(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第一の分離剤層とこれに隣接する第二の分離剤層とを有する薄層クロマトグラフィープレートを用いて、紫外線又は発色試薬に対する光学応答性を有する試料中の成分を検出する方法であって、
第一の分離剤層において、第一及び第二の分離剤層の境界に沿う方向へ試料を展開させる工程と、
少なくとも第二の分離剤層の移動相を乾燥させる工程と、
前記薄層クロマトグラフィープレートの向きを変えて第一の分離剤層におけるスポットを第二の分離剤層に展開させる工程と、
第二の分離剤層に移動したスポットを紫外線の照射又は発色試薬の発色処理によって検出する工程と、を含み、
第一の分離剤層は、前記光学応答性を有する第一の分離剤で形成され、
第二の分離剤層は、第一の分離剤とは異なる前記光学応答性を有する第二の分離剤で形成され、
前記成分の光学応答性が、第一の分離剤の光学応答性と同じであり、
前記第一の分離剤は、多糖と多糖の水酸基或いはアミノ基の一部又は全部と置き換わった芳香族エステル基、芳香族カルバモイル基、芳香族エーテル基、及びカルボニル基のいずれかとからなる多糖誘導体を含み、
前記第一の分離剤層と、第二の分離剤層は、それぞれ第一のスラリーと第二のスラリーを用いて形成されるものであり、第一のスラリーと第二のスラリーは、それぞれ石膏と有機系のバインダを含み、
第一のスラリーにおける石膏の含有量は、第一の分離剤100質量部に対して10〜20質量部であり、第一のスラリーにおける有機系のバインダの含有量は、第一の分離剤100質量部に対して1〜3質量部であり、
第二のスラリーにおける石膏の含有量は、第二の分離剤100質量部に対して2〜8質量部であり、第二のスラリーにおける有機系のバインダの含有量は、第二の分離剤100質量部に対して2〜4質量部である、
ことを特徴とする試料の検出方法。
第一の方向を展開方向とする第一の分離剤層と、第一の方向に直交する第二の方向において第一の分離剤層に隣接する第二の分離剤層とを有する薄層クロマトグラフィープレー
トにおいて、
第一の分離剤層が、紫外線又は発色試薬に対する光学応答性を有する第一の分離剤で形成され、
第二の分離剤層が、第一の分離剤とは異なる前記光学応答性を有する第二の分離剤で形成され、
第一の分離剤層で第一の方向にスポットを展開させたときに、第一の分離剤層での第一の方向におけるスポットの移動距離W1に対する、第一の分離剤層での第二の方向におけるスポットの移動距離W2の比が±0.5以下となり、
前記第一の分離剤は、多糖と多糖の水酸基或いはアミノ基の一部又は全部と置き換わった芳香族エステル基、芳香族カルバモイル基、芳香族エーテル基、及びカルボニル基のいずれかとからなる多糖誘導体を含み、
前記第一の分離剤層と、第二の分離剤層は、それぞれ第一のスラリーと第二のスラリーを用いて形成されるものであり、第一のスラリーと第二のスラリーは、それぞれ石膏と有機系のバインダを含み、
第一のスラリーにおける石膏の含有量は、第一の分離剤100質量部に対して10〜20質量部であり、第一のスラリーにおける有機系のバインダの含有量は、第一の分離剤100質量部に対して1〜3質量部であり、
第二のスラリーにおける石膏の含有量は、第二の分離剤100質量部に対して2〜8質量部であり、第二のスラリーにおける有機系のバインダの含有量は、第二の分離剤100質量部に対して2〜4質量部である、
ことを特徴とする薄層クロマトグラフィープレート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明における試料の検出方法は、第一の分離剤層とこれに隣接する第二の分離剤層とを有するTLCプレートを用いて、紫外線又は発色試薬に対する光学応答性を有する試料中の成分を検出する方法である。本発明の検出方法は、第一の分離剤層において、第一及び第二の分離剤層の境界に沿う方向へ試料を展開させる工程と、少なくとも第二の分離剤層の移動相を乾燥させる工程と、前記TLCプレートの向きを変えて第一の分離剤層におけるスポットを第二の分離剤層に展開させる工程と、第二の分離剤層に移動したスポットを紫外線の照射又は発色試薬の発色処理によって検出する工程と、を含む。
【0019】
第一の分離剤層において、第一及び第二の分離剤層の境界に沿う方向へ試料を展開させる工程(第一の工程)は、第二の分離剤層に沿って第一の分離剤層内のみで試料を展開させる以外は通常のTLCと同様に行うことができる。すなわち、前記第一の工程は、第一の分離剤層に試料を点着し、必要に応じて試料のスポットを乾燥させ、第一及び第二の分離剤層との境界に沿う方向(「第一の方向」とも言う)を縦方向とし、試料を点着した分離剤層の端部を下にして第一及び第二の分離剤層の端部を移動相に浸し、第一の分離剤層において試料を展開させることによって行うことができる。
【0020】
少なくとも第二の分離剤層の移動相を乾燥させる工程(第二の工程)は、通常のTLCにおける移動相の乾燥と同様に行うことができる。第二の工程では、第二の分離剤層を乾燥させれば、その後の第二の分離剤層へのスポットの移動を行うことが可能であるが、第二の分離剤層のみならず第一の分離剤層の移動相も乾燥させることが、第一の分離剤層におけるスポットの拡大防止や位置関係の保存の観点から好ましい。第二の工程は、移動相が可燃性の有機溶剤を含有する場合は、火災や中毒を予防する観点から、局所排気装置の近傍で風乾させることが好ましい。第二の工程は、減圧下で実施してもよい。
【0021】
前記TLCプレートの向きを変えて第一の分離剤層におけるスポットを第二の分離剤層に展開させる工程(第三の工程)は、第一の分離剤層におけるスポットを第二の分離剤層へ展開させる以外は通常のTLCと同様に行うことができる。すなわち、前記第三の工程は、第一及び第二の分離剤層の境界を横断する方向(「第二の方向」とも言う)に移動相が展開するようにTLCプレートの向きを変えて、該プレートの端部を移動相に浸し、第一の分離剤層における前記スポットが前記境界を越えて第二の分離剤層に移るように移動相を展開させることによって行うことができる。
【0022】
第二の方向は、第一の方向に対して0°より大きく90°以下までの範囲から決めることができ、第一の移動相におけるスポットの位置関係の保存の正確さの観点から、45〜90°であることが好ましく、60〜90°であることがより好ましく、90°であることがさらに好ましい。
【0023】
第一の工程における移動相と第三の工程における移動相とは同じであってもよいし異なっていてもよい。例えば第三の工程において、第一の工程の移動相よりも極性の高い移動相を用いると、第一の分離剤層から第二の分離剤層へのスポットの移動をより迅速に行うことができる。
【0024】
移動相(展開液)には、水、塩の水溶液、有機溶剤、及びこれらの混合溶剤を用いることができる。有機溶剤は一種でも二種以上でもよい。塩の水溶液としては、例えば硫酸銅水溶液及び過塩素酸塩が挙げられる。有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、アセトン、エチルメチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、スルホラン等のスルホン類、酢酸エチル等のエステル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、ペンタン、ヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等、芳香族炭化水素類、及び、塩化メチレン、クロロホルム、ブロモホルム、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等の含ハロゲン化合物類が挙げられる。また移動相には、検出しようとする成分の安定化の観点から、酸やアルカリを適量混合してもよい。酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、及びテトラフルオロ酢酸が挙げられ、アルカリとしては、例えばジエチルアミン、モノエタノールアミン、及びトリエチルアミンが挙げられる。
【0025】
第二の分離剤層に移動したスポットを紫外線の照射又は発色試薬の発色処理によって検出する工程(第四の工程)は、第二の分離剤層におけるスポットを検出対象とする以外は、TLCにおいて、紫外線の照射や発色試薬の発色処理によってスポットを検出する通常の方法と同様に行うことができる。
【0026】
第一の分離剤層は、紫外線又は発色試薬に対する光学応答性を有する第一の分離剤で形成される。ここで紫外線に対する光学応答性とは、蛍光等の紫外線による発光、又は紫外線の吸収を言う。また発色試薬に対する光学応答性とは、発色試薬による発色を言う。
【0027】
第一の分離剤層は、第一の分離剤で形成されている以外は、通常のTLCプレートの薄層と同様に形成することができる。
【0028】
第一の分離剤は、前記光学応答性を有する分離剤成分を含む。このような第一の分離剤としては、例えば、担体と、担体に担持又は結合された前記分離剤成分とからなる担持型の分離剤や、前記分離剤成分からなる粒子が挙げられる。本発明においては、第一の分離剤は、分離剤の性能及び物性からTLCによる試料の簡易な検出が一般に困難とされている光学異性体用分離剤であることが好ましい。
【0029】
前記担体は、多孔質体であることが、分離性能を高める観点から好ましい。前記担体としては、例えば架橋ポリスチレン、架橋アクリル系ポリマー、エポキシ重合物等の合成高分子、セルロースやそれを架橋によって強化した架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストラン、及び架橋マンナン架橋体等の多糖、及び、アルミナ、シリカゲル、メソポーラスシリカゲル、ゼオライト、珪藻土、溶融シリカ、粘度鉱物、ジルコニア、金属等の無機物、が挙げられる。
【0030】
第一の分離剤における前記分離剤成分には、前記光学応答性を有する低分子系の分離剤や高分子系の分離剤のいずれも用いることができる。低分子系の分離剤としては、例えば、配位子交換型の分離剤、電化移動(π−π)型の分離剤、水素結合型の分離剤、包接型の分離剤、イオン結合型の分離剤、インターカレート型の分離剤、クラウンエーテル又はその誘導体、及び、シクロデキストリン又はその誘導体、が挙げられる。高分子系の分離剤としては、例えば多糖誘導体、ポリアミド、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリルアミド、タンパク質、及び酒石酸誘導体が挙げられる。前記多糖誘導体としては、例えば光学異性体用分離剤に用いられる、多糖と多糖の水酸基或いはアミノ基の一部又は全部と置き換わった芳香族エステル基、芳香族カルバモイル基、芳香族エーテル基、及びカルボニル基のいずれかとからなる多糖誘導体が挙げられ、例えばセルロースのフェニルカルバメート誘導体、セルロースのフェニルエステル誘導体、アミロースのフェニルカルバメート誘導体、及びアミロースのフェニルエステル誘導体が挙げられる。これらの誘導体におけるフェニル基は炭素数1〜20の炭化水素、及びハロゲンからなる群から選ばれる一以上の置換基を有していてもよい。
【0031】
第二の分離剤層は、第一の分離剤とは異なる光学応答性を有する第二の分離剤で形成される。ここで異なる光学応答性とは、紫外線の照射又は発色試薬の発色処理による一方の光学的応答と他方の光学的応答とが、色や明るさによって光学的に識別できる程度に異なることを言う。第二の分離剤は、試料中の成分に対する分離能を有していてもよいし、有していなくてもよい。第一の分離剤層におけるスポットの位置関係の正確な検出の観点から、第二の分離剤は試料中の成分に対する分離性を有していないことが好ましい。このような第二の分離剤としては、前述した担体や分離剤が挙げられるが、担体であることが好ましい。
【0032】
第一及び第二の分離剤の粒径は、本発明の検出方法の目的に応じて決めることができ、例えば中圧カラムクロマトグラフィーの条件検討のためであれば、中圧クロマトグラフィーに適用可能な結果を得る観点から、10μm以上であることが好ましく、10〜100μmであることがより好ましく、20〜100μmであることがさらに好ましい。各分離剤の粒径は、同じであってもよいし異なっていてもよい。各分離剤の粒径は、通常の粒径測定装置で測定される平均粒径を採用することができるが、カタログ値であってもよい。
【0033】
前記第四の工程において、紫外線の照射による光学応答性によって前記成分を検出する場合には、第二の分離剤は、蛍光指示薬をさらに含有することが、より明確な検出の観点から好ましい。このような蛍光指示薬としては、公知の蛍光指示薬を用いることができ、例えば、タングステン酸マグネシウムや、マンガン含有ケイ酸亜鉛等が挙げられる。蛍光指示薬の含有量は、前記成分の分離が可能な範囲で決めることができ、一般には第二の分離剤100質量部に対して0.1〜5質量部である。
【0034】
また前記第四の工程において、発色試薬による光学応答性によって前記成分を検出する場合には、発色試薬及びその発色処理については公知の技術を採用することができる。このような発色試薬としては、例えば、アニスアルデヒド溶液、リンモリブデン酸溶液、ヨウ素、ニンヒドリン溶液、カメレオン溶液、DNPH溶液、塩化マンガン溶液、及びブロモクレゾールグリーン溶液が挙げられる。発色処理としては、例えば、発色試薬をTLCプレートへ塗布、散布、又は暴露によって付着させ、必要に応じてTLCプレートを加熱して発色させる処理が挙げられる。
【0035】
本発明において、前記試料中の成分の光学応答性は、第一の分離剤の光学応答性と同じである。ここで光学応答性が同じとは、一方の光学応答性と他方の光学応答性とが、色や明るさによって光学的に区別できないことを言う。このような本発明の検出方法によれば、少なくとも第一の分離剤によって分離されるが、第一の分離剤上では光学的に検出することができない試料中の成分の、TLCでの第一の分離剤による分離を簡便に検出することができる。
【0036】
本発明の検出方法におけるTLCプレートには、後述する本発明のTLCプレートを好適に用いることができる。
【0037】
本発明のTLCプレートは、平板状の支持体と、この支持体の表面に形成される第一の分離剤層及びこれに隣接する第二の分離剤層と、を有する。
【0038】
支持体には、一般にTLCプレートで用いられている平板を用いることができる。このような支持体としては、例えば、ガラス製、樹脂製、金属製、又は紙製の平板が挙げられる。支持体の形状は、特に限定されないが、第一の分離剤層での試料の展開と、その後の第一から第二の分離剤層へのスポットの展開とを好ましい向きで簡潔に行う観点から、長方形又は正方形であることが好ましい。また前記平板の大きさとしては特に限定されないが、取扱いの簡便さや展開時間、経済的な観点から1〜6,000cm
2であることが好ましく、2〜410cm
2であることがより好ましく、5〜75cm
2であることがさらに好ましい。前記平板の厚さとしては、本発明の検出方法に適用できる範囲において特に限定はない。
【0039】
前記第一及び第二の分離剤には、前述したように、粒径が10μm以上の粒子状の分離剤の中から、光学応答性の異なる二種以上の分離剤を用いることができる。第一の分離剤層は、第一の分離剤と塗布用溶剤とを含有する第一のスラリーを支持体に塗布することによって形成し、必要に応じて形成された層をさらに乾燥させることによって形成することができる。また第二の分離剤層は、第二の分離剤と塗布用溶剤とを含有する第二のスラリーを支持体に塗布することによって形成し、必要に応じて形成された層をさらに乾燥させることによって形成することができる。
【0040】
前記第一及び第二の分離剤層は、TLCプレートを作製する公知の方法を用いて形成することができる。すなわち、前記第一及び第二の分離剤層は、スプレッダを用いて、前記第一及び第二のスラリーを支持体の表面に塗布することによって、又は前記第一及び第二のスラリーを支持体の表面に噴霧することによって、形成することができる。第一及び第二の分離剤層を形成する順序は特に限定されず、一方の層を形成した後に他方の層を形成してもよいし、両方の層を同時に形成してもよい。
【0041】
前記塗布用溶剤には、水、有機溶剤、及びこれらの混合溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、アセトン、エチルメチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、スルホラン等のスルホン類、酢酸エチル等のエステル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、ペンタン、ヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等、芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、ブロモホルム、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等の含ハロゲン化合物類が挙げられる。
【0042】
塗布用溶剤としては、好ましくは水溶性の有機溶剤と水との混合溶剤であり、より好ましくはアルコールと水の混合溶剤、さらに好ましくはエタノールと水との混合溶剤である。前記混合溶剤におけるアルコールの含有量は、0.1〜50質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることがより好ましく、20〜30質量%であることがさらに好ましい。第一及び第二のスラリーにおいて、第一及び第二の分離剤層の境界の乱れを防止し、第一の分離剤層から第二の分離剤層へのスポットの良好な移動を実現する観点から、塗布用溶剤の種類が同じであることが好ましく、塗布用溶剤の組成が同じであることがより好ましい。
【0043】
第一及び第二のスラリーにおける塗布用溶剤の含有量は、形成される分離剤層の均一性、層の厚さ、及び、経済的な観点、から決定することができ、第一及び第二のスラリーのいずれも、第一又は第二の分離剤100質量部に対して10〜5,000質量部であることが好ましく、50〜1,000質量部であることがより好ましく、100〜300質量部であることがさらに好ましい。
【0044】
第一及び第二のスラリーは、形成される分離剤層の強度の向上の観点から、バインダをさらに含有することが好ましい。前記バインダには、支持体の表面において分離剤の層を形成する結着性をもたらす成分を用いることができる。このようなバインダとしては、石膏やコロイダルシリカ等の無機系バインダ、ミクロフィブリル化セルロース等の有機繊維、及び、アルカリ水溶性共重合体、ヒドロキシエチルセルロースやカルボキシメチルセルロース等の増粘剤、ポリビニルアルコール、アクリル酸等の有機系バインダが挙げられる。バインダは一種でも二種以上でもよい。
【0045】
第一及び第二のスラリーにおけるバインダの含有量は、形成される分離剤層の強度の他、第一又は第二の分離剤層における移動相の上昇速度の観点から決定することができる。形成される分離剤層の強度の向上の観点からは、バインダの量としては多いことが好ましいが、バインダの添加量の増加に比例して、一般に、分離剤層における移動相の上昇速度は遅くなる。前記第一の工程において、第一の分離剤層での移動相の上昇速度に対して第二の分離剤層での移動相の上昇速度が著しく小さい場合、試料のスポットが、第一の方向に対して第二の分離剤層に近づきながら上昇する現象が発生し、第一の分離剤層による試料の分離を正しく分析できないことがある。反対に、第一の分離剤層での移動相の上昇速度に対して第二の分離剤層での移動相の上昇速度が著しく大きい場合、試料のスポットが、第一の方向に対して第二の分離剤層から遠ざかりながら上昇する現象が発生し、やはり第一の分離剤層による試料の分離を正しく分析できないことがある。第一の分離剤層での分離状態を正しく把握する観点からは、第一の分離剤層で試料を展開させた時に、試料のスポットは、可能な限り第一の方向(例えば垂直)へ上昇することが好ましい。
【0046】
一方、前記第三の工程において、スポットが第一及び第二の分離剤層の境界を横断する時に、第一の分離剤層での移動相の上昇速度よりも第二の分離剤層での移動相の上昇速度が著しく大きい場合、スポットのテーリングが発生し、第二の分離剤層での成分の検出が困難になることがある。このような現象を抑制し、第一の分離剤層での展開方向におけるスポットの位置関係、形状を第二の分離剤層においても保存する観点から、第一の分離剤層での移動相の上昇速度は、第二の分離剤層での移動相の上昇速度と等しくするか、又は第一の分離剤層での移動相の上昇速度に対して第二の分離剤層での移動相の上昇速度をやや小さくすることが好ましい。
【0047】
前記の観点から、本発明におけるTLCプレートは、第一の分離剤層で第一の方向にスポットを展開させたときに、第一の分離剤層での第一の方向におけるスポットの移動距離W1に対する、第一の分離剤層での第二の方向におけるスポットの移動距離W2の比(W2/W1)が±0.5以下となる。W1は、第一の分離剤層における試料の点着位置からスポットの先端までの距離で表される。W2は、第二の方向における、前記点着位置から前記スポットの先端までの距離で表される。W2/W1は、第一の分離剤層での分離状態を正しく把握する観点から±0.3以下であることが好ましく、さらにテーリングを抑制する観点から正の値であることがより好ましく、0.1以下であることがさらに好ましい。なお、W2は試料の点着位置を0とし、点着位置よりも第二の分離剤層側を正とし、点着位置よりも第二の分離剤層とは反対側を負として表される。
【0048】
前記バインダには、層の強度向上と、移動相の上昇速度の制御との観点から、第一及び第二のスラリーの両方において、無機系バインダと有機系バインダとを併用することが好ましい。無機系バインダとしては石膏を用いることが好ましく、有機系バインダとしてカルボキシメチルセルロースを用いることが好ましい。
【0049】
第一及び第二のスラリーにおける前記バインダの含有量は、形成される層の強さと前述のW2/W1の適切な範囲を得る観点から決めることができる。例えば、第一のスラリーにおける石膏の含有量は、第一の分離剤100質量部に対して0.1〜50質量部であることが好ましく、5〜30質量部であることがより好ましく、10〜20質量部であることがさらに好ましい。また、第一のスラリーにおける有機系のバインダの含有量は、第一の分離剤100質量部に対して0.1〜50質量部であることが好ましく、0.5〜10質量部であることがより好ましく、1〜3質量部であることがさらに好ましい。
【0050】
また例えば、第二のスラリーにおける石膏の含有量は、第二の分離剤100質量部に対して0.1〜50質量部であることが好ましく、1〜30質量部であることが好ましく、2〜8質量部であることがさらに好ましい。また、第二のスラリーにおける有機系のバインダの含有量は、第二の分離剤100質量部に対して0.1〜50質量部であることが好ましく、0.5〜10質量部であることがより好ましく、2〜4質量部であることがさらに好ましい。
【0051】
なお、第一及び第二の分離剤層の強度は、TLCの保存や使用に耐え得る程度、例えば保存時や使用時において分離剤層の剥離や崩壊が生じない程度、の強度であればよい。W2/W1は、第一の分離剤層において、例えば有色の試料を点着し展開させることによって確認することができる。さらに、分離剤層が厚いと移動相の上昇速度は遅くなり、分離剤層が薄いと移動相の上昇速度が速くなることから、W2/W1は、バインダの種類や配合量の他に、第一及び第二の分離剤層の厚さによって調整することも可能である。
【0052】
また、第一及び第二のスラリーは、バインダを分散剤の表面に均一に分散させる観点から、分散剤をさらに含有していてもよい。このような分散剤としては、例えばスチレン・無水マレイン酸ポリマーが挙げられる。
【0053】
第一及び第二の分離剤層の厚さは、TLCプレートの使用目的に応じて適宜に決めることができる。例えば、分離剤層の厚さは、得られた結果を中圧カラムクロマトグラフィーに適用したり、得られた結果を不斉合成反応の反応モニターや化合物の分取に用いる観点であれば、0.01〜100mmであることが好ましく、0.03〜10mmであることがより好ましく、0.05〜2mmであることがさらに好ましい。
【0054】
前記TLCプレートの大きさは、特に限定されないが、分離剤、試料、及び移動相に応じて適宜に決めることができ、成分の分離の観点によれば大きいことが望ましく、取り扱いの容易さや検出の簡便さの観点によれば大きすぎないことが望ましい。このような観点から、第一及び第二の分離剤層の大きさを適宜に決めることができる。
【0055】
例えば、第一の方向における第一の分離剤層の長さ(B)は、第一の方向に試料を展開させるのに十分な長さであればよく、第一の分離剤、試料、及び移動相に応じて適宜に決めることができる。第一の方向における第一の分離剤層の長さBは、操作性や検出の確実さの観点から1〜30cmであることが好ましく、3〜20cmであることがより好ましく、5〜12cmであることがさらに好ましい。
【0056】
また、第一の分離剤層における第二の方向における長さ(A1)は、操作性や検出の確実さの観点から0.01〜200cmであることが好ましく、0.01〜20cmであることがより好ましく、0.02〜5cmであることがさらに好ましい。
【0057】
また、第二の方向における第二の分離剤層の長さ(A2)は、操作性や検出の確実さの観点から、0.1〜30cmであることが好ましく、0.5〜20cmであることがより好ましく、1〜5cmであることがさらに好ましい。
【0058】
また、A1に対するA2の比(A2/A1)は、第一の分離剤層から第二の分離剤層へスポットを移動相の展開によって移動させる観点からは大きいことが望ましいが、取り扱いの容易さや検出の簡便さの観点によれば小さいことが望ましく、これらの観点から、0.1〜20であることが好ましく、0.1〜10であることがより好ましく、0.1〜5であることがさらに好ましい。
【0059】
また、A1に対するBの比(B/A1)は、第一の分離剤層おける試料中の成分の分離の観点からは大きいことが望ましく、操作性の観点からはある程度小さいことが望ましい。これらの観点から、B/A1は、0.01〜9,000であることが好ましく、0.2〜4,000であることがより好ましく、1〜600であることがさらに好ましい。
【0060】
またA1とA2の和に対するBの比(B/(A1+A2))は、第一の分離剤層における試料中の成分の分離の観点からは大きいことが望ましく、第一の分離剤層から第二の分離剤層へのスポットの移動、特にエクストラクト成分の移動の観点及び操作性の観点からは小さいことが望ましい。これらの観点から、B/(A1+A2)は、0.01〜30であることが好ましく、0.1〜30であることがより好ましく、0.8〜12であることがさらに好ましい。
【0061】
第一及び第二の分離剤層のそれぞれの形状は、互いに隣接しており、前述した長さの条件を満たしていれば特に限定されない。第一及び第二の分離剤層の形状は、操作性、第一の分離剤層におけるスポットの位置関係の表示の明確化、及び各層の形成の容易性の観点から、それぞれ矩形であることが好ましく、第一の分離剤層の形状は第一の方向を長手方向とする矩形であり、第二の分離剤層は第一の方向において第一の分離剤層の長さと同じ長さを有し、かつ前記のA2/A1の比を満たす大きさの矩形であることがより好ましい。
【0062】
本発明を、図を示しながらさらに説明する。以下では光学異性体の分離、検出用の形態等を例に本発明を説明する。
【0063】
本発明のTLCプレートは、
図1に示すように、四角形の不図示の支持体の表面に隣接して併設された第一の分離剤層1と第二の分離剤層2とを有する。支持体には例えばガラス板が用いられ、第一の分離剤層1を構成する第一の分離剤には、試料中の成分の分離能を有する分離剤、例えばアミロースの3,5−ジメチルフェニルカルバメート誘導体をシリカゲルに担持或いは化学結合させてなる光学異性体用分離剤、が用いられ、第二の分離剤層2を構成する第二の分離剤には、第一の分離剤とは異なる光学応答性を有する分離剤、例えばシリカゲル、セルロース、或いはシリカゲルの表面をオクタデシル基で修飾したオクタデシルシリル化シリカゲル、が用いられる。
【0064】
第一の分離剤層1は、第一の分離剤と、エタノール水溶液と、石膏及びカルボキシメチルセルロースとからなる第一のスラリーを支持体の表面に塗布することによって形成される。また第二の分離剤層2は、第二の分離剤と、エタノール水溶液と、石膏及びカルボキシメチルセルロースと、蛍光指示薬とからなる第二のスラリーを、支持体の表面における第一の分離剤層1に隣接する位置に塗布することによって形成される。第一及び第二のスラリーにおけるバインダの配合比(石膏及びカルボキシメチルセルロースのそれぞれの配合量)は、第一の分離剤層1において、スダンや1,4−アミノアゾベンゼンを標準試料として展開させたときの、第一の方向における点着位置からラフィネート成分のスポットの先端までの距離W1に対する、第二の方向における点着位置からラフィネート成分のスポットの先端までの距離W2の比(W2/W1)が±0.5以下となるように調整されている。標準試料は、スダンや1,4−アミノアゾベンゼン以外にも、公知物質の中から、TLCプレートによる分析対象となる試料に類似又は特徴的な構造(例えば同じ又は類似の骨格の構造等)を有する有色の化合物を適宜に選ぶことができる。
【0065】
第一及び第二の分離剤の粒径はそれぞれ20μmであり、第一及び第二のー分離剤層の厚さはそれぞれ150μmである。このTLCプレートにおける第一の方向は、第一及び第二の分離剤層1、2の境界に沿う方向(
図1中の矢印Xで示す方向)であり、第二の方向は、X方向に直交する方向(
図1中の矢印Yで示す方向)である。
【0066】
第一の分離剤層1は、X方向を長手方向とする矩形に形成されている。第二の分離剤層2は、第一の分離剤層1の一長辺を共有する矩形に形成されている。X方向における第一及び第二の分離剤層1、2の長さBは10cmであり、Y方向における第一の分離剤層1の長さA1は2cmであり、同方向における第二の分離剤層2の長さA2は2.5cmである。
【0067】
まず、X方向を前記TLCプレートの縦方向とし、第一の分離剤層1の下部に試料溶液を点着する。試料溶液は例えば紫外線吸収性を有する光学異性体のラセミ体の揮発性溶剤の溶液である。試料溶液の点着は、例えばTLCプレートの下側縁及びTLCプレートにおける第二の分離剤層2とは隣接していない第一の分離剤層1の側縁からそれぞれ1.5cmの位置に、スポットの直径が2mm以下となるように、キャピラリーやマイクロピペットを用いて行われる。点着後、試料溶液のスポット3を乾燥させる。
【0068】
試料溶液を点着したTLCプレートは、TLCプレートを収容することができ、1cm未満の深さで移動相(展開液)を収容可能な容器(展開槽)に収容される。移動相には例えばn−ヘキサンとエタノールの混合溶剤、或いはn−ヘキサンと酢酸エチルの混合溶剤等が用いられる。移動相は、X方向へ、第一及び第二の分離剤層1、2に吸い上げられ、移動相の吸い上げに伴って、試料溶液中のラフィネート成分とエクストラクト成分とが第一の分離剤層1において展開し、
図2に示すように、目視では確認できないものの、ラフィネート成分のスポットRとエクストラクト成分のスポットEとが形成される。
【0069】
図2に示すように、移動相がX方向におけるTLCプレートの上端部まで達したときにTLCプレートを前記密閉容器から取り出し、冷風によって、第一及び第二の分離剤層1、2の移動相を乾燥させる。
図2に示すように、W1は、第一の分離剤層1での第一の方向Xにおけるスポットの移動距離であり、第一の方向におけるスポットの先端と試料溶液の点着位置との距離で表される。また、W2は、
図2に示すように、第一の分離剤層1での第二の方向Yにおけるスポットの移動距離であり、前記のスポットの先端と点着位置との第二の方向における距離で表される。
【0070】
次いで
図3に示すように、第一の分離剤層1を下とし、Y方向をTLCプレートの縦方向として、TLCプレートを前記密閉容器に収容する。この時の移動相は、先の試料の展開に用いた移動相と同じであってもよいし、異なっていてもよい。移動相は、Y方向へ、第一の分離剤層1から第二の分離剤層2へ吸い上げられ、この移動相の吸い上げに伴って、
図4に示すように、第一の分離剤層1のラフィネート成分とエクストラクト成分が第二の分離剤層2に移動し、目視では確認できないものの、第二の分離剤層2にラフィネート成分のスポットRとエクストラクト成分のスポットEとが形成される。
【0071】
図4に示すように、移動相がY方向におけるTLCプレートの上端部まで達したときにTLCプレートを前記密閉容器から取り出し、冷風によって、第一及び第二の分離剤層1、2の移動相を乾燥させ、第二の分離剤層2における各スポットR及びEを固定する。このTLCプレートに紫外線を照射、或いは発色試薬を付着、場合により加熱することによって、
図5に示すように、スポットR、E、及び第一の分離剤層1が同様の光学的応答によって(例えば紫外線の吸収による暗い領域や、発色試薬の発色による有色領域として)観測される。
【0072】
なお、第一の分離剤層における試料中の成分の分離状態が第二の分離剤層に維持又は反映される場合には、前記第三の工程においてTLCプレートの向きを変えずに第一の分離剤層のスポットを第二の分離剤層に展開させる(すなわち第三の工程において、前記第二の方向を前記第一の方向に対して0°以上90°以下までの範囲から決めて第一の分離剤層のスポットを第二の分離剤層に展開させる)ことによっても、光学的な応答では試料中の成分の分離を検出することができない第一の分離剤層による試料中の成分の分離を検出することが可能である。このような場合では前記第二の工程を省略することができ、本発明はこのような場合も含む。
【実施例】
【0073】
実施例1:TLCプレートの作製
(第一分離剤層の調整)
ダイセル化学工業株式会社製CHIRALPAK IA(同社の登録商標)の充填剤(「IA充填剤」とも言う)6gと、石膏0.89gと、2%CMC(カルボキシメチルセルロース)1110(ダイセル化学工業株式会社製)水溶液6gとを、水3.03g、エタノール3.01gの混合溶液に添加し、超音波を照射しながら十分に攪拌してスラリーを得た。
【0074】
(第二分離剤層の調整)
シリカゲル10.01g(ダイソー株式会社製液体クロマトグラフィー用、IR−60−5/20−U)、石膏0.50g、2%CMC(カルボキシメチルセルロース)1110(ダイセル化学工業株式会社製)水溶液14.99g、マンガン含有ケイ酸亜鉛0.1gとを、水4.79g、エタノール6.51gの混合溶液に添加し、超音波を照射しながら十分に攪拌してスラリーを得た。
【0075】
(塗布)
これらのスラリーを、仕切り板を装着したTLCプレート作製用スプレッダを用いてガラス板の表面に均一に塗布し、
図1におけるA1が2cm、A2が2.5cm、Bが10cm、厚さがそれぞれ150μmの分離剤層を形成した。なお、IA充填剤の平均粒径は20μmである。また、シリカゲルの平均粒径は14.4μmである。
【0076】
(乾燥)
スラリーを塗布したTLCプレートを風乾し、真空ポンプで引きながら60℃で3時間真空乾燥し、IA充填剤の層を第一の分離剤層とし、前記シリカゲルの層を第二の分離剤層とするTLCプレートを得た。
【0077】
実施例2:トランス−スチルベンゼンオキシドの光学分割例
トランス−スチルベンゼンオキシド(t−SO)の1%の酢酸エチル溶液の約1μLを、実施例1で作製したTLCプレートの長手方向を縦とした時の下から約1.5cmの位置に点着した。n−ヘキサンとエタノールを体積比で9:1で含有する混合溶剤を収容した展開槽内に、試料のスポットを下にしてTLCプレートを収容し、IA分離剤層の長手方向に試料を展開させた。
【0078】
この第一の展開後、一旦冷風でTLCプレートを乾燥し、IA分離剤層が下になるように90℃回転させてTLCプレートを前記展開層内に収容し、エタノールを用いてIA分離剤層からシリカゲル層へサンプルをさらに展開させた。
【0079】
この第二の展開後、TLCプレートを冷風で乾燥し、紫外線を照射してシリカゲル層において、ラフィネート成分及びエクストラクト成分のスポットの位置をそれぞれ確認した。第一の分離剤層における、点着位置から展開液の到達位置までの距離と、第二の分離剤層における、第一の展開方向における試料の点着位置から各スポットの中心までの距離とから、各スポットのRf値を求めたところ、t−SOのラフィネート成分のRf値は0.67であり、エクストラクト成分のRf値は0.58であった。
【0080】
実施例3:フラバノンの光学分割例
フラバノン(FLV)の1%の酢酸エチル溶液の約1μLを実施例1で作製したTLCプレートに点着し、実施例2の方法と同じ方法で展開した。
【0081】
第二の展開後、TLCプレートを冷風で乾燥し、紫外線を照射してシリカゲル層において、ラフィネート成分及びエクストラクト成分のスポットの位置をそれぞれ確認した。実施例2と同様にRf値を求めたところ、FLVのラフィネート成分のRf値は0.40であり、エクストラクト成分のRf値は0.29であった。
【0082】
実施例4:ベンゾインエチルエーテルの光学分割例
ベンゾインエチルエーテルの1%の酢酸エチル溶液の約1μLを実施例1で作製したTLCプレートに点着し、n−ヘキサンと酢酸エチルを体積比で9:1で含有する混合溶剤を第一の展開における展開液に用い、酢酸エチルを第二の展開における展開液に用いた以外は、実施例2の方法と同じ方法で展開した。
【0083】
第二の展開後、TLCプレートを冷風で乾燥し、紫外線を照射してシリカゲル層において、ラフィネート成分及びエクストラクト成分のスポットの位置をそれぞれ確認した。実施例2と同様にRf値を求めたところ、ベンゾインエチルエーテルのラフィネート成分のRf値は0.57であり、エクストラクト成分のRf値は0.30であった。
【0084】
実施例5:Hexobarbitalの光学分割例
Hexobarbitalの1%の酢酸エチル溶液の約1μLを実施例1で作製したTLCプレートに点着し、n−ヘキサンとイソプロパノールを体積比で9:1で含有する混合溶剤を第一の展開における展開液に用い、イソプロパノールを第二の展開における展開液に用いた以外は、実施例2の方法と同じ方法で展開した。
【0085】
第二の展開後、TLCプレートを冷風で乾燥し、紫外線を照射してシリカゲル層において、ラフィネート成分及びエクストラクト成分のスポットの位置をそれぞれ確認した。実施例2と同様にRf値を求めたところ、Hexobarbitalのラフィネート成分のRf値は0.33であり、エクストラクト成分のRf値は0.21であった。
【0086】
実施例6:トレガーベースの光学分割例
トレガーベース(TB)の1%の酢酸エチル溶液の約1μLを実施例1で作製したTLCプレートに点着し、実施例2の方法と同じ方法で展開した。
【0087】
第二の展開後、TLCプレートを冷風で乾燥し、紫外線を照射してシリカゲル層において、ラフィネート成分及びエクストラクト成分のスポットの位置をそれぞれ確認した。実施例2と同様にRf値を求めたところ、TBのラフィネート成分のRf値は0.56であり、エクストラクト成分のRf値は0.41であった。
【0088】
実験例:バインダ添加量の検討
ダイセル化学工業株式会社製CHIRALPAK AD(同社の登録商標)の充填剤(「AD充填剤」とも言う)及び前記シリカゲル100質量部に対して下記表1に記載の質量部数で石膏及びCMC1110を用いて、バインダの添加量を変えたTLCプレート1〜6を作製し、作製したTLCプレート1〜6を用い、スダンI及びp−アミノアゾベンゼンの各試料の1%の酢酸エチル溶液の約1μLを、TLCプレートの長手方向を縦とした時の下から約1.5cmの位置に点着し、アセトニトリルを収容した展開槽内に、試料のスポットを下にしてTLCプレートを収容し、TLCプレートの長手方向に試料を展開させ、TLCプレートの長手方向における点着位置からスポットの先端までの距離W1、及び、前記長手方向に直交する方向における点着位置から前記スポット先端までの距離W2を測定し、W1に対するW2の比(W2/W1)を求めた。W2は、点着位置をゼロとし、第二の分離剤層側を正、その反対の、第一の分離剤層におけるTLCプレートの端縁側を負とした。スダン及びp−アミノアゾベンゼンのスポットは元来固有の色を有することから、第一の分離剤層におけるスポットの検出は、肉眼での観察によって行った。結果を表1に示す。表1から、石膏及びCMC1110の添加量を変えることで、W2/W1がコントロールできるが明らかとなった。
【0089】
【表1】