特許第5941318号(P5941318)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5941318硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセル、及び、熱硬化性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941318
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセル、及び、熱硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/50 20060101AFI20160616BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   C08G59/50
   C08L63/00
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-77125(P2012-77125)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-203992(P2013-203992A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩本 匡志
(72)【発明者】
【氏名】山田 恭幸
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−041476(JP,A)
【文献】 特開2011−225666(JP,A)
【文献】 特開2009−209209(JP,A)
【文献】 特開2006−160953(JP,A)
【文献】 特開2006−328246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00−59/72
C08L 63/00−63/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェルにコア剤としてエポキシ樹脂硬化剤及び/又はエポキシ樹脂硬化促進剤を内包するカプセルであって、
前記エポキシ樹脂硬化剤及び/又はエポキシ樹脂硬化促進剤は、イミダゾール化合物と酸無水物化合物とを含有する
ことを特徴とする硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセル。
【請求項2】
酸無水物化合物は、OKITSUの式により算出されるSP値が10以下であることを特徴とする請求項1記載の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセル。
【請求項3】
酸無水物化合物の内包量が、イミダゾール化合物20重量部に対して5〜30重量部であることを特徴とする請求項1又は2記載の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセル。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルと、エポキシ樹脂とを含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物に配合された場合に優れた貯蔵安定性及び速硬化性を発揮できる硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルに関する。また、本発明は、該硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを含有する熱硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、接着剤、シール剤、コーティング剤等の様々な用途に用いられている。一般に、エポキシ樹脂には、硬化反応を進行させるための成分として硬化剤が、また、硬化性を向上させるための成分として硬化促進剤が添加される。特に、硬化剤又は硬化促進剤とエポキシ樹脂とを安定な一液にするために、潜在性をもたせた硬化剤又は硬化促進剤が多用されている。このような潜在性硬化剤又は硬化促進剤には、配合されたエポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性を低下させることなく、硬化時には速やかに硬化を進行させることが求められている。
【0003】
潜在性硬化剤又は硬化促進剤としては、シェルにコア剤として硬化剤又は硬化促進剤を内包したマイクロカプセル型硬化剤が知られている(例えば、特許文献1及び2)。しかしながら、これらのマイクロカプセル型硬化剤は、硬化剤又は硬化促進剤としてアミンにエポキシ樹脂等を反応させた付加体(アミンアダクト)を用いているため、硬化性が不充分であり、硬化反応に時間を要する。
【0004】
速硬化性の向上のためには、例えば、コア剤の放出性を改善することが検討されている。特許文献3には、樹脂用硬化剤及び所定の有機溶剤を内包しているマイクロカプセルが記載されている。特許文献3には、熱を加えることによりマイクロカプセルに内包された有機溶剤が液体から気体になる膨張でマイクロカプセル壁を破壊することができると記載されている。しかしながら、特許文献3に記載されたマイクロカプセルでは、気体となった有機溶剤によりボイドが生じ、硬化物の信頼性低下につながるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−269721号公報
【特許文献2】特開2009−203453号公報
【特許文献3】特開2011−31147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物に配合された場合に優れた貯蔵安定性及び速硬化性を発揮できる硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを提供することを目的とする。また、本発明は、該硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを含有する熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シェルにコア剤として硬化剤及び/又は硬化促進剤を内包するカプセルであって、前記硬化剤及び/又は硬化促進剤は、イミダゾール化合物と酸無水物化合物とを含有する硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルである。
以下、本発明を詳述する。
【0008】
本発明者は、シェルにコア剤として硬化剤及び/又は硬化促進剤を内包するカプセルにおいて、速硬化性の向上のために硬化剤及び/又は硬化促進剤として硬化性に優れたイミダゾール化合物を用い、かつ、イミダゾール化合物との相分離を利用した方法によりシェルを形成することを検討した。しかしながら、イミダゾール化合物は一般に極性が高く、シェルとの極性が近いため、使用するイミダゾール化合物とシェルとの組み合わせによっては相分離が不充分となり、カプセル化できないという問題が生じた。
この問題に対し、本発明者は、イミダゾール化合物と、極性の低い酸無水物化合物とを併用して硬化剤及び/又は硬化促進剤の極性を下げることにより、カプセル化を良好に行うことができること、更に、得られた硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、熱硬化性樹脂組成物に配合された場合に優れた貯蔵安定性及び速硬化性を発揮できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、シェルにコア剤として硬化剤及び/又は硬化促進剤を内包する。
上記硬化剤及び/又は硬化促進剤は、イミダゾール化合物と酸無水物化合物とを含有する。従来、イミダゾール化合物は一般に極性が高く、シェルとの極性が近いため、使用するイミダゾール化合物とシェルとの組み合わせによっては相分離が不充分となり、カプセル化できないという問題が生じていた。本発明の本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルにおいては、上記硬化剤及び/又は硬化促進剤としてイミダゾール化合物と酸無水物化合物とを併用することにより、カプセル化を良好に行うことができ、熱硬化性樹脂組成物に配合された場合に優れた貯蔵安定性及び速硬化性を発揮できる硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを得ることができる。
【0010】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルと、熱硬化性化合物とを含有する熱硬化性樹脂組成物においては、加熱によりイミダゾール化合物と酸無水物化合物とがカプセル内で反応し、その反応物は、カプセルからの放出後に直ちに熱硬化性化合物との反応を開始する。イミダゾール化合物が硬化性に優れることに加えて、このような反応物が生成することにより、優れた速硬化性を実現することができる。また、イミダゾール化合物と酸無水物化合物との反応物は、低温領域での蒸気圧が低いため、熱硬化性化合物の硬化温度以下ではカプセルからの硬化剤及び/又は硬化促進剤の漏出が抑制される。このため、優れた貯蔵安定性を実現することができる。
【0011】
上記イミダゾール化合物は特に限定されないが、例えば、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、及び、これらの付加体等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
また、上記イミダゾール化合物として、疎水性イミダゾール化合物を用いることが好ましい。なお、疎水性イミダゾール化合物とは、水に最大限溶解させたときの濃度が5重量%未満であるイミダゾール化合物を意味する。
上記疎水性イミダゾール化合物は、炭素数11以上の炭化水素基を有するイミダゾール化合物が好ましい。上記炭素数11以上の炭化水素基を有するイミダゾール化合物として、例えば、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1−シアノエチルイミダゾール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、1−ベンジル−2−メチルイミダゾールが好ましい。
【0013】
上記酸無水物化合物のOKITSUの式により算出されるSP値は特に限定されないが、OKITSUの式により算出されるSP値が10以下であることが好ましい。SP値が10を超えると、硬化剤及び/又は硬化促進剤とシェルとの極性が近くなり、カプセル化できなかったり、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルが熱硬化性樹脂組成物に配合された場合に貯蔵安定性が低下したりすることがある。SP値は9以下であることがより好ましい。
【0014】
なお、OKITSUの式により算出されるSP値(溶解度パラメータ)とは、親水性を表す指標であり、OKITSUの式とは、下記式(1)で表される溶解度パラメータにおいて、ΔFを算出する手法である(参考:沖津 俊直、日本接着学会誌、vol.29,No.5,204−211(1993))。
Δδ=ΔF/ΔV (1)
式(1)中、δは溶解度パラメータを表し、Fはモル引力定数を表し、Vはモル容積を表す。
【0015】
上記酸無水物化合物のOKITSUの式により算出されるSP値の下限は特に限定されないが、6以上であることが好ましい。SP値が6未満であると、酸無水物化合物とイミダゾール化合物との相溶性が低下し、カプセル化ができないことがある。SP値は7以上であることがより好ましい。
【0016】
上記酸無水物化合物として、具体的には例えば、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、グリセロールトリスアンヒドロトリメリテート、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸−無水マレイン酸付加物、ドデセニル無水コハク酸、ポリドデカン二酸無水物、クロレンド酸無水物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの酸無水物化合物のうち、OKITSUの式により算出されるSP値が10以下である酸無水物化合物として、例えば、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸(YH−309、SP値8.3、三菱化学社製)、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸(MHAC−P、SP値9.3、日立化成工業社製)等が挙げられる。なかでも、カプセルからの硬化剤及び/又は硬化促進剤の漏出を抑制できることから、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸(YH−309、SP値8.3、三菱化学社製)が好ましい。
【0017】
上記酸無水物化合物の内包量は、イミダゾール化合物20重量部に対する好ましい下限が5重量部、好ましい上限が30重量部である。内包量が5重量部未満であると、硬化剤及び/又は硬化促進剤とシェルとの極性が近くなり、カプセル化できなかったり、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルが熱硬化性樹脂組成物に配合された場合に貯蔵安定性が低下したりすることがある。内包量が30重量部を超えると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェルが薄くなり、貯蔵安定性が低下することがある。内包量のより好ましい下限は10重量部、より好ましい上限は20重量部である。
【0018】
上記硬化剤及び/又は硬化促進剤は、必要に応じて、イミダゾール化合物及び酸無水物化合物以外の他の硬化剤及び/又は硬化促進剤を含有してもよい。
【0019】
上記シェルは特に限定されないが、硬化剤及び/又は硬化促進剤との相分離を利用した方法により形成されることが好ましい。このようなシェルとすることにより、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルが熱硬化性樹脂組成物に配合された場合の貯蔵安定性を向上させることができる。
【0020】
上記硬化剤及び/又は硬化促進剤との相分離を利用した方法により形成されるシェルとして、例えば、ラジカル重合性モノマーの重合体を含有するシェルが挙げられる。このようなシェルは、例えば、硬化剤及び/又は硬化促進剤をラジカル重合性モノマーに溶解した混合溶液(1)を、水性媒体に分散させて乳化液(1)とし、次いで、ラジカル重合性モノマーを重合させる方法、ラジカル重合性モノマーを水性媒体に分散させて乳化液(2)とし、次いで、ラジカル重合性モノマーの液滴に硬化剤及び/又は硬化促進剤を含浸させた後、ラジカル重合性モノマーを重合させる方法等により形成することができる。
【0021】
上記ラジカル重合性モノマーは特に限定されず、例えば、1官能のラジカル重合性基を有するモノマー、2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマー等が挙げられる。
上記1官能のラジカル重合性基を有するモノマーとして、例えば、ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物等のビニル基を有する化合物が好ましい。上記ビニル基を有する化合物として、具体的には例えば、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリロニトリル等の共役モノマー、又は、酢酸ビニル、塩化ビニル等の非共 疫モノマー等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
上記2官能以上のラジカル重合性基を有するモノマーは、ラジカル重合性基を分子内に2つ以上有していればよく、ラジカル重合性基を分子内に多数有していてもよく、具体的には例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、PEG#200ジ(メタ)アクリレート、PEG#400ジ(メタ)アクリレート、PEG#600ジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの耐熱性及び耐溶剤性を向上させることができ、また、硬化剤及び/又は硬化促進剤と相分離しやすい重合体が得られることから、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレートが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェル厚みは、好ましい下限が0.05μm、好ましい上限が0.8μmである。シェル厚みが0.05μm未満であると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの強度、耐熱性又は耐溶剤性が低下し、熱硬化性樹脂組成物に配合された場合に貯蔵安定性が低下することがある。シェル厚みが0.8μmを超えると、硬化剤及び/又は硬化促進剤の放出性が低下し、硬化反応に長時間を要することがある。シェル厚みのより好ましい下限は0.08μm、より好ましい上限は0.5μmである。
なお、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェル厚みとは、下記式(2)により算出される、カプセルの体積と内包体積比率から算出したシェルの体積を、カプセルの表面積で割ることで求められる値を意味する。
シェル厚み={カプセルの体積−(カプセルの体積×内包体積比率)}/カプセルの表面積 (2)
【0024】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの内包体積比率は、好ましい下限が15体積%、好ましい上限が70体積%である。内包体積比率が15体積%未満であると、硬化剤及び/又は硬化促進剤の放出性が低下し、硬化反応に長時間を要したり硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを多量に配合する必要が生じたりすることがある。内包体積比率が70体積%を超えると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェルが薄くなりすぎて強度、耐熱性又は耐溶剤性が低下し、貯蔵安定性が低下することがある。内包体積比率のより好ましい下限は25体積%、より好ましい上限は50体積%である。
なお、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの内包体積比率は、平均粒子径を用いて算出したカプセルの体積とガスクロマトグラフィーを用いて測定したコア剤の含有量から、下記式(3)により算出される値を意味する。
内包体積比率(%)=(コア剤の含有量(重量%)×コア剤の比重(g/cm))/カプセルの体積(cm) (3)
【0025】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの平均粒子径は、好ましい下限が0.5μm、好ましい上限が10μmである。平均粒子径が0.5μm未満であると、所望の範囲の内包率を維持しようとすると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの強度、耐熱性又は耐溶剤性が低下し、硬化性樹脂組成物に配合された場合に貯蔵安定性が低下することがある。平均粒子径が10μmを超えると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを熱硬化性樹脂組成物に配合した場合に、加熱により硬化剤及び/又は硬化促進剤が放出された後、大きなボイドが生じて硬化物の信頼性が低下することがある。平均粒子径のより好ましい上限は3.0μmである。
なお、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡を用いて1視野に約100個のカプセルが観察できる倍率で観察し、任意に選択した50個のカプセルの最長径をノギスで測定した平均値を意味する。
【0026】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェルの5%重量損失温度は、好ましい下限が250℃である。5%重量損失温度が250℃未満であると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの耐熱性が低いため、熱硬化性樹脂組成物に配合される場合に熱安定性が低下することがある。5%重量損失温度のより好ましい下限は280℃である。
なお、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェルの5%重量損失温度とは、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)によりシェルを加温したときに、シェルの重量が初期重量から5%減少したときの温度を意味する。
【0027】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの酢酸エチル中での溶解重量減少率は、1重量%未満であることが好ましい。溶解重量減少率が1重量%以上であると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの耐溶剤性が低いため、溶剤と併用する場合に貯蔵安定性が低下することがある。溶解重量減少率は0.5重量%未満であることがより好ましい。
なお、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの酢酸エチル中での溶解重量減少率とは、酢酸エチル中で硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを室温で24時間浸漬攪拌した後、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルと酢酸エチルとを分離し、酢酸エチルを減圧留去することにより析出した硬化剤及び/又は硬化促進剤の重量を測定したときの、析出した硬化剤及び/又は硬化促進剤の重量と浸漬攪拌前の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの重量との比を意味する。
【0028】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを製造する方法として、上述したように、例えば、硬化剤及び/又は硬化促進剤をラジカル重合性モノマーに溶解した混合溶液(1)を、水性媒体に分散させて乳化液(1)とし、次いで、ラジカル重合性モノマーを重合させる方法、ラジカル重合性モノマーを水性媒体に分散させて乳化液(2)とし、次いで、ラジカル重合性モノマーの液滴に硬化剤及び/又は硬化促進剤を含浸させた後、ラジカル重合性モノマーを重合させる方法等が挙げられる。
【0029】
上記水性媒体は特に限定されず、例えば、水に、乳化剤、分散安定剤等を添加した水性媒体が用いられる。上記乳化剤は特に限定されず、例えば、アルキル硫酸スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。上記分散安定剤は特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0030】
上記乳化液(1)又は(2)を調製する際には、混合溶液(1)又はラジカル重合性モノマーに水性媒体を添加してもよく、水性媒体に混合溶液(1)又はラジカル重合性モノマーを添加してもよい。乳化方法として、例えば、ホモジナイザーを用いて攪拌する方法、超音波照射により乳化する方法、マイクロチャネル又はSPG膜を通過させて乳化する方法、スプレーで噴霧する方法、転相乳化法等が挙げられる。
【0031】
上記ラジカル重合性モノマーの液滴に上記硬化剤及び/又は硬化促進剤を含浸させる方法として、例えば、乳化液(2)に固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤を添加し、固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤の融点以上に乳化液(2)を加熱して、固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤を液体状とする方法が挙げられる。なかでも、固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤の融点以上かつ100℃未満に乳化液(2)を加熱して、水性媒体を蒸発させることなく硬化剤及び/又は硬化促進剤を含浸させることが好ましい。
また、例えば、乳化液(2)に液体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤を添加し、乳化液(2)を攪拌する方法も挙げられる。
【0032】
上記ラジカル重合性モノマーを重合させる方法は特に限定されず、使用する重合開始剤の種類等に従って、光を照射したり加熱したりすることにより重合を開始させることができる。重合開始剤は特に限定されないが、水に難溶性(23℃における水への溶解度が20重量%以下)であることが好ましく、具体的には例えば、ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記重合開始剤の配合量は特に限定されず、上記ラジカル重合性モノマー100重量部に対する好ましい下限が0.01重量部、好ましい上限が20重量部である。配合量が0.01重量部未満であると、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルが形成されないことがある。20重量部を超えて配合してもほとんど反応には寄与せず、ブリードアウト等の原因となることがある。配合量のより好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は10重量部である。
【0034】
なお、乳化液(2)に固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤を添加する場合には、乳化液(2)に、固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤の融点以下の温度領域に10時間半減期温度を有する重合開始剤を添加してもよいし、予めラジカル重合性モノマーに固体状の硬化剤及び/又は硬化促進剤の融点以上の温度領域に10時間半減期温度を有する重合開始剤を添加しておいてもよい。
【0035】
得られた硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、純水を用いて繰り返して洗浄された後、真空乾燥等により乾燥されてもよい。
【0036】
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、熱硬化性樹脂組成物に配合された場合に優れた貯蔵安定性及び速硬化性を発揮できることから、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂用の潜在性硬化剤又は硬化促進剤として好適に用いられる。
本発明の硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルと、熱硬化性化合物とを含有する熱硬化性樹脂組成物もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、熱硬化性樹脂組成物に配合された場合に優れた貯蔵安定性及び速硬化性を発揮できる硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを提供することができる。また、本発明によれば、該硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを含有する熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0039】
(実施例1)
水1510重量部と、分散安定剤として5重量%のポリビニルアルコール水溶液(KH−20、日本合成化学社製)760重量部とを混合し、水性媒体を調製した。次いで、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール(1B2MZ、四国化成工業社製)20重量部と、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸(YH−309、SP値8.3、三菱化学社製)20重量部と、1,4−ブタンジオールジアクリレート(ファンクリルFA124−AS、日立化成工業社製)72重量部と、ジビニルベンゼン18重量部と、メタクリロニトリル10重量部と、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V−601、和光純薬工業社製)5重量部とからなる混合液を、水性媒体に添加し、乳化液を調製した。得られた乳化液をホモジナイザーを用いて10000rpmで攪拌混合し、重合反応器内へ投入した。乳化液を80℃に加熱後、9時間反応させることにより、反応生成物を得た。得られた反応生成物を遠心分離後、乾燥することにより硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを得た。
【0040】
(実施例2)
トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸(YH−309、SP値8.3、三菱化学社製)をトリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸(YH−307、SP値9.7、三菱化学社製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを得た。
【0041】
(実施例3)
トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸(YH−309、SP値8.3、三菱化学社製)をトリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸(YH−306、SP値11.2、三菱化学社製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを得た。
【0042】
(実施例4)
トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸(YH−309、SP値8.3、三菱化学社製)の配合量を20重量部から5重量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを得た。
【0043】
(実施例5)
トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸(YH−309、SP値8.3、三菱化学社製)の配合量を20重量部から30重量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを得た。
【0044】
(実施例6)
トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸(YH−309、SP値8.3、三菱化学社製)の配合量を20重量部から40重量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを得た。
【0045】
(比較例1)
トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸(YH−309、SP値8.3、三菱化学社製)を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを得ようとしたが、相分離が不充分となり、カプセル化できなかった。
【0046】
(比較例2)
1−ベンジル−2−メチルイミダゾール(1B2MZ、四国化成工業社製)を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを得た。
【0047】
<評価>
実施例及び比較例で得られた硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルについて以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0048】
(1)貯蔵安定性(熱安定性)
エポキシ樹脂(YL980、jER社製)0.58重量部及び酸無水物硬化剤(YH309、jER社製)0.29重量部中に、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを0.13量部添加して、公転自転撹拌機で撹拌した後、得られたエポキシ樹脂組成物をオーブンで120℃に加熱し、エポキシ樹脂組成物の粘度が初期粘度から2倍になるまでの時間を測定した。
なお、エポキシ樹脂組成物の粘度は、E型粘度計(VISCOMETER TV−22、東海産業社製、φ15mmローターを使用)を用いて、25℃、10rpmの条件で測定した。
【0049】
(2)速硬化性(硬化速度の測定)
エポキシ樹脂(YL980、jER社製)0.58重量部及び酸無水物硬化剤(YH309、jER社製)0.29重量部中に、硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを0.13量部添加して、公転自転撹拌機で撹拌した後、得られたエポキシ樹脂組成物を240℃に熱したホットプレート上に置いたスライドガラスの上に滴下して、エポキシ樹脂組成物が硬化するまでの時間を測定した。
【0050】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、熱硬化性樹脂組成物に配合された場合に優れた貯蔵安定性及び速硬化性を発揮できる硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを提供することができる。また、本発明によれば、該硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを含有する熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。