(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
有機繊維基材の表面上に、複素環を有する高分子化合物層と酸化剤として機能し且つ無電解めっきの触媒能力を有する金属塩とから構成されるめっき下地層を設け、該めっき下地層上に無電解めっき法により金属めっき膜を設けた金属被覆繊維であって、
有機繊維基材は、下記式1の撚糸係数kが500〜3146の範囲であり、
金属被覆繊維の引張強度は、前記めっき下地層および前記無電解めっき法による金属めっき膜を設ける前の有機繊維基材の引張強度を100%とした時の90〜100%を保持することを特徴とする金属被覆繊維。
(式1)k=T×√D (T=撚糸回数(T/m)、D=総繊度(dtex))
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について詳細に説明する。
本発明は、有機繊維基材の表面上に、複素環を有する高分子化合物層と酸化剤として機能し且つ無電解めっきの触媒能力を有する金属塩とから構成されるめっき下地層を設け、該めっき下地層上に無電解めっき法により金属めっき膜を設けた金属被覆繊維であって、有機繊維基材は、下記式1の撚糸係数kが
500〜3146の範囲であることを特徴とする。
(式1)k=T×√D (T=撚糸回数(T/m)、D=総繊度(dtex))
また、得られる金属被覆繊維は、
図1に示すようにめっき下地層や金属めっき膜が有機繊維基材の内部まで浸透するため、金属被覆繊維の抵抗が低くなる。更に、有機繊維基材と金属めっき膜との密着性にも優れる。その上、得られる金属被覆繊維の引張強度は、前記めっき下地層および前記無電解めっき法による金属めっき膜を設ける前の有機繊維基材の引張強度を100%とした時の
90〜100%を保持する。
【0013】
(1)有機繊維基材
本発明に使用する前記有機繊維基材としては、下記式1の撚糸係数kが
500〜3146の範囲のものである。(式1)k=T×√D (T=撚糸回数(T/m)、D=総繊度(dtex))
このように「撚糸係数k」とは、T=撚糸回数に、√D=総繊度を掛け算した値である。また、撚糸係数kが500〜
3146の値となるように、特定のD=総繊度(dtex)の有機繊維を、特定のT=撚糸回数(T/m)で撚糸した有機繊維基材を用いる。撚糸係数kが
3146を超えると、
図2に示すようにめっき下地層や金属めっき膜が有機繊維基材の内部まで浸透せず、得られる金属被覆繊維の抵抗が高くなる、更に、有機繊維基材と金属めっき膜との密着性にも劣る。撚糸係数kが500未満であると、有機繊維基材をアルカリ溶液へ浸漬させると、引張強度が低下する場合がある。なお、撚糸係数kが500〜
3146の有機繊維基材を用いて得られた金属被覆繊維の引張強度は、めっき下地層および無電解めっき法による金属めっき膜を設ける前の有機繊維基材の引張強度を100%とした時の90%以上を保持しやすい。
【0014】
また、ここでいう「D=総繊度(dtex)」とは、糸の太さを表すものである。糸の断面は真円ではなく様々な形が考えられることから、長さと重さの比でその太さを表現する。フィラメント糸の場合は『デシテックス(dtex)』が用いられる。なお、デシテックスは10,000mあたりのグラム数である。
【0015】
また、ここでいう「T=撚糸回数(T/m)」とは、1mあたりの撚り回数である。
【0016】
本発明の有機繊維基材の材料としては、特に限定されないが、アラミド繊維、芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維などの高強度特性を有するものが望ましい。
【0017】
また、本発明の有機繊維基材は、めっき下地層を形成する前に該基材表面に親水化処理を行ってもよい。該基材表面に親水化処理を施すことで、複素環を有する化合物層が該基材表面から発生した官能基と水素結合し、密着性を高めることができる。また、めっき下地層(=複素環を有する化合物と金属塩とを含有する層)を形成しやすくなり、無電解めっき法による金属めっき膜の析出性と密着性が良好になる。
該基材表面を親水化処理する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。前記親水化処理は、例えば、乾式処理でもよく、湿式処理でもよい。乾式処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理(窒素やアルゴンガスを用いたプラズマ処理は除く)及びグロー放電処理などの放電処理;オゾン処理;UVオゾン処理;紫外線処理及び電子線処理などの電離活性線処理などが挙げられる。湿式処理としては、例えば、水、アセトンなどの溶媒を用いた超音波処理;アルカリ処理;アンカーコート処理などが挙げられる。これらの処理は、単独で行ってもよいし、2つ以上を組み合せて行ってもよい。
【0018】
(2)めっき下地層
本発明のめっき下地層は、複素環を有する高分子化合物層と酸化剤として機能し且つ無電解めっきの触媒能力を有する金属塩とから構成される。
【0019】
本発明に使用する複素環を有する化合物としては、例えば、ピロール、N−メチルピロール、N−エチルピロール、N−フェニルピロール、N−ナフチルピロール、N−メチル−3−メチルピロール、N−メチル−3−エチルピロール、N−フェニル−3−メチルピロール、N−フェニル−3−エチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−ブチルピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−n−プロポキシピロール、3−n−ブトキシピロール、3−フェニルピロール、3−トルイルピロール、3−ナフチルピロール、3−フェノキシピロール、3−メチルフェノキシピロール、3−アミノピロール、3−ジメチルアミノピロール、3−ジエチルアミノピロール、3−ジフェニルアミノピロール、3−メチルフェニルアミノピロール及び3−フェニルナフチルアミノピロール等のピロール誘導体;チオフェン、3−メチルチオフェン、3−n−ブチルチオフェン、3−n−ペンチルチオフェン、3−n−ヘキシルチオフェン、3−n−ヘプチルチオフェン、3−n−オクチルチオフェン、3−n−ノニルチオフェン、3−n−デシルチオフェン、3−n−ウンデシルチオフェン、3−n−ドデシルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−ナフトキシチオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等のチオフェン誘導体等が挙げられ、好ましくはピロール、チオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられ、より好ましくはピロールが挙げられる。
【0020】
また、前記複素環を有する化合物を高分子化する際の処理温度は、本発明に使用される複素環を有する化合物の種類によって適宜選択されるが、好ましくは10℃〜130℃である。
【0021】
本発明に使用する酸化剤として機能し且つ無電解めっきの触媒能力を有する金属塩としては、例えば、硝酸銀、酢酸銀、硫酸銀、過塩素酸銀等、フッ化銀、亜硝酸銀、塩化銀、臭化銀、プロピオン酸銀、酒石酸銀、メチルエチル酢酸銀、トリメチル酢酸銀、炭酸銀、シュウ酸銀、雷酸銀の銀塩;硝酸銅、硫酸銅、塩化銅、塩素酸銅、過塩素酸銅、臭化銅、酢酸銅、炭酸銅、シュウ酸銅等の銅塩;硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケル、炭酸ニッケル、シュウ酸ニッケル等のニッケル塩;硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム等のパラジウム塩などが挙げられる。この中でも、ハロゲン化物が好ましく、特に塩化パラジウムが好ましい。
【0022】
本発明のめっき下地層(複素環を有する高分子化合物層及び該層に吸着された無電解めっきの触媒能力を有する金属塩から構成される)の形成方法としては、以下の(a)乃至(c)のいずれかを採用することができる。
(a)前記有機繊維基材を、(i)複素環を有する化合物と(ii)酸化剤として機能し且つ無電解めっきの触媒能力を有する金属塩とを含む水溶液に浸漬し、そして引き上げる工程を含む方法
(b)前記有機繊維基材を、前記複素環を有する化合物を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げた材料を、前記金属塩を含む水溶液に浸漬する工程を含む方法
(c)前記有機繊維基材を、前記金属塩を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げた材料を、前記複素環を有する化合物を含む蒸気に接触する工程を含む方法 前記各方法は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。
【0023】
前記(a)の方法において、前記複素環を有する化合物及び金属塩を含む水溶液を調製する場合、複素環を有する化合物と金属塩(=複素環を有する化合物/金属塩)の濃度比は0.1〜80であり、好ましくは0.1〜40である。濃度比が0.1未満であると複素環を有する化合物の酸化状態及び重合化が不十分となり、また金属塩についても還元状態が不十分となるため、無電解めっきの触媒として作用することが困難となる。一方、濃度比が80より大きいと、金属塩が材料上に均一に付着することができないため、その後のめっき処理よりにおいて、金属めっき膜も均一に形成しない虞があるからである。
また、材料を、前記複素環を有する化合物及び金属塩を含む水溶液に浸漬させる工程の処理温度は、10℃〜130℃であり、処理時間は、0.1分〜120分、好ましくは20分〜60分である。
【0024】
前記(b)の方法において、前記複素環を有する化合物を含む水溶液の濃度は、5×10-4〜0.9Mであり、好ましくは0.01〜0.5Mである。
また、材料を、前記複素環を有する化合物を含む水溶液に浸漬させる工程の処理温度は、10℃〜130℃であり、処理時間は、0.1分〜50分、好ましくは1分〜40分である。
【0025】
前記(b)及び(c)の方法において、好ましい、前記金属塩を含む水溶液としては、0.02%塩化パラジウム−0.01%塩酸水溶液(pH3)である。
また、材料を、前記金属塩を含む水溶液に浸漬させる工程における処理温度は、10℃〜130℃であり、処理時間は、0.1分〜50分、好ましくは1分〜40分である。
【0026】
前記(c)の方法において、複素環を有する化合物を含む蒸気としては、上記の複素環を有する化合物を含む水溶液を気化させた蒸気でもよいが、好ましくは複素環を有する化合物そのものを気化させた蒸気である。
また、複素環を有する化合物を含む蒸気に接触させる工程における処理温度は、10℃〜130℃であり、処理時間は、0.1分〜40分、好ましくは1分〜30分であり、処理圧力は、常圧若しくは減圧状態であってもよい。
【0027】
(3) 金属めっき膜
本発明の金属めっき膜は、めっき下地層上に無電解めっき法により設けられる。
つまり、上記(a)乃至(c)の方法で、有機繊維基材の表面にめっき下地層を設けられたものは、金属を析出させるためのめっき液に浸され、これにより無電解めっき法による金属めっき膜が形成される。
めっき液としては、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば、特に限定されない。すなわち、無電解めっきに使用できる金属としては、例えば、銅、金、銀、ニッケル、及びクロム等、全て適用することができるが、銅が好ましい。無電解めっき浴の具体例としては、具体的には、ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)製)等が挙げられる。
無電解めっきの処理温度は、20℃〜50℃、好ましくは30℃〜40℃であり、処理時間は10分〜40分、好ましくは15分〜30分である。
【0028】
また、無電解めっき法により形成された金属めっき膜の厚みは、0.3〜3μmとすることが好ましい。この金属めっき膜の厚みが3μmを超えると、柔軟性が低下する場合があり、厚みが0.3μm未満であると、例えば電線の中心線や信号線、シールド材として機能しない場合がある。
【0029】
また、無電解めっき法により形成された金属めっき膜上に、溶融錫めっきや電気めっきを行ってもよい。特に、耐熱性の高い有機繊維基材を使用した場合、溶融錫めっきが有効である。
【0030】
また、本発明の金属被覆繊維は、電線の中心線や信号線、シールド材として使用する際、必要に応じて撚りを加えてもよ
い。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものでない。
【0032】
[実施例1]
<めっき下地層形成方法>
ピロールモノマー6.5mM、塩化パラジウム水溶液0.25mM、及び塩酸10mMをイオン交換水に加えて、この水溶液を混合した。そして、この混合液へ、D:総繊度が110dtex、T:撚糸回数が100T/m、つまり、k:撚糸係数が1048のアラミド繊維(Kevlar 東レ・デュポン(株)製)からなる基材を80℃で30分間浸漬し、その後、イオン交換水で洗浄し、乾燥させてめっき下地層を形成した。
<無電解めっき>
次に、前記めっき下地層を形成したアラミド繊維からなる基材を、無電解めっき浴(メルプレートCU5100P浴、メルテックス(株)製)に50℃で20分間浸漬して銅膜を形成し、金属被覆繊維を得た。
【0034】
[実施例3]
D:総繊度が110dtex、T:撚糸回数が300T/m、つまり、k:撚糸係数が3146のアラミド繊維からなる基材を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、めっき下地層を形成した。
その後、実施例1と同様の操作にて無電解めっきを行って銅膜を形成し、金属被覆繊維を得た。
【0036】
[比較例1]
(有機繊維基材の前処理:エッチング)
D:総繊度が110dtex、T:撚糸回数が100T/m、つまり、k:撚糸係数が1048のアラミド繊維からなる基材を、塩基性繊維クリーニング-表面活性剤溶液に25℃で3分間浸漬し、イオン交換水で洗浄した。次に90%硫酸溶液に30℃で30秒間浸漬し、イオン交換水で洗浄した。
(触媒付与)
前処理を行ったアラミド繊維基材を、Sn−Pd系コロイドを含む35%塩酸水溶液 に30℃で3分間浸漬し、水洗した。
(活性化)。
次に98%硫酸溶液100mL/Lに40℃で3分間浸漬し、水洗した。
(無電解めっき)
触媒付与と活性化を行ったアラミド繊維からなる基材を、無電解めっき浴(メルプレートCU5100P浴 メルテックス(株)製)に50℃で20分間浸漬して銅膜を形成し、金属被覆繊維を得た。
【0037】
[比較例2]
(有機繊維基材の前処理:プラズマ)
D:総繊度が110dtex、T:撚糸回数が100T/m、つまり、k:撚糸係数が1048のアラミド繊維からなる基材に、ダイレクト方式のグロー放電プラズマ処理装置にてプラズマ処理(電圧:15kV、窒素ガス:25L/min、処理時間:10秒)を実施した。
(触媒付与)
前処理を行ったアラミド繊維からなる基材を、Sn−Pd系コロイドを含む35%塩酸水溶液 に30℃で3分間浸漬し、水洗した。
(活性化)。
次に98%硫酸溶液100mL/Lに40℃で3分間浸漬し、水洗した。
(無電解めっき)
触媒付与と活性化を行ったアラミド繊維からなる基材を、無電解めっき浴(メルプレートCU5100P浴 メルテックス(株)製)に50℃で20分間浸漬して銅膜を形成し、金属被覆繊維を得た。
【0038】
[比較例3]
D:総繊度が110dtex、T:撚糸回数が450T/m、つまり、k:撚糸係数が4720のアラミド繊維からなる基材を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、めっき下地層を形成した。
その後、実施例1と同様の操作にて無電解めっきを行って銅膜を形成し、金属被覆繊維を得た。
【0039】
[参考例]
直径0.1mmの銅線10本を束ねたものを用いた。
【0040】
上記で製造した実施例1
と3、並びに比較例1〜3の金属被覆繊維において、各種の評価試験を行い、その結果を表1に纏めた。また、参考例の銅線においては、抵抗値と屈曲性の評価試験を行った。尚、評価試験項目及びその評価方法・評価基準は以下の通りである。
【0041】
<抵抗値>
得られた金属被覆繊維について、デジタルテスター(CUSTOM CDM−2000D)を用いて、2端子間の距離を1mとし抵抗を測定した。
【0042】
<密着性>
得られた金属被覆繊維にテープを貼り付け、荷重2Kgのローラーで圧着した。その後テープを引き剥がし、めっき膜のテープへの移行を評価した。評価基準は以下の通りとした。
○:めっき膜のテープへの移行なし
×:めっき膜のテープへの移行あり
【0043】
<引張強度>
得られた金属被覆繊維について、JIS L1013化学繊維フィラメント糸試験方法に準じて、引張試験を実施した。なお、めっき下地層および前記無電解めっき法による金属めっき膜を設ける前の有機繊維基材の引張強度を100%とし、得られた金属被覆繊維の引張強度を相対的に評価した。
【0044】
<屈曲性>
(試験前)
屈曲試験前に、得られた金属被覆繊維について、デジタルテスター(CUSTOM CDM−2000D)を用いて、2端子間の距離を0.1mとし抵抗を測定した。
(試験後)
MIT 耐折度試験機(テスター産業(株))にて、荷重2.9N、屈曲角度270°、屈曲半径0.38mm、屈曲速度175回/分の条件下で、得られた金属被覆繊維を100回屈曲させた後、デジタルテスター(CUSTOM CDM−2000D)を用いて、2端子間の距離を0.1mとし抵抗を測定した。
【0045】
【表1】