(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1〜
図6を参照して本発明によるレーザ発振器100の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るレーザ発振器100の全体構成を示す図である。本実施形態に係るレーザ発振器100は、レーザガスを媒質として放電管によりレーザガスを励起させる高出力炭酸ガスレーザ発振器である。
【0010】
図1に示すように、レーザ発振器100は、レーザガスが循環するガス流路1と、ガス流路1に連通する放電管2と、放電管2を挟むように放電管2の両側に配置された出力鏡3およびリア鏡4と、放電管2の電極5,6に電圧(放電管電圧)を印可する電源部7と、レーザ出力を検出するセンサ8と、レーザガスを冷却する熱交換機9,10と、ガス流路1に沿って矢印に示すようにレーザガスを循環させる送風機11とを有する。
【0011】
放電管2は、その中心を通る長手方向の軸線CLを中心とした円筒形状を呈し、放電管2の内部に放電空間12を有する。出力鏡3およびリア鏡4は、それぞれ外形が軸線CLを中心とした円形状を呈し、その外径は放電管2の内径D0よりも大きい。出力鏡3は、放電空間12に面した第1面31およびその反対側の第2面32を有し、リア鏡4は、放電空間に面した第1面41およびその反対側の第2面42を有する。出力鏡3の第1面31およびリア鏡4の第1面41はそれぞれ凹状に形成され、それぞれ所定の曲率半径を有する。出力鏡3の第2面32は所定の曲率半径を有する凸面もしくは平坦面であり、リア鏡4の第2面42は平坦面である。
【0012】
このようなレーザ発振器100において、放電管2の各電極5,6に電力を供給すると、すなわち放電管電圧を印加すると、放電管2内の放電空間12においてレーザガスの放電が開始される。この放電開始によりレーザガスが励起されて光を発生し、出力鏡3とリア鏡4との間で共振が起こって誘導放出により光が増幅され、その一部がレーザ光13として出力鏡3から取り出される。取り出されたレーザ光13は、例えば図示しないレーザ加工機に出力され、ワークの切断等を行う。
【0013】
この場合、レーザ光13のビーム品質(集光性)の良否や散乱光の程度が、ワークの切断能力および切断品質に影響を与える。ビーム品質が悪い場合は、加工用集光レンズでレーザ光を集光した場合に、集光径が十分に小さくならない、あるいはレーリー長が短く安定した加工ができないなどの理由により、切断能力の悪化や不安定化を招く。一方、レーザ光に散乱光成分が多く含まれる場合は、加工用集光レンズでレーザ光を集光すると、散乱光成分は主成分とは異なった距離に集光され、ワーク上で拡がる。その結果、ワークへの意図しない加熱を招き、ワークの切断面の品質に悪影響を与える。
【0014】
ビーム品質を向上させるためには、高次モードのレーザ発振を抑え、低次モードのみでレーザ発振させるように構成することが有効である。この点に関し、例えば出力鏡3とリア鏡4との間にアパーチャを配置し、アパーチャによりレーザ光の径を制限するように構成すると、部品点数が増加して構成が複雑となるばかりか、アパーチャがレーザ光を吸収し、レーザ出力が低下する。一方、出力鏡3の第1面31の径方向中心部に半透過膜のコーティングを施し、その周辺部に無反射膜のコーティングを施すように構成すると、散乱光の発生を抑制することが困難である。そこで、本実施形態では、ビーム品質を向上させるとともに、散乱光の発生を抑制するために、以下のように出力鏡3の第1面31およびリア鏡4の第1面41にコーティングを施す。
【0015】
図2は、本実施形態に係る出力鏡3の第1面31の正面図である。第1面31は、軸線CLを中心とした円形状の第1領域33と、第1領域33の外側のリング状の第2領域34とに分割されている。第1領域33と第2領域34との間の円形の境界線35の直径D1は、例えば放電管2の内径D0の90%〜100%である。第1領域33と第2領域34とには、互いに異なる反射率を有するコーティング材が誘電体多層膜として積層されている。すなわち、第1領域33には、所定の反射率α1を有する第1コーティング材36が誘電体多層膜として積層され、第2領域34には、第1コーティング材36の反射率α1よりも高い所定の反射率α2を有する第2コーティング材37が誘電体多層膜として積層されている。コーティング材36,37には、例えばジンクセレンおよびフッ化トリウム(ZnSe,ThF)などの誘電体多層膜を用いることができる。
【0016】
第1コーティング材36は、レーザ発振に適する反射率α1を有する。反射率α1は、レーザ発振器100の構成に応じて20%〜70%の範囲から選定される。例えば、放電管2の本数が多い、あるいは放電管2の全長が長い、あるいは媒質濃度が高い、あるいは共振器長が長いなどの場合には、ゲインが大きいため、小さめの反射率α1(例えば20%)を有する第1コーティング材36が用いられる。一方、放電管2の本数が少ない、あるいは放電管2の全長が短い、あるいは媒質濃度が低い、あるいは共振器長が低いなどの場合には、ゲインが小さいため、大きめの反射率α1(例えば70%)を有する第1コーティング材36が用いられる。これに対し、第2コーティング材37は、全反射コーティング材であり、高い反射率α2(例えば90%以上、好ましくは99%以上の反射率)を有する。
【0017】
このように出力鏡3の第1面31に、放電管2の内径D0の90%〜100%よりも内側に、20%〜70%の反射率α1を有する第1コーティング材36を誘電体多層膜として積層するので、高次モードのレーザ発振が抑制され、低次モードでレーザ発振させることができ、ビーム品質を向上させることができる。また、第1コーティング材36の周囲には、第2コーティング材37により全反射コーティングを施すので、散乱光の外部への透過を防止することができるとともに、散乱光を第2コーティング材37で反射させて放電空間12に導くことができ、レーザ光の出力低下を抑えることができる。
【0018】
図3は、本実施形態に係るリア鏡4の第1面41の正面図である。第1面41は、軸線CLを中心とした円形状の第1領域43と、第1領域43の外側のリング状の第2領域44とに分割されている。第1領域43と第2領域44との間の円形の境界線45の直径D2は、例えば放電管2の内径D0の90%〜100%である。第1領域43と第2領域44とには、互いに異なる反射率を有するコーティング材が誘電体多層膜として積層されている。すなわち、第1領域43には、所定の反射率α3を有する第3コーティング材46が誘電体多層膜として積層され、第2領域44には、第3コーティング材46の反射率α3よりも低い所定の反射率α4を有する第4コーティング材47が誘電体多層膜として積層されている。コーティング材46,47には、例えばジンクセレンおよびフッ化トリウム(ZnSe,ThF)などの多層膜を用いることができる。
【0019】
第3コーティング材46は、例えば高反射コーティング材であり、その反射率α3は、例えば99.0%〜99.9%である。第4コーティング材47は、例えば無反射コーティング材であり、その反射率α4は、ほぼ0である。
【0020】
このようにリア鏡4の第1面41に、放電管2の内径D0の90%〜100%よりも内側に、第3コーティング材46により高反射コーティングを施し、第3コーティング材46の周囲には、第4コーティング材47により無反射コーティングを施すので、高次モードのレーザ発振が抑制され、低次モードの発振効率を向上させることができる。
【0021】
図4は、リア鏡4とセンサ8の位置関係を示す断面図である。
図4に示すように、レーザ光を検出するセンサ8は受光部8aを有し、受光部8aは、リア鏡4の第2面41に対向して配置されている。受光部8aの最外径は境界線45の径D2よりも小さく、受光部8aは、軸線CLに平行な境界線45の延長線(2点鎖線)から突出しないよう、中央部が軸線CL上に位置するように配置されている。
【0022】
このようにリア鏡4の第2面42に面して、境界線45よりも径方向内側にセンサ8の受光部8aを配置するので、第2領域44(無反射コーティング)を透過したレーザ光が受光部8aに入射することを防止することができる。その結果、センサ8の焼き付きを防止することができ、安定したレーザ出力の計測が可能である。
【0023】
上記実施の形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)レーザ発振器100の出力鏡3の第1面31には、径方向中央部を含む第1領域33に、反射率α1を有する第1コーティング材36が誘電体多層膜として積層され、第1領域33の周囲の第2領域34に、反射率α1よりも高い反射率α2を有する第2コーティング材37が誘電体多層膜として積層される。このように出力鏡3の中央部に低反射の第1コーティング材36を誘電体多層膜として積層したことにより、低次モードのみでレーザ発振させて、ビーム品質を向上させることができるとともに、外周側に高反射の第2コーティング材37を設けたことにより、レーザ発振器100内で発生した散乱光の外部への放出を防止することができ、加工品質を向上させることができる。また、第2コーティング材37により散乱光を反射させて放電空間12内に戻すので、レーザ出力の低下を抑えることができる。すなわち、アパーチャを用いない簡易な構成で、ビーム品質を向上させるとともに、散乱光の発生を抑制することができる。
【0024】
また、第1面31に2種類のコーティング材36,37を誘電体多層膜として積層するだけであり、部品点数の増加もなく、レーザ発振器100を容易かつ安価に構成することができる。これに対し、例えば第1領域31と第2領域32とに、互いに異なる反射率を有する別々の部品を配置すると、部品点数が増加して構成が複雑になり、レーザ発振器100のコストも上昇する。
【0025】
(2)出力鏡3の第1領域33と第2領域34との間の境界線35は、放電管2の軸線CLを中心とした円上にあり、その円の直径D1は、放電管2の内径D0の90%以上かつ100%以下である。このように放電管2と同心円上、かつ、放電管2の内径D0の90%〜100%の範囲に境界線35を設定することにより、ビーム品質とレーザ出力とのバランスを向上させることができる。一方、例えば境界線35の径D1が放電管2の内径D0の90%を下回る場合には、高次モードが発振できなくなり、ビーム品質は向上するが、第2コーティング材37でレーザ光を反射させて放電空間12内に戻したとしても、レーザ出力のロスが大きく、レーザ光の出力低下が問題となる。
【0026】
(3)レーザ発振器100のリア鏡4の第1面41には、径方向中央部を含む第1領域43に、反射率α3を有する第3コーティング材46が誘電体多層膜として積層され、第1領域43の周囲の第2領域44に、反射率α3よりも低い反射率α4を有する第4コーティング材47が誘電体多層膜として積層される。例えば、リア鏡4の第1面41の中央部側に高反射コーティングが施され、外周側に無反射コーティングが施される。これにより高次モードのレーザ発振を抑制することができるため、ビーム品質を向上させることができる。
【0027】
(4)リア鏡4の第1領域43と第2領域44との間の境界線45は、放電管2の軸線CLを中心とした円上にあり、その円の直径D2は、放電管2の内径D0の90%以上かつ100%以下である。これによりビーム品質とレーザ出力とのバランスを向上させることができる。
【0028】
(5)レーザ出力を検出するセンサ8の受光部8aを、リア鏡4の第2面42に面して、第1領域43と第2領域44との境界線45よりも径方向内側に収まるように配置するので、受光部8aに第2領域44を透過したレーザ光が入射することを防止でき、センサ8の誤作動および故障を防ぐことができる。
【0029】
なお、上記実施形態(
図3)では、リア鏡4の第1面41を第1領域43と第2領域44とに分割し、第1領域43に高反射コーティング材を誘電体多層膜として積層するようにしたが、リア鏡4を例えば以下のように構成することもできる。
図5は、
図3の変形例であるリア鏡4の断面図である。
図5に示すように、リア鏡4は、軸線CLを中心とした円形状を呈し、その外径D3は、放電管2の内径D0の90%以上かつ100%以下である。リア鏡4の第1面41には、全域にわたって同一の反射率を有するコーティング材、すなわち全反射コーティング材が誘電体多層膜として積層されている。
【0030】
これにより高次モードのレーザ発振が抑制され、ビーム品質を向上させることができる。また、リア鏡4と放電管2が同心円上に配置されるので、ビーム品質とレーザ出力の双方をバランスよく向上させることができる。第1面41の全域に高反射コーティング材を誘電体多層膜として積層するので、第1面41を2つの領域43,44に分けて別々の反射率のコーティング材を誘電体多層膜として積層する場合に比べ、コーティング作業が容易である。
【0031】
図6は、
図3の別の変形例を示す図である。リア鏡4は、軸線CLを中心とした円形状を呈し、第1面41は、径方向中央部を含む第1領域に形成された第1曲率半径r1を有する第1凹部41aと、第1領域の周囲の第2領域に形成された第1曲率半径r1よりも小さい第2曲率半径r2を有する第2凹部41bとを有する。第1曲率半径r1は例えば100mであり、第2曲率半径r2は例えば50mである。第1凹部41aと第2凹部41bとの間の境界線41cは、軸線CLを中心とした円形状を呈し、その径D4は、放電管2の内径D0の90%〜100%である。
【0032】
このようにリア鏡4の第1面41に、第1曲率半径r1の第1凹部41aと第2曲率半径r2(<r1)の第2凹部41bとを形成するので、リア鏡4の中心部側がレーザ発振に適した曲率となり、低次モードでのレーザ発振が促進される。また、曲率の小さい第2凹部41bによりレーザ光が放電管2の中心部側に反射するため、高次モードでのレーザ発振を抑制することができるとともに、レーザ出力の低下を抑えることできる。なお、第1面41全域に高反射コーティング材を誘電体多層膜として積層することもできるし、第1凹部41aおよび第2凹部41bをそれぞれ
図3の第1領域43および第2領域44とみなし、それぞれに反射率の異なるコーティング材46,47を誘電体多層膜として積層することもできる。
【0033】
なお、上記実施形態では、レーザ発振器100に単一の放電管2を備えるようにしたが(
図1)、放電管2を複数設けるようにしてもよい。放電管2の両側に配置されるのであれば、出力鏡3とリア鏡4の配置および構成は上述したものに限らない。例えば出力鏡3の第1面31およびリア鏡4の第1面41の少なくとも一方を凹状ではなく、平坦に形成してもよい。出力鏡3の放電空間12に面した表面(第1面31)のうち、径方向中央部を含む第1領域33に、反射率α1(第1反射率)を有する第1コーティング材36が誘電体多層膜として積層され、第1領域33の周囲の第2領域34に、第1反射率α1よりも高い反射率α2(第2反射率)を有する第2コーティング材37が誘電体多層膜として積層されるのであれば、第1面31に施されるコーティングの構成はいかなるものでもよい。例えば第1領域33と第2領域34の境界線35を、放電管2の内径D0の90%未満あるいは100%より大きくしてもよい。
【0034】
リア鏡4の放電空間12に面した表面(第1面41)に2分割のコーティングをする場合(
図3)、径方向中央部を含む第1領域43に、反射率α3(第3反射率)を有する第3コーティング材46が誘電体多層膜として積層され、第1領域43の周囲の第2領域44に、第3反射率α3よりも低い反射率α4(第4反射率)を有する第4コーティング材47が誘電体多層膜として積層されるのであれば、第1面41に施されるコーティングの構成はいかなるものでもよい。例えば第1領域43と第2領域44の境界線45を、放電管2の内径D0の90%未満あるいは100%より大きくしてもよい。上記実施形態(
図4)では、リア鏡4の第2面42に対向してセンサ8の受光部8aを配置したが、境界線45よりも径方向内側に収まるように配置するのであれば、レーザ出力を検出する検出部の配置は上述したものに限らない。
【0035】
出力鏡、リア鏡にコーティング材を塗布する方法としてジンクセレン、フッ化トリウムなどを誘電体多層膜として積層する方法を例示したが、他に金や銅を塗布する方法などによっても各種反射率を持つコーティングを出力鏡、リア鏡に生成することができる。
【0036】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態および変形例の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。すなわち、本発明の技術的思想の範囲内で考えられる他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。また、上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能である。