(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940790
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】印刷用溶剤又は溶剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/02 20140101AFI20160616BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20160616BHJP
H05B 33/26 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
C09D11/02
H05B33/14 A
H05B33/26 A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-219851(P2011-219851)
(22)【出願日】2011年10月4日
(65)【公開番号】特開2012-107207(P2012-107207A)
(43)【公開日】2012年6月7日
【審査請求日】2014年9月8日
(31)【優先権主張番号】特願2010-239367(P2010-239367)
(32)【優先日】2010年10月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100101362
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 幸久
(74)【代理人】
【識別番号】100152559
【弁理士】
【氏名又は名称】羽明 由木
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽二
(72)【発明者】
【氏名】赤井 泰之
【審査官】
仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−215596(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第102193316(CN,A)
【文献】
韓国特許第10−2011−0103882(KR,B1)
【文献】
特開2009−126942(JP,A)
【文献】
特開2009−128672(JP,A)
【文献】
特開2010−060797(JP,A)
【文献】
特開2000−047382(JP,A)
【文献】
特開2005−310398(JP,A)
【文献】
特開2010−192475(JP,A)
【文献】
特開2010−152335(JP,A)
【文献】
米国特許第05597517(US,A)
【文献】
特開2011−233480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/02
H01L 51/50
H05B 33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレングリコールジアルキルエーテルの2つの末端アルキル基の一方がメチル基であり、もう一方が炭素数4又は炭素数5の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基である化合物を1種又は2種以上含む溶剤とセルロース系樹脂とを少なくとも含有する有機エレクトロルミネッセンスデバイスのパターン形成用ペースト組成物。
【請求項2】
有機エレクトロルミネッセンスデバイスを構成する素子のパターン形成方法であって、基板上に、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンスデバイスのパターン形成用ペースト組成物を印刷法を用いて塗布することによりパターン層を形成する工程と、前記パターン層を硬化又は焼成する工程とを有することを特徴とするパターン形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸湿し難く樹脂溶解性に優れた印刷法によるパターン形成用溶剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配線基板やディスプレイなどの電子部品のパターン形成は、フォトリソグラフィと呼ばれる方法で形成されることが多かった。フォトリソグラフィは、ペースト組成物を基板に塗布し、微細パターンを露光して焼き付け、エッチングにて不要な部分を除去してパターン形成を行う方法である。しかし、一般に、エッチング廃液処理設備を必要とすることから装置自体が巨大となり、巨額の設備投資が必要であり、材料の使用効率も悪く、製造工程が多いため生産性が悪いことが問題であった。また、装置の容量に制限されるため大面積基板へのパターン形成は困難であった。
【0003】
そのため、近年、パターン形成方法としては、巨大な装置が不要で、材料の使用効率がよく、大面積基板への対応も容易である、インクジェット法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、マイクロコンタクト印刷法、ナノインプリント法等の印刷法が注目されている。印刷法に用いられるペースト組成物の溶剤としては、ジエチレングリコールジメチルエーテルやジエチレングリコールジブチルエーテルなどのエチレングリコールエーテル系溶媒や、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテルなどのプロピレングリコールエーテル系溶媒等が使用される例が多い。しかし、エチレングリコールエーテル系溶媒は生態毒性を有するため使用しづらいという問題があった(非特許文献1)。
【0004】
一方、プロピレングリコールエーテル系溶媒について、特許文献1には、プロピレングリコールジエチルエーテルを有機エレクトロルミネッセンスデバイスを構成する素子パターン(以後、「有機ELデバイス素子」と称する場合がある)を印刷法により形成するペースト組成物に溶剤として使用することが記載されている。また、特許文献2には、プロピレングリコールジブチルエーテルを使用することが記載されている。更に、特許文献3にはプロピレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールメチルプロピルエーテル、プロピレングリコールエチルプロピルエーテルを使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−009913号公報
【特許文献2】特開2001−135140号公報
【特許文献3】特開2010−152335号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】国際化学物質簡潔評価文書 No.41 Diethylene Glycol Dimethyl Ether(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プロピレングリコールジアルキルエーテルは揮発性に優れているが、特にプロピレングリコールジメチルエーテルは親水性が高く吸湿し易いため、有機ELデバイス素子を形成するペースト組成物に溶剤として使用すると、前記有機ELデバイス素子を劣化させる恐れがあり、一方、プロピレングリコールジブチルエーテルは親油性が高く吸湿性は低いが、ペースト組成物に含有するエチルセルロースやアクリル樹脂などのバインダー樹脂の溶解性が低いため、印刷用溶剤又は溶剤組成物として使用することは困難であることが分かった。また、プロピレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールメチルプロピルエーテル、及びプロピレングリコールエチルプロピルエーテルもまた、樹脂添加物の溶解性と吸湿性のバランスの点で不十分であるということが分かった。
【0008】
従って、本発明の目的は、バインダー樹脂等の樹脂添加物の溶解性が高く、吸湿性が低い有機エレクトロルミネッセンスデバイス(例えば、ディスプレイ、照明等)のパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記有機エレクトロルミネッセンスデバイスのパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物を含有する有機エレクトロルミネッセンスデバイスのパターン形成用ペースト組成物を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、前記有機エレクトロルミネッセンスデバイスのパターン形成用ペースト組成物を使用してパターン形成を行うパターン形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、プロピレングリコールジアルキルエーテルの一方の末端アルキル基がメチル基であり、且つ、もう一方の末端アルキル基が直鎖状又は分岐鎖状のC
4-5アルキル基である化合物は、樹脂添加物の溶解性、及び吸湿性のバランスに優れること、前記化合物を有機エレクトロルミネッセンスデバイス素子を形成する有機エレクトロルミネッセンスデバイスのパターン形成用ペースト組成物に溶剤として添加すると、印刷法により素子パターンの形成を行うのに十分なバインダー樹脂溶解性を発揮することができ、且つ、吸湿により劣化し難い有機ELデバイス素子を形成することができることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、有機エレクトロルミネッセンスデバイス(以後、「有機ELデバイス」と称する場合がある)を構成する素子を印刷法により形成する際に使用する溶剤組成物であって、プロピレングリコールジアルキルエーテルの2つの末端アルキル基の一方がメチル基であり、もう一方が炭素数4又は炭素数5の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基である化合物を含むことを特徴とする有機ELデバイスのパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物を提供する。
【0011】
前記印刷法としては、インクジェット法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、マイクロコンタクト印刷法、ナノインプリント法からなる群より選択される少なくとも1種の方法が好ましい。
【0012】
本発明は、また、前記有機ELデバイスのパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物とバインダー樹脂とを少なくとも含有する有機ELデバイスのパターン形成用ペースト組成物を提供する。
【0013】
前記バインダー樹脂としては、セルロース系樹脂及び/又はアクリル系樹脂が好ましい。
【0014】
本発明は、更にまた、有機ELデバイスを構成する素子のパターン形成方法であって、基板上に、上記有機ELデバイスのパターン形成用ペースト組成物を印刷法を用いて塗布することによりパターン層を形成する工程と、前記パターン層を硬化又は焼成する工程とを有することを特徴とするパターン形成方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有機ELデバイスのパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物は、上記プロピレングリコールジアルキルエーテルの2つの末端アルキル基の一方がメチル基であり、もう一方が炭素数4又は炭素数5の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基である化合物を含有するため、バインダー樹脂等の樹脂添加物の溶解性に優れ、また極めて吸湿性が低い。
【0016】
そのため、本発明の有機ELデバイスのパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物を含有する有機ELデバイスのパターン形成用ペースト組成物は、大面積及び/又はフレキシブルな基材に対しても、印刷法により効率よく、均一に塗布することができ、有機ELデバイス素子の製造において、微細な素子パターンを高精度に形成することができる。また、吸湿し難いため、湿気による有機ELデバイス素子の劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[有機ELデバイスのパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物]
本発明に係る有機ELデバイスのパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物は、有機ELデバイスを構成する素子を印刷法により形成する際に使用する溶剤組成物であって、プロピレングリコールジアルキルエーテルの2つの末端アルキル基の一方がメチル基であり、もう一方が炭素数4又は炭素数5の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基である化合物を含むことを特徴とする。
【0018】
前記印刷法としては、例えば、インクジェット法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、マイクロコンタクト印刷法、ナノインプリント法等を挙げることができる。
【0019】
プロピレングリコールジアルキルエーテルの末端アルキル基における炭素数4又は炭素数5の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基としては、例えば、n−ブチル、n−ペンチル基等の直鎖状アルキル基;イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、イソペンチル、s−ペンチル、t−ペンチル基などの分岐鎖状アルキル基を挙げることができる。本発明においては、なかでも、原料の調達が容易な点で、n−ブチル、n−ペンチル基等の炭素数4又は炭素数5の直鎖状アルキル基が好ましい。
【0020】
本発明におけるプロピレングリコールジアルキルエーテルの2つの末端アルキル基の一方がメチル基であり、もう一方が炭素数4又は炭素数5の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基である化合物としては、例えば、プロピレングリコールメチル‐n‐ブチルエーテル、プロピレングリコールメチル‐n‐ペンチルエーテル等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0021】
また、本発明に係る有機ELデバイスのパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物は、親水性と親油性のバランスのとれたものであることが好ましく、例えば、含水率が3%以下(なかでも、1.5%以下)であることが好ましい。含水率が上記範囲を上回ると、本発明に係る有機ELデバイスのパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物を使用して形成した有機ELデバイス素子が劣化し易くなる傾向がある。
【0022】
また、本発明に係る有機ELデバイスのパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物はエチルセルロース等の樹脂添加物の溶解性に優れることが好ましく、例えば、エチルセルロースを5重量%以上溶解するものが好ましい。エチルセルロース等の樹脂添加物の溶解量が上記範囲を下回ると、粘度が低くなりすぎ、チクソトロピー性及び印刷物の形状安定性が不足する傾向がある。
【0023】
本発明の有機ELデバイスのパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物は上記プロピレングリコールジアルキルエーテル以外にも、親水性と親油性のバランスを損なわない範囲で、必要に応じて他の溶剤を混合して用いてもよい。他の溶剤の配合割合は、適宜調整することができる。
【0024】
他の溶剤としては、印刷用途に一般的に使われている溶剤を使用することができ、例えば、カプロン酸、カプリル酸等のカルボン酸類;イソプロピルアルコール、1−オクタノール、1−ノナノール、ベンジルアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル類;ベンジルエチルエーテル、ジヘキシルエーテル、テトラヒドロフラン等の他のエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールメチルプロピルエーテル等の上記以外のプロピレングリコールジアルキルエーテル;ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル等のジプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールブチルエーテル等のトリプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;ジプロピレングリコールメチルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルペンチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等のジプロピレングリコールジアルキルエーテル類;トリプロピレングリコールジメチルエーテル等のトリプロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールジアセテート、1,3−ブチレングリコールジアセテート、1,6−ヘキサンジオールジアセテート、1,4−ブタンジオールジアセテート等のジアセテート類;シクロヘキサノールアセテート、3−メトキシブチルアセテート、乳酸エチルアセテート、トリアセチン、ジヒドロターピニルアセテート等のその他のアセテート類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトニルアセトン、シクロヘキサノン、イソホロン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン等のケトン類;2−ヒドロキシプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、酢酸ベンジル、エチルアセチルラクテート、安息香酸エチル、シュウ酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、γ−ブチロラクトン、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−3−メチルブタン酸メチル、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、4−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルプロピオネート、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、蟻酸アミル、酢酸アミル、プロピオン酸ブチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2−オキソブタン酸エチル等のエステル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルプロピオネート、リモネン、メンタン、メントール等のテルペン類;ミネラルスピリット、石油ナフサS−100、石油ナフサS−150、テトラリン、テレピン油等の高沸点溶剤等を挙げることができる。
【0025】
[有機ELデバイスのパターン形成用ペースト組成物]
本発明に係る有機ELデバイスのパターン形成用ペースト組成物は、少なくとも上記有機ELデバイスのパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物とバインダー樹脂とを含有することを特徴とする。
【0026】
バインダー樹脂としては、特に限定されることがなく、有機ELデバイス素子の形成に使用される周知慣用の樹脂を使用することができ、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシセルロース、メチルヒドロキシセルロース等のセルロース系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール等のビニル樹脂等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。本発明においては、なかでも、塗布時の版離れがよく、チクソトロピー性及び印刷物の形状安定性に優れる点で、セルロース系樹脂を使用することが好ましい。
【0027】
有機ELデバイスのパターン形成用ペースト組成物における上記有機ELデバイスのパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物の含有量としては、例えば、1〜99重量%程度、好ましくは3〜75重量%程度である。有機ELデバイスのパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物の含有量が上記範囲を下回ると、有機ELデバイスのパターン形成用ペースト組成物の粘度が高くなりすぎ、印刷用途に使用することが困難となる傾向がある。一方、有機ELデバイスのパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物の含有量が上記範囲を上回ると、乾燥に時間がかかり作業効率が低下する傾向がある。
【0028】
有機ELデバイスのパターン形成用ペースト組成物におけるバインダー樹脂の含有量としては、例えば、0.1〜15重量%程度、好ましくは1〜10重量%程度である。バインダー樹脂の含有量が上記範囲を下回ると、チクソトロピー性及び印刷物の形状安定性が不足する傾向があり、一方、バインダー樹脂の含有量が上記範囲を上回ると、粘度が高くなりすぎ、印刷用として使用することが困難となる傾向がある。
【0029】
本発明に係る有機ELデバイスのパターン形成用ペースト組成物は、導体機能、絶縁機能、半導体機能の何れを発現するものであってもよく、上記以外に他の添加物を配合してもよい。他の添加物としては、例えば、金属酸化物、誘電体材料等の金属材料、導電性高分子材料、イオン伝導体材料、有機−無機ハイブリッドイオン伝導材料、有機又は無機顔料、分散剤、消泡剤、安定剤、酸化防止剤、硬化促進剤、増感剤、充填剤、紫外線吸収剤、凝集防止剤等を挙げることができる。他の添加物の配合量としては、本発明の効果を損なわない範囲内であればよく、例えば、有機ELデバイスのパターン形成用ペースト組成物全体の0.1〜99重量%程度である。
【0030】
本発明に係る有機ELデバイスのパターン形成用ペースト組成物は、例えば、上記有機ELデバイスのパターン印刷用溶剤又は溶剤組成物、バインダー樹脂、及び必要に応じて他の添加物を配合して、混合ミキサー等の撹拌装置を用いて充分混練し、均一に分散することにより調製することができる。
【0031】
本発明に係る有機ELデバイスのパターン形成用ペースト組成物は、印刷法により基材等に塗布することによりパターン形成が可能であるため、大面積且つフレキシブルな基板表面にも容易に、効率よく、且つ安価に有機ELデバイス素子を形成することができる。
【0032】
[パターン形成方法]
本発明に係るパターン形成方法は、有機ELデバイスを構成する素子のパターン形成方法であって、基板上に、上記有機ELデバイスのパターン形成用ペースト組成物を印刷法を用いて塗布することによりパターン層を形成する工程(パターン印刷工程)と、前記パターン層を硬化又は焼成する工程(パターン硬化又は焼成工程)とを有することを特徴とする。
【0033】
また、パターン印刷工程における印刷法としては、インクジェット法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、マイクロコンタクト印刷法、ナノインプリント法からなる群より選択される少なくとも1種の方法を挙げることができる。
【0034】
上記印刷法により形成されたパターン層は、乾燥し、その後、加熱処理及び/又は光照射することにより硬化させることができる。また、乾燥後、硬化させることなく焼成してもよい。乾燥方法としては、例えば、80〜200℃程度の温度で、例えば0.1〜3時間程度加熱する方法などを挙げることができる。加熱処理を行う場合、その温度としては、反応に供する成分や触媒の種類などに応じて適宜調整することができ、例えば50〜200℃程度である。また、加熱時間としては、例えば0.5〜3時間程度である。光照射を行う場合、その光源としては、例えば、水銀ランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ、メタルハライドランプ、太陽光、電子線、レーザー光等を使用することができる。光照射時間としては、例えば0.5〜30分程度である。焼成を行う場合、焼成温度としては、例えば200〜1500℃程度である。また、焼成時間としては、例えば、0.1〜5時間程度である。
【0035】
上記方法により得られるパターン層厚みは用途に応じて適宜調整することができ、例えば数nm〜200μm程度である。
【0036】
パターン層を形成する基板としては、耐熱性及び耐溶剤性を有することが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフロロエチレンなどの含フッ素樹脂、ポリカーボネート、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、シクロオレフィンコポリマー、導電性ポリマー、ナイロン、セルロース、ガラス、ITO等を挙げることができる。基板厚みとしては、例えば0.1〜50mm程度である。
【0037】
一般に、有機ELデバイスは一層〜多層からなる発光層が2つの電極(陽極、陰極)に挟まれた構造を有する。
【0038】
有機ELデバイスは、例えば、下記工程を経て製造される。本発明に係るパターン形成方法によれば、高精度の有機ELデバイス素子を形成することができる。
1:ガラス等の基板上に陽極を形成する。
2:ガラス等の基板上の、陽極を形成した部分以外の部分に隔壁を形成する。
3:陽極上に、赤、緑、青、又は白色の発光層を印刷法により形成し、硬化させる。
4:発光層及び隔壁の上に陰極を形成する。
【0039】
本発明に係るパターン形成方法は印刷法を用いるため、基板に対して非接触の状態でパターンを形成することができ、大面積及び/又はフレキシブルな基板にも容易にパターン形成を行うことができる。そのため、特に、有機ELデバイス素子の製造において、微細な素子パターンを高精度に形成することができる。また、マスクの作成等の複雑な工程を経ることなく直接描写することが可能であり、微細加工技術を用いる必要がない。更に、常温常圧環境下で製造することができる。そのため、製造プロセスの大幅な簡素化、設備の簡素化、製造コストの低減化が可能である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0041】
実施例1
プロピレングリコールメチル‐n‐ブチルエーテル(商品名「PMNB」、ダイセル化学工業(株)製、以後、「PMNB」と称する場合がある)20g、蒸留水 20gを、50mlフラスコに入れ、約10分間撹拌した後、10分間静置し、有機相の水分測定を行ったところ、25℃環境下における水分濃度は0.7%であった。
【0042】
前記PMNBを4つの50mlフラスコにそれぞれ20.00gずつ入れ、商品名「エトセル」(登録商標)(エチルセルロース、DOW(株)製)をそれぞれ1.05g(5%溶液)、1.28g(6%溶液)、1.51g(7%溶液)、1.74g(8%溶液)追加した。その後、65℃で撹拌して静置し、25℃まで自然冷却した後、エチルセルロースの溶解性を目視で確認し、下記基準で評価した。
評価基準
エチルセルロースが完全に溶解した:○
エチルセルロースが一部不溶、或いは全く不溶であった:×
【0043】
比較例1
プロピレングリコールジメチルエーテル(商品名「ハイソルブMMPOM」、東邦化学工業(株)製、以後、「MMPOM」と称する場合がある)20g、蒸留水 20gを、50mlフラスコに入れ、約10分間撹拌した後、10分間静置し、有機相の水分測定を行ったところ、25℃環境下における水分濃度は7.3%であった。
【0044】
PMNBに代えて前記MMPOMを使用した以外は実施例1と同様にしてエチルセルロースの溶解性を評価した。
【0045】
比較例2
「第5版 実験科学講座14」(丸善株式会社出版、p239-241)に記載の方法により合成したプロピレングリコールジブチルエーテル(以後、「PDB」と称する場合がある)20g、蒸留水 20gを、50mlフラスコに入れ、約10分間撹拌した後、10分間静置し、有機相の水分測定を行ったところ、25℃環境下における水分濃度は0.1%であった。
【0046】
PMNBに代えて前記PDBを使用した以外は実施例1と同様にしてエチルセルロースの溶解性を評価した。
【0047】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表1】