(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、接着剤を用いてシリンジと針管を固定する針付きシリンジでは、接着剤が必要となるだけでなく、シリンジを形成した後に接着工程が必要であった。そのため、接着剤の部品点数が増加するだけでなく、組み立てる際の工程数が増え、コストアップを招いていた。
【0006】
更に、シリンジ内には、薬剤が充填される場合もある。よって、針管とシリンジとを固定する接着剤がシリンジ内に充填される薬剤と接触(接液)する可能性があり、これが薬剤に悪影響を与える可能性がある、という問題を有していた。そのため、近年では、接着剤を用いない新たな固定方法として、インサート成形によって針管とシリンジを一体に形成する技術が求められている。
【0007】
本発明の目的は、上記の問題点を考慮し、接着剤を用いずにインサート成形によって針
管とシリンジを一体に形成することができる針付きシリンジ
及び針付きシリンジの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の針付きシリンジは、生体に穿刺可能な針先を有する針管と、インサート成形によ
り針管と一体に形成され
たシリンジと、を備えている。シリンジは、薬剤が充填される本体と、本体に連続して形成され、かつ針管の針先を突出させた状態で針管を固定する固定部と、を有している。そして、シリンジの固定部は
、針管の周面を支持固定する
ためのチャック部材が挿通される保持孔を有する。
また、針付きシリンジは、針管の針先及びシリンジの固定部を覆うキャップを有している。そして、固定部は、針管の針先が突出する密着部と、密着部と本体とを接続する接続部とからなる。密着部は、キャップの内面に密着し、保持孔は、接続部に形成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の針付きシリンジによれば、シリンジにおける固定部に針管の周面を支持固定するチャック部材が挿通される保持孔を形成したことにより、針管を軸方向の両端ではなく周面から保持することができる。これにより、成形時に針管をチャック部材で確実に保持することができるため、接着剤を用いずに、かつ正確な位置で針管とシリンジを一体に固定する事が可能である。また、インサート成形によって針管とシリンジを一体に形成することができるため、針管とシリンジとの接着工程を削減することができ、コストダウンを図ることが可能である。
【0010】
更に、チャック部材は、針管におけるシリンジの固定部で覆われる箇所に接触し、針管における生体に穿刺される箇所(穿刺箇所)には、接触しない。そのため、針管の穿刺箇所に傷が発生したり、汚れが付着したりすることを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の針付きシリンジの実施の形態例について、
図1〜
図8を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。また、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.針付きシリンジの構成例
2.針付きシリンジの組み立て
【0013】
1.針付きシリンジの構成例
まず、
図1〜
図7を参照して本発明の実施の形態例(以下、「本例」という。)にかかる針付きシリンジについて説明する。
図1は本例の針付きシリンジを示す斜視図、
図2は本例の針付きシリンジの要部を示す斜視図である。
図3は本例の針付きシリンジを示す側面図、
図4及び
図5は本例の針付きシリンジを示す断面図である。
【0014】
針付きシリンジ1は、針先を皮膚の表面より穿刺し、生体に薬剤を注入するために用いる。
図1に示すように、この針付きシリンジ1は、薬剤が充填されるシリンジ2と、このシリンジ2に固定される針管3と、キャップ4(
図6及び
図7参照)から構成されている。
【0015】
[針管]
まず、針管3について説明する。
針管3は、ISOの医療用針管の基準(ISO9626:1991/Amd.1:2001(E))で10〜33ゲージのサイズ(外径:φ3.5〜0.2mm)のものを使用し、好ましくは16〜33ゲージ(外径:φ1.7〜0.2mm)のものを使用する。この針管3の軸方向の一端には、針先3aを鋭角にするための刃面が形成されている。そして、針管3の軸方向の一側の針先3aが生体に穿刺される。
【0016】
針管3の材料としては、例えば、ステンレス鋼を挙げることができるが、これに限定されるものではなく、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金その他の金属を用いることができる。また、針管3は、ストレート針だけでなく、少なくとも一部がテーパー状となっているテーパー針を用いることができる。テーパー針としては、針先3a端部に比べて基端部が太い径を有しており、その中間部分をテーパー構造とすればよい。また、針管3の断面形状は、円形だけでなく、三角形等の多角形であってもよい。
【0017】
更に、針管3における針先3a側の表面には、例えばシリコーン樹脂やフッ素系樹脂等からなるコーティング剤が施される。これにより、針管3を生体に穿刺した際に、皮膚と針管との摩擦を低減することができ、穿刺時に伴う痛みを軽減させることが可能となる。
【0018】
この針管3は、針先3aを外側に突出させた状態でシリンジ2に固定される。そして、針管3の軸方向の一側の針先3aは、後述するシリンジ2の固定部7の先端から突出する。
【0019】
[シリンジ]
次に、シリンジ2について説明する。
シリンジ2は、薬剤が充填される本体6と、この本体6に連続する固定部7を備えている。本体6は、略円筒形に形成されており、この本体6の軸方向の一側に固定部7が連続して形成され、軸方向の他端が開口している。また、プレフィルドシリンジの場合は、この本体6の筒孔6a(
図2参照)に薬剤が充填され、本体6の軸方向の他側から押し子のガスケットが打栓される。更に、
図4に示すように、本体6の筒孔6aには、固定部7に固定された針管3の軸方向の他端である基端部3bが連通する。
【0020】
なお、本例では、シリンジ2の本体6の形状を略円筒形に形成した例を説明したが、本体6の形状は、中空の四角柱状や六角柱状であってもよい。
【0021】
図2及び
図3に示すように、固定部7は、本体6の軸方向の一側からその軸方向に沿って突出している。固定部7は、針管3の針先3aを突出させた状態で針管3とインサート成形によって一体に形成される。インサート成形によって針管3とシリンジ2の固定部7を一体に形成することで、接着剤を用いた接着工程を省くことができる。また、接着剤を用いないため、接着剤がシリンジ2内に充填した薬剤に接触して悪影響を与えるおそれがない。
【0022】
図4に示すように、針管3は、固定部7の軸心で、且つその軸方向に沿って配置される。また、固定部7は、本体6の軸方向の一端から連続する接続部8と、接続部から連続する密着部9を有している。
【0023】
接続部8は、本体6の軸方向と直交する方向で断面とした形状が十字状に形成されている。また、接続部8における密着部9側の径は、密着部9の外径よりも小さくなっている。そのため、固定部7は、接続部8と密着部9との接続箇所がくびれたような形状となっている。なお、本例においては、接続部8は、本体6から離れるにつれて細くなるように形成されているが、同じ太さで連続しているものでもよい。
【0024】
更に、接続部8には、周面から固定された針管3に連通する保持孔11が形成されている。
図4及び
図5に示すように、保持孔11は、接続部8の軸心と直交する貫通孔である。この保持孔11には、針管3の周面を支持固定するチャック部材26が挿通する(
図8参照)。これにより、インサート成形時に針管3をその軸方向と直交する方向から保持することができ、容易に且つ針管3が安定した状態でインサート成形を行うことができる。その結果、針管3が成型圧によって変形したり、曲がったりすることを防止することが可能である。
【0025】
なお、本例では、保持孔11を1つ設けた例を説明したが、これに限定されるものではなく、保持孔を2つ以上設けてもよい。保持孔の数が複数の場合は、接続部8における針管3の軸方向に沿って略等間隔に形成することが好ましい。
【0026】
また、
図4に示すように、接続部8における本体6側の端部、すなわち接続部8の軸方向の他端部8bには、離間穴12が形成されている。離間穴12は、接続部8における他端部8bの軸心に設けられている。この離間穴12には、針管3の基端部3bが配置される。
【0027】
更に、離間穴12は、針管3の外周面から離間している。なお、離間穴12の内面から針管3の外周面までの距離Sは、例えば0.3mm〜1.0mmの範囲に設定される。他端部8bに針管3の外周から離間する離間穴12を設けることにより、インサート成形時に樹脂が針管3の基端部3bから針孔に侵入し、針孔を塞ぐことを防止することができる。なお、この離間穴12は、インサート成形時に針管3の基端部3bを支持する支持部21aによって形成される(
図8参照)。
【0028】
なお、本例では、肉厚を薄くすると共に強度を確保するために接続部8の形状を十字状に形成した例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、接続部8の形状は、略円柱状、四角柱状や六角柱状であってもよい。
【0029】
接続部8の軸方向の一端、すなわち固定部7の先端側には、密着部9が設けられている。密着部9は、略円柱状に形成されている。この密着部9の軸方向の一側から、針管3の針先3aが突出する。密着部9の軸方向の一側は、その肉厚を薄くするために、外周部と針管3の周囲を除いて開口している。しかしながら、この開口を設けなくても、目的は達成できるものである。また、密着部9の外周面は、後述するキャップ4の内周面と密着する。
【0030】
なお、密着部9の形状を略円柱状に形成した例を説明したが、密着部9の形状は、キャップ4の筒孔4aの形状に対応した形状であれば、四角柱状や六角注状であってもよい。
【0031】
上述した構成を有するシリンジ2の材質としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12)のような各種樹脂が挙げられる。その中でも、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ−(4−メチルペンテン−1)のような樹脂を用いることが好ましい。なお、シリンジ2の材質は、内部の視認性を確保するために、実質的に透明であることが好ましい。
【0032】
このシリンジ2に充填される薬剤としては、通常注射剤として使用される薬剤であれば何でもよく、例えば抗体等の蛋白質性医薬品、ホルモン等のペプチド性医薬品、核酸医薬品、細胞医薬品、血液製剤、各種感染症を予防するワクチン、抗がん剤、麻酔薬、麻薬、抗生物質、ステロイド剤、蛋白質分解酵素阻害剤、ヘパリン、ブドウ糖等の糖質注射液、塩化ナトリウムや乳酸カリウム等の電解質補正用注射液、ビタミン剤、脂肪乳剤、造影剤、覚せい剤等が挙げられる。
【0033】
[キャップ]
次に、キャップ4について説明する。
図6及び
図7に示すように、キャップ4は、略円筒状に形成されており、軸方向の一端が開口し、軸方向の他端が閉じている。このキャップ4は、例えばゴムやエラストマー等の弾性部材から形成される。そして、
図6に示すように、キャップ4は、針管3の針先3a及びシリンジ2の固定部7を覆うようにして、シリンジ2の軸方向の一側に取り付けられる。そして、
図7に示すように、キャップ4の筒孔4a内に針管3の針先3a側及び固定部7が挿入される。
【0034】
なお、キャップ4の筒孔4aの内径は、固定部7の密着部9の外径と略等しいか、若干小さく設定されている。そのため、キャップ4をシリンジ2に取り付けた際、固定部7における密着部9の外周面がキャップ4の内周面に密着する。これにより、固定部7の密着部9から先端側である針管3の針先3a側が、密着部9とキャップ4の内周面によって密閉される。その結果、針先3aに菌が付着することを防ぐことができる。
【0035】
また、キャップ4の内周面は、その弾性力によって固定部7における密着部9と接続部8との接続箇所、くびれ部を締め付ける。これにより、キャップ4の内周面と固定部7のくびれ部が係合し、搬送時にキャップ4がシリンジ2から外れることを防止することができる。
【0036】
2.針付きシリンジの組み立て
次に、上述したような構成を有する針付きシリンジ1の組み立て方法について
図8を参照して説明する。
図8は、針付きシリンジをインサート成形した状態を示す断面図である。
【0037】
まず、本例の針付きシリンジ1を形成する金型20について説明する。
図8に示すように、金型20は、シリンジ2の筒孔6aを形成する入れ子21と、第1の部品22と、第1の部品22と対向する第2の部品23と、シリンジ2の密着部9を形成する第3の部品24とを有している。第1の部品22及び第2の部品23には、針管3の側面を支持固定するチャック部材26を有している。
【0038】
チャック部材26の先端は、針管3を支持し易いように、V字状の溝が形成されている。なお、チャック部材26の先端は、V字状の溝を形成する以外に、針管3の径よりも若干大きな曲面を形成してもよい。更に、チャック部材26の先端に弾性体を設け、針管3が潰れたり、側面に傷が付いたりすることを防止するようにしてもよい。なお、チャック部材26の先端に弾性体を設けることで、針管3の太さのばらつきに対して柔軟に対応することができる。
【0039】
入れ子21の先端には、針管3の基端部3bを支持固定する支持部21aが形成されている。また、第3の部品24には、針管3の針先3a側が挿入されるガイド孔24aが形成されている。
【0040】
なお、第1の部品22と、第2の部品23と、第3の部品24との継ぎ目は、シリンジ2における固定部7の接続部8上に位置される。
【0041】
上述した金型20を用いた針付きシリンジ1の組み立て方法は、下記のようにして行われる。
まず、
図8に示すように、針管3の基端部3bを入れ子21の支持部21aによって支持固定する。同様に、針管3の側面を第1の部品22及び第2の部品23のチャック部材26によって支持固定する。次に、針管3の針先3aを第3の部品24のガイド孔24aに挿入し、針管3を金型20に対して真っ直ぐにセットする。これにより、針管3が成型時に変形したり、シリンジ2と針管3の相対的な位置がずれたりすることを防止できる。
【0042】
次に、樹脂を金型20内に流し込み、インサート成形を行う。これにより、針管3の周囲にシリンジ2が形成される。このとき、シリンジ2における固定部7には、チャック部材26が挿通していた保持孔11と、離間穴12が形成される。そして、キャップ4を針管3とシリンジ2に被せる。これにより、針付きシリンジ1の組立が完了する。
【0043】
このように、インサート成形によって針管3とシリンジ2を一体に形成することができるため、接着剤を用いた接着工程を省くことができ、組み立て工程の簡略化を図ることが可能である。よって、組み立て時のコストダウンを図ることができる。
【0044】
また、チャック部材26が針管3を支持固定する箇所は、インサート成形後、シリンジ2の固定部7の中途部となる。更に、入れ子21の支持部が針管3を支持固定する箇所は、針先3aと反対側の基端部3bである。この箇所は、針管3における生体に穿刺される箇所(以下、穿刺箇所という。)ではない。これにより、針管3の穿刺箇所を支持固定していないため、チャック部材26や支持部21aによって穿刺箇所に汚れが付着したり、その側面に傷が発生したりすることを防止できる。
【0045】
更に、チャック部材26と入れ子21の支持部21aによって針管3を3点で支持固定している。よって、針管3の針先3aを支持する必要が無いため、成形時に針先3aが金型やチャック部材26等によって損傷するおそれがない。
【0046】
上述したように、第1の部品22と、第2の部品23と、第3の部品24との継ぎ目は、シリンジ2における固定部7の接続部8上に位置している。そのため、キャップ4の内面と密着する密着部9には、金型の分割線、いわゆるパーティングラインが形成されない。
【0047】
よって、密着部9にバリが発生することを防止することができ、キャップ4を被せた際に、バリによって密着部9とキャップ4の内面との間に隙間が生じることがない。これにより、密着部9から先端側に配置される針管3の針先3aの気密性を維持することができ、針管3の針先3aを無菌状態で保護することも可能となる。
【0048】
なお、本発明は上述しかつ図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。