【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。また、特に断りのない限り、「%」は質量%を示す。
【0050】
<製造例1:大豆米糠発酵組成物の製造>
<<工程1:大豆固形画分発酵物(FSB−01)の調製>>
大豆を水で洗浄し、水に17時間浸漬して十分に吸水させた。大豆が吸水して十分に柔らかくなったことを確認し、豆挽機を用いて水とともに大豆を摩砕した。摩砕された大豆をタンクに移し、均一になるように攪拌した。その後、摩砕大豆懸濁液をよく撹拌しながら20分間、100℃で加熱した。加熱後、絞り器を用いて摩砕大豆懸濁液から液相を除去し、固相(大豆固形画分)を回収した。得られた大豆固形画分100kgを適度に加温し、十分に攪拌した後に、納豆菌(成瀬醗酵化学研究所から入手)0.6L(菌数1.0×10
10個)を均一に添加した。納豆菌接種後の大豆固形画分をステンレス容器若しくはポリエチレン袋に移し、通気性を確保した状態で、40℃の恒温培養器若しくは恒温室内で18時間発酵を行った。得られた大豆固形画分発酵物(FSB−01)は、使用時まで冷凍保管した。
【0051】
<<工程2:大豆米糠発酵液の調製>>
原料として、大豆蛋白質(ニューフジプロSE、不二製油株式会社製)、脱脂米糠及び米胚芽(以上、オリザ油化株式会社製)を用いた。ステンレス製のタンクに水3,000Lを入れ、続いて大豆蛋白質200kg、脱脂米糠50kg、米胚芽50kgを投入した。その後、90℃になるまで加温し、昇温後1時間攪拌した。攪拌終了後、42℃まで冷却し、得られた大豆米糠液、工程1で用いたものと同じ納豆菌を1L(菌数1.0×10
11個)添加した。納豆菌接種後、42℃で28時間撹拌し、大豆米糠発酵液を得た。
【0052】
<<工程3:プロテアーゼ処理>>
前記工程2で得られた大豆米糠発酵液に、前記工程1で得られたFSB−01 200kg、脱脂米糠50kg、米胚芽50kg、及び茶カテキン260gを投入した。
これを3時間攪拌しながら混合した後、50℃になるまで加温した。昇温後、
Aspergillus oryzae由来中性プロテアーゼ(デナチームAP、ナガセケムテックス株式会社製)を10kg投入し、50℃で15時間撹拌してプロテアーゼ消化を行った。
その後、90℃で10分間加熱することによりプロテアーゼを失活させた。
【0053】
<<工程4:抽出>>
前記工程3で得られた大豆米糠発酵組成物を2時間攪拌し、熱水抽出を行った。抽出後、遠心分離機を用いて固液分離を行った。液相のみを回収し、クエン酸ナトリウムを用いてpHを3.8に調整した。pH調整後、90℃で10分間加熱殺菌し、10℃で12時間静置させた。
【0054】
<<工程5:濾過>>
その後、フィルタープレス及び0.5μmラインフィルターを組み合わせて濾過を行い、澄明な溶液を回収した。得られた澄明液を製造例1の大豆米糠発酵組成物とした。
以上のようにして得られた大豆米糠発酵組成物を用いて、以下の実施例1〜9を行った。
【0055】
(実施例1:脂肪細胞の分化誘導作用)
前駆脂肪細胞(3T3−L1:ヒューマンサイエンス研究資源バンクから入手可能)を96ウェルのマイクロプレートに3×10
4個/ウェルで播種し、37℃、5体積% CO
2インキュベーターで24時間培養した。細胞がコンフルエントになったのを確認後、更に2日間インキュベーションした。培地を除去し、分化誘導培地I(DMEM培地:10μg/mLインスリン、10%牛胎児血清、4.5g/Lグルコース)90μLに置換し、大豆米糠発酵組成物を10μL添加した。2日毎に各被験物質を含む分化誘導培地Iに培地交換しながら8日間培養した。
細胞をPBS(リン酸緩衝液)で2回洗浄した後、10%ホルマリンを加え、室温で10分間処理した。細胞をPBSで2回洗浄した後、オイルレッドO染色液(SIGMA社製)を加え、室温で20分間染色した。60体積%イソプロパノールで1回洗浄し、その後、PBSで2回洗浄し、顕微鏡下、細胞内脂肪滴の蓄積を観察して細胞内脂肪滴が認められる細胞を分化成熟した脂肪細胞と見なし、写真を撮影した。結果を
図1に示す。
対照として、分化誘導を行わなかった(基本培地のみで培養した)無処置のもの(無処置群)、大豆米糠発酵組成物の代わりに純水を添加した対照(対照群)、大豆米糠発酵組成物の代わりにトリグリタゾン(TGZ)を添加した陽性対照(陽性対照(TGZ)群)も同様の試験を行った。なお、前記大豆米糠発酵エキスは、発酵抽出液を純水で128倍に希釈し、陽性対照として用いたTGZは、3μMの濃度に調整して細胞に添加した。
【0056】
図1より、インスリンを含まない基本培地のみで前駆脂肪細胞を培養した無処理群では、脂肪細胞への分化は認められなかった(
図1A)のに対し、インスリン含有培地で培養した対照群では細胞内に脂肪滴を蓄積した分化脂肪細胞が認められた(
図1B)。一方、インスリン含有培地に大豆米糠発酵組成物を添加することにより、明らかに細胞内の脂肪滴蓄積量を増加し、大豆米糠発酵組成物による脂肪細胞への分化の促進が認められた(
図1D)。この効果は、陽性対照として用いたTGZ 3μM(
図1C)よりも強い作用であった。
【0057】
(実施例2:脂肪細胞からのアディポネクチン誘導作用)
実施例1において、希釈倍率128倍、64倍、32倍、16倍、8倍又は4倍の大豆米糠発酵組成物を加えて培養した3T3−L1細胞の培養終了時に各ウェルの培養上清を回収し、含まれるアディポネクチン量をアディポネクチン測定キット(マウス・アディポネクチンELISAキット;CycLex社製)を用いて定量した。結果を
図2に示す。
なお、対照として、前記大豆米糠発酵組成物の代わりに純水を添加した対照、並びに前記大豆米糠発酵組成物の代わりに3μM又は10μMのTGZを添加した陽性対照も同様の試験を行った。
【0058】
図2より、大豆米糠発酵組成物を添加して培養した3T3−L1細胞の培養上清では、高いアディポネクチンの産生量が認められた。この効果は、大豆米糠発酵組成物の128倍希釈においても陽性コントロールであるTGZ 3μM及び10μMと同程度の効果であった。
【0059】
(実施例3:LPS刺激マクロファージ細胞株(Raw264)からのTNF−α産生抑制作用)
Raw264細胞(理化学研究所バイオリソースセンターから入手)を24ウェルのマイクロプレートに5×10
5個/ウェルで播種し、希釈倍率16倍、8倍、4倍、2倍又は1倍の大豆米糠発酵組成物を1/10量の容量で加えて、37℃、5体積% CO
2インキュベーターで2時間培養した。LPS(Lipopolysaccharide;SIGMA社製)を0.01μg/mLの濃度で加え、更に18時間〜22時間培養した。培養後、各ウェルの培養上清を回収し、含まれるTNF−α量をTNF−α測定キット(レビスTNFα−マウス;株式会社シバヤギ製)を用いて定量した。培養終了時にトリパンブルー(和光純薬工業株式会社製)染色により細胞のバイアビリティを確認し、細胞毒性が認められない濃度での評価を行った。結果を
図3に示す。
なお、対照として、前記大豆米糠発酵組成物の代わりに純水を添加した対照(LPS刺激+)、及びLPSを添加しなかった対照(LPS刺激−)も同様に評価した。
【0060】
図3より、Raw264細胞をLPSで刺激することによりTNF−αの産生誘導が認められた。一方、大豆米糠発酵組成物を添加することにより、用量依存的なTNF−α産生抑制が認められた。
【0061】
(実施例4:3T3−L1とRaw264の共培養によるアディポネクチン産生低下に対する低下抑制作用)
前記Raw264細胞を5×10
5個/mLに調整し、希釈倍率128倍、64倍、32倍、又は16倍の大豆米糠発酵組成物を加え、37℃、5体積% CO
2インキュベーターで2時間処理した。実施例1と同様に96ウェルのマイクロプレート培養して分化させた3T3−L1細胞の各ウェルに大豆米糠発酵組成物で処理したRaw264細胞を5×10
4個/ウェルで重層し、48時間培養した。培養後、各ウェルの培養上清を回収し、含まれるアディポネクチン量をアディポネクチン測定キット(マウス・アディポネクチンELISAキット;株式会社サイクレックス製)を用いて定量した。測定値は、3T3−L1単独の培養上清の値を100%とし、それに対する%を縦軸に示した。結果を
図4に示す。
なお、対照として、前記大豆米糠発酵組成物の代わりに純水を添加した対照(Raw264+)、及びRaw264を重層しなかった対照(Raw264−)も同様に評価した
【0062】
図4から、3T3−L1細胞とRaw264細胞との共培養により、培養上清中のアディポネクチン量の低下が認められた。一方、大豆米糠発酵組成物でRaw264細胞を処理することにより、アディポネクチン産生量の低下抑制作用が認められた。
【0063】
(実施例5:α−アミラーゼ阻害作用)
7U/mLのα−アミラーゼ溶液(和光純薬工業株式会社製)50μLに希釈倍率320倍、160倍、80倍、40倍、20倍、又は10倍の大豆米糠発酵組成物20μLを加え5分間処理した後、4質量%デンプン溶液50μLを加えた。7.5分間反応させた後、0.01Nのヨウ素液50μL、及び蒸留水150μLを加え、波長450nmで吸光度を測定した。大豆米糠発酵組成物の代わりに同量の純水を使ったものを対照とし、阻害率は下記式により算出した。結果を
図5に示す。
α−アミラーゼ阻害率(%)={(対照吸光度−検体吸光度)/対照吸光度}×100
【0064】
図5から、大豆米糠発酵組成物は、多糖類から二糖類に変換する酵素であるα−アミラーゼの活性を用量依存的に抑制することが分かった。即ち、食事によって取り込まれた多糖類は、二糖類に変換されることなく、更にグルコースに変換されることなく体外へ排出され、食後の血糖値の上昇が緩和されることが考えられる。
【0065】
(実施例6:α−グルコシダーゼ阻害作用)
0.07U/mLのα−グルコシダーゼ溶液(SIGMA社製)50μLに希釈倍率8倍、4倍、又は2倍の大豆米糠発酵組成物10μLを加え、5分間処理した後、p−nitrophenyl−α−D−glucopyranoside(ナカライテスク株式会社製)の5mM溶液50μLを加えた。5分間反応させた後、波長405nmで吸光度を測定した。大豆米糠発酵組成物の代わりに同量の純水を使ったものを対照とし、阻害率は下記式により算出した。結果を
図6に示す。
α−グルコシダーゼ阻害率(%)={(対照吸光度−検体吸光度)/対照吸光度}×100
【0066】
図6から、大豆米糠発酵組成物は、二糖類から単糖のグルコースに変換する酵素であるα−グルコシダーゼの活性を用量依存的に抑制することが分かった。即ち、食事によって取り込まれた二糖類はグルコースに変換されることなく体外へ排出され、食後の血糖値の上昇が緩和されることが考えられる。
【0067】
(実施例7:デンプン負荷マウスの血中グルコース上昇抑制作用)
予備飼育した7週齢の雄性ICRマウス(日本エスエルシー株式会社から入手)を、20時間絶食させた後、蒸留水に懸濁した大豆米糠発酵組成物100mg/kg又は300mg/kgとデンプンとを胃ゾンデを用いて強制的に経口投与した。対照群には蒸留水を同様に投与した。デンプンは、2g/kgで経口投与し、投与30分間、60分間、120分間後に非麻酔下尾静脈より採血し、直接血糖測定器(エキストラ、アボットジャパン株式会社製)を用いて血中グルコース濃度を測定した。得られた値は、平均値±標準偏差で表記した。対照群と被験物質投与群間における統計学的な差の検定は、Dunnetの多重比較検定法を用いて行った。検定での有意水準は5%未満とし、図中には、**:1%未満、*:5%未満で表示した。結果を
図7に示す。
【0068】
図7から、多糖類であるデンプンを投与することにより、投与30分間後では急激な血中グルコースの上昇が認められた。これは、体内の酵素であるアミラーゼ、及びグルコシダーゼによりデンプンがグルコースに分解され腸管より吸収されたことによると考えられる。一方、デンプンと同時に大豆米糠発酵組成物を投与することにより、投与60分間後では有意な血中グルコース濃度の抑制が認められた。このことから、大豆米糠発酵組成物により、食後の急激な血糖値の上昇が緩和され、グルコースによる血管障害が抑制されると考えられる。
【0069】
(実施例8:DPP−IV阻害作用)
製造例で得られた大豆米糠発酵組成物について、希釈倍率32倍、16倍、8倍、4倍、2倍、又は1倍のDPP−IV阻害活性をDPP−IV阻害活性測定キット(DPP−IV Inhibitor Screening Assay Kit:Cayman Chemical社製)を用いて付属のプロトコルに準じて測定した。対照には、同量の純水を用い、DPP−IV阻害率は、下記式により算出した。結果を
図8に示す。
DPP−IV阻害率(%)={(対照吸光度−検体吸光度)/対照吸光度}×100
【0070】
図8から、大豆米糠発酵組成物は、用量依存的にDPP−IVの酵素活性を抑制することが分かった。これにより、大豆米糠発酵組成物は、インスリン誘導ホルモンの分解を抑制し、インスリン量を増加させることにより血中のグルコース濃度を低下させると考えられる。
【0071】
(実施例9:AGE生成抑制作用)
製造例で得られた大豆米糠発酵組成物について、希釈倍率4倍、2倍、又は1倍のAGE生成阻害率を以下の方法により測定した。
10%グリシン(和光純薬工業株式会社製)450μL、10%グルコース(和光純薬工業株式会社製)450μL及び被験物質100μLを混合して60℃で反応させた。24時間反応させた後、波長450nmで吸光度を測定した。対照には同量の純水を用い、AGE生成阻害率は次の式により算出した。結果を
図9に示す。
AGE生成阻害率(%)={(対照吸光度−検体吸光度)/対照吸光度}×100
【0072】
図9から、大豆米糠発酵組成物は、グリシンとグルコースとの非酵素的糖化反応によって合成されるAGE生成を用量依存的に抑制することが分かった。即ち、大豆米糠発酵組成物は、糖尿病の高血糖状態において多量に生成されるAGEを抑制することにより、血管障害に起因する糖尿病合併症の発症及び進展を抑制すると考えられる。
【0073】
(実施例10:発酵及びプロテアーゼ処理によるα−アミラーゼ阻害活性への影響)
(1)製造例1の工程3で得られた大豆米糠発酵組成物、及び(2)製造例1の工程5で得られた大豆米糠発酵組成物をそれぞれ検体として、α−アミラーゼ阻害活性の測定を行った。これと同時に、比較対照として、製造例1の工程2における、(3)納豆菌を接種する前の大豆米糠液(無処理)、(4)製造例1の工程2で得られた大豆米糠発酵液(発酵のみ)、及び(5)製造例1の工程2で発酵処理を行わず、工程3のプロテアーゼ処理のみを行って得られた組成物(プロテアーゼ処理のみ)をそれぞれ検体として、α−アミラーゼ阻害活性の測定を行った。
7U/mLのα−アミラーゼ溶液(和光純薬工業株式会社製)50μLに各検体20μLを加えて5分間処理した後、4%デンプン溶液50μLを加えた。7.5分間反応させた後、0.01Nのヨウ素液50μL、及び蒸留水150μLを加え、波長450nmで吸光度を測定した。大豆米糠発酵組成物の代わりに同量の純水を使ったものを対照とし、阻害率は下記式により算出した。結果を
図10に示す。
α−アミラーゼ阻害率(%)={(対照吸光度−検体吸光度)/対照吸光度}×100
【0074】
図10から、プロテアーゼ処理のみの検体ではα−アミラーゼ阻害活性は全く認められなかった。一方、大豆及び米糠を発酵することによってα−アミラーゼ阻害活性の上昇が認められ、更にプロテアーゼで処理することによってα−アミラーゼ阻害活性が顕著に上昇することが確認された。発酵のみの検体におけるα−アミラーゼ阻害効果と、プロテアーゼ処理のみの検体におけるα−アミラーゼ阻害効果とを単純に足し合わせても、大豆米糠発酵組成物のα−アミラーゼ阻害率には達しないことから、大豆米糠発酵組成物において相加効果以上の効果が認められた。
【0075】
実施例1〜10の結果から、本発明に用いられる大豆米糠発酵組成物が血糖値上昇抑制に対する多面的な作用を示すことが分かった。これにより、前記大豆米糠発酵組成物を含む本発明の抗糖尿病組成物が糖尿病の治療、改善、又は予防に効果的に働くことが示された。