特許第5940747号(P5940747)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5940747
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】フジツボ類の付着抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A01M 29/10 20110101AFI20160616BHJP
   E02B 1/00 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   A01M29/10
   E02B1/00 301Z
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-559345(P2015-559345)
(86)(22)【出願日】2014年12月8日
(86)【国際出願番号】JP2014082448
【審査請求日】2015年12月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507030863
【氏名又は名称】株式会社セシルリサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】柳川 敏治
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 伸介
(72)【発明者】
【氏名】山下 桂司
(72)【発明者】
【氏名】神谷 享子
(72)【発明者】
【氏名】林 義雄
【審査官】 木村 隆一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/027402(WO,A1)
【文献】 特開平03−224676(JP,A)
【文献】 特開2008−142050(JP,A)
【文献】 特開2007−309819(JP,A)
【文献】 特開平05−228454(JP,A)
【文献】 宮内徹夫,フジツボの付着と基板の色,Sessile Organisms,1996年,Vol.13, No.1,11-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 29/10,99/00
E02B 1/00
C02F 1/30
B08B 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フジツボ類の付着期幼生が水中で付着物に付着することを抑制する方法であって、
前記付着期幼生に対し、409〜412nmの波長全域を含み、400〜460nmの波長域のうち一部の波長を含む光を、前記付着物から前記付着期幼生の方向に照射する工程を含む方法。
【請求項2】
前記光が400〜440nmの波長域のうち一部の波長を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記光が409〜412nmの波長域においてピークを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記光が400〜420nmの波長全域を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記光の照射照度が67.78W/m2以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記光の波長分光放射照度が、409〜412nmの波長域の少なくとも一部または全域において、62.9282μWcm-2nm-1以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記光がレーザー光でないことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記付着期幼生がキプリス幼生であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記水が海水であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記光がLED光であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フジツボ類の付着期幼生が水中で付着物に付着することを抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水として海水を利用する火力発電所や原子力発電所などの発電プラントにおいては、海から海水を取り入れて復水器に供給する取水路や、復水器を通った海水を海へ放出するための放水路の内部に、フジツボ類をはじめとする貝等の海洋生物が付着し易い。海洋生物の付着量が多くなると、冷却水の流路が塞がれて冷却性能が低下するなどの不具合を招くおそれがある。そこで、従来から、次亜塩素酸ナトリウム溶液や二酸化塩素などの塩素系薬剤を冷却水に注入することにより、熱交換水流路への海洋生物の付着を抑制することが行われている(特開平7−265867号;特開平11−37666号;特開2005−144212号;特開2005−144213号;特開2005−144214号;特許第3605128号)。その他の方法として、光触媒を用いた方法(特開平11−278374号)やレーザー光を用いた方法(特開2003−301435号;特開平06−218367号;特開平08−164384号)も開発されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、フジツボ類の付着期幼生が水中で付着物に付着することを抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
付着期幼生は、広範囲の波長域の光照射に対して多くの個体が正の走光性を示すが、409〜412nmの波長全域を含む光を照射した場合には、光源に近づく個体の割合が激減し、むしろ光源から離れる負の走光性を示す個体が増加する傾向があることを本発明者が見出し、本発明に至った。
【0005】
本発明の一実施形態は、フジツボ類の付着期幼生が水中で付着物に付着することを抑制する方法であって、409〜412nmの波長全域を含み、400〜460nmの波長域のうち一部の波長を含む光を、前記付着物から前記付着期幼生の方向に照射する工程を含む方法である。前記光が400〜440nmの波長域のうち一部の波長を含むことが好ましい。前記光が409〜412nmの波長域においてピークを有することが好ましい。前記光が400〜420nmの波長全域を含むことが好ましい。前記光の照射照度が67.78W/m2以上であることが好ましい。前記光の波長分光放射照度が、409〜412nmの波長域の少なくとも一部または全域において62.9282μWcm-2nm-1以上であることが好ましい。前記光がレーザー光でないことが好ましい。前記付着期幼生がキプリス幼生であってもよい。前記水が海水であってもよい。前記光がLED光であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施例に使用した走光性試験容器の区画分けした底面の模式図である。
図2A】ピーク波長が562〜582nm(プロジェクションライト)の光を照射した場合の、アカフジツボのキプリス幼生の移動方向と位置を示すグラフである。
図2B】ピーク波長が515〜535nmのLED光を照射した場合の、アカフジツボのキプリス幼生の移動方向と位置を示すグラフである。
図2C】ピーク波長が460〜480nmのLED光を照射した場合の、アカフジツボのキプリス幼生の移動方向と位置を示すグラフである。
図2D】ピーク波長が440〜460nmのLED光を照射した場合の、アカフジツボのキプリス幼生の移動方向と位置を示すグラフである。
図2E】ピーク波長が409〜412nmで100W/m2のLED光を照射した場合の、アカフジツボのキプリス幼生の移動方向と位置を示すグラフである。
図2F】ピーク波長が409〜412nmで125W/m2のLED光を照射した場合の、アカフジツボのキプリス幼生の移動方向と位置を示すグラフである。
図2G】ピーク波長が370〜380nmのLED光を照射した場合の、アカフジツボのキプリス幼生の移動方向と位置を示すグラフである。
図3A】ピーク波長が562〜582nm(プロジェクションライト)の光を照射した場合の、タテジマフジツボのキプリス幼生の移動方向と位置を示すグラフである。
図3B】ピーク波長が515〜535nmのLED光を照射した場合の、タテジマフジツボのキプリス幼生の移動方向と位置を示すグラフである。
図3C】ピーク波長が460〜480nmのLED光を照射した場合の、タテジマフジツボのキプリス幼生の移動方向と位置を示すグラフである。
図3D】ピーク波長が440〜460nmのLED光を照射した場合の、タテジマフジツボのキプリス幼生の移動方向と位置を示すグラフである。
図3E】ピーク波長が409〜412nmのLED光を照射した場合の、タテジマフジツボのキプリス幼生の移動方向と位置を示すグラフである。
図3F】ピーク波長が370〜380nmのLED光を照射した場合の、タテジマフジツボのキプリス幼生の移動方向と位置を示すグラフである。
図4A】ピーク波長が562〜582nm(プロジェクションライト)の光を照射した場合の、アカフジツボのキプリス幼生の移動方向および移動距離を示すグラフである。
図4B】ピーク波長が515〜535nmのLED光を照射した場合の、アカフジツボのキプリス幼生の移動方向および移動距離を示すグラフである。
図4C】ピーク波長が460〜480nmのLED光を照射した場合の、アカフジツボのキプリス幼生の移動方向および移動距離を示すグラフである。
図4D】ピーク波長が440〜460nmのLED光を照射した場合の、アカフジツボのキプリス幼生の移動方向および移動距離を示すグラフである。
図4E】ピーク波長が409〜412nmで100W/m2のLED光を照射した場合の、アカフジツボのキプリス幼生の移動方向および移動距離を示すグラフである。
図4F】ピーク波長が409〜412nmで125W/m2のLED光を照射した場合の、アカフジツボのキプリス幼生の移動方向および移動距離を示すグラフである。
図4G】ピーク波長が370〜380nmのLED光を照射した場合の、アカフジツボのキプリス幼生の移動方向および移動距離を示すグラフである。
図5A】ピーク波長が562〜582nm(プロジェクションライト)の光を照射した場合の、タテジマフジツボのキプリス幼生の移動方向および移動距離を示すグラフである。
図5B】ピーク波長が515〜535nmのLED光を照射した場合の、タテジマフジツボのキプリス幼生の移動方向および移動距離を示すグラフである。
図5C】ピーク波長が460〜480nmのLED光を照射した場合の、タテジマフジツボのキプリス幼生の移動方向および移動距離を示すグラフである。
図5D】ピーク波長が440〜460nmのLED光を照射した場合の、タテジマフジツボのキプリス幼生の移動方向および移動距離を示すグラフである。
図5E】ピーク波長が409〜412nmのLED光を照射した場合の、タテジマフジツボのキプリス幼生の移動方向および移動距離を示すグラフである。
図5F】ピーク波長が370〜380nmのLED光を照射した場合の、タテジマフジツボのキプリス幼生の移動方向および移動距離を示すグラフである。
図6】ピーク波長が562〜582nm(プロジェクションライト)、370〜380nm、409〜412nm、440〜460nm、460〜480nm、または515〜535nmのLED光を5分間照射した場合の、アカフジツボのキプリス幼生の正方向又は負方向の領域に位置した割合を示すグラフである。
図7】ピーク波長が562〜582nm(プロジェクションライト)、370〜380nm、409〜412nm、440〜460nm、460〜480nm、または515〜535nmのLED光を10分間照射した場合の、タテジマフジツボのキプリス幼生の正方向又は負方向の領域に位置した割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的に実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0008】
本発明にかかる、フジツボ類の付着期幼生が水中で付着物に付着することを抑制する方法は、付着期幼生に対し、409〜412nmの波長全域を含み、400〜460nmの波長域のうち一部の波長を含む光を、付着物から付着期幼生の方向に向けて照射する工程を含む。それによって、光源から離れる負の走光性を示す個体が増加し、付着期幼生が付着物に付着するのを防止することができる。
【0009】
フジツボ類は、初期幼生の間は海中を浮遊しており、付着期幼生になると、適当な付着物に付着して、成体に変態する。従って、付着期幼生が付着物に付着することを抑制するのは、海水中で行われることが好ましいが、特に海水中に限定されず、淡水と海水の混合水中など、他の濃度の塩水中で行なわれてもよく、淡水中で行われてもよい。
【0010】
フジツボ類とは、甲殻類(Crustacea)まん脚亜綱(Cirripadia)完胸目(Thoracica)に分類されるものの総称であり、例えば、タテジマフジツボ、アメリカフジツボ、アカフジツボ、サンカクフジツボ、オオアカフジツボ、サラサフジツボ、イワフジツボ、シロスジフジツボ、およびヨーロッパフジツボなどを含むフジツボ型亜目(Balanomorpha)に属するものが含まれる。
【0011】
フジツボ類の場合、付着期幼生は、キプリス幼生に相当する。付着期幼生が付着する付着物は特に限定されないが、発電所の海水取水設備または海水放水設備、沿岸水産養殖設備、または漁業設備などが例示できる。
【0012】
付着期幼生に対して照射する光は、付着物から付着期幼生の方向に照射する。この際、付着期幼生の位置よりも付着物に近い位置から光を照射すればよい。光の照射方向と付着物の角度は特に限定されないが、垂直に近い方が好ましく、ほぼ垂直または垂直であれば最も好ましい。従って、光源は、付着物に埋め込み、付着物自体から光を放射することが好ましい。
【0013】
付着期幼生に対して照射する光は、409〜412nmの波長全域を含み、400〜460nmの波長域のうち一部(ここで、「一部」とは、「全部」を含まないものとする)の波長を含む(すなわち、400〜460nmの波長域全域は含まない)光である。その光は、400〜440nmの波長域のうち一部(ここで、「一部」とは、「全部」を含まないものとする)の波長を含む(すなわち、400〜440nmの波長域全域は含まない)ことが好ましい。その光は、409〜412nmの波長全域のみを含んでもよいが、400〜420nmの波長全域を含むことが好ましく、409〜412nmの波長全域を含む光に加え、紫外線(400nmより小さい波長)、可視光(400〜830nm)及び赤外線(830nmより大きい波長)を含んでもよい。400nm〜420nmの波長は、海水中での透過性が紫外線より高いので、本発明は紫外線のみを含む光を用いる方法よりも広範囲に光の効果を及ぼすことができる。また、実施例で示すように、光が409〜412nmの波長域においてピークを有することが好ましい。なお、この光はレーザー光でなくてもよい。
【0014】
光の照射強度及び照射時間は特に限定されず、照射する環境(例えば、水質、水の深さ、透明度など)によって、当業者が適切に、且つ容易に決めることができるが、照射照度は67.78W/m2以上であることが好ましく、80W/m2以上であることが好ましく、100W/m2以上であることが最も好ましい。また、409〜412nmの波長域の少なくとも一部または全域において、波長分光放射照度は62.9282μWcm-2nm-1以上であることが好ましく、75.5043μWcm-2nm-1以上であることがより好ましく、82.1088μWcm-2nm-1以上であることが最も好ましい。また、付着期幼生への光の照射は、持続的であっても、間欠的であっても構わないが、持続的である場合、照射時間は5分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、15分以上が最も好ましい。
【0015】
照射方法は、特に限定されず、例えば、光照射装置として、LED照射装置,水銀ランプ,蛍光管等の装置などを用いることができるが、LEDを用いることが好ましく、特にLEDを用いた光ファイバーが好ましい。
【実施例】
【0016】
==走光性試験容器==
走光性試験には、内寸が(長さ)12cm×(幅)5cm×(深さ)4cmの走光性試験容器を用いた。この容器は、一方の短側面の下半分が石英ガラス板(厚さ5mm、縦2cm、横5cm)からなり、この部分のみが光透過性である。石英ガラス板を通じて容器外部から容器内部にLED光が入射するように、容器の外側に光源としてのLEDパネルを配置した。
【0017】
走光性試験容器の底面は、図1に示すように、石英ガラス板から5mm間隔でラインを引いて5mm幅の区画に分け、石英ガラス板から最も近い区画から順に第1区画〜第24区画と名づけた。容器内で、石英ガラスに向かう移動方向を「正方向(正の走光性)」とし、石英ガラスから離れる方向を「負方向(負の走光性)」とした。第1区画〜第12区画を「正方向の領域」として、第13区画〜第24区画を「負方向の領域」とした。第12区画と第13区画との間のラインを、幼生を投入する「幼生投入ライン」とした。「幼生投入ライン」は、石英ガラス板の表面から6cm離れた位置である。
==LEDパネル==
走光性試験には、ピーク波長が562〜582nmのプロジェクションライト(Olympus LG-PS2)、ピーク波長が370〜380nmのLED発光素子を実装したLEDパネル(シーシーエス株式会社製、LEDパネル型式:ISL−150X150UU375TPNL)、ピーク波長が409〜412nmのLED発光素子を実装したLEDパネル(シーシーエス株式会社製、LEDパネル型式:ISL−150X150−VV−TPNL)、ピーク波長が440〜460nmのLED発光素子を実装したLEDパネル(シーシーエス株式会社製、LEDパネル型式:ISL−150X150BB45−TPNL)、ピーク波長が460〜480nmのLED発光素子を実装したLEDパネル(シーシーエス株式会社製、LEDパネル型式:ISL−150X150−BB−TPNL)、およびピーク波長が515〜535nmのLED発光素子を実装したLEDパネル(シーシーエス株式会社製、LEDパネル型式:ISL−150X150−GG−TPNL)を用いた。各LED光の波長特性を表1に示す。
【0018】
LED光の照射照度は、ピーク波長が370〜380nmの光を照射する場合には20W/m2に設定し、その他のピーク波長の光を照射する場合には100W/m2に設定して実験を行った。アカフジツボのキプリス幼生については、ピーク波長が409〜412nmのLED光を125W/m2の照射照度に設定した条件でも行った。なお、この照射照度は、走光性試験容器の外部に配置したLEDパネルから発光した光が石英ガラス板を透過して走光性試験容器内部に入射した光を、石英ガラス板の表面から0cmの位置で測定し、調整した。照射照度の測定にはメイワフォーシス株式会社製、照射照度計Pyranometer LI−200 (400〜1100nm)、照射照度計UV−AB sensor SD204AB−Cos(UV−AB)を使用した。各LED光の照度と光量子束密度を表2に示す。
【0019】
409〜412nmの光を石英ガラス板の表面から0cmの位置での放射照度を100W/m2に設定した場合の、石英ガラス板の表面から0cmの位置でのピーク波長分光放射照度について分光放射計(株式会社オプトリサーチ社製、MSR−7000N)を用いて測定したところ、82.1088μWcm-2nm-1であった。また、409〜412nmの光を石英ガラス板の表面から0cmの位置で125W/m2に設定した場合の、石英ガラス板の表面から0cmの位置でのピーク波長分光放射照度について分光放射計(株式会社オプトリサーチ社製、MSR−7000N)を用いて測定したところ90.3643μWcm-2nm-1であった。
【0020】
また、石英ガラス板の表面から0cmの位置での放射照度を100W/m2に設定した場合の、石英ガラス板の表面から6cmの位置(幼生投入ライン)における放射照度およびピーク波長分光放射照度を算出した。まず、石英ガラス板の表面から0cmの位置での放射照度を88.51W/m2に設定した場合の海水中において、石英ガラス板の表面から0cmと6cmでの光量子束密度を測定器(メイワフォーシス株式会社製 光量子計 LI−192SA)を用いて測定し、ピーク波長分光放射照度を分光放射計(株式会社オプトリサーチ社製、MSR−7000N)を用いて測定した。そして、測定した光量子束密度から放射照度を式(放射照度=0.112884×光量子束密度+0.051842)から求めた。そして、放射照度とピーク波長分光放射照度の透過率をそれぞれ求めたところ、放射照度の透過率が67.78%であり、ピーク波長分光放射照度の透過率は76.64%であった。このことから、石英ガラス板の表面から0cmの位置での放射照度を100W/m2(ピーク波長分光放射照度は、82.1088μWcm-2nm-1)に設定した場合の放射照度とピーク波長分光放射照度は、幼生投入ライン(石英ガラス板の表面から6cmの位置)において、放射照度は式(100Wm-2×0.6778=67.78Wm-2)より67.78W/m2であり、ピーク波長分光放射照度は式(82.1088μWcm-2nm-1× 0.7664 = 62.9282μWcm-2nm-1)より62.9282μWcm-2nm-1であった。
==キプリス幼生の選別==
付着生物であるアカフジツボの付着期幼生であるキプリス幼生に照射照度100W/m2のプロジェクションライト(Olympus LG-PS2)光を、実験直前まで1時間以上照射し、光源に近づく行動をとる個体を以下の実験に使用した。
【0021】
また、タテジマフジツボの付着期幼生であるキプリス幼生も同様に選別して以下の実験に使用した。
==幼生の観察方法==
部屋の一画に暗幕を用いて、外部の光を完全に遮光した暗室(試験室)を設け、この暗室内で次の実験をした。
【0022】
目合い3μmのメンブレンフィルター(ADVANTEC)でろ過した海水(水温23.1℃、塩分29.5PSU、pH8.4)(水深2cm)の入った走光性試験容器の幼生投入ラインの位置に1〜5個体の幼生を投入した後、アカフジツボのキプリス幼生に対しては5分間、タテジマフジツボのキプリス幼生に対しては10分間LED光を照射した。光の照射中、容器上方から幼生を目視観察し、幼生の移動方向と幼生の位置を記録した。アカフジツボのキプリス幼生とタテジマフジツボのキプリス幼生の結果をそれぞれ図2A〜Gと図3A〜Fに示す。図2A〜Gおよび図3A〜F中、黒丸はLED光の照射終了時の幼生の位置を示し、図中の丸で番号を囲んだものは、幼生が一時的に停止した位置及び幼生が停止した順番を示す。次に、この観察結果から、幼生の移動距離を求めた。アカフジツボのキプリス幼生の移動方向および移動距離を図4A〜Gに、タテジマフジツボのキプリス幼生の移動方向および移動距離を図5A〜Fにまとめた。
【0023】
なお、図4A〜Gおよび図5A〜Fの白色のバーは正方向への移動距離、黒色のバーは負方向への移動距離を示す。また、光照射終了時における正方向の領域または負方向の領域に位置していた個体数の割合を、アカフジツボのキプリス幼生については図6、タテジマフジツボのキプリス幼生については図7にまとめた。
==結果==
アカフジツボのキプリス幼生およびタテジマフジツボのキプリス幼生はいずれも、ピーク波長が562〜582nmのプロジェクションライト光、ピーク波長が460〜480nmおよび515〜535nmの光に対して強い正の走光性を示した(図2A〜C、図3A〜C、図4A〜C、図5A〜C、図6図7)。これに対し、ピーク波長が440〜460nmの光を照射した場合、レーン1まで移動する個体が減少し、また、一時的に負方向へ移動する個体が出現した(図2D図3D図4D図5D図6図7)。さらに、ピーク波長が409〜412nmの光を照射した場合、レーン1まで移動する個体がさらに減少し、また、負方向へ移動する個体が増加した(図2E,F、図3E図4E,F、図5E図6図7)。
【0024】
波長370〜380nmの光を照射した場合も、負方向へ移動する個体が増加した(図2G図3F図4G図5F図6図7)。しかし、400〜420nmは、海水中での透過性が紫外線(400nmより小さい波長)より高いことを考慮すると、フジツボ類の付着期幼生が水中で付着物に付着することを広範囲で抑制するには、紫外線のみを含む光を照射するよりも、波長409〜412nmの波長域においてピークを有する紫色光を含む光を照射することが特に有効である。
【0025】
また、アカフジツボのキプリス幼生およびタテジマフジツボのキプリス幼生のいずれにも、ピーク波長が409〜412nmの光の放射照度が67.78W/m2であり、ピーク波長分光放射照度が62.9282μWcm-2nm-1である幼生投入ラインの位置から負方向に移動する個体が確認された(図2E図3E図4E図5E)。このように、フジツボ類の付着期幼生が水中で付着物に付着するには、付着物における放射照度を67.78W/m2以上、ピーク波長分光放射照度を62.9282μWcm-2nm-1以上とすることが有効である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によって、フジツボ類の付着期幼生が水中で付着物に付着することを抑制する方法を提供することが可能になった。
【要約】
本発明は、フジツボ類の付着期幼生に対し、409〜412nmの波長全域を含み、400〜460nmの波長域のうち一部の波長を含む光を、前記付着物から前記付着期幼生の方向に向けて照射することにより、フジツボ類の付着期幼生が水中で付着物に付着することを抑制する方法を提供する。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4A
図4B
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図5A
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図6
図7