特許第5941510号(P5941510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941510
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】アルコール飲料
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/04 20060101AFI20160616BHJP
【FI】
   C12G3/04
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-163518(P2014-163518)
(22)【出願日】2014年8月11日
(65)【公開番号】特開2016-36318(P2016-36318A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2015年12月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】吉弘 晃
【審査官】 星 浩臣
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/068999(WO,A1)
【文献】 特開2010−268774(JP,A)
【文献】 特開2010−077065(JP,A)
【文献】 特開2013−143938(JP,A)
【文献】 特開2007−195435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 1/00−3/12
C12C 1/00−13/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Thomson Innovation)
FSTA/FROSTI/MEDLINE/CAplus/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンギフェリンを0.001〜500mg/L含有する、アルコール飲料。
【請求項2】
アルコール飲料のアルコール度数(単位:v/v%)に、アルコール飲料の酸度(単位:g/100mL)(クエン酸換算)を乗じた値が、5以上である、請求項1に記載のアルコール飲料。
【請求項3】
さらにバニリンを含有し、バニリンとマンギフェリンのアルコール飲料中の濃度の比(質量比)が、バニリン1に対してマンギフェリンが2〜100である、請求項1または2に記載のアルコール飲料。
【請求項4】
さらにバニリンを含有し、マンギフェリンとバニリンとを合計した濃度が、0.001mg/Lより高く、500mg/L以下である、請求項1または2に記載のアルコール飲料。
【請求項5】
バニリンの濃度が0.001〜100mg/Lである、請求項3または4に記載のアルコール飲料。
【請求項6】
アルコール度数が3〜40v/v%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルコール飲料。
【請求項7】
酸度(クエン酸換算)が0.3〜3g/100mLである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のアルコール飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールの苦味と刺激感がマスキングされたアルコール飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコールは、その到酔効果だけでなく、芳醇な風味を有しているため、様々な酒類の形で多くの人々に愛されている。このようなアルコールの風味は、酒類だけでなく、各種料理などの飲食品の香味付けにも用いられている。しかし、消費者の中には、アルコールに苦味や刺激感を感じる人もおり、アルコールの苦味や刺激感といった後味が苦手な人もいる。特に、アルコール度数が高い場合には、苦味や刺激感がより顕著に感じられやすくなる。そこで、アルコールに起因する苦味や刺激味を低減する技術が求められている。
【0003】
特許文献1には、アルコール飲料にシュクラロースを添加することによって、アルコールに起因する苦味やバーニング感を抑えることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、アルコール飲料にモルトエキスを添加することによって、アルコールに起因する苦味やバーニング感を抑えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−224075号公報
【特許文献2】特開2014−73098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、アルコール飲料に特定の成分を加えてアルコールの苦味や刺激感を抑える方法がいくつか提案されているが、それぞれの成分には特有の香りや味があるため、その成分に特有の香味が所望の飲料の香味とそぐわない場合には、その成分を用いることは、飲料製品の設計上、難しいことがある。したがって、アルコールに特有の苦味や刺激感を抑えるさらに多くの成分を見出すことは、好ましい香味を有するアルコール飲料製品の設計において、重要な事項の1つである。
【0007】
本発明は、アルコール飲料のアルコールに起因する苦味や刺激感を低減させることができる、新しい成分を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、マンギフェリンをアルコール飲料に添加することにより、アルコール飲料のアルコールに起因する苦味や刺激感を低減させることができることを見出した。さらに、マンギフェリンは、酸度が高い飲料における酸の渋みの低減にも効果があることを見出した。本発明は、これらに限定されないが、以下を含む。
1.マンギフェリンを0.001〜500mg/L含有する、アルコール飲料。
2.アルコール飲料のアルコール度数(単位:v/v%)に、アルコール飲料の酸度(単位:g/100mL)(クエン酸換算)を乗じた値が、5以上である、1に記載のアルコール飲料。
3.さらにバニリンを含有し、バニリンとマンギフェリンのアルコール飲料中の濃度の比(質量比)が、バニリン1に対してマンギフェリンが2〜100である、1または2に記載のアルコール飲料。
4.さらにバニリンを含有し、マンギフェリンとバニリンとを合計した濃度が、0.001mg/Lより高く、500mg/L以下である、1または2に記載のアルコール飲料。
5.バニリンの濃度が0.001〜100mg/Lである、3または4に記載のアルコール飲料。
6.アルコール度数が3〜40v/v%である、1〜5のいずれか1項に記載のアルコール飲料。
7.酸度(クエン酸換算)が0.3〜3g/100mLである、1〜6のいずれか1項に記載のアルコール飲料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アルコール飲料のアルコールに起因する苦味や刺激感を低減させることができる。また、アルコール飲料の酸度が高い場合には、酸に起因する渋みも同時に低減させることができるので、まろやかな味わいであるが、後味はすっきりとしているアルコール飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のアルコール飲料は、特定量のマンギフェリンを含有する。なお、本願明細書において、特に断りがない限り、アルコールとはエチルアルコール(エタノール)のことをいい、アルコール度数は、飲料中のエタノールの容量%(v/v%)を指す。
【0011】
<マンギフェリン>
マンギフェリン(mangiferin)は、以下の化学構造を有するポリフェノールである。
【0012】
【化1】
【0013】
マンギフェリンは、ハニーブッシュエキスに含まれることが知られている。ハニーブッシュは、南アフリカ共和国西ケープ州の灌木植生地域に自生するハーブであり、マメ科サイクロピア属(Cyclopia)に属する植物である。この花、葉、茎等を乾燥、細砕し、水性溶媒を加えて抽出し、濾液を回収するなどの常用の方法により、ハニーブッシュのエキスを得ることができる。ハニーブッシュエキスは、市販もされている。
【0014】
本発明では、アルコール飲料中に、マンギフェリンを0.001〜500mg/L含有させることにより、アルコール飲料中に含まれるアルコールに起因する苦味や刺激感を低減させる。さらに、マンギフェリンは、酸度の高いアルコール飲料の場合の酸に起因する渋みも低減させることができる。マンギフェリンの濃度が0.001mg/Lより低いと、苦味、刺激感、渋みのマスキング効果が充分に得られないことがあり、また、500mg/Lより高いと、マンギフェリン自体のやや甘くて渋い味が飲料の後味として感じられるようになりマスキング剤としては不適切となる可能性がある。アルコール飲料中のマンギフェリンの濃度は、好ましくは、0.01〜500mg/Lであり、さらに好ましくは、0.1〜500mg/Lである。アルコールに起因する苦味や刺激感、また、酸に起因する渋みは、当然ながら、飲料のアルコール度数が高くなるほど、また、酸度が高くなるほど、強くなる傾向があり、より強い苦味や刺激感、また渋みをマスキングするためには、より多い量のマンギフェリンが必要になることがある。当業者は、飲料のアルコール度数や酸度に基づく苦味や渋みに応じて、また、所望する飲料の設計に応じて、本発明の教示にしたがって、適切にマンギフェリンの濃度を調整することができる。
【0015】
アルコール飲料中のマンギフェリンの濃度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)などを用いて、通常の方法で測定することができる。本願明細書では、超高速液体クロマトグラフィー(Agilent 1290 Infinity LC)を用いた。
【0016】
<アルコール飲料>
本発明におけるアルコール飲料とは、アルコール、すなわち、エタノールを含有する飲料である。アルコール飲料のアルコール度数(単位:v/v%)は、特に限定されないが、3v/v%以上となると、アルコールに起因する苦味や刺激感が感じられるようになってくるため、本発明は、アルコール度数3v/v%以上のアルコール飲料の苦味等の低減に好ましく用いることができる。アルコール度数は好ましくは3〜40v/v%である。アルコールに起因する苦味や刺激感は、アルコール度数が高くなるほどより強く感じられるようになる傾向があるので、本発明の苦味等の低減効果は、アルコール度数が高い飲料においてより感じられるものとなる。したがって、本発明は、アルコール度数が10v/v%以上のアルコール飲料にさらに好ましく用いることができる。アルコール飲料のアルコール度数は、より好ましくは、10〜40v/v%、さらに好ましくは10〜30v/v%、さらに好ましくは10〜20v/v%である。
【0017】
アルコール飲料の製造に用いられるアルコールの種類は特に限定されない。例えば、醸造酒(清酒、ワイン、ビールなど)、スピリッツ類(例えばジン、ウォッカ、テキーラ、ラム、ニュースピリッツ等のスピリッツ、および原料用アルコールなど)、チューハイ等を含むリキュール類、ウイスキー類(例えば、ウイスキー、ブランデーなど)、焼酎(連続式蒸留焼酎、すなわち、甲類焼酎、および単式蒸留焼酎、すなわち乙類焼酎)等を用いることができる。なかでも、蒸留したアルコール、すなわち、ウイスキー類、スピリッツ類、焼酎、これらを用いて得られたリキュール類は、醸造酒に比べて相対的にアルコール自体の香味が目立つため、本発明の効果がより強く感じられるので、好ましい態様である。本発明では、これらのアルコールを適宜組み合せて、または水等で希釈して、所定のアルコール濃度としたアルコール飲料とすればよい。
【0018】
なお、本発明のアルコール飲料のアルコール度数(エタノールの容量%)は、振動式密度計によって測定することができる。具体的には、アルコール飲料(炭酸ガスを含む場合は、炭酸ガスを事前に除く)を直火蒸留し、得られた留液の15℃における密度を測定し、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改定)の付表である「第2表アルコール分と密度(15℃)及び比重(15/15℃)換算表」を用いて換算することにより求めることができる。
【0019】
<アルコール飲料の酸度>
本発明にしたがい、アルコール飲料にマンギフェリンを含有させることにより、アルコール飲料のアルコールに起因する苦味や刺激感を低減させることができる。さらに、本発明者は、マンギフェリンが、飲料中の酸の渋みも同様に低減させることを見出した。したがって、本発明のアルコール飲料としては、これに限定されないが、上述の通り、アルコール度数の高いものか、または、酸度の高いものを用いると、本発明の効果がより強く感じられるので、好ましい。アルコール度数が高く、かつ、酸度も高いアルコール飲料は、本発明にとってさらに好ましい態様であるといえる。なお、アルコール飲料の酸度は、一定量の飲料(試料)に水酸化ナトリウムなどのアルカリを加えて中和する際の、中和に要したアルカリの量から計算により求めることができる。例えば、自動滴定装置(Mettler toledo DL50など)を用いることができる。本発明において、酸度は、クエン酸量に換算した値を用いる。
【0020】
アルコール度数が高く、および/または、酸度の高いアルコール飲料としては、アルコール飲料のアルコール度数(単位:v/v%)に、アルコール飲料の酸度(単位:g/100mL)(クエン酸換算)を乗じた値が、5以上のもの(すなわち、「アルコール度数(v/v%)」×「酸度(クエン酸換算)(g/100mL)」≧5)が、本発明の効果がより強く感じられるので好ましいといえる。この値は、好ましくは7以上であり、さらに好ましくは7〜10である。
【0021】
アルコール飲料の酸度としては、これに限定されないが、0.3〜3g/100mL程度が好ましく、0.5〜2g/100mLがより好ましく、0.5〜1g/100mLがさらに好ましい。
【0022】
<バニリン>
本発明者は、さらに、マンギフェリンと同様に、バニリン(4−ヒドロキシ−3−メトキシベンズアルデヒド)にも、アルコール飲料のアルコールに起因する苦味や刺激感、酸に起因する渋みを低減させる効果があることを見出した。この効果は、後述の参考例でも示すように、バニリンの類縁体でありバニリンと同様の甘いバニラ様の香気を有するエチルバニリン(4−ヒドロキシ−3−エトキシベンズアルデヒド)や、バニリン酸(4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸)、また、没食子酸(3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸)では見られず、バニリンに特有のものであった。
【0023】
バニリンは、マンギフェリンに比べて、安価に入手することが可能であるから、本発明において用いるマンギフェリンの一部をバニリンに置き換える、またはマンギフェリンとバニリンとを併用することにより、本発明のアルコールの苦味と刺激感、酸の渋みの抑制効果を、より低コストで得ることができる可能性がある。
【0024】
バニリンは、特に限定するものでは無いが、香料、バニラエキス、バニラ浸漬酒、ブランデーやウイスキーなどの木製容器中で貯蔵された蒸留酒中に含まれるもの、などを用いることができるが、これらはバニリン以外の成分によるブラウン様の着色やタンニン由来の渋みを伴う場合がある。また、バニリンは、マンギフェリンに比べて、強い香気(バニラ様の甘い香り)を有しており、飲料中に多量に含有させると、バニリン特有の甘い香りが目立ちすぎて、飲料の設計によっては好ましくない場合がある。したがって、特に甘い香気やブラウン液色、渋みを目標としない通常のアルコール飲料の場合には、バニリンの濃度は、マンギフェリンの濃度に比べて、低いことが好ましい。バニリンとマンギフェリンとを併用する場合の、バニリンとマンギフェリンのアルコール飲料中の濃度の比(質量比)は、好ましくは、バニリン1に対してマンギフェリンが2〜100、更に好ましくは、2〜10程度がよい。
【0025】
本発明のアルコール飲料中にバニリンを含有させる場合には、マンギフェリンとバニリンとを合計した濃度で、0.001mg/Lより高く、500mg/L以下程度とするのが好ましい。
【0026】
アルコール飲料中にバニリンを含有させる場合には、バニリンの濃度は、0.001〜100mg/L程度が好ましい。バニリンの濃度が100mg/Lを超えると、バニリンの甘い香りが飲料中に強く感じられるようになり、飲料の設計によっては、所望の風味を損ねる可能性がある。飲料中のバニリンの濃度は、より好ましくは0.001〜10mg/Lである。
【0027】
アルコール飲料中のバニリンの濃度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)などを用いて、通常の方法で測定することができる。本願明細書では、超高速液体クロマトグラフィー(Agilent 1290 Infinity LC)を用いた。
【0028】
<その他の成分等>
本発明のアルコール飲料は、上記の他にも、本発明の性質を損なわない限り、アルコール含有飲料に通常配合する各種成分、例えば、糖類、酸類、香料、ビタミン、色素類、酸化防止剤、甘味料、酸味料、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定剤等を配合することができる。また、本発明のアルコール飲料は、炭酸ガスを圧入することによって、炭酸ガス入りアルコール飲料とすることができる。炭酸ガス圧は、飲料として提供される通常の範囲に調節すればよく、特に制限はない。
【0029】
本発明のアルコール飲料は、容器詰めとすることができる。容器の形態は何ら制限されず、ガラス瓶、プラスチックを主成分とする成形容器、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと積層されたラミネート紙容器などの通常の形態で提供することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)アルコールの苦味、刺激感、酸の渋みに対するマンギフェリン添加の効果
ニュートラルスピリッツ(アルコール度数96v/v%)、クエン酸、及び水を用いて、以下の表1に示すアルコール度数と酸度(クエン酸の濃度)を有するサンプルを調製した。ここに、表1に示す濃度となるようにマンギフェリンを添加し、各サンプルの苦味、刺激、渋みを、下記の基準にしたがって官能評価した。なお、マンギフェリンとしては、市販のハニーブッシュエキス由来のものを用いた。
【0032】
<苦味、刺激、渋みの官能評価>
5:苦味、刺激、渋みが強い。
4:苦味、刺激、渋みがやや強い。
3:苦味、刺激、渋みが感じられる。
2:苦味、刺激、渋みがやや感じられる。
1:苦味、刺激、渋みが感じられない。
なお、マンギフェリン自体の香味(甘渋味)が後味に残るためマスキング剤として不適格であったものを、「×」の評価とした。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1から、アルコール度数が3v/v%の場合(サンプル1)、「苦味、刺激、渋みがやや感じられる」(評価点:2)であるところ、これに0.001500mg/Lのマンギフェリンを加えると、「苦味、刺激、渋みが感じられない」(評価点:1)となることがわかる。また、「苦味、刺激、渋み」は、アルコール度数が高まるほど(サンプル1→サンプル3、またはサンプル10→サンプル15)、また、酸度が高まるほど(サンプル3→サンプル9)、強く感じられるようになるが、マンギフェリンを添加することにより、アルコール度数や酸度が高いアルコール飲料(例えば、アルコール度数×酸度が5以上の飲料)においても、「苦味、刺激、渋み」の低減効果がみられることがわかる。
【0035】
(実施例2)マンギフェリンとバニリンを併用した際の効果
ニュートラルスピリッツ(アルコール度数96v/v%)、クエン酸、及び水を用いて、以下の表2に示すアルコール度数と酸度(クエン酸の濃度)を有するサンプルを調製した。ここに、マンギフェリンとバニリンとを、マンギフェリン10に対してバニリン1(質量比)で混合したものを、マンギフェリンとバニリンとの合計の濃度が表2に記載の濃度となるように添加し、各サンプルの苦味、刺激、渋みを、実施例1に記載の基準にしたがって、官能評価した。結果を表2に示す。なお、マンギフェリン、バニリンは、市販のものを用いた。
【0036】
【表2】
【0037】
表2から、マンギフェリンの一部をバニリンに変更した場合にも、苦味、刺激、渋みの低減効果が得られることがわかる。また、表1と表2を比べると、マンギフェリン単独の場合(表1)に比べて、バニリンを併用した場合(表2)には、サンプルによっては、苦味、刺激、渋みの低減効果が高まることがわかる。
【0038】
(参考例)
アルコール飲料の苦味、刺激、渋みに対するバニリンの効果を評価した。具体的には、実施例1、2と同様にしてサンプル1〜15を調製し、ここに、下記の表3に示す濃度となるようにバニリンを添加して、各バニリン濃度におけるサンプルの苦味、刺激、渋みを実施例1と同様にして官能評価した。評価では、バニリンの香りが強く出過ぎて、マスキング剤として不適格であったものを「×」とした。結果を表3に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
表3より、バニリンにもマンギフェリンと同様のアルコール飲料の苦味、刺激、渋みを低減する効果があることがわかる。表3と表2を比べると、バニリン単独の場合(表3)に比べて、マンギフェリンを併用した場合(表2)には、サンプルによっては、苦味、刺激、渋みの低減効果が高まることがわかる。
【0041】
バニリンと同様の甘いバニラ様の香気を有するエチルバニリン、また、バニリンに類似の構造を有するバニリン酸、没食子酸についても、バニリンと同様の苦味等のマスキング効果を有するかについて、確認した。エチルバニリン、バニリン酸、没食子酸としては市販のものを用い、実施例1と同様にしてサンプルの調製と官能評価を行った。結果を表4に示す。
【0042】
【表4】
【0043】
エチルバニリンとバニリンはともに、類似の甘いバニラ様香気を有することが知られているが、意外にも、エチルバニリンを用いた場合には、バニリンとは異なり、アルコール飲料の苦味、刺激、渋みの低減効果がまったく見られないことがわかった。また、バニリンと類似の構造を有するバニリン酸や没食子酸を添加した場合には、バニリンのような苦味等の低減効果が見られないばかりか、サンプルによっては、むしろ、苦味や渋みが増加することがわかった。