特許第5941480号(P5941480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5941480高分子量モリブデンスクシンイミド錯体を調製するための改良型プロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941480
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】高分子量モリブデンスクシンイミド錯体を調製するための改良型プロセス
(51)【国際特許分類】
   C07F 11/00 20060101AFI20160616BHJP
   C07D 207/412 20060101ALI20160616BHJP
   C10M 159/12 20060101ALI20160616BHJP
   C10M 159/18 20060101ALI20160616BHJP
   C10M 133/16 20060101ALI20160616BHJP
   C10M 133/56 20060101ALI20160616BHJP
   C10M 129/26 20060101ALI20160616BHJP
   C10M 125/08 20060101ALI20160616BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20160616BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20160616BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20160616BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20160616BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20160616BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20160616BHJP
【FI】
   C07F11/00 B
   C07D207/412CSP
   C10M159/12
   C10M159/18
   C10M133/16
   C10M133/56
   C10M129/26
   C10M125/08
   C10N10:12
   C10N20:04
   C10N30:06
   C10N40:04
   C10N40:08
   C10N40:25
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-550493(P2013-550493)
(86)(22)【出願日】2012年1月9日
(65)【公表番号】特表2014-504599(P2014-504599A)
(43)【公表日】2014年2月24日
(86)【国際出願番号】US2012020614
(87)【国際公開番号】WO2012099736
(87)【国際公開日】20120726
【審査請求日】2015年1月9日
(31)【優先権主張番号】13/011,520
(32)【優先日】2011年1月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598037547
【氏名又は名称】シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ネルソン、ケネス ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ハリソン、ジェイムズ ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ロジャース、ポーラ
(72)【発明者】
【氏名】ホッセイニ、ミトラ
【審査官】 石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/002863(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0325833(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/002865(WO,A1)
【文献】 特表2014−503030(JP,A)
【文献】 特開2004−002866(JP,A)
【文献】 特開昭55−043195(JP,A)
【文献】 特開昭56−010591(JP,A)
【文献】 米国特許第04324672(US,A)
【文献】 特開2002−105478(JP,A)
【文献】 特開2000−129278(JP,A)
【文献】 特開昭59−155356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)式Iもしくは式II:
【化1】

【化2】

(式中、Rは、数平均分子量が500〜5,000のアルキル基またはアルケニル基であり、R’は炭素原子数が2〜3の直鎖もしくは分岐鎖アルキレン基であり、xは2〜11、かつyは1〜10)のポリアミンのアルキル系またはアルケニル系のモノ−スクシンイミドもしくはビス−スクシンイミドまたはこれらの混合物を、アクリル酸、メタクリル酸、またはこれらの混合物からなる群から選択されるα,β−不飽和モノカルボン酸と反応させるプロセスであって、式Iもしくは式IIの前記スクシンイミドまたはこれらの混合物に対する前記α,β−不飽和モノカルボン酸のモル比が1.05超〜6であり、かつ反応温度が80℃超〜150℃以下の範囲であるステップと、
(b)ステップ(a)の前記スクシンイミド生成物を酸性モリブデン化合物と反応させて、室温で液体であるモリブデン化スクシンイミド錯体を生成するステップと
を含む、モリブデン化スクシンイミド錯体を調製するための方法。
【請求項2】
前記酸性モリブデン化合物がモリブデン酸、アンモニウムモリブデート、ナトリウムモリブデート、カリウムモリブデート、ハイドロジェンナトリウムモリブデート、MoOCl、MoOBr、MoCl、モリブデントリオキシド、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記α,β−不飽和モノカルボン酸がアクリル酸であり、前記酸性モリブデン化合物がモリブデントリオキシドである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
式Iもしくは式IIの前記スクシンイミドまたはこれらの混合物に対するα,β−不飽和モノカルボン酸の前記モル比が1.5〜6である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(a)の前記スクシンイミド生成物に対する前記モリブデン化合物のモル比が0.1〜2である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップ(a)のアルキルスクシンイミドまたはアルケニルスクシンイミドが式Iおよび式IIの前記スクシンイミドの混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記スクシンイミド混合物において、式IIの前記スクシンイミドに対する式Iの前記スクシンイミドの比が1〜10である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(a)の前記反応温度が少なくとも90℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(a)の前記反応温度が少なくとも100℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(a)の前記反応温度が140℃以下である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的に、高分子量モリブデンスクシンイミド(高分子量モリブデンコハク酸イミド)錯体を調製するための改良型プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、有機モリブデン化合物はエンジンオイルの潤滑性を改善することで知られている。摩擦低減の目的に用いられる典型的な例としては、モリブデンジチオカーバメートが挙げられる。しかしながら、モリブデンジチオカーバメートは硫黄を含有し、代替の硫黄源が潤滑油中に存在しない限り、摩擦低減能力を徐々に失う。有機モリブデン化合物の別の例としては、摩耗を媒介し、摩擦を低減し、および/または酸化を制御するために使用される、硫化モリブデンポリイソブテニルスクシンイミド錯体が挙げられる。例えば、米国特許第4,259,194号明細書;同第4,265,773号明細書;同第4,283,295号明細書;同第4,285,822号明細書;同第6,962,896号明細書、および米国特許出願公開第2005/0209111号を参照のこと。潤滑油中に硫黄を使用することに付随する問題は、硫黄がエミッションコントロール装置と相性が悪く、その場合に腐食の問題が起こる可能性があることである。
【0003】
米国特許第4,357,149号明細書、および米国特許第4,500,439号明細書には、モリブデン化C15−C20アルケニルスクシンイミドが開示されている。これら両方の特許の実施例XIにおいては、C15−C20アルケニルコハク酸無水物をトリエチレンテトラミンと反応させてからモリブデン酸溶液で処理することによって、モリブデン化スクシンイミドを調製する。
【0004】
露国特許第2,201,433号明細書には、マレイン酸無水物で後処理されたモリブデン化スクシンイミドが、内燃機関内で使用されるモータ油の添加剤として開示されている。露国特許第2,201,433号明細書には、促進剤としての水の存在下で、ポリエチレンポリアミンのアルケニルスクシンイミドをアンモニウムモリブデートと反応させてから、その結果物を、ポリエチレンポリアミンのアルケニルスクシンイミド1molあたり0.2〜1.0mol量のマレイン酸無水物と反応させることにより、添加剤が調製されることも、更に開示されている。露国特許第2,201,433号明細書において開示されている全ての実施例には、ポリエチレンポリアミンのアルケニルスクシンイミドの調製に高分子量のポリイソブテニル(950M.W.)コハク酸無水物(PIBSA)が採用されている。
【0005】
モリブデンスクシンイミド錯体はまた、米国特許出願公開第2009/0325833号にも記載されている。高分子量アルキルアミンから誘導されたときにこれらの錯体は、良好な摩擦、摩耗および酸化阻害を呈する。これらの錯体は、スクシンイミドに対するマレイン酸無水物のチャージモル比を約1:1としてスクシンイミドのアミン部分をマレイン酸無水物で後処理し、その後、モリブデントリオキシドで更に後処理する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,259,194号明細書
【特許文献2】米国特許第4,265,773号明細書
【特許文献3】米国特許第4,283,295号明細書
【特許文献4】米国特許第4,285,822号明細書
【特許文献5】米国特許第6,962,896号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2005/0209111号
【特許文献7】米国特許第4,357,149号明細書
【特許文献8】米国特許第4,500,439号明細書
【特許文献9】露国特許第2,201,433号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、モリブデン化スクシンイミド錯体を調製するためのプロセスが提供されている。本プロセスは
(a)式Iもしくは式II:
【化1】

【化2】

(式中、Rは、数平均分子量が約500〜約5,000のアルキル基またはアルケニル基であり、R’は炭素原子数が2〜3の直鎖もしくは分岐鎖アルキレン基であり、xは1〜11、かつyは1〜10)のポリアミンのアルキル系またはアルケニル系のモノ−スクシンイミドもしくはビス−スクシンイミドまたはこれらの混合物をα,β−不飽和モノカルボン酸もしくはカルボン酸エステルと反応させるプロセスであって、式Iもしくは式IIのスクシンイミドまたはこれらの混合物に対するα,β−不飽和モノカルボン酸またはカルボン酸エステルのチャージモル比(charge mole ratio)が1.05超:1〜約6:1であり、かつ反応温度が80℃超〜約150℃以下の範囲であるプロセスと、
(b)プロセス(a)のスクシンイミド生成物を酸性モリブデン化合物と反応させて、室温で液体であるモリブデン化スクシンイミド錯体を生成するプロセスと
を含む。
【0008】
他の因子の中で、本発明は改良型モリブデン化スクシンイミド錯体、およびその調製のための改良型プロセスの驚くべき発見に基づく。分子のアミン部分がα,β−不飽和モノカルボン酸またはカルボン酸エステルで後処理された高分子量アルキルスクシンイミドまたはアルケニルスクシンイミドからモリブデンスクシンイミド錯体を誘導した場合、摩擦および摩耗の低減された産物が得られることが発見された。
【0009】
本プロセスのもう1つの利点は、ポリアミンのアルキルスクシンイミドまたはアルケニルスクシンイミドとα,β−不飽和モノカルボン酸またはカルボン酸エステルとの反応を、約150℃以下の温度で実行できることである。
【0010】
約150℃以下で、α,β−不飽和モノカルボン酸またはカルボン酸エステルで後処理して、潤滑油組成物に配合して内燃機関に使用すると、摩擦低減が有利に改善された生成物を得ることができる。
【0011】
式Iもしくは式IIのスクシンイミドまたはこれらの混合物に対するα,β−不飽和モノカルボン酸またはカルボン酸エステルのチャージモル比は1.05超:1〜約6:1であり、その結果物は、後処理済みのものに比べて驚くほどの摩耗性能の向上を呈し、式Iもしくは式IIのスクシンイミドまたはこれらの混合物に対するα,β−不飽和モノカルボン酸またはカルボン酸エステルのチャージモル比は約1:1であることが、更に発見された。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一般的に、モリブデン化スクシンイミド錯体を調製するためのプロセスが提供されている。本プロセスは
(a)式Iもしくは式II:
【化3】

【化4】

(式中、Rは、数平均分子量が約500〜約5,000のアルキル基またはアルケニル基であり、R’は炭素原子数が2〜3の直鎖もしくは分岐鎖アルキレン基であり、xは1〜11、かつyは1〜10)のポリアミンのアルキル系またはアルケニル系のモノ−スクシンイミドもしくはビス−スクシンイミドまたはこれらの混合物をα,β−不飽和モノカルボン酸もしくはカルボン酸エステルと反応させるプロセスであって、式Iもしくは式IIのスクシンイミドまたはこれらの混合物に対するα,β−不飽和モノカルボン酸またはカルボン酸エステルのチャージモル比が1.05超:1〜約6:1であり、かつ反応温度が80℃超〜約150℃以下の範囲であるプロセスと、
(b)プロセス(a)のスクシンイミド生成物を酸性モリブデン化合物と反応させて、室温で液体であるモリブデン化スクシンイミド錯体を生成するプロセスと
を含む。
【0013】
一実施形態において、プロセスにおけるプロセス(a)の反応温度は80℃超〜約140℃以下の範囲である。別の実施形態において、プロセスにおけるプロセス(a)の反応温度は80℃超〜約135℃以下の範囲である。
【0014】
一実施形態において、R置換基は数平均分子量が約500〜約5,000のアルキル基またはアルケニル基である。別の実施形態において、R置換基は数平均分子量が約700〜約2500のアルキル基またはアルケニル基である。別の実施形態において、R置換基は数平均分子量が約710〜約1100のアルキル基またはアルケニル基である。別の実施形態において、R’は2;xは2〜5;かつyは1〜4である。
【0015】
プロセス(a)においては、式Iもしくは式II:
【化5】

【化6】

(式中、R、R’、xおよびyの意味は上記の通りである。)のスクシンイミドまたはこれらの混合物を、アクリル酸などの、α,β−不飽和モノカルボン酸またはカルボン酸エステルと反応させる。式Iもしくは式IIの開始スクシンイミドは、式III:
【化7】

(式中、Rの意味は上記の通りである。)の無水物をポリアミンと反応させることによって得ることができる。式IIIの無水物は、例えば、Chevron Oronite Company LLCなどの供給元から市販されているか、または当分野において周知の何らかの方法で調製できる。一実施形態において、式IIIの無水物に対するポリアミンのチャージモル比は0.5:1〜1:1である。別の実施形態において、ポリアミンの式IIIの無水物のチャージモル比は0.8:1〜1:1である。別の実施形態において、式IIIの無水物に対するポリアミンのチャージモル比は0.9:1である。
【0016】
一実施形態において、プロセス(a)のアルキル系またはアルケニル系のモノ−スクシンイミドまたはビス−スクシンイミドは、式Iおよび式IIのスクシンイミドの混合物である。別の実施形態において、スクシンイミド混合物における、式IIのビス−スクシンイミドに対する式Iのモノ−スクシンイミドの比は約1:1〜10:1である。別の実施形態において、スクシンイミド混合物における、式IIのビス−スクシンイミドに対する式Iのモノ−スクシンイミドの比は少なくとも約4:1である。別の実施形態において、スクシンイミド混合物における、式IIのビス−スクシンイミドに対する式Iのモノ−スクシンイミドの比は少なくとも約9:1である。別の実施形態において、スクシンイミド混合物における、式IIのビス−スクシンイミドに対する式Iのモノ−スクシンイミドの比は少なくとも約1:1である。
【0017】
式Iもしくは式IIのスクシンイミドの調製での使用に適したポリアミンは、ポリアルキレンジアミン類を含むポリアルキレンポリアミン類またはその混合物である。そのようなポリアルキレンポリアミン類は、典型的に約2〜約12個の窒素原子および約2〜24個の炭素原子を含む。特に好適なポリアルキレンポリアミン類は、式HN−(RNH)−Hを有するものであり、式中、Rは2または3個、好ましくは2個の炭素原子数を有する直鎖または分岐鎖アルキレン基であり、xは2〜11である。好適なポリアルキレンポリアミン類の代表例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、ならびにこれらの混合物のポリエチレンポリアミンが包含される。一実施形態において、ポリアルキレンポリアミンは、テトラエチレンペンタアミンである。
【0018】
本発明での使用に適したポリアミンの多くが市販されている一方、当分野における周知の方法で調製できるものもある。例えば、アミン類の調製方法とこれらの反応については、Sidgewick著「The Organic Chemistry of Nitrogen」(Clarendon Press、Oxford、1966年刊、Noller著「Chemistry of Organic Compounds」(Saunders、Philadelphia、第2版、1957年刊)、およびKirk−Othmer著「Encyclopedia of Chemical Technology」(第2版、特に第2巻、99−116頁)に詳述されている。
【0019】
一実施形態において、式IIIの無水物は約130℃〜約220℃の温度でポリアミンと反応する。別の実施形態において、式IIIの無水物は約145℃〜約175℃の温度でポリアミンと反応する。反応は、窒素やアルゴンのような不活性な雰囲気下で実施できる。反応において使用される式IIIの無水物の量は、反応混合物の総重量を基準として約30〜約95重量%、好ましくは約40〜約60重量%の範囲であり得る。反応混合物は、希釈油と混合してもよいし、混合しなくてもよい。式IIIのポリアミン:無水物のチャージモル比(CMR)は、例えば0.5:1〜1:1で変動する。別の実施形態において、その比は0.8:1〜1:1である。別の実施形態において、その比は0.9:1である。別の実施形態において、その比は0.5:1である。
【0020】
好適なα,β−不飽和モノカルボン酸類またはカルボン酸エステル類としては、限定はされないが、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸の両方のメチル、エチル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチルエステル類などやこれらの混合物が含まれる。α,β−不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸が好ましい。このα,β−不飽和モノカルボン酸またはカルボン酸エステルは、開始化合物のスクシンイミドのアミン部分に結合し、カルボン酸またはエステル官能性を提供する。式Iもしくは式IIのスクシンイミドまたはこれらの混合物をα,β−不飽和モノカルボン酸で処理すると、充分な量のモリブデン化合物をモリブデン化コハク酸錯体に有利に組み込むことができる。
【0021】
一般に、α,β−不飽和モノカルボン酸は室温で液体であり、式Iもしくは式IIのスクシンイミドまたはこれらの混合物と混合する前に加熱する必要がない。アクリル酸などの、α,β−不飽和モノカルボン酸またはカルボン酸エステルの、式Iもしくは式IIのスクシンイミドまたはこれらの混合物に対するモル比は広い範囲(例えば、1.05超:1から約6:1の範囲)で変動する。別の実施形態においてモル比は2:1〜6:1の範囲である。別の実施形態においてモル比は1.5:1〜4:1の範囲である。別の実施形態においてモル比は2:1である。別の実施形態においてモル比は6:1である。
【0022】
プロセス(a)では、α,β−不飽和モノカルボン酸またはカルボン酸エステルを典型的に、80℃超〜約150℃以下の反応温度で式Iもしくは式IIのスクシンイミドまたはこれらの混合物と反応させる。別の実施形態において、反応温度は少なくとも90℃である。別の実施形態において、反応温度は少なくとも100℃である。別の実施形態において、反応温度は少なくとも120℃である。別の実施形態において、反応温度は140℃以下である。別の実施形態において、反応温度は135℃以下である。
【0023】
本発明のモリブデン化スクシンイミド錯体の調製に使用するモリブデン化合物は、酸性モリブデン化合物であるか、酸性モリブデン化合物の塩類である。これらのモリブデン化合物は一般的に、六価である。好適なモリブデン化合物の代表例としては、限定はされないが、モリブデントリオキシド、モリブデン酸、アンモニウムモリブデート、ナトリウムモリブデート、カリウムモリブデートおよび他のアルカリ金属モリブデート、ならびに他のモリブデン塩類(水素塩、例えば、ハイドロジェンナトリウムモリブデート、MoOCl、MoOBr、MoClまたは類似の酸性モリブデン化合物など)が挙げられる。一実施形態において、酸性モリブデン化合物はモリブデントリオキシド、モリブデン酸、アンモニウムモリブデート、およびアルカリ金属モリブデートから選択される。別の実施形態において、酸性モリブデン化合物はモリブデントリオキシドである。
【0024】
プロセス(b)では、プロセス(a)のスクシンイミド生成物の混合物、および酸性モリブデン化合物は、希釈液あり又はなしで調製される。必要に応じて、撹拌を容易にするうえで好適な粘度が得られるよう、希釈液を使用する。好適な希釈液は、炭素および水素のみを含有する潤滑油および液体化合物である。所望により、アンモニウムヒドロキシドを反応混合物に添加して、アンモニウムモリブデートの溶液を得ることもできる。
【0025】
反応混合物は一般的に、約100℃以下の温度で、好ましくは約80℃〜約100℃でモリブデンが充分に反応するまで加熱する。このプロセスの反応時間は典型的に、約15分〜約5時間、好ましくは約1〜約2時間の範囲内にある。プロセス(a)のスクシンイミド生成物に対するモリブデン化合物のモル比は、約0.1:1〜約2:1である。別の実施形態において、プロセス(a)のスクシンイミド生成物に対するモリブデン化合物のモル比は、約0.5:1〜約1.5:1である。別の実施形態においては、プロセス(a)のスクシンイミド生成物に対するモリブデン化合物のモル比が約1:1である。反応混合物を約100℃超の温度まで加熱することによって、モリブデン化合物およびプロセス(a)のスクシンイミド生成物の反応後に、存在する水が除去される。別の実施形態において、モリブデン化合物およびプロセス(a)のスクシンイミド生成物の反応後に存在する水は、反応混合物を約120℃〜約160℃の温度まで加熱するか、真空下で好適な温度まで加熱することによって除去される。
【0026】
潤滑粘度の油
本発明の潤滑油組成物に用いられる潤滑粘度の基油は、典型的には、主要量で(例えば組成物の総重量を基準として50重量%超、好ましくは約70重量%超、より好ましくは約80〜約99.5重量%、最も好ましくは約85〜約98重量%)存在する。本明細書で用いられる「基油」という表現は、単一の製造業者が(原材料供給地または製造地を問わず)同じ仕様に準拠して製造する潤滑油成分であり、同じ製造業者の仕様に適合し、かつ固有の処方、製品識別番号またはその両方で識別される、基材または基材の調合物を意味するものと理解すべきである。本明細書中で使用される基油は、現在公知であってもよいし、または今後発見される基油であってもよい。この潤滑粘度の基油は、機関油、船舶用シリンダ油、機能性液体(例えば、油圧油、ギア油、変速機液など)において潤滑油組成物の処方に用いられる。加えて、本明細書中で使用される基油は、粘度指数改良剤、例えば、ポリマーのアルキルメタクリレート、オレフィン共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体またはスチレン−ブタジエン共重合体)などや、これらの混合物を任意で包含し得る。
【0027】
当業者であれば容易に認識されるように、基油の粘度は用途に依存する。したがって、本明細書中で使用されている基油の粘度は通常、摂氏100°(℃)で約2〜約2000センチストーク(cSt)の範囲に及ぶ。エンジンオイルとして用いられている個々の基油の動粘度は、100℃で概ね約2cSt〜約30cSt、好ましくは約3cSt〜約16cSt、最も好ましくは約4cSt〜約12cStの範囲であり、基油はエンジンオイルの所定等級が与えられるように、所望の最終用途および完成油中の添加剤に応じて選択、配合される。例えば、潤滑油組成物はSAE粘度等級が0W、0W−20、0W−30、0W−40、0W−50、0W−60、5W、5W−20、5W−30、5W−40、5W−50、5W−60、10W、10W−20、10W−30、10W−40、10W−50、15W、15W−20、15W−30または15W−40である。ギア油として用いられる油の粘度は、100℃にて約2cSt〜約2000cStの範囲であり得る。
【0028】
基材の製造に使用可能な方法は多岐にわたっており、限定はされないが、蒸留法、溶剤精製法、水素処理法、オリゴマー化法、エステル化法、および再精製法が包含される。再精製されたストックは、製造、汚染、または以前の使用によって導入された物質を実質的に含有しない。本発明の潤滑油組成物の基油は、天然または合成の潤滑基油でもよい。好適な炭化水素合成油としては、限定はされないが、ポリアルファオレフィン(PAO)油などのポリマーを生じるエチレンの重合法、1−オレフィンの重合法、または一酸化炭素ガスおよび水素ガスを用いる炭化水素合成法(フィッシャー−トロプシュ法など)から調製される油が挙げられる。例えば、好適な基油には、重い分画、例えば、100℃で粘度が20cSt以上の潤滑油分画があったとしてもほとんど含有されていない。
【0029】
基油は、天然の潤滑油、合成潤滑油、またはこれらの混合物から誘導可能である。好適な基油には、合成ワックスおよびスラックワックスの異性化により得られる基材だけでなく、粗製物の芳香性成分かつ極性成分を(溶媒抽出でなく)水素化分解することによって生成された水素化分解基材も包含される。好適な基油は、API Publication 1509(14th Edition、Addendum I、Dec.1998)で規定されているAPIカテゴリーI、II、III、IVおよびVの全てに属するものを含む。グループIVの基油は、ポリアルファオレフィン(PAO)である。グループVの基油は、グループI、II、III、およびIVに含まれない他の全ての基油を包含している。本発明ではグループII、III、およびIVの基油が好ましく用いられるが、基油を、グループI、II、III、IV、およびVの1つ以上に属する基材または基油を組み合わせて調製できる。
【0030】
有用な天然油には、鉱物性潤滑油(例えば、液状石油系油分、パラフィン型、ナフサ型もしくはパラフィン−ナフサ混合型溶剤または酸で処理された鉱物性潤滑油、石炭もしくはシェール油から誘導される油など)、動物油または植物油(例えば、菜種油、ひまし油、ラード油など)、およびこれらに類するものが包含される。
【0031】
有用な合成潤滑油としては、限定はされないが、重合化または共重合化オレフィン類、例えば、ポリブチレン類、ポリプロピレン類、プロピレン−イソブチレン共重合体類、塩素化ポリブチレン類、ポリ1−ヘキセン類、ポリ1−オクテン類、ポリ1−デセン類のような炭化水素油およびハロゲン置換炭化水素油などやこれらの混合物;ドデシルベンゼン類、テトラデシルベンゼン類、ジノニルベンゼン類、ジ(2−エチルヘキシル)ベンゼン類などのアルキルベンゼン類:ビフェニル類、ターフェニル類、アルキル化ポリフェニル類などのポリフェニル類;アルキル化ジフェニルエーテル類、アルキル化ジフェニルスルフィド類およびその誘導体、類似体およびその同族体などが挙げられる。
【0032】
他の有用な合成潤滑油としては、限定はされないが、炭素原子数が5未満のオレフィン(エチレン、プロピレン、ブチレン類、イソブテン、ペンテン、およびこれらの混合物など)の重合によって製造される油が挙げられる。そのようなポリマー油の調製方法は、当業者に周知である。
【0033】
有用な合成炭化水素油としては、他にも、適度な粘度を有するαオレフィンの液状ポリマー類が挙げられる。特に有用な合成炭化水素油類は、C−C12のαオレフィン類の水素化液体オリゴマー(例えば、1−デセントリマー)である。
【0034】
有用な合成潤滑油のもう1つの分類としては、限定はされないが、末端のヒドロキシル基が例えばエステル化またはエーテル化によって修飾されたアルキレンオキシドポリマー類(即ち、ホモポリマー、共重合体、およびこれらの誘導体)が挙げられる。これらの油の例としては、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの重合化によって調製される油、これらポリオキシアルキレンポリマー類のアルキルまたはフェニルエーテル類(例えば、平均分子量が1000のメチルポリプロピレングリコールエーテル、分子量が500〜1000のポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、分子量が1000〜1500のポリプロピレングリコールのジエチルエーテル等)、あるいはそれらのモノ−またはポリカルボン酸エステル類(例えば、酢酸エステル類、混合C−C脂肪酸エステル類)、またはテトラエチレングリコール類のC13オキソ酸ジエステルが挙げられる。
【0035】
更に別の有用な合成潤滑油の分類には、限定はされないが、ジカルボン酸、例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸類、アルケニルコハク酸類、マレイン酸、アゼライン酸、コルク酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー、マロン酸類、アルキルマロン酸類、アルケニルマロン酸類等と種々のアルコール類、例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等とのエステルが挙げられる。これらのエステル類の具体的な例としては、ジブチルアジパート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ−n−ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノール酸ダイマーの2−エチルヘキシルのジエステル、セバシン酸1molとテトラエチレングリコール2molおよび2−エチルヘキサン酸2mol等とを反応させて形成される複合エステルなどが挙げられる。
【0036】
合成油として有用なエステルとしては、限定はされないが、炭素原子数が約5〜約12のカルボン酸、アルコール類、例えば、メタノール、エタノール等、ポリオール類およびポリオールエーテル類、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトールなども挙げられる。
【0037】
シリコーン系の油、例えば、ポリアルキル−、ポリアリール−、ポリアルコキシ−、またはポリアリールオキシ−シロキサン油、およびシリケート油は、合成潤滑油のもう1つの有用な分類をなしている。これらの具体例としては、限定はされないが、テトラエチルシリケート、テトライソプロピルシリケート、テトラ(2−エチルヘキシル)シリケート、テトラ(4−メチルヘキシル)シリケート、テトラ(p−tert−ブチルフェニル)シリケート、ヘキシル(4−メチル−2−ペントキシ)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン類、ポリ(メチルフェニル)シロキサン類などが挙げられる。更にまた別の有用な合成潤滑油としては、限定はされないが、リンを含む酸の液状エステル(例えば、トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェート、デカンホスフィン酸のジエチルエステルなど)やテトラヒドロフランの重合体などが挙げられる。
【0038】
潤滑油は、未精製、精製および再精製油から誘導することが可能であり、天然、合成または上に開示した任意の2種以上の型の混合物のいずれであってもよい。未精製油は、天然または合成原料(例えば、石炭、シェール、またはタールサンドビチューメン)から更に精製または処理することなく直接得られる油である。未精製油の例としては、限定はされないが、乾留操作により直接得られるシェール油、蒸留により直接得られる石油系油、またはエステル化方法により直接得られるエステル油が挙げられる。これらはいずれも、更なる処理なしに使用される。精製油は、未精製油に類似するが、更に1つ以上の特性を改善するため1つ以上の精製プロセスにより処理されている点で異なる。このような精製技術は当業者に公知であり、例えば、溶媒抽出、二次蒸留、酸またはアルカリによる抽出、濾過、パーコレーション、水素化処理、脱蝋などが挙げられる。再精製油は、精製油を得るために使用されたプロセスと同様なプロセスにおいて、使用済み油を処理することによって得られる。そのような再精製油はまた、再生油または再処理油としても知られ、多くの場合、消耗した添加剤または油分解生成物を除去するための手法を用いた付加的な処理を経る。
【0039】
ワックスの水添異性化によって誘導された潤滑油の基材を、単独で使用することも、上記天然および/または合成基材と組み合わせて使用することもできる。そのようなワックス異性化油は、天然ワックス、合成ワックス、またはそれらの混合物を水添異性化触媒を介して水添異性化処理することによって生成される。
【0040】
天然ワックスの典型は、鉱物油の溶媒脱蝋によって回収されるスラックワックスである。合成ワックスの典型は、フィッシャー−トロプシュ法で製造されるワックスである。
【0041】
更なる潤滑油添加剤
本発明のプロセスで調製される、モリブデン化スクシンイミド錯体を含有する潤滑油組成物は、補助機能を与えるために従来の添加剤を配合することを含み、それにより、これらの添加剤が分散または溶解している最終的な潤滑油組成物を得ることもできる。例えば、潤滑油組成物は、酸化防止剤、摩耗防止剤、無灰分散剤、清浄剤、防錆剤、曇り止め剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦調整剤、消泡剤、流動点降下剤、補助溶剤、パッケージ相溶化剤、腐食防止剤、染料、極圧剤など、ならびにこれらの混合物と混合することができる。市販されている公知の添加剤には様々なものがある。これらの添加剤またはその類似化合物は、一般的な配合方法によって、本発明の潤滑油組成物の調製に用いることができる。
【0042】
酸化防止剤の例としては、限定はされないが、アミン型、例えば、ジフェニルアミン、フェニル−アルファ−ナフチルアミン、N,N−ジ(アルキルフェニル)アミン類、およびアルキル化フェニレンジアミン類;フェノール型、例えば、BHT、立体障害型アルキルフェノール類(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、および2,6−ジ−tert−ブチル−4−(2−オクチル−3−プロパン酸)フェノールなど);およびそれらの混合物が挙げられる。
【0043】
摩耗防止剤の例としては、限定はされないが、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート、および亜鉛ジアリールジチオホスフェート(これらは、例えば、Bornら著「Relationship between Chemical Structure and Effectiveness of some Metallic Dialkyl−and Diaryl−dithiophosphates in Different Lubricated Mechanisms」と題する論文(Lubrication Science、第4−2号、1992年1月)に記載されている。例えば頁97−100を参照);アリールホスフェートおよびホスファイト、含硫黄エステル類、リン硫黄化合物、金属または無灰性ジチオカーバメート、ザンセート、アルキルスルフィドなど、ならびにこれらの混合物が挙げられる。
【0044】
無灰分散剤の代表例としては、限定はされないが、架橋基を介してポリマー主鎖に結合されたアミン類、アルコール類、アミド、またはエステル極性残基が挙げられる。本発明に係る無灰分散剤は、例えば、油溶性塩、エステル、アミノエステル、アミド、イミド、および長鎖炭化水素置換モノカルボン酸およびジカルボン酸オキサゾリン、またはそれらの無水物;長鎖炭化水素のチオカルボキシレート誘導体、ポリアミンが直接結合された長鎖脂肪族炭化水素;ならびに長鎖置換フェノールをホルムアルデヒドおよびポリアルキレンポリアミンで縮合することによって形成されるマンニッヒ縮合生成物から選択してもよい。
【0045】
カルボン酸分散媒は、少なくとも約34、好ましくは少なくとも約54個の炭素原子を含むカルボン酸アシル化剤(酸類、無水物、エステル類等)と、窒素含有化合物(例えば、アミン類)、有機ヒドロキシ化合物(例えば、一価および多価アルコール類を含む脂肪族化合物、またはフェノール類およびナフトールを含む芳香族化合物)、および/または塩基性無機材料との反応生成物である。これらの反応生成物としては、イミド類、アミド類、エステル類、および塩類が挙げられる。
【0046】
スクシンイミド分散媒はカルボン酸分散媒の一種であり、ヒドロカルビル置換コハクアシル化剤を、有機ヒドロキシ化合物、もしくは窒素原子に結合された少なくとも1つの水素原子を含むアミン類と反応させるか、またはヒドロキシ化合物とアミン類との混合物と反応させることによって生成される。「コハク酸アシル化剤」という用語は炭化水素置換コハク酸またはコハク酸生成化合物を指しており、後者には酸自体が包含される。そのような材料の典型には、ヒドロカルビル置換コハク酸、無水物、(半エステルを含む)エステル類、およびハライドが包含される。
【0047】
コハク酸をベースとする分散媒は、多様な化学構造を有している。コハク酸をベースとする分散媒の1種は、式IVで表すことができる。
【化8】

式中、各Rは、独立して、ポリオレフィンから誘導される基などのヒドロカルビル基である。典型的にはヒドロカルビル基は、ポリイソブテニル基などのアルケニル基である。代替の表現では、R基は、約40〜約500個の炭素原子を含むことができ、これらの原子は、脂肪族の形態で存在し得る。Rはアルキレン基、一般的にはエチレン(C)基であり;zは1〜11である。スクシンイミド分散媒の例としては、例えば、米国特許第3,172,892号明細書、同第4,234,435号明細書、および同第6,165,235号明細書に記述されているものが挙げられる。
【0048】
置換基が誘導されるポリアルケンは、典型的には、炭素原子数が2〜約16個、通常は2〜6個の重合性オレフィンモノマー類のホモ重合体および共重合体である。コハク酸アシル化剤と反応してカルボン酸分散媒組成物を生ずるアミン類は、モノアミンまたはポリアミンであり得る。
【0049】
スクシンイミド(コハク酸イミド)分散媒がそのように言われる理由は、窒素がアミン類、アミン塩、アミド、イミダゾリンならびにこれらの混合物の形状であってもよいが、通常大部分は窒素で占められるためである。スクシンイミド分散媒を調製するには、1以上のコハク酸生成化合物および1以上のアミン類を加熱し、通常は水が除去され、任意選択的に、実質的に不活性な有機液体溶媒/希釈液の存在下で行われる。反応温度は、約80℃から混合物または生成物の分解温度までの範囲に及ぶ可能性があり、典型的には約100℃〜約300℃の間に収まる。本発明のスクシンイミド分散媒を調製する手順の付加的な詳細および例としては、例えば、米国特許第3,172,892号明細書、同第3,219,666号明細書、同第3,272,746号明細書、同第4,234,435号明細書、同第6,165,235号明細書、および同第6,440,905号明細書に記述されているものが挙げられる。
【0050】
好適な無灰分散剤としては他にも、分子量が比較的大きい脂肪族ハライドおよびアミン類、好ましくはポリアルキレンポリアミン類の反応生成物である、アミン分散媒を包含してもよい。そのようなアミン分散媒の例としては、例えば、米国特許第3,275,554号明細書、同第3,438,757号明細書、同第3,454,555号明細書、および同第3,565,804号明細書に記載されているものが挙げられる。
【0051】
好適な無灰分散剤としては、更に「マンニッヒ分散剤」が挙げられる。このマンニッヒ分散剤は、アルキル基中に少なくとも約30個の炭素原子が含まれるアルキルフェノール類と、アルデヒド類(特にホルムアルデヒド)およびアミン類(特にポリアルキレンポリアミン類)との反応生成物である。このような分散媒の例としては、例えば、米国特許第3,036,003号明細書、同第3,586,629号明細書、同第3,591,598号明細書、および同第3,980,569号明細書に記述されているものが挙げられる。
【0052】
後処理済み無灰分散剤(例えば、米国特許第4,612,132号明細書および同第4,746,446号明細書に開示されているようなボレートまたはエチレンカーボネートを後処理プロセスなど、ならびに他の後処理プロセスを経たスクシンイミドなど)も、好適な無灰分散剤であり得る。カーボネート処理済みアルケニルスクシンイミドは、約450〜約3000、好ましくは約900〜約2500、より好ましくは約1300〜約2400、最も好ましくは約2000〜約2400の分子量を有するポリブテン、およびこれらの分子量を併せ持つポリブテンから誘導されるポリブテンスクシンイミドである。
【0053】
好ましい無灰分散剤は、ポリブテンコハク酸誘導体、不飽和酸性試薬とオレフィンとの不飽和酸性試薬共重合体、その内容が参照によって本願明細書に援用されている米国特許第5,716,912号において開示されているポリアミンの混合物を、反応性条件下で反応させることによって調製される。
【0054】
好適な無灰分散剤もまた、油溶性モノマー(デシルメタクリレート、ビニルデシルエーテル、および高分子量オレフィンなど)と極性置換基を含むモノマーとの共重合体であるポリマーであってよい。ポリマーの分散媒の例としては、例えば、米国特許第3,329,658号明細書、同第3,449,250号明細書、および同第3,666,730号明細書に記載されているものが挙げられる。
【0055】
本発明の好ましい一実施形態において、潤滑油組成物中に用いられる無灰分散剤は、数平均分子量が約700〜約2300のポリイソブテニル基から誘導されるビス−スクシンイミドである。本発明の潤滑油組成物中に用いられる分散剤は、好ましくは非ポリマー(例えば、モノ−またはビス−スクシンイミド)である。
【0056】
潤滑油組成物中には一般的に、潤滑油組成物の総重量を基準として約0.01重量%〜約10重量%の範囲の量で1種以上の無灰分散剤が存在する。
【0057】
金属清浄剤の代表例としては、スルホネート、アルキルフェネート、硫化アルキルフェネート、カルボキシレート、サリシレート、ホスホネート、およびホスフィネートが挙げられる。市販のものは一般に、中性または過塩基性と称される。過塩基性金属清浄剤は一般に、炭化水素、洗浄性の酸、例えば、スルホン酸、アルキルフェノール、カルボキシレートなど、金属オキシドまたはヒドロキシド(例えば、酸化カルシウムまたは水酸化カルシウム)および促進剤(例えば、キシレン、メタノールおよび水など)の混合物を炭酸化することによって生成される。例えば、過塩基カルシウムスルホネートを調製する場合、炭酸化では、カルシウムオキシドまたはヒドロキシドが気体の二酸化炭素と反応してカルシウムカルボネートを生ずる。スルホン酸は、過剰のCaOまたはCa(OH)で中和され、スルホネートを形成する。
【0058】
好適な清浄剤の例としては、それ以外にも、ホウ酸化スルホネートが挙げられる。一般的に、本明細書中で用いられているホウ酸化スルホネートは、当分野において公知の任意のホウ酸化スルホネートであり得る。本明細書中で用いられているホウ酸化スルホネートは、全塩基価(TBN)が約10〜約500である。一実施形態において、ホウ酸化スルホネートはTBNが約10〜約100である。一実施形態において、ホウ酸化スルホネートはTBNが約100〜約250である。一実施形態において、ホウ酸化スルホネートはTBNが約250〜約500である。
【0059】
ホウ酸化アルカリ土類金属スルホネートは、当分野において公知の方法で調製することが可能であり、例えば、その内容が参照によって本明細書に援用されている米国特許出願公開第20070123437号明細書に開示されている。例えば、ホウ酸化アルカリ土類金属スルホネートの調製方法は、下掲のとおりである。(a)(i)少なくとも1つの油溶性スルホン酸もしくはアルカリ土類スルホネート塩、またはこれらの混合物と;(ii)少なくとも1つのアルカリ土類金属供給源と;(iii)少なくとも1つのホウ素源を、(iv)少なくとも1種の炭化水素溶媒の存在下で;(v)ホウ素源を基準として0〜10mol%未満のホウ素源以外の過塩基化酸と;反応させ、そして、(b)(a)の反応生成物を、蒸留温度(iv)を超える温度になるまで加熱して、(iv)反応水を蒸留する。
【0060】
金属含有または灰形成性の清浄剤は、堆積物を低減または除去する清浄剤として、酸中和剤または防錆剤として両方の役目を果たし、それによって摩耗および腐食を低減し、エンジン寿命を伸ばす。清浄剤は一般に、長い疎水性の尾部を有する極性の頭部を含む。極性の頭部は酸性有機化合物の金属塩を含む。塩類は実質的に化学量的な量の金属を含有していてもよく、その場合は通常、正塩または中性塩として記載され、全塩基価(即ちTBN)が典型的には0〜約80である(ASTM D2896により測定可能)。過剰量の金属化合物(例えば、オキシドまたはヒドロキシド)を酸性ガス(例えば、二酸化炭素)と反応させて、多量の金属塩基を組み込んでもよい。結果として生じる過塩基清浄剤は、中和された清浄剤を金属塩基(例えば、カルボネート)ミセルの外層として含んで構成されている。そのような過塩基清浄剤は、TBNが約150以上であってよく、典型的にはTBNが約250〜約450またはそれ以上である。
【0061】
用いることができる清浄剤としては、油溶性中性および過塩基スルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリシレート、およびナフテネート、ならびに金属の他の油溶性カルボキシレート、特にアルカリまたはアルカリ土類金属、例えば、バリウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、およびマグネシウムが挙げられる。最も一般的に使用される金属類はカルシウムおよびマグネシウムであり、それらはどちらも、潤滑油に用いられる清浄剤中に、ならびにカルシウムおよび/またはマグネシウムとナトリウムとの混合物が存在していてもよい。特に便利な金属清浄剤は、TBNが約20〜約450の中性および過塩基性カルシウムスルホネート、TBNが約50〜約450の中性および過塩基性カルシウムフェネートならびに硫化フェネート、TBNが約20〜約450の中性および過塩基性マグネシウムまたはカルシウムサリシレートである。清浄剤は、中性もしくは過塩基性またはその両方を問わず、組み合わせて使用できる。
【0062】
一実施形態において、清浄剤は、アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸の1種以上のアルカリまたはアルカリ土類金属塩類であり得る。好適なヒドロキシ芳香族化合物としては、1〜4個、好ましくは1〜3個のヒドロキシル基を有する単環式モノヒドロキシおよびポリヒドロキシ芳香族炭化水素が挙げられる。好適なヒドロキシ芳香族化合物としては、フェノール、カテコール、レソルシノール、ヒドロキノン、ピロガロール、クレゾールなどが挙げられる。好ましいヒドロキシ芳香族化合物はフェノールである。
【0063】
アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩のアルキル置換残基は、炭素原子数が約10〜約80のαオレフィンから誘導される。使用されたオレフィン類は、直鎖状または分枝状であり得る。オレフィンは、直鎖オレフィンの混合物、異性化直鎖オレフィンの混合物、分岐オレフィンの混合物、部分的に分岐した直鎖の混合物、または上述のいずれかの混合物であり得る。
【0064】
一実施形態において、使用し得る直鎖オレフィンの混合物は、分子あたり約12〜約30個の炭素原子を有するオレフィン類から選択される通常のαオレフィンの混合物である。一実施形態において、少なくとも1種の固体触媒または液体触媒を使用して、通常のαオレフィンを異性化する。
【0065】
別の実施形態において、オレフィン類は、炭素原子数が約20〜約80の分枝オレフィンプロピレンオリゴマー、またはこれらの混合物である。即ち、分枝鎖オレフィンは、プロピレンの重合により誘導される。オレフィン類はまた、他の官能基(ヒドロキシ基、カルボン酸基、異種原子など)で置換され得る。一実施形態において、分枝オレフィンプロピレンオリゴマーまたはこれらの混合物は、約20〜約60個の炭素原子を有する。一実施形態において、分枝オレフィンプロピレンオリゴマーまたはこれらの混合物は、約20〜約40個の炭素原子を有する。
【0066】
一実施形態において、アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩内に含有されるアルキル基(アルキル置換ヒドロキシ安息香酸清浄剤のアルカリ土類金属塩のアルキル基)の少なくとも約75mol%(例えば、少なくとも約80mol%、少なくとも約85mol%、少なくとも約90mol%、少なくとも約95mol%、または少なくとも約99mol%)は、C20またはそれ以上である。別の実施形態において、アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩は、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸から誘導されるアルキル置換ヒドロキシ安息香酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩であり、このアルキル置換ヒドロキシ安息香酸においてアルキル基は、少なくとも75mol%のC20またはそれ以上の通常のα−オレフィンを含有する通常のα−オレフィンの残基である。
【0067】
別の実施形態において、アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩内に含有されるアルキル基(アルキル置換ヒドロキシ安息香酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩のアルキル基)の少なくとも約50mol%(例えば、少なくとも約60mol%、少なくとも約70mol%、少なくとも約80mol%、少なくとも約85mol%、少なくとも約90mol%、少なくとも約95mol%、または少なくとも約99mol%)は、約C14−約C18である。
【0068】
結果として得られたアルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩は、オルト異性体およびパ異性体の混合物となる。一実施形態において、生成物は約1〜99%のオルト異性体および99〜1%のパラ異性体を含有する。別の実施形態において、生成物は約5〜70%のオルト異性体および95〜30%のパラ異性体を含有する。
【0069】
アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩類は、中性または過塩基性であり得る。一般的に、アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸の過塩基性アルカリもしくはアルカリ土類金属塩は、アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩類のTBNが、塩基源(例えば、石灰)および酸性過塩基性化合物(例えば二酸化炭素)の添加プロセスによって増分したものである。
【0070】
過塩基性の塩類は、低過塩基性(例えば、TBNが約100未満の過塩基性塩)であり得る。一実施形態において、低過塩基性塩のTBNは約5〜約50であり得る。別の実施形態において、低過塩基性塩のTBNは約10〜約30であり得る。更に別の実施形態において、低過塩基性塩のTBNは約15〜約20であり得る。
【0071】
過塩基性清浄剤は、中過塩基性(例えば、TBNが約100〜約250の過塩基性塩)であり得る。一実施形態において、中過塩基性塩のTBNは約100〜約200であり得る。別の実施形態において、中過塩基性塩のTBNは約125〜約175であり得る。
【0072】
過塩基性清浄剤は、高過塩基性(例えば、TBNが約250超の過塩基性塩)であり得る。一実施形態において、高過塩基性塩のTBNは約250〜約450であり得る。
【0073】
スルホネート類は、典型的にはアルキル置換芳香族炭化水素(石油の分画から採取されるものなど)のスルホン化、または芳香族炭化水素のアルキル化によって得られるスルホン酸類から調製され得る。例としては、ベンゼン類、トルエン、キシレン、ナフタレン、ジフェニルまたはそれらのハロゲン誘導体のアルキル化によって得られるものが挙げられる。アルキル化は、炭素原子数が約3〜70超のアルキル化剤を用い触媒の存在下で行ってもよい。アルカリルスルホネート類は、通常約9〜約80個またはそれ以上の炭素原子、好ましくは約16〜約60個の炭素原子/アルキル置換芳香族残基を含む。
【0074】
油溶性スルホネート類またはアルカリルスルホン酸類は、オキシド、ヒドロキシド、アルコキシド、カーボネート、カルボキシレート、スルフィド、水硫化物、ナイトレート、およびボレートで中和してもよい。金属化合物の量は、最終生成物の所望のTBNを基準として選択され、典型的には化学量論的に必要とされる量の約100〜約220重量%(好ましくは少なくとも約125重量%)の範囲である。
【0075】
フェノール類および硫化フェノール類の金属塩類は、オキシドまたはヒドロキシドなどの適切な金属化合物と反応させて調製され、中性または過塩基性生成物を当分野において周知の方法で得ることが可能である。硫化フェノール類は、一般に、2以上のフェノールが硫黄含有架橋によって架橋される化合物の混合物である生成物を生ずるように、フェノールを硫黄と反応させるか、またはハイドロジェンスルフィド、硫黄モノハライドまたは硫黄ジハライドなどの化合物を含有する硫黄と反応させることによって調製可能である。
【0076】
潤滑油組成物中には一般的に、潤滑油組成物の総重量を基準として約0.01重量%〜約10重量%の量の範囲で1種以上の清浄剤が存在する。
【0077】
防錆剤の例としては、限定はされないが、非イオン性ポリオキシアルキレン剤、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリエチレングリコールモノオレエート;ステアリン酸および他の脂肪酸類;ジカルボン酸類;金属石鹸類;脂肪酸アミン塩類;重質スルホン酸の金属塩類;多価アルコールの部分カルボン酸エステル;リン酸エステル類;(短鎖)アルケニルコハク酸類;それらの部分エステル類およびそれらの窒素含有誘導体;合成アルカリルスルホネート類、例えば金属ジノニルナフタレンスルホネート類など、ならびにこれらの混合物が挙げられる。
【0078】
摩擦調整剤の例としては、限定はされないが、アルコキシル化脂肪族アミン類;ホウ酸化脂肪族エポキシド類;脂肪族ホスファイト類、脂肪族エポキシド類、脂肪族アミン類、ホウ酸化アルコキシル化脂肪族アミン類、脂肪族酸類の金属塩、脂肪酸アミド類、グリセリンエステル類、ホウ酸化グリセリンエステル類;およびその内容が本明細書において参照によって援用されている米国特許公開第6,372,696号明細書に記載されている脂肪族イミダゾリン類;C−C75、好ましくはC−C24、最も好ましくはC−C20の脂肪酸エステルと、アンモニア、およびアルカノールアミンなど、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される窒素含有の化合物との反応生成物から得られる摩擦調整剤が挙げられる。
【0079】
消泡剤の例としては、限定はされないが、アルキルメタクリレートのポリマー類;ジメチルシリコーンのポリマー類など、ならびにこれらの混合物が挙げられる。
【0080】
流動点降下剤の例としては、限定はされないが、ポリメタクリレート、アルキルアクリレートポリマー類、アルキルメタクリレートポリマー類、ジ(テトラパラフィンフェノール)フタレート、テトラパラフィンフェノールの縮合物、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、およびこれらの組み合わせが挙げられる。一実施形態において、流動点降下剤は、エチレン−ビニルアセテート共重合体、塩素化パラフィンおよびフェノールの縮合物、ポリアルキルスチレンなど、ならびにこれらの組み合わせを含む。流動点降下剤の量は、約0.01重量%から約10重量%まで変動し得る。
【0081】
抗乳化剤の例としては、限定はされないが、アニオン界面活性剤(例えば、アルキル−ナフタレンスルホネート類、アルキルベンゼンスルホネート類など)、非イオン性アルコキシル化アルキルフェノール樹脂類、アルキレンオキシド類のポリマー類(例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシドのブロック共重合体、プロピレンオキシドなど)、油溶性酸類のエステル、ポリオキシエチレンソルビタンエステルなど、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。抗乳化剤の量は、約0.01重量%から約10重量%まで変動し得る。
【0082】
腐食抑制剤の例としては、限定はされないが、ドデシルコハク酸の半エステル類またはアミド類、リン酸塩エステル類、チオホスフェート類、アルキルイミダゾリン類、サルコシン類など、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。腐食抑制剤の量は、約0.01重量%から約5重量%まで変動し得る。
【0083】
極圧剤の例としては、限定はされないが、動物または植物の硫化油脂類または動物または植物の硫化脂肪酸エステル類、リンの三価または五価の酸類の完全または部分的にエステル化されたエステル類、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリスルフィド、硫化Diels−Alder付加生成物、硫化ジシクロペンタジエン、脂肪酸エステル類およびモノ不飽和オレフィンの硫化または共硫化混合物、または脂肪酸の共硫化配合物、脂肪酸エステルおよびα−オレフィン、官能基置換ジヒドロカルビルポリスルフィド、チアアルデヒド、チアケトン類、エピチオ化合物,硫黄含有アセタール誘導体、またはテルペンおよび非環式オレフィンの共硫化配合物、およびポリスルフィドオレフィン生成物、リン酸エステル類またはチオリン酸エステル類のアミン塩類など、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。極圧剤の量は、約0.01重量%から約5重量%まで変動し得る。
【0084】
前述の各添加剤を使用する場合は、潤滑油に望ましい特性を与えるうえで機能的に有効な量で使用される。したがって、例えば、添加剤を摩擦調整剤とした場合、この摩擦調整剤の機能的に有効な量は、潤滑油に所望の摩擦変更特性を与えるのに充分な量である。一般的に、これらの各添加剤が使用された場合、その濃度範囲は、特に明記しない限り、潤滑油組成物の総重量を基準として約0.001重量%〜約20重量%であってもよく、一実施形態においては約0.01重量%〜約10重量%であってもよい。
【0085】
本発明のプロセスで調製されるモリブデン化スクシンイミド錯体を含む潤滑油組成物の最終用途には、例えば、マリンシリンダの潤滑油、クロスヘッドディーゼルエンジン、自動車および機関車のクランクケースの潤滑油など、製鉄所のような重機械用の潤滑油など、またはベアリング用油脂などがあり得る。潤滑油組成物が流体であるかそれとも固体であるかを問わず、大抵の場合は増粘剤が存在するかどうかに依存する。典型的な増粘剤としては、ポリ尿素アセテート、リチウムステアレートなどものが挙げられる。
【0086】
本発明の別の実施形態において、本発明のプロセスで調製されるモリブデン化スクシンイミド錯体は、添加剤濃縮物を形成するように、実質的に不活性で、通常は液体の有機希釈液(例えば、鉱油、ナフサベンゼン類、トルエンまたはキシレン等)に添加剤が配合されている添加剤パッケージまたは濃縮物として提供されてもよい。これらの濃縮物は通常、そのような希釈液を約20重量%〜約80重量%含有している。典型的には、粘度が100℃で約4〜約8.5cSt、好ましくは100℃で約4〜約6cStの中性油を希釈液として使用するだけでなく、添加剤および完全な潤滑油と相溶性の合成油および他の有機液体も使用できる。添加剤パッケージはまた、典型的に、上で言及された1種以上の様々な他の添加剤を、必要量の基油に直接混合するのを容易にする所望の量および割合で含有する。
【実施例】
【0087】
以下、非限定的な例を挙げて本発明について説明する。
[実施例1]
低温でアクリル酸から作製されたモリブデンの後処理済み高分子量スクシンイミド錯体(スクシンイミドに対するアクリル酸のCMR=2:1)
【0088】
オーバーヘッド機械式撹拌機、窒素ラインとディーンスタークトラップとを備えた水凝縮器、滴下漏斗、温度調節器、マントルヒーター、および熱電対とを装着した丸底フラスコ中に、ポリイソブテニル基の数平均分子量が1000(PIBSA1000)であるポリイソブテニルコハク酸無水物(Chevron Oronite Company LLCから入手可能)200.00g、およびChevron100中性油43.35gを添加した。混合物を約130℃まで加熱し、テトラエチレンペンタアミン(TEPA)28.12g(PIBSA1000に対して0.9mol当量)を、滴下漏斗から混合物に滴下しながら配合した。初期の配合段階では、わずかな発泡が起きた。TEPAの配合後、温度を165℃まで上昇させてから、約5時間にわたって165℃に維持した。IRスペクトルで示されるように、反応が完了した。
【0089】
物質を室温まで冷却し、50.80gを丸底フラスコに移した。アクリル酸を添加するため、フラスコを74℃まで加熱した。次に、2.90gのアクリル酸(TEPAに対して2mol当量)を滴下しながら加えた。アクリル酸の添加後、反応器の温度を135℃まで上昇させ、この温度を反応が完了するまで(約3〜5時間)維持した。
【0090】
次に、16.15gのアクリル酸処理済みスクシンイミドを、電磁撹拌板、凝縮器付きディーンスタークトラップ、および窒素ラインを装着した100mLの三つ口丸底フラスコに加えた。42.3gのトルエンを添加し、混合物を撹拌して、65℃まで加熱して溶解した。次に、1.229gのモリブデントリオキシド(TEPAに対して1mol当量)、および9.63gの脱イオン水を加えた。混合物を撹拌し、90℃で一晩加熱した。その後、114℃にて水およびトルエンを除去した。
【0091】
生成物を冷却してから、ブフナー漏斗を使用してセライト512および無水硫酸マグネシウムを通して濾過した。濾液を集め、回転蒸発器(最大温度90℃の完全ポンプ吸引)を用いて濃縮し、トルエンおよび残留水分を除去した。生成物は室温にて褐色の液体であり、特性は下掲のとおりであった。
Mo=4.758重量%
全塩基価=35.9mg KOH/g
[実施例2]
低温でアクリル酸から作製されたモリブデンの後処理済み高分子量スクシンイミド錯体(スクシンイミドに対するアクリル酸のCMR=6:1)
【0092】
スクシンイミドに対して6mol当量のアクリル酸をアクリル酸処理に使用したことを除き、実施例1に概説されているのと同じ一般手順および成分を使用して、モリブデン化スクシンイミド錯体を調製した。モリブデン化スクシンイミド錯体は室温にて褐色の液体であり、特性は下掲のとおりであった。
Mo=4.575重量%
全塩基価=44.9mg KOH/g
[実施例3]
低温でアクリル酸から作製されたモリブデンの後処理済み高分子量ビス−スクシンイミド錯体(スクシンイミドに対するアクリル酸のCMR=2:1)
【0093】
0.5mol当量のTEPAを使用してスクシンイミドを作製したことを除き、実施例1に概説されているのと同じ一般手順および成分を使用して、モリブデン化スクシンイミド錯体を調製した。モリブデン化スクシンイミド錯体は室温にて褐色の液体であり、特性は下掲のとおりであった。
Mo=2.680重量%
全塩基価=25.7mg KOH/g
[実施例4]
低温でアクリル酸から作製されたモリブデンの後処理済み高分子量ビス−スクシンイミド錯体(スクシンイミドに対するアクリル酸のCMR=6:1)
【0094】
0.5mol当量のTEPAを使用してスクシンイミドを作製したことを除き、実施例2に概説されているのと同じ一般手順および成分を使用して、モリブデン化スクシンイミド錯体を調製した。モリブデン化スクシンイミド錯体は室温にて緑色の液体であり、特性は下掲のとおりであった。
Mo=2.509重量%
全塩基価=25.3mg KOH/g
[比較例A]
低温でアクリル酸から作製されたモリブデンの後処理済み高分子量スクシンイミド錯体(スクシンイミドに対するアクリル酸のCMR=1:1)
【0095】
オーバーヘッド機械式撹拌機、窒素ラインとディーンスタークトラップとを備えた水凝縮器、滴下漏斗、温度調節器、マントルヒーター、および熱電対とを装着した丸底フラスコ中に、ポリイソブテニル基の数平均分子量が1000(PIBSA1000)であるポリイソブテニルコハク酸無水物(Chevron Oronite Companyから入手可能)100.00g、およびChevron100中性油21.8gを添加した。混合物を約130℃まで加熱し、テトラエチレンペンタアミン(TEPA)13.92g(PIBSA1000に対して0.9mol当量)を、滴下漏斗から混合物に滴下しながら加えた。初期の配合段階では、わずかな発泡が起きた。TEPAの配合後、温度を165℃まで上昇させてから、約6時間にわたって165℃に維持した。IRスペクトルで示されるように、反応が完了した。
【0096】
物質を室温まで冷却し、22.83gを丸底フラスコに移した。アクリル酸を添加するため、フラスコを40℃まで加熱した。次に、0.65gのアクリル酸(スクシンイミドに対して1mol当量)を滴下しながら加えた。アクリル酸の添加後、反応器の温度を135℃まで上昇させ、この温度を反応が完了するまで(約3〜5時間)維持した。
【0097】
次に、8.578gのアクリル酸処理済みスクシンイミドを、電磁撹拌板、凝縮器付きディーンスタークトラップ、および窒素ラインを装着した100mLの三つ口丸底フラスコに加えた。15.06gのトルエンを添加し、混合物を撹拌して、65℃まで加熱して溶解した。次に、0.656gのモリブデントリオキシド(アクリル酸処理済みスクシンイミドに対して1mol当量)、および6.14gの脱イオン水を加えた。混合物を撹拌し、90℃で一晩加熱した。その後、114℃にて水およびトルエンを除去した。
【0098】
生成物を冷却してから、ブフナー漏斗を使用してセライト512および無水硫酸マグネシウムを通して濾過した。濾液を集め、回転蒸発器(最大温度90℃の完全ポンプ吸引)を用いて濃縮し、トルエンおよび残留水分を除去した。生成物は室温にて褐色の液体であり、特性は下掲のとおりであった。
Mo=4.740重量%
全塩基価=79.9mg KOH/g
[比較例B]
低温でアクリル酸から作製されたモリブデンの後処理済み高分子量ビス−スクシンイミド錯体(スクシンイミドに対するアクリル酸のCMR=1:1)
【0099】
0.5mol当量のTEPAを使用してスクシンイミドを作製したことを除き、比較例Aに概説されているのと同じ一般手順および成分を使用して、モリブデン化スクシンイミド錯体を調製した。モリブデン化スクシンイミド錯体は室温にて褐色の液体であり、特性は下掲のとおりであった。
Mo=2.755重量%
全塩基価=27.5mg KOH/g
【0100】
[実施例5]
実施例1の潤滑油添加剤1重量%をCHEVRON100中性油に加えて、潤滑油組成物を形成した。
【0101】
[実施例6]
実施例2の潤滑油添加剤1重量%をCHEVRON100中性油に加えて、潤滑油組成物を形成した。
【0102】
[実施例7]
実施例3の潤滑油添加剤1重量%をCHEVRON100中性油に加えて、潤滑油組成物を生じた。
【0103】
[実施例8]
実施例4の潤滑油添加剤1重量%をCHEVRON100中性油に加えて、潤滑油組成物を生じた。
【0104】
[比較例C]
比較例Aの潤滑油添加剤1重量%をCHEVRON100中性油に加えて、潤滑油組成物を生じた。
【0105】
[比較例D]
比較例Bの潤滑油添加剤1重量%をCHEVRON100中性油に加えて、潤滑油組成物を生じた。
[実施例9]
摩耗性能
ミニ−トラクションマシン(MTM)評価
【0106】
ミニトラクションマシン(MTM)摩擦計(PCS Instruments Ltd.,London UK)を使用して、実施例5から実施例8の潤滑油添加剤の摩耗を評価し、比較例Cおよび比較例Dの摩耗性能と比較した。PCS Instruments製の52100鋼からなる研磨ディスクと、ピンの代わりにFalex Corporation製の同じく52100鋼からなる0.25インチ固定ボールベアリングとを使用して、ピンオンディスクモードで作動するように、MTM摩擦計を設定した。荷重0.1ニュートン、滑り速度2000mm/sで5分間試運転した後、荷重7ニュートン、滑り速度200mm/sで、100℃にて40分間試験を行った。ボール上の摩耗傷を、光学顕微鏡で手動にて測定して記録した。試験において、摩耗傷の減少は耐摩耗性能の有効性向上に対応する。MTMによる摩耗性能のデータは、表1に示すとおりである。
【0107】
【表1】
【0108】
表1に例示された結果が示唆しているように、モリブデンスクシンイミド化合物は、スクシンイミドに対するアクリル酸のCMRを約2:1または約6:1として作製されたもの(実施例5から実施例8)の方が、スクシンイミドに対するアクリル酸のCMRを約1:1として作製されたもの(比較例Cおよび比較例D)のよりも摩耗性能に優れることが実証されている。
【0109】
[実施例10]
5重量%のスクシンイミド分散剤、3重量%のホウ素化スクシンイミド分散剤、過塩基度が低い(4mM/kgの)カルシウムスルホネート、(58mM/kgの)カルボキシレート系清浄剤、(8mモル/kgの)亜鉛ジチオホスフェート、0.5重量%のジフェニルアミン酸化防止剤、0.5重量%のヒンダードフェノール酸化防止剤、0.3重量%の流動点降下剤、9.85重量%のオレフィン共重合体粘度指数向上剤、および消泡剤5ppmをグループIIの基油中に含む、ベースライン潤滑油処方物を作製した。
【0110】
[実施例11]
実施例10と同じ添加剤、基油、およびトリートレートを含んだベースライン潤滑油処方物を作製した。全Mo含量が500ppmとなるように、このベースライン潤滑油に実施例1の潤滑油添加剤を配合した。
[比較例E]
80℃でアクリル酸から作製されたモリブデンの後処理済み高分子量スクシンイミド錯体(スクシンイミドに対するアクリル酸のCMR=2:1)
【0111】
初めに室温にてアクリル酸を滴下しながら加え、温度を100℃未満に維持してアクリル酸を添加した後、反応温度を80℃に維持して最終的に反応を完了させた。それ以外は、実施例1に概説されているのと同じ一般手順および成分を使用して、モリブデン化スクシンイミド錯体を調製した。モリブデン化スクシンイミド錯体は室温にてウグイス色の液体であり、特性は下掲のとおりであった。
Mo=4.914重量%
全塩基価=56.95mg KOH/g
【0112】
[比較例F]
実施例10と同じ添加剤、基油、およびトリートレートを含んだベースライン潤滑油処方物を作製した。処方物中の全Mo含量が500ppmとなるように、このベースライン潤滑油に比較例Eの潤滑油添加剤を配合した。
[実施例12]
摩擦性能
高周波往復リグ(HFRR)評価
【0113】
実施例10および実施例11の潤滑油組成物の摩擦性能を高周波往復リグ(HFRR)で評価し、比較例Fの潤滑油組成物の摩擦性能と比較した。HFRR試験リグは、業界で認められている潤滑性能を決定するための摩擦計である。PCS計測器は、電磁振動器を使用し、固定した試料(平板)に対して圧力を印加しながら、小さな振幅で試料(ボール)を振動させる。振動の振幅および周期、ならびに荷重は、可変である。ボールと平板との間の摩擦力、および電気的な接触抵抗(ECR)を測定する。潤滑油が添加された浴中に、扁平な静止試料を保持して加熱することができる。この試験のために、52100鋼の扁平試料上に6mmのボールを使用して、摩擦計を20Hzで20分間作動させてセットアップした。荷重は1kgで、温度は116℃であった。ディーゼルエンジンの排ガスから収集されたディーゼルエンジン煤を、潤滑油の総重量を基準として約6重量%用い、潤滑油を前処理した。試験に先立ち、煤を油中に入れて撹拌し、湿った状態にしてから15分間均質化した。この試験において、摩擦係数が小さいことは、潤滑油添加剤の効果が大きいことに対応している。HFRRによる摩擦性能のデータを、表2に示す。
【0114】
【表2】
【0115】
表2にデータを示すように、本発明の前記モリブデンスクシンイミド錯体は、スクシンイミドに対するアクリル酸のチャージモル比を2:1としてアクリル酸から誘導され、かつ80℃超〜150℃以下の範囲の温度で調製されたもの(実施例11)であり、対応するモリブデンスクシンイミド錯体、即ち、スクシンイミドに対するアクリル酸のチャージモル比を2:1としてアクリル酸から誘導され、かつ80℃で調製されたもの(比較例F)よりも減摩特性に優れることを実証している。
【0116】
本明細書中に開示されている実施形態には様々な変形を施すことができることを理解されたい。ゆえに、上記の説明は、限定的に解釈してはならず、寧ろ好ましい実施形態の単なる例証であると解釈すべきである。例えば、上記の機能および本発明を実施するための最良の態様として実装されている機能は、説明のみを目的としたものである。その他のアレンジや方式も、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、当業者によって実装され得る。更に、当業者は、本明細書に書き添えられている請求項の範囲および趣旨においてその他の変更を構想するであろう。