(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941344
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】配合剤、藻場構造物、植生構造物、及び配合剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C05B 13/04 20060101AFI20160616BHJP
C05F 7/00 20060101ALI20160616BHJP
C02F 11/10 20060101ALI20160616BHJP
A01G 33/00 20060101ALI20160616BHJP
A01K 61/00 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
C05B13/04
C05F7/00
C02F11/10 AZAB
A01G33/00
A01K61/00 311
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-132612(P2012-132612)
(22)【出願日】2012年6月12日
(65)【公開番号】特開2013-256400(P2013-256400A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】岡田 正治
【審査官】
中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−198546(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/065798(WO,A1)
【文献】
特開平09−154432(JP,A)
【文献】
特開平04−279674(JP,A)
【文献】
特開2001−009500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B1/00−21/00、
C05C1/00−13/00、
C05D1/00−11/00、
C05F1/00−17/02、
C05G1/00−5/00、
A01G33/00−33/02、
A01K61/00、
C02F11/00−11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類または水生植物の根付けまたは育成のために必要な鉄成分及びリン成分の供給源として用いられ、破砕スラグから回収され、鉄とリン化鉄を含有する固溶体を含む配合剤。
【請求項2】
リン化鉄が下水またはし尿由来である請求項1記載の配合剤。
【請求項3】
前記リン化鉄がリン酸塩及び鉄系凝集剤を含む被溶融物を溶融処理した破砕スラグから分離して得られる請求項1または2記載の配合剤。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の配合剤が構造体に肥効調整可能に担持されている藻場構造物。
【請求項5】
請求項1から3の何れかに記載の配合剤が構造体に肥効調整可能に担持されている植生構造物。
【請求項6】
リン成分及び鉄成分を含む被溶融物を溶融する溶融処理ステップと、
前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを冷却処理して固化する冷却処理ステップと、
前記冷却処理ステップで固化されたスラグを破砕した破砕スラグから鉄とリン化鉄を含有する固溶体を分離する分離ステップと、
を含み、
前記分離ステップで分離された固溶体を、藻類または水生植物の根付けまたは育成のために必要な鉄成分及びリン成分の供給源として用いる配合剤の製造方法。
【請求項7】
前記溶融処理ステップで溶融されるリン成分及び鉄成分を含む被溶融物は、生物処理によりリンが取り込まれ、鉄系凝集剤が添加された後に固液分離された下水汚泥であり、
前記分離ステップは、前記冷却処理ステップで固化されたスラグを整粒機構で所定の粒径に破砕し、磁力選別、篩選別または比重選別の何れかによりスラグから前記固溶体を分離するように構成されている請求項6記載の配合剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配合剤、藻場構造物、植生構造物、及び配合剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン肥料や工業用リン酸の製造のために必要となるリン鉱石を100%海外に依存している我が国では、廃棄物からのリン資源の回収が重要な課題になっている。特に下水汚泥に濃縮されるリンは、輸入リン鉱石の30%以上を占めていることもあり、下水汚泥からリンを含む肥料を製造するための各種の試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、原料焼却灰の全リン酸濃度を測定し、該全リン酸濃度が予め定めた目標製品の濃度よりも低い場合には溶融処理前に高リン含有廃棄物の添加割合を求めて、原料中に添加した後に、溶融して、その後急冷してリン肥料を製造する方法が開示されている。
【0004】
本願出願人も、リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加して溶融することにより、リンのク溶率を調整する肥料の製造方法を提案している(特願2011‐101489号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006‐1819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、下水汚泥等の被溶融物にリンと鉄が例えばリン酸鉄のような形態で含まれていると、溶融処理によって一部のリンが鉄と反応し、鉄(Fe)とリン化鉄(Fe
2P)を含む固溶体となって金属成分としてスラグに混入することが判ってきた。固溶体とは、二種類以上の金属等が互いに溶け合って全体が均一の固相となったものをいう。
【0007】
当該金属成分が酸化すると茶色に変色するため、金属成分の混入率が高いスラグをセメント材料やコンクリート骨材等に再利用するのは困難である。また、このようなスラグを燐酸肥料の原料として用いると、土壌に溶出したリン成分が鉄に再吸着されるため、リン肥料としての効能が阻害されるという問題もあった。
【0008】
そこで、スラグからこのような金属成分を分離除去すれば、スラグを骨材や肥料として有効利用することが可能になる。しかし、スラグから分離された金属成分は、ウェイト材として少量利用される他には有効な用途が見出されていないため、現状では金属成分は埋立地に廃棄処分せざるを得ず、経済性の観点、資源再生の観点からその用途を開発することが望まれている。
【0009】
例えば、製鉄原料としての活用も考えられるが、このような金属成分が一定の性状で常に一定量生成されるという状況でないため、逆に鉄の品質変動を招く虞があり、製鉄工場で受け入れられる状況にはない。また、金属成分中のリン化鉄はエネルギーレベルが低く非常に安定していることから、リン成分を活用するためには、そのプロセスに大量の還元剤が必要になる等、非常にコストが嵩むという問題もある。
【0010】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、スラグから分離したリン化鉄を有効に活用できる配合剤、藻場構造物、植生構造物、及び配合剤の製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するため、本発明による配合剤の第一特徴構成は、特許請求の範囲の請求項1に記載した通り、藻類または水生植物の根付けまたは育成のために必要な鉄成分及びリン成分の供給源として
用いられ、破砕スラグから回収され、鉄とリン化鉄を含有する固溶体を含む点にある。
【0012】
鉄とリン化鉄を含有する固溶体を含む配合剤が水中のような流動性の良い環境下に施肥されると、土壌とは異なりリン化鉄から溶出したリン成分が鉄成分に吸着される前に流動するため、リン肥料としての効能が阻害されることが無く、また鉄成分も藻類等の重要な栄養源として供給できるようになる。
【0013】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一特徴構成に加えて、前記リン化鉄が下水またはし尿由来である点にあり、本来的にリン成分や鉄成分が多量に含まれている下水またはし尿は、配合剤の原料として極めて有効に活用できる。
【0014】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一
または第二の特徴構成に加えて、
前記リン化鉄がリン酸塩及び鉄系凝集剤を含む被溶融物を溶融処理した破砕スラグから分離して得られる点にあり、リン酸塩及び鉄系凝集剤を含む被溶融物を溶融したスラグにはリン化鉄が生成混入され易く、配合剤の効率のよい供給源となる。
【0015】
本発明による藻場構造物の特徴構成は、同請求項
4に記載した通り、上述の第一から第
三の何れかの特徴構成を備えた配合剤が構造体に肥効調整可能に担持されている点にある。
【0016】
このような藻場構造物であれば、植物のみならず微生物にとってバランスのよい肥料成分が適切な時期に適切な量で溶出するようになるので、藻類または水生植物等が効率的に根付けまたは育成するようになる。尚、藻場構造物は、沿岸の浅瀬に生育する沈水性の海草や海藻の群落に配置されるコンクリートブロックのような構造体以外に、消波や護岸等の機能を備えたブロックを含む概念である。
【0017】
本発明による植生構造物の特徴構成は、同請求項
5に記載した通り、上述の第一から第
三の何れかの特徴構成を備えた配合剤が構造体に肥効調整可能に担持されている点にある。
【0018】
このような植生構造物であれば、植物にとってバランスのよい肥料成分が適切な時期に適切な量で溶出するようになるので、藻類または水生植物が効率的に根付けまたは育成するようになる。尚、植生構造物は、水中プランタや河川の法面用ブロック、河川の底部敷設ブロック等を含む概念である。
【0019】
本発明による配合剤の製造方法の
第一の特徴構成は、同請求項
6に記載した通り、リン成分及び鉄成分を含む被溶融物を溶融する溶融処理ステップと、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを冷却処理して固化する冷却処理ステップと、前記冷却処理ステップで固化されたスラグを破砕した破砕スラグから
鉄とリン化鉄を含有する固溶体を分離する分離ステップと、を含み、前記分離ステップで分離された
固溶体を、藻類または水生植物の根付けまたは育成のために必要な鉄成分及びリン成分の供給源として用いる点にある。
【0020】
同第二の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記溶融処理ステップで溶融されるリン成分及び鉄成分を含む被溶融物は、生物処理によりリンが取り込まれ、鉄系凝集剤が添加された後に固液分離された下水汚泥であり、前記分離ステップは、前記冷却処理ステップで固化されたスラグを整粒機構で所定の粒径に破砕し、磁力選別、篩選別または比重選別の何れかによりスラグから前記固溶体を分離するように構成されている点にある。
【発明の効果】
【0021】
以上説明した通り、本発明によれば、スラグから分離したリン化鉄を有効に活用できる配合剤、藻場構造物、植生構造物、及び配合剤の製造方法を提供することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明による配合剤、藻場構造物、植生構造物、及び配合剤の製造方法を説明する。
図1には、当該配合剤の製造方法が実施される配合剤の製造プラント10が示されている。
【0024】
製造プラント10は、水処理設備11と、脱水装置12と、乾燥装置13と、溶融設備14と、整粒装置17と、選別装置18等を備えている。
【0025】
水処理設備11は、外部から流入する下水を活性汚泥法や膜分離活性汚泥法等を用いて嫌気性及び/または好気性条件下で生物処理する単一または複数の生物処理槽を備えている。生物処理槽では、活性汚泥により下水中の有機物が分解除去されて浄化される。
【0026】
前段の生物処理槽で下水が好気処理される過程で活性汚泥に、下水に含まれる鉄分とともにリンが取り込まれ、後段の生物処理槽でポリ鉄や塩鉄のような鉄系凝集剤が添加されてリン成分が鉄系凝集剤とともに凝集汚泥として沈殿し、この沈殿した汚泥がポンプPで抜き取られる。
【0027】
リン成分と鉄成分を含む下水汚泥はスクリュープレスやフィルタプレス等の脱水装置12に送られ、脱水装置12で脱水されて含水率が80%程度の脱水ケーキとなり、さらに乾燥装置13で含水率が20〜40%程度に乾燥処理される。
【0028】
乾燥装置13で所定の水分量に調整された脱水ケーキが溶融設備14で溶融処理される。当該溶融設備14は、内筒と外筒の間に供給された下水汚泥が、内筒と外筒が相対回転する切出し装置によって内筒内の炉室に供給され、天井部に設置された燃焼バーナで表面から溶融され、溶融スラグが床の中央部に形成された出滓口から下方へ滴下する回転式表面溶融炉で構成されている。
【0029】
出滓口の下方には冷却用の水槽15が配置され、水槽15に滴下したスラグが急冷されて水砕スラグとなり、ベルト式搬送機構16により整粒装置17に搬出される。
【0030】
スラグには、溶融過程で鉄(Fe)とリン(P)の一部が結合したリン化鉄(Fe
2P)が生成され、鉄(Fe)とリン化鉄(Fe
2P)を主に微量の不純物を含めて全体が均一の固相となったリン化鉄を含有する固溶体(以下、単に「固溶体」と記す。)が混入しており、整粒機構17で2〜3mmの粒度に破砕され、整粒されたスラグが選別機構18へ搬送されて、スラグから固溶体が分離される。選別装置18として固溶体を含む磁性金属類を吸着する磁力選別装置が用いられている。尚、選別装置18として、破砕の際に鉄分を含み硬いため小さく破砕されない固溶体とそれより粒径が小さなスラグを選別する篩選別装置や、固溶体とそれより比重が小さなスラグを選別する比重選別装置を用いてもよい。
【0031】
尚、溶融処理ステップが実行される溶融設備14は回転式表面溶融炉が好適であるが、旋回式溶融炉やコークスベッド炉であってもよく、運転は難しくなるが、その他の形式の溶融炉でも可能である。
【0032】
即ち、
図2に示すように、上述の溶融設備14で、リン成分及び鉄成分を含む被溶融物を溶融する溶融処理ステップが実行され、水槽15で、溶融処理ステップで溶融されたスラグを冷却処理して固化する冷却処理ステップが実行され、選別装置18で、冷却処理ステップで固化されたスラグから固溶体を含む金属成分を分離する分離ステップが実行される。尚、冷却処理ステップは水冷で説明したが、空冷など他の冷却方式であってもよい。
【0033】
分離ステップで分離された固溶体は、藻類または水生植物の根付けまたは育成のために必要な鉄成分及びリン成分の供給源として用いる配合剤となり、ケイ素、銅、亜鉛、マンガン等の他の栄養素と適宜配合することにより肥料として用いられる。
【0034】
固溶体を含む配合剤は、水中のような流動性、拡散性の良い環境下に施肥されると、土壌とは異なり、リン成分と鉄成分はその場に留まることなく拡散するので濃度が高くなり、養分過剰による障害をおこすこともなく、固溶体から溶出したリン成分と鉄成分が互いに吸着不溶化される前に流動するため、リン肥料としての効能が阻害されることが無く、また鉄成分も藻類等の重要な栄養源として供給できるようになる。
【0035】
従って、土壌では肥料として有効に機能しない虞がある固溶体であっても、海の沿岸の浅瀬の藻場に生育する沈水性の海草や海藻、河川湖沼護岸に生育する水生植物等、流動性のよい環境下で有用な栄養素として活用できる。
【0036】
このような配合肥料は、藻場等に直接施肥してもよいし、藻場構造物や植生構造物として藻場や河岸等に配設されてもよい。藻場構造物は、当該配合剤を含む肥料が溶出可能な状態で担持された消波ブロックのようなコンクリートブロック構造体で構成することができる。
【0037】
また、当該配合剤を担持させた多孔質の粒状担体をコンクリートブロック内部に一体に形成してもよいし、コンクリートブロック表層に一体に形成してもよい。当該配合剤を合成樹脂性の布帛で形成された袋状容器に充填し、ロープ等で緊締した構造体で構成することも可能である。当該配合剤をさらに細かく粉砕し、塗料に混ぜてコンクリートブロックの表面に塗布することも可能である。構造体への配合肥料の担持方法によって肥効調整、つまり溶出速度の調整が可能になる。また、固溶体の粒度調整によっても溶出速度の調整が可能になり、粒度を細かくすると溶出速度が速くなり、粒度を大きくすると溶出速度が遅くなる。
【0038】
植生構造物として、河川の法面用のコンクリートブロックやセラミックスブロック、河川の底部敷設コンクリートブロック等として具現化できる。この場合も、当該配合剤を担持させた多孔質の粒状担体をコンクリートブロック内部に一体に形成してもよいし、コンクリートブロック表層に一体に形成してもよい。当該配合剤を合成樹脂性の布帛で形成された袋状容器に充填し、ロープ等で緊締した構造体で構成することも可能である。構造体への配合肥料の担持方法によって肥効調整、つまり溶出速度の調整が可能になる。
【0039】
何れの場合でも、植物にとってバランスのよい肥料成分が適切な時期に適切な量で溶出するようになるので、藻類または水生植物が効率的に根付けまたは育成するようになる。当該配合剤を含む肥料をセメントやセラミックスに混入して成形した水中プランタとして藻場構造物や植生構造物を具現化することも可能である。
【0040】
尚、固溶体が分離されたスラグは、陸生植物用のリン配合剤として、或いはコンクリートやアスファルト等の骨材やセメント材料として用いることができる。
【0041】
上述した実施形態では、溶融設備14で下水汚泥を直接溶融処理する例を説明したが、予め汚泥焼却炉で焼却処理した後の汚泥焼却灰及び飛灰を溶融設備14で溶融処理してもよい。
【0042】
上述した実施形態では、固溶体が下水汚泥を溶融して得られる例を説明したが、固溶体はし尿汚泥を溶融処理することによっても得ることができる。つまり、固溶体は下水またはし尿由来である。尚、し尿には畜産由来のものも含まれる。
【0043】
上以上説明した実施形態は、何れも本発明の一例であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、藻場構造物や植生構造物の具体的な構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0044】
10:製造プラント
11:水処理設備
12:脱水装置
13:乾燥装置
14:溶融設備
15:水槽
16:搬送機構
17:整粒装置
18:選別機構