特許第5941565号(P5941565)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941565
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】自動二輪車用タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20160616BHJP
【FI】
   B60C11/03 E
   B60C11/03 200A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-6120(P2015-6120)
(22)【出願日】2015年1月15日
(62)【分割の表示】特願2013-678(P2013-678)の分割
【原出願日】2013年1月7日
(65)【公開番号】特開2015-91703(P2015-91703A)
(43)【公開日】2015年5月14日
【審査請求日】2015年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】松並 俊行
(72)【発明者】
【氏名】吉田 有美子
【審査官】 高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−285103(JP,A)
【文献】 特開2000−001108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に、タイヤ周方向に対して傾斜するとともにタイヤ赤道側から少なくともトレッド端の近傍にのびる複数本の主傾斜溝と、前記主傾斜溝間に配されかつタイヤ周方向に対して傾斜するとともにタイヤ軸方向の外端が前記主傾斜溝の外端よりも内側で終端する副傾斜溝とが設けられた自動二輪車用タイヤであって、
前記主傾斜溝は、タイヤ赤道からタイヤ軸方向の両側にトレッド幅の15%の距離の間の領域であるセンター領域において、タイヤ周方向に対する角度が0〜30度であり、かつ、トレッド端において、タイヤ周方向に対する角度が60〜80度であり、
前記副傾斜溝は、溝幅が前記副傾斜溝の長手方向の一方端側及び他方端側から内側へ向かって大きくなる一対の漸増部と、一対の前記漸増部間に形成されかつ溝幅が前記一方端側及び他方端側から内側に向かって漸減する漸減部とを有し、
前記副傾斜溝は、前記一方端からタイヤ周方向の一方側をのびる第1溝縁、前記第1溝縁と前記他方端とを継ぐ第2溝縁、前記一方端からタイヤ周方向の他方側をのびる第3溝縁、及び、前記第3溝縁と前記他方端とを継ぐ第4溝縁を有し、
前記第1溝縁と前記第2溝縁とは、前記タイヤ赤道側に突出する突出点で接続され、
前記第3溝縁と前記第4溝縁とは、前記トレッド端側に突出する突出点で接続されていることを特徴とする自動二輪車用タイヤ。
【請求項2】
トレッド部に、タイヤ周方向に対して傾斜するとともにタイヤ赤道側から少なくともトレッド端の近傍にのびる複数本の主傾斜溝と、前記主傾斜溝間に配されかつタイヤ周方向に対して傾斜するとともにタイヤ軸方向の外端が前記主傾斜溝の外端よりも内側で終端する副傾斜溝とが設けられた自動二輪車用タイヤであって、
前記主傾斜溝のタイヤ軸方向の内端とタイヤ赤道とのタイヤ軸方向の距離が、トレッド幅の5〜13%であり、
前記副傾斜溝は、溝幅が前記副傾斜溝の長手方向の一方端側及び他方端側から内側へ向かって大きくなる一対の漸増部と、一対の前記漸増部間に形成されかつ溝幅が前記一方端側及び他方端側から内側に向かって漸減する漸減部とを有し、
前記副傾斜溝は、前記一方端からタイヤ周方向の一方側をのびる第1溝縁、前記第1溝縁と前記他方端とを継ぐ第2溝縁、前記一方端からタイヤ周方向の他方側をのびる第3溝縁、及び、前記第3溝縁と前記他方端とを継ぐ第4溝縁を有し、
前記第1溝縁と前記第2溝縁とは、前記タイヤ赤道側に突出する突出点で接続され、
前記第3溝縁と前記第4溝縁とは、前記トレッド端側に突出する突出点で接続されていることを特徴とする自動二輪車用タイヤ。
【請求項3】
前記主傾斜溝は、タイヤ軸方向外側に向かってタイヤ周方向に対する角度が漸増する請求項1又は2に記載の自動二輪車用タイヤ。
【請求項4】
前記各突出点は、前記一方端と前記他方端とを直線で継いだ溝中心線のタイヤ軸方向の一方側に設けられている請求項1乃至3のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェット性能とドライ性能とをバランス良く向上させた自動二輪車用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
トレッド部に、タイヤ周方向に対して傾斜した複数の傾斜溝を具えた自動二輪車用タイヤが知られている。ウェット路面でのグリップ力であるウェット性能を高めるために、傾斜溝の溝幅を大きくして、溝容積を増加させることが知られている。
【0003】
しかしながら、上述のような自動二輪車用タイヤでは、トレッド部の接地面積やトレッド部の剛性が小さくなるため、ドライ路面でのグリップ力を示すドライ性能が悪化するという問題があった。関連する技術としては、下記特許文献1及び2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−116258号公報
【特許文献2】特開平08−169211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、トレッド部の主傾斜溝、副傾斜溝の形状を改善することを基本として、ウェット性能とドライ性能とをバランス良く向上させた自動二輪車用タイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のうち請求項1記載の発明は、トレッド部に、タイヤ周方向に対して傾斜するとともにタイヤ赤道側から少なくともトレッド端の近傍にのびる複数本の主傾斜溝と、前記主傾斜溝間に配されかつタイヤ周方向に対して傾斜するとともにタイヤ軸方向の外端が前記主傾斜溝の外端よりも内側で終端する副傾斜溝とが設けられた自動二輪車用タイヤであって、前記主傾斜溝は、タイヤ赤道からタイヤ軸方向の両側にトレッド幅の15%の距離の間の領域であるセンター領域において、タイヤ周方向に対する角度が0〜30度であり、かつ、トレッド端において、タイヤ周方向に対する角度が60〜80度であり、前記副傾斜溝は、溝幅が前記副傾斜溝の長手方向の一方端側及び他方端側から内側へ向かって大きくなる一対の漸増部と、一対の前記漸増部間に形成されかつ溝幅が前記一方端側及び他方端側から内側に向かって漸減する漸減部とを有し、前記副傾斜溝は、前記一方端からタイヤ周方向の一方側をのびる第1溝縁、前記第1溝縁と前記他方端とを継ぐ第2溝縁、前記一方端からタイヤ周方向の他方側をのびる第3溝縁、及び、前記第3溝縁と前記他方端とを継ぐ第4溝縁を有し、前記第1溝縁と前記第2溝縁とは、前記タイヤ赤道側に突出する突出点で接続され、前記第3溝縁と前記第4溝縁とは、前記トレッド端側に突出する突出点で接続されていることを特徴とする。
【0007】
本発明のうち請求項2記載の発明は、トレッド部に、タイヤ周方向に対して傾斜するとともにタイヤ赤道側から少なくともトレッド端の近傍にのびる複数本の主傾斜溝と、前記主傾斜溝間に配されかつタイヤ周方向に対して傾斜するとともにタイヤ軸方向の外端が前記主傾斜溝の外端よりも内側で終端する副傾斜溝とが設けられた自動二輪車用タイヤであって、前記主傾斜溝のタイヤ軸方向の内端とタイヤ赤道とのタイヤ軸方向の距離が、トレッド幅の5〜13%であり、前記副傾斜溝は、溝幅が前記副傾斜溝の長手方向の一方端側及び他方端側から内側へ向かって大きくなる一対の漸増部と、一対の前記漸増部間に形成されかつ溝幅が前記一方端側及び他方端側から内側に向かって漸減する漸減部とを有し、前記副傾斜溝は、前記一方端からタイヤ周方向の一方側をのびる第1溝縁、前記第1溝縁と前記他方端とを継ぐ第2溝縁、前記一方端からタイヤ周方向の他方側をのびる第3溝縁、及び、前記第3溝縁と前記他方端とを継ぐ第4溝縁を有し、前記第1溝縁と前記第2溝縁とは、前記タイヤ赤道側に突出する突出点で接続され、前記第3溝縁と前記第4溝縁とは、前記トレッド端側に突出する突出点で接続されていることを特徴とする。
【0008】
また請求項3記載の発明は、前記主傾斜溝が、タイヤ軸方向外側に向かってタイヤ周方向に対する角度が漸増する請求項1又は2に記載の自動二輪車用タイヤである。また請求項4記載の発明は、前記各突出点は、前記一方端と前記他方端とを直線で継いだ溝中心線のタイヤ軸方向の一方側に設けられている請求項1乃至3のいずれかに記載の自動二輪車用タイヤである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の自動二輪車用タイヤでは、タイヤ周方向に対して傾斜するとともにタイヤ赤道側から少なくともトレッド端の近傍にのびる複数本の主傾斜溝と、前記主傾斜溝間に配されかつタイヤ周方向に対して傾斜するとともにタイヤ軸方向の外端が前記主傾斜溝の外端よりも内側で終端する副傾斜溝とが設けられる。このような主傾斜溝は、路面とトレッド部との間の水膜を、旋回時においても、スムーズに排出し得る。また、副傾斜溝は、トレッド部の接地面積や剛性を高く確保し得る。このため、ウェット性能とドライ性能とがバランス良く向上する。
【0010】
副傾斜溝は、溝幅が前記副傾斜溝の長手方向の両端側から内側へ向かって大きくなる一対の漸増部と、一対の前記漸増部間に形成されかつ溝幅が前記両端側から内側に向かって漸減する漸減部とを有する。このような副傾斜部は、溝容積とトレッド部の接地面積とをバランス良く確保する。また、副傾斜溝は、漸増部及び漸減部により、一定幅の溝に比べて大きなエッジ成分を有し、ウェット路面での大きな引掻き効果を発揮する。従って、本発明の自動二輪車用タイヤは、より一層、ウェット性能とドライ性能とがバランス良く向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態を示す自動二輪車用タイヤのトレッド部の展開図である。
図2図1のX−X断面に相当する本発明の一実施形態を示す自動二輪車用タイヤの断面図である。
図3図1の副傾斜溝の拡大図である。
図4】(a)は、図3のY−Y断面図、(b)は、図3のZ−Z断面図である。
図5】浅溝部の他の実施形態を示す断面図である。
図6】比較例を示すトレッド部の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態の自動二輪車用タイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある。)1のトレッド部の展開図、図2は、図1のX−X断面相当図である。本明細書では、接地状態等、特に断りがない限り、タイヤの各部の寸法等は、正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填された無負荷の正規状態において特定される値である。
【0013】
前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば"標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0014】
また、「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0015】
図2に示されるように、タイヤは、キャンバーアングルが深い旋回時においても十分な接地面積が得られるように、トレッド部2のトレッド端2t、2t間の外面2aが、タイヤ半径方向外側に凸の円弧状に湾曲してのびる。また、トレッド端2t、2t間のタイヤ軸方向距離であるトレッド幅TWがタイヤ最大幅をなす。
【0016】
タイヤは、本実施形態では、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されるトレッド補強層7とを具えている。
【0017】
カーカス6は、例えば、1枚のカーカスプライ6Aにより構成される。このカーカスプライ6Aは、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4に埋設されたビードコア5に至る本体部6aと、本体部6aに連なりかつビードコア5の回りで折り返される折返し部6bとを含む。
【0018】
カーカスプライ6Aは、タイヤ赤道Cに対して、例えば75〜90度、より好ましくは80〜90度の角度で傾けて配列されたカーカスコードを有する。このカーカスコードには、例えば、ナイロン、ポリエステル又はレーヨン等の有機繊維コード等が好適に採用される。なお、カーカスプライ6Aの本体部6aと折返し部6bとの間には、硬質のゴムからなるビードエーペックスBaが配設される。
【0019】
トレッド補強層7は、ベルトコードをタイヤ赤道Cに対して、例えば5〜40度の小角度で傾けて配列した少なくとも1枚以上、本実施形態ではタイヤ半径方向内、外2枚のベルトプライ7A、7Bをベルトコードが互いに交差する向きに重ね合わせて構成される。また、ベルトコードには、例えば、スチールコード、アラミド又はレーヨン等が好適に採用される。
【0020】
図1に示されるように、本実施形態のタイヤのトレッド部2には、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の主傾斜溝8と、タイヤ周方向で隣り合う主傾斜溝8、8間に配される副傾斜溝9と、タイヤ赤道C上をタイヤ周方向に連続してのびる1本のセンター主溝10とが設けられる。
【0021】
主傾斜溝8は、タイヤ赤道C側から少なくともトレッド端2tの近傍にのびる。このような主傾斜溝8は、路面とトレッド部2との間の水膜を、旋回時においても、スムーズに排出し得る。
【0022】
主傾斜溝8は、タイヤ赤道C側から一方のトレッド端(図1では左側)2t側にのびる第1主傾斜溝11Aと、タイヤ赤道C側から他方のトレッド端(図1では右側)2t側にのびる第2主傾斜溝11Bとを有する。第1主傾斜溝11A及び第2主傾斜溝11Bは、夫々、タイヤ軸方向外側に向かってタイヤ回転方向Nの後着側に傾斜している。このような主傾斜溝8は、タイヤの回転によって、溝内の水をスムーズにタイヤ軸方向外側へ排出する。
【0023】
本実施形態では、主傾斜溝8のタイヤ軸方向の外端8eは、トレッド端2tに位置している。また、主傾斜溝8のタイヤ軸方向の内端8iは、タイヤ赤道Cから離されている。好ましくは、主傾斜溝8の内端8iとタイヤ赤道Cとのタイヤ軸方向の距離L1は、トレッド幅TWの5〜13%である。このような主傾斜溝8は、トレッド部2のタイヤ赤道C側の剛性を確保するとともに、ウェット性能を有意に向上させる。
【0024】
本実施形態の主傾斜溝8は、タイヤ軸方向外側に向かってタイヤ周方向に対する角度θ1が漸増している。このような主傾斜溝8は、タイヤの回転を利用して、直進走行から旋回走行までスムーズに溝内の水を排出し得る。
【0025】
上述の作用を効果的に発揮させるため、主傾斜溝8のトレッド端2tでの角度θ1aは、60〜80度が望ましい。また、主傾斜溝8のタイヤ赤道C側のセンター領域Csでの角度θ1bは、0〜30度が望ましい。主傾斜溝8の角度θ1は、主傾斜溝8の溝中心線8Gで特定される。また、センター領域Csは、タイヤ赤道Cからタイヤ軸方向の両側にトレッド幅TWの15%の距離L2の間の領域である。
【0026】
ウェット性能とドライ性能とをバランス良く向上させるため、主傾斜溝8の溝深さD1(図2に示す)は、3.0〜7.0mm程度が望ましい。同様の観点より、主傾斜溝8の溝幅W1は、3.0〜9.0mm程度が望ましい。また、主傾斜溝8のピッチPは、トレッド幅TWの40〜90%が望ましい。
【0027】
副傾斜溝9は、タイヤ周方向に対して傾斜するとともにタイヤ軸方向の外端9xが主傾斜溝8の外端8eよりも内側で終端している。このような副傾斜溝9は、排水性を補いながら、トレッド部2の接地面積や剛性を高く確保し得る。このため、本実施形態のタイヤでは、ウェット性能とドライ性能とがバランス良く向上する。
【0028】
図3に示されるように、副傾斜溝9は、長手方向の一方端9e及び長手方向の他方端9iを有する。一方端9eは、トレッド端2t側に配され、本実施形態では、タイヤ軸方向の外端9xである。また、他方端9iは、一方端9eよりもタイヤ赤道C側に配される。副傾斜溝9は、溝幅が副傾斜溝9の両端9e、9i側から長手方向の内側へ向かって大きくなる一対の漸増部13と、一対の漸増部13、13間に形成されかつ溝幅が両端9e、9i側から内側に向かって漸減する漸減部14とを有する。このような副傾斜溝9は、トレッド部2の接地面積や剛性を高く確保し得る。また、副傾斜溝9は、漸増部13及び漸減部14による大きなエッジ成分を有し、ウェット路面において、大きな引掻き効果を発揮する。従って、副傾斜溝9は、ドライ性能とウェット性能とをバランス良く高める。本明細書において、副傾斜溝9の長手方向とは、副傾斜溝9で最も離間する両端9e、9iを結ぶ直線の向きである。また、副傾斜溝9の溝幅は、長手方向と直角な溝幅である。
【0029】
漸減部14は、前記長手方向の略中央部に、溝幅が最も小さくなる最小幅部15を有する。図4(a)には、図3のY−Y断面が示されている。図4(a)に示されるように、最小幅部15は、漸増部13の溝深さD2よりも小さい溝深さD3の浅溝部16が設けられる。即ち、副傾斜溝9は、浅溝部16と、浅溝部16の長手方向の両側に設けられ、浅溝部16の溝深さD3よりも大きい溝深さD2の深底部17とを有する。最小幅部15の溝底には、タイヤの接地時、大きな応力が生じ、クラックが発生するおそれがある。このため、最小幅部15に浅溝部16を設けることにより、溝底の剛性を高め、クラックの発生を抑制することができる。
【0030】
図4(b)には、図3のZ−Z断面が示されている。図4(b)に示されるように、本実施形態の最小幅部15は、該最小幅部15の全幅が浅溝部16である。これにより、最小幅部15の溝底の剛性が有意に高められ、上述のクラック抑制効果がさらに向上する。
【0031】
浅溝部16の溝深さD3は、漸増部13の溝深さ(最大溝深さ)D2の20〜60%であるのが望ましい。即ち、浅溝部16の溝深さD3が漸増部13の溝深さD2の60%を超える場合、最小幅部15の溝底のクラックを抑制できないおそれがある。浅溝部16の溝深さD3が漸増部13の溝深さD2の20%未満の場合、漸減部14の排水抵抗が大きくなり、ウェット性能が悪化するおそれがある。このため、浅溝部16の溝深さD3は、より好ましくは、漸増部13の溝深さD2の40%以上であり、より好ましくは55%以下である。
【0032】
図4(a)に示されるように、浅溝部16の長手方向の長さLaは、最小幅部15の溝幅W3(図4(b)に示す)以上であるのが望ましい。即ち、浅溝部16の長さLaが最小幅部15の溝幅W3よりも小さい場合、最小幅部15の溝底の剛性を高めることができず、溝底にクラックが生じるおそれがある。逆に、浅溝部16の長さLaが最小幅部15の溝幅W3よりも過度に大きくなる場合、副傾斜溝9の溝容積が小さくなり、ウェット性能が悪化するおそれがある。このため、浅溝部16の長手方向の長さLaは、最小幅部15の溝幅W3のより好ましくは1.5倍以上であり、好ましくは6倍以下、より好ましくは5倍以下である。
【0033】
図1に示されるように、最小幅部15の溝幅W3は、副傾斜溝9の最大溝幅W2の0.40〜0.60倍であるのが望ましい。即ち、最小幅部15の溝幅W3が、最大溝幅W2の0.40倍未満である場合、最小幅部15の溝底の剛性が小さくなり、クラックが発生するおそれがある。最小幅部15の溝幅W3が、最大溝幅W2の0.60倍を超える場合、副傾斜溝9のエッジ成分が小さくなり、ウェット路面での引掻き効果が発揮されないおそれがある。このため、最小幅部15の溝幅W3は、最大溝幅W2のより好ましくは0.45倍以上であり、より好ましくは0.55倍以下である。
【0034】
図3に示されるように、副傾斜溝9は、長手方向の両端9e、9iから漸減部14へのびる4つの溝縁9a乃至9dを有している。本実施形態では、一方端9eからタイヤ周方向の一方側(図3では上側)を通る第1溝縁9a、第1溝縁9aと他方端9iとを継ぐ第2溝縁9b、一方端9eからタイヤ周方向の他方側(図3では下側)を通る第3溝縁9c、及び、第3溝縁9cと他方端9iとを継ぐ第4溝縁9dを有している。そして、これら各4つの溝縁9a乃至9dは、いずれも円弧状である。このような副傾斜溝9は、エッジ効果を多方向で発揮し、とりわけ旋回時のウェット性能を向上させる。なお、第1溝縁9aと第2溝縁9bとは、タイヤ赤道C側に突出する突出点9fで接続されている。第3溝縁9cと第4溝縁9dとは、トレッド端2t側に突出する突出点9hで接続されている。
【0035】
本実施形態の溝縁9a乃至9dは、いずれも漸増部13及び漸減部14を形成している。これにより、溝縁9a乃至9d近傍のトレッド部2の剛性がバランス良く確保され、さらにドライ性能及びウェット性能が向上する。
【0036】
各溝縁9a乃至9dは、本実施形態では、副傾斜溝9の両端9e、9iを継いだ溝中心線9Gから外側に凸となる。このような副傾斜溝9は、トレッド部2の剛性を高く確保し得る。
【0037】
特に限定されるものではないが、溝縁9a乃至9dの曲率半径Rは、トレッド幅TWの10〜30%が望ましい。即ち、曲率半径Rがトレッド幅TWの30%よりも大きい場合、エッジ効果を多方向で発揮することができないおそれがある。曲率半径Rがトレッド幅TWの10%未満である場合、副傾斜溝9の溝容積が小さくなり、ウェット性能が悪化するおそれがある。なお、曲率半径Rは、例えば、第1溝縁9aの曲率半径Rでは、一方端9e、突出点9f、及び、溝縁9aの溝中心線9Gから凸側に最も離間した離間点9jの3点を通る単一円弧の曲率半径である。
【0038】
図1に示されるように、トレッド部2の剛性を確保し、トレッド部2と路面との間の水膜をスムーズに排水するため、溝中心線9Gのタイヤ周方向に対する角度θ2は、30〜65度が望ましい。また、副傾斜溝9の長手方向の長さL4は、トレッド幅TWの15〜45%が望ましい。さらに、副傾斜溝9のタイヤ軸方向の外端9xとトレッド端2tとのタイヤ軸方向の距離L5は、トレッド幅TWの2〜6%が望ましい。また、副傾斜溝9の最大溝幅W2は、5.0〜9.0mmが望ましい。
【0039】
本実施形態では、副傾斜溝9に連通する細溝12が設けられる。細溝12は、一端12aが、最小幅部15に連通するとともに、他端12bが、トレッド部2内で終端する。このような細溝12は、溝深さが小さい漸増部13の排水性能を高める。
【0040】
細溝12は、本実施形態では、平面視において、円弧状にのびる。これにより、細溝12の溝縁によるエッジ効果が多方向で発揮され、とりわけ旋回時のウェット性能が向上する。
【0041】
トレッド部2の剛性を確保してドライ性能を維持しつつ、ウェット性能を高める観点より、細溝12の溝幅W4は、0.7〜2.0mmが望ましい。また、細溝の溝深さ(図示せず)は、0.5〜1.5mmが望ましい。
【0042】
センター主溝10は、本実施形態では、タイヤ周方向に沿った直線状をなす。このような主溝10は、溝内の排水をタイヤ回転方向の後方へスムーズに排出することができる。また、トレッド部2のタイヤ赤道C近傍のタイヤ周方向の剛性を大きく維持する。なお、センター主溝10は、このような直線状のものに限定されるものではなく、例えば、ジグザグ状や正弦波状のものでも良い。
【0043】
上述の作用を効果的に発揮させるため、センター主溝10の溝幅W5は、例えば、2.0〜5.0mmである。また、センター主溝10の溝深さD4(図2に示す)は、例えば4.0〜6.0mmである。
【0044】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されるものでなく、種々の態様に変更して実施される。
【実施例】
【0045】
本発明の効果を確認するために、図1の基本パターンを有し、表1の仕様に基づいた90/90−1050Jの自動二輪車用タイヤがテストされた。表1に記載された溝を除いて各溝の溝幅及び角度等は、図1に示される通りである。なお、各タイヤの主な共通仕様やテスト方法は以下の通りである。
トレッド幅TW:91mm
主傾斜溝の溝深さ:5.5mm
浅溝部の溝深さ:2.7mm
漸増部の溝深さ:5.2mm
センター主溝の溝深さ:5.5mm
細溝の溝深さ:1.0mm
【0046】
<ウェット性能及びドライ性能>
各テストタイヤが、下記の条件で、自動二輪車(排気量:50cc)の全輪に装着された。そして、テストドライバーが、水深0.5〜2.0mmのアスファルト路面のテストコース及びドライアスファルト路面のテストコースを夫々走行させ、このときの発進・加速・旋回・減速時のグリップ力に関する走行特性をテストドライバーの官能により評価された。結果は、テストドライバーの評点であり、従来例1の値を3とする5点法で表示されている。数値が大きいほど良好である。
リム(フロント):MT2.15×10
内圧(フロント):125kPa
リム(リア):MT2.15×10
内圧(リア):200kPa
【0047】
<溝底クラック性能>
各テストタイヤが、米国運輸省の自動車両安全基準(FMVSS119)に規定される耐久性(ENDURANCE)テストに基づき、スムーズドラム試験機上を走行した。走行後、副傾斜溝の溝底のクラックが試験者の肉眼によって観察された。結果は、前記自動車両安全基準に基づき、合格又は不合格で表示されている。第3ステップまでのテスト結果が良好なテストタイヤが、第4ステップを実施された。なお、第3ステップを合格したテストタイヤは、前記自動車両安全基準を充足している。
テスト条件は、下記の通りである。
ドラム直径:1.7m
速度:80km/h
室温:38±3℃
(荷重)
第1ステップ:1.87kN(走行時間4時間)
第2ステップ:2.02kN(走行時間6時間)
第3ステップ:2.18kN(走行時間24時間)
第4ステップ:2.18kN(走行時間72時間)
テストの結果などが表1に示される。
【0048】
【表1】
【0049】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例及び従来例に比べて各性能がバランス良く向上していることが確認できる。また、漸増部の溝深さ及び浅溝部の溝深さを好ましい数値の範囲内で変化させてテストを行ったが、このテスト結果と同じ傾向を示した。
【符号の説明】
【0050】
8 主傾斜溝
8e 主傾斜溝の外端
9 副傾斜溝
9x 副傾斜溝の外端
13 漸増部
14 漸減部
図1
図2
図3
図4
図5
図6