特許第5940933号(P5940933)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940933
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/02 20060101AFI20160616BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20160616BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20160616BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20160616BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20160616BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20160616BHJP
   D06M 13/328 20060101ALI20160616BHJP
   D06M 101/06 20060101ALN20160616BHJP
【FI】
   C08L1/02
   C08L23/00
   C08L27/06
   C08L77/00
   C08L69/00
   C08J3/20CEP
   D06M13/328
   D06M101:06
【請求項の数】7
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-175886(P2012-175886)
(22)【出願日】2012年8月8日
(65)【公開番号】特開2014-34616(P2014-34616A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(72)【発明者】
【氏名】向井 健太
(72)【発明者】
【氏名】木村 彰克
(72)【発明者】
【氏名】椎葉 諒太
(72)【発明者】
【氏名】熊本 吉晃
【審査官】 佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−140738(JP,A)
【文献】 特開2013−151636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−1/32
C08L 23/00−23/36
C08L 27/00−27/24
C08L 69/00
C08L 77/00−77/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細セルロース繊維に炭化水素基がアミド結合を介して結合してなる微細セルロース繊維複合体と、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリカーボネート系樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂とを含有する樹脂組成物。
【請求項2】
前記炭化水素基は、炭素数1の炭化水素基、又は炭素数2以上、30以下の飽和若しくは不飽和の、直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記炭化水素基の平均結合量は、0.1mmol/g以上、3mmol/g以下である請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記微細セルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量は、0mmol/g以上、2.9mmol/g以下である請求項1〜3の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群から選択される1種以上である請求項1〜4の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜の何れか一項に記載の樹脂組成物の製造方法であって、前記微細セルロース繊維複合体と前記樹脂とを混合して均一混合物を得、該均一混合物を任意の形状に成形する工程を有する、樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記微細セルロース繊維複合体は、下記工程1及び2を経て製造されたものである請求項に記載の樹脂組成物の製造方法
工程1:天然セルロース繊維をN―オキシル化合物の存在下で酸化してカルボキシ基含有セルロース繊維を得る工程。
工程2:工程1を経て得られたカルボキシ基含有セルロース繊維に、炭化水素基を有する第1級又は第2級アミンを反応させて、該セルロース繊維のカルボキシ基のアミド化反応を行う工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズの繊維径をもった微細セルロース繊維を含有し、高い機械的強度を有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂の機械的強度等を向上させる目的で、樹脂に、ナノサイズの繊維径をもった微細セルロース繊維を配合することが広く行われている。しかし、微細セルロース繊維は親水性繊維であるため、疎水性の樹脂に配合されると該樹脂中で凝集し、均一に分散されないため、目的の機械的強度の向上を達成できないという課題がある。そこで、微細セルロース繊維を表面修飾等により改質して疎水化し、疎水性の樹脂中で均一分散可能にすることが行われている。
【0003】
例えば特許文献1には、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂中に微細セルロース繊維が均一分散され、該熱可塑性樹脂の機械的強度が向上されたセルロース繊維含有樹脂材料の製造方法として、平均繊維径2〜200nmの表面処理されたセルロース繊維と有機溶媒と第一の熱可塑性樹脂とを混合後、第一の熱可塑性樹脂より分子量が大きい第二の熱可塑性樹脂を更に混合する方法が記載されている。また特許文献1には、この表面処理されたセルロース繊維の例として、セルロース繊維の水酸基を酸、アルコール類、酸無水物等の修飾剤により化学修飾したもの、あるいは2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(以下、TEMPOとも表記する)等のN−オキシル化合物の存在下、セルロース繊維を酸化剤で酸化処理したもの等が挙げられている。後者のTEMPO触媒を用いたセルロース繊維の酸化処理では、セルロースの構成モノマー単位であるグルコピラノース環中のC6位の一級水酸基のみが選択的に酸化され、アルデヒドを経由してカルボキシ基まで酸化される。
【0004】
また特許文献2には、樹脂との密着性が改善された微細セルロース繊維として、分子中にエステル化されたウロン酸残基を有し、かつセルロースI型結晶構造を有する微細セルロースエステル繊維が記載されている。特許文献2によれば、この微細セルロースエステル繊維は、TEMPO触媒を用いたセルロース繊維の酸化処理を経て得られた、カルボキシ基を含有する親水性の微細セルロース繊維の分散体に、有機オニウム化合物を含む溶液を添加することにより、該微細セルロース繊維表面のカルボン酸アルカリ金属と該有機オニウム化合物の有機オニウムイオンとのイオン交換を行って、該微細セルロース繊維を疎水化(親油化)し、更に、この疎水化された微細セルロース繊維にアルキル化剤を反応させてエステル化を行うことにより得られるとされている。
【0005】
また特許文献3には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の疎水性の樹脂と疎水化された微細セルロース繊維とを含む、機械的強度に優れた樹脂組成物が記載されている。この疎水化された微細セルロース繊維は、TEMPO触媒を用いたセルロース繊維の酸化処理を経て得られた、カルボキシ基を含有する親水性の微細セルロース繊維の分散体に、有機カチオン性物質を添加・攪拌することにより得られるもので、該微細セルロース繊維表面のカルボン酸基の水素イオンは、疎水性の有機カチオンにイオン交換されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−265357号公報
【特許文献2】特開2010−59571号公報
【特許文献3】特開2011−47084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
樹脂の機械的強度の向上等を目的として、特許文献1又は3の記載に従って、親水性から疎水性に改質された微細セルロース繊維を樹脂に配合して樹脂組成物を製造した場合、該樹脂が、意図せずに該樹脂本来の色とは異なった色に着色されてしまい、得られた樹脂組成物が意図しない色を呈するという問題があった。このような、含有されている樹脂本来の色とは異なった色の樹脂組成物は、用途が限定されてしまい汎用性に劣る。特許文献1〜3には、斯かる樹脂の着色の問題について言及がなく、斯かる問題を解決し得る手段は未だ提供されていない。
【0008】
従って本発明の課題は、微細セルロース繊維と樹脂とを含有し、実用上十分な機械的強度を有し、該樹脂の着色が少ない樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、TEMPO触媒を用いたセルロース繊維の酸化処理を経て得られた、カルボキシ基を含有する親水性の微細セルロース繊維の特性(高結晶性、高アスペクト比を有する等)に着目し、斯かる特性を活かして樹脂の機械的強度を効果的に向上し得る方法について種々検討した結果、該微細セルロース繊維の表面を選択的に疎水化することにより、該微細セルロース繊維の結晶性の低下やそれに起因する機械的強度向上効果の低下が避けられるとの知見を得、更に検討した結果、該微細セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシ基を選択的にアミド化することにより、該微細セルロース繊維に固有の結晶構造を維持しつつその繊維表面を選択的に疎水化し、樹脂との相溶性を向上させることができることを知見した。また、斯かるアミド化反応により得られた微細セルロース繊維複合体と特定の樹脂との併用により、該樹脂の着色を効果的に抑制しつつその機械的強度を効果的に向上し得ることも知見した。
【0010】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、微細セルロース繊維に炭化水素基がアミド結合を介して結合してなる微細セルロース繊維複合体と、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリカーボネート系樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂とを含有する樹脂組成物を提供することにより、前記課題を解決したものである。
【0011】
また本発明は、前記樹脂組成物の製造方法であって、前記微細セルロース繊維複合体と前記樹脂とを混合して均一混合物を得、該均一混合物を任意の形状に成形する工程を有する、樹脂組成物の製造方法を提供することにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、微細セルロース繊維と樹脂とを含有し、実用上十分な機械的強度を有し、該樹脂の着色が少ない樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の樹脂組成物は、微細セルロース繊維複合体と特定の樹脂とを必須成分と含有している。以下に各成分について詳細に説明する。
【0014】
本発明で用いる微細セルロース繊維複合体は、原料であるところの微細セルロース繊維に炭化水素基がアミド結合を介して結合してなるものである。このアミド結合は、微細セルロース繊維複合体を構成するセルロースの構成モノマー単位であるグルコピラノース環のC6位に位置していることが好ましい。本発明で用いる微細セルロース繊維複合体は、後述するように、カルボキシ基を含有する微細セルロース繊維の該カルボキシ基を選択的にアミド化することによって得られるものであるところ、該微細セルロース繊維複合体においてアミド結合がグルコピラノース環中のC6位に位置していることは、そのアミド化反応の出発原料である該微細セルロース繊維が、該微細セルロース繊維を構成するセルロースのグルコピラノース環中のC6位にカルボキシ基(アミド化されるカルボキシ基)を有しているものであることを意味する。尚、以下では、特に言及しない限り、「微細セルロース繊維」は、微細セルロース繊維複合体の出発原料であるアミド結合を有しない(カルボキシ基がアミド化されていない)微細セルロース繊維を意味し、「微細セルロース繊維複合体」は、カルボキシ基がアミド化された微細セルロース繊維を意味する。
【0015】
本発明で用いる微細セルロース繊維複合体の平均繊維径は、樹脂組成物の機械的強度の向上効果をより確実に奏させるようにする観点から、好ましくは1nm以上、そして、好ましくは200nm以下、更に好ましくは100nm以下、特に好ましくは50nm以下、より具体的には、好ましくは1〜200nm、更に好ましくは1〜100nm、特に好ましくは1〜50nmである。平均繊維径は下記測定方法により測定される。原料にあたる「微細セルロース繊維」及びこれをアミド化した「微細セルロース繊維複合体」それぞれの平均繊維径は、下記測定方法に準じて測定できる。
【0016】
<微細セルロース繊維又は微細セルロース繊維複合体の平均繊維径の測定方法>
固形分濃度0.0001質量%のセルロース繊維に水又はエタノールを加えた分散液を調製し、該分散液を、マイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM、Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製、プローブはナノセンサーズ社製Point Probe (NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維の繊維高さを測定する。そして、セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、微細セルロース繊維を5本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出する。一般に高等植物から調製されるセルロースナノファイバーの最小単位は6本×6本の分子鎖がほぼ正方形の形でパッキングされていることから、AFMによる画像で分析できる高さを繊維の幅と見なすことができる。
【0017】
また、本発明で用いる微細セルロース繊維のカルボキシ基含有量は、好ましくは0.1mmol/g以上、更に好ましくは0.4mmol/g以上、特に好ましくは0.6mmol/g以上、そして、好ましくは3mmol/g以下、更に好ましくは2mmol/g以下、特に好ましくは1.8mmol/g以下、より具体的には、好ましくは0.1〜3mmol/g、更に好ましくは0.4〜2mmol/g、特に好ましくは0.6〜1.8mmol/gである。尚、本発明の樹脂組成物には、カルボキシ基含有量が斯かる範囲外であるセルロース繊維が、意図せずに不純物として含まれることもあり得る。
【0018】
微細セルロース繊維がカルボキシ基を0.1mmol/g以上、3mmol/g以下含有していることは、好ましくは平均繊維径200nm以下の微小な平均繊維径をもつ微細セルロース繊維を安定的に得る上で重要な要素である。即ち、天然セルロースの生合成の過程においては、通常、ミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーがまず形成され、これらが多束化して高次な固体構造を構築しているところ、本発明で用いる微細セルロース繊維複合体の原料である微細セルロース繊維は、後述するように、これを原理的に利用して得られるものであり、天然由来のセルロース固体原料においてミクロフィブリル間の強い凝集力の原動となっている表面間の水素結合を弱めるために、その一部を酸化し、カルボキシ基に変換することによって得られる。従って、セルロースに存在するカルボキシ基の量の総和(カルボキシ基含有量)が多いほうが、より微小な繊維径として安定に存在することができ、また水中においては、電気的な反発力が生じることにより、ミクロフィブリルが凝集を維持せずにばらばらになろうとする傾向が高まり、ナノファイバーの分散安定性がより増大する。前記カルボキシ基含有量が0.1mmol/g未満では、微小な平均繊維径をもつ微細セルロース繊維(微細セルロース繊維複合体)として得られ難くなり、また、水等の極性溶媒中における分散安定性が低下するおそれがある。微細セルロース繊維のカルボキシ基含有量は下記測定方法により測定される。下記測定方法における「セルロース繊維」は原料にあたる「微細セルロース繊維」に読み替えることができる。
【0019】
<微細セルロース繊維のカルボキシ基含有量の測定方法>
乾燥質量0.5gのセルロース繊維を100mlビーカーにとり、イオン交換水を加えて全体で55mlとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加えて分散液を調製し、セルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5〜3に調整し、自動滴定装置(AUT−50、東亜ディーケーケー(株)製)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、セルロース繊維のカルボキシ基含有量を算出する。
微細セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/セルロース繊維の質量(0.5g)
【0020】
本発明で用いる微細セルロース繊維は、平均アスペクト比(繊維長/繊維径)が、好ましくは10以上、更に好ましくは50以上、特に好ましくは100以上、そして、好ましくは1000以下、更に好ましくは500以下、特に好ましくは350以下、より具体的には、好ましくは10〜1000、更に好ましくは50〜500、特に好ましくは100〜350である。平均アスペクト比が斯かる範囲にある繊維は、樹脂と混合した際の分散性に優れ、機械的強度が高く、特に脆性破壊し難いという特長を有する。平均アスペクト比は下記測定方法により測定される。下記測定方法で測定されるセルロース繊維の平均アスペクト比は、原料にあたる「微細セルロース繊維」のものであるが、アミド化した「微細セルロース繊維複合体」とも実質的に同じである。
【0021】
<平均アスペクト比の測定方法>
平均アスペクト比は、セルロース繊維に水を加えて調製した分散液(セルロース繊維の質量濃度0.005〜0.04質量%)の粘度から算出する。分散液の粘度は、レオメーター(MCR、DG42(二重円筒)、PHYSICA社製)を用いて20℃で測定する。分散液のセルロース繊維の質量濃度と分散液の水に対する比粘度との関係から、下記式(1)によりセルロース繊維のアスペクト比を逆算し、これを平均アスペクト比とする。下記式(1)は、The Theory of Polymer Dynamics,M.DOI and D.F.EDWARDS,CLARENDON PRESS・OXFORD,1986,P312に記載の剛直棒状分子の粘度式(8.138)と、Lb2×ρ=M/NAの関係〔式中、Lは繊維長、bは繊維幅(セルロース繊維断面は正方形とする)、ρはセルロース繊維の濃度(kg/m3)、Mは分子量、NAはアボガドロ数を表す〕から導出される。尚、粘度式(8.138)において、剛直棒状分子=セルロース繊維とした。また、下記式(1)中、ηSPは比粘度、πは円周率、lnは自然対数、Pはアスペクト比(L/b)、γ=0.8、ρSは分散媒の密度(kg/m3)、ρ0はセルロース結晶の密度(kg/m3)、Cはセルロースの質量濃度(C=ρ/ρS)を表す。
【0022】
【数1】
【0023】
本発明で用いる微細セルロース繊維複合体において、アミド結合を介して結合する炭化水素基としては、例えば、炭素数1の炭化水素基、又は炭素数2〜30の飽和若しくは不飽和の、直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基が挙げられる。これらの炭化水素基は、後述するように、微細セルロース繊維複合体の製造時に原料として用いられる第1級又は第2級アミン由来のものである。具体例として以下の炭化水素基が挙げられる。
・炭素数1の炭化水素基:メチル基。
・炭素数2〜30の飽和の、直鎖状の炭化水素基:エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基。
・炭素数2〜30の不飽和の、直鎖状の炭化水素基:オレイル基、ミリストレイル基、パルミトレイル基、リノレイル基、リノレニル基、エイコサニル基。
・炭素数2〜30の飽和の、分岐状の炭化水素基:イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、イソへキシル基、2−ヘキシル基、ジメチルブチル基、エチルブチル基。
【0024】
また前記炭化水素基の他にも、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基、ベンジル基、フェニル基などの芳香族炭化水素基も、本発明で用いる微細セルロース繊維複合体においてアミド結合を介して結合する炭化水素基として、好適に用いられる。
【0025】
微細セルロース繊維複合体中の炭化水素基の平均結合量(微細セルロース繊維複合体の単位質量当たりの平均結合量)は、好ましくは0.1mmol/g以上、更に好ましくは0.5mmol/g以上、そして、好ましくは3mmol/g以下、更に好ましくは2mmol/g以下、特に好ましくは1mmol/g以下、より具体的には、好ましくは0.1〜3mmol/g、更に好ましくは0.1〜2mmol/g、特に好ましくは0.5〜1mmol/gである。炭化水素基の平均結合量は、次式により算出される。次式において、「炭化水素基導入前の微細セルロース繊維のカルボキシ基含有量」は、前記<微細セルロース繊維のカルボキシ基含有量の測定方法>により測定され、「炭化水素基導入後の微細セルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量」は、後述する<微細セルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量の測定方法>により測定される。
炭化水素基の結合量(mmol/g)=炭化水素基導入前の微細セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)−炭化水素基導入後の微細セルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量(mmol/g)
【0026】
また、微細セルロース繊維複合体中の炭化水素基の平均結合量から、次式により、原料である微細セルロース繊維への炭化水素基の導入率を算出することができる。
炭化水素基の導入率(%)={微細セルロース繊維複合体中の炭化水素基の平均結合量(mmol/g)/炭化水素基導入前の微細セルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)}×100
【0027】
また前述したように、微細セルロース繊維複合体は、カルボキシ基を有する微細セルロース繊維の該カルボキシ基をアミド化することで得られるところ、微細セルロース繊維複合体中のカルボキシ基の全てがアミド化されていても良く、あるいはカルボキシ基がアミド化されずに残存していても構わない。本発明で用いる微細セルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量は、好ましくは0mmol/g以上、更に好ましくは0.2mmol/g以上、そして、好ましくは2.9mmol/g以下、更に好ましくは1mmol/g以下、特に好ましくは0.8mmol/g以下、より具体的には、好ましくは0〜2.9mmol/g、更に好ましくは0〜1mmol/g、特に好ましくは0.2〜0.8mmol/g以下である。微細セルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量は、次のようにして測定される。
【0028】
<微細セルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量の測定方法>
乾燥質量0.5gの微細セルロース繊維複合体を100mLビーカーにとり、イオン交換水もしくはメタノール/水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製し、微細セルロース繊維複合体が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5〜3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、商品名「AUT−50」)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、微細セルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量を算出する。
微細セルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/微細セルロース繊維複合体の質量(0.5g)
【0029】
本発明で用いる微細セルロース繊維複合体は、例えば、下記工程1及び2を有する製造方法によって製造することができる。
工程1:天然セルロース繊維をN―オキシル化合物の存在下で酸化してカルボキシ基含有セルロース繊維を得る工程。
工程2:工程1を経て得られたカルボキシ基含有セルロース繊維に、炭化水素基を有する第1級又は第2級アミンを反応させて、該セルロース繊維のカルボキシ基のアミド化反応を行う工程。
【0030】
前記工程1では、先ず、水中に天然セルロース繊維を分散させたスラリーを調製する。スラリーは、原料となる天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して約10〜1000倍量(質量基準)の水を加え、ミキサー等で処理することにより得られる。天然セルロース繊維としては、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。天然セルロース繊維は、叩解等の表面積を高める処理が施されていても良い。
【0031】
次に、水中においてN−オキシル化合物を酸化触媒として天然セルロース繊維を酸化処理してカルボキシ基含有セルロース繊維を得る。セルロースの酸化触媒として使用可能なN−オキシル化合物としては、例えば、TEMPO、4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、4−フォスフォノオキシ−TEMPO等を用いることができる。これらN−オキシル化合物の添加は触媒量で十分であり、通常、原料として用いた天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して0.1〜10質量%となる範囲である。
【0032】
前記工程1では、酸化剤(例えば、次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩、過ハロゲン酸又はその塩、過酸化水素、過有機酸等)と、共酸化剤(例えば、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属)とを併用する。酸化剤としては、特に、次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩が好ましい。酸化剤の使用量は、通常、原料として用いた天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して約1〜100質量%となる範囲である。また、共酸化剤の使用量は、通常、原料として用いた天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して約1〜30質量%となる範囲である。
【0033】
また、前記工程1では、酸化反応を効率良く進行させる観点から、反応液(前記スラリー)のpHは9〜12の範囲で維持されることが望ましい。また、酸化処理の温度(前記スラリーの温度)は、1〜50℃において任意であるが、室温で反応可能であり、特に温度制御は必要としない。また、反応時間は1〜240分間が望ましい。
【0034】
前記工程1では、このように天然セルロース繊維をN―オキシル化合物(TEMPO触媒)の存在下で酸化処理することにより、該天然セルロース繊維を構成するセルロースの構成モノマー単位であるグルコピラノース環中のC6位の一級水酸基のみが選択的に酸化され、アルデヒドを経由してカルボキシ基まで酸化され、目的のカルボキシ基含有セルロース繊維が得られる。
【0035】
必要に応じ、前記工程1の終了後で前記工程2(アミド化反応)の実施前に、精製工程を実施し、未反応の酸化剤や各種副生成物等の、前記スラリー中に含まれるカルボキシ基含有セルロース繊維及び水以外の不純物を除去する。カルボキシ基含有セルロース繊維は通常、この段階ではナノファイバー単位までばらばらに分散していないため、精製工程では、例えば水洗とろ過を繰り返す精製法を行うことができ、その際に用いる精製装置は特に制限されない。こうして得られる精製処理されたカルボキシ基含有セルロース繊維は、通常、適量の水を含浸させた状態で次工程に送られるが、必要に応じ、乾燥処理した繊維状や粉末状としても良い。
【0036】
通常、前記工程1の終了後で前記工程2(アミド化反応)の実施前(前記精製工程を実施する場合はその実施後)に、カルボキシ基含有セルロース繊維を水等の溶媒中に分散させて微細化処理を施す(微細化工程)。この微細化工程の実施により、平均繊維径及び平均アスペクト比がそれぞれ前記範囲にある微細セルロース繊維が得られる。
【0037】
前記微細化工程において、分散媒としての溶媒は通常は水が好ましいが、水以外にも目的に応じて水に可溶な有機溶媒(アルコール類、エーテル類、ケトン類等)を使用しても良く、これらの混合物も好適に使用できる。また、微細化処理で使用する分散機としては、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。また、微細化処理におけるカルボキシ基含有セルロース繊維の固形分濃度は50質量%以下が好ましい。該固形分濃度が50質量%を超えると、分散に極めて高いエネルギーを必要とするため好ましくない。
【0038】
前記微細化工程後に得られる微細セルロース繊維の形態としては、必要に応じ、固形分濃度を調整した懸濁液状(目視的に無色透明又は不透明な液)、あるいは乾燥処理した粉末状(但し、セルロース繊維が凝集した粉末状であり、セルロース粒子を意味するものではない)とすることもできる。尚、懸濁液状にする場合、分散媒として水のみを使用しても良く、水と他の有機溶媒(例えば、エタノール等のアルコール類)や界面活性剤、酸、塩基等との混合溶媒を使用しても良い。
【0039】
このような天然セルロース繊維の酸化処理(前記工程1)及び微細化処理(前記微細化工程)により、セルロースの構成モノマー単位であるグルコピラノース環中のC6位の水酸基がカルボキシ基に選択的に酸化され、平均繊維径が好ましくは200nm以下、カルボキシ基含有量が好ましくは0.1mmol/g以上3mmol/g以下の、高結晶性の微細セルロース繊維が得られる。この高結晶性の微細セルロース繊維は、天然セルロースと同じI型結晶構造を有している。これは、本発明で用いる微細セルロース繊維複合体が、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース固体原料が表面酸化され微細化された繊維であることを意味する。即ち、天然セルロース繊維は、その生合成の過程において生産されるミクロフィブリルと呼ばれる微細な繊維が多束化して高次な固体構造を構築しており、そのミクロフィブリル間の強い凝集力(表面間の水素結合)を、前記酸化処理によるアルデヒド基あるいはカルボキシ基の導入によって弱め、更に前記微細化処理を経ることで、微細セルロース繊維が得られる。そして、前記酸化処理の条件を調整することにより、前記カルボキシ基含有量を所定範囲内にて増減させ、極性を変化させたり、該カルボキシ基の静電反発や前記微細化処理により、微細セルロース繊維(微細セルロース繊維複合体)の平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比等を制御することができる。
【0040】
前記工程2では、前記工程1を経て得られた微細セルロース繊維(カルボキシ基含有セルロース繊維)に、炭化水素基を有する第1級又は第2級アミンを反応させて、微細セルロース繊維のカルボキシ基のアミド化反応を行う。斯かるアミド化反応〔アミンとカルボン酸(微細セルロール繊維)との脱水縮合反応〕により、微細セルロース繊維を構成するセルロースのグルコピラノース環中のC6位に位置するカルボキシ基が、アミド(カルボン酸アミド)に置換される。
【0041】
前記工程2で出発原料として用いる微細セルロース繊維(カルボキシ基含有セルロース繊維)は、ナトリウム塩型のカルボキシ基(COONa)を有するナトリウム塩型であっても良く、酸型のカルボキシ基(COOH)を有する酸型であっても良いが、カルボキシ基のアミド(カルボン酸アミド)への置換率を高める観点から、酸型の微細セルロース繊維が好ましい。ナトリウム塩型の微細セルロース繊維を酸型の微細セルロース繊維に変換する方法としては、例えば、ナトリウム塩型の微細セルロース繊維を水等の溶媒に分散させて調製した分散液に、塩酸等の酸を適量添加・攪拌(例えば酸添加後の分散液のpHが2.0となるように調整して該分散液を12時間攪拌)した後、該微細セルロース繊維を適当な溶媒(例えばアセトンと水との1:1混合液)で洗浄・ろ過し、ろ過後の該微細セルロース繊維にアセトンを添加して一定時間(例えば1時間程度)放置した後、これをろ過して、目的の酸型の微細セルロース繊維を得る方法が挙げられる。
【0042】
前記工程2では、出発原料である微細セルロース繊維(カルボキシ基含有セルロース繊維)を有機溶媒中に分散させ、その分散液に、第1級又は第2級アミンを所定量添加し、所定時間攪拌する。微細セルロース繊維を分散させる有機溶媒は、特に限定されず、微細セルロース繊維の分散性に優れ、アミド化反応を阻害しないものであれば良く、例えば、エタノール、イソプロパノール、t−ブチルアルコール等のアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるし、水との混合溶媒を用いることもできる。有機溶媒の使用量は、分散液中における微細セルロース繊維の濃度が0.1〜50質量%となるように調整することが好ましい。
【0043】
前記工程2で用いる第1級又は第2級アミンは、製造目的物である微細セルロース繊維複合体において、アミド結合を介して結合する炭化水素基を構成するものである。第1級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン等が挙げられる。第2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジオクタデシルアミン等が挙げられる。
【0044】
前記工程2では、アミド反応を効率良く進行させる観点から、反応系に縮合剤を添加しても良い。縮合剤の添加は、微細セルロース繊維の分散液中にアミンを添加した後が好ましい。縮合剤としては、カルボジイミド系縮合剤、トリアジン系縮合剤、ホスホニウム型縮合剤、ベンゾトリアゾール型縮合剤、イミダゾール系縮合剤、極性基含有ハロゲン化カルボン酸等が使用でき、具体的には、例えば、DMT−MM(4−(4,4−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルフォリニウムクロライド)、EDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロライド)、BOP(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェイト)、PYBOP(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェイト)、HBTU(o−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N',N'−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェイト)、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。
【0045】
前記工程2において、反応系の温度(アミド化反応の反応温度)は、好ましくは20〜80℃であり、反応時間は好ましくは1〜24時間である。前記工程2の終了後、常法に従って反応系を洗浄・ろ過して、未反応物や各種副生成物等の不純物を除去する。こうして、微細セルロース繊維に炭化水素基がアミド結合を介して結合してなる微細セルロース繊維複合体が得られる。微細セルロース繊維複合体は、洗浄時に使用した溶媒(例えばアセトン)を含浸させた膨潤ゲルであっても良く、あるいは乾燥した繊維状や粉末状等であっても良い。
【0046】
また、本発明の樹脂組成物において、微細セルロース繊維複合体と併用される樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリカーボネート系樹脂からなる群から選択される。これらの樹脂は何れも熱可塑性樹脂であり、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンが挙げられ、より具体的には、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン、変性ポリエチレン樹脂、変性ポリプロピレン樹脂等が挙げられる。
【0048】
本発明で用いられるポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えば、軟質ポリ塩化ビニル、硬質ポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0049】
本発明で用いられるポリアミド系樹脂としては、例えば、6ナイロン、66ナイロン等が挙げられる。
【0050】
本発明で用いられるポリカーボネート系樹脂としては、例えば、ビスフェノールAを原料とする一般ポリカーボネート、シロキサン等を原料とする特殊ポリカーボネート等が挙げられる。
【0051】
尚、微細セルロース繊維複合体と併用される樹脂としては、上記の熱可塑性樹脂の他に、例えば、ポリメチルメタクリレートなどのポリアクリル系樹脂、ポリスチレン等のビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリイミド系樹脂などを用いても、本発明と同様の効果であるところの、実用上十分な機械的強度を有し、該樹脂の着色が少ない樹脂組成物を提供することができる。
【0052】
樹脂の選択は、これに微細セルロース繊維複合体を配合して得られる本発明の樹脂組成物の具体的な用途等に応じて適宜選択される。また、微細セルロース繊維複合体は、通常、これを構成するセルロースのグルコピラノース環(好ましくは該グルコピラノース環のC6位)に導入されたアミド(カルボン酸アミド)の種類によって各種特性が異なるので、樹脂の着色を極力抑制しつつその機械的強度を効果的に向上し得るように、使用する樹脂に適した微細セルロース繊維複合体を選択することが望ましい。
【0053】
例えば、樹脂として高密度ポリエチレンを使用する場合、併用する微細セルロース繊維複合体としては、オクタデシルアミド基(C数18)を有するものが好ましい。
【0054】
本発明の樹脂組成物における微細セルロース繊維複合体の含有量は、樹脂の機械的強度の向上と樹脂の着色防止とのバランスの観点から、使用する樹脂の種類に応じて適宜設定することができる。一般に、機械的強度の向上の観点からは、微細セルロース繊維複合体の含有量が多いことが好ましいが、微細セルロース繊維複合体の含有量が多すぎると、微細セルロース繊維と共に含有される樹脂が着色され、樹脂組成物が意図しない色を呈するようになってしまうおそれがある。斯かる樹脂の着色の原因は定かではないが、樹脂組成物を製造する際の樹脂と微細セルロース繊維複合体との溶融混練時に、微細セルロース繊維複合体が熱分解を起こすことに起因するものと推察される。このような観点から、本発明の樹脂組成物における微細セルロース繊維複合体の含有量は、樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より具体的には、好ましくは0.01〜50質量%、更に好ましくは0.1〜10質量%である。特に、樹脂としてポリオレフィンを使用する場合、微細セルロース繊維複合体の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、そして、好ましくは5質量%以下、より具体的には、好ましくは0.01〜5質量%、更に好ましくは0.1〜5質量%である。
【0055】
尤も、本発明で用いる微細セルロース繊維複合体(アミド化された微細セルロース繊維)は、特許文献1〜3に記載の如き従来のこの種の改質セルロース繊維に比して熱安定性が高く、樹脂との溶融混練時に熱分解を起こし難いものであるので、樹脂中での分散性に優れ比較的少ない含有量で樹脂の機械的強度を効果的に向上できる点と相俟って、樹脂の着色の問題を生じ難い。
【0056】
一方、本発明の樹脂組成物における樹脂の含有量は、樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは50質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、そして、好ましくは99.99質量%以下、更に好ましくは99.90質量%以下、より具体的には、好ましくは50〜99.99質量%、更に好ましくは90〜99.90質量%である。
【0057】
本発明の樹脂組成物は、必要に応じ、微細セルロース繊維複合体及び樹脂以外の他の成分、例えば、微細セルロース繊維複合体と樹脂との相溶性を高めて両成分の密着性を高め得る、接着剤を含んでいても良い。斯かる接着剤としては、例えば、無水マレイン酸でグラフト変性したポリプロピレン(MA−g−PP)、無水マレイン酸でグラフト変性したポリエチレン(MA−g−PE)、エポキシ変性したポリエチレン等の接着性樹脂を用いることができる。接着剤の含有量は、樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは1〜10質量%である。また、本発明の樹脂組成物は、接着剤以外の他の成分として、架橋剤や粘土鉱物、界面活性剤などの分散剤、着色剤、帯電防止剤等を含んでいても良い。
【0058】
本発明の樹脂組成物は、例えば、微細セルロース繊維複合体と樹脂とを混合して均一混合物を得、該均一混合物を任意の形状に成形する工程を有する製造方法によって製造することができる。
【0059】
本発明の樹脂組成物の原料として用いる微細セルロース繊維複合体の形態としては、微細セルロース繊維複合体と共に併用される樹脂や混錬に用いる装置等を考慮し、粉末状(但し、セルロース繊維が凝集した粉末状であり、セルロース粒子を意味するものではない)、懸濁液状(目視的に無色透明又は不透明な液)などから任意に選択できる。特に、粉末状の微細セルロース繊維複合体を原料として用いると、樹脂組成物中で微細セルロース繊維複合体が均一分散され易く、比較的少ない含有量(含有量10質量%以下)の微細セルロース繊維複合体の使用で、実用上十分な機械的強度が得られる。
【0060】
粉末状の微細セルロース繊維複合体としては、例えば、微細セルロース繊維複合体の水分散液をそのまま乾燥させた乾燥物;該乾燥物を機械処理で粉末化したもの;微細セルロース繊維複合体の水分散液をアルコール等の非水系溶媒と混合させて該繊維複合体を凝集させ、その凝集物を乾燥させたもの;該凝集物の未乾燥物;微細セルロース繊維複合体の水分散液を公知のスプレードライ法により粉末化したもの;微細セルロース繊維複合体の水分散液を公知のフリーズドライ法により粉末化したもの等が挙げられる。前記スプレードライ法は、前記微細セルロース繊維複合体の水分散液を気中で噴霧し乾燥させる方法である。
【0061】
また、懸濁液状の微細セルロース繊維複合体としては、微細セルロース繊維複合体の水分散液をそのまま使用することもできるし、あるいは粉末状の微細セルロース繊維複合体を任意の媒体に分散させたものを使用することもできる。斯かる媒体は、混合される樹脂や後述する混合、成形の方法によって適宜選択され、例えば、水、アルコール等を用いることができる。
【0062】
微細セルロース繊維複合体と共に併用される樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、例えば、加熱されて溶融状態の樹脂に微細セルロース繊維複合体を添加し、該樹脂が溶融状態を維持しているうちにこれらを混錬し、こうして得られた均一混合物を成形する方法(以下、溶融混錬法ともいう)により、本発明の樹脂組成物を製造することができる。その場合、混練装置としては、例えば単軸軸混練押出機、二軸混練押出機、加圧ニーダー等の公知の装置が使用できる。例えば、粉末状の微細セルロース繊維複合体を溶融状態の熱可塑性樹脂中に添加した後、二軸混錬機を用いてこれらを混練して樹脂ペレットを得、該樹脂ペレットを加熱圧縮することにより、シート状の樹脂組成物が得られる。あるいは、公知のプラスチック成形法、具体的には射出成形、注形成形、押出成形、ブロー成形、延伸成形、発泡成形等を利用して、ブロック状その他の立体形状を有する樹脂組成物を得ることができる。
【0063】
微細セルロース繊維複合体と樹脂との均一混合物は、水等の溶媒中に微細セルロース繊維複合体を分散させてスラリーを得、該スラリーに、樹脂又は樹脂を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液を添加する方法によっても得られる。この均一混合物(スラリー)における溶媒としては、通常は水が好ましいが、水以外にも目的に応じて水に可溶な有機溶媒(アルコール類、エーテル類、ケトン類等)を使用しても良く、これらの溶媒の混合物も好適に使用できる。また、均一混合物の固形分濃度は、分散を容易にする観点から、30質量%以下が好ましい。また、スラリーの調製に使用する分散機としては、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。
【0064】
また、溶融混錬法以外の樹脂組成物の製造方法として、キャスト法が挙げられる。キャスト法は、溶媒中に微細セルロース繊維複合体及び樹脂を分散又は溶解させた混合流動物を、基材上に流延塗布し、溶媒を除去して膜を得、該膜に熱プレスをかけて、薄膜状の樹脂組成物を得る方法である。キャスト法において、基材上に流延塗布された混合流動物から溶媒を除去する方法としては、例えば、基材として液透過性基材(例えば、厚み方向に貫通する液透過孔を多数有する多孔性基材)を用いる方法が挙げられる。この方法では、混合流動物を液透過性基材上に塗布することにより、該混合流動物中の溶媒は多孔性基材を透過して除去され、固形分(微細セルロース繊維複合体及び樹脂)は多孔性基材上にこし取られる。また、別の溶媒除去法として、混合流動物を基材上に流延塗布した後、該混合流動物を自然乾燥又は熱風乾燥等の乾燥法により乾燥する方法が挙げられる。また、キャスト法において、溶媒除去後に得られた膜に対して実施する熱プレスは、例えば、金属板を用いた押圧式、ロータリー式等公知の装置を用いて行うことができる。
【0065】
また、本発明の樹脂組成物は、含浸法により製造することもできる。即ち、本発明の樹脂組成物は、微細セルロース繊維複合体を主体とする繊維集合体に樹脂を含む液を含浸して得られたものであっても良い。この繊維集合体は、樹脂組成物に用いられる樹脂を実質的に含有していない、シート状又は所望の立体形状の繊維集合体であり、例えば公知の湿式抄紙法あるいはパルプモールド成形法により製造することができる。含浸法を利用した樹脂組成物の製造方法においては、微細セルロース繊維複合体を主体とする繊維集合体を、樹脂を含む液に浸し、該繊維集合体の内部にまで該液を浸透させる。樹脂を含む液は、樹脂を水等の適当な溶媒に分散又は溶解させて得られる。樹脂を含む液に繊維集合体を浸した後、該繊維集合体を自然乾燥又は熱風乾燥等の乾燥法により乾燥することにより、所望の形状の樹脂組成物が得られる。
【0066】
本発明の樹脂組成物は任意の形状に成形可能であり、例えばフィルムやシート等の薄状物、直方体や立方体等のブロック状その他の立体形状として提供される。例えば薄状物の樹脂組成物とする場合、その厚みは特に制限されないが、通常0.05〜50mmである。
【0067】
また、本発明の樹脂組成物は、該樹脂組成物とは別体の樹脂に配合してその機械的強度等の特性を向上させ得る、樹脂改質用添加剤として用いることもできる。この樹脂改質用添加剤を樹脂に配合して得られた、樹脂改質用添加剤含有樹脂も、本発明の樹脂組成物に含まれる。
【0068】
以下に、本発明の樹脂組成物の一例である樹脂改質用添加剤の好適な製造方法について説明する。本製造方法は、(a)微細セルロース繊維複合体と樹脂粒子と液媒体とを含むエマルション(微細セルロース繊維複合体と樹脂との均一混合物)を調製し、次いで(b)該エマルションから乾燥によって該液媒体を除去する工程を有する。
【0069】
樹脂改質用添加剤及びその原料となる樹脂粒子の形状に特に制限はなく、各種の形状のものを用いることができるが、本製造方法において樹脂粒子を首尾良くエマルションにすることができる観点からは、略球形の粒子を用いることが好ましい。また、原料となる樹脂粒子はあらかじめ分散媒に分散されてエマルション化されたものでもよいし、粉末状でも構わない。粉末状の樹脂粒子を用いる場合、樹脂粒子を首尾良くエマルションにするために、界面活性剤や分散剤等を用いても構わない。
【0070】
前記(a)の工程において、微細セルロース繊維複合体と樹脂粒子とを混合するために用いられる液媒体としては、通常水が用いられるが、それ以外にも微細セルロース繊維複合体を分散させ得る媒体、例えば非水溶性有機媒体、水溶性有機媒体、水溶性有機媒体、又はこれらと水との混合媒体等を挙げることができる。どのような媒体を用いるかは、樹脂粒子の分散性に応じて適宜決定すればよい。非水溶性有機媒体としては、例えばトルエン、クロロホルム、酢酸エチル、ヘキサン等を用いることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。水溶性有機媒体としては、例えばエタノール、メタノール、イソプロパノール、t−ブチルアルコール、アセトン、N−メチル−2−ピロリドン、テトラヒドロフラン等を用いることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
前記(a)の工程においては、例えば微細セルロース繊維複合体と、樹脂粒子と、液媒体の三者を混合してエマルションを調製することができる。エマルションの調製の容易性からは、エマルションの状態の前記樹脂粒子(つまり、あらかじめ液媒体に分散処理された樹脂エマルション)と微細セルロース繊維複合体とを混合してエマルションを調製することが有利である。樹脂エマルションとしては、例えば水エマルション、非水溶性有機媒体のエマルション、水溶性有機媒体のエマルション、水と水溶性有機媒体とのエマルションを用いることができる。安全性等を考慮すると、水エマルション及び水と水溶性有機媒体とのエマルションを用いることが好ましい。どのような媒体の樹脂エマルションを用いる場合であっても、樹脂エマルション中での樹脂粒子の濃度は1〜80質量%、特に5〜30質量%とすることが、樹脂粒子を安定に分散させ得ることと、後述する乾燥時の効率の観点から好ましい。
【0072】
また前記(a)の工程においては、粉末状の樹脂粒子(つまり乾燥状態の樹脂粉末であり、あらかじめ液媒体へ分散処理が行われていないもの)と微細セルロース繊維複合体とを混合してエマルションを調製することもできる。この場合、仮に、樹脂粉末が本来的に液媒体に分散し難い性質のものであっても、併用される微細セルロース繊維複合体が分散剤となるため、エマルションの調製は可能であり、また、必要に応じ、界面活性剤や微細セルロース繊維複合体以外の分散剤を用いてエマルションを調製することもできる。
【0073】
前記樹脂エマルションと、微細セルロース繊維複合体の分散液とを混合することで、目的とする微細セルロース繊維複合体/樹脂粒子のエマルション(微細セルロース繊維複合体と樹脂粒子との均一混合物)が得られる。このエマルションに含まれる微細セルロース繊維複合体の濃度は0.1質量%以上、特に0.2質量%以上であることが好ましく、また、40質量%以下、特に5質量%以下であることが好ましい。樹脂粒子の濃度は0.1質量%以上が好ましくまた、50質量%以下、特に10質量%以下であることが好ましい。また、このエマルション中には、微細セルロース繊維複合体及び樹脂粒子に加えて、必要に応じて架橋剤や粘土鉱物、界面活性剤等の分散剤、着色剤、帯電防止剤等が含まれていても良い。
【0074】
このようにして得られた微細セルロース繊維複合体/樹脂粒子のエマルションに対して、(b)工程において液媒体の除去を行い、目的の樹脂改質用添加剤(本発明の樹脂組成物としての一形態)を得る。液媒体の除去は乾燥によって行う。液媒体の乾燥は自然乾燥でも良く、あるいは加熱乾燥でも良い。これらの乾燥方法を用いる場合には、エマルションをキャスト(流延)して乾燥させることが乾燥効率の点から好ましい。その他の乾燥方法としては、凍結乾燥や噴霧乾燥が挙げられる。噴霧乾燥においては、エマルションをノズルから噴出させて微細な液滴となし、次いで対流空気中で加熱乾燥すれば良い。
【0075】
このようにして得られた樹脂改質用添加剤は、例えばチップ状のマスターバッチとして用いることができる。このマスターバッチを、押出機を用いて熱可塑性樹脂に添加して溶融混練し、溶融成形することで、本発明の樹脂組成物の1種である樹脂改質用添加剤含有樹脂を得ることができる。この熱可塑性樹脂としては、例えば先に述べた樹脂粒子を構成する各種の樹脂と同様のものを用いることができる。この熱可塑性樹脂は、樹脂粒子を構成する樹脂と同種のものでも良く、あるいは異種のものでも良い。同種の樹脂を用いれば、目的とする樹脂組成物中での微細セルロース繊維複合体の分散性を容易に高めることができる。異種の樹脂を用いる場合には、相溶性のある樹脂の組み合わせを採用することが好ましい。
【0076】
本発明の樹脂組成物は、微細セルロース繊維複合体(アミド化された微細セルロース繊維)を含むことにより、引張弾性率等の機械的強度が、微細セルロース繊維複合体と共に併用される樹脂(ベースポリマー)に比して向上している。その理由は、樹脂組成物中において微細セルロース繊維複合体が高度に分散しているからである。また、本発明の樹脂組成物は、微細セルロース繊維複合体と共に併用される樹脂の着色が効果的に抑制されているため、該樹脂本来の色あるいはそれに極めて近い色を呈しており、汎用性が高い。樹脂の着色が抑制されている理由は、樹脂組成物中において微細セルロース繊維複合体が高度に分散していることに加えて、微細セルロース繊維複合体が耐熱性に優れ、樹脂組成物を製造する際の樹脂との溶融混練時に熱分解を起こし難いことによるものと推察される。
【0077】
本発明の樹脂組成物は、各種日用品包装用フィルム(パウチ、ピロー)、シート(ブリスターパック)、成形部材(ボトル、キャップ、スプーン、ハブラシのハンドル等)への用途展開に利用でき、特に機械的強度が重視される用途(例えば、自動車、情報家電等)に好適に利用できる。
【0078】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の樹脂組成物、製造方法を開示する。
【0079】
<1> 微細セルロース繊維に炭化水素基がアミド結合を介して結合してなる微細セルロース繊維複合体と、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリカーボネート系樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂とを含有する樹脂組成物。
【0080】
<2> 炭化水素基は、炭素数1の炭化水素基、又は炭素数2以上、30以下の飽和若しくは不飽和の、直鎖状若しくは分岐状の炭化水素基である前記<1>記載の樹脂組成物。
<3> 前記炭化水素基の平均結合量は、好ましくは0.1mmol/g以上、更に好ましくは0.5mmol/g以上、そして、好ましくは3mmol/g以下、更に好ましくは2mmol/g以下、特に好ましくは1mmol/g以下、より具体的には、好ましくは0.1〜3mmol/g、更に好ましくは0.1〜2mmol/g、特に好ましくは0.5〜1mmol/gである前記<1>又は<2>記載の樹脂組成物。
<4> 前記微細セルロース繊維複合体のカルボキシ基含有量は、好ましくは0mmol/g以上、更に好ましくは0.2mmol/g以上、そして、好ましくは2.9mmol/g以下、更に好ましくは1mmol/g以下、特に好ましくは0.8mmol/g以下、より具体的には、好ましくは0〜2.9mmol/g、更に好ましくは0〜1mmol/g、特に好ましくは0.2〜0.8mmol/gである前記<1>〜<3>の何れか一に記載の樹脂組成物。
<5> 前記ポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群から選択される1種以上である前記<1>〜<4>の何れか一に記載の樹脂組成物。
【0081】
<6> 前記微細セルロース繊維複合体の平均繊維径は、好ましくは1nm以上、そして、好ましくは200nm以下、更に好ましくは100nm以下、特に好ましくは50nm以下、より具体的には、好ましくは1〜200nm、更に好ましくは1〜100nm、特に好ましくは1〜50nmである前記<1>〜<5>の何れか一に記載の樹脂組成物。
<7> 前記微細セルロース繊維のカルボキシ基含有量は、好ましくは0.1mmol/g以上、更に好ましくは0.4mmol/g以上、特に好ましくは0.6mmol/g以上、そして、好ましくは3mmol/g以下、更に好ましくは2mmol/g以下、特に好ましくは1.8mmol/g以下であり、より具体的には、好ましくは0.1〜3mmol/g、更に好ましくは0.4〜2mmol/g、特に好ましくは0.6〜1.8mmol/gである前記<1>〜<6>の何れか一に記載の樹脂組成物。
<8> 前記微細セルロース繊維の平均アスペクト比は、好ましくは10以上、更に好ましくは50以上、特に好ましくは100以上、そして、好ましくは1000以下、更に好ましくは500以下、特に好ましくは350以下、より具体的には、好ましくは10〜1000、更に好ましくは50〜500、特に好ましくは100〜350である前記<1>〜<7>の何れか一に記載の樹脂組成物。
<9> 前記炭化水素基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基、オレイル基、ミリストレイル基、パルミトレイル基、リノレイル基、リノレニル基、エイコサニル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、イソヘキシル基、2−ヘキシル基、ジメチルブチル基、エチルブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基及びフェニル基からなる群から選択される1種以上である前記<1>〜<8>の何れか一に記載の樹脂組成物。
【0082】
<10> 前記微細セルロース繊維複合体は、下記工程1及び2を経て製造されたものである前記<1>〜<9>の何れか一に記載の樹脂組成物。
工程1:天然セルロース繊維をN―オキシル化合物の存在下で酸化してカルボキシ基含有セルロース繊維を得る工程。
工程2:工程1を経て得られたカルボキシ基含有セルロース繊維に、炭化水素基を有する第1級又は第2級アミンを反応させて、該セルロース繊維のカルボキシ基のアミド化反応を行う工程。
【0083】
<11> 前記工程1の終了後で前記工程2の実施前に、前記工程1で得られたカルボキシ基含有セルロース繊維を溶媒中に分散させて、該カルボキシ基含有セルロース繊維に微細化処理を施す工程が存する前記<10>記載の樹脂組成物。
【0084】
<12> 前記N−オキシル化合物は、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−カルボキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、及び4−フォスフォノオキシー−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルからなる群から選択される1種以上である前記<10>又は<11>記載の樹脂組成物。
<13> 前記炭化水素基を有する第1級アミンは、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミン及びオレイルアミンからなる群から選択される1種以上である前記<10>〜<12>の何れか一に記載の樹脂組成物。
<14> 前記炭化水素基を有する第2級アミンは、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン及びジオクタデシルアミンからなる群から選択される1種以上である前記<10>〜<13>の何れか一に記載の樹脂組成物。
【0085】
<15> 前記ポリオレフィン系樹脂は、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレン樹脂及び変性ポリプロピレン樹脂からなる群から選択される1種以上である前記<1>〜<14>の何れか一に記載の樹脂組成物。
<16> 前記ポリ塩化ビニル系樹脂は、軟質ポリ塩化ビニル及び硬質ポリ塩化ビニルからなる群から選択される1種以上である前記<1>〜<15>の何れか一に記載の樹脂組成物。
<17> 前記ポリアミド系樹脂は、6ナイロン及び66ナイロンからなる群から選択される1種以上である前記<1>〜<16>の何れか一に記載の樹脂組成物。
<18> 前記ポリカーボネート系樹脂は、ビスフェノールAを原材料とする一般ポリカーボネート、及びシロキサンを原料とする特殊ポリカーボネートからなる群から選択される1種以上である前記<1>〜<17>の何れか一に記載の樹脂組成物。
【0086】
<19> 前記微細セルロース繊維複合体の含有量は、前記樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より具体的には、好ましくは0.01〜50質量%、更に好ましくは0.1〜10質量%である前記<1>〜<18>の何れか一に記載の樹脂組成物。
<20> 前記樹脂の含有量は、前記樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは50質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、そして、好ましくは99.99質量%以下、更に好ましくは99.90質量%以下、より具体的には、好ましくは50〜99.99質量%、更に好ましくは90〜99.90質量%である前記<1>〜<19>の何れか一に記載の樹脂組成物。
【0087】
<21> 前記<1>〜<20>の何れか一に記載の樹脂組成物の製造方法であって、前記微細セルロース繊維複合体と樹脂とを混合して均一混合物を得、該均一混合物を任意の形状に成形する工程を有する、樹脂組成物の製造方法。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0089】
〔実施例1〕
(1)微細セルロース繊維の製造
針葉樹の漂白クラフトパルプ(製造会社:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名「Machenzie」、CSF650ml)を天然セルロース繊維として用いた。TEMPOとしては、市販品(製造会社:ALDRICH、Free radical、98質量%)を用いた。次亜塩素酸ナトリウムとしては、市販品(製造会社:和光純薬工業(株))を用いた。臭化ナトリウムとしては、市販品(製造会社:和光純薬工業(株))を用いた。まず、針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分に攪拌した後、パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%をこの順で添加した。pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持し、酸化反応を行った。酸化を120分行った後に滴下を停止し、カルボキシ基含有セルロース繊維を得た。イオン交換水を用いてカルボキシ基含有セルロース繊維を十分に洗浄し、次いで脱水処理を行った。その後、得られたカルボキシ基含有セルロース繊維100gをイオン交換水7592gに分散させ、高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP−25005、(株)スギノマシン製)を用いて、吐出圧力245MPaの条件で2回処理を行った。その操作によって繊維の微細化処理を行い、微細セルロース繊維の分散液を得た。分散液の固形分濃度は1.3質量%であった。この微細セルロース繊維の平均繊維径は3.3nm、平均アスペクト比は200、カルボキシ基含有量は1.4mmol/gであった。
【0090】
(2)微細セルロース繊維複合体の製造
ビーカーに前記微細セルロース繊維の分散液4088.75g(固形分濃度1.3質量%)とイオン交換水4085gとを加えて、固形分濃度0.5質量%の微細セルロース繊維分散液とし、メカニカルスターラーにて室温下、3時間攪拌した。続いて、この微細セルロース繊維分散液に1M塩酸水溶液を245g仕込み、室温下で1晩反応させた。反応終了後、アセトンで再沈し、ろ過、その後、アセトン/イオン交換水にて洗浄を行い、塩酸及び塩を除去した。最後にアセトンを加えろ過し、アセトンに微細セルロース繊維が膨潤した状態のアセトン含有酸型微細セルロース繊維(固形分濃度5.0質量%)を得た。
【0091】
次いでメカニカルスターラー、還流管を備えた4口丸底フラスコに、前記アセトン含有酸型微細セルロース繊維509.16g(固形分濃度を5.0質量%から4.4質量%に調整したもの)を仕込み、イソプロピルアルコール5000gを加えて、固形分濃度0.5質量%のアセトン含有酸型微細セルロース繊維分散液とし、マグネティックスターラーにて室温下、1時間攪拌した。続いて、プロピルアミン5.45g(微細セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミン基3molに相当)、DMT−MM26.38gを仕込んで溶解させた後、室温下で1晩反応を行った。反応終了後、ろ過し、その後、メタノール/イオン交換水にて洗浄を行い、未反応のプロピルアミン及びDMT−MMを除去した。最後にアセトンを加えろ過し、微細セルロース繊維にプロピル基がアミド結合を介して結合した、微細セルロース繊維複合体を調製した。
【0092】
(3)樹脂粒子の準備
ポリエチレン樹脂エマルション(商品名:アローベースSB1010、ユニチカ(株)製、固形分濃度25質量%)を用いた。
【0093】
(4)微細セルロース繊維複合体/樹脂粒子のエマルションの調製
前記(2)で得られた微細セルロース繊維複合体をイオン交換水で固形分濃度0.5%の分散液とし、該分散液100gと、前記(3)で準備したポリエチレン樹脂エマルション8gとをビーカーに注ぎ、マグネチックスターラーを用いて30分間混合した。これによって、目的とするエマルションを得た。
【0094】
(5)樹脂改質用添加剤の製造
前記(4)で得られたエマルションを凍結乾燥して、樹脂改質用添加剤を得た。得られた樹脂改質用添加剤における微細セルロース繊維複合体のセルロース含有量は20質量%、前記ポリエチレン樹脂エマルション由来のポリエチレンの含有量は80質量%であった。
【0095】
(6)樹脂組成物の製造
前記(5)で得られた樹脂改質用添加剤と高密度ポリエチレン樹脂(HDPE、商品名:ノバテックHD HB338RE、日本ポリエチレン(株)製)を、混練機(ラボプラストミル、東洋精機(株)製)を用いて溶融混練した。HDPE28質量部に対して、得られた樹脂改質用添加剤を2.4質量部、接着剤として接着性樹脂(アドテックスDH4200、日本ポリエチレン(株)製)2質量部加えて、150℃で10分間、回転数70rpmで混練した。得られた混練物を、プレス機(ラボプレスP2−30T、東洋精機(株)製)を用いて、160℃、0.5MPaで3分間、20MPaで1分間にわたり熱プレスし、更に23℃、0.5MPaで1分間にわたり冷却プレスした。これによって厚さ0.5mmのシート状の樹脂組成物を得た。
【0096】
〔実施例2〕
メカニカルスターラー、還流管を備えた4口丸底フラスコに、実施例1で得られたアセトン含有酸型微細セルロース繊維93.02g(固形分濃度を5.0質量%から4.4質量%に調整したもの)を仕込み、t−ブチルアルコール800gを加えて、固形分濃度0.5質量%のアセトン含有酸型微細セルロース繊維分散液とし、室温下で1時間攪拌した。続いて、ヘキシルアミン1.46g(微細セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミン基3molに相当)、DMT−MM4.12gを仕込んで溶解させた後、60℃、4時間反応を行った。その後、更にヘキシルアミン1.46g(微細セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミン基3molに相当)、DMT−MM4.12gを仕込み、60℃、4時間反応を行った。反応終了後、ろ過し、その後、エタノール/イオン交換水にて洗浄を行い、未反応のヘキシルアミン及びDMT−MMを除去した。最後にアセトンを加えろ過し、微細セルロース繊維にヘキシル基がアミド結合を介して結合した、微細セルロース繊維複合体を調製した。この微細セルロース繊維複合体を用い、実施例1の前記(3)〜(6)の手順に従って、厚さ0.5mmのシート状の樹脂組成物を得た。
【0097】
〔実施例3〕
メカニカルスターラー、還流管を備えた4口丸底フラスコに、実施例1で得られたアセトン含有酸型微細セルロース繊維79.29g(固形分濃度を5.0質量%から3.3質量%に調整したもの)を仕込み、イソプロピルアルコール800gを加えて、固形分濃度0.3質量%のアセトン含有酸型微細セルロース繊維分散液とし、室温下で1時間攪拌した。続いて、ドデシルアミン1.19g(微細セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミン基2molに相当)、DMT−MM1.78gを仕込んで溶解させた後、50℃、4時間反応を行った。反応終了後、ろ過し、その後、エタノール/イオン交換水にて洗浄を行い、未反応のドデシルアミン及びDMT−MMを除去した。最後にアセトンを加えろ過し、微細セルロース繊維にドデシル基がアミド結合を介して結合した、微細セルロース繊維複合体を調製した。この微細セルロース繊維複合体を用い、実施例1の前記(3)〜(6)の手順に従って、厚さ0.5mmのシート状の樹脂組成物を得た。尚、前記「(6)樹脂組成物の製造」においては、HDPE28質量部に対して、樹脂改質用添加剤を0.8質量部用いた。
【0098】
〔実施例4〕
メカニカルスターラー、還流管を備えた4口丸底フラスコに、実施例1で得られたアセトン含有酸型微細セルロース繊維(固形分濃度を5.0質量%から4.4質量%に調整したもの)488.80gを仕込み、t−ブチルアルコール4800g加えて、固形分濃度0.5質量%のアセトン含有酸型微細セルロース繊維分散液とし、室温下、1時間攪拌した。続いて、オクタデシルアミン17.50g(微細セルロース繊維のカルボキシ基1molに対してアミン基2molに相当)、DMT−MM17.97gを仕込み溶解を確認し、55℃、6時間反応を行った。反応終了後、ろ過し、その後、メタノール/イオン交換水にて洗浄を行い、未反応オクタデシルアミン、DMT−MMを除去した。最後にアセトンを加えろ過し、微細セルロース繊維にオクタデシル基がアミド結合を介して結合した、微細セルロース繊維複合体を調製した。この微細セルロース繊維複合体を用い、実施例1の前記(3)〜(6)の手順に従って、厚さ0.5mmのシート状の樹脂組成物を得た。尚、前記「(6)樹脂組成物の製造」においては、HDPE28質量部に対して、樹脂改質用添加剤を0.8質量部用いた。
【0099】
〔実施例5〕
実施例1で用いた微細セルロース繊維複合体をイオン交換水で固形分濃度0.5質量%の分散液とし、該分散液100gとポリ塩化ビニル樹脂(ビニブランHD−057、日信化学工業株式会社製、固形分濃度13質量%)190.4g、ポリエチレン樹脂エマルション(商品名:アローベースSB1010、ユニチカ(株)製、固形分濃度25質量%)99gをビーカーに注ぎ、マグネチックスターラーを用いて30分間混合し、エマルションを得た。このエマルション40gをポリスチレン製シャーレ(φ80mm)に深さ約0.8cm注ぎ、23℃50%RH環境において1週間乾燥し、フィルム状の乾燥物を得た。この乾燥物をプレス機(ラボプレスP2−30T、東洋精機(株)製)を用いて、200℃、0.5MPaで3分間、更に23℃、0.5MPaで1分間にわたり冷却プレスした。これによって厚さ0.1mmのシート状の樹脂組成物を得た。
【0100】
〔実施例6〕
実施例1で用いた微細セルロース繊維複合体をイオン交換水で固形分濃度0.5質量%の分散液とし、該分散液100gとポリアミド樹脂(セポルジョンPA200、住友精化株式会社製、固形分濃度40質量%)61.9g、ポリエチレン樹脂エマルション(商品名:アローベースSB1010、ユニチカ(株)製、固形分濃度40質量%)99gをビーカーに注ぎ、マグネチックスターラーを用いて30分間混合し、エマルションを得た。このエマルション40gをポリスチレン製シャーレ(φ80mm)に深さ約0.8cm注ぎ、23℃50%RH環境において1週間乾燥し、フィルム状の乾燥物を得た。この乾燥物をプレス機(ラボプレスP2−30T、東洋精機(株)製)を用いて、180℃、0.5MPaで3分間、更に23℃、0.5MPaで1分間にわたり冷却プレスした。これによって厚さ0.1mmのシート状の樹脂組成物を得た。
【0101】
〔実施例7〕
実施例1で用いた微細セルロース繊維複合体をイオン交換水で固形分濃度0.5質量%の分散液とし、該分散液100gとポリカーボネート樹脂(S―3000FN、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、粉末状)24.8g、ポリエチレン樹脂エマルション(商品名:アローベースSB1010、ユニチカ(株)製、固形分濃度40質量%)99gをビーカーに注ぎ、マグネチックスターラーを用いて30分間混合し、エマルションを得た。このエマルション40gをポリスチレン製シャーレ(φ80mm)に深さ約0.8cm注ぎ、23℃50%RH環境において1週間乾燥し、フィルム状の乾燥物を得た。この乾燥物をプレス機(ラボプレスP2−30T、東洋精機(株)製)を用いて、200℃、0.5MPaで3分間、更に23℃、0.5MPaで1分間にわたり冷却プレスした。これによって厚さ0.1mmのシート状の樹脂組成物を得た。
【0102】
〔比較例1〕
微細セルロース繊維複合体を用いず、ポリエチレン樹脂エマルションだけを、実施例1と同様にして凍結乾燥して乾燥物を得た。この乾燥物を用い、実施例1の前記「(6)樹脂組成物の製造」に従って、厚さ0.5mmのシート状の樹脂組成物を得た。尚、前記「(6)樹脂組成物の製造」においては、HDPE28質量部に対して、前記乾燥物を1.9質量部用いた。
【0103】
〔比較例2〕
実施例1で用いた微細セルロース繊維をアミド化せずにそのまま用いて、実施例1と同様にして凍結乾燥して乾燥物を得た。この乾燥物を用い、実施例1の前記「(6)樹脂組成物の製造」に従って、厚さ0.5mmのシート状の樹脂組成物を得た。尚、前記「(6)樹脂組成物の製造」においては、HDPE28質量部に対して、前記乾燥物を2.6質量部用いた。
【0104】
〔比較例3〕
ビーカーに実施例1で得られたアセトン含有酸型微細セルロース繊維22.72g(固形分濃度を5.0質量%から4.4質量%に調整したもの)を仕込み、イソプロピルアルコール133g、イオン交換水67gを加えて、固形分濃度0.5%質量のアセトン含有酸型微細セルロース繊維分散液とし、マグネチックスターラーにて室温下、1時間攪拌した。続いて、オクタデシルアミン1.86gを仕込み、溶解を確認後、室温下、12時間反応を行った。反応終了後、ろ過し、その後、エタノールにて洗浄を行い、未反応のオクタデシルアミンを除去した。最後にアセトンを加えろ過し、微細セルロース繊維にオクタデシル基がイオン結合を介して結合した、微細セルロース繊維複合体を得た。この微細セルロース繊維複合体を用い、実施例1の前記(3)〜(6)の手順に従って、厚さ0.5mmのシート状の樹脂組成物を得た。尚、前記「(6)樹脂組成物の製造」においては、HDPE28質量部に対して、樹脂改質用添加剤を0.8質量部用いた。
【0105】
〔比較例4〕
微細セルロース繊維複合体を用いずに、ポリ塩化ビニル樹脂(ビニブランHD−057、日信化学工業株式会社製、固形分濃度13質量%)とポリエチレン樹脂エマルション(商品名:アローベースSB1010、ユニチカ(株)製、固形分濃度25質量%)だけを実施例5と同様に混合した後、ポリスチレン製シャーレ(φ80mm)に深さ約0.8cm注ぎ、23℃50%RH環境において1週間乾燥し、フィルム状の乾燥物を得た。この乾燥物を実施例5と同様に冷却プレスして、厚さ0.1mmのシート状の樹脂組成物を得た。
【0106】
〔比較例5〕
微細セルロース繊維複合体を用いずに、ポリアミド樹脂(セポルジョンPA200、住友精化株式会社製、固形分濃度40質量%)とポリエチレン樹脂エマルション(商品名:アローベースSB1010、ユニチカ(株)製、固形分濃度25質量%)だけを実施例6と同様に混合した後、ポリスチレン製シャーレ(φ80mm)に深さ約0.8cm注ぎ、23℃50%RH環境において1週間乾燥し、フィルム状の乾燥物を得た。この乾燥物を実施例6と同様に冷却プレスして、厚さ0.1mmのシート状の樹脂組成物を得た。
【0107】
〔比較例6〕
微細セルロース繊維複合体を用いずに、ポリカーボネート樹脂(セポルジョンPA200、住友精化株式会社製、固形分濃度40質量%)とポリエチレン樹脂エマルション(商品名:アローベースSB1010、ユニチカ(株)製、固形分濃度25質量%)だけを実施例7と同様に混合した後、ポリスチレン製シャーレ(φ80mm)に深さ約0.8cm注ぎ、23℃50%RH環境において1週間乾燥し、フィルム状の乾燥物を得た。この乾燥物を実施例7と同様に冷却プレスして、厚さ0.1mmのシート状の樹脂組成物を得た。
【0108】
〔評価〕
実施例及び比較例のサンプル(樹脂組成物)について、引張弾性率及びYi値をそれぞれ下記方法により測定した。その結果を、各樹脂組成物の組成等と併せて、下記表1及び2に示す。
【0109】
<樹脂組成物の引張弾性率の測定方法>
下記の通り、樹脂組成物の形態(厚さ)に応じて、引張弾性率の測定方法は異なる。但し、測定方法の違いにかかわらず、引張弾性率が高いほど、機械的強度に優れ、高評価となる。
実施例1〜4及び比較例1〜3(シート状の樹脂組成物の厚さ0.5mm)
引張圧縮試験機((株)オリエンテック社製 RTA−500)を用いて複合成形体の引張弾性率、引張降伏強度及び破断伸度をそれぞれ測定した。JIS K−6251に規定される1号ダンベルで打ち抜いたサンプルを支点間距離80mmでセットし、クロスヘッド速度30mm/minで測定した。
実施例5〜7及び比較例4〜6(シート状の樹脂組成物の厚さ0.1mm)
引張圧縮試験機((株)オリエンテック社製 RTA−500)を用いて複合成形体の引張弾性率、引張降伏強度及び破断伸度をそれぞれ測定した。JIS K−6251に規定される2号ダンベルで打ち抜いたサンプルを支点間距離60mmでセットし、クロスヘッド速度30mm/minで測定した。
【0110】
<Yi値の測定方法>
分光測色計(CM−2500d、コニカミノルタ(株)製)を用いて、シート状の樹脂組成物の黄色度(Yi値)を測定した。ASTM E313−73に準拠し、光源として標準イルミナントD65を用い、測定径φ8mm、観察視野10℃、UV100%、SCI/SCE同時測定で行った。SCIの値をYi値とした。Yi値が小さいほど、着色度が少なく、高評価となる。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
実施例1〜4は、それぞれ、炭化水素基がアミド結合を介して結合してなる微細セルロース繊維複合体と高密度ポリエチレンとを含む樹脂組成物であるところ、微細セルロース繊維を含まない比較例1(実施例1〜4のベースポリマーに相当)、及び炭化水素基を持たない微細セルロース繊維を含む比較例2それぞれと比べて、引張弾性率が向上している。この引張弾性率の向上効果は、炭化水素基の導入によって疎水化された微細セルロース繊維が樹脂中に均一分散した結果であると考えられる。特に、実施例4は、アミド結合によってオクタデシル基が導入された微細セルロース繊維(微細セルロース繊維複合体)を含む樹脂組成物であるところ、0.5質量%という僅かな微細セルロース繊維(微細セルロース繊維複合体)の含有量ながら、比較例1の1.15倍(=1015/883)の高い引張弾性率の向上が確認された。この実施例4の引張弾性率1015MPaは、イオン結合によって同様にオクタデシル基が導入された微細セルロース繊維を含む比較例3に比べても高い値であり、このことから、微細セルロース繊維に導入される炭化水素基の結合様式として、アミド結合が有効であることがわかる。また、比較例2及び3は、これらのベースポリマーに相当する比較例1に比べて、引張弾性率は向上したものの、着色の度合いであるYi値も同時に著しく大きくなった。一方実施例1〜4のYi値は低い値に留まった。実施例1〜4のYi値が比較的低い理由は、アミド結合を有する微細セルロース繊維複合体の高い熱安定性によるものであると考えられる。
【0114】
実施例5〜7は、それぞれ、アミド結合によってプロピル基が導入された微細セルロース繊維(微細セルロース繊維複合体)と、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリカーボネート系樹脂の何れか1種とを含む樹脂組成物である。微細セルロース繊維を含まない比較例4〜6(実施例5〜7のベースポリマーに相当)に比べて、引張弾性率は向上した。Yi値は比較例4〜6に比べて上昇したものの、比較例2及び3に比べて小さ
いことから、アミド結合によって炭化水素基が導入された微細セルロース繊維(微細セルロース繊維複合体)を用いることによってYi値の上昇が抑えられたと考えられる。Yi値は25以下であれば実用上問題ないレベルである。