(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明について詳述する。
本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油としては特に制限はなく、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油、合成系基油が使用できる。
【0013】
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、水素異性化、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、GTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される基油等が例示できる。
【0014】
本発明における鉱油系基油としては、水素化分解鉱油系基油が好ましい。また、石油系あるいはフィッシャートロピッシュ合成油等のワックスを50質量%以上含む原料を異性化して得られるワックス異性化イソパラフィン系基油がより好ましく用いられる。またこれらは、単独でも任意に混合して使用することができるが、ワックス異性化基油を単独で使用することが好ましい。
【0015】
合成系基油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、及びジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;ネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、及びペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、及び芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
【0016】
本発明における潤滑油基油としては、上記鉱油系基油、上記合成系基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の任意混合物等が使用できる。例えば、1種以上の鉱油系基油、1種以上の合成系基油、1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合油等を挙げることができる。
【0017】
本発明において用いる潤滑油基油の動粘度は特に制限はないが、その100℃での動粘度は、好ましくは2〜8mm
2/s、より好ましくは2.5〜6mm
2/s、特に好ましくは3〜4.5mm
2/sに調整してなることが望ましい。潤滑油基油の100℃での動粘度が8mm
2/sを越える場合は、低温粘度特性が悪化し、一方、その動粘度が2mm
2/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
【0018】
潤滑油基油の粘度指数については格別の限定はないが、100以上であることが好ましく、より好ましくは120以上、さらに好ましくは130以上、特に好ましくは140以上であり、通常200以下、好ましくは160以下である。粘度指数を100以上とすることによって、低温から高温にわたり良好な粘度特性を示す組成物を得ることができる。一方、粘度指数が高すぎると低温時の粘度が高くなる傾向があり好ましくない。
【0019】
また潤滑油組成物の低温粘度特性と粘度指数を改善するため、粘度指数が115以上であり100℃の動粘度が2mm
2/s以上、3.5mm
2/s未満の低粘度基油と、粘度指数が125以上であり100℃の動粘度が3.5mm
2/s以上、4.5mm
2/s以下の相対的に高粘度基油から選ばれる、2種類以上の120以上の粘度指数を持つ基油の組合せが好ましい。特に混合することにより粘度指数を向上させることができ、これにより−40℃のブロックフィールド粘度を10000mPa・s以下とすることができる。
【0020】
前述の低粘度基油の粘度指数は120以上であることが好ましく、125以上であることがさらに好ましい。また、相対的に高粘度である基油の粘度指数は130以上であることが好ましく135以上であることがさらに好ましい。これにより−40℃のブロックフィールド粘度を8000mPa・s以下とすることができる。
【0021】
また、本発明において用いる潤滑油基油の硫黄含有量に特に制限はないが、0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましく、0.005質量%以下であることが特に好ましく、実質的に0であることが最も好ましい。潤滑油基油の硫黄含有量を低減することで酸化安定性により優れた組成物を得ることができる。
【0022】
潤滑油基油の蒸発損失量としては、特に制限はないが、NOACK蒸発量で、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%、特に好ましくは22〜35質量%に調整してなることが望ましい。NOACK蒸発量が上記範囲に調整された潤滑油基油を使用することで低温特性と摩耗防止性を両立しうる。なお、ここでいうNOACK蒸発量とは、CEC L−40−T−87に準拠して測定される蒸発量を意味する。
【0023】
本発明における(A)成分のポリサルファイドは、硫化油脂類、硫化オレフィン類、ジヒドロカルビルポリスルフィド類などが挙げられる。
【0024】
硫化油脂としては、例えば、硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油、硫化米ぬか油などの油;硫化オレイン酸などの二硫化脂肪酸;及び硫化オレイン酸メチルなどの硫化エステルを挙げることができる。
【0025】
硫化オレフィンとしては、例えば下記一般式(1)で示される化合物を挙げることができる。
R
1−S
X−R
2 (1)
一般式(1)において、R
1は炭素数2〜15のアルケニル基、R
2は炭素数2〜15のアルキル基またはアルケニル基を示し、xは1〜8の整数を示す。xは2以上が好ましく、4以上が特に好ましい。
この化合物は炭素数2〜15のオレフィンまたはその2〜4量体を硫黄、塩化硫黄等の硫化剤と反応させることによって得ることができる。
オレフィンとしては、例えば、プロピレン、イソブテン、ジイソブテンなどが好ましく用いられる。
【0026】
ジヒドロカルビルポリスルフィドは、下記一般式(2)で示される化合物である。
R
3−S
y−R
4 (2)
一般式(2)において、R
3及びR
4は、それぞれ個別に、炭素数1〜20のアルキル基(シクロアルキル基も含む)、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアリールアルキル基又はアルキルアリール基を示し、それらは互いに同一であっても異なっていてもよく、yは2〜8の整数を示す。
【0027】
上記R
3及びR
4の例としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ドデシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、及びフェネチル基などを挙げることができる。
【0028】
ジヒドロカルビルポリスルフィドの例の好ましいものとしては、具体的には、ジベンジルポリスルフィド、ジ−tert−ノニルポリスルフィド、ジドデシルポリスルフィド、ジ−tert−ブチルポリスルフィド、ジオクチルポリスルフィド、ジフェニルポリスルフィド、及びジシクロヘキシルポリスルフィドなどが挙げられる。
【0029】
本発明における(A)成分のポリサルファイドは、最も好ましくは硫化オレフィン類であり、さらに好ましくは、一般式(1)で示されるxが4〜8のものである。
【0030】
また、本発明におけるこれら(A)成分は、金属間摩擦係数の向上、および耐摩耗、耐焼付性の点から、その配合量は潤滑油組成物全量基準で0.05質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上である。また1.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.2質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下であり、最も好ましくは0.5質量%以下である。1.5質量%を超えると酸化安定性が大幅に低下するため好ましくない。
【0031】
本発明における(B)成分であるチアジアゾールとしては、チアジアゾールである限り、特に構造は限定されないが、例えば、下記一般式(3)で示される1,3,4−チアジアゾール化合物、一般式(4)で示される1,2,4−チアジアゾール化合物及び一般式(5)で示される1,4,5−チアジアゾール化合物を挙げることができる。
【0033】
一般式(3)〜(5)において、R
22、R
23、R
24、R
25、R
26及びR
27は各々同一でも異なっていてもよく、それぞれ個別に、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表し、g、h、i、j、k、及びlはそれぞれ個別に、0〜8の整数を表す。
上記炭素数1〜30の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。
【0034】
また、本発明におけるこれら(B)成分は、金属間摩擦係数の向上、および耐摩耗、耐焼付性の点から、その配合量は潤滑油組成物全量基準で0.05質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上である。また1.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.2質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下であり、最も好ましくは0.5質量%以下である。1.5質量%を超えると耐焼付性が逆に低下するため好ましくない。
【0035】
本発明の潤滑油組成物には、(C)成分としてリン系添加剤を含有する。
リン系添加剤としては、分子中にリンを含むものであれば特に制限はないが、例えば、炭素数1〜30の炭化水素基を有するリン酸モノエステル類、リン酸ジエステル類、リン酸トリエステル類、亜リン酸モノエステル類、亜リン酸ジエステル類、亜リン酸トリエステル類、チオリン酸モノエステル類、チオリン酸ジエステル類、チオリン酸トリエステル類、チオ亜リン酸モノエステル類、チオ亜リン酸ジエステル類、チオ亜リン酸トリエステル類、これらのエステル類とアミン類あるいはアルカノールアミン類との塩若しくは亜鉛塩等の金属塩等が使用できる。
【0036】
前記炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができ、1種類あるいは2種類以上を任意に配合することができる。
【0037】
本発明においては、リン系添加剤のうち、炭素数4〜20のアルキル基又は炭素数6〜12の(アルキル)アリール基を有する亜リン酸エステル若しくはリン酸エステルが好ましい。
また、炭素数4〜20のアルキル基を有する亜リン酸エステルおよび炭素数6〜12の(アルキル)アリール基を有する亜リン酸エステルから選ばれる1種又は2種以上の混合物がより好ましい。
さらに、フェニルホスファイト等の炭素数6〜7の(アルキル)アリール基を有する亜リン酸エステルおよび/または炭素数4〜8のアルキル基を有する亜リン酸エステルがより好ましい。これらの中でも、ジブチルホスファイトが最も好ましい。
アルキル基は直鎖状でも良いが、分枝状であることがより好ましい。炭素数が少ないほうが、また分枝状であるほうが金属間摩擦係数が高いことによる。
【0038】
本発明の潤滑油組成物においてリン系添加剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.1質量%以上であり、通常0.1〜5質量%である。
また、リン元素濃度としては、好ましくは0.001〜0.2質量%である。金属材料の摩耗防止性及び金属間摩擦係数をより高めることができる点で0.005質量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.02質量%以上である。一方、0.15質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0.08質量%以下である。0.15質量%を超えると、潤滑油組成物の酸化安定性が低下したり、シール材等への悪影響が懸念されるため好ましくない。
【0039】
本発明の潤滑油組成物において、組成物中の硫黄分は硫黄原子換算で0.2質量%以上であり、また組成物中のリン分がリン原子換算で0.2質量%以下であることが必要である。
また、組成物中の硫黄分の硫黄原子換算質量%と、組成物中のリン分のリン原子換算質量%の比(硫黄原子換算質量%/リン原子換算質量%の比率(S/P))が3.0〜5.0であることが必要である。
リン系添加剤のリン元素濃度での含有量(P)に対する潤滑油組成物中の硫黄分(S)の質量比を上記範囲とすることで、金属間摩擦係数を高く保持しながら耐摩耗性や耐焼付性を長期間維持できる潤滑油組成物を得ることができる。特にS/P比が5.0を超えると耐焼付性が低下する。これは耐焼付性に対し、リン系添加剤と硫黄系添加剤の作用機構が異なることに起因していると考えられ、そのバランスが特に重要であることがわかった。
【0040】
本発明においては、さらに摩擦調整剤及び/又は金属系清浄剤を単独で、又は数種類組み合わせて配合してもよい。これらを本発明の潤滑油組成物に配合することで、湿式摩擦クラッチを装着したベルト式無段変速機用の、より良好な潤滑油組成物を得ることができる。
【0041】
本発明の潤滑油組成物に併用可能な摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基(特に直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基)を持つアミン化合物、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩等が挙げられる。
【0042】
前述したアミン化合物の中には、ポリアミンとの反応物であるコハク酸イミド等も含まれる。これらのものはホウ素化合物やリン化合物で変性されたものも含む。
アミン化合物としては、炭素数6〜30の直鎖状若しくは分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪族モノアミン、直鎖状若しくは分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪族ポリアミン、これら脂肪族アミンのアルキレンオキシド付加物、これらアミン化合物とリン酸エステル若しくは亜リン酸エステルとの塩、又はこれらアミン化合物の(亜)リン酸エステル塩のホウ酸変性物等が例示できる。
【0043】
また、アミン化合物のアルキレンオキシド付加物;これらアミン化合物とリン酸エステル(例えばジ2−エチルヘキシルリン酸エステル等)、亜リン酸エステル(例えばジ2−エチルヘキシル亜リン酸エステル等)との塩;これらアミン化合物の(亜)リン酸エステル塩のホウ酸変性物;又はこれらの混合物等が特に好ましく用いられる。
【0044】
脂肪酸アミドとしては、炭素数7〜31の直鎖状又は分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪酸と、脂肪族モノアミン又は脂肪族ポリアミンとのアミド等が例示でき、より具体的には、例えば、ラウリン酸アミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、ラウリン酸モノプロパノールアミド、ミリスチン酸アミド、ミリスチン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸モノプロパノールアミド、パルミチン酸アミド、パルミチン酸ジエタノールアミド、パルミチン酸モノプロパノールアミド、ステアリン酸アミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸モノプロパノールアミド、オレイン酸アミド、オレイン酸ジエタノールアミド、オレイン酸モノプロパノールアミド、ヤシ油脂肪酸アミド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸モノプロパノールアミド、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸アミド、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸ジエタノールアミド、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸モノプロパノールアミド、及びこれらの混合物等が特に好ましく用いられる。
【0045】
脂肪酸金属塩としては、炭素数7〜31の直鎖状又は分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪酸の、アルカリ土類金属塩(マグネシウム塩、カルシウム塩等)や亜鉛塩等が挙げられ、より具体的には、例えば、ラウリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム、ヤシ油脂肪酸カルシウム、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、ヤシ油脂肪酸亜鉛、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸亜鉛、及びこれらの混合物等が特に好ましく用いられる。
【0046】
本発明においては、これらの摩擦調整剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.01〜5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.03〜3質量%である。
【0047】
本発明の潤滑油組成物に併用可能な金属系清浄剤としては、潤滑油用の金属系清浄剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能である。例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルフォネート、フェネート、サリシレート、ナフテネート等を単独あるいは2種類以上組み合わせて使用することができる。ここでアルカリ金属としてはナトリウムやカリウム、アルカリ土類金属としてはカルシウム、マグネシウム等が例示される。また、具体的な金属系清浄剤としてはカルシウム又はマグネシウムのスルフォネート、フェネート、サリシレートが好ましく用いられる。なかでもカルシウムスルホネートが好ましい。
【0048】
なお、これら金属系清浄剤の全塩基価は0〜500mgKOH/gであり、その添加量は、潤滑油組成物全量基準で、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属元素換算で、0.001〜0.5質量%であることが好ましく、クラッチ板の摩擦材の目詰まりによる摩擦係数の低下を防止する観点から、その上限値は0.1質量%であることが好ましく、0.05質量%以下であることが特に好ましい。
【0049】
本発明の潤滑油組成物には、さらに性能を高める目的で、公知の潤滑油添加剤、例えば、無灰分散剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、腐食防止剤、消泡剤、着色剤等に代表される各種添加剤を単独で、又は数種類組み合わせて配合することができる。
【0050】
本発明の潤滑油組成物に併用可能な無灰分散剤としては、潤滑油用の無灰分散剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であるが、例えば炭素数40〜400、好ましくは炭素数60〜350のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物、炭素数40〜400、好ましくは炭素数60〜350のアルケニル基を有するビスタイプあるいはモノタイプのコハク酸イミド、及びこれらの化合物を前述したホウ酸、リン酸、カルボン酸又はこれらの誘導体、硫黄化合物等を作用させた変性品等が挙げられ、これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を併用することができる。
【0051】
ここでいうアルキル基又はアルケニル基としては、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられ、ブテン混合物あるいは高純度イソブチレンを塩化アルミニウム系触媒あるいはフッ化ホウ素系触媒等により重合させたものより得られるポリブテニル基であることが好ましく、特にハロゲン化合物を除去されたものが特に好ましい。
【0052】
これらアルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は、清浄分散性能に劣り、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を越える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化するため、それぞれ好ましくない。また、これらの化合物の含有量は任意であるが、潤滑油組成物全量基準で0.1〜10質量%が好ましく、より好ましくは1〜8質量%である。本発明においては、併用する無灰分散剤としては変速特性をさらに向上させることから、重量平均分子量700〜3,500、好ましくは900〜2,000のポリブテニル基を有するコハク酸イミド及び/又はこれらのホウ酸変性化合物を配合することが特に好ましい。また、湿式クラッチの剥離防止性を向上させる事から、前記無灰分散剤にはホウ酸変成コハク酸イミドを配合する事が好ましく、ホウ酸変成コハク酸イミドを1種の成分として配合する事がさらに好ましい。
【0053】
本発明の潤滑油組成物に併用可能な粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの共重合体若しくはその水添物などのいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤等が例示できる。他の粘度指数向上剤の具体例としては、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる。)及びその水素化物、ポリイソブチレン及びその水添物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等が挙げられる。
【0054】
これら粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合では、5,000〜150,000、好ましくは5,000〜35,000のものが、ポリイソブチレン又はその水素化物の場合は800〜5,000、好ましくは1,000〜4,000のものが、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物の場合は800〜150,000、好ましくは3,000〜12,000のものが望ましい。またこれら粘度指数向上剤の中でもエチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物を用いた場合には、特にせん断安定性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。本発明においては、これらの粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、潤滑油組成物基準で0.1〜40質量%であるのが望ましい。
【0055】
本発明の潤滑油組成物に併用可能な酸化防止剤としては、フェノール系化合物やアミン系化合物等、潤滑油に一般的に使用されているものであれば使用可能であり、具体的には例えば、2−6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等のアルキルフェノール類、メチレン−4、4−ビスフェノール(2、6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)等のビスフェノール類、フェニル−α−ナフチルアミン等のナフチルアミン類、ジアルキルジフェニルアミン類、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛等のジアルキルジチオリン酸亜鉛類、(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)脂肪酸(プロピオン酸等)と1価又は多価アルコール、例えばメタノール、オクタデカノール、1、6ヘキサジオール、ネオペンチルグリコール、チオジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタエリスリトール等とのエステル等が挙げられる。これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の酸化防止剤を任意の量を含有させることができるが、通常、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.01〜5.0質量%であるのが望ましい。
【0056】
本発明の潤滑油組成物に併用可能な腐食防止剤としては、潤滑油用の腐食防止剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であるが、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系化合物等が挙げられる。これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量を含有させることができるが、通常、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.01〜3.0質量%であるのが望ましい。
【0057】
本発明の潤滑油組成物に併用可能な消泡剤としては、潤滑油用の消泡剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であるが、例えば、ジメチルシリコーン、フルオロシリコーン等のシリコーン類が挙げられる。これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量を含有させることができるが、通常、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.001〜0.05質量%であるのが望ましい。
【0058】
本発明の変速機用潤滑油組成物に併用可能な着色剤は任意であり、また任意の量を含有させることができるが、通常、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.001〜1.0質量%であるのが望ましい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の内容を実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0060】
(実施例1〜6及び比較例1〜8)
表1の実施例1〜6及び比較例1〜8に示す各潤滑油組成物を調製し、以下に示す試験を行い、その評価結果を表1に併記した。なお、表1中、基油の割合は基油全量基準、各添加剤の添加量は組成物全量基準である。
【0061】
(1)ASTM D2783に準拠した高速四球試験法による初期焼き付き荷重(LNSL)
(2)ASTM D4172に準拠した高速四球試験法による摩耗痕径
(3)ASTM D3233に準拠したファレックス焼き付き試験法による焼き付き荷重(4)JASO法(高荷重法)M358:2005に準拠したLFW−1試験による金属間摩擦係数
【0062】
【表1】
【0063】
表1から分かるように、(A)ポリサルファイドを含有しない比較例1、3および4、並びに含有量が0.05質量%未満の比較例8は、実施例に比較して高速四球試験の初期焼き付き荷重(LNSL)が低い傾向にあり、またファレックス焼き付き試験においては明らかに耐焼き付き荷重が低い。またLFW−1の金属間摩擦係数も低く、伝達トルク容量に影響している。
(B)チアジアゾールを含有しない比較例1、3および5〜7は、実施例に比較してLFW−1の金属間摩擦係数が低く、伝達トルク容量が低いことがわかる。
(C)リン系添加剤を含まない比較例1は、実施例に比較して高速四球試験の初期焼き付き荷重(LNSL)が低い傾向があり、またファレックス焼き付き試験においては明らかに耐焼き付き荷重が低い。またLFW−1の金属間摩擦係数も低く、伝達トルク容量に影響している。
【0064】
また本発明では、組成物中の硫黄分が硫黄原子換算で0.2質量%以上であることが必要であるが、これに達しない比較例1および3は、LFW−1試験における金属間摩擦係数が低い。さらに本発明では、組成物中のリン分がリン原子換算で0.2質量%以下であり、硫黄原子換算質量%/リン原子換算質量%の比率(S/P)が3.0〜5.0であることが必要であるが、この範囲を外れる比較例1は先の通りであり、比較例2も金属間摩擦係数が十分に高いものの高速四球試験の摩擦が大きく、またファレックス焼き付き試験における耐焼き付き荷重も低く、S/Pのバランスを欠くと問題が発生することが分かる。