【文献】
Yang, Chin-Ping et al,Synthesis and characterization of organosoluble copolyimides based on 2,2-bis[4-(4-aminophenoxy)phenyl]propane, 2,2-bis[4-(4-aminophenoxy)phenyl]hexafluoropropane and a pair of commercial aromatic dianhydrides,Journal of Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry,2000年,38(21),p3954-3961
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
芳香族テトラカルボン酸化合物および芳香族ジアミン化合物を縮重合して得られる芳香族ポリイミドは、機械強度、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性などに優れているため、電子機器用材料、航空宇宙機器用材料などの用途で広く利用されている。
【0003】
従来から多く使用されているポリイミド材料としては、パラフェニレンジアミン(PDA)−ビフェニルテトラカルボン酸(BPDA)系ポリイミド、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)−ピロメリット酸二無水物(PMDA)系ポリイミドなどの二成分系ポリイミドや、上記モノマーを任意の比率で共重合した三成分系や四成分系ポリイミドなどが提案されている。
【0004】
上記に示したような芳香族ポリイミドはその剛直な分子構造とそれらを連結するイミド結合の強い相互作用により、非常に高い機械強度、耐熱性、耐薬品性、絶縁性など優れた特性を有する。しかし一方で、その分子構造および分子間相互作用ゆえに溶媒溶解性に乏しく、成型を行うには前駆体であるポリアミド酸ワニスの形態でしか行えないこと、また加熱硬化時に溶媒とともにイミド結合を形成し縮合水が発生することなどが加工面での欠点となっている。
【0005】
このような芳香族ポリイミドに溶媒可溶性を付与するには、屈曲性結合や高溶解性官能基を有するモノマーを導入することが有効な手段であり、一般的には一部アミド結合を導入したポリアミドイミド(特許文献1)やエーテル結合を導入したポリエーテルイミド(特許文献2、3)が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に示すような一般的な可溶性ポリイミドは、構成するモノマーの分子構造が柔軟すぎる、ポリマーの重合度が低いなどの理由から、成形体の機械的強度、特に靭性(伸び率)が低くなるという傾向がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、芳香族テトラカルボン酸成分において4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA)と3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を特定の量比で重合させることで、ポリイミド成形体が強靭化できることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、下記1〜4を提供する。
(1)2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンからなるジアミン成分に、4,4’−オキシジフタル酸無水物:
80モル%
以上、90モル%未満および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:
20モル%
以下、10モル%超からなる酸成分を重合させて得られるポリアミド酸。
(2)2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンからなるジアミン成分に、4,4’−オキシジフタル酸無水物:
80モル%
以上、90モル%未満および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:
20モル%
以下、10モル%超からなる酸成分を重合させて得られるポリアミド酸を含有するポリアミド酸組成物。
(3)2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンからなるジアミン成分に、4,4’−オキシジフタル酸無水物:
80モル%
以上、90モル%未満および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:
20モル%
以下、10モル%超からなる酸成分を重合させて得られるポリイミド。
(4)2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンからなるジアミン成分に、4,4’−オキシジフタル酸無水物:
80モル%
以上、90モル%未満および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物:
20モル%
以下、10モル%超からなる酸成分を重合させて得られるポリイミドを含有するポリイミド組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリアミド酸およびポリイミドは、高溶媒溶解性を保持しつつ、得られるポリイミド成形体の機械的強度が高い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について以下詳細に説明する。
<1.ポリアミド酸(ポリアミド酸組成物)>
本発明のポリアミド酸は、芳香族ジアミン化合物として2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)と、芳香族テトラカルボン酸化合物として4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA):
80モル%
以上、90モル%未満、および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA):
20モル%
以下、10モル%超を重合させることによって得られるポリアミド酸である。
ポリアミド酸はその分子構造について特に制限されない。例えば、重合条件によりランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体が例示できる。
本発明は、また、このポリアミド酸を含有するポリアミド酸組成物である。
本発明のポリアミド酸組成物は以下で説明するポリアミド酸に加えて、その製造時に用いられた溶媒、脱水剤、触媒、未反応物、等から選択される少なくとも1つを含有する組成物であってもよい。または、ポリアミド酸に、必要に応じて、溶媒、酸化安定剤、フィラー、接着促進剤、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤、増感剤、末端封止剤、架橋剤などの添加物を加えてポリアミド酸組成物とすることができる。
本発明のポリアミド酸組成物に含有されるポリアミド酸は、本発明のポリアミド酸それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0012】
本発明のポリアミド酸および本発明のポリアミド酸組成物は、芳香族テトラカルボン酸化合物においてビフェニル骨格をもつ芳香族テトラカルボン酸化合物を特定の量比で導入することで、高溶媒溶解性と強靭性との両立を実現したものであり、従来技術の問題点を改善できるものである。
本願発明者はポリアミド酸およびポリアミド酸から得られる可溶性ポリイミド中にBPDAを特定の量で導入することによって、機械的強度(特に靭性)に優れたものとすることができることを見出した。
すなわち本発明は、ポリアミド酸を重合する際に使用される芳香族テトラカルボン酸成分は高溶媒溶解性、機械強度、耐薬品性、吸湿性、絶縁性などに優れるという観点から、4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA)および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を含む。
【0013】
本発明において、ポリアミド酸を重合する際に使用される芳香族テトラカルボン酸化合物成分は高溶媒溶解性と高機械強度とを両立させるという観点から、芳香族ジアミン化合物として2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)と、芳香族テトラカルボン酸化合物として4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA):
80モル%
以上、90モル%未満、および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA):
20モル%
以下、10モル%超を含む。
【0014】
芳香族テトラカルボン酸化合物成分において、BPDAの割合が上記より小さくなると、得られるポリイミドにおいてBPDA導入による機械的強度向上の効果が小さくなるため好ましくない。また、BPDAの割合が上記より大きくなると、溶媒溶解性が低下する、機械的強度が低下するなどのため好ましくない。
芳香族テトラカルボン酸成分中におけるODPAの量は、高溶媒溶解性と高機械的強度とを両立させるという観点から、
80モル%
以上、90モル%未満であり、
80モル%
以上、85モル%以下であることが好ましい。
芳香族テトラカルボン酸成分中におけるBPDAの量は、高溶媒溶解性と高機械的強度とを両立させるという観点から、
20モル%
以下、10モル%超であり、
20モル%
以下、15モル%以上であることが好ましい。
【0015】
本発明のポリアミド酸組成物はさらに溶媒を含有するのが好ましい態様の1つとして挙げられる。本発明のポリアミド酸組成物が含有することができる溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPということがある)、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドおよびジメチルスルホンなどが挙げられ、これらを単独あるいは混合して使用するのが好ましい。
ポリアミド酸の重合時に用いられた溶媒をそのまま含有していてもよい。
【0016】
<2.ポリアミド酸の製造方法>
本発明のポリアミド酸組成物(本発明のポリアミド酸)はその製造について、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)と、芳香族テトラカルボン酸化合物として4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA):
80モル%
以上、90モル%未満、および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA):
20モル%
以下、10モル%超を重合させること以外は特に制限されない。
本発明のポリアミド酸組成物(本発明のポリアミド酸)を製造する際さらに溶媒を用いるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。例えば、溶媒中で酸成分とジアミン成分とを添加し、これらを混合して混合物とし、混合物を重合することで得られる。酸成分とジアミン成分とはほぼ等モルとなる量で使用することができる。混合物は必要に応じて後述する添加剤をさらに含有することができる。
【0017】
混合物を重合させる条件は特に制限されない。例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に、BAPPおよびODPA、BPDAを添加して得られた混合物を、常温〜50℃の条件下において、大気圧中で撹拌し反応させて、ポリアミド酸の溶液(ポリアミド酸組成物)を製造する方法が挙げられる。
上記製造方法で得られるポリアミド酸(共重合ポリアミド酸)は溶媒中に10〜40質量%の割合(濃度)で調製するのが好ましい。
【0018】
本発明のポリアミド酸組成物はさらに添加剤を含有することができる。添加剤としては、ポリアミド酸を環化させてポリイミドにするために使用される、脱水剤、触媒が挙げられる。
脱水剤としては、例えば、無水酢酸等の脂肪族酸無水物、フタル酸無水物等の芳香族酸無水物等が挙げられ、これらを単独あるいは混合して使用するのが好ましい。
また触媒としては、ピリジン、ピコリン、キノリン等の複素環式第3級アミン類、トリエチルアミン等の脂肪族第3級アミン類、N,N−ジメチルアニリンなどの芳香族第3級アミン類等が挙げられ、これらを単独あるいは混合して使用するのが好ましい。
【0019】
本発明のポリアミド酸組成物はその使用方法について特に制限されない。例えば、本発明のポリアミド酸組成物から溶媒を除去してフィルムを形成することができる。フィルムを形成する方法は特に制限されない。例えば従来公知の方法が挙げられる。
本発明のポリアミド酸組成物(本発明のポリアミド酸)を硬化させてポリイミド組成物(ポリイミド)を製造することができる。
【0020】
<3.ポリイミド、ポリイミド組成物>
本発明のポリイミドは上記のポリアミド酸を環化させて得られる。
本発明のポリイミド組成物は、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)と、芳香族テトラカルボン酸化合物として4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA):
80モル%
以上、90モル%未満および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA):
20モル%
以下、10モル%超を重合させることによって得られるポリイミドを含有するポリイミド組成物である。
本発明のポリイミド組成物を製造する際に使用される、ジアミン成分、酸成分は本発明のポリアミド酸の成分と同様である。
本発明のポリイミド組成物に含有されるポリイミドは本発明のポリイミドに相当する。
本発明のポリイミド組成物(本発明のポリイミド)は、その製造について、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)と、芳香族テトラカルボン酸化合物として4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA):
80モル%
以上、90モル%未満および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA):
20モル%
以下、10モル%超とを重合させること以外は特に制限されない。
本発明のポリイミドはその分子構造について特に制限されない。例えば、重合条件によりランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体が例示できる。
本発明のポリイミド組成物に含有されるポリイミドはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
<4.ポリイミド組成物(ポリイミド)の製造方法>
ポリイミド組成物の製造は、例えば、溶媒に上記の酸成分(芳香族テトラカルボン酸類成分)とジアミン成分(芳香族ジアミン成分)とを添加して、これらを混合して混合物とし、混合物を重合することによって得ることができる。
本発明のポリイミド組成物(本発明のポリイミド)は、混合物を用いて直接重合させて製造することもできるし、本発明のポリアミド酸組成物または本発明のポリアミド酸を環化して製造することもできる。
ポリアミド酸を環化させてポリイミドにする方法としては、例えば、脱水剤と触媒を用いて脱水する化学閉環法、熱的に脱水する熱閉環法があり、いずれで行っても良い。化学閉環法で使用する脱水剤、触媒は上記ポリアミド酸の製造方法で説明したものと同様である。
【0022】
<5.ポリイミドの溶液(ワニス)>
ワニス(仮漆)は、材料の表面を保護するために用いられる、透明で硬い上塗り剤(塗料)である。本発明のワニスはポリイミドの溶液をいうが、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)ワニス(溶液)を塗布後、乾燥・イミド化して得られる物も含まれる。ポリイミドワニスは、上塗り剤として使用できるほか、ポリイミドフィルムやポリイミド粉末を製造するために用いることができる。
【0023】
<6.ポリイミドフィルム、ポリイミド粉末>
ポリイミドフィルムを製造する方法について述べる。ポリイミド前駆体の溶液(ワニス)を不溶性ポリイミドフィルム、ガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコンなどの基板上に流延し、オーブン中で乾燥する。得られたポリイミド前駆体フィルムを基板上で真空中、窒素などの不活性ガス中、あるいは空気中で加熱することで本発明のポリイミドフィルムを製造することができる。イミド化は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、イミド化温度が高すぎなければ空気中で行っても差し支えない。
また、イミド化反応は、熱的に行う代わりにポリイミド前駆体フィルムをピリジンやトリエチルアミンなどの3級アミン存在下、無水酢酸などの脱水環化試薬を含有する溶液に浸漬することによって行うことも可能である。また、これらの脱水環化試薬をあらかじめポリイミド前駆体ワニス中に投入し、必要な場合は加熱して、攪拌することで、ポリイミドワニスを得ることができる。これを水やメタノールなどの貧溶媒中に滴下・濾過することで、ポリイミド粉末として単離することができる。また、上記ポリイミドワニスを上記基板上に流延・乾燥することで、ポリイミドフィルムを作製することもできる。これをさらに熱処理しても差し支えない。
ポリイミド粉末を加熱圧縮することでポリイミドの成型体を作製することができる。
【実施例】
【0024】
以下実施例により本発明を具体例に説明する。ただし本発明はこれらに限定されない。
[特性評価]
各機械特性(引張弾性率、伸び率、引張強度)は次の方法で評価した。結果を表1に示す。
[試験方法]
・引張強度試験
試験方法:JIS K7127
引張速度:102mm/min
チャック間距離:30mm
試験機:島津製作所製AGS−J
【0025】
(
参考例1)
窒素雰囲気下、NMP1062.5gに、BAPPを107.0g(0.26モル)、ODPAを40.81g(0.13モル)、BPDAを37.15g(0.13モル)を添加し、常温、大気圧中で3時間撹拌、反応させ、ポリアミド酸溶液(ポリアミド酸組成物)を得た。
得られたポリアミド酸を、100℃で1時間、200℃で1時間、縮合水を系外へ除去しながら加熱撹拌し、ポリイミド溶液を得た。
得られたポリイミド溶液15gを、バーコーターを用いてガラス板に塗布し、120℃で30分間、160℃で15分間、250℃で30分間加熱乾燥し、約25μm厚のポリイミドフィルムを得た。
得られたフィルムの特性評価試験を行い、表1にその結果を示した。なお、各成分モル比は、全芳香族ジアミン成分中および全芳香族テトラカルボン酸成分中のモル比とする。
【0026】
(実施例
1、2、参考例2)
参考例1と同様の手順で、芳香族ジアミン成分および芳香族テトラカルボン酸成分を表1に示すモル比でポリアミド酸およびポリイミドフィルムを作製、特性評価試験を行い、表1にその結果を示した。
【0027】
(比較例1〜4)
参考例1と同様の手順で、芳香族ジアミン成分および芳香族テトラカルボン酸成分を表2に示すモル比でポリアミド酸およびポリイミドフィルムを作製、特性評価試験を行い、表2にその結果を示した。
【0028】
【表1】
【0029】
各表に示されているモノマー成分の詳細は以下のとおりである。
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
BAPP:2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
ODPA:4,4’−オキシジフタル酸無水物
BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
【0030】
上記の表1に示す結果から明らかなように、BPDAを含まないBAPP−ODPA系ポリイミド(比較例1)およびODPAを含まないBAPP−BPDA系ポリイミド(比較例4)は、伸び率が非常に低く、引張強度も低かった。また、OPDAを90モル%およびBDPA10モル%を含むポリイミド(比較例2)、OPDA20モル%およびBPDA80モル%を含むポリイミド(比較例3)は、比較例1および4と同様に伸び率が非常に低く、引張強度も低かった。
これに対して、実施例
1、2は特に伸び率が高く、引張強度も高く、機械強度に優れている。