特許第5940941号(P5940941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940941
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】熱延鋼板の製造設備
(51)【国際特許分類】
   B21B 45/02 20060101AFI20160616BHJP
【FI】
   B21B45/02 320U
   B21B45/02 320D
   B21B45/02 320H
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-192651(P2012-192651)
(22)【出願日】2012年8月31日
(65)【公開番号】特開2014-46351(P2014-46351A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2014年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】314017543
【氏名又は名称】Primetals Technologies Japan株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】230112449
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 春平
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100182224
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲三
(72)【発明者】
【氏名】池本 裕二
(72)【発明者】
【氏名】久保 比佐幸
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】菅澤 公夫
(72)【発明者】
【氏名】阪上 浩一
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−066266(JP,A)
【文献】 特開2011−167759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 45/00−45/08
B21B 39/00−41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被圧延材を圧延する圧延機と、前記圧延機で圧延された前記被圧延材に対して冷却水を噴射する冷却設備とを備える熱延鋼板の製造設備であって、
前記冷却設備は、前記圧延機のワークロールにおける通板方向出側に、前記被圧延材に対して上下一対に設置される冷却装置と、前記冷却装置における通板方向出側の直近かつ前記被圧延材に対して上下一対に設置される後続の冷却装置とを有し、
前記冷却装置における上側冷却器および下側冷却器は、それぞれ個別に通板方向へ移動可能であり、
前記後続の冷却装置における上側冷却器は、前記後続の冷却装置における下側冷却器と独立してパスラインに対して上方向へ回動可能である
ことを特徴とする熱延鋼板の製造設備。
【請求項2】
被圧延材を圧延する圧延機と、前記圧延機で圧延された前記被圧延材に対して冷却水を噴射する冷却設備とを備える熱延鋼板の製造設備であって、
前記冷却設備は、前記圧延機のワークロールにおける通板方向出側の直近かつ前記被圧延材に対して上下一対に設置される第一の冷却装置と、前記第一の冷却装置における通板方向出側の直近かつ前記被圧延材に対して上下一対に設置される第二の冷却装置と、前記第二の冷却装置における通板方向出側の直近かつ前記被圧延材に対して上下一対に設置される第三の冷却装置とを有し、
前記第一の冷却装置における上側冷却器および下側冷却器は、それぞれ個別に通板方向へ移動可能であり、
前記第二の冷却装置における上側冷却器および下側冷却器は、それぞれ個別に通板方向へ移動可能であり、
前記第三の冷却装置における上側冷却器は、前記第三の冷却装置における下側冷却器と独立してパスラインに対して上方向へ回動可能である
ことを特徴とする熱延鋼板の製造設備。
【請求項3】
前記第一の冷却装置における上側冷却器は前記第二の冷却装置における上側冷却器と、前記第一の冷却装置における下側冷却器は前記第二の冷却装置における下側冷却器と、伸縮部材を介してそれぞれ連結されており
前記第一の冷却装置における上側冷却器は前記第二の冷却装置における上側冷却器に対して、前記第一の冷却装置における下側冷却器は前記第二の冷却装置における下側冷却器に対して、それぞれ通板方向に移動可能であり、
前記第二の冷却装置における上側冷却器および下側冷却器は、前記伸縮部材とは別の伸縮部材を介して前記圧延機のハウジングと連結され、前記ハウジングに対して通板方向に移動可能である
ことを特徴とする請求項2に記載の熱延鋼板の製造設備。
【請求項4】
前記第三の冷却装置における上側冷却器は、フレーム部材を介して前記圧延機の近傍に設置する回転軸部材と連結されている
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の熱延鋼板の製造設備。
【請求項5】
前記回転軸部材は、前記第三の冷却装置の上側冷却器に供給する冷却水を流す本管に回動可能な継手を設け、前記本管の一部を前記フレーム部材および前記第三の冷却装置の前記上側冷却器と共に回動可能とした回動部であり、
前記本管と連通すると共に、前記本管の前記回動部と連結して回動する支管を備えた
ことを特徴とする請求項4に記載の熱延鋼板の製造設備。
【請求項6】
前記支管に、冷却水の流量を制御する制御弁を設けた
ことを特徴とする請求項5に記載の熱延鋼板の製造設備。
【請求項7】
前記第一の冷却装置、前記第二の冷却装置、前記第三の冷却装置の少なくとも一つにおける冷却水を噴射する多数のノズルに、冷却水を供給する通水路の開閉を個々に制御することのできる開閉弁を設けた
ことを特徴とする請求項2乃至請求項6のいずれか一項に記載の熱延鋼板の製造設備。
【請求項8】
前記第三の冷却装置は、前記ノズルを有するノズルヘッダと、当該ノズルヘッダとピン結合される着脱自在な通板ガイドとを備える
ことを特徴とする請求項7に記載の熱延鋼板の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼板の製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
熱延鋼板の圧延においては、圧延機による圧延力や圧延速度等の圧延条件、冷却装置による冷却力や冷却速度等の冷却条件などが、製造される熱延鋼板の特性に影響する。つまり、圧延機や冷却装置等の設定条件を変えることにより、被圧延材である熱延鋼板の組成を変化させることができる。
【0003】
例えば、熱間圧延設備の仕上げ圧延機後段から最終段までにおいて20%以上の高圧下で熱延鋼板を圧延した直後に、当該熱延鋼板を冷却装置により急速冷却すると、合金元素の添加量が少なく、結晶粒が微細化された高強度鋼板を製造することができる。この微細粒鋼の製造方法における冷却には、高圧下圧延直後に10[m3/min・m2]以上の高水量密度で冷却水を被圧延材に噴射する必要がある。例えば、圧延後0.2秒以内に冷却を開始することより結晶粒の微細化された高強度鋼板ができることが知られている(非特許文献1)。
【0004】
上記の高強度鋼板の製造における冷却装置としては、10[m3/min・m2]以上の高水量密度で冷却水を噴射することができるように大流量の冷却水を供給可能な大径の配管が必要とされ、一方で、圧延直後に冷却することができるように圧延機の通板方向出側直近に設置可能な程度に小型化される必要がある。
【0005】
また、上記の高強度鋼板の製造においては、熱間圧延設備の仕上げ圧延機後段から最終段までにおいて20%以上の高圧下で圧延するため、ワークロールが弾性変形を起こし、圧延される被圧延材の平坦度が低下する。平坦度の低い被圧延材は、均一に冷却されないだけでなく、破断等を起こして操業が不安定となる虞がある。操業の不安定は、長時間のライン停止を頻発し、生産性を落とす。しかし、板破断によるライン停止が発生したとしても、破断された板の排出などの圧延機周辺における作業を容易にすることで、停止時間を短くできる。ワークロールの通板方向出側に作業空間を広く確保することで、作業性を向上させることが必要である。
【0006】
また、高圧下での使用が従来よりもワークロールの摩耗等劣化を早めることになる。ワークロールの交換周期が短くなるので、ワークロールの交換頻度が増加する。ワークロールの交換等の作業性を低下させることは、ライン停止時間を増大させることになる。そこで、圧延直後に冷却する装置においては、ロール組替の作業性を低下させない仕組みが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4436142号公報
【特許文献2】特開2012−66266号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】鉄鋼協会出展文献 第125回圧延理論部会 「超微細粒熱延薄鋼板の製造技術SSMR法の開発とその材料特性」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
作業空間を確保することができる冷却装置に関する技術としては、例えば、特許文献1がある。これは、冷却水の流れる水供給管体を中心軸として回転する旋回管体に噴射口を設けた上側冷却器と、架台に固定され冷却水を噴射する噴射口を設けた下側冷却器とから成る冷却装置である。これによれば、冷却装置の上側冷却器を上方へ大きく開くことができるので、圧延機および冷却装置の補修等の作業を容易に行うことができる。
【0010】
しかし、旋回管体に供給される冷却水は、水供給管体と連結する一端側から先端の他端側へ流れながら、旋回管体の途中に形成した噴射口から噴射されるため、旋回管体における一端側近傍の噴射口と他端側近傍の噴射口とでは、噴射される冷却水の流量が異なる。つまり、冷却水の噴射流量を板幅方向に均一に分布させることは難しく、制御することができない。また、圧延機から離れた位置に設置される大型の装置であり、圧延直後の冷却および大流量の冷却水による冷却が考えられていない。この装置を圧延機の直近に設置することは難しい。
【0011】
圧延機の通板方向出側直近に設置される冷却装置に関する技術としては、例えば、特許文献2がある。これは、ストリッパガイドがワークロール径の変化に追従可能なように油圧シリンダによる摺動機構を設け、被圧延材に冷却水を噴射する冷却装置である。これによれば、圧延機の通板方向出側直近に位置する多数のノズルから冷却水を直接被圧延材に噴射するので、圧延直後に被圧延材を急速冷却することができる。
【0012】
しかし、冷却装置を圧延機における通板方向出側の直近に設置できる程度に小型化したため、冷却水を被圧延材に噴射する範囲は狭い。よって、通板速度が速い場合の被圧延材は、僅かな時間しか冷却水を噴射されない。つまり、特許文献2の小型化された冷却装置を備えた製造設備においては、冷却装置から前述したような10[m3/min・m2]以上の高水量密度で冷却水を噴射しても、被圧延材を十分に冷却することができない。
【0013】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、操業および補修等の作業効率を低下させないと共に、熱延鋼板を圧延直後に急速かつ十分に冷却することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する第一の発明に係る冷却装置は、被圧延材を圧延する圧延機と、前記圧延機で圧延された前記被圧延材に対して冷却水を噴射する冷却設備とを備える熱延鋼板の製造設備であって、前記冷却設備は、前記圧延機のワークロールにおける通板方向出側に、前記被圧延材に対して上下一対に設置される冷却装置と、前記冷却装置における通板方向出側の直近かつ前記被圧延材に対して上下一対に設置される後続の冷却装置とを有し、前記冷却装置における上側冷却器および下側冷却器は、それぞれ個別に通板方向へ移動可能であり、前記後続の冷却装置における上側冷却器は、前記後続の冷却装置における下側冷却器と独立してパスラインに対して上方向へ回動可能であることを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決する第二の発明に係る冷却装置は、被圧延材を圧延する圧延機と、前記圧延機で圧延された前記被圧延材に対して冷却水を噴射する冷却設備とを備える熱延鋼板の製造設備であって、前記冷却設備は、前記圧延機のワークロールにおける通板方向出側の直近かつ前記被圧延材に対して上下一対に設置される第一の冷却装置と、前記第一の冷却装置における通板方向出側の直近かつ前記被圧延材に対して上下一対に設置される第二の冷却装置と、前記第二の冷却装置における通板方向出側の直近かつ前記被圧延材に対して上下一対に設置される第三の冷却装置とを有し、前記第一の冷却装置における上側冷却器および下側冷却器は、それぞれ個別に通板方向へ移動可能であり、前記第二の冷却装置における上側冷却器および下側冷却器は、それぞれ個別に通板方向へ移動可能であり、前記第三の冷却装置における上側冷却器は、前記第三の冷却装置における下側冷却器と独立してパスラインに対して上方向へ回動可能であることを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決する第三の発明に係る冷却装置は、第二の発明に係る冷却装置において、前記第一の冷却装置における上側冷却器は前記第二の冷却装置における上側冷却器と、前記第一の冷却装置における下側冷却器は前記第二の冷却装置における下側冷却器と、伸縮部材を介してそれぞれ連結されており前記第一の冷却装置における上側冷却器は前記第二の冷却装置における上側冷却器に対して、前記第一の冷却装置における下側冷却器は前記第二の冷却装置における下側冷却器に対して、それぞれ通板方向に移動可能であり、前記第二の冷却装置における上側冷却器および下側冷却器は、前記伸縮部材とは別の伸縮部材を介して前記圧延機のハウジングと連結され、前記ハウジングに対して通板方向に移動可能であることを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決する第四の発明に係る冷却装置は、第二または第三の発明に係る冷却装置において、前記第三の冷却装置における上側冷却器は、フレーム部材を介して前記圧延機の近傍に設置する回転軸部材と連結されていることを特徴とする。
【0018】
上記課題を解決する第五の発明に係る冷却装置は、第四の発明に係る冷却装置において、前記回転軸部材は、前記第三の冷却装置の上側冷却器に供給する冷却水を流す本管に回動可能な継手を設け、前記本管の一部を前記フレーム部材および前記第三の冷却装置の前記上側冷却器と共に回動可能とした回動部であり、前記本管と連通すると共に、前記本管の前記回動部と連結して回動する支管を備えたことを特徴とする。
【0019】
上記課題を解決する第六の発明に係る冷却装置は、第五の発明に係る冷却装置において、前記支管に、冷却水の流量を制御する制御弁を設けたことを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決する第七の発明に係る冷却装置は、第二乃至第六のいずれか一つの発明に係る冷却装置において、前記第一の冷却装置、前記第二の冷却装置、前記第三の冷却装置の少なくとも一つにおける冷却水を噴射する多数のノズルに、冷却水を供給する通水路の開閉を個々に制御することのできる開閉弁を設けたことを特徴とする。
【0021】
上記課題を解決する第八の発明に係る冷却装置は、第七の発明に係る冷却装置において、前記第三の冷却装置は、前記ノズルを有するノズルヘッダと、当該ノズルヘッダとピン結合される着脱自在な通板ガイドとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
第一の発明に係る熱延鋼板の製造設備によれば、冷却装置および後続の冷却装置を備えた冷却設備とすることにより、冷却装置、後続の冷却装置をそれぞれの用途に合った大きさ、冷却能力、設置位置で設定することができる。冷却装置をある程度小型化することにより、圧延機のワークロールにおける通板方向出側に設置することができるので、被圧延材を冷却することができる。更に、後続の冷却装置の設置位置を冷却装置における通板方向出側の直近とすることにより、後続の冷却装置を周辺機器等による空間の制約が少ない圧延機のワークロールから離れた位置に設置することができるので、後続の冷却装置を大きくすることができる。よって、後続の冷却装置に十分な冷却能力を持たせることができ、被圧延材を十分に冷却することができる。
また、圧延機のワークロールにおける通板方向出側に冷却装置、後続の冷却装置と連ねて設置することにより、被圧延材を圧延直後から冷却し続けて十分な温度まで下げることができる。よって、圧延後0.2秒以内に冷却を開始して、結晶粒の微細化された高強度鋼板を製造することができる。
また、後続の冷却装置の上側冷却器をパスラインに対して上方向へ回動することにより、固定される下側冷却器との隙間を大きく開くことができるので、種々の作業を行うための空間を確保することができる。よって、補修等の作業を容易に行うことができる。なお、後続の冷却装置における通板方向出側の直近にピンチロール装置等を設置した場合においても、後続の冷却装置の上側冷却器をパスラインに対して上方向へ回動させるので、後続の冷却装置とピンチロール装置等との干渉を伴わずに前述の空間を確保することができる。更に、後続の冷却装置の上側冷却器をパスラインに対して上方向へ回動させることにより、冷却装置を通板方向出側へ移動、もしくは取出すための空間を確保することができる。よって、冷却装置を通板方向出側へ取出して、冷却装置の補修等の作業を容易にすることができる。
【0023】
第二の発明に係る熱延鋼板の製造設備によれば、第一の冷却装置、第二の冷却装置、第三の冷却装置を備えた冷却設備とすることにより、第一の冷却装置、第二の冷却装置、第三の冷却装置をそれぞれの用途に合った大きさ、冷却能力、設置位置で設定することができる。第一の冷却装置を小型化することにより、第一の冷却装置を圧延機のワークロールにおける通板方向出側の直近に設置することができるので、圧延の直後に被圧延材を冷却することができる。また、第二の冷却装置をある程度小型化することにより、第一の冷却装置における通板方向出側の直近に設置することができるので、第一の冷却装置に続いて被圧延材を冷却し続けることができる。更に、第三の冷却装置の設置位置を第二の冷却装置における通板方向出側の直近とすることにより、第三の冷却装置を周辺機器等による空間の制約が少ない圧延機のワークロールから離れた位置に設置することができるので、第三の冷却装置を大きくすることができる。よって、第三の冷却装置に十分な冷却能力を持たせることができ、被圧延材を十分に冷却することができる。
また、圧延機のワークロールにおける通板方向出側に第一の冷却装置、第二の冷却装置、第三の冷却装置と連ねて設置することにより、被圧延材を圧延直後から冷却し続けて十分な温度まで下げることができる。よって、圧延後0.2秒以内に冷却を開始して、結晶粒の微細化された高強度鋼板を製造することができる。
また、第三の冷却装置の上側冷却器をパスラインに対して上方向へ回動することにより、固定される下側冷却器との隙間を大きく開くことができるので、種々の作業を行うための空間を確保することができる。よって、補修等の作業を容易に行うことができる。なお、第三の冷却装置における通板方向出側の直近にピンチロール装置等を設置した場合においても、第三の冷却装置の上側冷却器をパスラインに対して上方向へ回動させるので、第三の冷却装置とピンチロール装置等との干渉を伴わずに前述の空間を確保することができる。更に、第三の冷却装置の上側冷却器をパスラインに対して上方向へ回動させることにより、第一の冷却装置および第二の冷却装置を通板方向出側へ移動、もしくは取出すための空間を確保することができる。よって、第一の冷却装置および第二の冷却装置を通板方向出側へ取出して、第一の冷却装置および第二の冷却装置の補修等の作業を容易にすることができる。
【0024】
第三の発明に係る熱延鋼板の製造設備によれば、第一の冷却装置における上側冷却器および下側冷却器は第二の冷却装置における上側冷却器および下側冷却器に対して通板方向に移動可能であり、第二の冷却装置における上側冷却器および下側冷却器は圧延機のハウジングに対して通板方向に移動可能であるので、第一の冷却装置における上側冷却器および下側冷却器と第二の冷却装置における上側冷却器および下側冷却器をそれぞれ個別に移動させることができ、圧延機のワークロールの径、傾きの変化に対して追従し位置を細かく調整することができる。また、第一の冷却装置における上側冷却器および下側冷却器と第二の冷却装置における上側冷却器および下側冷却器とを伸縮部材を介して連結し、第二の冷却装置における上側冷却器および下側冷却器と圧延機のハウジングとを伸縮部材とは別の伸縮部材を介して連結しているので、簡易な構造とすることができる。
【0025】
第四の発明に係る熱延鋼板の製造設備によれば、第三の冷却装置における上側冷却器を圧延機の近傍に設置する回転軸部材を軸としてパスラインに対して上方向へ回動可能としているので、第三の冷却装置における上側冷却器を下側冷却器に対して大きく開くことができる。また、複数のヘッダ制御弁を積載したフレーム部材を本管中心に回動させることにより、第三の冷却装置における上側冷却器の回動時にはフレーム部材にモーメント力が作用するので、第三の冷却装置における上側冷却器では、制御弁をバランサーとしてフレーム部材の反対側に配置しスイング部材の重心を回転軸の近傍に配置することで、フレームの強度および剛性を低くすることができる。よって、第三の冷却装置における上側冷却器の製作費用および大きさを抑えることができる。
【0026】
第五の発明に係る熱延鋼板の製造設備によれば、回転軸部材を第三の冷却装置に供給する冷却水を流す本管とすることにより、設置する機器の数を抑えることができるので、製造設備全体としての製作費用および大きさを抑えることができる。
【0027】
第六の発明に係る熱延鋼板の製造設備によれば、圧延機の近傍に設置した本管と第三の冷却装置との間に設置する支管に冷却水の流量を制御する制御弁を設けることにより、冷却水を噴射させる噴射口から近い位置で冷却水の流量を制御することができるので、制御弁を作動してから噴射口における冷却水の噴射流量が制御されるまでに掛かる時間が短い。よって、冷却水の噴射流量を俊敏に制御することができるので、冷却条件等の細かい設定および素早い設定の切換えをすることができる。
【0028】
第七の発明に係る熱延鋼板の製造設備によれば、前記第一の冷却装置、前記第二の冷却装置、第三の冷却装置の少なくとも一つにおける多数のノズルに、通水の開閉を個々に制御することのできる開閉弁を設けることにより、冷却水を常時ヘッダ内に充満させることができるので、所定の圧力になれば噴射できるため、高い応答性を実現することができる。また、水撃力を低くすることができるので、フレーム部材の強度および剛性を低く抑えることができる。
【0029】
第八の発明に係る熱延鋼板の製造設備によれば、第三の冷却装置におけるヘッダユニットと下流側通板ガイドとを容易に着脱できるようにピン結合としているので、第三の冷却装置の補修やヘッダユニットの交換等の作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施例1に係る熱延鋼板の製造設備を示す側面図である。
図2】実施例1に係る熱延鋼板の製造設備を示す側断面図である。
図3】実施例1に係る熱延鋼板の製造設備を示す平面図である。
図4】実施例1に係る熱延鋼板の製造設備における第一の冷却装置および第二の冷却装置とハウジングとの係合を示す横断面図(図2におけるIV矢視断面図)である。
図5A】実施例1に係る熱延鋼板の製造設備における第三の冷却装置の冷却位置を示す横断面図である。
図5B】実施例1に係る熱延鋼板の製造設備における第三の冷却装置の退避位置を示す横断面図である。
図6A】実施例1に係る熱延鋼板の製造設備における第三の冷却装置の閉じた状態の開閉弁を示す説明図である。
図6B】実施例1に係る熱延鋼板の製造設備における第三の冷却装置の開いた状態の開閉弁を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明に係る熱延鋼板の製造設備の実施例について、添付図面を参照して詳細に説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各種変更が可能であることは言うまでもない。
【実施例1】
【0032】
本実施例に係る熱延鋼板の製造設備の構成について、図1乃至図6Aおよび図6Bを参照して説明する。
【0033】
本実施例に係る熱延鋼板の製造設備は、図2に示すように、被圧延材である帯板1を圧延機2によって圧延し、圧延機2における帯板1の通板方向出側(下流側、図中左方側)に設置した冷却設備3によって冷却する。なお、圧延機2による圧延後の帯板1は、自重等により撓むことがないように、冷却設備3の下流側に設置されたピンチロール装置4によって緊張されている。帯板1のピンチロール装置4への通板の案内は、ピンチロール装置4の上流側に設置されたサイドガイド5によってなされる。
【0034】
圧延機2は、熱間圧延設備における最終段に設置され、帯板1を圧延する上下一対のワークロール10と、ワークロール10を支持する上下一対のバックアップロール20と、ワークロール10およびバックアップロール20を覆うハウジング30とを備えている。もちろん、冷却設備3は本実施例のような最終段の圧延機2に限定されず、最終段以外に設置される圧延機の通板方向出側に冷却設備3を設置した熱延鋼板の製造設備としても良い。
【0035】
冷却設備3は、冷却水を噴射して帯板1を冷却する水噴射式冷却設備であり、圧延機2におけるワークロール10の下流側に連なって設置される上下一対の第一の冷却装置40a、40bと、上下一対の第二の冷却装置50a、50bと、上下一対の第三の冷却装置60a、60bとから成る。
【0036】
図1に示すように、第一の冷却装置40a、40bは、ワークロール10の下流側に隣接してハウジング30内側において帯板1に対して上下一対に設置され、帯板1がワークロール10に巻き付くのを防止するためにワークロール10に対接するストリッパガイド41a、41bと冷却水を帯板1に噴射する多数のノズル70を取付けた第一のノズルヘッダ42a、42bとを有し、第一冷却ゾーンAにおいて被圧延材1の冷却を行う。第一の冷却装置の上側冷却器40aと第一の冷却装置の下側冷却器40bは、それぞれ独立して通板方向に摺動可能である。ワークロール10が傾き、胴長方向への移動にも追従可能なガイド構造となっている。
【0037】
第二の冷却装置50a、50bは、第一の冷却装置40a、40bの下流側に隣接して帯板1に対して上下一対に設置され、帯板1が正しく通板されるように案内する通板ガイド51a、51bと冷却水を帯板1に噴射する多数のノズル70を取付けた第二のノズルヘッダ52a、52bとを有し、第二冷却ゾーンBにおいて被圧延材1の冷却を行う。第二の冷却装置の上側冷却器50aと第二の冷却装置の下側冷却器50bはそれぞれ独立して通板方向に摺動可能である。第一の冷却装置40a、40bは、第二の冷却装置50a、50bに入れ子状の構造で設置されている。
【0038】
第三の冷却装置60a、60bは、第二の冷却装置50a、50bの下流側に隣接してハウジング30外側において帯板1に対して上下一対に設置され、帯板1が正しく通板されるように案内する通板ガイド61a、61bと冷却水を帯板1に噴射する多数のノズル70を取付けた第三のノズルヘッダ62a、62bとを有し、第三冷却ゾーンCにおいて被圧延材1の冷却を行う。第三の冷却装置の上側冷却器60aはパスラインに対して上方向に回動可能であり、第三の冷却装置の下側冷却器60bは図示しない架台に固定されている。
【0039】
図4に示すように、帯板1の幅方向における第一の冷却装置の上側冷却器40aの側面および第二の冷却装置の上側冷却器50aの側面に設けたそれぞれのガイド突起43a、53aがハウジング30に設けたガイドレール31と係合し、第一の冷却装置の上側冷却器40aおよび第二の冷却装置の上側冷却器50aはハウジング30に対して通板方向に摺動可能に設置されている。同様にして、第一の冷却装置の下側冷却器40bおよび第二の冷却装置の下側冷却器50bは、ハウジング30に対して通板方向に摺動可能に設置されている。
【0040】
図1に示すように、第二の冷却装置50a、50bには、第一の油圧シリンダ80a、80bと第二の油圧シリンダ90a、90bが取付けられている。第一の油圧シリンダ80a、80bの先端部は、図示しない係合ピンによって第一の冷却装置40a、40bと連結されている。第二の油圧シリンダ90a、90bの先端部は、図示しない係合ピンによってハウジング30と連結されている。
【0041】
第一の油圧シリンダ80a、80bを収縮させると、第一の冷却装置40a、40bは、第一の冷却装置40a、40bのガイド突起43a、43bがハウジング30のガイドレール31に沿って(図4参照)、第二の冷却装置50a、50bに近づくように下流側へ摺動する。一方、第一の油圧シリンダ80a、80bを伸長させると、第一の冷却装置40a、40bは、第一の冷却装置40a、40bのガイド突起43a、43bがハウジング30のガイドレール31に沿って(図4参照)、第二の冷却装置50a、50bから離れるように上流側(通板方向入側)へ摺動する。もちろん、第一の油圧シリンダ80a、80bはそれぞれ独立して伸縮し、第一の冷却装置40a、40bはそれぞれ独立して摺動可能である。
【0042】
第二の油圧シリンダ90a、90bを収縮させると、第二の冷却装置50a、50bは、第二の冷却装置50a、50bのガイド突起53a、53bがハウジング30のガイドレール31に沿って(図4参照)、ハウジング30に近づくように上流側へ摺動する。一方、第二の油圧シリンダ90a、90bを伸長させると、第二の冷却装置50a、50bは、第二の冷却装置50a、50bのガイド突起53a、53bがハウジング30のガイドレール31に沿って(図4参照)、ハウジング30から離れるように下流側へ摺動する。もちろん、第二の油圧シリンダ90a、90bはそれぞれ独立して伸縮し、第二の冷却装置50a、50bはそれぞれ独立して摺動可能である。
【0043】
第一の冷却装置40a、40bおよび第二の冷却装置50a、50bの摺動機構における作動源は本実施例の油圧シリンダに限定されず、例えば、第一の冷却装置40a、40bおよび第二の冷却装置50a、50bをエアシリンダで摺動させても良く、ラックピニオンを設けて電気モータ等で摺動させても良い。ただし、多量の冷却水を使用する環境においては、潤滑油の不足による駆動摩擦増大や金属部品の酸化等による損傷を考慮する必要があり、摺動機構における作動源をシリンダ構造の伸縮部材とすることが好ましい。
【0044】
第一の油圧シリンダ80a、80bにより第一の冷却装置40a、40bを上流側へ摺動させることができるので、第一の冷却装置40a、40bのストリッパガイド41a、41bをワークロール10径、傾きの変化等に追従して対接させることができる。よって、帯板1がワークロール10の外周面に巻き付き防止のためには、ワークロール10に対接するストリッパガイド41a、41bによって帯板1はワークロール10の外周面から剥されて、正しく通板される。また、第一の冷却装置40a、40bがワークロール10のより直近に位置するので、帯板1の圧延直後の冷却をより早く開始することができる。
【0045】
第一の油圧シリンダ80a、80bにより第一の冷却装置40a、40bおよび第二の冷却装置50a、50bを下流側へ摺動させることができるので、ワークロール10近傍の空間を広げることができる。よって、補修等の作業を容易に行うことができる。
【0046】
また、第二の油圧シリンダ90a、90bとハウジング30とを連結している図示しない係合ピンを外すことで、第一の冷却装置40a、40bおよび第二の冷却装置50a、50bを一体(第一の油圧シリンダ80a、80bを介して連結された状態)でハウジング30から取り外すことができる。図示しない係合ピンを付け外しするだけで、第一の冷却装置40a、40bおよび第二の冷却装置50a、50bのハウジング30への組付けおよび組外し作業を容易に行うことができる。
【0047】
もちろん、第一の油圧シリンダ80a、80bと第一の冷却装置40a、40bとを連結している図示しない係合ピンを外した状態で、第一の冷却装置40a、40bおよび第二の冷却装置50a、50bを別々にハウジング30への組付けおよび組外し作業を行っても良い。
【0048】
図3に示すように、冷却設備3へ冷却水を供給するための本管100は、圧延機2に隣接して通板方向に沿うように配設される。本管100に回転可能な継手であるロータリージョイント102と回転軸受である回転支持台103を備え、本管100の一部(回転部101)を回転可能としている。さらに、回転可能な本管100の回転部101に第三の冷却装置の上側冷却器60aを取付けるフレーム部材110を連結し、本管100の回転部101と共にフレーム部材110および第三の冷却装置の上側冷却器60aを回動可能としている。
【0049】
図5Aおよび図5Bに示すように、本実施例では、回転部101に設けたアーム部104に回転油圧シリンダ150を取付けている。回転油圧シリンダ150の伸縮動作によって、回転部101およびフレーム部材110を回転させることができる。回転油圧シリンダ150を収縮させると、回転部101と共にフレーム部材110は帯板1から離れるように上方へ回転動作して退避位置(図5Bにおける位置)に位置する。回転油圧シリンダ150を伸長させると、回転部101と共にフレーム部材110は帯板1へ近づくように下方へ回転動作して冷却位置(図5Aにおける位置)に位置する。
【0050】
なお、回転油圧シリンダ150を伸長させて、フレーム部材110を冷却位置に位置させる際に、衝撃を緩和することができるように図示しない衝撃緩和部材を設置する。衝撃緩和部材としては、冷却位置におけるフレーム部材110と接触するようにコイルスプリングやラバースプリング、ウレタンゴムなどの衝撃を吸収できるような弾性体とすることが好ましい。
【0051】
また、本実施例では、フレーム部材110が冷却位置に正確に位置するようにストッパ部材111を備える。ストッパ部材111としては、様々な冷却条件に則することができるように、第三の冷却装置の上側冷却器60aにおけるノズル70と帯板1との距離を調整することができることが好ましい。例えば、フレーム部材110およびストッパ部材111に距離調整用斜面を設け、油圧シリンダ等の伸縮動作によって距離調整用斜面の対接位置を変えることにより、第三の冷却装置の上側冷却器60aにおけるノズル70と帯板1との距離を調整できるようにする。
【0052】
回転部101の回転動作機構は本実施例に限定されない。例えば、回転部101と第三の冷却装置60a、60bとの間のフレーム部材110に回転油圧シリンダ150を直接連結させ、回転油圧シリンダ150の収縮によりフレーム部材110を引き上げるように、または回転油圧シリンダ150の伸長によりフレーム部材110を押し上げるように回転部101と共に回転させても良く、電気モータ等を用いて回転させても良い。
【0053】
第三の冷却装置の上側冷却器60aには、複数(本実施例では10個)に区切られた貯水部120を形成している。図5Aに示すように、貯水部120にはノズルヘッダ62aを取付けるための開口部121を形成している。
【0054】
ノズルヘッダ62aを取付けた際に冷却水の漏洩を防ぐことができるように、開口部121にシール部材130が設けられている。シール部材130は、貯水部120に供給される冷却水の圧力を受けて開口部121とノズルヘッダ62aとの取付け隙間をシールする簡易な構造である。よって、ノズルヘッダ62aは、フレーム部材110に挟まれて固定されている構造で着脱が容易であり、ノズルヘッダ62aの交換等の作業効率が良い。
【0055】
また、第三の冷却装置60a、60bにおける冷却水を噴射するための複数のノズル70には、冷却水の通水開始と停止との切替えを制御流体で行う開閉弁140(図6Aおよび図6B参照)が取付けられている。図6Aおよび図6Bに示すように、開閉弁140は、冷却水の通水穴141を設けた内部材142と、内部材142を一方向にのみ摺動可能に把持する外部材143を備える。
【0056】
内部材142と外部材143との間に制御流体を流し込むことにより、外部材143に対して内部材142が摺動して、通水穴141を閉じる(図6A)。内部材142と外部材143との間に流し込まれた制御流体を排出することにより、外部材143に対して内部材142が摺動して、通水穴141を開ける(図6B)。なお、第三の冷却装置60a、60bの複数のノズル70に設けた開閉弁140は個々に制御可能である。
【0057】
貯水部120と回転部101を連結するように、フレーム部材110とは独立した支管160が設置される。支管160は、回転部101にフレーム部材110と同様に回動可能に支持されている。冷却水は、支管160を通って貯水部120へ供給され、第三の冷却装置の上側冷却器60aにおいて噴射される。なお、第一の冷却装置40a、40b、第二の冷却装置50a、50b、第三の冷却装置の下側冷却器60bには、支管160とは別の図示しない支管を介して、冷却水が供給される。
【0058】
支管160には流量調整弁170が設けられ、支管160を流れる冷却水の流量が調整される。支管160に設置される流量調整弁170は、第三の冷却装置の上側冷却器60aの近傍に位置することになり、流量調整弁170を調整してから第三の冷却装置の上側冷却器60aにおける冷却水の噴射流量が制御されるまでに掛かる時間を短くすることができる。つまり、第三の冷却装置の上側冷却器60aにおける冷却水の噴射流量を俊敏に制御することができる。
【0059】
また、流量調整弁170は、回転部101の回転動作機構におけるバランサーとしての役割も果たす。図5Aに示すように、フレーム部材110や支管160および流量調整弁170等を含めた回転部101と共に回転する機器の重心が、回転部101の軸である回転中心101cに近づくように、流量調整弁170を設置する。つまり、フレーム部材110等の質量により回転部101に掛かるモーメントと逆のモーメントが回転部101に掛かるような位置に流量調整弁170を設置する。
【0060】
流量調整弁170とフレーム部材110とは回転部101に互いに逆のモーメントが掛かるような位置に設置されているので、流量調整弁170およびフレーム部材110等を含めた回転部101と共に回転する機器の重心が回転中心101cに近づく。よって、流量調整弁170およびフレーム部材110を回転させるために必要な力を抑えることができる。また、流量調整弁170およびフレーム部材110に掛かる力も小さいので、高強度および高剛性を持たせるために、流量調整弁170およびフレーム部材110の巨大化を抑えることができる。
【0061】
もちろん、流量調整弁170の設置位置は本実施例に限定されず、第三の冷却装置の上側冷却器60aに近い位置であれば良い。本実施例のように、大流量の冷却水を制御するために流量調整弁170が大きくした場合には、流量調整弁170は重量物であるので、回転部101と共に回転する機器の重心が回転中心101cに近づくように、流量調整弁170を設置することが好ましい。なお、回転作動した際に流量調整弁170が損傷しないように、流量調整弁170を支える補助部材を取付けることが好ましい。
【0062】
次に、本実施例に係る熱延鋼板の製造設備の作動について、図1乃至図3および図5Aを参照して説明する。
【0063】
まず、圧延機2および冷却設備3を稼働させる前に、本管100の図示しない元栓をゆっくり開けて本管100内を冷却水で満たし(図3参照)、支管160に設けた流量調整弁170をゆっくり開けて支管160およびフレーム部材110の貯水部120を冷却水で満たす(図5A参照)。本管100の図示しない元栓および支管160の流量調整弁170を開閉速度を調整することで、冷却水が通水量の変更をする際の水衝撃を極小とすることができる。
【0064】
次に、圧延機2を稼働させると共に、所定の冷却条件に則するように流量調整弁170による冷却水の流量を調整し、所定の冷却条件に則するように開閉弁140を開閉する。図2に示すように、帯板1は、圧延機2における上下一対のワークロール10によって圧延されると共に、ピンチロール装置4によって緊張されている。よって、帯板1は、ワークロール10とピンチロール装置4との間において撓むことなく、冷却設備3による冷却水の噴射を受けて冷却される。
【0065】
まず、第一冷却ゾーンAにおいて、帯板1は圧延機2におけるワークロール10により圧延された直後(本実施例では圧延後0.2秒以内)に第一の冷却装置40a、40bにより冷却される。次いで、第二冷却ゾーンBにおいて、第一の冷却装置40a、40bによる冷却から間を置くことなく、帯板1は第二の冷却装置50a、50bにより更に冷却される。次いで、第三冷却ゾーンCにおいて、帯板1は第三の冷却装置60a、60bにより十分に冷却される。
【0066】
第一の冷却装置40a、40bを簡易な構造で形成して小型化したことにより、ストリッパガイド41a、41bがワークロール10に対接するほどに圧延機2の通板方向出側の直近に第一の冷却装置40a、40bを配置することができ、圧延直後に帯板1の冷却を開始することができる。よって、合金元素の添加量が少なく、結晶粒が微細化された高強度鋼板を製造することができる。
【0067】
また、図1に示すように、第一の冷却装置40a、40bを第一の油圧シリンダ80a、80bを介して第二の冷却装置50a、50bと連結させたことにより、第一の冷却装置40a、40bを第二の冷却装置50a、50bに対して通板方向に摺動することができ、第一の冷却装置40a、40bにおけるストリッパガイド41a、41bをワークロール10の径の変化に追従してワークロール10に対接させることができる。よって、帯板1が圧延後にワークロール10に巻き付くことを防止することができる。
【0068】
第二の冷却装置50a、50bを簡易な構造で小型化したことにより、第一の冷却装置40a、40bと第三の冷却装置60a、60bとの間に配置でき、第一の冷却装置40a、40bによる冷却後にも帯板1を連続的に冷却することができる。よって、第一の冷却装置40a、40bと合わせて帯板1を十分に冷却させることができる。なお、第二の冷却装置50a、50bに第一の冷却装置40a、40bよりも高い冷却能力を備えることにより、冷却設備3全体としての冷却能力を向上させることができる。第二の冷却装置50a、50bは、ワークロール10の直近ではなく、第一の冷却装置40a、40bの下流側に設置されるので、冷却能力の向上に伴う大型化が許容される。
【0069】
第三の冷却装置60a、60bに第一の冷却装置40a、40bおよび第二の冷却装置50a、50bよりも高い冷却能力を備えることにより、圧延した帯板1を図示しないコイルに巻き取れるほどに十分な冷却を行うことができる。第三の冷却装置60a、60bは、ワークロール10または第一の冷却装置40a、40bの直近ではなく、第二の冷却装置50a、50bの下流側に設置されるので、冷却能力の向上に伴う更なる大型化が許容される。また、図5Aに示すように、第三の冷却装置60a、60bに流量調整弁170および開閉弁140を設置して、冷却水の噴射流量を細かく俊敏に制御できるようにしたことにより、帯板1の冷却温度、冷却時間、冷却過程等の細かい冷却条件の管理を行うことができる。
【0070】
次に、本実施例に係る熱延鋼板の製造設備の補修等の作業について、図1図5A図5Bおよび図6Aを参照して説明する。
【0071】
圧延機2および冷却設備3の補修およびワークロール10の交換等においては、冷却設備3を大きく開放させることにより、保善作業を容易にできる。
【0072】
まず、圧延機2を停止させた後に、第三の冷却装置60a、60bの開閉弁140を全て閉じた状態で(図6A参照)、支管160に設けた流量調整弁170を閉じて、支管160への冷却水の供給を止める(図5A参照)。次いで、開閉弁140の一部または全部を開けて支管160および貯水部120に残った冷却水を排出する。支管160への冷却水の供給を止めて支管160内の冷却水を開閉弁140から排出させることで、旋回に必要な力を小さくする。
【0073】
次に、回転油圧シリンダ150を収縮させてアーム部104と共に本管100の回転部101を回動する。回転部101に連結する支管160、フレーム部材110、第三の冷却装置の上側冷却器60a等は、回転部101の軸である回転中心101cを中心にして帯板1から離れるように上方へ回転動作して退避位置(図5B参照)に位置する。よって、第二の冷却装置の上側冷却器50aの下流側には広い空間ができ、冷却設備3の補修等の作業を容易に行うことができると共に、第二の冷却装置の上側冷却器50aがハウジング30から離れるように下流側へ摺動する空間ができる(図1参照)。
【0074】
なお、第三の冷却装置の上側冷却器60aの通板ガイド61aを外した状態で第三の冷却装置の上側冷却器60aを上方へ回転動作させた場合には、第三の冷却装置の上側冷却器60aのノズルヘッダ62aは露出した状態であるので、ノズルヘッダ62aにおけるノズル交換等の保全作業を広い空間で行うことができる(図5B参照)。
【0075】
次に、第二の油圧シリンダ90a、90bとハウジング30とを連結している図示しない係合ピンを外し、第一の冷却装置40a、40bおよび第二の冷却装置50a、50bを一体(第一の油圧シリンダ80a、80bを介して連結された状態)でハウジング30から取り外す。圧延機2の直近に設置されていた第一の冷却装置40a、40bおよび第二の冷却装置50a、50bが取外されたので、ワークロール10近傍には広い空間ができ、圧延機2の補修やワークロール10の交換等の作業を容易に行うことができる(図1参照)。
【0076】
図示しない係合ピンの付け外しだけなので、第一の冷却装置40a、40bおよび第二の冷却装置50a、50bのハウジング30への組付けおよび組外しにおける作業を容易に行うことができる。もちろん、第一の油圧シリンダ80a、80bと第一の冷却装置40a、40bとを連結している図示しない係合ピンを外した状態で、第一の冷却装置40a、40bおよび第二の冷却装置50a、50bを別々にハウジング30から取り外しても良い。
【0077】
また、図2において、第一冷却ゾーンAでの冷却が行われず、第二冷却ゾーンBと第三冷却ゾーンCでの冷却としても圧延後0.2秒以内に冷却を開始することができるような場合には、第一の冷却装置40a、40bがなく、第二の冷却装置50a、50bおよび第三の冷却装置60a、60bが存在するようにしても良く、第一冷却ゾーンAと第二冷却ゾーンBでの冷却が行われず、第三冷却ゾーンCのみの冷却としても圧延後0.2秒以内に冷却を開始することができるような場合には、第一の冷却装置40a、40bと第二の冷却装置50a、50bがなく、第三の冷却装置60a、60bのみが存在するようにしても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更された形態であることは明確である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、圧延直後に冷却することができるので、鋼板における結晶粒の微細化を目的とする熱間圧延における製造設備として好適である。また、冷却水の噴射流量等の冷却条件を俊敏に制御することができるので、圧延中に圧延条件を変更し得る連続鋳造圧延における製造設備として特に好適である。
【符号の説明】
【0079】
1 帯板
2 圧延機
3 冷却設備
4 ピンチロール装置
5 サイドガイド
10 ワークロール
20 バックアップロール
30 ハウジング
31 ガイドレール
40 第一の冷却装置
41 第一の冷却装置のストリッパガイド
42 第一の冷却装置のノズルヘッダ
43 第一の冷却装置のガイド突起
50 第二の冷却装置
51 第二の冷却装置の通板ガイド
52 第二の冷却装置のノズルヘッダ
53 第二の冷却装置のガイド突起
60 第三の冷却装置
61 第三の冷却装置の通板ガイド
62 第三の冷却装置のノズルヘッダ
70 ノズル
80 第一の油圧シリンダ
90 第二の油圧シリンダ
100 本管
101 本管の回転部
102 本管のロータリージョイント
103 本管の回転支持台
104 本管のアーム部
110 フレーム部材
111 ストッパ部材
120 貯水部
121 貯水部の開口部
130 シール部材
140 開閉弁
141 通水穴
142 内部材
143 外部材
150 回転油圧シリンダ
160 支管
170 支管の流量調整弁
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B