【実施例1】
【0014】
以下、本発明を適用した車両用前照灯装置(以下前照灯装置と称する)の実施例1について説明する。
実施例1の前照灯装置は、例えば、乗用車等の自動車に設けられ、夜間やトンネル内などの暗所走行時に、自車両前方を照射してドライバの視界を確保するものである。
図1は、実施例1の前照灯装置の構成を模式的に示すブロック図である。
図1に示すように、前照灯装置1は、第1光源10、第1光学系11、照射範囲可変機構12、第2光源20、第2光学系21、照射範囲可変機構22、レーザ発振器30、レーザ光学系31、照射範囲可変機構32、前照灯制御ユニット100等を有して構成されている。
なお、第1光源10、第1光学系11、照射範囲可変機構12、第2光源20、第2光学系21、照射範囲可変機構22、レーザ発振器30、レーザ光学系31、照射範囲可変機構32は、車体前端部において車幅方向に離間して、例えば一対が設けられる。
【0015】
第1光源10、第2光源20は、例えば高輝度放電バルブ等の光源及びこれに電力を供給する電源装置等を有する。
第1光源10、第2光源20は、それぞれ独立して点灯、消灯を切り替え可能となっている。
また、少なくとも第2光源20は、点灯時の光量を複数段階又は無段階に変更可能となっている。
第1光学系11、第2光学系21は、第1光源10、第2光源20がそれぞれ発する光を、所定の配光パターンで車両前方に照射するものである。
第1光学系11、第2光学系21として、例えば配光パターンの広さ及び形状を任意に変更可能なシェード可変機構を有する投影光学系(プロジェクタ)を有する構成とすることができる。
シェード可変機構は、光路の一部を可動式のシェードで遮ることによって、シェードの影(像)を自車両前方に投影し、配光特性を変化させるものである。
また、このようなシェード可変機構として、環状に配置された複数の絞り羽を有し、内径が連続的に変化する虹彩絞りを設けることによって、照射角度を可変とし、照射範囲の広さを連続的に変化させることも可能である。
第1光学系11、第2光学系21は、それぞれ光軸を車体に対して上下方向及び車幅方向に揺動させることが可能なよう、例えば2軸ジンバル機構を介して車体に取り付けられている。
照射範囲可変機構12,22は、第1光学系11、第2光学系21のジンバル機構に設けられ、第1光学系11、第2光学系12の光軸を前照灯制御ユニット100からの指示に応じて変化させるアクチュエータ等を有する。
【0016】
レーザ発振器30は、図示しない電源装置からの電力供給を受けてレーザ光を発生するものである。
レーザプロジェクタ31は、レーザ発振器30が発生するレーザ光を、任意に変更可能な照射パターンで車両前方に照射するものである。
レーザプロジェクタ31は、光軸を車体に対して上下方向及び車幅方向に揺動させることが可能なよう、例えば2軸ジンバル機構を介して車体に取り付けられている。
照射範囲可変機構32は、レーザプロジェクタ31のジンバル機構に設けられ、レーザプロジェクタ31の光軸を前照灯制御ユニット100からの指示に応じて変化させるアクチュエータ等を有する。
【0017】
前照灯制御ユニット100は、上述した各光源、光学系、照射範囲可変機構を統括的に制御するものである。
前照灯制御ユニット100は、例えばCPU等の情報処理手段、RAMやROM等の記憶手段、入出力インターフェイス及びこれらを接続するバス等を有して構成されている。
前照灯制御ユニット100は、本発明にいう直接視野推定手段、及び、配光制御手段として機能する。
前照灯制御ユニット100における制御については、後に詳しく説明する。
【0018】
前照灯制御ユニット100には、環境認識装置210、挙動制御ユニット220、ナビゲーション装置230、視線検出装置240、通信装置250等が、例えばCAN通信システム等の車載LANシステムを介して、あるいは直接接続されている。
【0019】
環境認識装置210は、自車両前方を撮像した画像等に基づいて、自車両が走行している車線の形状や、自車両前方に存在する各種物体の自車両に対する相対位置を認識するものである。
環境認識装置210は、カメラLH211、カメラRH212からなるステレオカメラを備えている。
カメラLH211、カメラRH212は、例えばCMOSやCCD等の固体撮像素子、及び、その入射側に設けられたレンズ等の光学系によって、自車両前方を所定の画角で撮像するものである。
カメラLH211、カメラRH212は、所定のフレームレートで逐次画像を取得し、環境認識装置210に伝達する。
カメラLH211、カメラRH212は、例えばフロントガラス上端部の車室内側等に、車幅方向に離間して設置されている。
環境認識装置210は、カメラLH211、カメラRH212が撮像した画像を用いて公知のステレオ画像処理を行うことによって、各カメラの視差を利用し、被写体の自車両に対する相対位置を検出可能となっている。
【0020】
挙動制御ユニット220は、車両の液圧式サービスブレーキのホイルシリンダに供給される液圧を制御することによって、制動時のホイールロックを防止するアンチロックブレーキ制御、アンダーステアやオーバーステア等の挙動を抑制する車両挙動制御等を行うものである。
【0021】
挙動制御ユニット220には、車輪速センサ221、加速度センサ222、ヨーレートセンサ223、舵角センサ224が接続され、各センサの出力が入力される。
また、挙動制御ユニット220は、ハイドロリックコントロールユニット(HCU)225に対して制御指令を出力する。
【0022】
車輪速センサ221は、各車輪(左右の前輪及び後輪)のハブ部にそれぞれ設けられ、車輪の回転速度に比例して周波数が変化する車速パルス信号を出力する。
挙動制御ユニット220は、車速パルス信号の間隔に基づいて、車輪の回転速度(スリップ率が微小な場合には車両の走行速度と実質的に等しい)を算出可能となっている。
加速度センサ222は、車体に作用する前後方向及び車幅方向の加速度をそれぞれ検出するものである。
ヨーレートセンサ223は、車体のヨー方向(鉛直軸回り)の回転速度を検出するものである。
舵角センサ224は、車両の操舵系の舵角(ステア角)を検出するものである。
HCU225は、ブレーキフルードを加圧するポンプ、及び、得られたフルード液圧を各車輪のホイルシリンダへそれぞれ供給するソレノイドバルブ等を有し、各車輪のホイルシリンダに対してそれぞれ所定の液圧を供給し、制動力を車輪ごとに制御するものである。
【0023】
挙動制御ユニット220は、各センサからの出力に基づいて、制動時のホイールロックを検出した場合には当該車輪のホイルシリンダ液圧を周期的に減圧して制動力を低下させ、車輪を回転状態に復帰させるアンチロックブレーキ制御を行なう。
また、挙動制御ユニット220は、車両のオーバーステア、アンダーステア挙動を検出した場合には、左右輪の制動力差を用いて挙動を抑制する方向のモーメントを発生させる挙動制御を行なう。
【0024】
また、挙動制御ユニット220は、自車両が走行中の路面の摩擦係数(μ)を推定する路面摩擦係数推定機能を有する。
例えば、挙動制御ユニット220は、車速及び舵角に基づいて、予め設定された車両モデルから推定されるヨーレートと、実際のヨーレートとの差に基づいて、路面の推定μを算出することが可能である。
さらに、この推定μと車速から、自車両がブレーキによる減速で安全に停止可能な最短距離である停止可能距離を算出可能となっている。
【0025】
ナビゲーション装置230は、道路形状等に関する情報を含む地図データが蓄積されたHDD等の記憶手段、GPS等の自車両位置測定手段等を有する。
【0026】
視線検出装置240は、例えばインストルメントパネルに設けられ、ドライバを撮影する撮像手段、及び、撮像手段が得た画像を画像処理して瞳孔の輪郭を抽出し、ドライバの視線方向を検出する画像処理手段等を有する。
【0027】
通信装置250は、例えば、インターネット等の通信網に接続し、気象情報等の各種情報を取得するものである。
【0028】
次に、実施例1の前照灯装置における前照灯制御ユニット100の制御について説明する。
図2は、実施例1の前照灯制御ユニットの制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0029】
<ステップS01:車線形状検出>
前照灯制御ユニット100は、環境認識装置210、ナビゲーション装置230等の出力に基づいて、自車両前方の自車両走行車線形状(曲率や勾配等)を検出する。
その後、ステップS02に進む。
【0030】
<ステップS02:車速検出>
前照灯制御ユニット100は、挙動制御ユニット220から自車両の走行速度(車速)に関する情報を取得する。
その後、ステップS03に進む。
【0031】
<ステップS03:直接視野設定>
前照灯制御ユニット100は、自車両の走行車線上であって、自車両が所定時間後に通過することが想定される領域に、ドライバが注視することが想定される領域である直接視野を設定する。
直接視野は、車両の走行速度増加に応じて、自車両から遠方へ推移しかつ範囲(照射スポット径)が狭小となるように設定される。
その後、ステップS04に進む。
【0032】
<ステップS04:間接視野設定>
前照灯制御ユニット100は、ステップS03において設定した直接視野の周囲に間接視野を設定する。
その後、ステップS05に進む。
【0033】
<ステップS05:照射範囲・照度制御>
前照灯制御ユニット100は、照射範囲可変機構12、照射範囲可変機構22をそれぞれ制御して、第1光源10が発する光が直接視野を照射し、第2光源20が発する光が直接視野及び間接視野を照射するよう制御する。
すなわち、直接視野においては、第1光源10と第2光源20の光が重畳して照射されることとなる。
このとき、間接視野の照度は、直接視野に対して低く(暗く)なりかつ直接視野との照度差が車両の走行速度増加に応じて大きくなるように第1光源10、第2光源20の光量を制御する。
このとき、主に間接視野を照射する第2光源を、ドライバが意識しない程度の周期で点滅させるようにしてもよい。例えば、第2光源を、65乃至85Hz程度の周波数で周期的に点滅させるようにしてもよい。
また、前照灯制御ユニット100は、レーザ発振器30、レーザプロジェクタ31、照射範囲可変機構32等を制御して、直接視野と間接視野との境界をレーザ光によって照射するよう制御する。
その後、一連の処理をリターンし、ステップS01以降の処理を繰り返す。
【0034】
以下、実施例1の前照灯装置における配光パターンの一例について説明する。
図3は、実施例1の前照灯装置における低速走行時の配光パターンの一例を模式的に示す図である。
図4は、実施例1の前照灯装置における高速走行時の配光パターンの一例を模式的に示す図である。
図3、
図4は、ドライバの視点から見た状態を模式的に示している。
図3、
図4においては、自車両前方に自車両走行車線310、対向車線320、センターライン330等が存在する。
【0035】
図3に示すように、車両の走行速度が比較的低い状態(低速状態)においては、第1光源10及び第2光源20によって照射される直接視野340は、自車両走行車線310上における比較的自車両に近い位置(手前)に配置され、第2光源20のみによって照射される間接視野350は、その周囲に配置されている。
間接視野350は、例えば、一般的な走行用ビーム(ハイビーム)の照射領域をカバーするように設定され、対向車線320を走行する車両への眩惑を抑制するためカットオフラインが設けられている。
直接視野340は、間接視野350の内部に含まれるとともに、間接視野350に対して照度が高く(明るく)なるように設定されている。
また、直接視野340の外周縁部341(直接視野340と間接視野350との境界部)は、レーザ光によってライン状に照射される。
【0036】
図4に示すように、車両の走行速度が比較的高い状態(高速状態)においては、第1光源10及び第2光源20によって照射される直接視野340は、自車両走行車線310上における比較的自車両から遠い位置(前方側)に配置され、第2光源20のみによって照射される間接視野350は、その周囲に配置されている。
また、直接視野340の外周縁部341(直接視野340と間接視野350との境界部)は、レーザ光によって照射される。
図4に示す高速状態においては、直接視野340と間接視野350との照度差は、光源20の光量を低下させることによって、
図3に示す低速状態に対して大きく設定され、より強く直接視野340にドライバの視線を誘導するようにしている。
【0037】
以上説明した実施例1によれば、ドライバが注視することが想定される直接視野340を周辺の間接視野350に対して相対的に高照度で照射することによって、ドライバの視線を直接視野340に誘導し、ドライバがどこに視点を据えればよいかかわからなくなる事態を防止し、ドライバの緊張を抑制し、疲労を軽減することができる。
また、直接視野340に対して間接視野350の照度を低下させることによって、前照灯に照射される領域と照射範囲以外の境界部(間接視野350の周縁部)の明暗差が明確になりすぎてドライバが圧迫感を感じることを防止できる。
【実施例2】
【0038】
次に、本発明を適用した前照灯装置の
参考例について説明する。
実施例1と実質的に同様の箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図5は、
参考例の前照灯装置における制御を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0039】
<ステップS11:ドライバ視線検出>
前照灯制御ユニット100は、視線検出装置240からドライバの視線方向に関する情報を取得する。
その後、ステップS12に進む。
【0040】
<ステップS12:直接視野設定>
前照灯制御ユニット100は、ステップS11において検出されたドライバの視線方向の延長上及びその近傍の領域に、ドライバが注視することが想定される領域である直接視野を設定する。
その後、ステップS13に進む。
【0041】
<ステップS13:間接視野設定>
前照灯制御ユニット100は、ステップS12において設定した直接視野の周囲に間接視野を設定する。
その後、ステップS14に進む。
【0042】
<ステップS14:照射範囲・照度制御>
前照灯制御ユニット100は、実施例1のステップS05と実質的に同様に、照射範囲可変機構12、照射範囲可変機構22をそれぞれ制御して、第1光源10が発する光が直接視野を照射し、第2光源20が発する光が直接視野及び間接視野を照射するよう制御する。
その後、一連の処理をリターンし、ステップS01以降の処理を繰り返す。
【0043】
以上説明したように、
参考例によれば、ドライバの視線方向を検出して直接視野を設定し、その周辺の間接視野よりも照度が高くなるように照射することによって、ドライバの視線が直接視野に留まるように誘導し、ドライバが注視する箇所の視認性を向上することができる。
【0044】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)前照灯装置の構成は、上述した
実施例1に限定されず、適宜変更することが可能である。例えば、光源、光学系の種類や個数、照度及び照射範囲の変更手法は、適宜変更することが可能である。
例えば、実施例
1では光源として高輝度放電バルブを用い、可変シェードを用いて照射範囲の変更を行っているが、例えば比較的小範囲をスポット的に照射する複数のLEDをアレイ状に配列した光源を用いて、個々のLEDの点灯、消灯を切り替えることによって照射範囲を変更するようにしてもよい。
(2)前照灯制御ユニットが各種情報を取得するために接続されるセンサ類や各種装置、ユニットの構成は、適宜変更することが可能である。
(3)
実施例1では、直接視野と間接視野との境界を識別しやすくするため、直接視野の外縁部にレーザ光を照射しているが、これと併用し、あるいは、これに代えて、直接視野への照射光と間接視野への照射光の色を異ならせてもよい。
(4)実施例1では自車両の進行方向上に直接視野を設定し、
参考例では視線方向上に直接視野を設定しているが、実施例1のように進行方向上に設定した直接視野を、視線検出結果に応じて視線方向にシフトするよう補正する構成としてもよい。