい値よりも大きい場合には、モーターにパワーが供給されないような第3の位置を有する。
− 当該装置は、モーター回路と呼ぶ電子回路と連係するスイッチを有し、これは、スイッチを開き又は閉じ、これによって、モーターへのパワーを供給し又は切断する。
− 電子制御回路は、トルク制限手段及び/又は回転カウンター手段を有する。
− トルク制限手段及び/又は回転カウンター手段は、トルク及び/又は回転数を表示する手段に接続されている。
− 駆動手段は、りゅうずを受けるように意図された中空端部部品を有する。
− 中空端部部品は、エラストマー材料で作られている。
− 中空端部部品は、取り除くことが可能なように駆動手段に接続されている。
− パワー供給デバイスは、充電式電池及び電池をチャージする手段を有する。
− 電池、モーター、ばね、駆動手段及び中空端部部品は、当該装置の本体を長さ方向に延在する同じ軸に沿って位置合わせされている。
【0012】
このように、本発明の主題は、上記に定められる様々な機能的及び構造的な態様によって、手動巻き又は自動巻きの腕時計において信頼性があって単純な巻きを確実に行なうことができる。
【0013】
図面によって示した本発明の特定の実施形態についての下の説明は、単なる説明用の例示(これによって制限されない)として与えるものであって、これを読むことで、本発明の他の特徴及び利点をより明白に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明に係る巻き装置の斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る巻き装置を開いた状態を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図3a〜3cで分けて示し、それぞれ、本発明に係る巻き装置の静止位置、動作位置及び制止位置における平面図であり、この装置の本体のシェルの一部が取り除かれた状態で示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
りゅうずを介して計時器用ムーブメントのメインばねを巻く装置の例示的な実施形態に対して一般的符号1を割り当てており、これを
図1、2及び3a−3cを参照して以下に説明する。
【0016】
上記のように、本発明の一般的な原理は、
図1に概略的に示す手動又は自動の腕時計用りゅうずCによってメインばねが巻かれることを可能にする携帯可能な巻き装置1の実装に基づいている。
【0017】
この例において、装置1は、少なくとも2つのハウジング110及び112を有する本体10で形成されており、これらのハウジング110及び112はそれぞれ、直流電気モーター11、パワー供給デバイス(この場合、電池12であり、これは、リチャージ可能であっても不能であってもよい)、本体10の一方の端において配置される電子制御回路16を受けるように形成されている。パワー供給デバイスは、電子制御デバイス及び電気モーター11にパワーを供給するように構成している。変種において、AC/DC変換器を介して電気接続コードによってパワーグリッドに接続された電源入力によって電池を置き替えることができる。このAC/DC変換器は、巻き装置内において一体化されていてもされていなくてもよい。
【0018】
図1及び
図2において観察できるように、本体10は、概して円筒状であり、装置1の長さに沿って2つの部分ないし半シェル10a、10bに開くことができ、これにおいて、これらの2つの部分は、例えば、ねじ(図示せず)によって互い接続されている。代わりに、この2つの半シェル成形本体10どうしが、互いにヒンジ付けされており、これによって、この装置を形成する部分を変えることが容易になっている。
【0019】
本体10は、プラスチック材料や金属性材料で作ることができる。なお、本発明の範囲から逸脱せずに、他の材料も当業者によって考えることができるということを理解できるであろう。
【0020】
この例において、装置1は、さらに、装置1の本体10の他方の自由端に、すなわち、電子制御回路16を受ける端の反対側の端に、配置されたりゅうず駆動手段19を有する。駆動手段19は、モーターの出力軸に固定されており、腕時計用りゅうずを回転駆動するように構成されている。
【0021】
好ましいことに、電子制御回路16は、USB又はmicro USBのポートのような、電池をチャージする手段13を設けることができる。LED(発光ダイオード)のような光による表示によって、電池12のチャージ状態を示すこともできる。
【0022】
本発明によると、装置1は、電池12とモーター11の間に位置するばね15を有し、これによって、モーター11がハウジング110内をスライドすることが可能になる。これにおいて、駆動手段19、モーター11及びハウジング110は、モーターが、少なくとも2つの位置の間で本体の長手方向の軸線に沿ってガイドされスライドすることができる。好ましいことに、本体1は、円筒状形態のハウジングを有することができ、これは、ばね15を受けるように形成され、モーター11及び電池12のハウジング110及び112の間で配置されている。
【0023】
図において観察することができるように、電池12、モーター11、ばね15、駆動手段19及び中空端部部品14は、装置1の本体10を長さ方向に延在する同じ軸に沿って位置合わせされている。この装置1の構成要素の構成によって、小型で操作が容易な装置が提供される。
【0024】
図示した例によると、この装置は、装置1の本体10の内部に配置されたスイッチ18を有し、これは、モーター11に固定されモーター11とともにスライドする第2の電子回路(モーター回路17と呼ばれる)と連係している。
【0025】
モーター回路17は、スイッチ18を形成する接点片18aと連係するスイッチ接点17aを有し、このスイッチ18は、開き又は閉じることができ、これによって、モーター11へのパワーを供給及び/又は遮断することができる。
【0026】
図2において観察することができるように、スイッチ18の接点片18aは、電池ハウジング112及びモーター11のハウジング110に沿って延在しており、接点片18aの一方の端は、モーター回路17の接点17aのすぐ近くにあり、その他方の端は、電子制御回路16における電池12の正極又は負極の一方に接触している。
【0027】
本発明によると、モーター11及び駆動手段19は、静止位置(
図3aに示す)から動作位置(
図3bに示す)にスライドさせることができる。この静止位置においては、スイッチ18が開いており(接点17aが接点片18aから離れている)、モーター11にはパワーが供給されていない。動作位置においては、スイッチ18が閉じており(接点17aが接点片18aと接触している)、モーター11にパワーが供給されている。
【0028】
静止位置から動作位置への変更は、モーター11及び圧縮ばね15を動かすように腕時計用りゅうずに対して駆動手段19を押すことによって行われる。これによって、モーター回路17の接点17aがスイッチ18の細長片18aと接触し始め、駆動手段19の回転を開始させるパワーがモーター11に供給される。
【0029】
図3Cに示す本発明の特定の実施形態によると、モーター11は、第3の位置を有し、これにおいては、駆動手段19に与えられる圧力が所定のしきい値を超えていれば、モーター11にはパワーが供給されない。この場合は、例えば、ユーザーがりゅうずに対して過剰に大きい押圧力を与えている場合に発生する。
【0030】
図1及び2に示すように、駆動手段19は、りゅうずと連係するように意図された中空端部部品14を有し、この中空端部部品14は、腕時計用りゅうずを受ける空洞140を有する。
【0031】
好ましいことに、中空端部部品14は、モーター11が動作位置にある場合又はりゅうずを嵌めるように適応した形状を有する場合に腕時計用りゅうずを回転駆動するように、十分に大きな摩擦係数を有するようなエラストマー材料で作る。
【0032】
本発明の実施形態によると、中空端部部品14は、駆動手段19から取り除くことが可能なようにこれと接続することができ、これによって、中空端部部品14は、異なる端部部品を装置1にマウントさせ、したがって、いずれの種類のりゅうず、特に、様々な既存の直径を有するようなものが嵌まるように適応することができる。
【0033】
この例において、電子制御回路16は、トルク制限手段及び/又は回転カウンター手段を有しており、これによって、メインばねが巻かれる際に、腕時計用りゅうずが強引に巻かれることを避ける。典型的には、トルクの制限範囲は、10mNm〜50mNmである。これらの値は、調整可能であることが好ましく、巻かれる腕時計の種類に依存してデザイナー又はメーカーによって調整される。
【0034】
好ましいことに、トルク制限手段及び/又は回転カウンター手段を表示手段に関連づけることができる。これは、例えば、巻きトルク及び/又は回転数に関連する様々な情報を表示するLCD表示画面である。
【0035】
本発明に係る巻き装置1は、以下のように動作する。ユーザーは、片手で巻き装置1を把持し、他方の手で手動式腕時計のような計時器を把持する。次にユーザーは、計時器用りゅうずを中空端部部品14内に挿入し、これによって、りゅうずが空洞140内に収容される。そのとき、
図3aに示すように、モーター11は静止位置にある。
【0036】
そして、ユーザーは、装置1を押圧する。具体的には、中空端部部品14を腕時計用りゅうずの方へ押す。これによって、
図3bに示すように、モーター11が動作位置に動く。ユーザーが装置1の中空端部部品14を腕時計用りゅうずに対抗するように押す場合、このことは、モーター回路17の接点17aが接点片18aと接触して、したがって、スイッチ18を閉じ、駆動手段19、モーター11を動かし、ばね15に応力を与える作用を発生させる。そして、電池12によってモーター11にパワーが供給され、中空端部部品14の回転が始まる。
【0037】
その時、ユーザーは、腕時計のバレルを完全に巻くのに必要な回転数りゅうずが回転するまで、モーター11を動作位置に保持することができる。この回転数が達成されると、電子システムは、所定のトルクの最大に到達したこと(メインばねが完全に巻かれると、りゅうずがブロックされる)、あるいは回転数が所定の回転数に対応することのいずれかを検出し、モーターの駆動を止める(スイッチをオフにされる)。次に、ユーザーは、りゅうずに与えられる圧力を開放し、これによって、ばね15は、モーター11を静止位置に押して、これによって、モーター回路17の接点17aとスイッチ18の細長片18aの間の接触をなくすことによって、パワーをオフにする。
【0038】
本発明の様々な態様によって、ユーザーが取り扱ったり使用することが容易な巻き装置1を提供することができ、これは、この装置を作動させるためのスイッチの操作を必要としない。
【0039】
当然、以下の請求の範囲に定められる本発明の範囲から逸脱せずに、当業者によって他の実施形態をも想起することができるであろう。
【符号の説明】
【0040】
1: 巻き装置
10: 装置の本体
11: 電気モーター
110: モーターハウジング
12: 電池
112: 電池ハウジング
13: チャージ手段
14: 中空端部部品
140: 中空端部部品の空洞
15: スプリング
16: 電子制御回路
17: モーター回路
17a: モーター回路の接点
18: スイッチ
18a: 接点片
19: 駆動手段