【実施例】
【0010】
以下、本発明を適用した燃料噴射装置の実施例について説明する。
実施例の燃料噴射装置は、例えば乗用車等の自動車に搭載されるガソリン直噴エンジンに設けられるものである。
図1は、実施例の燃料噴射装置を有するエンジンの構成を示す模式図である。
エンジン1は、シリンダ10、ピストン20、シリンダヘッド30、吸気装置40、排気装置50、燃料供給装置60、エンジン制御ユニット100等を有して構成されている。
【0011】
シリンダ10は、ピストン20が挿入されるスリーブを備えている。
シリンダ10は、図示しないクランクケースと一体に形成されたシリンダブロックに形成されている。
クランクケースは、エンジン1の出力軸である図示しないクランクシャフトを回転可能に支持し、収容するものである。
シリンダ10には、シリンダヘッド30及びスリーブの周囲に形成されたウォータージャケット内に通流される冷却水の水温を検出する水温センサ11が設けられている。
水温センサ11の出力は、エンジン制御ユニット100に伝達される。
【0012】
ピストン20は、シリンダ10のスリーブ内部に挿入され往復運動する部材である。
ピストン20は、コンロッド21を介して図示しないクランクシャフトに接続されている。
ピストン20の冠面22は、シリンダヘッド30と協働してエンジン1の燃焼室を構成する。
【0013】
シリンダヘッド30は、シリンダ10のクランクシャフト側とは反対側の端部に設けられている。
シリンダヘッド30は、燃焼室31、吸気ポート32、排気ポート33、吸気バルブ34、排気バルブ35、点火栓36等を備えている。
燃焼室31は、ピストン20の冠面22と対向して形成された凹部であって、例えばペントルーフ型に形成されている。
燃焼室形状については、後に詳しく説明する。
吸気ポート32は、燃焼室31に燃焼用空気(新気)を導入する流路である。
排気ポート33は、燃焼室31から既燃ガス(排ガス)を排出する流路である。
吸気ポート32及び排気ポート33は、例えば、1気筒あたり2本ずつが形成されている。
吸気バルブ34、排気バルブ35は、吸気ポート32、排気ポート33を、所定のバルブタイミングでそれぞれ開閉するものである。
吸気バルブ34、排気バルブ35は、カムシャフト、ロッカアーム等の動弁駆動系によって駆動される。
点火栓36は、エンジン制御ユニット100が生成する点火信号に応じて、所定の点火時期にスパーク(火花)を発生し、混合気に点火するものである。
点火栓36は、燃焼室31の実質的に中心部(シリンダ10の中心軸近傍)に配置されている。
【0014】
吸気装置40は、エンジン1に燃焼用空気を導入するものである。
吸気装置40は、インテークダクト41、エアクリーナ42、スロットル43、インテークマニホールド44等を有して構成されている。
インテークダクト41は、大気中から空気を導入してエンジン1へ供給する管路である。
エアクリーナ42は、インテークダクト41の入口近傍に設けられ、空気中のダスト等を濾過して浄化するものである。
エアクリーナ42の出口には、インテークダクト41内を通過する空気量(エンジン1の吸入空気量)を計測する図示しないエアフローメータが設けられている。
スロットル43は、インテークダクト41におけるエアクリーナ42の下流側に設けられ、吸気空気量を絞ることによってエンジン1の出力調整を行うものである。
スロットル43は、バタフライバルブ等の弁体、弁体を駆動する電動アクチュエータ、及び、スロットル開度を検出するスロットルセンサ等を備えて構成されている。
電動アクチュエータは、エンジン制御ユニット100からの制御信号に応じて駆動される。
インテークマニホールド44は、スロットル43の下流側に設けられ、容器状に形成されたサージタンク、及び、各気筒の吸気ポート32に接続され新気を導入する分岐管を有して構成されている。
【0015】
排気装置50は、エンジン1から排ガスを排出するものである。
排気装置50は、エキゾーストパイプ51、触媒コンバータ52、空燃比センサ53等を有して構成されている。
エキゾーストパイプ51は、排気ポート33から出た排ガスを排出する管路である。
触媒コンバータ52は、エキゾーストパイプ51の中間部に設けられている。
触媒コンバータ52は、ハニカム状のアルミナ担体にプラチナ、ロジウム等の貴金属を担持させて構成され、HC、NOx、CO等を浄化する三元触媒を備えている。
空燃比(A/F)センサ53は、エンジン1の現在の空燃比を排ガスの性状に基づいて検出するリニア出力のラムダセンサである。
空燃比センサ53は、エキゾーストパイプ51の触媒コンバータ52よりも上流側の領域に設けられている。
【0016】
燃料供給装置60は、燃料タンク61、フィードポンプ62、燃料搬送管63、高圧ポンプ64、燃料配管65、デリバリーパイプ66、インジェクタ67等を備えて構成されている。
燃料タンク61は、燃料(ガソリン)を貯留する容器であって、例えば車体後部の床下に搭載されている。
フィードポンプ(低圧ポンプ)62は、燃料タンク61内の燃料を、燃料搬送管63を介して高圧ポンプ64に圧送するものである。
高圧ポンプ64は、フィードポンプ62から供給された燃料を高圧に昇圧し、燃料配管65を経由して蓄圧室を兼ねたデリバリーパイプ66に供給するものである。
高圧ポンプ64は、シリンダヘッド30に設けられ吸気バルブ34を駆動するカム軸64aによって駆動される。
【0017】
インジェクタ67は、例えばソレノイドやピエゾ素子を有するアクチュエータによって駆動されるニードルバルブを備え、デリバリーパイプ66内に蓄圧された高圧燃料を、エンジン制御ユニット100が生成する噴射信号に応じて、所定の時期に所定の噴射量だけ噴射するものである。
インジェクタ67は、1サイクルあたり複数回の燃料噴射を行なう機能を有する。
インジェクタ67のノズルは、
図1等に示すように、燃焼室31の側方(シリンダボア側)における吸気バルブ34側から筒内に挿入されている。
【0018】
エンジン制御ユニット100は、エンジン1及びその補機類を統括的に制御するものである。
エンジン制御ユニット100は、本発明にいう噴射量制御手段、空燃比リッチ故障判定手段として機能する。
エンジン制御ユニット100は、CPU等の情報処理装置、RAMやROM等の記憶手段、入出力インターフェイス及びこれらを接続するバス等を有して構成されている。
エンジン制御ユニット100は、エアフローメータによって検出されるエンジン1の吸入空気量、スロットルセンサによって検出されるスロットルバルブの開度、図示しないクランク角センサによって検出されるクランクシャフトの回転速度等に基づいて、各気筒のインジェクタ67の燃料噴射量及び噴射タイミングを設定し、インジェクタ67に対して噴射信号(開弁信号)を与える。
【0019】
エンジン制御ユニット100は、暖機が終了し、水温センサ11が検出する冷却水温が所定値以上の高温になった後は、空燃比センサ53等によって検出される空燃比(実λ)が実質的に理論空燃比(ストイキ)近傍となるように燃料噴射量を設定する。
また、エンジン制御ユニット100は、水温センサ11が検出する冷却水温が所定値以下の低温である場合には、燃料噴射量を暖機後に対して増加する増量補正を実行する。
この増量補正は、市場において流通している燃料のうち比較的気化しにくい性状のものが供給された場合であっても、着火及び燃焼が不安定とならないように設定され、冷却水温が低温であるほど増量補正量も大きくなるよう設定されている。
【0020】
また、エンジン制御ユニット100は、空燃比センサ53が検出する空燃比等に基づいて算出される診断値(現在のエンジンにおける実λを示す値)を、所定のリッチ側判定値(閾値)と比較し、診断値がリッチ側判定値(以下、単に「判定値」と称する。)よりもリッチ側である場合に、燃料噴射装置の空燃比リッチ故障を判定する自己診断(オンボードダイアグノーシス)機能を備えている。
ここで、仮に判定値が燃料噴射量の増量補正時においても、非補正時と同じ一定値であると、増量補正をしかつ比較的気化しやすい燃料が供給された場合に、実際には故障等がないにも関わらず空燃比リッチ故障と誤判定されることが懸念される。
そこで、実施例のエンジン制御ユニット100は、以下説明する判定値の補正を行っている。
【0021】
図2は、実施例の燃料噴射装置における空燃比リッチ故障診断時の動作を示すフローチャートである。
以下ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS01:診断実行条件充足判断>
エンジン制御ユニット100は、空燃比リッチ故障の診断を実行可能な診断実行条件が充足しているか否かを判別する。
エンジン制御ユニット100は、エンジン1の始動後、空燃比のフィードバック制御(クローズドループ制御)が開始されている場合には、診断実行条件が充足したものとしてステップS02に進む。
一方、空燃比のフィードバック制御が開始されていない場合には、診断実行条件が充足していないものとして、ステップS01以降の処理を繰り返す。
【0022】
<ステップS02:診断値を判定値と比較>
エンジン制御ユニット100は、現在のエンジン1の実λに相関する値である診断値を、所定の判定値(閾値)と比較する。
診断値は、空燃比センサ53の出力に基づいて算出される空燃比である空燃比フィードバック量に、所定の学習値を加算することによって求めた実空燃比(A/F)を、当該燃料のストイキ空燃比で除することによって算出される。
この診断値は、ストイキ時には1前後となり、リッチ傾向となるよう燃料噴射量を増量補正した場合には減少する。
判定値は、例えば、燃料噴射量の増量補正が行われない温間時において、0.7程度に設定されている。
診断値が判定値よりも小さい(リッチである)場合には、ステップS03に進み、その他の場合にはステップS04に進む。
【0023】
ここで、エンジン1の冷間時(冷却水温が低温である状態)であって、燃料噴射量に増量補正量が加算されている場合には、判定値は、増量補正量に応じて減少する(リッチ傾向となる)ように補正される。
図3は、実施例の燃料噴射装置における燃料噴射量の増量補正量に応じた判定値の補正を示すグラフである。
図3において、横軸は燃料噴射量の増加補正量(%)を示し、縦軸は判定値を示している。
図3に示すように、判定値は、増量補正量の増加に対して実質的に比例するように減少補正される。
【0024】
<ステップS03:空燃比リッチ故障判定成立>
エンジン制御ユニット100は、空燃比リッチ故障判定を成立させ、所定の故障フラグをセットして一連の処理を終了(リターン)する。
【0025】
<ステップS04:空燃比リッチ故障判定不成立>
エンジン制御ユニット100は、空燃比リッチ故障判定を成立させることなく、一連の処理を終了(リターン)する。
【0026】
以上説明した実施例によれば、燃料噴射量の増量補正量に応じて、空燃比リッチ故障の判定値をリッチ側に補正することによって、増量補正時に比較的気化しやすい燃料が供給された場合であっても、故障していないにも関わらず空燃比リッチ故障判定が誤って成立することを防止できる。
ここで、仮に判定値が例えば0.65の一定値に設定されている場合、燃料噴射量をストイキに対して30%増量すると、システムが正常であっても診断値は0.7程度となるため、わずかなばらつきによって空燃比リッチ故障であると誤判定されてしまう。
また、35%以上の増量が行われている場合には、正常時であっても診断値が0.65以下となって故障していると誤判定されることになり、正常な診断が不可能となる。
このため、暖気が終了して増量補正が終了するか、あるいは増量補正量が十分に小さくなるまで診断を中止する必要があり、万一故障が発生した場合には検出までに長時間を要することになる。
この点、本実施例によれば、このような問題を解決し、空燃比フィードバック制御の開始と同時に、冷間時であっても精度よく空燃比リッチ故障を判定することができる。
【0027】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)実施例では空燃比リッチ故障について説明したが、空燃比が所定の閾値(判定値)よりもリーン側である場合に空燃比リーン故障判定を成立させる空燃比リーン故障診断についても、同様に燃料噴射量の増量補正量に応じて判定値をリッチ側に補正することができる。これによって、燃料の増量補正時に目標空燃比と判定値とが大きく乖離して空燃比リーン故障が判定され難くなり、実際にはリーン故障が発生しているにも関わらず正常と判定される誤診断を防止することができる。
(2)実施例の診断値の設定手法は一例であって、エンジンの空燃比を示す値である限り、他の値を診断値として用いてもよい。例えば、空燃比センサの出力値に基づいて診断を行ってもよい。また、空燃比フィードバック制御の学習補正値に基づいて診断を行ってもよい。
(3)実施例のエンジンの構成は一例であって、適宜変更することが可能である。
例えば、実施例のエンジンはシリンダ内に直接エンジンを噴射する筒内噴射(直噴)エンジンであるが、本発明はこれに限らず、ポート噴射のエンジンや、筒内噴射とポート噴射を併用するエンジンにも適用することができる。
また、燃料もガソリンに限らず、液体燃料を噴霧して気化させ点火する予混合火花点火エンジンであれば、他の燃料を用いるものにも適用が可能である。
さらに、シリンダレイアウト、気筒数、過給機の有無なども特に限定されない。
(4)実施例においては、燃料噴射量の増量補正量の増加に応じて、判定値がリニアにリッチ傾向となるように補正しているが、補正の手法はこれに限らず、例えば増量補正量の増加に応じて段階的にリッチ化するようにしてもよい。