【文献】
Journal of the American Chemical Society,1950年,72,p.1522-1526
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
塩基として、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムのうちいずれか一種類以上を用いることを特徴とする請求項13または14に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本願発明について詳述する。
本願発明は、ハロゲン化インデノン類及びそれを用いたエナンチオ選択的還元反応に関する。この還元反応では、インデン又はインダン骨格が維持された光学活性化合物(光学活性インダノン類、光学活性インデノール類、光学活性インダノール類など)が製造される。
以下、この方法に含まれる例を、順に説明する。
【0030】
1)第1の例
まず第1の例では、下記式(1):
【0032】
で表されるエノン化合物(以下、エノン化合物(1)とする。上記ハロゲン化インデノン類に相当する)を立体選択的に還元することにより下記式(2):
【0034】
で表される光学活性ケトン(以下、光学活性ケトン(2)とする。上記光学活性インダノン類に相当する)を製造する方法が挙げられる。
【0035】
前記式(1)において、Ar
1は、芳香族環を示し、例えば、フリル基、チエニル基などのヘテロ芳香族環残基、または炭素数6〜20のアリール基(フェニル基、ナフチル基など)を表す。これらは1または2以上の置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基(特にメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基など)、炭素数6〜10の芳香族環(フェニル基など)、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、アミノ基、ヒドロキシアミノ基、炭素数1〜20のアルキルアミノ基、炭素数1〜20のジアルキルアミノ基、炭素数7〜20のアラルキルアミノ基、炭素数7〜20のジアラルキルアミノ基、炭素数1〜20のアルキルスルホニルアミノ基、スルホン酸基、スルホンアミド基、アジド基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、炭素数1〜20のアシル基、炭素数7〜20のアロイル基、ヒドロキシル基、炭素数1〜20のアルキルオキシ基(特にメトキシ基など)、炭素数7〜20のアラルキルオキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数1〜20のアシルオキシ基、炭素数7〜20のアロイルオキシ基、炭素数3〜20のシリルオキシ基、炭素数1〜20のアルキルスルホニルオキシ基、又は炭素数1〜20のアルキルチオ基等が挙げられる。
【0036】
Ar
1としては、具体的には、フェニル基、4−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、2−クロロフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、3−ヒドロキシフェニル基、2−ヒドロキシフェニル基、4−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、2−フルオロフェニル基、4−ブロモフェニル基、3−ブロモフェニル基、2−ブロモフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、3−トリフルオロメチルフェニル基、2−トリフルオロメチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、4−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、2−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、3−エチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−ニトロフェニル基、4−フェニルフェニル基、2、4、6−トリメチルフェニル基、2、4、6−トリイソプロピルフェニル、チエニル基、2−フルオロチエニル基、2−クロロチエニル基、2−ブロモチエニル基、2−ヨードチエニル基、3−フルオロチエニル基、3−クロロチエニル基、3−ブロモチエニル基、3−ヨードチエニル基、フリル基、2−フルオロフリル基、2―クロロフリル基、2−ブロモフリル基、2−ヨードフリル基、3−フルオロフリル基、3―クロロフリル基、3−ブロモフリル基、3−ヨードフリル基、2−メチルチエニル基、2−エチルチエニル基、2−プロピルエニル基、2−ブチルチエニル基、3−メチルチエニル基、3−エチルチエニル基、3−プロピルチエニル基、3−ブチルチエニル基、2−メチルフリル基、2―エチルフリル基、2−プロピルフリル基、2−ブチルフリル基、3−メチルフリル基、3―エチルフリル基、3−プロピルフリル基、3−ブチルフリル基が挙げられる。Ar
1として好ましくはフェニル基、フリル基、チエニル基であり、さらに好ましくはフェニル基である。
【0037】
X
1はハロゲン原子を表し、ベンゼン環のいずれに位置していても良い。X
1としては、具体的には、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。好ましくは塩素である。さらに好ましくは、インダン−1−オン(indan-1-one)骨格(後述する化合物(5)の場合はインダン−1−オール(indan-1-ol)骨格)の6位にX
1が結合しており、このX
1が塩素である。
【0038】
前記式(2)において、Ar
1、X
1は前記に同じである。*は不斉炭素(不斉点、キラルセンター)を表す。
【0039】
本第1の例では、エノン化合物(1)に
a)エノン部位の炭素−炭素間二重結合を立体選択的に還元する能力を有する酵素源、または
b)エノン部位の炭素−炭素間二重結合を立体選択的に還元する能力を有する不斉金属触媒
を作用させることで、光学活性ケトン(2)を製造する。
【0040】
まず、a)の酵素源を用いた還元について説明する。なお、後述する、エノン化合物(1)のカルボニル基を立体選択的に還元する反応及び光学活性ケトン(2)のカルボニル基を立体選択的に還元する反応についても、酵素源の由来となる微生物及び使用する基質を適宜変更することにより、同様に実施可能である。
【0041】
使用する酵素源としては、エノン化合物(1)のエノン部位の炭素−炭素間二重結合を立体選択的に還元して、光学活性ケトン(2)を生成する能力を有するものであればいずれを用いても良い。
【0042】
「酵素源」としては、目的とする還元活性を有する限りにおいては、酵素そのものだけでなく、当該酵素を生成する微生物の菌体そのもの、微生物の培養液、または菌体処理物であってもよい。また、当該微生物由来の還元活性を有する酵素をコードするDNAが導入された形質転換体も含むものとする。
【0043】
上記微生物の菌体処理物としては特に限定されず、例えば、アセトンや五酸化二リンによる脱水処理またはデシケーターや扇風機を利用した乾燥によって得られる乾燥菌体、界面活性剤処理物、溶菌酵素処理物、固定化菌体または菌体を破砕した無細胞抽出液などをあげることができる。更には、培養物より不斉還元反応を触媒する酵素を精製し、これを使用してもよい。
【0044】
これらは、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いても良い。また、これら微生物は周知の方法で固定化して用いてもよい。
【0045】
エノン化合物(1)のエノン部位の炭素−炭素間二重結合を立体選択的に還元する能力を有する微生物は、例えば、以下に記載の方法によって見出すことができる。
【0046】
グルコース40g、酵母エキス3g、リン酸水素二アンモニウム6.5g、リン酸二水素カリウム1g、硫酸マグネシウム七水和物0.8g、硫酸亜鉛七水和物60mg、硫酸鉄七水和物90mg、硫酸銅五水和物5mg、硫酸マンガン四水和物10mg、塩化ナトリウム100mg(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH7)5mlを試験管に入れて殺菌後、無菌的に微生物を接種し、30℃で2〜3日間振とう培養する。
【0047】
その後、菌体を遠心分離により集め、グルコース2〜10%を含んだリン酸緩衝液1〜5mlに懸濁し、あらかじめエノン化合物(1)を2.5〜25mgいれた試験管に加えて、2〜3日間30℃で振とうする。この際、遠心分離により得た菌体をデシケーター中またはアセトンにより乾燥したものを用いることもできる。更に、これら微生物もしくはその処理物とエノン化合物(1)を反応させる際に、酸化型ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド(以降、NAD
+とする)及び/または酸化型ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチドリン酸(以降、NADP
+とする)を加え、さらにグルコース脱水素酵素をグルコースと共に、またはギ酸脱水素酵素をギ酸と共に添加してもよい。また、反応系に有機溶媒を共存させてもかまわない。変換反応の後、適当な有機溶媒で抽出を行い、光学活性ケトン(2)が生成しているかどうかを高速液体クロマトグラフィーなどにより確認すればよい。
【0048】
エノン化合物(1)のエノン部位の炭素−炭素間二重結合を立体選択的に還元して光学活性ケトン(2)を生成する能力を有する酵素源としては、例えば、旧黄色酵素(Old Yellow Enzyme)やエノン還元酵素が挙げられ、そのようなものとして、国際生化学・分子生物学連合の酵素分類法によりEC 1.6.99に分類される酸化還元酵素がある。EC1.6.99に分類される酸化還元酵素としては、EC1.6.99.1:NADPHデヒドロゲナーゼ、EC 1.6.99.2:NAD(P)Hデヒドロゲナーゼ(キノン)、EC1.6.99.3:NADHデヒドロゲナーゼ、EC1.6.99.5:NADHデヒドロゲナーゼ(キノン)、またはEC1.6.99.6:NADPHデヒドロゲナーゼ(キノン)に分類される酸化還元酵素が挙げられる。
【0049】
上記EC 1.6.99NADPHデヒドロゲナーゼとしては、具体的には、キャンディダ(
Candida)属、クルイベロマイセス(
Kluyveromyces)属、サッカロマイセス(
Saccharomyces)属、又はシゾサッカロマイセス(
Schizosaccharomyces)属等の酵母由来のもの、バシラス(
Bacillus)属、エシェリヒア(
Escherichia)属、シュードモナス(
Pseudomonas)属、エルシニア(
Yersinia)属、ザイモモナス(
Zymomonas)属等の細菌由来のものが挙げられ、好ましくはサッカロマイセス(
Saccharomyces)属、クルイベロマイセス(
Kluyveromyces)属、バシラス(
Bacillus)属、エシェリヒア(
Escherichia)属、シュードモナス(
Pseudomonas)属、エルシニア(
Yersinia)属、ザイモモナス(
Zymomonas)属等の微生物に由来するものが挙げられ、最も好ましい例にはサッカロマイセス・セレビシエ(
Saccharomyces cerevislae)、クルイベロマイセス・ラクティス(
Kluyveromyces lactis)、バシラス・サブティリス(
Bacillus subtilis)、エシェリヒア・コリ(
Escherichia coli)、シュードモナス・プチダ、エルシニア・ベルコビエリ(
Yersinia bercovieri)、ザイモモナス・モビリス(
Zymomonas mobilis)が含まれる。
前記最も好ましい微生物が産生する酵素には、例えば、OYE2、OYE3(サッカロマイセス・セレビシエ(
Saccharomyces cerevislae)由来。国際特許公報WO2006/129628に記載)、KYE(クルイベロマイセス・ラクティス(
Kluyveromyces lactis)由来。Adv.Synth.Catal.,349,1521(2007)に記載)、YqjM(バシラス・サブティリス(
Bacillus subtilis)由来。J.Biol.Chem.,278,19891(2003)に記載)、NemA(エシェリヒア・コリ(
Escherichia coli)由来。Biol.Pharm.Bull.20,110(1997)に記載)、XeaA、XenEなど(シュードモナス・プチダ(
Pseudomonas putida)由来。Appl.Environ.Microbiol.,74,6703(2008)に記載)、YersER(エルシニア・ベルコビエリ(
Yersinia bercovieri)由来。Adv.Synth.Catal.,349,1521(2007)に記載)、NCR−R(ザイモモナス・モビリス(
Zymomonas mobilis)由来。Biotechnol.Bioeng.,98,22(2007)に記載)などが含まれる。
【0050】
これら微生物は、通常、入手または購入が容易な保存株から得ることができる。例えば、以下のカルチャーコレクションより入手可能である。
・独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門(NBRC)(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)
・独立行政法人理化学研究所 バイオリソースセンター 微生物材料開発室(JCM)(〒351-0198 埼玉県和光市広沢2-1)
・German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(DSMZ)(Marschroder Weg 1b, D-38124 Brunswick, Germany)
【0051】
また、本発明に利用する還元酵素(例えば、OYE2)は、目的の還元酵素活性を有している限りにおいては、そのアミノ酸配列(例えば、J.Biol.Chem.268,6097−6106(1993)に記載のOYE2のアミノ酸配列)において1若しくは複数個(例えば、40個、好ましくは20個、より好ましくは15個、さらに好ましくは10個、さらに好ましくは5個、4個、3個、または2個以下)のアミノ酸が置換、挿入、欠失及び/または付加されたポリペプチドであってもよい。また、目的の還元酵素活性を有する限り、本発明に利用する還元酵素のアミノ酸配列に、付加的なアミノ酸配列を結合してもよい。たとえば、ヒスチジンタグやHAタグのような、タグ配列を付加することができる。あるいは、他のタンパク質との融合タンパク質とすることもできる。また、目的の還元酵素活性を有する限り、ペプチド断片であってもよい。
【0052】
本発明においては、エノン還元酵素をコードするDNAを含む形質転換体を使用すると、より効率的に光学活性ケトン(2)を製造することができる。なお、本明細書において記述されている、DNAの単離、ベクターの調製、形質転換等の遺伝子操作は、特に明記しない限り、Molecular Cloning 2nd Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)、Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley−Interscience)等の成書に記載されている方法により実施できる。
【0053】
上記の形質転換体に用いるベクターとしては、適当な宿主生物内で本発明に利用する還元酵素をコードする遺伝子を発現できるものであれば、特に限定されない。このようなベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、コスミドベクターなどが挙げられ、さらに、他の宿主株との間での遺伝子交換が可能なシャトルベクターも使用できる。
【0054】
このようなベクターは、例えば大腸菌の場合では、通常、lacUV5プロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、lppプロモーター、tufBプロモーター、recAプロモーター、pLプロモーター等の制御因子を含み、本発明のDNAと作動可能に連結された発現単位を含む発現ベクターとして好適に使用できる。例えば、pSTV28(タカラバイオ社製)、pUCNT(国際特許公報WO94/03613)などが挙げられる。
【0055】
なお、「制御因子」とは、機能的プロモーター、及び、任意の関連する転写要素(例えばエンハンサー、CCAATボックス、TATAボックス、SPI部位など)を有する塩基配列をいう。
【0056】
また、「作動可能に連結」とは、遺伝子の発現を調節するプロモーター、エンハンサー等の種々の調節エレメントと遺伝子が、宿主細胞中で作動し得る状態で連結されることをいう。なお、制御因子のタイプ及び種類が宿主に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0057】
各種生物において利用可能なベクター、プロモーターなどについては、「微生物学基礎講座8遺伝子工学」(共立出版、1987)などに詳細に記述されている。
【0058】
各酵素を発現させるために用いる宿主生物は、各酵素をコードするDNAを含む酵素発現ベクターにより形質転換され、DNAを導入した酵素を発現することができる生物であれば、特に制限するものではない。利用可能な微生物としては、例えば、エシェリヒア(
Escherichia)属、バシラス(
Bacillus)属、シュードモナス(
Pseudomonas)属、セラチア(
Serratia)属、ブレビバクテリウム(
Brevibacterium)属、コリネバクテリウム(
Corynebacterium)属、ストレプトコッカス(
Streptococcus)属、及びラクトバシラス(
Lactobacillus)属など宿主ベクター系の開発されている細菌、ロドコッカス(
Rhodococcus)属及びストレプトマイセス(
Streptomyces)属など宿主ベクター系の開発されている放線菌、サッカロマイセス(
Saccharomyces)属、クライベロマイセス(
Kluyveromyces)属、シゾサッカロマイセス(
Schizosaccharomyces)属、チゴサッカロマイセス(
Zygosaccharomyces)属、ヤロウイア(
Yarrowia)属、トリコスポロン(
Trichosporon)属、ロドスポリジウム(
Rhodosporidium)属、ピキア(
Pichia)属、及びキャンディダ(
Candida)属などの宿主ベクター系の開発されている酵母、ノイロスポラ(
Neurospora)属、アスペルギルス(
Aspergillus)属、セファロスポリウム(
Cephalosporium)属、及びトリコデルマ(
Trichoderma)属などの宿主ベクター系の開発されているカビ、などが挙げられる。また、微生物以外でも、植物、動物において様々な宿主・ベクター系が開発されており、特に蚕を用いた昆虫(Nature,315,592−594(1985))や菜種、トウモロコシ、ジャガイモなどの植物中に大量に異種タンパク質を発現させる系が開発されており、好適に利用できる。これらのうち、導入及び発現効率から細菌が好ましく、大腸菌(エシェリヒア・コリ(
Escherichia coli))が特に好ましい。
【0059】
本発明に利用する還元酵素をコードするDNAを含むベクターは、公知の方法により宿主微生物に導入することができる。例えば、宿主微生物として大腸菌を用いる場合は、市販のエシェリヒア・コリ(
Escherichia coli HB101(以下、
E.
coli HB101)コンピテントセル(タカラバイオ社製)を用いることにより、当該ベクターを宿主細胞に導入することができる。
【0060】
エノン化合物(1)のエノン部位の炭素−炭素間二重結合を還元する酵素をコードするDNAを含むベクターとしては、国際特許公報WO2006/129628の実施例5に記載のpTSYE2が挙げられる。また、6−クロロ−3−フェニルインデノン還元酵素をコードするDNAを含む形質転換体の例としては、ベクターpTSYE2で
E.
coli HB101を形質転換して得られる、
E.
coli HB101(pTSYE2)が挙げられる。なお形質転換体としては、
E.coli HB101(pTSYE3)、
E.coli HB101(pNKYE)、
E.coli HB101(pNYqjM)、
E.coli HB101(pNNemA)、
E.coli HB101(pNXenA)、
E.coli HB101(pNXenE)、
E.coli HB101(pNYersER)、
E.coli HB101(pNNCR−R)なども挙げられる。
【0061】
また、本発明においては、目的とする還元活性を有する酵素をコードするDNA、および、補酵素再生能を有するポリペプチドをコードするDNAの両者を含む形質転換体を用いることにより、より効率的に本発明の光学活性化合物を製造することができる。例えば、エノン化合物(1)のエノン部位の炭素−炭素間二重結合を還元する酵素をコードするDNA、および、補酵素再生能を有するポリペプチドをコードするDNAの両者を含む形質転換体は、エノン化合物(1)のエノン部位の炭素−炭素間二重結合を還元する酵素をコードするDNA、および、補酵素再生能を有するポリペプチドをコードするDNAの両者を同一のベクターに組み込み、これを宿主細胞に導入することにより得られるほか、これら2種のDNAを不和合性グループの異なる2種のベクターにそれぞれ組み込み、それら2種のベクターを同一の宿主細胞に導入することによっても得られる。また、酵素を細胞外へ放出する宿主細胞を用いる場合や、宿主細胞の破砕液などを反応に用いる場合には、エノン化合物(1)のエノン部位の炭素−炭素間二重結合を還元する酵素をコードするDNAと補酵素再生能を有するポリペプチドをコードするDNAをそれぞれ別の宿主細胞へ導入し、これら宿主細胞を同一培養液内または異なる培養液を使って培養してもよい。
【0062】
補酵素再生能を有するポリペプチドとしては、NAD
+もしくはNADP
+をNADH、もしくはNADPHに変換する能力を有している酸化還元酵素が好ましい。
【0063】
このような酵素としては、例えば、ヒドロゲナーゼ、ギ酸脱水素酵素、グルコース−6−リン酸脱水素酵素及びグルコース脱水素酵素などが挙げられる。好適には、ギ酸脱水素酵素、グルコース脱水素酵素が使用される。
【0064】
ギ酸脱水素酵素としては、例えば、キャンディダ(
Candida)属、クロイッケラ(
Kloeckera)属、ピキア(
Pichia)属、リポマイセス(
Lipomyces)属、シュードモナス(
Pseudomonas)属、モラキセラ(
Moraxella)属、ハイホマイクロビウム(
Hyphomicrobium)属、パラコッカス(
Paracoccus)属、チオバシラス(
Thiobacillus)属、アンシロバクター(
Ancylobacter)属、などの微生物、特にチオバシラス・エスピー(
Thiobacillus sp.)から得られる酵素が挙げられる。
【0065】
グルコース脱水素酵素としては、例えば、バシラス(
Bacillus)属やラクトバシラス(
Lactobacillus)属、ぺディオコッカス(
Pediococcus)属などの微生物、特にバシラス・メガテリウム(
Bacillusmegaterium)、ラクトバシラス・プランタラム(
Lactobacillus plantarum)、ラクトバシラス・ペントサス(
Lactobacillus pentosus)、ぺディオコッカス・パーブラス(
Pediococcus parvulus)から得られる酵素が挙げられる。
【0066】
好ましくは、エノン化合物(1)から光学活性ケトン(2)や下記式(3):
【0068】
で表される光学活性アルコール(3)を生成せず、かつNAD
+もしくはNADP
+をNADH、もしくはNADPHに変換する能力を有している酸化還元酵素である。より好ましくは、NADPに特異的な酵素である。NADPに特異的な酵素としては、例えば、クリプトコッカス(
Cryptococcus)属(特開2006−262767公報)、グルコノバクター(
Gluconobacter)属(J.Bacteriol.,184,672−678,(2002))、サッカロマイセス(
Saccharomyces)属(Methods Enzymol., 89,159−163,(1982))、ラクトバシラス(
Lactobacillus)属、ぺディオコッカス(
Pediococcus)属(国際特許公報WO2009/041415)由来のグルコース脱水素酵素やクリプトコッカス(
Cryptococcus)属、アスペルギルス(
Aspergillus)属、シュードモナス(
Pseudomonas)属由来のグルコース−6−リン酸脱水素酵素が知られている(Arch. Biochem. Biophys.,228,113−119(1984))。
【0069】
さらに好ましくは、乳酸菌由来の酵素であり、最も好ましくは国際特許公報WO2009/41415に記載のラクトバシラス・ペントサス(
Lactobacillus pentosus)、ラクトバシラス・プランタラム(
Lactobacillus plantarum)、ぺディオコッカス・パーブラス(
Pediococcus parvulus)由来のグルコース脱水素酵素である。
【0070】
次にエノン化合物(1)から光学活性ケトン(2)や光学活性アルコール(3)を生成せず、かつNAD
+もしくはNADP
+をNADH、もしくはNADPHに変換する能力を有している酸化還元酵素が本発明の補酵素再生に好適な理由を説明する。
【0071】
グルコース脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素の中にはエノン化合物(1)のエノン部位の炭素−炭素間二重結合またはカルボニル基を還元し、光学活性ケトン(2)や光学活性アルコール(3)を生成するものがある。これらの酵素を補酵素の再生に用いると、目的としない化合物の生成による収率や光学純度の低下を引き起こす可能性がある。
【0072】
例えば、国際特許公報WO2006/033333に記載のバシラス・メガテリウム(
Bacillus megaterium)由来のグルコース脱水素酵素はエノン化合物(1)のカルボニル基を還元し、(R)体の光学活性アルコール(3)を生成する(本願の実施例4参照)。さらに(R)体の光学活性アルコール(3)は転位反応により(R)体の光学活性ケトン(2)に変換される場合もある。すなわち、(S)体の光学活性ケトン(2)を製造する場合にバシラス・メガテリウム(
Bacillusmegaterium)由来のグルコース脱水素酵素を補酵素再生に利用すると、(R)体の光学活性アルコール(3)の副生による、収率の低下、及び(R)体の光学活性ケトン(2)の副生による(S)体の光学活性ケトン(2)の光学純度の低下が引き起こされる。また、(S)体の光学活性アルコール(3)を製造する場合にバシラス・メガテリウム(
Bacillusmegaterium)由来のグルコース脱水素酵素を補酵素再生に利用すると、(R)体の光学活性アルコール(3)の副生による、(S)体の光学活性アルコール(3)の光学純度の低下が引き起こされる。このように(S)体の光学活性ケトン(2)や(S)体の光学活性アルコール(3)を製造する際の補酵素再生にはバシラス・メガテリウム(
Bacillusmegaterium)由来のグルコース脱水素酵素は適していない。
【0073】
一方、国際特許公報WO2009/041415に記載のラクトバシラス・ペントサス(
Lactobacillus pentosus)、ラクトバシラス・プランタラム(
Lactobacillus plantarum)、ぺディオコッカス・パーブラス(
Pediococcus parvulus)などの乳酸菌由来のNADPに特異的なグルコース脱水素酵素の場合、エノン化合物(1)から光学活性ケトン(2)や光学活性アルコール(3)を生成しないため、酵素源を用いたエノン化合物(1)の還元反応における補酵素再生の利用に好適である(本願の実施例7〜17参照)。
【0074】
酵素源として用いられる微生物の培養には、通常、これらの微生物が資化しうる栄養源を含む培地であればどのようなものでも使用しうる。例えば、グルコース、シュークロース、マルトース等の糖類、乳酸、酢酸、クエン酸、プロピオン酸等の有機酸類、エタノール、グリセリン等のアルコール類、パラフィン等の炭化水素類、大豆油、菜種油等の油脂類、またはこれらの混合物等の炭素源;硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、尿素、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、コーンスチープリカー等の窒素源;更に、その他の無機塩、ビタミン類等の栄養源;を適宜混合・配合した通常の培地を用いることが出来る。これら培地は用いる微生物の種類によって適宜選択すればよい。また、目的の還元酵素を誘導させるために、各種エノン化合物を培地に添加すると優れた結果が得られるため、好ましい。例えば、エノン化合物(1)を0.01〜50%(W/V)培地に添加する。
【0075】
微生物の培養は、一般的な条件により行なうことができる。例えば、pH4.0〜9.5、温度範囲20℃〜45℃の範囲で、好気的に10〜96時間培養するのが好ましい。
【0076】
次に、酵素源を用いたエノン化合物(1)の還元反応について説明する。
【0077】
酵素源を用いた還元反応の際には、適当な溶媒と基質のエノン化合物(1)、上記微生物、その培養物、またはその処理物等を混合し、pH調整下に攪拌、振とうまたは静置する。
【0078】
反応溶媒としては、通常、水や緩衝液等の水性媒体を用いる。緩衝液としては、リン酸カリウム緩衝液やトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝液が挙げられる。
【0079】
酵素源は、通常、上記微生物の菌体を含んだ培養液をそのまま反応に使用する。培養液を濃縮して用いてもよい。また、培養液中の成分が反応に悪影響を与える場合には、培養液を遠心分離等により処理して得られる菌体または菌体処理物を使用するとよい。
【0080】
基質であるエノン化合物(1)は、反応の初期に一括添加してもよく、反応の進行にあわせて逐次分割して添加してもよい。
【0081】
反応時の温度は、通常、10〜60℃、好ましくは20〜40℃とする。
【0082】
反応時のpHは2.5〜9、好ましくはpH5〜9の範囲である。
【0083】
反応液中の微生物の量は、これらの基質を還元する能力に応じ適宜決定すればよく、菌体湿重量として、0.01〜50%(W/V)が好ましく、より好ましくは0.1〜10%(W/V)である。
【0084】
反応液中の基質濃度は0.01〜50%(W/V)が好ましく、より好ましくは、0.1〜30%(W/V)である。
【0085】
反応は、通常、振とうまたは通気攪拌しながら行なう。
【0086】
反応時間は、基質濃度、微生物の量及びその他の反応条件により適宜決定される。通常、2〜168時間で反応が終了するように各条件を設定することが好ましい。
【0087】
還元反応を促進させるために、反応液にグルコース、エタノール、イソプロパノールなどのエネルギー源を0.5〜30%(W/V)の割合で加えるのが好ましい。
【0088】
一般に、生物学的方法による還元反応に必要とされている還元型ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド(以降NADHと省略する)、還元型ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチドリン酸(以降NADPHと省略する)等の補酵素を添加することにより、反応を促進させることもできる。この場合、通常は、反応液に直接これらを添加する。
【0089】
また、還元反応を促進させるために、NAD
+及び/またはNADP
+をそれぞれの還元型へ還元する酵素と、該還元のための基質を共存させて反応を行うのが好ましい。例えば、還元型へ還元する酵素としてグルコース脱水素酵素、還元のための基質としてグルコースをそれぞれ共存させるか、または、還元型へ還元する酵素としてギ酸脱水素酵素、還元のための基質としてギ酸をそれぞれ共存させるのがよい。
【0090】
更に、トリトン(ナカライテスク株式会社製)、スパン(関東化学株式会社製)、ツイーン(ナカライテスク株式会社製)などの界面活性剤を反応液に添加することも効果的である。
【0091】
更に、基質及び/または還元反応の生成物であるアルコール体による反応の阻害を回避する目的で、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソプロピルエーテル、トルエン、ヘキサンなどの水に不溶な有機溶媒を反応液に添加してもよい。
【0092】
更に、基質の溶解度を高める目的で、メタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシドなどの水に可溶な有機溶媒を添加することもできる。
【0093】
還元反応により生成した光学活性ケトン(2)を取り出す方法は特に限定されないが、反応液から直接、あるいは菌体等を分離後に、酢酸エチル、トルエン、t−ブチルメチルエーテル、ヘキサン、n−ブタノール、ジクロロメタン等の溶剤で抽出し、脱水後、蒸留やシリカゲルカラムクロマトグラフィー等により精製することにより、高純度の光学活性ケトン(2)を容易に得ることができる。
【0094】
次に、b)の不斉金属触媒を用いた還元反応について説明する。
【0095】
還元反応は、不斉金属触媒存在下で、基質に水素供与性化合物を作用させることにより行う。使用する不斉金属触媒としては、Ru、Ni、Rh、Pt、Pd、Ir、またはCuを含む金属触媒が挙げられる。好ましくはRu、Rh、Ir、またはCuである。なお該不斉金属触媒は、遷移金属を含む金属触媒であってもよく、前記例示以外の触媒(Zr、Ti、Cr、Co、Zn、Mn、Fe、Yb、Laを含む金属触媒)であってもよい。
不斉金属触媒は、錯体であるのが好ましい。
【0096】
金属錯体中の不斉配位子としては、特に限定するものではないが、(R)−BINAP、(S)−BINAP、(R)−tolBINAP、(S)−tolBINAP、(R)−SEGPHOS、(S)−SEGPHOS、(R)−JOSIPHOS、(S)−JOSIPHOS、(R)−DIOP、(S)−DIOPなどのホスフィン配位子、(S,S)−N−パラトルエンスルホニル−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、(R,R)−N−パラトルエンスルホニル−1,2−ジフェニルエチレンジアミンなどのジアミン配位子を例示することができる。
【0097】
エノン部位の炭素−炭素間二重結合を立体選択的に還元するには、例えば、Rh−BINAP、Ir−BINAP、Ru−BINAP、Pd−BINAP、Cu−BINAP、Rh−SEGPHOS、Ir−SEGPHOS、Ru−SEGPHOS、Pd−SEGPHOS、Cu−SEGPHOSなどの不斉金属触媒とホスフィン配位子の組み合わせが好ましい。
【0098】
本工程において、使用される不斉金属触媒の使用量は、特に制限はないが、前記式(1)で表されるケトンに対して通常0.00001〜1当量であり、好ましくは0.0001〜0.1当量、より好ましくは0.0001〜0.01当量である。
【0099】
また、本工程において使用される配位子の量は、特に制限は無いが、上記金属触媒に対して通常0.1〜5当量であり、好ましくは0.5当量〜3当量である、より好ましくは、1当量〜2当量である。
【0100】
使用する水素供与性化合物としては特に制限は無いが、水素、アルコール、ギ酸またはギ酸の塩、ポリメチルヒドロシロキサンを例示することが出来る。
【0101】
アルコールとして、具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。好ましくはイソプロパノールである。
【0102】
ギ酸の塩としては、ギ酸ナトリウム、ギ酸アンモニウムが挙げられる。
【0103】
水素供与性化合物として、好ましくは水素であり、さらに好ましくは、3atm以上の高圧水素雰囲気下であり、特に好ましくは10atm以上の高圧水素雰囲気下である。
【0104】
本工程において、使用される水素供与性化合物の量に特に制限はないが、前記式(1)で表される化合物に対して通常1〜100当量であり、好ましくは1〜10当量である。
【0105】
また、本工程では、塩基を使用してもしなくても良いが、反応が促進されることから塩基を使用するのが望ましい。
【0106】
塩基としては、例えばトリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ピリジンなどのアミン塩基類、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの無機塩基類が挙げられる。
【0107】
本工程において、使用される塩基の量は特に制限はないが、例えばトリエチルアミンは、エノン化合物(1)に対して通常0.01〜100当量用いればよく、好ましくは0.1〜10当量であり、より好ましくは1〜4当量である。
【0108】
当該反応においては、溶媒を用いても用いなくても良い。
【0109】
溶媒はプロトン性溶媒及び非プロトン性溶媒のいずれであってもよい。非プロトン性溶媒としては、例えばトルエン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルt−ブチルエーテル、ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;アセトニトリル、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の含窒素系溶媒等を使用することが出来る。プロトン性溶媒は、上述の水素供与性化合物を兼ねてもよく、このような溶媒には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール等のアルコール溶媒等を使用することが出来る。これらは単独で用いても良く、2種類以上を併用してもよい。好ましくは、溶媒を用いないか、若しくは非プロトン性溶媒(特にテトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド)である。
【0110】
反応液中の基質濃度は1〜50%(W/V)が好ましく、より好ましくは、5〜20%(W/V)である。
【0111】
反応温度としては、−40℃から160℃が好ましく、より好ましくは−20℃から100℃である。特に好ましくは0〜60℃である。
【0112】
また、反応時間としては、おおよそ10時間以上であり、好ましくは20時間以上である。
【0113】
2)第2の例
第2の例では、前記式(1)で表されるエノン化合物(ハロゲン化インデノン類に相当)のカルボニル基を立体選択的に還元して前記式(3)で表される化合物(光学活性アルコールと称する。上述の光学活性インデノール類に相当。)とする。この光学活性アルコール(3)は、その後、転位反応により前記式(2)で表される光学活性ケトン(光学活性インダノンに相当)とすることが好ましい。
【0114】
前記式(3)において、Ar
1、X
1は前記式(1)に同じである。*は不斉炭素を表す。
【0115】
まずは、エノン化合物(1)から光学活性アルコール(3)を得る工程について説明する。
【0116】
本工程では
a)カルボニル基を立体選択的に還元する能力を有する酵素源、または
b)カルボニル基を立体選択的に還元する能力を有する不斉金属触媒
を作用させることで、光学活性アルコール(3)を製造する。
【0117】
まず、a)の酵素源を用いた還元反応から説明する。
【0118】
使用する酵素源としては、エノン化合物(1)のカルボニル基を立体選択的に還元し、光学活性アルコール(3)を生成する能力を有するものであればいずれを用いても良い。
【0119】
好ましくは、キャンディダ(
Candida)属、オガタエア(
Ogataea)属、バシラス(
Bacillus)属、およびブレブンディモナス(
Brevundimonas)属からなる群より選ばれる微生物由来のものであり、さらに好ましくはキャンディダ・マグノリエ(
Candida magnoliae)、オガタエア・ミニュータ・バー・ミニュータ(
Ogataea minuta var.
minuta)、バシラス・メガテリウム(
Bacillus megaterium)、およびブレブンディモナス・ディミヌータ(
Brevundimonas diminuta)からなる群より選ばれる微生物由来の酵素源が挙げられる。
【0120】
(S)体の光学活性アルコール(3)を生成する酵素としては、最も好ましくは、特許第4510351号に記載のキャンディダ・マグノリエ(
Candida magnoliae)IFO0705株由来のカルボニル還元酵素及び、国際特許公報WO2006/013801に記載のオガタエア・ミニュータ・バー・ミニュータ(
Ogataea minuta var.
minuta)NBRC0975株由来のカルボニル還元酵素、国際特許公報WO2007−114217に記載のブレヴァンディモナス・ディミヌータ(
Brevundimonas diminuta)NBRC12697株由来のカルボニル還元酵素である。
【0121】
(R)−6−クロロ−3−フェニルインデノールを生成する酵素としては、最も好ましくは国際特許公報WO2006/013801に記載のオガタエア・ミニュータ・バー・ミニュータ(
Ogataea minuta var.
minuta)NBRC0975株由来のカルボニル還元酵素及び国際特許公報WO2006/033333に記載のバシラス・メガテリウム(
Bacillus megaterium)IAM1030株由来のグルコース脱水素酵素である。
【0122】
還元反応は、上述の、酵素源を用いる以外は、エノン化合物(1)から光学活性ケトン(2)を得る第1の例と同様にして行うことができる。
【0123】
次に、b)の不斉金属触媒を用いた還元反応について説明する。
【0124】
還元反応は、不斉金属触媒存在下で、基質に水素供与性化合物を作用させることにより行う。
【0125】
使用する不斉金属触媒としては、第1の例で上述した不斉金属触媒や、金属錯体の配位子が挙げられる。
【0126】
カルボニル基を立体選択的に還元するには、不斉金属触媒とジアミン配位子の組み合わせが好ましい。
【0127】
エノン化合物(1)のエノン部位の炭素−炭素間二重結合ではなく、カルボニル基を選択的に還元するという観点から特に好ましい不斉金属触媒として、下記式(4):
【0129】
で表される化合物(光学活性ジアミン錯体)が挙げられる。
【0130】
前記式(4)において、R
2、R
3は炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜14のアリール基を表す。これらは1または2以上の置換基を有していてもよく、その詳細は、後述するR
4と同様である。
【0131】
また前記R
2及びR
3は、同一でも異なっていてもよく、さらには一緒になって環を形成していてもよい。環を形成する場合、R
2及びR
3は一緒になって一つのアルキレン基を表す。
【0132】
R
2及びR
3として、好ましくは、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、ヒドロキシメチル基、クロロメチル基、フェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、o,m,p−トリル基、o,m,p−アニシル基、p−クロロベンジル基、ナフチル基、テトラメチレン基等を挙げることが出来る。さらに好ましくはR
2及びR
3が共にアリール基、又はR
2及びR
3が一緒になって環を形成したテトラメチレン基であり、特に好ましくは、R
2及びR
3が共にフェニル基である。
【0133】
前記式(4)において、R
4は炭素数1〜20のアルキル基(シクロアルキル基を含む)または炭素数6〜14のアリール基を表す。これらは1または2以上の置換基(ニトロ基;ヒドロキシ基;フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン原子;ハロアルキル基;アルコキシ基;アルキル基、アリール基など)を有していてもよく、例えば炭素数7〜15のアラルキル基を形成してもよい。置換基を有していてもよいR
4としては、フェニル基、4−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、2−クロロフェニル基、4−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、2−フルオロフェニル基、4−ブロモフェニル基、3−ブロモフェニル基、2−ブロモフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、3−トリフルオロメチルフェニル基、2−トリフルオロメチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、4−エチルフェニル基、3−エチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−フェニルフェニル基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、ヒドロキシメチル基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基、ベンジル基、メチルシクロプロピル基、4−ブロモブチル基、3−ブロモブチル基、2−ブロモブチル基、5−ブロモペンチル基、4−ブロモペンチル基、3−ブロモペンチル基、2−ブロモペンチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルエチル基、3−フェニルブチル基、2−フェニルブチル基、1−フェニルブチル基、p−ヒドロキシフェニル基、o,m,p−ニトロフェニル基、o,m,p−トリル基、p−クロロベンジル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリイソプロピルフェニル基、2,4,6−トリメトキシフェニル基、2,4,6−トリクロロフェニル基が挙げられる。
【0134】
R
4として好ましくは、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、ヒドロキシメチル基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基、ベンジル基、フェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、o,m,p−ニトロフェニル基、o,m,p−トリル基、o,m,p−トリフルオロメチルフェニル基、p−クロロベンジル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリイソプロピルフェニル基、6−トリメトキシフェニル基、ナフチル基、2,4,6−トリクロロフェニル基等を挙げることが出来る。さらに好ましくはR
4がメチル基、トリフルオロメチル基、フェニル基、p−トリル基、p−トリフルオロメチルフェニル基、2,4,6−トリクロロフェニル基である。特に好ましくはp−トリル基である。
【0135】
前記式(4)において、R
5は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、または水素を表す。
【0136】
R
5として好ましくは、水素、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、ヒドロキシメチル基、クロロメチル基、フェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、p−クロロベンジル基、ナフチル基等を挙げることが出来る。さらに好ましくはR
5が水素またはメチル基である。特に好ましくは水素である。
【0137】
前記式(4)において、Ar
2は芳香族化合物を表す。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ヘキサメチルベンゼン、エチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、p−シメン、クメン、ペンタメチルシクロペンタジエニル等を挙げることが出来る。なお、これらに限定されるものではない。好ましくはAr
2がp−シメン、ベンゼン、メシチレン、ペンタメチルシクロペンタジエニルである。さらに好ましくはp−シメンである。
【0138】
前記式(4)において、Mは遷移金属を表す。具体的には、Pd、Rh、Ru、Ir、Pt、Zr、Ti、Cr、Co、Cu、Ni、Zn、Mn、Fe、Yb、La等を挙げることが出来る。なお、これらに限定されるものではない。好ましくはRu、Rh、IrまたはCuである。さらに好ましくはRuである。
【0139】
前記式(4)において、X
3はハロゲン原子を表す。具体的にはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等を挙げることが出来る。好ましくは塩素である。
【0140】
前記式(4)において、*は不斉炭素であることを表す。不斉炭素原子の立体配置は、それぞれ(R)、(S)いずれでもよい。
【0141】
特に好ましい式(4)の例では、R
2及びR
3が共にアリール基、又はR
2及びR
3が一緒になって環を形成したテトラメチレン基である。立体配置の観点から好ましい式(4)の例では、両方の不斉炭素が(R)配置、又は両方の不斉炭素が(S)配置である。
【0142】
本工程において、使用される不斉金属触媒の使用量は、特に制限はないが、エノン化合物(1)に対して通常0.00001〜1当量であるが、好ましくは0.0001〜0.1当量であり、より好ましくは0.0001〜0.01当量である。
【0143】
反応条件については、基本的には、第1の例で不斉金属触媒を作用させる場合と同様であり、水素供与性化合物存在下、水素移動型還元反応を行う。なお、好ましい水素供与性化合物としてはギ酸、またはギ酸の塩、アルコールを挙げることができ、特に好ましくはギ酸を挙げることが出来る。また、前記式(4)で表される不斉金属触媒とギ酸の組み合わせにより、常圧でカルボニルの還元反応を行うことが出来る。なお上述した様に金属触媒還元では、塩基を用いてもよい。塩基が存在すると、得られた光学活性アルコール(3)から光学活性ケトン(2)への転位が容易に進行する。
【0144】
次に、光学活性アルコール(3)から光学活性ケトン(2)を製造する工程について説明する。
【0145】
本工程では、光学活性アルコール(3)に塩基を作用させることにより転位反応を行い、光学活性ケトン(2)を製造する。
【0146】
なお本反応では溶媒を用いても用いなくてもよく、溶媒を用いる場合でもその溶媒に特に制限はなく、例えばトルエン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルt−ブチルエーテル、ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;アセトニトリル、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の含窒素系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール等のアルコール溶媒等を使用することが出来る。これらは単独で用いても良く、2種類以上を併用してもよい。好ましくは、テトラヒドロフランである。反応液中の基質濃度は1〜50%(W/V)が好ましく、より好ましくは、5〜20%(W/V)である。
【0147】
本反応に用いる塩基としては、例えばトリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)などのアミン塩基類、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウムなどの無機塩基類が挙げられる。好ましくはトリエチルアミン、DABCOであり、さらに好ましくはDABCOである。
【0148】
使用される塩基の量は特に制限はないが、光学活性アルコール(3)に対して、通常、0.1〜5当量用いればよく、好ましくは0.5〜5当量であり、より好ましくは1〜2当量である。なお水素供与性化合物の量も、同様であってもよい。これらの範囲を超えて塩基や水素供与性化合物を使用することも可能であり、試剤(塩基及び/又は水素供与性化合物)が多くなると、生成する光学活性ケトン(2)がさらに還元され、後述する第3の例の反応によって、光学活性アルコール(5)が生成するようになる。
【0149】
反応温度としては、−40℃から160℃が好ましく、より好ましくは−20℃から100℃である。特に好ましくは0〜60℃である。
【0150】
また、反応時間としては、おおよそ0.5時間以上であり、好ましくは5時間以上である。
【0151】
転位反応は、光学活性アルコール(3)を単離した後に行っても良いが、還元反応において塩基を使用することにより、エノン化合物(1)から光学活性アルコール(3)への還元反応後、当該化合物(3)を単離することなく連続して(ワンポットで)反応を行うことが出来る。
【0152】
3)第3の例
第1の例及び第2の例で得られた光学活性ケトン(2)(光学活性インダノン類)は、カルボニル基を還元することで、光学活性インダノール類にすることができる。この例では、具体的には、光学活性ケトン(2)のカルボニル基を立体選択的に還元して下記式(5):
【0154】
で表される光学活性アルコール(以下、光学活性アルコール(5))が製造される。
【0155】
前記式(5)において、Ar
1、X
1は前記に同じである。*は不斉炭素を表す。
【0156】
本工程では、下記a)〜c)の何れかの方法により、光学活性ケトン(2)から光学活性アルコール(5)を製造することができる。
a)カルボニル基を、ヒドリド還元剤を用いてジアステレオ選択的に還元する。
b)カルボニル基を立体選択的(ジアステレオ選択的)に還元する能力を有する酵素源を作用させて還元する。
c)カルボニル基を立体選択的(ジアステレオ選択的)に還元する能力を有する不斉金属触媒を用いることによって立体選択的に還元する。
【0157】
まず、a)のヒドリド還元剤を用いてカルボニル基をジアステレオ選択的に還元する工程について説明する。
【0158】
ヒドリド還元剤としては特に制限は無いが、具体的に例えば、ジボラン、ボラン・ジエチルエーテル、ボラン・ジメチルスルフィド、ボラン・ピリジン、ボラン・ピコリン等の水素化ホウ素化合物;水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素亜鉛、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化トリエチルホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素カリウム、シアン化水素化ホウ素ナトリウム等の水素化ホウ素金属化合物;水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムナトリウム、水素化ジイソブチルアルミニウム等の水素化アルミニウム金属化合物等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化アルミニウムリチウム、又は水素化アルミニウムナトリウムであり、更に好ましくは、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、又は水素化アルミニウムリチウムであり、特に好ましくは水素化ホウ素ナトリウム、又は水素化アルミニウムリチウムである。
【0159】
還元剤の量は、通常、光学活性ケトン(2)に対して、0.25当量〜10当量であり、好ましくは0.25当量〜5当量であり、さらに好ましくは0.25当量〜2当量である。
【0160】
本反応においては溶媒を使用する。用いる溶媒に特に制限はなく、例えばトルエン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルt−ブチルエーテル、ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;アセトニトリル、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の含窒素系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール等のアルコール溶媒等を使用することが出来る。これらは単独で用いても良く、2種類以上を併用してもよい。好ましくは、メタノール、エタノールである。
【0161】
反応液中の基質濃度は1〜50%(W/V)が好ましく、より好ましくは、5〜20%(W/V)である。
【0162】
反応温度としては、−40℃から100℃が好ましく、より好ましくは−20℃から80℃である。特に好ましくは0〜40℃である。
【0163】
次に、b)のカルボニル基を立体選択的に還元する能力を有する酵素源を作用させて還元する工程について説明する。
【0164】
酵素源としては、光学活性ケトン(2)のカルボニル基を立体選択的に還元し、光学活性アルコール(5)を生成する能力を有するものであればいずれを用いても良い。
【0165】
好ましくは、酵素源がキャンディダ(
Candida)属、オガタエア(
Ogataea)属、サッカロマイセス(
Saccharomyces)属、ブレブンディモナス(
Brevundimonas)属、デボシア(
Devosia)属、パエニバシラス(
Paenibacillus)属、およびシュードモナス(
Pseudomonas)属からなる群より選ばれる微生物由来のものであり、さらに好ましくは、キャンディダ・マグノリエ(
Candida magnoliae)、キャンディダ・マルトーサ(
Candida maltosa)、キャンディダ・マリス(
Candida maris)、オガタエア・ミニュータ・バー・ミニュータ(
Ogataea minuta var.
minuta)、サッカロマイセス・セレビシエ(
Saccharomyces cerevisiae)、ブレブンディモナス・ディミヌータ(
Brevundimonas diminuta)、デボシア・リボフラビナ(
Devosia riboflavina)、パエニバシラス・アルベイ(
Paenibacillus alvei)、およびシュードモナス・スツッツェリ(
Pseudomonas stutzeri)からなる群より選ばれる微生物由来のものである。例えば、(S,S)−6−クロロ−3−フェニルインダノールを生成する酵素として、最も好ましくは、特許第4510351号に記載のキャンディダ・マグノリエ(
Candida magnoliae)IFO0705株由来のカルボニル還元酵素、国際特許公報WO2006/046455に記載のキャンディダ・マグノリエ(
Candida magnoliae)NBRC0661株由来のカルボニル還元酵素、国際特許公報WO2008/066018に記載のキャンディダ・マルトーサ(
Candida maltosa))IFO1977株由来のアルコール脱水素酵素、国際特許公報WO2001/05996に記載のキャンディダ・マリス(
Candida maris)IFO10003株由来のカルボニル還元酵素、国際特許公報WO2006/013801に記載のオガタエア・ミニュータ・バー・ミニュータ(
Ogataea minuta var.
minuta)NBRC0975株由来のカルボニル還元酵素、特開2010−130912に記載のサッカロマイセス・セレビシエ(
Saccharomyces cerevisiae)S288C(ATCC26108)株由来のカルボニル還元酵素、国際特許公報WO2007/114217に記載のブレヴァンディモナス・ディミヌータ(
Brevundimonas diminuta)NBRC12697株由来のカルボニル還元酵素、特許第4414337号に記載のデボシア・リボフラビナ(
Devosia riboflavina)IFO13584株由来のカルボニル還元酵素、国際特許公報WO2007/099764に記載のパエニバシラス・アルベイ(
Paenibacillus alvei)、NBRC3343株由来のカルボニル還元酵素、国際特許公報WO2007/099994に記載のシュードモナス・スツッツェリ(
Pseudomonas stutzeri)NBRC13596株由来のカルボニル還元酵素である。
【0166】
還元反応については、上述の第1の例の場合と同様にして行うことができる。
【0167】
次に、c)の不斉金属触媒を用いた還元反応について説明する。
【0168】
還元反応は、不斉金属触媒存在下で、基質に水素供与性化合物を作用させることにより行う。
【0169】
使用する不斉金属触媒としては、前述の第2の例で用いる不斉金属触媒や、金属錯体の配位子が挙げられる。
【0170】
好ましい不斉金属触媒と配位子の組み合わせは、第2の例で記載したものが挙げられる。
【0171】
このうち、不斉金属触媒としては、エノン化合物のカルボニル基を立体選択的に還元する際に好ましいものとして記載した前記式(4)で表される化合物が挙げられる。反応条件や試薬の量も同様である。
【0172】
本反応は、光学活性ケトン(2)を単離した後に行っても良いし、エノン化合物(1)から光学活性ケトン(2)を製造する工程(例えば、エノン化合物(1)を還元して光学活性アルコール(3)を得て、これを転位させて光学活性ケトン(2)を製造する工程)と続けて行うことも出来る。二段階の還元反応を続けて行うことが出来るため、単離工程を短縮すると非常に効率的な製造方法といえる。
【0173】
以上の様に、ハロゲン化インデノン類は、インデン又はインダン骨格が維持された光学活性化合物(光学活性インダノン類、光学活性インデノール類、光学活性インダノール類など)を製造するのに有用である。このハロゲン化インデノン類は、例えば、以下の様にすれば効率的に合成可能である。
すなわち出発物質として下記式(6)で表されるケトン化合物を選択し、次に、この式(6):
【0175】
で表されるケトン化合物にハロゲン化剤を作用させて下記式(7):
【0177】
で表される化合物とし、当該化合物を塩基と反応させれば、前記式(1)で表される化合物を製造できる。
【0178】
前記式(6)、(7)において、Ar
1、X
1は前記に同じである。
【0179】
前記式(7)において、X
2はハロゲン原子を表す。具体的にはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等を挙げることが出来る。好ましくは臭素である。
【0180】
まず、前記式(6)で表される化合物をハロゲン化剤と反応させ、前記式(7)で表される化合物とする工程について説明する。
【0181】
使用するハロゲン化剤としては、例えば、臭素、ヨウ素、N−ブロモスクシンイミド、N−クロロスクシンイミド、N−ヨードスクシンイミド、SO
2Cl
2などが挙げられる。好ましくは。N−ブロモスクシンイミド、臭素であり、さらに好ましくは臭素である。
【0182】
ハロゲン化剤の使用量は、前記式(6)で表される化合物に対して、通常0.8〜2当量であるが、好ましくは0.9〜1.5当量であり、より好ましくは0.9〜1.3当量である。
【0183】
溶媒は用いてもよいし、用いなくても良い。使用できる溶媒としては、例えばトルエン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルt−ブチルエーテル、ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;アセトニトリル、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の含窒素系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール等のアルコール溶媒等を使用することが出来る。これらは単独で用いても良く、2種類以上を併用してもよい。好ましくは、溶媒を用いない、または塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルt−ブチルエーテル、ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒である。特に好ましくは塩化メチレン、メチルt−ブチルエーテル、ジエチルエーテルである。
【0184】
反応液中の基質濃度は1〜50%(W/V)が好ましく、より好ましくは、5〜20%(W/V)である。
【0185】
反応温度としては、−40℃から80℃が好ましく、より好ましくは−20℃から60℃である。特に好ましくは0〜40℃である。
【0186】
特に、ハロゲン化剤として臭素を使用し、臭素の使用量を0.9〜1.3当量とし、反応温度を40度以下に制御し、溶媒として塩化メチレンもしくはメチルt−ブチルエーテル用いて行った場合に本反応における主な副反応であるジブロモ化が顕著に抑制でき、特に効率的に前記式(7)で表される化合物を製造することが出来る。
【0187】
次に前記式(7)で表される化合物からエノン化合物(1)を製造する工程について説明する。
【0188】
本工程では塩基を前記式(7)で表される化合物に作用させることにより、エノン化合物(1)を製造する。
【0189】
本工程で使用する塩基としては、例えばトリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ピリジンなどのアミン塩基類;炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化物などの無機塩基類が挙げられる。好ましくは、トリエチルアミン、炭酸カリウムである。
【0190】
塩基の使用量としては、前記式(7)で表される化合物に対して、通常0.8〜3当量であるが、好ましくは0.9〜2当量であり、より好ましくは1〜1.5当量である。
【0191】
本反応は、溶媒を用いても、用いなくてもよい。
【0192】
用いる溶媒としては、例えばトルエン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルt−ブチルエーテル、ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;アセトニトリル、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の含窒素系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール等のアルコール溶媒;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒等を使用することが出来る。好ましくは、トルエン、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)である。
【0193】
反応液中の基質濃度は1〜50%(W/V)が好ましく、より好ましくは、5〜20%(W/V)である。
【0194】
反応温度としては、−40℃から80℃が好ましく、より好ましくは−20℃から60℃である。特に好ましくは0〜40℃である。
【0195】
本工程は、前記式(7)で表される化合物を単離した後に行っても良いし、単離せずに前記式(6)で表される化合物のハロゲン化工程と続けて(単離することなく)行っても良い。
一般式(1)で表される化合物、好ましくはAr
1がクロロフェニル基、チエニル基、フリル基、またはフェニル基である化合物、X
1がクロロ基である式(1)で表される化合物、特にAr
1がフェニル基であり、X
1が6位(インデン−1−オン(inden-1-one)骨格の6位)に結合するクロロ基である式(1)で表される化合物はこれまで合成された例はなく、これらは本発明者らが新規に合成した化合物であり、統合失調症剤に用いられるトランス−4−((1R、3S)−6−クロロ−3ーフェニルインダンー1−イル)−2,2,−ジメチルピペラジン塩を製造する上で有用な中間体である。
【0196】
なお、エノン化合物(1)に不斉金属触媒、水素供与性化合物および塩基を作用させることにより、前記式(2)や(3)で表される化合物となるが、後処理をすることなく続けて還元反応を行うことにより、前記式(2)や(3)で表される化合物を単離することなく光学活性アルコール(5)を製造することが可能である。
【0197】
上記の方法によれば、光学活性ケトン化合物(2)を効率的に製造することができる。従って、例えば特表平7−505895等に記載の方法に従い、光学活性ケトン化合物(2)を誘導することにより、トランス−4−((1R、3S)−6−クロロ−3ーフェニルインダンー1−イル)−2,2,−ジメチルピペラジン塩等の下記式(8):
【0199】
で表される1−ピペラジノー1,2−ジヒドロインデン誘導体をエノン化合物(1)から効率的に製造することが可能である。
【0200】
前記式(8)において、Ar
1、X
1は前記に同じである。*は不斉炭素を表す。
【0201】
R
6、R
7、R
8はそれぞれ独立しており、水素、炭素数1〜12のアルキル基、アルケニル基(例えば、炭素数2〜12のアルケニル基)、炭素数6〜14のアリール基、炭素数7〜15のアラルキル基、シクロアルキル基(例えば、炭素数3〜8のシクロアルキル基)、またはシクロアルキルアルキル基を表す。これらは1または2以上の置換基(ニトロ基;ヒドロキシ基;フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン原子;ハロアルキル基;アルコキシ基;アルキル基、アリール基など)を有していてもよい。置換基を有していてもよいR
6、R
7、R
8としては、例えば、水素、フェニル基、4−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、2−クロロフェニル基、4−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、2−フルオロフェニル基、4−ブロモフェニル基、3−ブロモフェニル基、2−ブロモフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、3−トリフルオロメチルフェニル基、2−トリフルオロメチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、4−エチルフェニル基、3−エチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−フェニルフェニル基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、ヒドロキシメチル基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基、ベンジル基、メチルシクロプロピル基、4−ブロモブチル基、3−ブロモブチル基、2−ブロモブチル基、5−ブロモペンチル基、4−ブロモペンチル基、3−ブロモペンチル基、2−ブロモペンチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルエチル基、3−フェニルブチル基、2−フェニルブチル基、1−フェニルブチル基、p−ヒドロキシフェニル基、o,m,p−ニトロフェニル基、o,m,p−トリル基、p−クロロベンジル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリイソプロピルフェニル基、2,4,6−トリメトキシフェニル基、2,4,6−トリクロロフェニル基が挙げられる。
【0202】
R
6とR
7、R
7とR
8はそれぞれ互いに結合して環を形成していても良い。具体的には、R
6とR
7が互いに結合してピペラジン環にスピロ結合していても良く、R
7とR
8が互いに結合してピペラジン環を形成しても良い。
【0203】
R
6とR
7として好ましくはメチル基である。また、R
8として好ましくは水素、メチル基であり、特に好ましくは水素である。
【実施例】
【0204】
以下に例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0205】
(実施例1)2−ブロモ−6−クロロ−3−フェニルインダノン
6−クロロ−3−フェニルインダノン2.0gのジクロロメタン溶液(2ml)を0℃まで冷却し、臭素1.3gを加えた。反応液を室温まで昇温し、室温でさらに1時間攪拌した。反応後、ジクロロメタンおよび水を加えて生成物を抽出し、得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、硫酸マグネシウムを濾過し、得られた濾液を減圧濃縮することにより、表題化合物2.6gを得た(収率96%)。
1H NMR(CDCl
3):δ7.85(d、1H、J=2.0Hz)、7.61(dd、1H、J=2.2、8.3Hz)、7.49−7.20(m、4H)、7.20(d、1H、J=8.3Hz)、7.25−7.07(m、1H)、4.66(d、1H、J=4.2Hz)、4.51(d、1H、J=4.2Hz).
【0206】
(実施例2)6−クロロ−3−フェニルインデノン
(方法1)
2−ブロモ−6−クロロ−3−フェニルインダノン2.6gのアセトン溶液(16ml)にトリエチルアミン1.6gを加え、室温で21.5時間攪拌した。反応後、酢酸エチル、水を加えて生成物を抽出し、得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、硫酸マグネシウムを濾過し、得られた濾液を減圧濃縮することにより、表題化合物995mgを得た(収率52%)。
(方法2)
2−ブロモ−6−クロロ−3−フェニルインダノン256mgのDMF溶液(4.5ml)に炭酸カリウム223mgを加え、室温で22時間攪拌した。反応後、トルエン、水を加えて生成物を抽出し、さらに得られた有機層を水で洗浄した。その後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、硫酸マグネシウムを濾過し、得られた濾液を減圧濃縮することにより、表題化合物を有姿で175mg得た(収率90%)。
1H NMR(CDCl
3):δ7.70−7.60(m、2H)、7.56−7.45(m、4H)、7.40−7.33(m、1H)、7.31(d、1H、J=8.0Hz)、6.03(s、1H).
【0207】
(実施例3)(S,S)−6−クロロ−3−フェニルインダノール
6−クロロ−3−フェニルインデノン101mgに[RuCl((S,S)−トシルジフェニルエチレンジアミン)(p−シメン)]錯体触媒5.6mg、トリエチルアミン336mg、蟻酸134mgを加え、室温で22時間攪拌した。反応後、酢酸エチル、水を加えて生成物を抽出した。その後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、硫酸マグネシウムを濾過し、得られた濾液を減圧濃縮することにより、粗生成物を得た。得られた粗生成物を、シリカゲルカラムを用いて精製することにより、6−クロロ−3−フェニルインダノールを82.5mg得た(収率83%)。下記NMR法による(S,S)体/(S,R)体比は、79/21であった。また、表題化合物の下記HPLC法による光学純度は83%eeであった。
1H NMR(CDCl
3):δ7.67−7.25(m、1H)、7.37−7.14(m、5H)、6.74−6.84(m、1H)、5.26(dd、1H、J=7.3、7,3Hz)、4.14(t、1H、J=8.5Hz)、3.04(dt、1H、J=7.3、12.7Hz)、2.02−1.90(m、1H).
(S,S)体/(S,R)体比決定法:NMR法
1H NMRにおいて、(S,S)体に由来する5.26ppm(dd)のピークと、(S,R)体に由来する5.36ppmのピークとの積分強度比から算出する。
光学純度決定法:HPLC法
下記条件でHPLC分析を行い、(S,S)体と(S,R)体のピーク面積から算出する。
カラム:Chiral Pack OD-H(登録商標;ダイセル化学工業社製)
溶離液:n−ヘキサン/イソプロパノール=90/10(体積比)
流速 :1.0mL/min
検出 :254nm
カラム温度:30℃
検出時間:(S,S)体 6.8分。 (R,R)体 19.7分
【0208】
(参考例1)サッカロマイセス・セレビシエ由来OYE3を生産する形質転換体の作製
国際特許公報WO2006/129628の実施例5に記載のサッカロマイセス・セレビシエ S288C(ATCC26108)株由来のOYE2を生産する形質転換体の作製方法と同様にしてサッカロマイセス・セレビシエ S288C(ATCC26108)株由来のOYE3を生産する形質転換体を作製した。プライマー1:5’−ATCGAGCTCTTATCAGTTCTTGTTCCAACC−3’(配列表の配列番号1)と、プライマー2:5’−ACGCGTCGACTTATCAGTTCTTGTTCCAACCTAAA−3’(配列表の配列番号2)を用いて、サッカロマイセス・セレビシエ由来のOYE3をコードするDNAの開始コドン部分にSacI部位を付加し、かつ終始コドンの直後に新たな終始コドンとSalI部位を付加した二本鎖DNAを増幅し、プラスミドpUCNT(国際特許公報WO94/03613)に導入した。このプラスミドpTSYE3で
E.
coli HB101を形質転換し、OYE3を生産する形質転換体
E.
coli HB101(pTSYE3)を作製した。
【0209】
(参考例2)クルイベロマイセス・ラクティス由来KYEを生産する形質転換体の作製
参考例1と同様にしてクルイベロマイセス・ラクティス NBRC1267株由来のKYEを生産する形質転換体を作製した。プライマー3:5’−AATATATACATATGTCGTTTATGAACTTTGAACCAAAGCC−3’(配列表の配列番号3)と、プライマー4:5’−ATATGAGCTCTTACTATTTCTTGTAACCCTTGGCAACAGCTTCC−3’(配列表の配列番号4)を用いて、クルイベロマイセス・ラクティス由来のKYEをコードするDNAの開始コドン部分にNdeI部位を付加し、かつ終始コドンの直後に新たな終始コドンとSacI部位を付加した二本鎖DNAを増幅し、プラスミドpUCN18(PCR法によりpUC18(タカラバイオ株式会社製、GenBank Accession No.L09136)の185番目のTをAに改変してNdeIサイトを破壊し、更に471−472番目のGCをTGに改変することにより新たにNdeIサイトを導入したプラスミド)に導入した。このプラスミドpNKYEで
E.coli HB101を形質転換し、KYEを生産する形質転換体
E.coli HB101(pNKYE)を作製した。
【0210】
(参考例3)バシラス・サブティリス由来YqjMを生産する形質転換体の作製
参考例2と同様にしてバシラス・サブティリス JCM10629株由来のYqjMを生産する形質転換体を作製した。プライマー5:5’−ATATATACATATGGCCAGAAAATTATTTACACCTATTAC−3’(配列表の配列番号5)と、プライマー6:5’−ATATGAGCTCTTATTACCAGCCTCTTTCGTATTGAACAGGG−3’(配列表の配列番号6)を用いて、バシラス・サブティリス由来のYqjMをコードするDNAの開始コドン部分にNdeI部位を付加し、かつ終始コドンの直後に新たな終始コドンとSacI部位を付加した二本鎖DNAを増幅し、プラスミドpUCN18に導入した。このプラスミドpNYqjMで
E.
coli HB101を形質転換し、YqjMを生産する形質転換体
E.
coli HB101(pNYqjM)を作製した。
【0211】
(参考例4)エシェリヒア・コリ由来NemAを生産する形質転換体の作製
参考例2と同様にしてエシェリヒア・コリ NBRC3301株由来のNemAを生産する形質転換体を作製した。プライマー7:5’−ATAGAATTCTAAGGAGGTTAACAATGTCATCTGAAAAACTGTATT−3’(配列表の配列番号7)と、プライマー8:5’−ATATGGTACCTTATTACAACGTCGGGTAATCGGTATAGCC−3’(配列表の配列番号8)を用いて、エシェリヒア・コリ由来のNemAをコードするDNAの開始コドン直前にEcoRI部位を付加し、かつ終始コドンの直後に新たな終始コドンとKpnI部位を付加した二本鎖DNAを増幅し、プラスミドpUCN18に導入した。このプラスミドpNNemAで
E.
coli HB101を形質転換し、NemAを生産する形質転換体
E.
coli HB101(pNNemA)を作製した。
【0212】
(参考例5)シュードモナス・プチダ由来XenAを生産する形質転換体の作製
参考例2と同様にしてシュードモナス・プチダNBRC100650株由来のXenAを生産する形質転換体を作製した。プライマー9:5’−ATATATACATATGTCCGCACTGTTCGAACCCTACACCCTC−3’(配列表の配列番号9)と、プライマー10:5’−ATATGAGCTCTTATCAGCGATAACGCTCGAGCCAGTGTGCATAAG−3’(配列表の配列番号10)を用いて、シュードモナス・プチダ由来のXenAをコードするDNAの開始コドンにNdeI部位を付加し、かつ終始コドンの直後に新たな終始コドンとSacI部位を付加した二本鎖DNAを増幅し、プラスミドpUCN18に導入した。このプラスミドpNXenAで
E.
coli HB101を形質転換し、XenAを生産する形質転換体
E.
coli HB101(pNXenA)を作製した。
【0213】
(参考例6)シュードモナス・プチダ由来XenEを生産する形質転換体の作製
参考例2と同様にしてシュードモナス・プチダNBRC100650株由来のXenEを生産する形質転換体を作製した。プライマー11:5’−ATATATACATATGAGCCTGCTGCTCGAGCCTTACACCC−3’(配列表の配列番号11)と、プライマー12:5’−ATATGAGCTCTTATTAATCCCGCAAGTCCGACTCATGTATCGG−3’(配列表の配列番号12)を用いて、シュードモナス・プチダ由来のZenEをコードするDNAの開始コドンにNdeI部位を付加し、かつ終始コドンの直後に新たな終始コドンとSacI部位を付加した二本鎖DNAを増幅し、プラスミドpUCN18に導入した。このプラスミドpNXenEで
E.
coli HB101を形質転換し、XenEを生産する形質転換体
E.
coli HB101(pNXenE)を作製した。
【0214】
(参考例7)エルシニア・ベルコビエリ由来YersERを生産する形質転換体の作製
参考例2と同様にしてエルシニア・ベルコビエリNBRC105717株由来のYersERを生産する形質転換体を作製した。プライマー13:5’−ATATATACATATGAAGACTGCTAAACTGTTCTCTCC−3’(配列表の配列番号13)と、プライマー14:5’−ATATGAGCTCTTATTACAGCGTTGGGTAATCAGTGTAGCC−3’(配列表の配列番号14)を用いて、エルシニア・ベルコビエリ由来のYersERをコードするDNAの開始コドンにNdeI部位を付加し、かつ終始コドンの直後に新たな終始コドンとSacI部位を付加した二本鎖DNAを増幅し、プラスミドpUCN18に導入した。このプラスミドpNYersERで
E.
coli HB101を形質転換し、YersERを生産する形質転換体
E.
coli HB101(pNYersER)を作製した。
【0215】
(参考例8)ザイモモナス・モビリス由来NCR−Rを生産する形質転換体の作製
参考例2と同様にしてザイモモナス・モビリス NBRC3301株由来のNCR−Rを生産する形質転換体を作製した。プライマー15:5’−ATAGAATTCTAAGGAGGTTAACAATGCCTAGCTTGTTTGATCCC−3’(配列表の配列番号15)と、プライマー16:5’−ATATGGTACCTTATCAATCCCCAAGCAAAGGATAATC−3’(配列表の配列番号16)を用いて、ザイモモナス・モビリス由来のNCR−RをコードするDNAの開始コドン直前にEcoRI部位を付加し、かつ終始コドンの直後に新たな終始コドンとKpnI部位を付加した二本鎖DNAを増幅し、プラスミドpUCN18に導入した。このプラスミドpNNCR−Rで
E.
coli HB101を形質転換し、NCR−Rを生産する形質転換体
E.
coli HB101(pNNCR−R)を作製した。
【0216】
(実施例4)サッカロマイセス・セレビシエ由来のOYE2を用いた(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの製造
トリプトン16g、酵母エキス10g、NaCl 5g(いずれも1L当たり)の組成からなる液体培地(pH=7)5mlを大型試験管に分注し、120℃で20分間蒸気殺菌を行った。これらの液体培地に、サッカロマイセス・セレビシエ由来のOYE2を生産する
E.
coli HB101(pTSYE2)(国際特許公報WO2006/129628の実施例7参照)、およびバシラス・メガテリウム由来のグルコース脱水素酵素を生産する
E.
coli HB101(pNTG1)(国際特許公報WO2006/033333の実施例3参照)を無菌的にそれぞれ一白金耳接種して、37℃で24時間振とう培養した。
【0217】
培養後、遠心分離により菌体を濃縮し、超音波ホモジナイザーによる菌体破砕を実施した。
E.
coli HB101(pTSYE2)の濃縮菌体破砕液0.1ml、
E.
coli HB101(pNTG1)の濃縮菌体破砕液0.1ml、6−クロロ−3−フェニルインデノン10mg、NAD・NADP各1mg、グルコース20mg、0.1Mリン酸緩衝液(pH6.5)0.8mlを加えて、30℃で24時間反応させた。また、対照実験として、
E.
coli HB101(pTSYE2)の濃縮菌体破砕液を添加せず
E.
coli HB101(pNTG1)の濃縮菌体破砕液のみでも同様に反応させた。
【0218】
反応終了後、2倍量の酢酸エチルで抽出し、有機層を希釈して下記高速液体クロマトグラフィーで分析した。変換率と生成した(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの光学純度を算出した。
【0219】
E.
coli HB101(pTSYE2)の濃縮菌体破砕液を添加した反応では6−クロロ−3−フェニルインデノンから6−クロロ−3−フェニルインダノンへの変換率は88%であり、生成した(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの光学純度は97.6%e.e.であった。一方、
E.
coli HB101(pNTG1)の濃縮菌体破砕液のみの反応では6−クロロ−3−フェニルインダノンへの変換率が3%、6−クロロ−3−フェニルインデノールへの変換率が2%であった。生成した(R)−6−クロロ−3−フェニルインダノン及び(R)−6−クロロ−3−フェニルインデノールの光学純度はいずれも99.9%e.e.以上であった。
【0220】
<高速液体クロマトグラフィーの分析条件>
カラム:ダイセル化学工業株式会社製CHIRALCEL OD−H(250mm×4.6mm)
溶離液:n−ヘキサン/2−プロパノール=95/5
流速:1.0ml/min
検出:254nm
カラム温度:30℃
検出時間:6−クロロ−3−フェニルインデノン 8.7分、(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノン 9.5分、(R)−6−クロロ−3−フェニルインダノン 12.0分、(R)−6−クロロ−3−フェニルインデノール 14.8分、(S)−6−クロロ−3−フェニルインデノール 33.7分
【0221】
(実施例5)サッカロマイセス・セレビシエ由来のOYE3を用いた(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの製造
E.
coli HB101(pTSYE2)の代わりに参考例1で作製した
E.
coli HB101(pTSYE3)を用いて、実施例4と同様に反応および分析を行った。その結果、変換率は85%であり、生成した(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの光学純度は96.3%e.e.であった。
【0222】
(実施例6)パン酵母を用いた(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの製造
Algist Bruggeman NV製パン酵母(製品名:Bruggeman Instant Yeast Blue)0.5g、グルコース1g、水10mlを大型試験管に分注し、30℃で1時間振とうした。この酵母懸濁液1mlに6−クロロ−3−フェニルインデノン10mg、グルコース20mgを加えて、水酸化ナトリウムにてpH7に調製し、30℃で24時間反応させた。反応後、実施例4と同様の方法で分析し、変換率と光学純度を算出した。その結果、変換率は54%、生成した(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの光学純度は99.2%e.e.であった。
【0223】
(実施例7)サッカロマイセス・セレビシエ由来のOYE2を用いた(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの製造
実施例4と同様の方法で
E.
coli HB101(pTSYE2)及びラクトバシラス・ペントサス由来のグルコース脱水素酵素を生産する
E.
coli HB101(pNGLP2)(国際特許公報WO2009/041415の実施例5参照)を培養し、実施例4と同様に反応を行った。また、対照実験として
E.
coli HB101(pTSYE2)を用いず、
E.
coli HB101(pNGLP2)の濃縮菌体破砕液のみの反応を実施した。実施例4と同様にして分析を行ったところ、
E.
coli HB101(pTSYE2)の濃縮菌体破砕液を添加した反応では変換率は99%であり、生成した(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの光学純度は99.9%e.e.以上であった。一方、
E.
coli HB101(pNGLP2)のみを添加した反応では6−クロロ−3−フェニルインダノン及び6−クロロ−3−フェニルインデノールの生成は確認できなかった。
【0224】
バシラス・メガテリウム由来のグルコース脱水素酵素の代わりにラクトバシラス・ペントサス由来のグルコース脱水素酵素を用いることで、実施例4よりも高い光学純度の(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンが製造できた。また、実施例6のパン酵母を用いた場合よりも高い変換率であった。
【0225】
(実施例8)クルイベロマイセス・ラクティス由来KYEを用いた(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの製造
E.
coli HB101(pTSYE2)の代わりに参考例2で作製した
E.
coli HB101(pNKYE)を用いて、実施例7と同様に反応および分析を行った。その結果、変換率は94%であり、生成した(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの光学純度は99.9%e.e.であった。
【0226】
(実施例9)バシラス・サブティリス由来YqjMを用いた(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの製造
E.
coli HB101(pTSYE2)の代わりに参考例3で作製した
E.
coli HB101(pNYqjM)を用いて、実施例7と同様に反応および分析を行った。その結果、変換率は38%であり、生成した(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの光学純度は98.9%e.e.であった。
【0227】
(実施例10)エシェリヒア・コリ由来NemAを用いた(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの製造
E.
coli HB101(pTSYE2)の代わりに参考例4で作製した
E.
coli HB101(pNNemA)を用いて、実施例7と同様に反応および分析を行った。その結果、変換率は90%であり、生成した(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの光学純度は99.9%e.e.であった。
【0228】
(実施例11)シュードモナス・プチダ由来XenAを用いた(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの製造
E.
coli HB101(pTSYE2)の代わりに参考例5で作製した
E.
coli HB101(pNXenA)を用いて、実施例7と同様に反応および分析を行った。その結果、変換率は4%であり、生成した(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの光学純度は56.6%e.e.であった。
【0229】
(実施例12)シュードモナス・プチダ由来XenEを用いた(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの製造
E.
coli HB101(pTSYE2)の代わりに参考例
6で作製した
E.
coli HB101(pNpNXenE)を用いて、実施例7と同様に反応および分析を行った。その結果、変換率は3%であり、生成した(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの光学純度は12.9%e.e.であった。
【0230】
(実施例13)エルシニア・ベルコビエリ由来YersERを用いた(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの製造
E.
coli HB101(pTSYE2)の代わりに参考例7で作製した
E.
coli HB101(pNYersER)を用いて、実施例7と同様に反応および分析を行った。その結果、変換率は39%であり、生成した(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの光学純度は98.9%e.e.であった。
【0231】
(実施例14)ザイモモナス・モビリス由来NCR−Rを用いた(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの製造
E.
coli HB101(pTSYE2)の代わりに参考例8で作製した
E.
coli HB101(pNNCR−R)を用いて、実施例7と同様に反応および分析を行った。その結果、変換率は90%であり、生成した(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの光学純度は99.9%e.e.であった。
【0232】
(実施例15)サッカロマイセス・セレビシエ由来のOYE2を用いた(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの製造
E.
coli HB101(pTSYE2)及びラクトバシラス・プランタラム由来のグルコース脱水素酵素を生産する
E.
coli HB101(pNGLP)(国際特許公報WO2009/041415の実施例5参照)を用いて、実施例7と同様に反応を実施した。実施例4と同様にして分析を行ったところ、変換率は99%であり、生成した(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの光学純度は99.9%e.e.以上であった。
【0233】
(実施例16)サッカロマイセス・セレビシエ由来のOYE2を用いた(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの製造
E.
coli HB101(pTSYE2)及びぺディオコッカス・パーブラス由来のグルコース脱水素酵素を生産する
E.
coli HB101(pNGLP)(国際特許公報WO2009/041415の実施例14参照)を用いて、実施例7と同様に反応を行った。実施例4と同様にして分析を行ったところ、変換率は99%であり、生成した(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの光学純度は99.9%e.e.以上であった。
【0234】
(実施例17)サッカロマイセス・セレビシエ由来のOYE2を用いた(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの製造
実施例4と同様の方法で
E.
coli HB101(pTSYE2)及びラクトバシラス・ペントサス由来のグルコース脱水素酵素を生産する
E.
coli HB101(pNGLP2)を培養し、培養後、遠心分離により菌体を濃縮し、超音波ホモジナイザーによる菌体破砕を実施した。この各形質転換体の濃縮菌体破砕液4mlに、6−クロロ−3−フェニルインデノン2g、NADP
+ 4mg、グルコース4g、0.1Mリン酸緩衝液(pH6.5)32mlを加えて、攪拌しながら30℃で40時間反応させた。反応中は5N NaOHにてpH6.5に保った。40時間後、実施例4と同様の方法で分析を行ったところ、変換率98%、生成した(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの光学純度は99.9%e.e.以上であった。
【0235】
次に反応液から酢酸エチルを用いて、(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンを抽出した。減圧下で溶媒を留去することにより、(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノン1.9gを得た。
【0236】
(実施例18)キャンディダ・マグノリエ由来のカルボニル還元酵素を用いた(S)−6−クロロ−3−フェニルインデノールの製造
キャンディダ・マグノリエ由来のカルボニル還元酵素を生産する
E.
coli HB101(pNTCR)(特許第4510351号の実施例5に記載)を実施例4と同様に培養した。培養後、超音波ホモジナイザーによる菌体破砕を実施し、各菌体破砕液0.9ml、6−クロロ−3−フェニルインデノン10mg、NAD・NADP各1mg、グルコース20mg、グルコース脱水素酵素(商品名:GLUCDH”Amano”II、天野エンザイム社製)5U、1Mリン酸緩衝液(pH6.5)0.1mlを加えて、30℃で24時間反応させた。
【0237】
反応終了後、実施例4と同様にして分析を行い、生成した(S)−6−クロロ−3−フェニルインデノールの光学純度を算出したところ、52.4%e.e.であった。
【0238】
(実施例19)オガタエア・ミニュータ・バー・ミニュータ由来のカルボニル還元酵素を用いた(S)−6−クロロ−3−フェニルインデノールの製造
オガタエア・ミニュータ・バー・ミニュータ由来のカルボニル還元酵素を生産する
E.
coli HB101(pNTOM5)(国際特許公報WO2006/013801の実施例6に記載)を用いて実施例18と同様に6−クロロ−3−フェニルインデノンの反応を行った。実施例4と同様にして分析を行ったところ、生成した(S)−6−クロロ−3−フェニルインデノールの光学純度は84.4%e.e.であった。
【0239】
(実施例20)ブレヴァンディモナス・ディミヌータ由来のカルボニル還元酵素を用いた(S)−6−クロロ−3−フェニルインデノールの製造
ブレヴァンディモナス・ディミヌータ由来のカルボニル還元酵素を生産する
E.
coli HB101(pNBD)(国際特許公報WO2007/114217の実施例8に記載)を用いて実施例18と同様に6−クロロ−3−フェニルインデノンの反応を行った。実施例4と同様にして分析を行ったところ、生成した(S)−6−クロロ−3−フェニルインデノールの光学純度は96.1%e.e.であった。
【0240】
(実施例21)オガタエア・ミニュータ・バー・ミニュータ由来のカルボニル還元酵素を用いた(R)−6−クロロ−3−フェニルインデノールの製造
オガタエア・ミニュータ・バー・ミニュータ由来のカルボニル還元酵素を生産する
E.
coli HB101(pNTOM3)(国際特許公報WO2006/013801の実施例8に記載)を用いて実施例18と同様に6−クロロ−3−フェニルインデノンの反応を行った。実施例4と同様にして分析を行ったところ、生成した(R)−6−クロロ−3−フェニルインデノールの光学純度は66.3%e.e.であった。
【0241】
(実施例22)バシラス・メガテリウム由来のグルコース脱水素酵素を用いた(R)−6−クロロ−3−フェニルインデノールの製造
実施例4で使用したバシラス・メガテリウム由来のグルコース脱水素酵素を生産する
E.
coli HB101(pNTG1)を用いて実施例18と同様に6−クロロ−3−フェニルインデノンの反応を行った。実施例4と同様にして分析を行ったところ、生成した(R)−6−クロロ−3−フェニルインデノールの光学純度は92.1%e.e.であった。
【0242】
(実施例23)キャンディダ・マグノリエ由来のカルボニル還元酵素を用いた(S,S)−6−クロロ−3−フェニルインダノールの製造
キャンディダ・マグノリエ由来のカルボニル還元酵素を生産する
E.
coli HB101(pNTCR)(特許第4510351号の実施例5に記載)を実施例4と同様に培養した。培養後、超音波ホモジナイザーによる菌体破砕を実施し、菌体破砕液0.9ml、(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノン(99.9%e.e.以上)10mg、NAD・NADP各1mg、グルコース20mg、グルコース脱水素酵素(商品名:GLUCDH”Amano”II、天野エンザイム社製)5U、1Mリン酸緩衝液(pH6.5)0.1mlを加えて、30℃で24時間反応させた。対照実験として菌体破砕液を添加しない反応も実施した。
【0243】
反応終了後、2倍量の酢酸エチルで抽出し、有機層を希釈して下記高速液体クロマトグラフィーで分析し、生成した6−クロロ−3−フェニルインダノールの(S,S)体/(S,R)体比を算出した。
【0244】
その結果、
E.
coli HB101(pNTCR)を添加した反応では、6−クロロ−3−フェニルインダノールへの変換率は28%、(S,S)体/(S,R)体比は100/0であった。一方、
E.
coli HB101(pNTCR)を添加しなかった対照実験では6−クロロ−3−フェニルインダノールの生成は確認できなかった。
【0245】
<高速液体クロマトグラフィーの分析条件>
カラム:日本分光株式会社製Finepak SIL C18T−5(250mm×4.6mm)
溶離液:10mM リン酸カリウム緩衝液/アセトニトリル=3/7
流速:1.0ml/min
検出:254nm
検出時間:(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノン 17.1分、(S,R)−6−クロロ−3−フェニルインダノール 13.1分、(S,S)−6−クロロ−3−フェニルインダノール 14.4分
【0246】
(実施例24)キャンディダ・マリス由来のカルボニル還元酵素を用いた(S,S)−6−クロロ−3−フェニルインダノールの製造
キャンディダ・マリス由来のカルボニル還元酵素を生産する
E.
coli HB101(pNTFP)(国際特許公報WO2001/05996の実施例24に記載)を用いて実施例23と同様に(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの反応を行った。実施例23と同様にして分析を行ったところ、生成した6−クロロ−3−フェニルインダノールの(S,S)体/(S,R)体比は100/0であった。
【0247】
(実施例25)デボシア・リボフラビナ由来のカルボニル還元酵素を用いた(S,S)−6−クロロ−3−フェニルインダノールの製造
デボシア・リボフラビナ由来のカルボニル還元酵素を生産する
E.
coli HB101(pNTDR)(特許第4414337号の実施例6に記載)を用いて実施例23と同様に(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの反応を行った。実施例23と同様にして分析を行ったところ、生成した6−クロロ−3−フェニルインダノールの(S,S)体/(S,R)体比は100/0であった。
【0248】
(実施例26)キャンディダ・マグノリエ由来のカルボニル還元酵素を用いた(S,S)−6−クロロ−3−フェニルインダノールの製造
キャンディダ・マグノリエ由来のカルボニル還元酵素を生産するE.coli HB101(pNTCM)(国際特許公報WO2006/046455の実施例5に記載)を用いて実施例23と同様に(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの反応を行った。実施例23と同様にして分析を行ったところ、生成した6−クロロ−3−フェニルインダノールの(S,S)体/(S,R)体比は100/0であった。
【0249】
(実施例27)キャンディダ・マルトーサ由来のカルボニル還元酵素を用いた(S,S)−6−クロロ−3−フェニルインダノールの製造
キャンディダ・マルトーサ由来のカルボニル還元酵素を生産する
E.
coli HB101(pNCM)(国際特許公報WO2008/066018の実施例8に記載)を用いて実施例23と同様に(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの反応を行った。実施例23と同様にして分析を行ったところ、生成した6−クロロ−3−フェニルインダノールへの(S,S)体/(S,R)体比は100/0であった。
【0250】
(実施例28)オガタエア・ミニュータ・バー・ミニュータ由来のカルボニル還元酵素を用いた(S,S)−6−クロロ−3−フェニルインダノールの製造
オガタエア・ミニュータ・バー・ミニュータ由来のカルボニル還元酵素を生産する
E.
coli HB101(pNTOM5)(国際特許公報WO2006/013801の実施例6に記載)を用いて実施例23と同様に(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの反応を行った。実施例23と同様にして分析を行ったところ、生成した6−クロロ−3−フェニルインダノールへの(S,S)体/(S,R)体比は100/0であった。
【0251】
(実施例29)サッカロマイセス・セレビシエ由来のカルボニル還元酵素を用いた(S,S)−6−クロロ−3−フェニルインダノールの製造
サッカロマイセス・セレビシエ由来のカルボニル還元酵素を生産する
E.
coli HB101(pNSC1)(特開2010−130912の参考例1に記載)を用いて実施例23と同様に(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの反応を行った。実施例23と同様にして分析を行ったところ、生成した6−クロロ−3−フェニルインダノールの(S,S)体/(S,R)体比は100/0であった。
【0252】
(実施例30)ブレヴァンディモナス・ディミヌータ由来のカルボニル還元酵素を用いた(S,S)−6−クロロ−3−フェニルインダノールの製造
ブレヴァンディモナス・ディミヌータ由来のカルボニル還元酵素を生産する
E.
coli HB101(pNBD)(国際特許公報WO2007/114217の実施例8に記載)を用いて実施例23と同様に(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの反応を行った。実施例23と同様にして分析を行ったところ、生成した6−クロロ−3−フェニルインダノールの(S,S)体/(S,R)体比は100/0であった。
【0253】
(実施例31)パエニバシラス・アルベイ由来のカルボニル還元酵素を用いた(S,S)−6−クロロ−3−フェニルインダノールの製造
パエニバシラス・アルベイ由来のカルボニル還元酵素を生産する
E.
coli HB101(pNTBA)(国際特許公報WO2007/099764の実施例4に記載)を用いて実施例23と同様に(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの反応を行った。実施例23と同様にして分析を行ったところ、生成した6−クロロ−3−フェニルインダノールへの(S,S)体/(S,R)体比は100/0であった。
【0254】
(実施例32)シュードモナス・スツッツェリ由来のカルボニル還元酵素を用いた(S,S)−6−クロロ−3−フェニルインダノールの製造
シュードモナス・スツッツェリ由来のカルボニル還元酵素を生産する
E.
coli HB101(pNPS)(国際特許公報WO2007/099994の実施例5に記載)を用いて実施例23と同様に(S)−6−クロロ−3−フェニルインダノンの反応を行った。実施例23と同様にして分析を行ったところ、生成した6−クロロ−3−フェニルインダノールへの(S,S)体/(S,R)体比は100/0であった。
【0255】
(実施例33)(S,S)−6−クロロ−3−フェニルインダノン
6−クロロ−3−フェニルインデノン100mgのメタノール溶液に[RuCl((S,S)−トシルジフェニルエチレンジアミン)(p−シメン)]錯体触媒5.6mg、トリエチルアミン168mg、蟻酸67mgを加え、室温で16時間攪拌した。反応後、酢酸エチル、水を加えて生成物を抽出した。その後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、硫酸マグネシウムを濾過し、得られた濾液を減圧濃縮することにより、6−クロロ−3−フェニルインダノンを収率30%で取得した。また、表題化合物の光学純度は47%eeであった。
1H NMR(CDCl
3):δ7.76(d、1H、J=2.2、7.8Hz)、7.51(dd、1H、J=2.0、8.3Hz)、7.42−7.12(m、4H)、7.20−7.04(m、2H)、4.54(dd、1H、J=3.9、8.0Hz)、3.26(dd、1H、J=8.0、19.3Hz)、2.72(dd、1H、J=3.9、19.3Hz).