【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成すべく、本発明による計測管理システムは、管理者側のマスターコンピュータを中心に、複数の無線機器が階層的に通信可能にネットワークを構成しており、少なくとも1つの無線機器には計測器が接続されてなる計測管理システムであって、前記マスターコンピュータと無線機器はそれぞれ、電波の送受信をおこなう無線通信手段と、固有のIDを格納するID格納手段と、周波数ごとに設定された複数のチャンネルから任意のチャンネルを選択するためのチャンネル選択手段とを少なくとも備えており、マスターコンピュータには、該マスターコンピュータと電波の送受信が可能な無線機器、および、電波の送受信が可能な各無線機器間のルートを特定するテーブルデータを格納するテーブルデータ格納手段と、該テーブルデータに基づいて少なくとも計測器とマスターコンピュータとの間のネットワークを構築するネットワーク構築手段とをさらに備えており、マスターコンピュータと任意の無線機器との間および/または任意の無線機器間において電波の送受信が不能となった際に、前記テーブルデータに基づいて他の電波送受信ルートが選択され、ネットワークが再構築されるように構成されており、前記テーブルデータは、その縦欄と横欄に通信局番号が規定され、マスターコンピュータと送受信可能な無線機器との間における受信電波信号強度、および、送受信可能な無線機器間における受信電波信号強度が表示されてなるテーブルデータからなり、マスターコンピュータが該テーブルデータに基づいて受信強度の大きな機器間でネットワークを構築するものであり、ネットワークを構築する際には、マスターコンピュータと直接通信可能な無線機器が第1の階層に設定され、少なくとも該第1の階層に属する無線機器と直接通信可能な無線機器が第2の階層に設定され、以下順に、下層の階層が設定されるようになっており、このネットワークの構築において、前記テーブルデータにおける上層の階層となる局を横欄で選択して該局に対応する縦欄を参照し、受信電波信号強度の大きさに基づいて該局の下層の階層となる別途の局を選択して電波送受信ルートを構築するようになっており、ネットワークの一部で電波の送受信が恒久的に不能となり、ネットワークを再構築する際には、前記テーブルデータにおいて、電波の送受信が不能となった電波送受信ルートを構成する2つの局のうち、下層の階層の局を縦欄で選択して該局に対応する横欄を参照し、受信電波信号強度の大きさに基づいて上層の階層となる別途の局を選択して電波送受信ルートを再構築するようになっている計測管理システムにおいて、マスターコンピュータが具備する前記テーブルデータが簡素化された通信運用ファイルを少なくとも複数の前記無線機器がさらに備えており、任意の上層と下層の無線機器間で通信が一時的に不通となった際に、マスターコンピュータによるテーブルデータを使用した電波送受信ルートの再構築に拠ることなく、該上層もしくは下層の一方の無線機器が自身の具備する前記通信運用ファイルを参照して通信可能な別途の無線機器を検索し、自律的に電波送受信ルートを再構築するようになっているものである。
【0016】
本発明の計測管理システムは、建設現場内の各所に設置された適宜の計測器(ないしはセンサ)の計測データを管理者側のマスターコンピュータに送信するための計測管理システムに関し、各計測器とマスターコンピュータとの間を無線通信にて繋ぐとともに、任意の通信ルート間で「恒久的」に通信不能な事態が生じた場合には、マスターコンピュータの有するテーブルデータに基づいて自律的に通信ルートを再構築することにより、確実に計測データをマスターコンピュータに送信することのできる計測管理システムに関するものである。そして特に、建設機械が設置される等によって任意のルートにおける無線機器が「一時的」に通信不能となった際には、マスターコンピュータによるテーブルデータに基づいた通信可能なルートの再構築に拠ることなく、少なくとも無線機器が通信運用ファイルを参照して自律的に通信ルートを再構築することにより、ネットワークの再構築を短時間でおこなうことができることを最大の特徴とするものである。
【0017】
マスターコンピュータは、建設現場における事務所内や、本社、支店等の管理セクション内に設置されており、現場内の適所に設置されている各計測器(センサ)の計測データを複数の電波通信可能なルートを経由して収集/蓄積するものである。また、マスターコンピュータ内には、施工段階に応じた山留め部材の許容応力値や歪みの値、土水圧の設計値等が予め入力されており、受信された計測データと許容値ないしは設計値とを比較しながら施工管理がおこなわれるようになっている。
【0018】
ここで、マスターコンピュータから計測器までを繋ぐ複数の電波通信可能なルートの構築に際しては、現場の適所に複数の無線機器を設置しておき、各無線機器を経由してマスターコンピュータに計測データが送信できるように構成する。無線機器は、少なくとも電波の送受信が可能な無線通信手段を備えているものであればその形態は特に限定されるものではないが、例えば公知のモデムを使用することができる。
【0019】
マスターコンピュータと無線機器には、上記する無線通信手段のほかに、各機器を特定するためのID番号を格納したID格納手段と、周波数ごとに複数のチャンネルを選択できるチャンネル選択手段が備えてある。例えば、マスターコンピュータと無線機器に、適宜の周波数帯域において、チャンネルごとにON/OFFを切替えながら周波数(チャンネル)の切替えが可能なDIP-Switchを設けておくことができる。また、各無線機器には、例えばコネクタおよびスキャナが装着されており、このスキャナに適宜の計測器が接続できるようになっている。したがって、無線機器は、電波の送受信の際の中継局の役割を担う場合もあるし、計測器が接続された場合には、計測データを収集し、この計測データを中継局である別途の無線機器ないしはマスターコンピュータに送信する役割を担う場合もある。これは、現場の工事進歩状況に応じてその使用目的が変更されることに対応するものである。テーブルデータの形成に際しては、マスターコンピュータと各無線機器において、ある任意の周波数のチャンネルに設定し、この状態で無線通信可能なルートの特定をおこなうことができる。なお、マスターコンピュータに無線通信手段が外付けされた構成であってもよいことは勿論のことである。
【0020】
現場内では、仮設構造物や構築されている躯体等、様々な障害物が存在することから、場内の任意の地点に設置された無線機器が電波通信可能な無線機器は、その一部の無線機器となる。したがって、マスターコンピュータと場内の各所に設置された無線機器との間で、各無線機器が通信可能な無線機器ないしはマスターコンピュータとの通信可能ルートを特定する必要がある。そこで、場内に設置された各無線機器が他の無線機器を経由してマスターコンピュータと通信可能なルート、あるいは各無線機器が直接マスターコンピュータと通信可能なルートを特定し、特定された通信可能ルートをテーブルデータとしてマスターコンピュータに内蔵されたテーブルデータ格納手段に格納される。
【0021】
この通信可能なルートは、無線機器の基数や現場の障害物の有無の状況等によって変化するため、マスターコンピュータは、少なくとも、設置されたすべての無線機器がマスターコンピュータを中心として階層的に繋がる任意の通信可能ルートをこのテーブルデータに基づいて決定する。この決定は、マスターコンピュータ内に内蔵されたネットワーク構築手段(公知のCPU等)によっておこなわれる。なお、マスターコンピュータにてネットワークが構築されると、各無線機器は、自身が電波の送受信をおこなう相手の無線機器のID番号を、マスターコンピュータからの指令に基づいて自身のID格納手段に自動設定することができる。
【0022】
マスターコンピュータと直接通信可能な無線機器は第1の階層に設定され、第1の階層に属する無線機器と直接通信可能な無線機器が第2の階層に設定され、以下順に、下層の階層が設定されるようになっており、階層ごとに固有のチャンネルが設定されるようになっている。
【0023】
例えば、マスターコンピュータと直接通信が可能な無線機器であって、かつ、該無線機器同士の双方向の通信が可能な無線機器を特定し、特定された無線機器群を第1の階層に設定する。次に、第1の階層群に属する無線機器と直接無線通信が可能な無線機器を第2の階層に設定し、以後同様に第3の階層群、第4の階層群、…を設定していく。マスターコンピュータと直接通信する第1の階層群に属する無線機器を上記のように設定することで、任意のルートで通信不能となった場合のネットワークの再構築を極めて効率的に実行することが可能となる。
【0024】
マスターコンピュータでは、既述するテーブルデータに基づいて一定のチャンネルにおいてネットワークを構築する。その後、階層ごとに固有の周波数(チャンネル)を設定しておくことにより、同じ階層における双方向通信の可否を短時間に特定することが可能となるため、ネットワークの再構築が極めて効率的におこなわれ得る。
【0025】
ここで、前記テーブルデータは、マスターコンピュータと送受信可能な無線機器との間における受信電波信号強度、および、送受信可能な無線機器間における受信電波信号強度が表示されてなるテーブルデータからなり、マスターコンピュータが該テーブルデータに基づいて受信強度の大きな機器間でネットワークを構築することができる。
【0026】
マスターコンピュータが受信した、各無線機器間の受信電波信号強度をテーブルデータとして表示するものであり、任意の無線機器が複数の無線機器と通信可能である場合には、受信電波信号強度が最も大きな無線機器と通信ルートを構築することにより、より明瞭な計測データをマスターコンピュータに送信することが可能となる。
【0027】
マスターコンピュータにてネットワークが構築された後は、各計測器からの計測データの収集を無線通信によっておこなう。
【0028】
任意のルートにおいて無線機器が破損したり、壁が構築される等して任意のルートでの通信が不能となったり、場内の施工状況の変化によって任意の無線機器間で電波の送受信が不能となる、いわゆる「恒久的」な通信不能の事態においては、マスターコンピュータにて電波受信不能を検知することができ、この段階で、マスターコンピュータは、テーブルデータに基づいて、電波の送受信不能となった無線機器が通信可能な別の無線機器との間で通信ルートを再構築することにより、各無線機器とマスターコンピュータとのネットワークの再構築がおこなわれる。
【0029】
このように恒久的な通信不能の事態においては、マスターコンピュータがテーブルデータに基づいて、任意の無線機器において受信電波信号強度の大きな別の無線機器を選定することにより、ネットワークの再構築がおこなわれる。本発明の計測管理システムによれば、ネットワーク構築のバリエーションをより多様化することができ、さらには、多様なバリエーションのネットワークの中から、最適なネットワークの再構築をおこなうことが可能となる。
【0030】
一方、クレーン等の大型機械が設置等されて無線機器が電波のかげに入ってしまい、任意のルートで「一時的」に送受信できないといった状況の場合に迅速に対応するべく、本発明の計測管理システムでは、マスターコンピュータが具備するテーブルデータが簡素化された通信運用ファイルを少なくとも全ての無線機器が備えていて、任意の上層と下層の無線機器間で通信が一時的に不通となった際には、上層、下層のいずれか一方の無線機器が自身の具備する通信運用ファイルを参照して通信可能な別途の無線機器を検索することができる。
【0031】
ここで、通信運用ファイルには、マスターコンピュータと各階層の無線機器を繋ぐ複数の通信ルートと、各無線機器が通信可能な他の無線機器に関する情報が少なくとも含まれている。
【0032】
このように、全ての無線機器が自身の具備する通信運用ファイルを参照して通信可能な別途の上層の無線機器を検索することにより、マスターコンピュータによるテーブルデータに基づいたネットワークの再構築に拠ることなく、通信可能なネットワークを迅速に再構築することができる。なお、マスターコンピュータもテーブルデータのほかにこの通信運用ファイルを具備していてもよい。マスターコンピュータが通信運用ファイルを参照してあらたなルートを再構築することによって、テーブルデータを使用する場合に比して短時間にネットワークの再構築をおこなうことができる。
【0033】
これは、自律通信ネットワーク技術の一つであるアドホック通信を改良した技術思想とも言える。すなわち、従来のアドホック通信は、通信可能な不特定の端末に対して通信が実施され、場当たり的な接続によって多数の目的局と通信をおこなう技術であり、端末の分布密度がネットワークの構築の出来栄えを左右するものである。これに対し、本発明の計測管理システムでは、ネットワークの上方の集約目的局は一局(マスターコンピュータ)であり、そのための無線機器(中継局)は理想的な分布密度にはなっていない。既述するように、クレーン等の大型機械が設置等されて通信が一時的に遮断された際に、各無線機器が自律的に迂回ルートを検索し、マスターコンピュータまで通信が可能となるルートの構築をおこなうものである。
【0034】
なお、マスターコンピュータと無線機器は、受信されたチャンネルごとのフロアノイズのノイズ強度を受信するとともに、該ノイズ強度が一定の閾値より大きな場合に電波の送受信が不能であると判定する判定手段をさらに備えていてもよい。
【0035】
周波数ごとに設けられた複数のチャンネルが選択可能に設けられていることから、チャンネルごとに固有のノイズが存在し、さらには、無線機器の設置場所に固有のフロアノイズが存在する。このフロアノイズにより、電波信号が不明瞭となり、ノイズ強度が計測データに関する受信電波信号強度と同程度である場合には、電波受信不能と何ら変わるものではない。そこで、本発明の計測管理システムにおいては、計測データに関する受信電波信号と同時に受信されるフロアノイズがある一定の閾値を超える場合には、電波受信不能と判定することにより、ネットワークの再構築をおこなうものである。なお、このノイズ強度も、マスターコンピュータと通信可能な無線機器との間、および通信可能な無線機器間ごとのデータをテーブルデータとしてマスターコンピュータ内に形成することができる。例えば、マスターコンピュータ内のROM内に入力された閾値と、受信されたノイズ強度に基づいて形成されたテーブルデータ内の対応する値とを判定手段にて比較し、ノイズ強度が閾値を超えている場合には、受信不能とし、閾値以下の場合には受信可能として、例えば既述する第1のテーブルデータを再形成することができる。
【0036】
この実施の形態の計測管理システムによれば、フロアノイズを勘案して電波送受信の可否を特定することができるため、計測データに関する電波受信の可否をより精度よく特定した上で、ネットワークの構築ないしは再構築をおこなうことが可能となる。
【0037】
また、ネットワークの構築は、マスターコンピュータのID番号を0、各無線機器のID番号を順に、1,2,3,…,nとした場合に、任意のID番号の機器において、自身を電波送信側の機器とし、自身のID番号よりも大きなID番号の機器を電波受信側として各機器に電波を送信し、各機器からの応答信号を受信するとともに、応答信号の受信電波信号強度をマスターコンピュータに送信する送受信ステップをおこなうようになっており、該送受信ステップがマスターコンピュータから順におこなわれることにより、マスターコンピュータ内にテーブルデータが形成されるものであってもよい。
【0038】
この実施の形態の計測管理システムは、マスターコンピュータ内に形成されるテーブルデータの形成方法の一実施形態を示したものである。マスターコンピュータと各無線機器には、それぞれに固有のID番号が設定されており、このIDに基づいて各無線機器間ないしはマスターコンピュータと無線機器との間の電波の送受信がおこなわれることは既述の通りである。ここで、マスターコンピュータのID番号を仮に0とし、各無線機器にそれぞれ、1,2,…のID番号を設定する。
【0039】
まず、ID番号が最も小さなマスターコンピュータから電波を送信し、他のすべての無線機器を電波の受信側に設定する。この状態で、電波を受信した旨の応答信号をマスターコンピュータに送信可能な無線機器が特定されることにより、マスターコンピュータを中心として、マスターコンピュータと直接通信可能な無線機器が設定される。
【0040】
次いで、ID番号が1の無線機器を送信側に設定し、ID番号が2以上の他の無線機器を受信側に設定する。この状態で上記と同様に応答信号をID番号が1の無線機器に送信可能な無線機器を特定することで、ID番号が1の無線機器と通信可能な無線機器が設定される。この情報は、ID番号が1の無線機器からマスターコンピュータへ送られる。以後、ID番号が2以降の無線機器に関しても同様の操作を実行することにより、マスターコンピュータから各無線機器までの通信可能なルートの特定がおこなわれ、マスターコンピュータ内に通信可能なルートに基づくテーブルデータが形成される。
【0041】
なお、この操作において、応答信号として、受信電波信号強度とノイズ強度の双方を受信することにより、受信電波信号強度に関するテーブルデータとノイズ強度に関するテーブルデータの双方をマスターコンピュータ内に形成することもできる。この場合、ノイズ強度に関しては、既述するようにマスターコンピュータ内にて所定の閾値との比較がなされ、ノイズ強度が大きなルートは通信不能と判定されるため、かかる情報を勘案したテーブルデータの形成が可能となる。
【0042】
また、計測管理システムの好ましい実施形態として、使用される前記無線が、小電力無線である形態を挙げることができる。
【0043】
建設現場においては、電波法に基づいて、無免許で使用可能な電波を使用することが望ましい。例えば、周波数が420MHz程度の低周波数の電波を使用することができ、この周波数帯域において、複数のチャンネルを設定することが可能となる。低周波数電波を使用する利点は、無免許にて使用できることのみならず、電波波長が長いため、仮設構造物や躯体等の障害物を電波が回り込むことにより、容易に障害物を回避し易くなることである。なお、ここでいう小電力無線に、特定小電力無線が含まれていることは勿論のことである。また、無線LANを2ch通信手段に用いることもできる。
【0044】
また、前記計測器には、変位計、層別沈下計、応力計、地下水位計、傾斜計、ひずみ計、水圧計、土圧計、温度計を含む計測機器またはセンサのいずれか一種または複数が含まれる。
【0045】
建設現場にて使用される計測機器ないしはセンサとしては、一例として挙げた上記の計測器を使用することができるが、例示の計測器に限定されるものでないことは勿論のことである。これらの計測器が現場の施工状況に応じて、適宜の無線機器に接続され、また、必要に応じて接続を解除され、さらには、施工の途中で接続されることができる。