(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL素子の開発が精力的に行われている。有機EL素子を用いたディスプレイは、バックライトや偏光板が不要でダイナミックレンジや視野角に優れ、薄型化や低コスト化に有利であることから、次世代ディスプレイの担い手として期待されている。
【0003】
有機EL素子には、一般に、薄膜状の陽極と陰極との間に、電圧を印加することで自発光する有機EL層が備えられ、有機EL層には、正孔注入層や輸送層、発光層、正孔ブロッキング層、電子輸送層等が積層されている。
【0004】
これら有機EL層の各層は、真空蒸着により成膜される場合が多いが(真空蒸着法)、一部には、スピンコーティング等を利用した塗布により成膜される場合もある(塗布法)。
【0005】
また、エレクトロスプレーを用いた成膜方法も提案されている(特許文献1〜3)。エレクトロスプレー法では、例えば、溶液の微粒子どうしが反発し合うように、塗布材料の溶液に対して直接荷電し、その溶液をノズルから散布する。そして、そのノズルとターゲットとなる基板との間に電界を形成し、荷電した液滴にその電界を作用させながら基板に着弾させる。電界の強度や溶媒、ノズルと基板と間の距離などの条件を調整することで、着弾時の塗布材料の状態を制御することができる。
【0006】
但し、特許文献1及び特許文献2では、有機EL素子に適用するための条件は言及されていない。一方、特許文献3では、ノズルから塗布材料を基板に向けて静電噴霧し、ノズルと基板との間に設けられた絶縁体のマスクによって導電性の基板に選択的に成膜している。噴霧された塗布材料の微粒子がマスクに付着せずに基板へ引き寄せられるように、マスクには電圧が印加されている。
【0007】
ところで、有機ELディスプレイをカラーで表示させるためには、一般に、1つの画素中に、赤(R)、緑(G)、青(B)からなる3つのサブピクセルを並置し、これら各サブピクセルの発光を制御する方法が用いられている。そのためには、各色を発光する発光層をこれら各サブピクセルに選択的に成膜する必要がある(パターンニング)。
【0008】
そのようなパターンニング技術としては、特許文献3の他にも色々と提案されている(特許文献4〜7)。
【0009】
特許文献4には、金属マスクを用いて真空蒸着によりパターンニングする方法が開示されている。
【0010】
特許文献5には、インクジェット式記録ヘッドを用いて有機EL素子の正孔注入輸送層をパターニングする方法が開示されている。
【0011】
特許文献6には、塗布液室と基板との間にマスクが設けられ、塗布液を基板に向けて噴霧する際に、マスクに電圧を印加して塗布液の進行方向を制御し、選択的に塗布する方法が開示されている。
【0012】
特許文献7には、試料ボートと基板との間にマスクが設けられ、有機EL層の形成材料を蒸着させる際に、マスクに電圧を印加してその形成材料の進行方向を制御し、選択的に形成材料を蒸着させる方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述した真空蒸着法や塗布法、更には、パターンニング技術に関する特許文献3〜特許文献7の方法には、それぞれ次のような課題が存在する。
【0015】
(真空蒸着法の課題)
真空蒸着法で複数の層を積層形成する場合、各層で蒸着レートが異なることが多い。そのため、最も蒸着レートの遅い層によって製造プロセスのタクトタイムが制約され、高生産性を実現する上でボトルネックとなっている。
【0016】
また、真空蒸着法では、蒸着時に坩堝(るつぼ)を用いて加熱する抵抗加熱法が汎用的に用いられている。ところが、るつぼの内部は温度分布が不均一になり易いため、一定の蒸着レートを維持して蒸着を精密に制御することは難しい。
【0017】
更に、均一な膜を形成するために、蒸着源と基板と間の距離を大きく取る必要があり、真空蒸着装置が基板のサイズに比べて徒に大きくなってしまう。その結果、基板以外の部分に多量の材料が蒸着し、材料利用効率が著しく損なわれるし、設備コストが高くなってしまう。
【0018】
(塗布法の課題)
塗布法は、ディスプレイ産業において広く用いられており、例えば、G8やG10サイズのガラス基板に対し、精度高く均一に成膜する技術が確立されている。しかし、有機EL素子の場合、複数の層を積層する必要があり、成膜した膜を焼結等して不溶化する処理を行わない限り、新たに積層される膜に含まれる溶媒によって先に積層されている膜が溶解し、適正な積層構造を形成することができない。
【0019】
高分子系の材料の場合、溶液の溌液性を異ならして塗布を繰り返すことも可能である。しかし、全ての膜を適正に積層するのは困難なため、そのような材料を用いた有機EL素子は、特性が劣り、寿命や効率の点で実用化の目処が立っていないのが実情である。
【0020】
一方、低分子系の材料の場合、塗布法により成膜すること自体困難である。溶解性と特性の向上とを両立させるのが難しく、利用できる材料も制限される。
【0021】
(マスク蒸着法の課題)
特許文献4のようなマスク蒸着法では、マスクにも蒸着するため、材料を部分的にしか利用できない。例えば、カラー化するために3つのサブピクセル(RGB)を個別に蒸着する場合には、およそ3分の2の材料が捨てられ、真空蒸着法による材料の利用効率が10%前後であることからすると、マスク蒸着法での材料の利用効率は数%に過ぎない。
【0022】
また、蒸着源と基板との間の距離が大きいため、蒸着源の位置によっては、マスクの影が生じて成膜不良を招く。更に、ディスプレイが大型化すれば、それに応じてマスクの面積も大きくする必要があり、大型ディスプレイの製造に用いるには限界がある。
【0023】
(インクジェット法の課題)
特許文献5のようなインクジェット法は、所望の箇所に溶液を滴下して成膜することができるため、オンデマンドでパターンニングできるという利点がある。しかしながら、インクジェット法は、メカニカルな位置ずれやヘッドの目詰まりなどが生じるため、溶液が滴下する位置の精度はそれほど高くない。また、溶液が周囲に飛散してRGBの混色が発生するおそれもある。
【0024】
一般に、インクジェット法で均一な膜を形成するためには、滴下する溶液を入れるためにバンクと呼ばれる囲みを形成する必要がある。また、表面処理を行って膜を形成する部分の親液性を十分に高めておかなければならず、準備工程が複雑になり易い。表面処理を行うことにより、膜の特性が低下するおそれもある。さらに、同種の溶媒に溶解する材料を含む膜どうしは直接積層できないので、使用できる材料が限定される。そのため、インクジェット法は、現時点で最も特性の優れる材料や積層構造には適用されていない。
【0025】
(特許文献3等の方法の課題)
一方、特許文献3や特許文献6、7の方法は、マスクへの電圧の印加により、マスクへの塗布材料の付着量を減らすことができ、材料の利用効率を向上させることができる。
【0026】
しかし、製造するディスプレイに合わせてそれぞれマスクを作製する必要があり、オンデマンド性に欠けるという課題がある。
【0027】
本発明の目的は、オンデマンド性や材料の利用効率に優れる有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、基板と、下層電極及び上層電極からなる一対の電極層と、有機層と、を備え、前記有機層は、前記一対の電極層の間に設けられ、前記一対の電極層と前記有機層とは、前記基板の上に積層されていて、前記有機層が、電圧の印加により発光する発光層を含む、1つ以上の層を有し、前記有機層が有する少なくとも1つの層が、微粒子が連続的に結合して形成された膜状構造を有している、有機EL素子である。
【0029】
前記発光層が、前記膜状構造を有していてもよい。
【0030】
また、前記有機層が、更に、電荷注入層及び電荷輸送層の少なくともいずれか1つとして機能する第2の層を含み、前記第2の層が前記膜状構造を有していてもよい。
【0031】
前記膜状構造は、低分子有機材料で形成することができる。
【0032】
前記膜状構造は、エレクトロスプレー法を用いて形成するのが好ましい。
【0033】
更に、前記下層電極は、前記基板の上に複数形成され、前記複数の下層電極の上には、前記膜状構造を有する前記発光層がそれぞれ形成され、前記複数の発光層が、エレクトロスプレー法を用いて形成された、発光する色の異なる複数の発光層を含む有機EL素子であってもよい。
【0034】
また、前記下層電極は、前記基板の上に複数形成され、前記複数の下層電極の上には、前記膜状構造を有する前記第2の層がそれぞれ形成され、前記複数の第2の層が、エレクトロスプレー法を用いて形成された、膜厚の異なる複数の第2の層を含む有機EL素子であってもよいし、材料の異なる複数の第2の層を含む有機EL素子であってもよい。
【0035】
このような有機EL素子は、前記下層電極を前記基板の上に形成する下層電極形成工程と、スプレーノズルと、前記下層電極が形成されている基板との間に電界を形成し、その状態で、前記スプレーノズルから前記基板に向けて荷電した塗布材料の溶液を散布する、エレクトロスプレー法による成膜工程と、を含み、前記成膜工程において、前記下層電極の電位の制御が行われる製造方法を用いて製造することができる。
【0036】
また、前記下層電極が前記基板の上に複数形成されている場合には、前記複数の下層電極を前記基板の上に形成する下層電極形成工程と、スプレーノズルと、前記複数の下層電極が形成されている基板との間に電界を形成し、その状態で、前記スプレーノズルから前記基板に向けて荷電した塗布材料の溶液を散布する、エレクトロスプレー法による成膜工程と、を含み、前記成膜工程が、前記下層電極の電位の制御を行う電位制御工程を含み、前記電位制御工程において、前記複数の下層電極のうち、少なくともいずれか1つの下層電極に、前記塗布材料の溶液と同種の電荷を付与する処理が行われる製造方法を用いて有機EL素子を製造することができる。
【0037】
このような有機EL素子は、有機EL表示装置に好適である。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、生産性に優れ、材料コストも抑制できる有機EL素子等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0041】
(微粒子が連続的に結合して形成された膜状構造)
本発明に係る有機EL素子の有機層には、微粒子が連続的に結合して形成された膜状構造を有する層(微粒子結合膜ともいう)が存在する。本実施形態の微粒子結合膜は、エレクトロスプレー法を用いて形成されているため、まず、エレクトロスプレー法について説明する。
【0042】
図1に、エレクトロスプレー法を用いた成膜方法の概念図を示す。図中、1は被成膜対象、2は溶液側電極、3はスプレーノズル、4は高圧電源、5は塗布材料の溶液(塗液ともいう)である。
【0043】
エレクトロスプレー法では、高圧電源4の陽極と陰極のうち、その一方が被成膜対象1に接続され、他方が塗液5に浸漬された溶液側電極2に接続される。そして、塗液5と被成膜対象1とに、それぞれ相反する電荷が付与され、スプレーノズル3と被成膜対象1との間に、電界が形成される。その状態で、荷電した塗液5をスプレーノズル3で散布する。散布された液滴は電界に導かれ、被成膜対象1に着弾して成膜される。
【0044】
その際、散布された液滴は、自身の静電気力によって微細化し、通常のスプレーによる噴霧やインクジェット方式の噴射と比べて、格段に小さくなるため、欠損の無い緻密な膜を形成することができる。
【0045】
例えば、
図2に、有機EL素子の発光層を想定し、エレクトロスプレー法により被成膜対象に発光色素を成膜した場合のPL(フォトルミネッセンス)発光像を示す。同図の(a)は着弾時の液滴が比較的大きな粒状となる不適正な条件で成膜したものであり、同図の(b)は適正な条件で成膜したものである。なお、PL発光とは、励起光源を照射することにより、発光色素が励起発光する現象のことをいう。
【0046】
同図の(a)に示したように、着弾時の液滴が大きくなると、ところどころに発光しない箇所(黒点)が発生する。また、このような膜では、電極間のリークが起こり易くなるし、電荷の流れ方も不安定になる。
【0047】
一方、同図の(b)に示したように、適正な条件で成膜すれば、均一な発光を得ることができる。これは、液滴の極めて微細な微粒子が連続的に繋がって隙間なく成膜されていることを示している。
【0048】
例えば、
図3に、
図2の(b)における膜のAFM(原子間力顕微鏡)像を示す。これを見ると、僅かではあるが、膜の表面には液滴粒子に基づく微細な凹凸が観察される。このように、エレクトロスプレー法で適正に形成された膜は、マイクロあるいはナノレベルで見ても、微細な液滴粒子が均一に堆積して隙間の無い連続した膜構造となっており、その表面には液滴粒子に基づく凹凸形状が形成されている。つまり、エレクトロスプレー法によって形成される膜は、膜と粒子との性状を併せ持っている。
【0049】
このような膜は、
図4のように構成されていると考えられる。すなわち、液滴が被成膜対象に着弾した時にはまだ溶媒が残っており、同じタイミングで隣接して着弾する液滴どうしが、その表層部分でつながりながら急速に乾燥する結果、粒状の形を残した状態で連続的な膜になると考えられる。なお、同図において、7はその膜を表しており、8は膜7の粒子状の部分(粒子核)、9はこれら粒子核を一体に結合している膜7の結合部を表している。
【0050】
本発明では、このような構造を、「微粒子が連続的に結合して形成された膜状構造」と定義する。
【0051】
(微粒子結合膜の有機EL素子への利用)
微粒子結合膜の粒子核は、非常に小さくナノレベルである。粒子核は相対的に密度が大きく、電気特性や発光特性が高くなることが期待される。微粒子結合膜の場合、膜表面の全体にナノレベルの微細な凹凸が形成されているため、その表面積は実質的に大きくなって乾燥速度が速くなる。つまり、被成膜対象に液滴が着弾すれば、直ちに乾燥する。従って、特別な乾燥処理を行う必要が無く、製造工程を簡易化できる。
【0052】
ちなみに、インクジェット法では、膜の均一化のために高沸点の溶媒がよく用いられるが、その場合、溶媒を乾燥させるために真空加熱処理が必要になるなど、製造工程が複雑になり易い。
【0053】
更に、微粒子結合膜の場合、膜の積層化が容易にできる。上述したように、一般的な塗布法では積層構造を形成するのは難しい。しかし、エレクトロスプレー法によれば、散布された液滴は、着弾とほぼ同時に乾燥するので、下層の膜を溶かすことなく積層することができる。
【0054】
また、互いに接する膜と膜との界面の表面積が大きくなるので、注入効果を高めることができる。
【0055】
膜を構成する有機材料に、高分子化合物でない低分子化合物が使用できる点でも有利である。低分子系の有機材料(低分子有機材料)は、通常、真空蒸着法により成膜される。真空蒸着法では、低分子有機材料を昇華させることによって分子やクラスターレベルに微細化し、蒸着して成膜する。それに対し、エレクトロスプレー法も、低分子有機材料を含む塗液をほぼクラスターレベルの液滴に微細化し、散布して成膜することができるので、真空蒸着と同等の品質の膜を形成することができる。
【0056】
従って、エレクトロスプレー法を用いれば、積層化できることと相俟って、従来、真空蒸着法で作製している有機EL素子と同じ材料、同じ構造の有機EL素子を作製することも可能である。
【0057】
なお、粒子核の個々の大きさは、粒径が100nm以下であるのが好ましい。粒径が100nmを超えると、黒点を生じるおそれがあるからである。なお、ここでいう粒径には、例えば、膜のAFM像から計測される粒径を用いることができ、粒径が100nm以下とは、粒径が100nmを超える粒子核が統計的に見て含まれないことを意味する(α=0.05)。
【0058】
エレクトロスプレー法を用いて形成する有機層は、発光層であってもいいし、電荷注入層や電荷輸送層であってもよい。
【0059】
エレクトロスプレー法は、電界が形成されている状態下で行われる。従って、形成される膜は、電界の作用を受けるため、電気的に安定な構造となり、信頼性の高い有機EL素子が得られる。例えば、双極子モーメントや電気的な局在部位が存在する有機材料を用いれば、形成される膜は電気的な秩序性を備えたものとなる。
【0060】
従って、電荷輸送層であれば電気特性の改善効果等が期待できるし、発光層であれば発光効率の向上等が期待できる。
【0061】
(パターンニングへの応用)
エレクトロスプレー法は、パターンニングに好適に利用できる。例えば、
図5に、エレクトロスプレー法を用いてパターンニングする場合の概念図を示す。なお、図中、10は基板であり、11a〜11cは、それぞれ基板の上に形成された下層電極である。12は溶液側電極、13はスプレーノズル、14は高圧電源、15は塗液である。本例では、溶液側電極12及び下層電極11a,11cは、それぞれ高圧電源の14の正極に電気的に接続されており、下層電極11bは、接地された負極に接続されている。
【0062】
エレクトロスプレー法では、下層電極11a〜11cが形成されている基板10とスプレーノズル13との間に電界が形成されているので、その状態で、スプレーノズル13から基板10側に荷電した塗液15を散布すると、荷電した液滴は、電界の作用を受け、電気力線に導かれて変位する。従って、下層電極11a〜11cの電位を制御すれば、任意の下層電極だけに成膜することができる。
【0063】
例えば、同図では、下層電極11a,11cには液滴と同種の正の電荷が付与されているので、液滴は電気的に反撥して下層電極11a,11cには着弾しない。一方、下層電極11bには相対的に負の電荷が付与されているので、液滴は下層電極11bに選択的に着弾する。
【0064】
このように、電極の電位を個別に制御することで、複数の電極から必要な電極を選択して成膜することができる。
【0065】
図6に、こうして発光色素をパターンニングした膜のPL発光像を例示する。図中、18は成膜されていない領域であり、19は成膜された発光領域である。発光領域19の下側には下層電極11bが存在し、成膜されていない領域18には下層電極11aや11cが存在している。このように、明確にパターンニングすることが可能になる。
【0066】
有機EL素子をカラー表示可能なディスプレイ(有機EL表示装置)に利用するためには、1つの画素を構成する有機EL素子を複数、現実的には3つ以上のサブピクセルに分割し、それぞれのサブピクセルに、R(赤)、G(緑)、B(青)等の、発光する色が異なる発光材料を用いて発光層をパターンニングする必要がある。
【0067】
そこで、各サブピクセルに発光層を形成する時に、上述したように各下層電極の電位を制御することで、任意の下層電極の上に任意の発光層を形成することができる。そうすれば、専用のマスクを用意する必要も無くなるし、下層電極の表面形状に応じて自在に成膜できるので、製造工程が簡便化され、オンデマンド性にも優れる。
【0068】
(色再現性の向上)
有機EL素子に用いられる発光材料は有機物であることから、単体では発光スペクトルはブロードであり、色純度はあまり高くない。ディスプレイでは、例えばNTSC比100%以上の色再現性が求められることが多いのに対し、主な発光材料の発光スペクトルでは、NTSC比70%程度の色再現性が限界である。
【0069】
ところで、有機層を構成している各層の膜厚は10〜60nm程度である。各色の有機層で最適な膜厚は異なるものの、有機層全体としての膜厚も100〜150nm程度が一般的である。この程度の膜厚は、ちょうど可視光との光の干渉作用を受け易いため、膜厚の僅かな変化でその有機層の色再現性が大きく変化する。換言すれば、有機層の膜厚を調整することで色純度を向上させることが可能である。
【0070】
すなわち、エレクトロスプレー法を用いれば、各色の有機層ごとにパターンニングできるので、有機層ごとに簡単に膜厚を変えることができる。例えば、各色の有機層ごとに順次電位を制御して所望の膜厚に形成することもできるし、一連の成膜過程の中で、電極の電位を制御して成膜時間を調整することで、膜厚の異なる各有機層を同時に形成することもできる。
【0071】
従って、有機層を構成している発光層以外の層、例えば電荷注入層や電荷輸送層等の材料の膜厚を制御することで、各色の色純度が向上し、ディスプレイの色再現性を向上させることができる。
【0072】
(高効率化、長寿命化の実現)
発光する色の異なる発光材料は、通常、バンドギャップや分子構造が異なるため、それらに対する電荷輸送層等の最適な材料も異なることが多い。しかし、従来の方法では、発光材料ごとに材料を変えて電荷輸送層等をパターンニングするのは難しく、全面同じ材料で電荷輸送層等を成膜するのが一般的である。
【0073】
それに対し、エレクトロスプレー法を用いれば、パターンニングを高タクトで、しかも低コストで行うことができるので、各発光層の発光材料に最適な材料を用いて電荷輸送層等を形成することができる。サブピクセルごとにその機能を効果的に発揮させることができるようになり、有機EL素子、ひいてはディスプレイの高効率化、長寿命化が実現できる。
【0074】
<第1実施形態>
次に、具体的な実施形態を参照しながら詳細に説明する。
【0075】
(有機EL素子の構造)
図7〜
図9に、本実施形態のカラーディスプレイ(有機EL表示装置)の表示部を構成している有機EL素子を示す。
図7は、有機EL素子の基本構造をその上面から見た図である。
図8は、
図7におけるX−X線断面図である。
図9は、有機EL素子の積層構造である。これらの図において、20はガラス基板、21(21a〜21c)は下層電極(陽極)、22は有機層、23aは正孔注入層、23bは正孔輸送層、24(24a〜24c)は発光層、25は電子輸送層、26は上層電極(陰極)、27はスペーサーである。
図7は、2つの画素部分を表しており、1つの画素は、Bサブピクセル28a、Gサブピクセル28b、Rサブピクセル28c、の3つのサブピクセル28に区画されている。
【0076】
ガラス基板20の上には、複数の帯状の陽極21,21,…がストライプ状に形成されている。各陽極21は、所定の隙間を隔てて並列している。これら陽極21は、透明性を有するAL/ITOからなる。詳しくは、各陽極21はそれぞれ120μmの幅で形成され、隙間の幅は20μmである。陽極21は、スパッタ法、フォトリソプロセスによるパターンニングにより形成されている(下層電極形成工程)。
【0077】
陽極21と直交するように複数の線状のスペーサー27,27,…が形成されている。これらスペーサー27は所定間隔を空けて並列している。詳しくは、各スペーサー27の最大幅は15μmであり、間隔の幅は340μmである。各スペーサー27は、感光性のポリイミド樹脂を用いてフォトリソプロセスによりパターンニングされ、陽極21が形成されたガラス基板20の上に壁状に立設している。スペーサー27の幅は、基端側(基板20側)から先端側に向かって次第に大きくなっている(逆テーパー形状)。なお、スペーサー27の材料は、ポリイミド樹脂に限らず、必要に応じて適宜選択することができる。例えば、無機物であってもよい。
【0078】
陽極21の上には、正孔注入層23a及び正孔輸送層23b(第2の層)が形成されている。正孔輸送層23bには、有機EL素子や有機光導電体の一般的な材料を用いることができる。その具体例としては、例えば、無機p型半導体材料、ポルフィリン化合物、N,N’−ビス−(3‐メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、N,N’−ジ(ナフタレン‐1‐イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(NPD)等の芳香族第三級アミン化合物や、ヒドラゾン化合物、キナクリドン化合物、スチリルアミン化合物等を挙げることができる。詳細は後述するが、正孔注入層23aは、各サブピクセル28ごとに膜厚が異なっており、パターンニングにより形成されている。
【0079】
各正孔輸送層23b等の上には、電圧の印加により異なる色を発光する発光層24がそれぞれパターンニングされている。具体的には、第1陽極21aの上には青色(B)を発光する発光層24aが形成され、第2陽極21bの上には緑色(G)を発光する発光層24bが形成され、第3電極21cの上には赤色(R)を発光する発光層24cが形成されている。各発光層24の膜厚はいずれも30nmである。
【0080】
各発光層24の上には、電子輸送層25が20nmの膜厚で形成されている。そして、電子輸送層25の上には、陰極26が形成されている。陰極26の構成は、LiF(1nm)/MgAg(5nm)/Al(3nm)からなる。なお、本実施形態の陰極26、正孔輸送層23b、電子輸送層25は、画素の全面を被覆するように真空蒸着法で成膜されている。
【0081】
全面に成膜される陰極26等は、逆テーパー形状のスペーサー27によって分割されている。詳しくは、330μmの幅のストライプ状の陰極26等が形成されている。こうして互いに直交する陽極21と陰極26とによって120μm×330μmの各サブピクセル28が形成されている。そして、隣接するRGBの3つのサブピクセル28a〜28cで1つの画素が構成されている。
【0082】
なお、このカラーディスプレイは、陽極21に反射性の電極が、陰極26に半透光性の電極が用いられており、ガラス基板20の反対側から発光を取り出すトップエミッション構造となっている。半透過性の電極と反射性の電極との間で光の干渉作用が生じることにより、発光波長の急峻化による色度改善効果を得ることができる(マイクロキャビティ効果)。
【0083】
(正孔注入層のパターンニング)
本実施形態の正孔注入層23aは、エレクトロスプレー法を用いて形成されている(成膜工程)。まず、テトラヒドロフラン(THF)とキシレンの混合溶媒に、正孔注入層を構成するための材料(正孔注入層材ともいう)を溶解して塗液を作成した。なお、正孔注入層材には低分子系の材料を用いた。なお、ここでいう低分子の材料とは、蛍光性を有する分子と1〜8個の単位分子とが連なった、金属錯体蛍光物質や燐光性化合物、蛍光性化合物などのオリゴマーを意味する。
【0084】
具体的には、金属錯体蛍光物質としては、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(III)(Alq)、4,4′−ビス[N−(9,9−ジ(6)メチルフルオレン−2−イル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(DFLDPBi)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(4−フェニルフェノラト)アルミニウム(III)(BAlq)を挙げることができる。
【0085】
燐光性化合物としては、例えば、(アセチルアセトナート)ビス(2,3,5−トリフェニルピラジナト)イリジウム(III)(Ir(tppr)2(acac))、ビス[2−(4′,6′−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C2′]イリジウム(III)ピコリナート(FIrpic)、トリス(2−フェニルピリジナト−N,C2′)イリジウム(III)(Ir(ppy)3)、ビス(2−フェニルピリジナト−N,C2′)イリジウム(III)アセチルアセトナート(Ir(ppy)2(acac))、ビス(2−フェニルベンゾチアゾラト−N,C2′)イリジウム(III)アセチルアセトナート(Ir(bt)2(acac))、トリス(2−フェニルキノリナト−N,C2′)イリジウム(III)(Ir(pq)3)、ビス(2−フェニルキノリナト−N,C2′)イリジウム(III)アセチルアセトナート(Ir(pq)2(acac))、ビス[2−(2′−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジナト−N,C3′]イリジウム(III)アセチルアセトナート(Ir(btp)2(acac))、ビス(1−フェニルイソキノリナト−N,C2′)イリジウム(III)アセチルアセトナート(Ir(piq)2(acac))、(アセチルアセトナート)ビス[2,3−ビス(4−フルオロフェニル)キノキサリナト]イリジウム(III)(Ir(Fdpq)2(acac))、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23H−ポルフィリン白金(II)(PtOEP)を挙げることができる。
【0086】
蛍光性化合物としては、例えば、ペリレン、2,5,8,11−テトラ(tert−ブチル)ペリレン(TBP)、4,4′−ビス[2−(N−エチルカルバゾール−3−イル)ビニル]ビフェニル(BCzVBi)、5,12−ジフェニルテトラセン、N,N′−ジメチルキナクリドン(DMQd)、N,N′−ジフェニルキナクリドン(DPQd)、4−ジシアノメチレン−2−イソプロピル−6−[2−(1,1,7,7−テトラメチルジュロリジン−9−イル)エテニル]−4H−ピラン(DCJTI)、ルブレン、クマリン6、クマリン30を挙げることができる。
【0087】
図10に、使用したエレクトロスプレー装置30を示す。同図に示すように、エレクトロスプレー装置30は、キャピラリー31aを有する散布装置31や、基板20を支持固定するためのステージ32、塗液に電荷を与えるための第1高圧電源33、塗液側電極34、電圧制御装置35などを備えている。電圧制御装置35には、基板20の各電極21に電荷を与えるための第2高圧電源35aやその電圧を制御するための制御システムなどが装備されている。各高圧電源33,35aは、1cm当たり1KVの電界が形成できる能力を有している。キャピラリー31aには、内径が1mm程度のガラス管を引き伸ばして加工した汎用品が用いられている。荷電することで散布される液滴が微細化するので、インクジェット法のように微細な吐出口を持つ必要がない。従って、エレクトロスプレー法は塗液が詰まり難いという利点がある。
【0088】
ステージ32は、均一な成膜が行えるように、垂直方向や水平方向にスライド制御可能となっている。ステージ32の上面には、陽極21を形成した基板20がセットされる。ステージ32の上に基板20をセットした後、各電極21の端に設けられた端子部に電圧制御装置35が電気的に接続される。電圧制御装置35を操作して各種条件を設定することで、所望の電極21を選択して電圧を印加することができ、また、その電圧の印加時間やタイミングを任意に設定することができる。
【0089】
本実施形態では、キャピラリー31aの先端とステージ32上の基板20との間の距離は5cmに設定した。第1高圧電源33は、その正極側を塗液側電極34に接続し、その負極側を接地して5KVの電圧を印加した。つまり、塗液に+5KVの電圧を印加し、正の電荷を付与した。
【0090】
一方、基板20側の各電極21は、電圧制御装置35によって、第2高圧電源35aの正極側に接続される正荷電接続と、第2高圧電源35aの負極側に接続される負荷電接続と、に切替制御される。第2高圧電源35aの負極側は接地されており、正極側に接続することで電極21には+7Vの電圧が印加される。すなわち、正の電荷が付与された液滴は、正荷電接続される電極21には着弾せず、負荷電接続される電極21にのみ着弾して成膜する。なお、本実施形態では+7Vとしたが、もちろんそれ以上の電圧に設定してあってもよい。
【0091】
図8にも示したように、マイクロキャビティ効果を最も効果的に発現させるために、Bサブピクセル28aの第1陽極21aの上には30nm、Gサブピクセル28bの第2陽極21bの上には60nm、Rサブピクセル28cの第3陽極21cの上には120nmの正孔注入層23aがそれぞれ形成されている。
【0092】
このように、膜厚が異なる複数の正孔注入層23aをパターンニングするために、本実施形態では、各正孔注入層23aを連続的に形成した。すなわち、塗液の散布時に、各電極21の電位が所定時間で連続的に切り替わるように電圧制御装置35を設定した。
【0093】
図11に、その電位制御のタイムチャートを示す。図中、縦軸は各陽極に印加した電圧を、横軸は経過時間をそれぞれ表している。同図に示すように、まず、Rサブピクセル28cにのみ成膜されるように、第3陽極21cが負荷電接続され、第1陽極21a及び第2陽極21bが正荷電接続される。続いて、同様に、Gサブピクセル28bにのみ成膜されるように接続され、最後にBサブピクセル28aにのみ成膜されるように、順番に切替制御した。この方法によれば、膜厚の異なる膜を個別に成膜することができるので、膜厚の調整をより精度高く行うことができる。
【0094】
一連の処理の後には、各正孔注入層23aの溶媒はほぼ乾燥しており、特に乾燥処理を行う必要性は認められなかった。尤も、正孔注入層材の種類によっては乾燥処理を行った方がよい場合もあるが、その場合でも焼成温度や時間を緩和することができるので、熱のダメージを軽減できる。
【0095】
こうして形成された各正孔注入層23aの上には、正孔輸送層23bが形成される。その成膜方法はエレクトロスプレー法を用いてもいいし、真空蒸着法を用いてもよい。エレクトロスプレー法であれば、下層の正孔注入層23aに影響を与えずに簡単に積層することができる。なお、本実施形態では、真空蒸着法で全面に成膜することにより正孔輸送層23bが形成されている。
【0096】
(発光層のパターンニング)
各発光層24も、正孔注入層23aと同様にエレクトロスプレー法を用いてパターンニングされている(成膜工程)。但し、正孔注入層23aの場合とでは、塗液が異なる。すなわち、発光層24を構成する発光材料は、ホスト材料と、各色ごとに混合されるゲスト材料(発光色素:ここでは、Ir錯体)と、の混合材料からなる。ホスト材料に対するゲスト材料の混合比は重量比で5%である。これら材料をそれぞれNMPとTHFの混合溶媒に溶解して塗液を作成した。
【0097】
また、成膜時には、サブピクセル28ごとに異なる材料の塗液が用いられるので、塗液ごとに散布装置31を用意し、電圧制御のタイミングと散布する塗液の切り替えのタイミングとが同期するように制御した。これら一連の処理の後には、各発光層24の溶媒もほぼ乾燥し、特に乾燥処理を行う必要性は認められなかった。
【0098】
こうして形成された各発光層24の上には、電子輸送層25が形成される。その成膜方法はエレクトロスプレー法を用いてもいいし、真空蒸着法を用いてもよい。その後、この電子輸送層25の上に陰極26を真空蒸着で成膜し、有機EL素子の積層構造を完成させた。
【0099】
(本実施形態の微粒子結合膜)
本実施形態で形成された微粒子結合膜(正孔注入層23a及び発光層24)の各膜の構造について詳細に調べるため、AFM像の観察を行った。その結果、いずれの膜も1〜5nm程度のナノ微粒子によって構成されていることが確認された。また、これらナノ微粒子は隣接するナノ微粒子どうしが一体に結合しており、膜表面に沿って隙間なく連続的に繋がっていた。ナノ微粒子は膜の厚み方向にも連続的に繋がっており、微粒子結合膜は緻密な構造となっていた。
【0100】
(本実施形態のディスプレイの性能)
本実施形態のディスプレイに関し、色純度と素子特性について比較評価した。
【0101】
{色純度}
従来のディスプレイの色純度が、R(0.67,0.33)、G(0.30,0.63)、B(0.15,0.18)で、白色表示の際のNTSC比62%であったのに対し、本実施形態のディスプレイの色純度は、R(0.68,0.33)、G(0.18,0.74)、B(0.13,0.07)で、白色表示の際のNTSC比101%であった。
【0102】
{素子特性}
また、真空蒸着法により同様の構造のディスプレイを作製し(比較例)、本実施形態のディスプレイ(実施例)と素子特性(電流効率とIV特性)を比較した。
【0103】
図12及び
図13に、Bサブピクセルで電流効率の特性を比較した結果を示す。
【0104】
その結果、実施例は比較例に比べて電流効率が12%、電流量が1.8倍向上していた。他のサブピクセルでも、電流効率は12〜15%、電流量は1.5倍〜2倍向上していた。これは、実施例では電荷注入層や発光層の表面積が大きくなったために、電荷の注入が促進され、電流量が増加したことによると考えられる。
【0105】
また、電流効率の向上に関しても、実施例における高電流時の電流効率が比較例よりも高いことから、電荷の注入の促進や、高電界印加時の材料の安定性、膜内の秩序化が効いているのではないかと考えられる。
【0106】
次に、本実施形態の主な変形例について説明する。なお、基本的な構成は同じであるため、異なる点について詳細に説明する。
【0107】
[変形例1]
本変形例では、Bサブピクセル28aにおける電子輸送層25の材料を他のサブピクセル28b,28cのものと異なる材料にした点で上記実施形態と異なっている。
【0108】
上述したように、各サブピクセル28の発光層24のバンドギャップやHOMOやLUMOのレベルはそれぞれ異なっている。そのため、各サブピクセル28の電荷(正孔、電子)注入層等に同じ材料を用いた場合、必ずしもそれぞれの発光層24に最適とはならない。
【0109】
また、青色を発光する発光材料は、LUMOレベルが他の色を発光する発光材料に比べて0.3eV高いため、電子がうまく注入されずに発光電圧が相対的に高くなるという課題がある。
【0110】
そこで、本変形例では、上記実施形態と同様に、エレクトロスプレー法を用いて電子輸送層25をパターンニングした。
【0111】
すなわち、各発光層24を形成した後、まず、Gサブピクセル28b及びRサブピクセル28cに電子輸送層25を成膜した。そして、Bサブピクセル28aには、異なる材料を用いて電子輸送層25を成膜した。こうして得られるディスプレイは、Bサブピクセル28aにも最適な電子輸送層25が形成される。その結果、電荷の注入が促進され、発光電圧を低下させることができた。また、電子輸送層25もエレクトロスプレー法で成膜したことによって駆動電圧が0.2V低下する効果も得られた。
【0112】
なお、Bサブピクセル28aだけでなく、Rサブピクセル28cやGサブピクセル28bの電子輸送層25にも最適な異なる材料を用いてもよい。また、電子輸送層25だけでなく、正孔注入層23aや正孔輸送層23bでも同じように異なる材料を用いてもよい。更には、特定のサブピクセル28の積層構造を変更することも可能である。
【0113】
[変形例2]
上記実施形態では、膜厚が異なる複数の正孔注入層23aをパターンニングするために、各正孔注入層23aを連続的に形成するように制御したが、それに限らず、必要に応じてパターンニングの設定を変更することができる。
【0114】
図14に、各正孔注入層23aを一括的に成膜する方法を示す。すなわち、各正孔注入層23aを同時に並行して成膜を行いながら、電圧の印加時間を制御することによって膜厚を調整するのである。
【0115】
同図の(a)では、各陽極21に対する接続の切り替えを高速で行い、断片的な成膜を繰り返し行ってパターンニングしている。各電極21に対する負荷電接続の合計時間がそれぞれの膜厚と比例する。この方法によれば、各正孔注入層23aの成膜をほぼ同じタイミングで完了することできる。同図の(b)では、各正孔注入層23aの成膜を同時に並行して開始し、各正孔注入層23aにおいて所定の膜厚に達した時点でその正孔注入層23aの成膜を終了する。いずれの方法を用いても、同様の正孔注入層23aを形成することができる。
【0116】
[変形例3]
上記実施形態では、微粒子結合膜の材料として低分子有機材料を用いたが、高分子系の有機材料(高分子化合物)を用いても同じように成膜することができる。
【0117】
正孔注入層23aあるいは正孔輸送層23b(高分子系の有機材料では、正孔の注入と輸送の両機能を兼ねる場合が多い)の材料としては、例えば、PEDOT/PSS{Poly(ethylene−dioxythiophene)/Poly(styrenesulfonate);ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸}や日産化学社のNDシリーズなどが挙げられる。
【0118】
発光層24の材料としては、例えば、ポリフルオレン系共重合ポリマーが挙げられる。本高分子有機材料は、アルキル鎖R、R'を有するフルオレン環と、少なくとも1以上の芳香族アリール化合物のユニットAr(Ar')との共重合化合物であり、その化学式は、次の化学式1で表される。
【0120】
化学式1において、R、R'は、アルキル鎖を表し、Ar、Ar'は、芳香族アリール化合物のユニットを表し、l、mは、1以上の整数であり、nは、0又は1以上の整数である。芳香族アリール化合物としては、ジメチルベンゼン、ピリジン、ベンゼン、アントラセン、スピロビフルオレン、カルバゾールユニット、ベンゾアミン、ビピリジン、ベンゾチアジアゾール等が用いられる。
【0121】
<第2実施形態>
本実施形態の有機EL素子は、全面に成膜されている点で、パターンニングされている第1実施形態とは異なっている。本実施形態の有機EL素子が組み込まれた発光素子50は、主に液晶のバックライトや白色光源(照明)として用いることができる。
【0122】
(発光素子の構造)
図15、
図16に、本実施形態の発光素子50を示す。この発光素子50は、ボトムエミッション構造を有し、略全面に設けられた発光領域から白色が発光する。もちろん白色以外を発光してもよいし、トップエミッション構造であってもよい。
【0123】
図15において、51は基板、52は下層電極(陽極)、53は上層電極(陰極)である。これら陽極52と陰極53との間に有機層54が設けられている。
図16に示すように、有機層54は、基板51側から順に、正孔注入層56、正孔輸送層57、電子ブロッキング層58、R発光層59、G発光層60、B発光層61、正孔ブロッキング層62、電子輸送層63、電子注入層64が積層されて形成されている。
【0124】
陽極52及び陰極53は、互いに直交するように配設されている。陰極53の一方の端部には電圧制御装置35に接続可能な端子部が設けられ、陽極52の一方の端部にも電圧制御装置35に接続可能な端子部が設けられている。陰極53と陽極52とが上下に重なる部分の全域が発光領域となっている。
【0125】
(発光素子50の製造方法)
60mm×60mm寸法の矩形PETフィルム(基板51)の表面にITO(酸化インジウム−酸化錫)からなる陽極52を150nmの膜厚で形成した。陽極52は50mm×55mm寸法となるようにフォトリソプロセスでパターンニングした。陽極52を形成した基板51は、例えば、アセトンやIPAを用いて超音波洗浄を10分間行った後、UVオゾン洗浄を30分間行った。
【0126】
次に、洗浄を行った基板51に対し、エレクトロスプレー法により、有機層54を構成している各層(電子注入層64を除く)の成膜を行った。エレクトロスプレー法によれば、全面がベタな電極に対しても均一に成膜することができる。膜厚の大きさは、散布時間によって制御すればよい。なお、エレクトロスプレー法による成膜方法については上述したのと同様であるため、その説明は省略する。
【0127】
クロロホルム、NMP、THFなどの溶媒に各層の材料をそれぞれ所定の濃度で溶解し、各層ごとに塗液を作製した。各塗液に対する材料濃度は1〜10重量%である。
【0128】
まず最初に、陽極52の上に、銅フタロシアニン(CuPc)を用いて膜厚が30nmの正孔注入層56を形成した。次いで、正孔注入層56の上に、4'−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル―アミノ]ビフェニル)(α−NPD)を用いて膜厚が20nmの正孔輸送層57を形成した。そして、正孔輸送層57の上に、4,4'−ビス−[N,N'-(3−トリル)アミノ−3,3'−ジメチルビフェニル(HMTPD)を用いて膜厚が10nmの電子ブロッキング層58を形成した。
【0129】
電子ブロッキング層58の上には、両電荷輸送性赤色発光層(厚さ:例えば20nm、R発光層59)を形成した。R発光層59は混合溶液を塗液に用いて成膜した。この混合溶液は、正孔輸送層57の材料であるα−NPDと、電子輸送層63の材料である3-フェニル-4(1'-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)と、赤色発光ドーパントであるビス(2−(2'−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジナト−N、C3')イリジウム(アセチルアセトネート)(btp2Ir(acac))と、をそれぞれ0.6:1.4:0.15の比率の濃度で溶解し作製したものである。各材料が混合溶液に均一に溶解していれば、共蒸着法によりこれら3つの材料を用いて成膜して得られるのと同じ組成の膜を形成することができる。
【0130】
R発光層59の上には、両電荷輸送性緑色発光層(厚さ:例えば20nm、G発光層60)を形成した。このG発光層60も混合溶液を塗液に用いて成膜した。この混合溶液は、正孔輸送層57の材料であるα−NPDと、電子輸送層63の材料であるTAZと、緑色発光ドーパントであるIr(ppy)3と、をそれぞれ1.0:1.0:0.1の比率の濃度で溶解し作製したものである。
【0131】
G発光層60の上には、両電荷輸送性青色発光層(厚さ:例えば10nm、B発光層61)を形成した。B発光層61も混合溶液を塗液に用いて成膜した。この混合溶液は、正孔輸送層57の材料であるα−NPDと、電子輸送層63の材料であるTAZと、青色発光ドーパントである2-(4'-t-ブチルフェニル)-5-(4''-ビフェニルイル)-1,3,4-オキサジアゾール(tBu−PBD)と、をそれぞれ1.5:0.5:0.2の比率の濃度で溶解し作製したものである。これら3つの発光層59,60,61により、白色を発光する白色発光層が得られる。
【0132】
B発光層61の上には、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)を用いて膜厚が10nmの正孔ブロッキング層62を形成した。正孔ブロッキング層62の上には、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)を用いて膜厚が30nmの電子輸送層63を形成した。
【0133】
電子輸送層63の上には、真空蒸着法により、フッ化リチウム(LiF)を用いて膜厚が1nmの電子注入層64を形成した。さらに、電子注入層64の上には、真空蒸着法により、膜厚が例えば300nmになるまでアルミニウムを堆積させ、陰極53を形成した。なお、主な材料の化学式は
図17に示しておく。
【0134】
(発光素子の性能)
完成した発光素子50に対し、10Vの電圧を印加すると、7000cd/m2の白色発光が得られた。
【0135】
真空蒸着法により、本実施形態の発光素子50(実施例)と同様の構造の発光素子(比較例)を作製し、これらの素子特性について比較した。
【0136】
その結果、実施例は比較例に対し、10Vでの発光輝度が10%、電流量が15%向上していることが確認された。
【0137】
このように、全面に多数積層して成膜される、比較的大きな有機EL素子であっても、簡単に製造することができる。エレクトロスプレー法であれば大気中で製膜できるので、真空蒸着装置などの大掛かりな装置は不要で、製造コストを大幅に低減することができる。
【0138】
また、真空蒸着法では、複数の材料が混合した膜を形成するには共蒸着法を用いるが、この方法では各材料の蒸着速度をそれぞれ精密に制御しなければならず、組成が均一な膜を安定して形成するのは難しい。それに対し、エレクトロスプレー法であれば、各材料を溶液中に均一に溶解させるだけで、組成が均一な膜を得ることができるので、容易に安定して混合成分膜を形成することができる。
【0139】
なお、本発明の有機EL素子は、様々な装置に用いることができる。例えば、PCやTVのディスプレイはもちろんのこと、ビデオカメラ、デジタルカメラ、ナビゲーションシステム、音響再生装置(カーオーディオ、オーディオコンポ等)、ゲーム機、携帯情報端末(モバイルコンピュータ、携帯電話、携帯型ゲーム機または電子書籍等)などに好適である。言うまでもなく各種照明装置にも利用可能である。