特許第5941372号(P5941372)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5941372-穿刺練習用模型 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941372
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】穿刺練習用模型
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/28 20060101AFI20160616BHJP
【FI】
   G09B23/28
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-185672(P2012-185672)
(22)【出願日】2012年8月24日
(65)【公開番号】特開2014-44260(P2014-44260A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2015年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】591179639
【氏名又は名称】株式会社京都科学
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100074365
【弁理士】
【氏名又は名称】肥田 正法
(74)【代理人】
【識別番号】100113468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】片山 保
(72)【発明者】
【氏名】山根 宗昭
【審査官】 彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−533025(JP,A)
【文献】 特開平06−122169(JP,A)
【文献】 特開平09−139571(JP,A)
【文献】 特開2010−049071(JP,A)
【文献】 特開平01−115362(JP,A)
【文献】 特開平05−154813(JP,A)
【文献】 実開平05−027776(JP,U)
【文献】 特開2012−071550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロゲルからなる模擬人体組織と、当該模擬人体組織に埋設された樹脂製チューブからなる模擬血管とを備えた穿刺練習用模型であって、
前記樹脂製チューブ表面には多孔質粉末が固着された接着剤層が形成されており、
前記ハイドロゲルと前記接着剤層が形成された前記樹脂製チューブとが前記多孔質粉末を介して液密に接合されていることを特徴とする穿刺練習用模型。
【請求項2】
前記多孔質粉末は、表面にゲル化層が形成されているものである請求項1記載の穿刺練習用模型。
【請求項3】
ハイドロゲルと樹脂成形体とを接合する方法であって、
前記樹脂成形体表面に接着剤を塗布して接着剤層を形成する工程と、
前記接着剤層が硬化する前に前記接着剤層表面に多孔質粉末を散布して、前記接着剤層に多孔質粉末を固着させる工程と、
前記多孔質粉末が固着された前記接着剤層表面に前記ハイドロゲルを設けることにより前記ハイドロゲルと前記樹脂成形体とを液密に接合する工程とを備えていることを特徴とする接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば医学・看護教育用として用いられる穿刺練習用模型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医学・看護教育用の穿刺練習用模型として、模擬人体組織内に模擬血管を埋設したものが知られている(特許文献1)。この従来品においては、模擬血管としてシリコーン樹脂製のチューブが用いられ、模擬人体組織としてシリコーン樹脂が用いられており、両者の密着性を高めるためにチューブの周囲にはシリコーンゲルが塗布されている。
【0003】
このような従来品では、模擬人体組織と模擬血管との密着性が極めて高いので、模擬血液を流した模擬血管に穿刺しても、模擬人体組織と模擬血管との間に模擬血液が漏れ出すことはない。しかしながら、全てがシリコーン系高分子から構成されている従来品は、高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−27776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに対して、より安価な模擬人体組織としてハイドロゲルが注目されている。しかしながら、ハイドロゲルからなる模擬人体組織に埋設した樹脂製チューブに模擬血液を流し、当該樹脂製チューブに穿刺すると、模擬人体組織と模擬血管との間に模擬血液が漏れ出してしまう。これは一般的な樹脂が疎水性であり、ハイドロゲルと馴染みにくいからである。
【0006】
この馴染みにくいを改善するために、樹脂製チューブ表面にプラズマ処理することによりぬれ性を増加させたり、シランカップリング剤等の接着助剤を用いたりすることも考えられるが、その効果は限定的であり、多様なハイドロゲルと樹脂性チューブに適用可能な技術は未だ知られていない。
【0007】
そこで本発明は、安価な材料を用いつつ、穿刺しても模擬人体組織と模擬血管の間から液漏れが起こらない穿刺練習用模型を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る穿刺練習用模型は、ハイドロゲルからなる模擬人体組織と、当該模擬人体組織に埋設された樹脂製チューブからなる模擬血管とを備えた穿刺練習用模型であって、前記樹脂製チューブ表面には多孔質粉末が固着された接着剤層が形成されており、前記ハイドロゲルと前記接着剤層が形成された前記樹脂製チューブとが前記多孔質粉末を介して接合されていることを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、前記多孔質粉末を介して前記ハイドロゲルと前記接着剤層が形成された前記樹脂製チューブとが接合することにより、前記多孔質粉末がアンカー効果を発揮することにより、前記ハイドロゲルと前記接着剤層が形成された前記樹脂製チューブとを液密に接合することができるので、穿刺しても模擬人体組織と模擬血管との間に模擬血液が漏れ出すことを防ぐことができる。
【0010】
前記多孔質粉末としては、表面にゲル化層が形成されているものを用いることもできる。このようなものであれば、より接合性を高めることが可能である。
【0011】
本発明に係る穿刺練習用模型において用いられている、ハイドロゲルと樹脂成形体とを接合する方法は、他の用途にも用いることができ、この接合方法もまた本発明の一つである。すなわち本発明に係る接合方法は、ハイドロゲルと樹脂成形体とを接合する方法であって、前記樹脂成形体表面に接着剤を塗布して接着剤層を形成する工程と、前記接着剤層が硬化する前に前記接着剤層表面に多孔質粉末を散布して、前記接着剤層に多孔質粉末を固着させる工程と、前記多孔質粉末が固着された前記接着剤層表面に前記ハイドロゲルを設ける工程とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このような構成を有する本発明によれば、模擬人体組織として安価なハイドロゲルを用いても、模擬人体組織と樹脂製チューブからなる模擬血管との接合性が向上し、穿刺による模擬人体組織と模擬血管との間からの液漏れを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る穿刺練習用模型の平面図。
図2】同実施形態に係る穿刺練習用模型の部分拡大縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の一実施形態に係る穿刺練習用模型1について図面を参照して説明する。なお、当該実施形態は本発明に係る穿刺練習用模型の一例にすぎず、本発明は当該実施形態により何ら限定されるものではない。
【0015】
本実施形態に係る穿刺練習用模型1は、図1に示すように、上面を開口させた容器2と、当該容器2内に充填された模擬人体組織3と、模擬人体組織3に埋設された模擬血管4と、模擬血管4の一端に設けられた注入弁5を付設させた管6と、模擬血管4の他端に設けられた排出弁7を取り付けた管8と、を備えている。当該穿刺練習用模型1を使用する際には、注入弁5及び排出弁7を「開」の状態とし、注入弁5側から注入器を用いて水を注入し、排出弁7から水が排出されたことを確認して双方の弁5、7を閉じて、管6、8及び模擬血管4内へ水を充填する。
【0016】
模擬人体組織3は、ハイドロゲルからなるものである。当該ハイドロゲルとしては、例えば、CMC(カルボキシメチルセルロース)、アルギン酸類、ゼラチン、寒天等の多糖類、PVA(ポリビニルアルコール)、ポリアクリル酸等の水溶性高分子を母体とするものが挙げられる。
【0017】
模擬血管4は、樹脂製チューブからなるものである。当該チューブを構成する樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ナイロンをはじめとするポリアミド等が挙げられる。
【0018】
模擬血管4表面には、更に接着剤層41と、接着剤層41表面に固定された多孔質粉末42とが設けられている。
【0019】
接着剤層41を構成する接着剤としては、模擬血管4を構成する樹脂製チューブに対して接着性を有するものであれば特に限定されずに用いることができる。
【0020】
多孔質粉末42としては、例えば、シリカゲル、珪藻土、ハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウム)、ゼオライト、ガラスビーズ等が挙げられる。多孔質粉末42の粒径としては、例えば、50〜150μm程度であり、100μm程度の粒径を有する多孔質粉末42が好適に用いられる。
【0021】
模擬血管4表面に多孔質粉末42が固定された接着剤層41を形成するには以下のようにすればよい。まず、樹脂製チューブに所望の接着剤を塗布し、次いで、当該接着剤が硬化する前に接着剤の上から多孔質粉末42を散布して、接着剤層41に多孔質粉末を固着させる。接着剤はその後剥がれないように、完全に硬化させる。そして、樹脂製チューブ表面に多孔質粉末42が固定された接着剤層41を形成した後、樹脂製チューブを容器2に貫通させ、当該容器2内にハイドロゲルの原料ゾルを充填し固化することにより、本実施形態に係る穿刺練習用模型1を作製することができる。
【0022】
本実施形態に係る穿刺練習用模型1では、多孔質粉末42を介して模擬人体組織3と接着剤層41が形成された模擬血管4とが液密に接合されている。このメカニズムとしては、(1)物理的な作用と、(2)化学的な作用が挙げられる。
【0023】
(1)物理的な作用では、接着剤層41表面に固着させた多孔質粉末42の細孔内に模擬人体組織3を構成するハイドロゲルが浸透することにより、ハイドロゲルと多孔質粉末42とが絡み合い、アンカー効果によって模擬人体組織3と模擬血管4とが液密に接合されると考えられる。
【0024】
(2)化学的な作用では、接着剤層41表面に固着させた多孔質粉末42が、水と反応してゲル化するように、多孔質粉末42表面に、石膏(CaSO)、ハイドロキシアパタイト、CaCl(塩化カルシウム)やCaSO(硫酸カルシウム)等のカルシウム塩等を固着させ、模擬人体組織3を構成するアルギン酸類やCMC等の側鎖の一部をカルシウム(Ca2+)に置換し、水に不溶なゲル(Ca2+/ゲル層)を形成すると、電気的な作用によって、模擬人体組織3と模擬血管4とが液密に接合されると考えられる。
【0025】
更に、(1)物理的な作用と(2)化学的な作用とを融合して、多孔質粉末42の中にあらかじめ、カルシウム塩等を吸着させておけば、模擬人体組織3を構成するハイドロゲルが多孔質粉末42に染み込むことにより、多孔質粉末42がゲル化し、アンカー効果が生じ、より効果的に模擬人体組織3と模擬血管4とを接合できると考えられる。
【符号の説明】
【0026】
1・・・穿刺練習用模型
3・・・模擬人体組織
4・・・模擬血管
42・・・多孔質粉末
41・・・接着剤層
図1
図2