【実施例1】
【0023】
<ガラス組成物>
接合材に用いるガラス組成物の作製方法について説明する。出発原料を所定の重量比となるように評量した。出発原料としては、(株)高純度化学研究所製の酸化物粉末(純度99.9%)を用いた。一部の試料においては、Ba源およびP源としてラサエ業(株)製のBa(PO
3)
2(バリウム・メタリン酸塩)を用いた。出発原料を混合して白金るつぼに入れた。混合にあたっては、原料粉末への余分な吸湿を避けることを考慮して、金属製スプーンを用いて、るつぼ内で混合した。原料混合粉末が入ったるつぼをガラス溶融炉内に設置し、加熱・融解した。10℃/minの昇温速度で昇温し、設定温度(1100〜1150℃)で融解しているガラスを撹拌しながら1時間保持した。その後、るつぼをガラス溶融炉から取り出し、あらかじめ150℃に加熱しておいた黒鉛鋳型にガラスを鋳込んだ(溶かして流し込んだ)。
【0024】
次に、鋳込まれたガラスを、あらかじめ歪取り温度に加熱しておいた歪取り炉に移動し、1時間保持により歪を除去した後、1℃/minの速度で室温まで冷却した。室温まで冷却したガラスを粗粉砕し、ガラス組成物のフリットを作製した。ガラス組成物のフリットは平均体積粒径が20μm以下であり、DTA(Differential Thermal Analysis)によりガラス転移温度を測定した。DTAは試料及び基準物質の温度を一定のプログラムによって変化させながら、その試料と基準物質との温度差を温度の関数として測定する方法である。
【0025】
表1に本実施例に係るガラス組成物の特性を示す。表中にはガラス軟化点(T
s)が示されているが、この測定方法は次の通りである。作成したガラスは体積平均粒子径が20μm以下になるまで粉砕し、5℃/minの昇温速度で550℃まで示唆熱分析(DTA)を行うことによって、ガラス転移点(T
g)を測定した。標準試料としてアルミナ粉末を、試料容器としてAlを用いた。
図1にガラス組成物の代表的なDTA曲線を示す。図中に示すように、ガラス転移点(T
g)は第一吸熱ピークの開始温度とした。この他に、第一吸熱ピーク温度として屈伏点(T
d)、第二吸熱ピーク温度として軟化点(T
s)、結晶化温度として発熱ピークの開始温度(T
c)が求められる。接合温度は、ガラスの粒径、接合時の加圧条件と保持時間などの様々な因子に依存するため一概には規定できないが、少なくとも粘度=10
7.65 poiseに相当する軟化点(T
s)よりは高い温度に加熱する必要がある。
【0026】
各ガラス組成物の組成と軟化点(T
s)を表1に示す。表中に示すように、組成を変えることにより軟化点(T
s)を380〜450℃の広い範囲で制御可能である。接合温度、必要な耐熱性に適合したガラス組成を用いるとよい。
【0027】
【表1】
【0028】
<ペースト>
接合構造体を作製するにあたり、上記方法で作製したガラス組成物のフリット(粉末ガラス)と金属粒子と溶媒から成るペーストの作製方法を説明する。まず、ガラス組成物のフリットをジェットミルで平均体積粒径が2μm以下に粉砕した。続いて、ガラス組成物と金属粒子とを所定の配合比で混合した。混合にはメノウ乳鉢を用いた。4%の樹脂バインダーを添加した溶剤を混合してペースト化した。ここで、樹脂バインダーにはエチルセルロース、溶剤にはブチルカルビトールアセテートを用いた。エチルセルロースは300℃程度に加熱することで揮発させることが可能であり、表1のガラスNo.1〜7のガラス組成物を軟化流動させることなく除去可能である。すなわち、No.1〜7のガラス組成物を用いたペーストは、接合基材に塗布した後、300℃程度に加熱して溶剤と樹脂バインダーを除去して用いる。
【0029】
<試料および評価方法>
接合性の簡易的な評価のため、
図2に示すような試料を用いた。
図2(a)は評価用試料の外観の斜視図であり、
図2(b)は評価用試料の断面図である。この試料は、セラミックス基板1に、上記方法実で作製した接合用ペーストを用いて円柱状金属基材2を接合したものである。ペーストの塗布膜は加熱によって接合材層3となる。
【0030】
強度試験は、円柱状金属基材2の側面からツールを当てて、試料が破壊されるのに要する最大の力を測定した。また、この力を接合面積である20mm
2で除した値を、せん断接合強度として定義した。
【0031】
接合構造は、
図2(b)に示すような断面試料を作製し、走査型電子顕微鏡で微細組織を観察した。試料断面は、耐水研磨紙を用いて湿式で研磨した後、アルミナ粉末によるバフ研磨を施し、アルゴンイオンミリングにより平滑に仕上げた。
【0032】
<接合構造体>
本実施例に係る接合構造体では、セラミックス基板1の一例である酸化アルミニウム基材1aと金属基材2の一例である無酸素銅基材2aとを用いた。接合材の材料にはガラス組成物として表1のNo.6を、金属粒子として粒径1μmのAg粒子を用いた。以下に、本実施例に係る接合構造体の作製方法について説明する。
【0033】
金属粒子とガラス組成物の総体積に対するガラス組成物の割合をガラス添加量x
Gと定義する。x
G=0、5、10、20、30、50vol%の粉末混合体を各比率で混合した後、ブチルカルビトールアセテートと4wt%のエチルセルロースの混合体を適量加えてペースト化した。得られたペーストを、酸化アルミニウム基材1aに塗布した。ホットプレート上で150℃に加熱してブチルカルビトールアセテートを揮発させて除去した後、大気中で350℃に加熱してエチルセルロースを揮発させて除去した。500℃に加熱して、ガラスを軟化流動させて、酸化アルミニウム基板状1aに接合材層3aを形成した。接合材の層の上に無酸素銅基材2aを乗せて、窒素中で500℃に加熱することで、接合させた。なお、加熱中には無酸素銅基材2aの上に錘をのせ、1MPaで加圧した。ここで、加圧力の定義は、錘の重量を接合面積である20mm
2で除した値として定義した。
【0034】
上記作製方法により得られた接合構造体に対して、せん断接合強度を評価した。
図3は実施例1に係る接合構造体の接合強度試験結果を示す図である。
図3にはペーストへのガラス組成物の添加量x
Gとせん断接合強度Pとの関係が示されている。x
G=0vol%のときはP〜0であり、強度試験前に試料は剥離してしまった。x
G=5、10vol%では20MPaを超える高いせん断接合強度が得られた。なお、評価装置の制約からP>20MPaとなる試料の破壊前に試験を止めた。このような場合には、図中に上向の矢印で示している。x
G≧20vol%ではx
Gの増加にともないPは減少する傾向があり、x
G=50vol%で再び強度試験前に試料は剥離した。なお、接合が起きなかったx
G=0、50vol%のときは、いずれも接合材層3aと酸化アルミニウム基材1aの間で剥離が起きた。
【0035】
図4は実施例1に係る接合構造体の断面図である。
図4には、x
G=5vol%、30vol%、50vol%のときの試料に対して電子顕微鏡により観察した断面組織が示されている。x
G=5vol%のときは、
図4(a)のように、接合材層3a5は金属粒子同士が強固に結合することで緻密な金属焼結体4が形成されており、金属焼結体4と酸化アルミニウム基材1aの間は、多くの部分が厚さ100nm以下の薄い酸化物の層51を介して接合されていた。また、金属焼結体4の中に酸化物52や空隙6が分散した構造となっていた。SEM−EDXにより、酸化物51、52の元素分析をすると、V、P、Sb、Ba、K、Wが検出され、この部分はガラス組成物に由来すると考えられる。SEM−EDXとは、電子顕微鏡(SEM)付属のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)で、SEMで像観察を行いながら、その視野に対して元素分析を行う装置で、試料に電子線を照射して得られるX線から、元素の種類を特定する。ただし、必ずしもガラス(非晶質)構造を保っている必要はなく、単一の組成である必要はない。実際、酸化物51、52は場所ごとにコントラストが異なり、一部結晶と考えられる角張った組織が観察された。x
G=30vol%のときは、
図4(b)に示すように、接合材層3a30は金属焼結体6の内部に分散する酸化物のサイズが大きくなり、また、金属焼結体4と酸化物5の界面付近で亀裂(クラック)7が観察されるようになった。さらに、ガラスが多いx
G=50vol%のときは、
図4(c)に示すように、接合材層3a50は金属粒子41が酸化物5のマトリックスの内部に分散する形態となっていた。
【0036】
高い強度が得られるx
Gの範囲は、使用するガラス組成物の成分、金属粒子の材質や粒径、接合時の温度条件や加圧力など、多数のパラメータの影響を受けるため一概には規定できないが、これらの結果は、高い接合強度を得られるときは、接合構造に次の特徴があることを示唆している。
(1)金属粒子同士が十分に結合して金属焼結体になっている。
(2)金属バルク体は酸化アルミニウム基板と極薄い酸化物の層によって接合されており、酸化物はガラス組成物の成分を含む。
(3)接合材層中の酸化物や空隙は、金属焼結体内で分散した状態で存在する。
【0037】
接合材層中の酸化物や空隙は、存在した方が良い場合と、存在しない方が良い場合がある。
【0038】
本実施例ではガラス組成物は表1のNo.6を用いたが、表1の他のガラス組成物を用いることができることはいうまでもない。
【0039】
<変形例1>
本変形例に係る接合構造体では、セラミックス基板1の一例である窒化アルミニウム基材1bと無酸素銅基材2aとを用いた。しかし、接合材の材料および接合構造体の作製方法は実施例1と同じである。ペーストへのガラス組成物の添加量x
Gは5vol%である。ここでは、実施例1と全く同様の検討をした。
【0040】
図5は変形例1に係る接合構造体の接合強度試験結果を示す図である。
図6は変形例1に係る接合構造体の断面図である。強度試験の結果、
図5の白丸に示すように、いずれのx
Gに対しても、実施例1に係る接合構造体よりもせん断接合強度は低下した。剥離は窒化アルミニウム基材と接合材層との間で起きていた。そこで、大気中1100℃1hrの熱処理により窒化アルミニウム基材1bの表面に厚さ約1μmの酸化アルミニウム層8を形成して、無酸素銅基材2aと接合した。その結果、
図5の黒丸に示すように、実施例1に係る接合構造体と同等の高い強度が得られた。このときの接合構造体の断面が
図6に模式的に示されている。
【0041】
したがって、窒化物基材の場合には接合強度が低下するが、表面を酸化物にすることによって、酸化物基材と同等の接合強度が得られるようになる。今回の熱処理のような前処理によって、あらかじめ基材の表面に別の物質の層を形成した場合、本開示では、別の物質の層も含めて基材と呼ぶことにする。酸化物の厚さは約1μmに限定されるものではなく、表面に0.1から5μmの範囲の主成分が酸化物となっていればよい。
【0042】
<熱伝導率>
実施例1および変形例1に係る接合構造体に用いた接合材層の熱伝導率について、以下に説明する。
粒径1μmのAg粉末に表1のNo.6のガラス粒子をx
G=10vol%の添加量で添加して、混合した。金型に混合粉末を充填してハンドプレス機で加圧することで、直径10mm、厚み1mmのペレットを成形した。ペレットを大気中500℃10minで加熱することで、ペレットを焼結させた。キセノンフラッシュ法により、出来上がったペレットの熱伝導率を測定したところ、180W/mKであり、はんだ材の40〜60W/mKと比較して極めて高い熱伝導率を得られることがわかった。
【実施例2】
【0043】
本実施例に係る接合構造体は、溶湯接合法によってセラミックスと金属の複合材料(Al−SiC)に貼りつけられたセラミックス基板(窒化アルミニウム基板)に対して、金属板(無酸素銅の板)を貼り付けたものである。以下に、本実施例に係る接合構造体の作製方法について説明する。
【0044】
図7は実施例2に係る接合構造体の断面模式図である。
図7(a)に示すような、厚さ10mm、40mm×40mmのAl−SiC基材10に溶湯接合法で窒化アルミニウム基板11が貼り付けられている。窒化アルミニウム基板11の厚みは0.64mmのものを用いた。また、窒化アルミニウム基板11の表面には厚さ約1μmの酸化膜を事前に形成されている。
【0045】
ガラスは表1のNo.6を、金属粒子には粒径1μmのAgを用いて、ガラス添加量x
G=5、10vol%のペーストを作製した。それぞれのペーストを窒化アルミニウム基板11上に塗布し、ホットプレート上で150℃に加熱してブチルカルビトールアセテートを揮発させて除去した後、大気中で350℃に加熱してエチルセルロースを揮発させて除去した。500℃に加熱して、ガラスを軟化流動させて、窒化アルミニウム基板11上に接合材層12を形成した。
【0046】
図7(b)に示すように、接合材層12の上に、厚さ0.3mmの無酸素銅板13を乗せて、窒素中で500℃に加熱することで接合させた。なお、ホットプレス装置により500℃に昇温後に1MPaで加圧した。
【0047】
<接合構造体の評価>
本実施例で作製した接合構造体において、無酸素銅板13をはんだごてで加熱しながらSn−3.0Ag−0.5Cuの組成のはんだ材を供給し、無酸素銅板13の全面をはんだ材によって濡らした。このときの無酸素銅板13の温度は300〜400℃まで上昇したと推定されるが、この加熱によって、窒化アルミニウム基板11と無酸素銅板13との接合は特に問題なかった。また、接合前後で超音波探傷法により剥離箇所の有無を調べたが、とくに変化はないことがわかった。この結果から、無酸素銅板13に対して半導体チップをはんだ材によって実装することが可能であることがわかった。
【0048】
上記評価後に、−40℃〜150℃のヒートサイクルを1000回繰り返した。ヒートサイクル後に超音波探傷法によって剥離箇所の有無を調べた。その結果、x
G=5vol%のときよりもx
G=10vol%のときの方が剥離の進展が少ないことがわかった。
【0049】
x
G=5vol%とx
G=10vol%の断面構造を走査型電子顕微鏡によって観察すると、接合材層12中に含まれる空隙の量がx
G=10vol%の方が多く、均一に分散していることがわかった。なお、ここで言う空隙は、接合材層の厚み20μmと比較しても十分小さい大きさであり、超音波探傷法では同定できない程度である。接合材層における微細な空隙の分散は、ヒートサイクルにより生じる熱応力の緩和材となると考えられ、このことがx
G=10vol%の方がヒートサイクル後の剥離が起こりにくかった原因と考えられる。なお、空隙量は接合強度を低下させない範囲でガラス添加量を増加させることにより、意図的に増やすことができる。
【0050】
<変形例2>
これまでの実施例1、変形例1および実施例2では、ペーストに用いる金属粒子をAgとしたが、これは、大気中でも酸化することなく、400〜500℃で良好に焼結が進むためである。真空中、不活性雰囲気(窒素、アルゴン)中でのみ加熱するのであれば、粒子にCuやAlを用いても良い。また、セラミックス基板(絶縁基板)には窒化アルミニウムを用いたが、これは20℃における熱伝導率が180W/mKと、酸化アルミニウムの30W/mK、窒化珪素の30W/mKと比較して高いためである。ただし、基板の強度が必要な場合には、酸化アルミニウムや窒化珪素の方が良く、用途に応じて使い分けられるべきものである。電気回路用金属板には無酸素銅を用いたが、これは半導体チップの実装にはんだ材を用いることを想定したためであり、電気回路用金属板はアルミニウムであっても接合は可能である。
本実施例によれば、セラミックスと金属の複合材料を放熱構造体とし、それに溶湯接合によって直に貼り付けたセラミックス基板に対して、放熱構造体の耐熱温度より低温で金属板の接合することができる。また、極めて低い熱抵抗の放熱構造体とセラミックス基板と電気回路用金属板の接合構造体を提供することができる。