(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記イオン注入工程は、イオンビームを一方向に往復スキャンし、ビームスキャン方向に直交する方向にウエハをメカニカルにスキャンすることを特徴とする請求項2に記載のイオン注入方法。
前記状態判断工程において、前記複数の検出部の一つとして、イオン源からウエハまでのビームラインを構成する機器が有する電源の電圧を測定する電源電圧測定部を用いて、放電の可能性がある事象を検出することを特徴とする請求項2または3に記載のイオン注入方法。
前記状態判断工程において、前記複数の検出部の一部として、イオン源からウエハまでのビームラインを構成する各機器がそれぞれ有する電源の電圧を測定する複数の電源電圧測定部を用いて、放電の可能性がある事象を検出することを特徴とする請求項2または3に記載のイオン注入方法。
前記状態判断工程において、前記複数の検出部の少なくとも一つが放電の可能性がある事象を検出した場合、イオンビームの状態に異常があると判断することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のイオン注入方法。
前記状態判断工程において、前記ビーム電流測定部が放電の可能性がある事象を検出し、かつ、少なくとも一つの前記電源電圧測定部が放電の可能性がある事象を検出した場合、イオンビームの状態に異常があると判断することを特徴とする請求項4または5に記載のイオン注入方法。
前記状態判断工程において、前記ビーム電流測定部が放電の可能性がある事象を検出し、かつ、イオンビームに及ぼす影響に応じて複数のグループに分けられた前記複数の電源電圧測定部のうち一つのグループに属する電源電圧測定部が放電の可能性がある事象を検出した場合、イオンビームの状態に異常があると判断することを特徴とする請求項5に記載のイオン注入方法。
前記判断部は、前記ビーム電流測定部が放電の可能性がある事象を検出し、かつ、イオンビームに及ぼす影響に応じて複数のグループに分けられた前記複数の電源電圧測定部のうち一つのグループに属する電源電圧測定部が放電の可能性がある事象を検出した場合、イオンビームの状態に異常があると判断することを特徴とする請求項10に記載のイオン注入装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
はじめに、本願発明に至った経緯について説明する。半導体製造工程で採用されているイオン注入工程は多岐に亘る。通常のイオン注入工程では、イオン注入工程を特徴付ける物理量を均一にしながら、半導体ウエハ全面にイオンを入射させる。
【0014】
ここで、イオン注入工程を特徴付ける代表的物理量としては、イオンの注入ドーズ量、注入角度、エネルギー、イオン種などが挙げられる。また、近年、製造される半導体の微細化に伴い、イオン注入時のダメージ量もイオン注入工程を特徴付ける代表的物理量と考えられるようになってきている。
【0015】
イオン注入時のダメージ量は、半導体ウエハの温度、半導体ウエハ上でのイオンビームのビームサイズ、及び、後述する半導体ウエハへのイオン注入の時間的パターンなどによって変化することが知られている。したがって、これらの物理量も、イオン注入工程を特徴付ける代表的物理量と言える。
【0016】
近年のイオン注入工程では、前述の物理量をそのイオン注入工程ごとに変化させることが求められている一方、前述の物理量全てを半導体ウエハ面内で完全に均一にすることまで求められているわけではなく、また、それは現実的に困難である。したがって、前述の物理量の面内均一性は、ある閾値以下の範囲に収まっていればよい。ただし、その閾値は、多岐に亘るイオン注入工程ごとに異なっている。
【0017】
例えば、ゲート注入工程と呼ばれるイオン注入工程では、ウエハ面内で10%程度のイオン注入ドーズ量の差があっても、最終的に作成される半導体の性能に差がない場合が多いことが知られている。一方、エクステンション注入工程と呼ばれるイオン注入工程では、ウエハ面内で1%のイオン注入ドーズ量の差で、最終的に作成される半導体性能に差がある場合が多い。これらの閾値は、イオン注入工程ごとに異なり、また、イオン注入工程を特徴付ける物理量ごとに異なり、また、半導体設計ごとにも異なるので、一般化した記載は困難であるが、重要なことは、イオン注入工程において求められる、イオン注入工程を特徴付ける代表的物理量の許容範囲は、一意に定まらない点である。
【0018】
また、半導体製造工程では、その生産性が重要であり、それは半導体製造工程の一部に当たるイオン注入工程にも当てはまることは言うまでもない。ここで生産性とは、最終的に作成される半導体製品において、その性能が当該半導体製品の許容範囲に入る半導体製品を、単位時間にいかに多く作成できるか、ということである。この点と前述の面内均一性に対する要求を鑑みると、それぞれのイオン注入工程でイオン注入装置に求められる要求が容易に理解できる。
【0019】
すなわち、イオン注入工程を特徴付けるある物理量の微少な差によって、最終的に生成される半導体性能に大きく差が発生する場合には、イオン注入中に半導体ウエハ全面において当該物理量の差が発生しないよう、イオン注入前に十分な準備を要するとともに、イオン注入中に一過的に又は持続的に発生する、当該物理量の変化に対してその対策を十分に講じなければならない。
【0020】
一方、イオン注入工程を特徴付けるある物理量の差があるていど大きくても、最終的に生成される半導体性能に差がない場合には、イオン注入中に半導体ウエハ全面において当該物理量の差がある程度までは発生しても良いのであり、イオン注入前の準備も簡素化でき、イオン注入中に一過的に、ないし持続的に発生する当該物理量の変化に対しては、その物理量の変化量が大きすぎ、最終的に生成される半導体性能に差が発生する場合に限り、当該物理量の変化に対してその対策をすれば良い。
【0021】
むしろ、後者の場合に、当該物理量の変化に対して不必要な対策を講じてしまうことは、イオン注入工程で無駄な対処時間の発生を生じ、結果的に半導体製造工程の生産性悪化を招いてしまう。したがって、イオン注入装置に求められる性能としては、それぞれのイオン注入工程で求められる、イオン注入工程を特徴付けるそれぞれの物理量の変化量範囲を、イオン注入前に、それぞれのイオン注入工程に合わせて、適宜変更することが可能であることが挙げられる。
【0022】
以下に説明する各実施の形態におけるイオン注入装置は、特に半導体製造工程で良く用いられるイオン注入装置の一種類である。具体的には、イオン源で発生したイオンをウエハまで輸送し(この輸送ルートのことを以下、「ビームライン」と呼ぶ。)、そのイオンビームを一方向に往復スキャンし、ビームスキャン方向に直交する方向にウエハをメカニカルにスキャンして、イオンをウエハに注入するイオン注入方法を採用したイオン注入装置(以下、「ハイブリッドスキャンイオン注入装置」と呼ぶ。)である。また、このような装置で行われるイオン注入方法をハイブリッドスキャンイオン注入方法と呼ぶことがある。
【0023】
ここで、ハイブリッドスキャンイオン注入装置において、前述のイオン注入工程を特徴付ける代表的物理量をどのように制御しているか、その一例を説明する。
【0024】
まず、イオン種は、イオン源で発生させるイオンを変更することにより、また、イオンのエネルギーは、イオン源に与える電圧を変更することにより、さらに、イオンの注入角度は、イオンビームに対する半導体ウエハの角度を変更することにより、制御される。イオンの注入ドーズ量の制御手法には種々の方法があるが、その一例としては、イオン注入前に半導体ウエハ位置でのビーム電流量を測定し、そのビーム電流量測定値に基づきながら、ウエハをメカニカルにスキャンする速度を制御する手法がある。イオンの注入ドーズ量、注入角度、エネルギー、イオン種は、イオン注入工程を特徴付ける代表的物理量であるとともに、イオン注入装置でイオン注入前に設定される、イオン注入条件でもある。
【0025】
さらに、イオン注入時のダメージ量を制御する手法として、半導体ウエハの温度の制御、ウエハまで輸送する装置のパラメータ変更による半導体ウエハ上でのビームサイズの制御などが挙げられるが、それらとともに、イオンビームのスキャン周波数を変更することにより、イオン注入の時間的パターンを変更し、もってイオン注入時のダメージ量を制御する手法も考えられる。
【0026】
特に、イオンビームのスキャン周波数の効果について説明すると、イオンビームのスキャン周波数が高い場合には、半導体ウエハ上のある地点に、イオンがほぼ連続的に注入されることになるが、そのイオン注入中の当該地点の温度は、イオン注入による温度上昇効果により連続的に上昇する。イオンビームのスキャン周波数が低い場合には、半導体ウエハ上のある地点に、イオンが間欠的に注入されることになり、そのイオン注入中に、イオン注入が行われない時間が発生し、そのイオン注入中の当該地点の温度は、イオン注入による温度上昇効果と、イオン注入が行われていないときの外界への温度移行による温度下降効果が間欠的に繰り返され、上昇、下降を繰り返す。すなわち、イオンビームのスキャン周波数の変更により、イオン注入時のダメージ量を制御することが可能となる。
【0027】
特に最近、ハイブリッドスキャンイオン注入装置での、イオンビームのスキャン周波数の変更によるイオン注入時のダメージ量制御が、半導体性能向上の有力な手法として認識されている。すなわち、ハイブリッドスキャンイオン注入装置のイオンビームのスキャン周波数は、イオン注入装置でイオン注入前に設定される、イオン注入条件の一つである。
【0028】
以下、ハイブリッドスキャンイオン注入装置において、イオン注入工程を特徴付ける幾つかの物理量において、その許容範囲の多様性の例と、それをどのような手法で確保しているか、幾つかの例を挙げる。まず、イオン注入前に十分な準備を要する例を示す。
【0029】
前述のゲート注入工程を始め、通常良く用いられるイオン注入工程では、イオン注入時のダメージ量の差があるていど有っても、最終的に作成される半導体の性能に差がない場合が多い。一方、前述のエクステンション注入工程や、プリアモルファス工程と呼ばれるイオン注入工程では、イオン注入時のダメージ量の差で、最終的に作成される半導体性能に差がある場合が多い。
【0030】
前述のように、イオン注入時のダメージ量は、半導体ウエハの温度、半導体ウエハ上でのビームサイズ、イオンビームのスキャン周波数によって制御できる。ここで、半導体ウエハ上でのビームサイズは、イオン注入前にビームサイズを測定し、イオン注入時のダメージ量の観点からそのビームサイズが不適当な場合には、ウエハまで輸送する装置のパラメータ変更によって、制御できる。しかしながら、このビームサイズ測定及び制御には、あるていどの時間を要するので、イオン注入時のダメージ量の差が最終的に作成される半導体の性能に対して影響のない場合には、イオン注入工程で無駄な対処時間の発生を生ずることになり、適切ではない。したがって、イオン注入前の半導体ウエハ上でのビームサイズ測定及び制御は、そのほかの必要性がない限り、イオン注入時のダメージ量の差が最終的に作成される半導体性能に差を生じさせる場合に行われる。
【0031】
ハイブリッドスキャンイオン注入装置において、イオン注入工程を特徴付ける幾つかの物理量の許容範囲の多様性の例と、それをどのような手法で確保しているかに関して説明する。また、イオン注入中に持続的に発生する物理量の変化に対して、その対策を要する例を示す。
【0032】
前述のように、ゲート注入工程では、イオン注入ドーズ量の差に対する最終的に作成される半導体の性能の差が比較的小さいが、エクステンション注入工程では、イオン注入ドーズ量の差に対する最終的に作成される半導体の性能の差が大きい。ここで、半導体ウエハにイオンを注入する際には、半導体ウエハの目的位置にイオン注入を行うために、半導体ウエハ上にレジストマスクを置いて、その上部からイオン注入を行うことが良く行われている。レジストマスクとは、多数個の非常に小さな細孔構造を持つ薄膜状素材である。このレジストマスクの細孔部位をイオン透過領域、その他の部位をレジスト領域と呼ぶと、レジストマスク上のレジスト領域に照射されたイオンビームは半導体ウエハまで到達せず、レジストマスク上のイオン透過領域に照射されたイオンビームのみ、半導体ウエハまで到達し、注入される。このようにして、半導体ウエハ全面に亘って、目的の位置に目的のイオン注入条件にかなった、イオン注入を行うことができる。
【0033】
また、前述のように、イオンの注入ドーズ量の制御手法の一例としては、イオン注入前に半導体ウエハ位置でのビーム電流量を測定し、そのビーム電流量測定値に基づきながら、ウエハをメカニカルにスキャンする速度を制御する手法がある。ここで、前述のレジストマスクにビームが照射された場合、レジストマスクの構成物質の一部がビームライン上に輸送され、イオンビームと相互作用を行うことにより、イオンビーム中の一部のイオンが散乱、中和化ないし価数変換を受け、その結果として半導体ウエハまで到達しなくなることがある。
【0034】
この場合、イオン注入前に比べて、イオン注入中のビーム電流量が持続的に変化することになり、イオン注入前のビーム電流量測定値に基づきながら、ウエハをメカニカルにスキャンする速度を制御するのでは、そのイオン注入ドーズ量が変化してしまう。エクステンション注入工程などの、イオン注入ドーズ量の差に対する最終的に作成される半導体の性能の差が大きいイオン注入工程では、前述のイオン注入ドーズ量の変化が許されない。このような場合、半導体ウエハへのイオン注入中にビーム電流測定を行うことにより、イオン注入前に比べたイオン注入中のビーム電流量の持続的変化を検知し、そのビーム電流量測定値に基づきながら、ウエハをメカニカルにスキャンする速度を制御することにより、イオンの注入ドーズ量を正確に制御できる。
【0035】
イオン注入中のビーム電流測定を行うためには、その測定装置までビームを輸送する必要があるため、半導体ウエハの外側にイオンビームを輸送することになり、半導体ウエハへの注入時間に加えて、イオン注入中のビーム電流測定に必要なある程度の時間を要する。したがって、イオンの注入ドーズ量の差が最終的に作成される半導体の性能に対して影響のない場合には、イオン注入工程で無駄な対処時間の発生を生ずることになり、適切ではない。したがって、イオン注入中のビーム電流測定は、そのほかの必要性がない限り、イオンの注入ドーズ量の差が最終的に作成される半導体性能に差を生じさせる場合に行われる。
【0036】
ここで、重要なことは、イオン注入工程を特徴付ける物理量の確保手法のためには何らかの対処時間が必要であり、当該物理量の差により最終的に作成される半導体性能に差がない場合には、その分半導体製品の生産性が悪化することである。したがって、半導体製品の生産性を上げるためには、それぞれのイオン注入工程において、イオン注入工程を特徴付ける物理量ごとに、その確保手法を採用する必要があるのかを個別に判断し、必要な範囲内でその確保手法を採用する必要がある。この確保手法の採用の有無は、それぞれのイオン注入工程ごとに判断できるので、イオン注入装置でイオン注入前に設定されるイオン注入条件の一つとみなすことができる。
【0037】
また、今まで説明してきたように、イオン注入工程においては、イオン注入に求められる物理量のウエハ面内均一性の許容値を定めることが重要であるが、当該物理量に対して、その定められた物理量ウエハ面内均一性許容値によって、注入時面内均一性許容設定を選ぶこと自身、イオン注入条件の一つとみなすこともできる。
【0038】
なお、イオン注入条件の中には、イオン種のように、イオン注入中に半導体ウエハ全面においてその差が発生することが考えにくい物理量に関するものもある。本実施の形態では、イオンビームに影響を及ぼす放電事象の検出に関するもの、あるいはイオン注入条件に影響を及ぼす放電事象の検出に関するものであり、イオン注入中に一過的に発生する、イオン注入工程を特徴付ける物理量の変化に関するので、イオン注入条件の中でイオン注入中に半導体ウエハ全面においてその差が発生することが考えにくい物理量に関するものは、除外して良い。
【0039】
また同様に、イオン注入工程を特徴付ける物理量の中には、イオンの注入エネルギーのように、イオンビームに影響を及ぼす放電事象が発生するとともにその物理量の変化が発生した場合、当然に、イオンが半導体ウエハまで全く到達することができず、事実上考慮しなくても良い物理量もある。本実施の形態は、イオンビームに影響を及ぼす放電事象の検出に関するもの、あるいはイオン注入条件に影響を及ぼす放電事象の検出に関するもので、このような物理量は、イオン注入条件としては列挙する必要があるが、最終的に作成される半導体性能に差が及ぶようなイオン注入工程を特徴付ける物理量としては、除外して良い。
【0040】
したがって、ハイブリッドスキャンイオン注入装置において、以下で述べるイオン注入条件としては、イオンの注入ドーズ量とそのウエハ面内均一性許容値、イオンの注入角度とそのウエハ面内均一性許容値、イオンビームのスキャン周波数、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅とそのウエハ面内均一性許容値、ビームスキャン方向のイオンビーム幅とそのウエハ面内均一性許容値、ウエハへのイオン注入中にビーム電流測定を行うか行わないか(以下、「ウエハへのイオン注入中のビーム電流測定の有無」と呼ぶ。)、とする。これらのイオン注入条件は、ハイブリッドスキャンイオン注入装置でイオン注入前に設定することができ、あるいは必要に応じて制御することができる。
【0041】
また、前述のイオン注入条件のうち、イオンの注入ドーズ量、イオンの注入角度、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅、ビームスキャン方向のイオンビーム幅は、イオンビームに影響を及ぼす放電事象が発生した際に、最終的に作成される半導体性能に差が及ぶようなイオン注入工程を特徴付ける物理量でもある。したがって、既に説明したように、前述の物理量をそのイオン注入工程ごとに変化させることが求められる。また、イオン注入工程によっては、ある閾値以内になるように、前述の物理量の面内均一性が求められる。
【0042】
なお、イオン注入装置によっては、ビームスキャン方向とウエハスキャン方向が共にあるとは限らない。例えば、2次元メカニカルスキャン方式と呼ばれる方式を採用したイオン注入装置では、2次元的にウエハスキャンが行われ、また、リボンビーム方式と呼ばれる方式を採用したイオン注入装置では、一方向に幅広なイオンビームに対してウエハがそれと直交する一方向にスキャンされる。さらに、ラスタースキャン方式と呼ばれる方式を採用したイオン注入装置では、2次元的にビームスキャンが行われる。
【0043】
本実施の形態に係るイオン注入方法及びイオン注入装置は、これら全てのイオン注入装置に適宜適用できるが、以下では、代表的な一例としてハイブリッドスキャンイオン注入装置を挙げて説明する。
【0044】
以下の説明を他のイオン注入装置に当てはめるに当たっては、それぞれ適宜意味内容を読み変えればよい。例えば、ハイブリッドスキャンイオン注入装置を例に「ウエハスキャン方向のイオンビーム幅」とある場合に、ラスタースキャン方式と呼ばれる方式を採用したイオン注入装置にその説明を適用する際には、そもそもラスタースキャン方式にはウエハスキャンという概念がないので、それを無視すればよい。重要なことは、どの種類のイオン注入装置を用いたイオン注入においても、イオンビームに影響を及ぼす放電事象が発生した際に、最終的に作成される半導体性能に差が及ぶようなイオン注入工程を特徴付ける物理量があり、したがって、前述の物理量をそのイオン注入工程ごとに変化させることが求められる、また、イオン注入工程によっては、ある閾値以内になるように、前述の物理量の面内均一性が求められることである。
【0045】
そして、以下の実施の形態によれば、イオン注入工程によって、前述のイオン注入条件が種々に設定された場合において、イオンビームに影響を及ぼす放電事象あるいはイオン注入条件に影響を及ぼす放電事象をそのいずれの場合にも検出し、適切に対処することによって、半導体製品の生産性を悪化させることなく、当該イオン注入工程で求められる、前述のイオン注入工程を特徴付ける物理量を、与えられた条件通り、半導体ウエハ上に実現することができる。換言すると、以下の実施の形態によれば、ウエハへのイオン注入の際に、ウエハへのイオン注入時のビーム状態を判定する、イオン注入方法を与えることができる。
【0046】
ここで重要なことは、前述のイオン注入工程を特徴付ける物理量のウエハ面内均一性自身もまたイオン注入条件であり、そのイオン注入条件の設定によっては、イオンビームに影響を及ぼす放電事象の検出手法、及び対処手法が変化することである。換言すると、前述のイオン注入工程を特徴付ける物理量の差があるていどあっても、最終的に作成される半導体性能に差がない場合には、イオン注入条件に含まれる当該物理量のウエハ面内均一性許容値を大きくしておき、イオン注入中に一過的に発生する、当該物理量の変化がその許容値以内とわかれば、イオンビームに影響を及ぼす放電事象とは言えないので、その検知を行わないことにより、半導体製品の生産性を悪化させることなく、与えられた条件通り、当該物理量を半導体ウエハ上に実現することができる。
【0047】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。また、以下では、イオン注入が行われる物体として半導体ウエハを例として説明するが、他の物質や部材であっても良い。
【0048】
[第1の実施の形態]
図1(a)は、第1の実施の形態に係るハイブリッドスキャンイオン注入装置の概略構成を示す平面図、
図1(b)は、第1の実施の形態に係るハイブリッドスキャンイオン注入装置の概略構成を示す側面図である。
【0049】
本実施の形態に係るハイブリッドスキャンイオン装置(以下、適宜「イオン注入装置」と呼ぶ場合がある。)100は、イオン源1から引出電極2により引き出したイオンビームが、半導体ウエハ10に至るビームライン上を通るよう構成されている。そして、該ビームラインに沿って、質量分析磁石装置3、質量分析スリット4、ビームスキャナー5、ウエハ処理室(イオン注入室)が配設されている。ウエハ処理室内には、半導体ウエハ10を保持する機構を備えたメカニカルスキャン装置11が配設されている。イオン源1から引き出されたイオンビームは、ビームラインに沿ってウエハ処理室のイオン注入位置に配置されたホルダ上の半導体ウエハ10に導かれる。
【0050】
イオンビームは、ビームスキャナー5を用いて、一方向に往復走査され、パラレルレンズ6の機能により、平行化された後、半導体ウエハ10まで導かれる。また、本実施の形態に係るイオン注入装置は、イオンビームの走査方向に直交する方向に半導体ウエハ10をメカニカルに走査して、イオンを半導体ウエハ10に打ち込む。
図1に示すイオン注入装置100では、角度エネルギーフィルタ7を用いてイオンビームを曲げ、イオンエネルギーの均一性を高めているが、これは例であって、角度エネルギーフィルタ7を用いなくても良い。
【0051】
半導体ウエハ10は、半導体ウエハ10を保持する機構を備えたメカニカルスキャン装置11にセットされる。ここで、
図1(a)において、半導体ウエハ10は、メカニカルスキャン装置11とともに、図面の面に交差する上下方向に往復移動されることを示し、
図1(b)において、半導体ウエハ10は、メカニカルスキャン装置11とともに図面と平行な面上で往復移動されることを示している。
【0052】
さらに、現在通常用いられるイオン注入装置では、イオンビームに収束力、発散力を与え、イオンビームの縦方向、横方向の形状を制御し、半導体ウエハ10上のイオンビーム形状を制御する目的で、ビームライン上にビーム用レンズが配設される。
図1では、そのビーム用レンズの例として、直流電圧が印加される静電レンズ12を配設されている。静電レンズ12は、静電力を持ってイオンビームに収束力、発散力を与えればその役目を果たすのであって、その形状は様々に取り得る。
図1ではその一例を示しているが、これは例示であって、静電レンズ12の形状はこの形状に限らない。また、静電レンズ12は、イオン源1から半導体ウエハ10までの間の種々の位置に置かれる場合がある。さらに
図1では静電レンズ12を1個配設しているが、これも例であって、静電レンズ12は複数個配設されていても良い。
【0053】
また、現在通常用いられるイオン注入装置では、イオンビームに電磁気力を作用させ、ある方向のドリフト力を与えることでイオンビームの軌道を平行移動し、イオン源1から半導体ウエハ10までの透過効率を高める目的で、ビームライン上にビームステアリング装置が配設されることが多い。
図1では、そのビームステアリング装置の例として、直流電圧が印加される静電ビームステアリング装置13を配設されている。静電ビームステアリング装置13は、静電力を持ってイオンビームにある方向のドリフト力を与えて、イオンビームを平行移動させればその役目を果たすのであって、その形状は様々に取り得る。
図1ではその一例を示しているが、これは例示であって、静電ビームステアリング装置13の形状はこの形状に限らない。また、静電ビームステアリング装置13は、イオン源1から半導体ウエハ10までの間の種々の位置に置かれる場合がある。さらに
図1では静電ビームステアリング装置13を1個配設しているが、これも例であって、静電ビームステアリング装置13は複数個配設されていても良い。
【0054】
なお、イオン注入装置では、半導体ウエハ10上のイオンビーム形状を制御する目的と、イオン源1から半導体ウエハ10までの透過効率を高める目的を、単一の機器で満たすように構成することもある。
【0055】
ここで重要なことは、本実施の形態に係るイオン注入方法におけるイオン注入工程を特徴付ける物理量、例えば、ハイブリッドイオン注入装置では、イオンの注入ドーズ量、イオンの注入角度、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅、ビームスキャン方向のイオンビーム幅に対して、ビームライン上の構成機器それぞれの作用によって、その与える影響が異なる点である。例えば、静電ビームステアリング装置13は、イオン源1から半導体ウエハ10までの透過効率を高めており、その影響によって半導体ウエハ10上でのビーム電流を制御することができるが、イオンの注入角度、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅、ビームスキャン方向のイオンビーム幅を制御することはできない。換言すると、仮に半導体ウエハ10にイオンを注入しているときに、静電ビームステアリング装置13に印加された直流電圧が変化しても、イオンの注入ドーズ量は変化するが、イオンの注入角度、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅、ビームスキャン方向のイオンビーム幅は変化しない。
【0056】
一方、パラレルレンズ6は、スキャンされたイオンビームを平行化しており、その影響によって半導体ウエハ10上でのイオン注入角度を制御することができるが、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅、ビームスキャン方向のイオンビーム幅を制御することはできない。パラレルレンズ6の半導体ウエハ10上でのビーム電流に対する影響については、ビームスキャン方向のスキャン範囲長はパラレルレンズによって平行化されたイオンビームによって定まるので、その平行化の程度が変化すると、ビームスキャン方向のスキャン範囲長が二次的に若干変化し、結果的に半導体ウエハ10上でのビーム電流も二次的に若干変化する。したがって、仮に半導体ウエハ10にイオンを注入しているときに、パラレルレンズ6に印加された直流電圧が変化しても、イオンの注入角度とイオンの注入ドーズ量は変化するが、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅、ビームスキャン方向のイオンビーム幅は変化しないことになる。ただし、パラレルレンズ6に印加された直流電圧が変化することによるイオンの注入ドーズ量の変化は二次的なものであるから、イオンの注入ドーズ量のウエハ面内均一性許容値があるていど大きい場合には、パラレルレンズ6に印加された直流電圧が変化した際の、イオンの注入ドーズ量の変化は無視できる場合もある。
【0057】
すなわち、本実施の形態で想定しているイオン注入工程を特徴付ける物理量、例えば、ハイブリッドイオン注入装置では、イオンの注入ドーズ量、イオンの注入角度、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅、ビームスキャン方向のイオンビーム幅のうち、最終的に作成される半導体性能に差を与える物理量が何か、どの程度のウエハ面内均一性許容値があるかを、イオン注入工程ごとに判断し、その変化によりその物理量のウエハ面内均一性許容値を超えて影響を与えるビームライン構成機器を特定することが、まず重要である。
【0058】
また、
図1に例示したように、イオン注入装置にビームダンプ電極14が配設されることもある。ビームダンプ電極14とは、ビームをビームラインから一時的に外し、半導体ウエハ10へのビーム入射を防ぐことによって、半導体ウエハ10に意図しないビームが入射されることを防ぐために用いられる電極のことである。ビームダンプ電極14は高電圧印加によってビームをビームラインから一時的に外せばその役目を果たすのであって、その形状は様々に取り得る。
図1ではその一例を示しているが、これは例示であって、ビームダンプ電極14の形状はこの形状に限らない。
【0059】
また、
図1では質量分析スリット4とビームスキャナー5の間にビームダンプ電極14を配設しているが、これは例であって、ビームダンプ電極14は、イオン源1から半導体ウエハ10までの間の種々の位置に置かれる場合がある。さらに、ビームダンプ電極14を配設せず、ビームライン上に他に配設されている機器に対して、一時的に高電圧を印加し、もってビームをビームラインから一時的に外し、半導体ウエハ10へのビーム入射を防ぐ場合もある。例えば、ビームスキャナー5に、一時的に高電圧を印加し、もってビームをビームラインから一時的に外し、半導体ウエハ10へのビーム入射を防ぐこともできる。
【0060】
本実施の形態では、イオン注入条件が種々に設定された場合において、イオンビームに影響を及ぼす、放電の可能性がある事象を検出し、もってウエハへのイオン注入の際に、ウエハへのイオン注入時のビーム状態を判定する。ここで、イオンビームに影響を及ぼす「放電の可能性がある事象」とは、放電そのものの事象や、放電が生じているか直接的にはわからないが間接的には示唆している事象や、例えば、電源の出力のばらつきが発生し始め、検出時には放電が生じていないが今後放電が起こりうることを示唆している事象も含まれる。以下、「放電の可能性がある事象」を適宜「放電事象」ということがある。
【0061】
本実施の形態に係るイオン注入装置100の動作としては、前述の放電事象検出後、前述のイオンビームを半導体ウエハ10から退避させ、放電事象が収まった後、再び、イオンを半導体ウエハ10に注入する。この退避手段の一例として、
図1に示したビームダンプ電極14に一時的に高電圧を印加し、もってビームをビームラインから一時的に外し、半導体ウエハ10へのビーム入射を防ぐことが考えられる。この場合、放電事象が収まった後、ビームダンプ電極14に一時的に印加している高電圧を除去し、もってビームをビームラインに戻し、半導体ウエハ10へのビーム入射を再開することで、再び、イオンを半導体ウエハ10に注入することができる。
【0062】
図1に示したイオン注入装置100を用いてイオンを半導体ウエハ10に注入する場合、実際には、そのイオンビームの品質の確認や、所望のイオンビーム電流量が得られているかの確認、さらにはイオンビームの時間的安定性確認を行うために、半導体ウエハ10にイオンを注入する前に、準備、確認する必要がある。この準備、確認のシーケンスを、以降「ビームセットアップ」と呼ぶ。
図1に示したイオン注入装置100では、ビームセットアップ時にウエハ領域ビーム測定装置9を用いてイオンビーム測定を行い、しかる後に半導体ウエハ10をセットする。
図1ではウエハ領域ビーム測定装置9は可動するように書かれているが、これは例であって、非可動タイプのウエハ領域ビーム測定装置9を用いても良い。
【0063】
また、必要に応じてビームセットアップ時にイオンの注入角度を測定することもできる。ビームスキャン方向のイオンの注入角度を例に取ると、例えば、角度エネルギーフィルタ7の後段のビームライン上に細いスリット状機器(図示せず)を挿入し、その後でウエハ領域ビーム測定装置9を用いて場所ごとのイオンビーム電流量を測定することで、イオンの注入角度が測定できる。なお、このイオン注入角度測定手法は例示であって、他にも種々のイオン注入角度測定手法が考えられる。
【0064】
さらに、必要に応じてビームセットアップ時に、イオンビーム電流量の2次元測定が可能なウエハ領域ビーム測定装置9を用いて、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅及びビームスキャン方向のイオンビーム幅を測定することもできることは言うまでもない。もちろん、このイオンビーム幅測定手法は例示であって、角度エネルギーフィルタ7に加える直流電圧を意図的に変化させてイオンビーム電流量を測定するなど、他にも種々のイオンビーム幅測定手法が考えられる。
【0065】
このように、ビームセットアップ時に種々の測定手法を用いて、本発明で考えているイオン注入工程を特徴付ける物理量、すなわち、イオンの注入ドーズ量、イオンの注入角度、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅、ビームスキャン方向のイオンビーム幅の測定をすることは可能である。また、その測定後、それら物理量のウエハ面内均一性許容値をイオン注入条件として設定することもまた、可能である。
【0066】
さらに、本実施の形態に係るイオン注入装置100では、ウエハ処理室に、ドーズカップ8が設置され、必要に応じて、注入中のビーム電流を測定することが可能なように構成されている。ドーズカップ8の具体的な例としては、ファラデーカップやカロリメータが用いられている。
図1では、半導体ウエハ10の手前に、半導体ウエハ10の水平方向の両側に対応する箇所にドーズカップ8が設置されているが、これは例であって、注入中も含めビーム電流量を測定できる位置であれば、半導体ウエハ10の後方に設置しても良いし、半導体ウエハ10を含む平面上に設置しても良い。また、
図1では、ドーズカップ8はイオンスキャン方向両側に2個設置されているが、これは例であって、1個であっても良いし、3個以上の複数個であっても良い。
【0067】
既に説明したように、ハイブリッドスキャンイオン注入装置でのイオンの注入ドーズ量の制御手法の一例として、ビームセットアップ時に半導体ウエハ10の位置でのビーム電流量を測定し、そのビーム電流量測定値に基づきながら、半導体ウエハ10をメカニカルにスキャンする速度を制御する手法がある。そこで、
図1を用いてさらに詳しく説明する。まず、ビームセットアップ時に、イオンビームをドーズカップ8の位置までスキャンさせながら、ドーズカップ8とウエハ領域ビーム測定装置9を用いてビーム電流量を測定し、その比例係数(以下、「カップ補正値」と呼ぶ。)を求める。半導体ウエハ10へのイオン注入中には、ウエハ領域ビーム測定装置9を用いることはできないが、ドーズカップ8でのビーム電流量は測定できるので、その測定値と前述のカップ補正値を用いて、半導体ウエハ10に注入されているビーム電流量を見積もることができる。
【0068】
ここで、イオン注入中にドーズカップ8で測定されたビーム電流量と、ビームセットアップ時にドーズカップ8で測定されたビーム電流量との間に、変化がなければ、カップ補正値を用いて見積もられる半導体ウエハ10に注入されているビーム電流量は、ビームセットアップ時にウエハ領域ビーム測定装置9で測定されたビーム電流量と同一と計算され、半導体ウエハ10は、ビームセットアップ時に設定された速度通りに、メカニカルにスキャンされ、結果として設定通りのイオンの注入ドーズ量が得られる。
【0069】
また、既に説明したレジストマスクへのイオン注入の影響により、レジストマスクの構成物質の一部がビームライン上に輸送され、イオンビームと相互作用を行うことにより、イオンビーム中の一部のイオンが散乱、中和化ないし価数変換を受け、その結果として半導体ウエハまで到達しなくなった場合には、ビームセットアップ時に比べて、イオン注入中のビーム電流量が持続的に変化する。この場合でも、イオン注入中にドーズカップ8でビーム電流を測定し、カップ補正値を乗ずることによって、半導体ウエハ10に注入されているビーム電流量を見積もることができる。したがって、半導体ウエハ10は、ビームセットアップ時に設定された速度通りにメカニカルにスキャンされるのではなく、イオン注入中のビーム電流量の持続的な変化に合わせて、新たに設定される速度を持ってメカニカルにスキャンされ、結果として設定通りのイオンの注入ドーズ量が得られる。
【0070】
ただし、このドーズカップ8を用いたイオン注入中のビーム電流測定を行うためには、ドーズカップ8までビームをスキャンする必要があるが、
図1から明らかなように、そのためには、半導体ウエハ10の外側まで、ビームをスキャンする必要がある。このことは、半導体ウエハ10への注入時間に加えて、イオン注入中のビーム電流測定の目的に必要なある程度の時間を要することを意味する。したがって、例えば、前述のレジストマスクへのイオン注入の影響として考えられる範囲内で、イオンの注入ドーズ量の差が最終的に作成される半導体の性能に対して影響のない場合には、イオン注入工程で無駄な対処時間が発生することになり、適切とは言えない。換言すると、イオン注入中のビーム電流測定は、そのほかの必要性がない限り、イオンの注入ドーズ量の差で、最終的に作成される半導体性能に差を生じさせる場合に行われることが望ましい。
【0071】
本実施の形態では、イオンビームに影響を及ぼす放電事象あるいはイオン注入条件に影響を及ぼす放電事象を検出する手法に関し、換言すると、ウエハへのイオン注入の際にウエハへのイオン注入時のビーム状態を判定する手法に関する。上述のビーム電流を測定する装置は、放電事象の検出の手段と成り得る。すなわち、イオン注入中にもかかわらず、半導体ウエハ10の位置に到達するビーム電流量が減少した場合、放電事象として検出される。前述のように、半導体ウエハ10へのイオン注入中には、ウエハ領域ビーム測定装置9を用いることができず、半導体ウエハ10の位置に到達するイオンビームのビーム電流量を直接測定することはできないが、イオン注入中にドーズカップ8でビーム電流を測定し、カップ補正値を乗ずることによって、半導体ウエハ10に注入されているビーム電流量を間接的に推定することはできる。その推定された物理量から放電事象が検出される。したがって、放電事象の検出のために、イオン注入中は常にイオンビームをドーズカップ8の位置までスキャンさせる必要がある。すなわち、例えば、前述のレジストマスクへのイオン注入の影響として考えられる範囲内で、イオンの注入ドーズ量の差が最終的に作成される半導体の性能に対して影響のない場合でも、半導体ウエハ10への注入時間に加えて、イオン注入中のビーム電流測定の目的に必要なある程度の時間を要することになり、半導体製品の生産性を不必要に悪化させてしまっていることになる。
【0072】
イオンビームに影響を及ぼす放電事象あるいはイオン注入条件に影響を及ぼす放電事象を検出する手法、あるいはウエハへのイオン注入の際にウエハへのイオン注入時のビーム状態を判定する手法をビーム電流測定のみで行う場合、半導体製品の生産性を不必要に悪化させてしまう例を示した。さらにこのような場合、所望のイオンビームが得ることができなくなった場合に、ドーズカップ8によるビーム電流測定値が所定値未満になると一律に放電事象として検出することには注意が必要である。すなわち、既に説明したレジストマスクへのイオン注入の影響により、レジストマスクの構成物質の一部がビームライン上に輸送され、イオンビームと相互作用を行うことにより、イオンビーム中の一部のイオンが散乱、中和化ないし価数変換を受け、半導体ウエハ10まで到達しなくなった場合、その程度が大きいと、イオンビームに影響を及ぼす放電事象の検出をビーム電流測定装置のみを用いて行うと、放電事象ではなくビーム電流が減少する場合においても、放電事象として誤って検出し、その対処をしてしまう。その結果、半導体製品の生産性を不必要に悪化させてしまうことがある。換言すると、ドーズカップ8によってビーム電流の測定値が所定値未満であることを検出することは、放電素過程の可能性を検出したに過ぎず、そこで検出された放電素過程は、イオンビームに影響を及ぼす放電事象あるいはイオン注入条件に影響を及ぼす放電事象の可能性を示すにすぎない。
【0073】
ただし、既に説明したように、エクステンション注入工程では、イオン注入ドーズ量の差に対する最終的に作成される半導体の性能の差が大きいので、放電事象が原因ではなくビーム電流が減少する場合においても、あえて前述の事象の検出後、イオンビームを半導体ウエハ10から退避させ、その事象が収まった後、再び、イオンを半導体ウエハ10に注入することも考えられる。しかし、ゲート注入工程などのように、イオン注入ドーズ量の差に対する最終的に作成される半導体の性能の差が比較的小さい場合にも、放電事象が原因ではなくビーム電流が減少する場合において、イオンビームを半導体ウエハ10から退避させ、その事象が収まった後、再び、イオンを半導体ウエハ10に注入することは、半導体製品の生産性を不必要に悪化させてしまう。すなわち、ドーズカップ8による放電素過程可能性検出をイオンビームに影響を及ぼす放電事象あるいはイオン注入条件に影響を及ぼす放電事象とみなすことは、エクステンション注入工程では適切であると考えられる一方、ゲート注入工程では適切とは言えない。
【0074】
本実施の形態に係るイオン注入方法は、イオン源で発生したイオンをウエハまで輸送し、ウエハにイオンを注入するイオン注入手法において、複数個の放電素過程可能性検出手法を組み合わせて用い、イオン注入条件をイオン注入前に定めて、それぞれのイオン注入条件に適した放電事象検出手法を用いることで、ウエハへのイオン注入の際に、イオン注入の生産性を不必要に阻害することなく、イオン注入条件に影響を及ぼす放電事象を検出し、あるいはウエハへのイオン注入の際にウエハへのイオン注入時のビーム状態を判定する。
【0075】
前述のエクステンション注入工程とゲート注入工程を例に取って説明すると、エクステンション注入工程で用いられるイオン注入条件とゲート注入工程で用いられるイオン注入工程ではイオン注入条件が異なるので、それぞれのイオン注入条件はイオン注入前に定めることができる。したがって、エクステンション注入工程で用いられるイオン注入条件とゲート注入工程で用いられるイオン注入条件において、イオン注入条件をイオン注入前に定めて、それぞれのイオン注入条件に適した放電事象検出手法を用いることで、ウエハへのイオン注入の際に、イオン注入の生産性を不必要に阻害することなく、イオン注入条件に影響を及ぼす放電事象を検出することができる。
【0076】
また、イオンビームに影響を及ぼす放電事象を検出する手法をビーム電流測定のみで行う場合には、イオンビームのスキャン周波数が低い場合には放電発生から検出までの平均時間が長くなり過ぎ検出できないこと、さらに、ビーム電流量が変化することなく、ウエハスキャン方向ないしビームスキャン方向のイオンビーム幅が変化する場合にも検出できないことは、既に説明した通りである。
【0077】
そこで、本実施の形態に係るイオン注入方法の一つでは、ビーム電流測定に加えて、電源電圧測定を利用した放電素過程可能性検出方法を用いる。すなわち、例えば、
図1においては、ドーズカップ8によるビーム電流測定値が所定値未満になるか否かに加えて、イオン源1、引出電極2、ビームスキャナー5、パラレルレンズ6、角度エネルギーフィルタ7、静電レンズ12及び静電ビームステアリング装置13が備える各電源の電源電圧を測定する電源電圧測定部21〜27に与えられた電源電圧測定値がその設定値からあるていど乖離するか否かを利用して、イオンビームに影響を及ぼす放電事象を検出する。後で詳しく説明するが、これらのビーム電流測定値による判断、及び電源電圧測定値とその設定値との乖離に関する判断を用いて、種々に設定されたイオン注入条件ごとに、イオンビームに影響を及ぼす放電事象を検出することができる。
【0078】
なお、ここで挙げたビームラインの構成機器は例示であって、これに限定されない。重要なことは、本実施の形態に係るイオン注入方法の一つでは、ビームライン構成機器それぞれにおいて、電源電圧測定値とその設定値との乖離に関する判断を用いることである。もちろん、その性質上、イオンビームに影響を及ぼす放電事象が発生しないビームライン構成機器については、その乖離に関する判断は必要ない。例えば
図1において、質量分析磁石装置3は低電圧大電流電源を用いており、設定電圧が低いのでその性質上、イオンビームに影響を及ぼす放電事象は発生しないので、その乖離に関する判断は必要ない。
【0079】
ここで、ドーズカップ8によるビーム電流測定値を用いた放電素過程可能性検出方法は、その性質上ビームスキャン周波数に反比例する測定間隔で測定が可能である。すなわち、ビームスキャン周波数が高周波数の場合、非常に短時間で、イオンビームに影響を及ぼす放電事象に関する情報を得ることができる。例えば、ビームスキャン周波数が1kHzの場合、1msecごとにイオンビームに影響を及ぼす放電事象に関する情報を得ることができる。一方、既に説明したが、ビームスキャン周波数が低周波数の場合には、放電発生から検出までの平均時間が長くなり過ぎ、イオンビームに影響を及ぼす放電事象に関する情報は事実上得られない。例えばビームスキャン周波数が1Hzの場合、イオンビームに影響を及ぼす放電事象に関する情報は1secごとにしか得ることができない。ビームライン構成機器の典型的な放電継続時間は50msecから200msecなので、イオンビームに影響を及ぼす放電事象に関する情報は事実上得られない。
【0080】
一方、電源電圧測定を利用した放電素過程可能性検出方法は、一定時間の測定間隔で測定可能であることが特徴である。原理的には非常に短時間の測定間隔で測定することも可能ではあるが、技術的難易性及びコスト側面を加味し、ハイブリッドスキャンイオン注入装置で通常用いられる制御系の測定間隔は、5msecから20msecである。この測定間隔は、ビームライン構成機器の典型的な放電継続時間、すなわち50msecから200msecに比べて短いので、イオンビームに影響を及ぼす放電事象に関する情報が得られる。しかし、ビームスキャン周波数が高周波数の、ドーズカップ8によるビーム電流測定値を用いた放電検出方法に比べると、その測定間隔はやや長い。換言すると、電源電圧測定を利用した放電素過程可能性検出方法のみを用いたのでは、例えば、エクステンション注入工程などの、イオン注入ドーズ量の差に対する最終的に作成される半導体の性能の差が大きいイオン注入工程においては、実際のイオンビームに影響を及ぼす放電事象発生後、イオンビームを半導体ウエハ10から退避させるまでの時間がやや長くなり、放電事象の影響により、最終的に作成される半導体性能に差が発生してしまう場合がある。
【0081】
以上まとめると、ドーズカップ8による、ビームスキャン周波数に反比例する測定間隔で測定可能なビーム電流測定値を用いた放電素過程可能性検出方法と、一定時間の測定間隔で測定可能な電源電圧測定を利用した放電素過程可能性検出方法とでは、共にその性質上の特徴を持つ。したがって、本実施の形態に係るイオン注入方法の一つによる、その特長を生かした制御手法により、イオン注入前に設定する個々のイオン注入条件が種々に設定された場合に、イオンビームに影響を及ぼす放電事象をそのいずれの場合にも検出し、適切に対処することによって、半導体製品の生産性を悪化させることなく、当該イオン注入工程で求められるイオン注入工程を特徴付ける物理量を、与えられた条件通り、半導体ウエハ上に実現することができる。あるいは、本実施の形態に係るイオン注入方法の一つによるその特長を生かした制御手法により、イオン注入前に設定する個々のイオン注入条件が種々に設定された場合に、半導体製品の生産性を悪化させることなく、ウエハへのイオン注入時のビーム状態が異常であると判断することができると言っても良い。
【0082】
ここで、
図2を参照して、本実施の形態に係るイオン注入のシーケンスを説明する。
図2は、第1の実施の形態に係るイオン注入方法を説明するためのフローチャートを示す図である。
【0083】
前述のように、イオンビームに影響を及ぼす放電事象を検出する手法は、イオン注入前に設定される個々のイオン注入条件の設定によって異なる。ある半導体製造工程のイオン注入工程が指定された場合(S10)、イオン注入工程を特徴付ける物理量が指定されている。例えば、ハイブリッドスキャンイオン注入装置では、イオン注入工程を特徴付ける物理量としては、イオンの注入ドーズ量、イオンの注入角度、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅、ビームスキャン方向のイオンビーム幅等の物理量が挙げられる。本実施の形態に係るイオン注入方法の一つでは、まず、イオンの注入ドーズ量、イオンの注入角度、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅、ビームスキャン方向のイオンビーム幅、の各物理量のウエハ面内均一性許容値を設定する(S12)。この許容値は、主に最終的に作成される半導体の性能の差がないように、あるいは、最終的に作成される半導体製品において、その性能が当該半導体製品の許容範囲に入る半導体製品を、単位時間にいかに多く作成できるかという意味での、半導体製品の生産性が高いように、選ばれる。ただし、イオン注入装置の状況、半導体製品製造の逼迫性等の外的要因において変更されることも有り得る。ここで、重要なことは、これらイオン注入工程を特徴付ける物理量及びそのウエハ面内均一性許容値は、いずれにせよイオン注入前に決定できるので、その決定された値に合わせてイオン注入を制御することが可能であることである。
【0084】
次に、その他のイオン注入条件を設定する(S14)。例えば、ハイブリッドスキャンイオン注入装置におけるイオン注入条件では、イオンビームのスキャン周波数、ウエハへのイオン注入中のビーム電流測定の有無を含めて、その他のイオン注入条件を設定する。
【0085】
ハイブリッドスキャンイオン注入装置を例にとって簡単にまとめると、本実施の形態では、ある半導体製造工程のイオン注入工程が指定されたときに、まずイオン注入条件として、設定されたビームスキャン周波数、ウエハへのイオン注入中にビーム電流測定を行うか、行わないかのいずれかの注入方法設定に加えて、イオン注入に求められる物理量、具体的には、イオン注入ドーズ量、イオン注入角度、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅、ビームスキャン方向のイオンビーム幅、及び、各物理長の値のウエハ面内均一性の許容値を定めている。
【0086】
次に、本実施の形態に係るシーケンスでは、電源を分類する(S16)。電源の分類方法については後で詳しく説明するが、この分類は、前述のイオン注入条件によって異なり、一定ではない。すなわち、本実施の形態では、イオン注入に求められる物理量、具体的には、イオン注入ドーズ量、イオン注入角度、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅、ビームスキャン方向のイオンビーム幅のウエハ面内均一性の許容値を定め、その定められた物理量のウエハ面内均一性許容値によって、イオン注入時面内均一性許容設定を選び、選んだイオン注入時面内均一性許容設定を用いてイオン注入を行う。
【0087】
次に、本実施の形態の形態に係るシーケンスでは、放電判断方法を決定する(S18)。この放電判断方法は、前述のイオン注入条件や電源分類によって異なり、一定ではない。
【0088】
本実施の形態に係るシーケンスでは、その後、半導体ウエハ10へのイオン注入を開始する(S20)。
【0089】
以上をまとめると、本実施の形態に係るイオン注入方法は、イオン注入条件をイオン注入前に予め定め、そのイオン注入条件によって、複数種類の放電検出方法を用いるものと言える。このイオン注入方法を用いることで、イオン注入前に設定する個々のイオン注入条件が種々に設定された場合に、イオンビームに影響を及ぼす放電事象をそのいずれの場合にも検出し、適切に対処することができる。その結果、半導体製品の生産性を悪化させることなく、イオン注入工程で求められる、当該イオン注入工程を特徴付ける物理量を、与えられた条件通り、半導体ウエハ上に実現することができる。
【0090】
次に、
図3を参照して、本実施の形態による電源分類の例を説明する。
図3は、ハイブリッドスキャンイオン注入装置の電源分類の例を示す図である。
【0091】
本実施の形態では、電源電圧測定を利用した放電素過程可能性検出方法として、ビームラインに設置された複数個の電源電圧測定をそれぞれ別々に行う。さらに、
図3に示すように、電源電圧測定が行われる前述の複数個の電源は、それら電源が放電した場合のイオンビームへの影響度合い、すなわち、イオン注入工程で求められる、当該イオン注入工程を特徴付ける物理量、具体的にはイオンの注入ドーズ量、イオンの注入角度、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅、ビームスキャン方向のイオンビーム幅に対する影響度合いにより、予め、複数種類に分けられている。
図3では、ビームスキャン方向のイオンビーム幅、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅をそれぞれ、ビーム横幅、ビーム縦幅と記している。
【0092】
図3では、イオンの注入ドーズ量に影響を与える電源として、イオン源1、引出電極2、ビームスキャナー5、パラレルレンズ6、静電ビームステアリング装置13を挙げている。また、イオンの注入角度に影響を与える電源として、ビームスキャナー5、パラレルレンズ6、角度エネルギーフィルタ7を挙げている。また、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅、ビームスキャン方向のイオンビーム幅に影響を与える電源として、イオン源1、引出電極2、静電レンズ12を挙げている。なお、これは
図1に示す機器に対応する例示であって、ビームライン構成機器の数、種類によって当然異なる。
【0093】
ここで重要なことは、この電源分類は、前述のように、イオン注入条件によって異なることである。特に、ここで挙げたイオン注入工程を特徴付けるそれぞれの物理量、すなわちイオンの注入ドーズ量、イオンの注入角度、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅、ビームスキャン方向のイオンビーム幅、のウエハ面内均一性許容値が異なれば、当然、電源が放電した場合の影響評価もまた異なる。例えば、静電ビームステアリング装置13の放電によって、その放電を検知せずに通常通りのイオン注入を続けた場合の注入ドーズ量の誤差が2%の場合、注入ドーズ量のウエハ面内均一性が1%しか許されないような、イオン注入ドーズ量の差に対する最終的に作成される半導体の性能の差が大きいイオン注入工程では、静電ビームステアリング装置13は、イオンの注入ドーズ量に影響を与える機器として扱わなければならない。一方、注入ドーズ量のウエハ面内均一性が10%まで許されるような、イオン注入ドーズ量の差に対する最終的に作成される半導体の性能の差が小さいイオン注入工程では、静電ビームステアリング装置13は、イオンの注入ドーズ量に影響を与える電源として扱わない。
【0094】
次に、
図4を参照して、本実施の形態の変形例による別の電源分類の例を説明する。
図4は、ハイブリッドスキャンイオン注入装置の電源分類の他の例を示す図である。
図3と
図4を比較すると、
図3ではイオンの注入ドーズ量に影響を与える電源として、イオン源1、引出電極2、ビームスキャナー5、パラレルレンズ6、静電ビームステアリング装置13を挙げているのに対し、
図4では、イオン源1、引出電極2、ビームスキャナー5のみを挙げている。また、
図3では、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅に影響を与える電源として、イオン源1、引出電極2、静電レンズ12を挙げているが、
図4では、イオン源1、引出電極2のみを挙げている。
【0095】
この差は、イオン注入前に設定する個々のイオン注入条件の設定によって異なる。つまり、
図3や
図4に示す分類は、最終的に作成される半導体の性能から見て、イオンビームに影響を及ぼす放電事象あるいはイオン注入条件に影響を及ぼす放電事象のみを個々のイオン注入条件ごとに検出し、一方では検出すべきでない、イオンビームに影響を及ぼさない放電事象は検出せず、検出されたイオンビームに影響を及ぼす放電事象に対して適切に対処するために必要なものである。これにより、半導体製品の生産性を無用に悪化させることなく、イオン注入工程で求められる、当該イオン注入工程を特徴付ける物理量を、与えられた条件通り、半導体ウエハ上に実現することができる。
【0096】
図3や
図4のような分類は、本実施の形態のビームラインに設置された複数個の電源電圧測定及びその設定値との比較をそれぞれ別々に行い、かつ、それら電源が放電した場合のイオンビームへの影響度合いを正確に検討することによってなされるものである。
【0097】
次に、
図5を参照して、第1の実施の形態に係るイオン注入方法において、イオンビームに影響を及ぼす放電事象を検出する方法の一例を説明する。
図5は、第1の実施の形態に係る放電事象の検出と放電判定との関係を説明するための図である。
図3、
図4で説明したように、第1の実施の形態では、イオン注入前にイオンの注入ドーズ量、イオンの注入角度、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅、ビームスキャン方向のイオンビーム幅に影響を与える電源を分類するが、説明の便宜のために、以下の各実施の形態における説明を含め、イオンの注入ドーズ量に影響を与える電源と、ビームスキャン方向のイオンビーム幅に影響を与える電源に絞って説明する。
【0098】
本実施の形態に係るイオン注入方法の一つは、ドーズカップ8によるビーム電流測定と電源電圧測定を利用した放電素過程可能性検出方法を用いるのである。そのため、
図5に示したように、ドーズカップ8によるビーム電流測定による放電素過程可能性検出方法、イオンの注入ドーズに影響を与える電源電圧測定値のその設定値からの乖離による放電素過程可能性検出方法、ビームスキャン方向のイオンビーム幅に影響を与える電源電圧測定値のその設定値からの乖離による放電素過程可能性検出方法のうち、一つないし複数個の放電素過程可能性検出方法に反応が現れることが考えられる。
【0099】
特に、
図5の状況#1、状況#2について付言する。単純に考えると、ドーズカップ8によるビーム電流測定値を用いた放電素過程可能性検出方法も、イオンの注入ドーズ量に影響を与える電源の電源電圧測定を用いた放電素過程可能性検出方法も、同じイオンの注入ドーズ量に関するものであるから、状況#1ないし状況#2のように、どちらか片方のみの放電素過程可能性検出方法に反応が現れることはなく、状況#4のように必ず両方の放電素過程可能性検出方法に反応が現れるとも思える。しかし、前述のように、ドーズカップ8によるビーム電流測定値を用いた放電素過程可能性検出方法は、その性質上ビームスキャン周波数に反比例する測定間隔を持っているので、ビームスキャン周波数が低周波数の場合には、放電発生から検出までの平均時間が長くなり過ぎ、イオンビームに影響を及ぼす放電事象に関する情報は事実上得られないことが有り得る。一方、電源電圧測定を利用した放電素過程可能性検出方法は、一定時間の測定間隔で測定可能であるので、ビームライン構成機器の典型的な放電継続時間に比べてその測定間隔を短くでき、イオンビームに影響を及ぼす放電事象に関する情報は必ず得られ、ウエハへのイオン注入時のビーム状態を判定することができるが、ただし、ビームスキャン周波数が高周波数の場合には、ドーズカップ8によるビーム電流測定値を用いた放電検出方法に比べると、その測定間隔はやや長く、反応から対処までの時間を含めて考えると、ドーズカップ8によるビーム電流測定値を用いた放電素過程可能性検出方法のみイオンビームに影響を及ぼす放電事象に関する情報が得られる状況が有り得る。したがって、
図5の状況#1、状況#2も十分考えられる。
図5の状況#5と状況#6についても、前述の説明と同様のことが言える。
【0100】
図5では、ビーム電流測定を利用した放電素過程可能性検出方法及び前述の電源の電圧測定を利用した放電素過程可能性検出方法のいずれか一方が放電を検出した場合に、イオンビームに影響を及ぼす放電事象と判断する場合を示している。換言すると、放電事象の可能性がある全ての場合に、念のため放電事象とみなす放電検出方法であると言える。そして、例えば、
図1に示したビームダンプ電極14に一時的に高電圧を印加し、もってビームをビームラインから一時的に外し、イオンビームをウエハから退避させ、半導体ウエハ10へのビーム入射を防ぎ、放電事象が収まった後、ビームダンプ電極14に一時的に印加している高電圧を除去し、もってビームをビームラインに戻し、半導体ウエハ10へのビーム入射を再開することで、再び、イオンを半導体ウエハ10に注入する。
【0101】
図5の放電判断方法を具体的に用いるイオン注入条件及びイオン注入工程の例としては、例えば、ウエハへのイオン注入中のビーム電流測定を行う場合で、かつ、イオン注入工程を特徴付ける物理量全てのウエハ面内均一性許容値が非常に厳しい場合が考えられる。いずれにせよ、
図5の放電判断方法は、本実施の形態に係るドーズカップ8によるビーム電流測定を利用した放電素過程可能性検出方法と、複数個の電源電圧測定を利用した放電素過程可能性検出方法のうち、どれか一つにでも異常が検知された場合、イオンビームに影響を及ぼす放電事象と判断し、ウエハへのイオン注入時のビーム状態が異常であると判断する。そのため、
図5の放電判定方法は、最終的に作成される半導体の性能の差がないようにできる、あるいは、最終的に作成される半導体製品において、その性能が当該半導体製品の許容範囲に入る半導体製品を、単位時間にいかに多く作成できるかという意味での、半導体製品の生産性が高いようにすることができる場合に、選ばれる。
【0102】
[第2の実施の形態]
次に、
図6を参照して、第2の実施の形態に係るイオン注入方法において、イオンビームに影響を及ぼす放電事象を検出する方法の別の一例を説明する。
図6は、第2の実施の形態に係る放電事象の検出と放電判定との関係を説明するための図である。
図6では、ビーム電流測定を利用した放電素過程可能性検出方法によって放電を検出し、かつ、予め、複数種類に分けられた複数個の電源のうち、その一つの種類に属する電源の電源電圧測定を利用した放電素過程可能性検出方法、
図6の場合では、イオンの注入ドーズ量に影響を与える電源電圧測定値のその設定値からの乖離による放電素過程可能性検出方法、によって放電を検出した場合に、イオンビームに影響を及ぼす放電事象と判断し、ウエハへのイオン注入時のビーム状態が異常であると判断する場合を示している。
【0103】
図6の放電判断方法を具体的に用いるイオン注入条件及びイオン注入工程の例としては、例えば、ウエハへのイオン注入中のビーム電流測定を行う場合で、かつ、イオンの注入ドーズ量のウエハ面内均一性許容値が比較的緩く、ビームライン構成機器の放電が発生しかつその影響がビーム電流量として現実に観測された場合にのみ、対処することで足りる場合が考えられる。あるいは、前述のように、レジストマスクへのビーム照射の影響により、イオン注入中のビーム電流量の持続的な変化が考えられ、イオンビームに影響を及ぼす放電事象が発生していない場合にも、ドーズカップ8によるビーム電流測定を利用した放電素過程可能性検出方法のみでは、その放電事象発生と誤検知してしまうことが有り得る。そこで、このような場合は、ドーズカップ8によるビーム電流測定値を用いた放電素過程可能性検出方法と、イオンの注入ドーズ量に影響を与える電源の電源電圧測定を用いた放電素過程可能性検出方法の両者に反応が現れるときに、イオンビームに影響を及ぼす放電事象が新に発生したと判断することが好ましい。
【0104】
いずれにせよ、
図6の放電判断方法は、ドーズカップ8によるビーム電流測定を利用した放電素過程可能性検出方法が放電を検出し、かつ、予め、複数種類に分けられた複数個の電源のうち、その一つの種類に属する電源の前述の電源電圧測定を利用した放電素過程可能性検出方法が放電を検出した場合に、イオンビームに影響を及ぼす放電事象と判断し、ウエハへのイオン注入時のビーム状態が異常であると判断する(状況#4及び状況#7)。そのため、
図6の放電判断方法は、最終的に作成される半導体の性能の差がないようにできる、あるいは、最終的に作成される半導体製品において、その性能が当該半導体製品の許容範囲に入る半導体製品を、単位時間にいかに多く作成できるかという意味での、半導体製品の生産性が高いようにすることができる場合に、選ばれる。
【0105】
図5と
図6の放電判断方法は、同一のイオン注入装置に同一の放電検出ハードウエアを用いて、それぞれ実現できる方法である。換言すると、本実施の形態では、ビームスキャン周波数に反比例する測定間隔で測定可能なビーム電流測定を利用した放電素過程可能性検出方法と、一定時間の測定間隔で測定可能な電源電圧測定を利用した放電素過程可能性検出方法を共に持ち、それら2種類の放電素過程可能性検出方法から得られた情報を用いて、前述のイオンビームに影響を及ぼす放電事象を検出するイオン注入方法である。その際、イオン注入条件をイオン注入前に予め定め、そのイオン注入条件によって、複数種類の放電検出方法を用い、ウエハへのイオン注入時のビーム状態が異常であると判断するイオン注入方法であると言える。
【0106】
[第3の実施の形態]
次に、
図7を参照して、第3の実施の形態に係るイオン注入方法において、イオンビームに影響を及ぼす放電事象あるいはイオン注入条件に影響を及ぼす放電事象を検出する方法のさらに別の一例を説明する。
図7は、第3の実施の形態に係る放電事象の検出と放電判定との関係を説明するための図である。
図7では、ビーム電流測定を利用した放電素過程可能性検出方法の放電検出の有無にかかわらず、電源電圧測定を利用した放電素過程可能性検出方法が放電を検出した場合に、イオンビームに影響を及ぼす放電事象と判断し、ウエハへのイオン注入時のビーム状態が異常であると判断する場合を示している。
【0107】
図7の放電判断方法を具体的に用いるイオン注入条件及びイオン注入工程の例としては、例えば、ウエハへのイオン注入中のビーム電流測定を行う場合で、かつ、イオン注入工程を特徴付ける物理量全てのウエハ面内均一性許容値が非常に厳しいが、イオンビームのスキャン周波数が低周波数である場合が考えられる。以下、詳しく説明する。
【0108】
前述のように、イオン注入ドーズ量の差に対する最終的に作成される半導体の性能の差が大きいイオン注入工程では、レジストマスクへのビーム照射の影響により、イオン注入中のビーム電流量の持続的な変化が考えられる場合、ドーズカップ8によるビーム電流測定を行い、ウエハをメカニカルにスキャンする速度を制御する必要があるときがある。レジストマスクへのビーム照射の影響は、その時定数が長く、イオンビームのスキャン周波数が低周波数であっても、ウエハをメカニカルにスキャンする速度を制御する観点からは問題がない。しかし、既に説明したように、イオンビームのスキャン周波数が低周波数の場合、ドーズカップ8によるビーム電流測定の放電検出への利用との観点からは、放電発生から検出までの平均時間が長くなり過ぎ、イオンビームに影響を及ぼす放電事象、すなわち、ウエハへのイオン注入の際におけるウエハへのイオン注入時のビーム状態に関する情報は事実上得られない。この場合、ドーズカップ8によるビーム電流測定は、メカニカルにスキャンする速度の制御にのみ用い、放電検出については用いないことが適切である。
【0109】
したがって、ウエハへのイオン注入中のビーム電流測定を行う場合で、かつ、イオン注入工程を特徴付ける物理量全てのウエハ面内均一性許容値が非常に厳しいが、イオンビームのスキャン周波数が低周波数である場合には、ビーム電流測定を利用した放電素過程可能性検出方法の放電検出の有無にかかわらず、電源電圧測定を利用した放電素過程可能性検出方法が放電を検出した場合に、イオンビームに影響を及ぼす放電事象と判断し、ウエハへのイオン注入時のビーム状態が異常であると判断することが適切と言える。いずれにせよ、
図7の放電判断方法は、本実施の形態に係るイオン注入方法の一つによる、ドーズカップ8によるビーム電流測定を利用した放電素過程可能性検出方法と複数個の電源電圧測定を利用した放電素過程可能性検出方法のうち、ビーム電流測定を利用した放電素過程可能性検出方法の放電検出の有無にかかわらず、電源電圧測定を利用した放電素過程可能性検出方法が放電を検出した場合、イオンビームに影響を及ぼす放電事象と判断し、ウエハへのイオン注入時のビーム状態が異常であると判断する(状況#2〜状況#7)。そのため、
図7の放電判断方法は、最終的に作成される半導体の性能の差がないようにできる、あるいは、最終的に作成される半導体製品において、その性能が当該半導体製品の許容範囲に入る半導体製品を、単位時間にいかに多く作成できるかという意味での、半導体製品の生産性が高いようにすることができる場合に、選ばれる。
【0110】
[第4の実施の形態]
次に、
図8と
図9を参照して、第4の実施の形態に係るイオン注入方法において、イオンビームに影響を及ぼす放電事象を検出する方法のさらに別の一例を説明する。
図8は、第4の実施の形態に係る放電事象の検出と放電判定との関係を説明するための図である。
図9は、第4の実施の形態に係る放電事象の検出と放電判定との関係を説明するための図である。
図8、
図9では、ビーム電流測定を利用した放電素過程可能性検出方法の放電検出の有無にかかわらず、予め、複数種類に分けられた複数個の電源のうち、その一つの種類に属する電源の電源電圧測定を利用した放電素過程可能性検出方法が放電を検出した場合に、イオンビームに影響を及ぼす放電事象と判断し、ウエハへのイオン注入時のビーム状態が異常であると判断する場合を示している。
【0111】
図8では、ビーム電流測定を利用した放電素過程可能性検出方法の放電検出の有無にかかわらず、予め、複数種類に分けられた複数個の電源のうち、イオンの注入ドーズ量に影響を与える電源電圧測定値のその設定値からの乖離による放電素過程可能性検出方法が放電を検出した場合に、イオンビームに影響を及ぼす放電事象と判断し、ウエハへのイオン注入時のビーム状態が異常であると判断する場合を示している。
【0112】
図8の放電判断方法を具体的に用いるイオン注入条件及びイオン注入工程の例としては、例えば、ウエハへのイオン注入中のビーム電流測定を行う場合で、かつ、イオンの注入ドーズ量のウエハ面内均一性許容値が非常に厳しいが、イオンビームのスキャン周波数が低周波数である場合が考えられる。
【0113】
次に、
図9では、ビーム電流測定を利用した放電素過程可能性検出方法の放電検出の有無にかかわらず、予め、複数種類に分けられた複数個の電源のうち、ビームスキャン方向のイオンビーム幅に影響を与える電源電圧測定値のその設定値からの乖離による放電素過程可能性検出方法が放電を検出した場合に、イオンビームに影響を及ぼす放電事象と判断し、ウエハへのイオン注入時のビーム状態が異常であると判断する場合を示している。
【0114】
図9の放電判断方法は、ある半導体製造工程のイオン注入工程において、ビームスキャン方向のイオンビーム幅の値を制御することが、最終的に作成される半導体の性能の差がないようにできる、あるいは、最終的に作成される半導体製品において、その性能が当該半導体製品の許容範囲に入る半導体製品を、単位時間にいかに多く作成できるかという意味での、半導体製品の生産性が高いようにすることができる場合に、選ばれる。
【0115】
特に、
図9のように、イオンビームに影響を及ぼす放電事象の結果、ビームスキャン方向のイオンビーム幅の値が変わってしまう場合には、ドーズカップ8によるビーム電流測定による放電素過程可能性検出方法を用いたのでは、その放電事象を正しく捉えることができない。すなわち、
図9の例では、ビームスキャン方向のイオンビーム幅の値を制御することが、最終的に作成される半導体の性能の差がないようにできる場合に、イオンビームに影響を及ぼす放電事象として検知すべきは、状況#3、状況#5、状況#6、状況#7であるが、ドーズカップ8によるビーム電流測定による放電検出を用いると、状況#5と状況#7は検知できるが、状況#3と状況#6は検知できず、代わりに状況#1と状況#4を誤って検知してしまう。したがって、ビームスキャン方向のイオンビーム幅の差に対する最終的に作成される半導体の性能の差が大きいイオン注入工程において、イオンビームに影響を及ぼす放電事象の誤検知により、半導体製品の生産性を低下させてしまうとともに、イオンビームに影響を及ぼす放電事象を一部見逃すことにより、ウエハ面内にて最終的に作成される半導体の性能に差が生じてしまう。
【0116】
この事情は、イオン注入工程で求められるイオン注入工程を特徴付ける物理量のうち、イオンの注入角度、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅、ビームスキャン方向のイオンビーム幅に対して同様である。すなわち、本実施の形態では、イオンの注入角度、ウエハスキャン方向のイオンビーム幅、ビームスキャン方向のイオンビーム幅のうち、一つないし複数個の物理量の差に対する最終的に作成される半導体の性能の差が大きいイオン注入工程において、イオンビームに影響を及ぼす放電事象の誤検知による半導体製品の生産性の低下を防ぎ、イオンビームに影響を及ぼす放電事象の見逃しによる、ウエハ面内に最終的に作成される半導体の性能に差を防ぐことができると。
【0117】
[第5の実施の形態]
次に、
図10を参照して、第5の実施の形態に係るイオン注入方法において、イオンビームに影響を及ぼす放電事象を検出する方法のさらに別の一つを説明する。
図10は、第5の実施の形態に係る放電事象の検出と放電判定との関係を説明するための図である。
図10では、半導体ウエハ10へのイオン注入中に、ビーム電流測定を行わない注入方法設定が採用された場合において、予め、複数種類に分けられた複数個の電源のうち、ビームスキャン方向のイオンビーム幅に影響を与える電源電圧測定値のその設定値からの乖離による放電素過程可能性検出方法が放電を検出した場合に、イオンビームに影響を及ぼす放電事象と判断し、ウエハへのイオン注入時のビーム状態が異常であると判断する場合を示している。
【0118】
ある半導体製造工程のイオン注入工程において、ビームスキャン方向のイオンビーム幅の値を制御することが、最終的に作成される半導体の性能の差がないようにできる場合には、放電検出の側面からは、ドーズカップ8によるビーム電流測定は必要ない。したがって、例えば、イオンの注入ドーズ量の差が最終的に作成される半導体の性能に対してそれほど影響のない場合であれば、イオン注入中のビーム電流測定自身必要がないのであって、例えば、
図10のような方法が適切であると言える。
【0119】
以下、本発明の幾つかの態様を挙げる。
【0120】
実施の形態のある態様のイオン注入方法は、イオン源1で発生したイオンを半導体ウエハ10まで輸送し、半導体ウエハ10をイオンビームで照射してイオンを注入するイオン注入方法において、ウエハへイオンを注入する過程で、放電の可能性がある事象を検出可能な検出部(例えば、ドーズカップ8や電源電圧測定部21〜27)を複数用いて、検出した放電の可能性がある事象の有無および該事象がイオンビームに及ぼす影響の度合いに基づいてイオンビームの状態を判断する状態判断工程を含む。これにより、放電を適切に検出し、イオンビームの状態を精度良く判断できる。ここで、放電の可能性がある事象とは、前述の放電事象などを含んでもよい。
【0121】
イオンビームを走査しながらウエハにイオンを注入するイオン注入工程を更に含んでもよい。状態判断工程において、複数の検出部の一つとして、イオンビームの走査ごとにイオンビームの電流が測定可能なビーム電流測定部(ドーズカップ8)を用いて、放電の可能性がある事象を検出してもよい。これにより、放電現象を適切に検出できる。なお、イオン注入工程は、イオンビームを一方向に往復スキャンし、ビームスキャン方向に直交する方向にウエハをメカニカルにスキャンすることで行われてもよい。
【0122】
状態判断工程において、複数の検出部の一つとして、イオン源からウエハまでのビームラインを構成する機器が有する電源の電圧を測定する電源電圧測定部(例えば、電源電圧測定部21)を用いて、放電の可能性がある事象を検出してもよい。これにより、放電を直接的に検出できる。
【0123】
状態判断工程において、複数の検出部の一部として、イオン源からウエハまでのビームラインを構成する各機器がそれぞれ有する電源の電圧を測定する複数の電源電圧測定部(例えば、電源電圧測定部21〜27)を用いて、放電の可能性がある事象を検出してもよい。これにより、放電を直接的に精度良く検出できる。
【0124】
状態判断工程において、複数の検出部の少なくとも一つが放電の可能性がある事象を検出した場合、イオンビームの状態に異常があると判断してもよい。これにより、実際に放電の可能性があるにもかかわらず検出できない状況が低減される。
【0125】
状態判断工程において、ビーム電流測定部が放電の可能性がある事象を検出し、かつ、少なくとも一つの電源電圧測定部が放電の可能性がある事象を検出した場合、イオンビームの状態に異常があると判断してもよい。これにより、放電を精度良く検出できる。
【0126】
状態判断工程において、ビーム電流測定部が放電の可能性がある事象を検出し、かつ、イオンビームに及ぼす影響に応じて複数のグループに分けられた複数の電源電圧測定部のうち一つのグループに属する電源電圧測定部が放電の可能性がある事象を検出した場合、イオンビームの状態に異常があると判断してもよい。これにより、放電を精度良く検出できる。
【0127】
状態判断工程において、イオン注入条件を定める各種設定に応じて、放電の可能性がある事象を検出するために用いられる複数の検出部の組合せが決定されてもよい。これにより、イオン注入条件に応じた適切な複数の検出部を用いて放電の可能性がある事象を検出することができる。
【0128】
また、別の態様はイオン注入装置100である。この装置は、イオン源1で発生したイオンを半導体ウエハ10まで輸送するビームラインを構成する機器(イオン源1、引出電極2、ビームスキャナー5、パラレルレンズ6、静電レンズ12、ビームダンプ電極14等)と、半導体ウエハ10をイオンビームで照射してイオンを注入する過程で、放電の可能性がある事象を検出可能な複数の検出部(ドーズカップ8や電源電圧測定部21〜27)と、複数の検出部によって検出した放電の可能性がある事象の有無および該事象がイオンビームに及ぼす影響の度合いに基づいてイオンビームの状態を判断する判断部30(
図1(b)参照)と、を備える。これにより、放電を適切に検出し、イオンビームの状態を精度良く判断できる。
【0129】
機器は、イオンビームを走査させるビームスキャナー5を有してもよい。複数の検出部の一つは、イオンビームの走査ごとにイオンビームの電流が測定可能なビーム電流測定部(ドーズカップ8)であり、複数の検出部の一部は、イオン源からウエハまでのビームラインを構成する各機器がそれぞれ有する電源の電圧を測定する複数の電源電圧測定部21〜27であってもよい。これにより、放電現象を適切に検出できる。
【0130】
判断部30は、複数の検出部の少なくとも一つが放電の可能性がある事象を検出した場合、イオンビームの状態に異常があると判断してもよい。これにより、これにより、実際に放電の可能性があるにもかかわらず検出できない状況が低減される。
【0131】
判断部30は、ビーム電流測定部が放電の可能性がある事象を検出し、かつ、イオンビームに及ぼす影響に応じて複数のグループに分けられた複数の電源電圧測定部のうち一つのグループに属する電源電圧測定部が放電の可能性がある事象を検出した場合、イオンビームの状態に異常があると判断してもよい。これにより、放電を精度良く検出できる。
【0132】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれ得る。