特許第5941384号(P5941384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5941384シリコン単結晶引上げ用シリカガラスルツボの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941384
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】シリコン単結晶引上げ用シリカガラスルツボの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20160616BHJP
   C30B 15/10 20060101ALI20160616BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   C30B29/06 502B
   C30B15/10
   C03B20/00 H
   C03B20/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-210534(P2012-210534)
(22)【出願日】2012年9月25日
(65)【公開番号】特開2014-65622(P2014-65622A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 稜平
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−233629(JP,A)
【文献】 特開2004−292211(JP,A)
【文献】 特開2001−328831(JP,A)
【文献】 特開2000−344536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
C03B 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英原料粉末を成形型内に供給して直胴部、コーナー部および底部を有するシリカ粉成形体を形成し、このシリカ粉成形体をアーク放電により加熱溶融してシリカガラスルツボを得る製造方法であって、
酸素雰囲気中でのアーク放電による加熱溶融の際に、シリカ粉成形体の直胴部内表面に沿って水素ガスを供給することを特徴とするシリコン単結晶引上げ用シリカガラスルツボの製造方法。
【請求項2】
前記水素ガスの供給量を40リットル/min以上60リットル/min以下とすることを特徴とする請求項1記載のシリコン単結晶引上げ用シリカガラスルツボの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、CZ法という)によりシリコン単結晶を引上げる際に用いられる、原料シリコン融液を収容するためのシリカガラスルツボの製造方法に関する。より詳しくは、シリコン単結晶を引上げる際に発生するルツボ内層の気泡発生および膨張を抑制することによって、歩留まり良くシリコン単結晶を引上げることができるシリカガラスルツボの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の製造においては、チョクラルスキー法(CZ法)が広く用いられている。この方法は、ルツボ内に収容された原料シリコン融液の表面に種結晶を接触させ、ルツボを回転させるとともに、前記種結晶を反対方向に回転させながら上方へ引上げることにより、種結晶の下端に単結晶インゴットを育成していくものである。
【0003】
上記方法において、原料シリコン融液を収容するためのルツボには、シリカガラスルツボが用いられる。このシリカガラスルツボは、一般に、特許文献1に開示されているような2層構造であり、外層が不透明層、内層が透明層である。
前記外層の不透明層は、合成シリカガラスに比べて、純度は低いものの、耐熱性に優れた天然シリカ原料により形成され、多数の気泡を含有している。一方、前記内層の透明層は、引上げられるシリコン単結晶インゴットに対する不純物汚染の抑制のため、高純度の合成シリカ原料により形成され、また、前記単結晶インゴットの結晶化率の向上等の観点から、ルツボ内表面は平滑に形成される。
このようなシリカガラスルツボの前記内層はシリコン単結晶引上げ開始前において実質的に無気泡の透明層であるが、シリコン単結晶引上げのために減圧、高温に曝されると気泡が生じ、その気泡が膨張することによりルツボ内表面が剥離する、もしくは気泡内部のガスがガス泡となって原料シリコン融液内に放出されることがある。この剥離片やガス泡が原料シリコン融液の対流によりシリコン単結晶の成長界面に到達し、取り込まれるとシリコン単結晶の品質を低下させるという問題があった。
【0004】
上記問題を解決するため、加熱溶融して半透明石英ガラスルツボ基体の内面側に、水素ドープシリカ粉および水素未ドープ石英粉により透明石英ガラス層を形成する、例えば、特許文献2に記載されているような石英ガラスルツボの製造方法が提案されている。また、特許文献3には、引上げ相当温度下において、内表面透明層に含まれる気泡の膨張率を制御した石英ガラスルツボが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−105577
【特許文献2】特開2007−326780
【特許文献3】特開2009−132567
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような石英ガラスルツボを用いた場合であっても、CZ法によるシリコン単結晶引上げの際、原料シリコンを溶融、保持している状態で透明層内に気泡が生じ、膨張することがあった。膨張した気泡が原料シリコン融液と接するルツボ内表面に開放した場合、ガス泡やシリカガラス小片が原料シリコン融液に混入し、原料シリコン融液の対流によってシリコン単結晶の引上げ界面に到達してシリコン単結晶内に取り込まれてしまうことがある。ガス泡が取り込まれた場合、引上げたシリコン単結晶の外観からは不具合を確認することはできず、シリコン単結晶をスライス、研磨してシリコンウェーハとした後にピンホール、異物欠陥などとして見つかる。シリカガラス小片が取り込まれた場合、引上げたシリコン単結晶に転位が起こりシリコン単結晶の品質が低下する。
【0007】
使用前の実質的に無気泡の透明層においては、どこに気泡が生じるか、どの程度膨張するかを確認することはできず、使用中の気泡発生、膨張を制御できないという課題が生じていた。
【0008】
こうした現状を鑑み、本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、透明層内での気泡発生、膨張は透明層のシリカガラス中の酸素過剰欠陥に起因し、酸素過剰欠陥はアーク放電による加熱溶融の際にシリカガラス構造内に取り込まれた酸素によって増加していることを見出した。
アーク放電による加熱溶融の際、カーボン電極から生じるカーボン粒子がルツボ内表面に付着することを防止するため、加熱溶融中の酸素供給をなくすることはできないが、ルツボ内表面に沿って水素を供給することにより酸素過剰欠陥を抑制することができることを見出して、本発明を完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、内層である透明層において、使用中すなわちルツボ内部に収容した多結晶シリコンを溶融するために加熱を開始してからシリコン単結晶の引上げ終了までの間、気泡の発生および膨張を抑制することのできる、シリコン単結晶引上げ用シリカガラスルツボを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るシリコン単結晶引上げ用シリカガラスルツボの製造方法は、石英原料粉末を成形型内に供給して直胴部、コーナー部および底部を有するシリカ粉成形体を形成し、このシリカ粉成形体をアーク放電により加熱溶融してシリカガラスルツボを得る製造方法であって、酸素雰囲気中でのアーク放電による加熱溶融の際に、シリカ粉成形体の直胴部内表面に沿って水素ガスを供給することを特徴とする。
このような製造方法によれば、加熱溶融中において透明層のシリカガラス構造内に酸素を取り込むことを抑制し、透明層内の酸素過剰欠陥を少なくすることができる。
【0011】
前記シリコン単結晶引上げ用シリカガラスルツボの製造方法においては、水素ガスの供給量を40リットル/min以上60リットル/min以下とすることが好ましい。
水素流量をこのような範囲とすることにより、シリカガラス中のOH濃度が増加して透明層の高温強度が低下することなく、加熱溶融中において透明層のシリカガラス構造内に酸素を取り込むことを抑制し、透明層内の酸素過剰欠陥を少なくすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るシリコン単結晶引上げ用シリカガラスルツボの製造方法によれば、加熱溶融中において実質的に無気泡の透明層のシリカガラス構造内に酸素を取り込むことを抑制し、透明層内の酸素過剰欠陥を少なくすることにより、シリコン単結晶引上げ中における気泡膨張を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の製造方法によるシリカガラスルツボの概略断面図である。
図2】本発明の製造方法に用いられるシリカガラスルツボ製造装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明にかかる製造方法により得られるシリコン単結晶引上げ用シリカガラスルツボ1は、図1に示すように、底部と円筒状の側壁部との間にアール状のコーナー部を有する断面がU字状の形状からなる。そして、外層3が不透明層、内層2が透明層からなる。
ここで、不透明層とは、シリカガラス中に多数の気泡(好ましくは、20個/mm以上)を含み、見かけ上、白濁した状態のシリカガラス層であり、透明層とは、シリカガラス中に気泡をほとんど含まず(好ましくは、2個/mm以下)、実質的に透明であるシリカガラス層を意味する。
【0015】
本発明にかかるシリコン単結晶引上げ用シリカガラスルツボの製造方法は、酸素雰囲気中でのアーク放電による加熱溶融の際に、シリカ粉成形体の直胴部内表面に沿うように水素ガスを供給する点に特徴があり、シリカガラスルツボの製造方法は従来の一般的な方法が用いられる。
なお、一般に、不透明層は、純度は低いものの、耐熱性に優れた、水晶等の天然シリカ原料により形成し、透明層は、シリコンアルコキシドの加水分解等により得られる高純度の合成シリカ原料により形成する。
【0016】
図2に示すようなシリカガラスルツボ製造装置を用いて、図示しない回転駆動源を稼働して回転軸15を矢印の方向に、ルツボ成形用型11を高速で回転させつつ、ルツボ成形用型11内の上部から、初めに天然シリカ原料粉末を装填し、さらにその内表面に合成シリカ原料粉末を装填する。
【0017】
初めに供給された天然シリカ原料粉末は、遠心力によってルツボ成形用型11の内側部材12に押圧され、一つの天然シリカ原料粉末層20bが形成される。
そして、この天然シリカ原料粉末に続いて合成シリカ原料粉末がルツボ成形用型11内に供給され、合成シリカ原料粉末は、遠心力によって天然シリカ原料粉末の層に押圧され一つの合成シリカ原料粉末層20aが形成され、全体としてルツボ形状の2層のシリカ粉成形体20が形成される。
その後、大気雰囲気において減圧機構18の作動により減圧し、カーボン電極19に通電してシリカ粉成形体20の内側から加熱し、シリカ粉成形体20を内側から順次溶融する。カーボン電極19の通電開始後、シリカ粉成形体20の開口部から直胴部内表面に沿って水素ガスの供給を開始し、カーボン電極19の通電終了後に水素ガスの供給を止める。
【0018】
その後、冷却することにより、内面側には実質的に無気泡化状態で酸素過剰欠陥が抑制された透明シリカガラス層2が形成され、外表側には多数の気泡が存在する不透明シリカガラス層3が形成された、2重層構造のシリカガラスルツボ1が製造される。
【0019】
このように、水素ガスをシリカ粉成形体20の開口部から直胴部内表面に沿って供給することにより、酸素含有雰囲気中でのアーク放電による加熱溶融中において実質的に無気泡の透明層のシリカガラス構造内に酸素を取り込むことを抑制し、酸素過剰欠陥を少なくすることにより、シリコン単結晶引上げ中における気泡発生および発生した気泡の膨張を抑制することができる。
【0020】
水素ガスは、シリカ粉成形体20の開口部から直胴部内表面に沿って供給すること、できるだけカーボン電極19と接触しないように供給することが好ましい。供給した水素ガスがカーボン電極19と接触した場合、カーボン電極19から生じるカーボン粒子が雰囲気中の酸素と反応せずにルツボ内表面に付着してしまう。
【0021】
また、水素ガスはできるだけシリカ粉成形体20に直接吹き付けないように供給することが好ましい。供給した水素ガスがシリカ粉成形体20に直接吹き付けられた場合、透明層となるシリカ粉成形体20の内表層に深く入り込んでしまい、透明層中のOH基濃度が高くなってしまう。
【0022】
供給する水素流量は40リットル/min以上60リットル/min以下とすることが好ましい。水素流量が40リットル/min未満である場合には、透明層の気泡発生および膨張を抑制する効果が小さくなり、引上げられたシリコン単結晶インゴットに転位やエアポケットなどの欠陥が生じる虞があるため好ましくない。一方、水素流量が60リットル/minを超えた場合には、透明層中のOH基濃度が高くなってしまい、透明層の高温強度が低下することにより変形し易くなるため好ましくない。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
上記の実施の形態において説明した方法と同様の製造方法により、外径約600mm、高さ約500mmのシリカ粉成形体を形成し、水素ガスを40リットル/minの流量で供給しながらアーク放電により加熱溶融してシリカガラスルツボを製造した。
このシリカガラスルツボを、カーボンルツボに嵌め込んでセットし、ルツボ外周からヒータ加熱して、ルツボ内で多結晶シリコン原料を溶融させ、CZ法により、直径8インチのシリコン単結晶引上げを行った。
【0024】
[実施例2]
上記実施例1において、水素ガスの流量を60リットル/minとした以外実施例1と同様にしてシリカガラスルツボを製造し、このルツボを用いて、実施例1と同様にして、シリコン単結晶引上げを行った。
【0025】
[比較例1]
上記実施例1において、水素ガスを供給せずにシリカガラスルツボを製造し、このルツボを用いて、実施例1と同様にして、シリコン単結晶引上げを行った
【0026】
[比較例2〜4]
水素ガスの流量を下記表1の比較例2〜4に示すように変化させ、それ以外は実施例1と同様にして、シリカガラスルツボを製造し、これらの各ルツボを用いて、実施例1と同様にして、シリコン単結晶引上げを行った。
【0027】
上記実施例及び比較例において製造したシリカガラスルツボについて、水素ガスを供給しなかった比較例1のシリカガラスルツボの透明層OH基含有量を基準としてOH基含有量の濃度増加量を評価した。また、シリコン単結晶引上げに使用した後の透明層気泡密度、引上げられたシリコン単結晶インゴットの結晶化率の評価を行った。
これらの評価結果をまとめて表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
シリカガラスルツボ中のOH基濃度は赤外分光分析法により測定した。詳細には、まずシリカガラスルツボから透明層のみのシリカガラス片を切り出し、表面研磨して測定用サンプルとした。次に、赤外分光光度計(光透過率測定装置)を用いて、測定用サンプルの表面に赤外線を入射させ、測定用サンプルの裏面から出射した透過光を受光し、測定された赤外線の吸収スペクトルにおけるOH基に起因した赤外線吸収ピークを選択し、そのピークの波長における透過率と、赤外線吸収による影響を受けない波長における透過率とを比較することにより、透明層中のOH基濃度を算出した。
【0030】
シリコン単結晶引上げ後のシリカガラスルツボに形成された気泡の密度の測定は、CCDカメラとハロゲンランプとを用い、ルツボ内表面からの画像を撮像し、得られた画像を二値化処理することにより行った。測定視野は、500μm以上(好ましくは1.0mm×1.4mm)で、認識可能な最小気泡径は4.6μm以上とした。また、厚さ方向は、20μmピッチでCCDカメラを移動させることにより、表層から1.0mmの厚さまで測定した。
尚、この測定は、ルツボ周方向に略等間隔で4点(90°間隔)に対して行った。
【0031】
結晶化率は、用いた多結晶シリコン原料の量およびルツボ形状から算出し設定されたシリコン単結晶インゴットの長さ(直胴部、トップ部およびテール部を含む)に対する実際に引き上げられたシリコン単結晶インゴットの長さとして定義した。
【0032】
上記実施例及び比較例の結果から、酸素雰囲気中でのアーク放電による加熱溶融の際に、シリカ粉成形体の直胴部内表面に接するように水素ガスを40リットル/min以上60リットル/min以下の流量で供給することにより、透明層の気泡発生を抑制し、ルツボの変形は生じず、引上げられたシリコン単結晶インゴットの結晶化率も良好であった。
【符号の説明】
【0033】
1 シリカガラスルツボ
2 透明シリカガラス層
3 不透明シリカガラス層
10 シリカガラスルツボ製造装置
11 ルツボ成形用型
12 内側部材
13 通気部
14 保持体
15 回転軸
16 開口部
17 排気口
18 減圧機構
19 カーボン電極
20 シリカ粉成形体
21 水素ガス供給ノズル
図1
図2